暗闇が、ひっそりと覆ってる。
何も見えない。
何ひとつ把握できない。
光子の一欠けらも存在しない真の闇。
その中で、密やかな声がした。
「ねえ、知ってる?」
「うん? なにが?」
「幻想郷の外のこと」
「ふぇ?」
そと、って。
……外?
問いかけられた側――ルーミアは呆気に取られた。
そんなことは、考えたことすらなかった。
「そ、そんなの、あるの……?」
おそるおそる問いかけた。
ないしょ話の気持ちに近い。
何だか、イケナイことをしてる気分だ。
「当ったり前じゃない」
夜雀の怪、ミスティア・ローレライは胸を張って答えた。
いや、むろん見えないのだが、二人は視界外の感覚で把握できた。
「そ、そーなのかー」
「あんたモノを知らないのね、じゃあ、それ以外のことも知らないの?」
「え、なに?」
「幻想郷外ではねえ、えーと……」
ひのふのみ、と、指折り数える。
両足も使うが、あっという間に足りなくなる。
うーうー、と眉間を寄せ、
「と、とにかく、ものすっごい数の人間がいるのよ!」
「そ、そーなのかー!?」
「当ったり前じゃない!」
「それってバイキング? 喰い放題ってこと!?」
「当然よ。大中小、老いも若きもよりどりみどり!」
『じゅるり』と舌なめずりする音がした。
「い、行こう! 今すぐ行こう!」
「待って、でも、そうそう美味い具合にはいかないのよ」
「え?」
「考えてもみて、私たちの知ってる人間って?」
「え、えーと」
ルーミアは考える。
自分が知ってる人間――
博麗霊夢、霧雨魔理沙、十六夜咲夜、魂魄妖夢……
巫女に魔女にメイドに庭師だ。
さんざんっぱら負けた相手でもある。
思いつくたび、宵闇妖怪の顔色は悪くなる。
そして、最悪の可能性を想像し、真っ青になった。
「まさか……」
「そう! あの連中みたいのが、雲霞といるのよ!」
「あ、あぅっ!」
目の前が真っ暗だ。
いや、もともと暗くはあるのだが、心理的にもだ。
あの巫女が、あの魔女が、あのメイドが、あの庭師がひしめく光景、そんなのは妖怪にとっての地獄だ。
室内でメイドが一面にならんでモップ掛けをし、外で庭師が両刀をブンブンと振り回し、空に逃げれば魔女が暴走しており、どこへ逃げても巫女が『都合よく』待っている光景が幻視できた。
そんな場所、なにがあっても行きたくない!
「ど、どうしよ! 今すぐ逃げなきゃ! 攻め込まれるよ!?」
混乱したルーミアが、大きな身振りで訴えた。
「落ち着きなさい」
ちっちっち、とばかりに人差し指を振り、ミスティア・ローレライは自慢気に告げた。
「その為に、あの大結界があるの」
「え、それって、あの博麗大結界? あの邪魔もん?」
「勘違いしちゃだめよ、ルーミア……アレはわたしたちを閉じ込めてるんじゃないわ、むしろ、外敵からの攻撃を防いでるのよ」
ビシッ! と意味も無く彼方を指差す。
「そ、そーなのかー!」
ルーミアはポカンと口を開け、感心した。
「いい? 想像してみてよ。あの連中みたいのが雪崩れとなって押し寄せる光景を!」
ぶるぶるっと、二人は振るえた。
「こわいね」
「ええ、そうよ。『侵入してきた』のが、あの四人だけで幸運と思わなきゃね」
「外、こわい。幻想郷は平和だね」
「まったくね。胡散臭い妖怪だけど、それだけはアイツに感謝してもいいかもね」
「そーなのかー」
+++
二人は分からなかっただろう。
真の暗闇と思えた空間、そこに僅かばかりの『切れ目』が付けられていたことを。
その先では、噂を広めた張本人、博麗霊夢と八雲紫がハイタッチをしつつ、『してやったり』の笑みを浮かべ合っていた。
今日も、幻想郷は平和なのである。
何も見えない。
何ひとつ把握できない。
光子の一欠けらも存在しない真の闇。
その中で、密やかな声がした。
「ねえ、知ってる?」
「うん? なにが?」
「幻想郷の外のこと」
「ふぇ?」
そと、って。
……外?
問いかけられた側――ルーミアは呆気に取られた。
そんなことは、考えたことすらなかった。
「そ、そんなの、あるの……?」
おそるおそる問いかけた。
ないしょ話の気持ちに近い。
何だか、イケナイことをしてる気分だ。
「当ったり前じゃない」
夜雀の怪、ミスティア・ローレライは胸を張って答えた。
いや、むろん見えないのだが、二人は視界外の感覚で把握できた。
「そ、そーなのかー」
「あんたモノを知らないのね、じゃあ、それ以外のことも知らないの?」
「え、なに?」
「幻想郷外ではねえ、えーと……」
ひのふのみ、と、指折り数える。
両足も使うが、あっという間に足りなくなる。
うーうー、と眉間を寄せ、
「と、とにかく、ものすっごい数の人間がいるのよ!」
「そ、そーなのかー!?」
「当ったり前じゃない!」
「それってバイキング? 喰い放題ってこと!?」
「当然よ。大中小、老いも若きもよりどりみどり!」
『じゅるり』と舌なめずりする音がした。
「い、行こう! 今すぐ行こう!」
「待って、でも、そうそう美味い具合にはいかないのよ」
「え?」
「考えてもみて、私たちの知ってる人間って?」
「え、えーと」
ルーミアは考える。
自分が知ってる人間――
博麗霊夢、霧雨魔理沙、十六夜咲夜、魂魄妖夢……
巫女に魔女にメイドに庭師だ。
さんざんっぱら負けた相手でもある。
思いつくたび、宵闇妖怪の顔色は悪くなる。
そして、最悪の可能性を想像し、真っ青になった。
「まさか……」
「そう! あの連中みたいのが、雲霞といるのよ!」
「あ、あぅっ!」
目の前が真っ暗だ。
いや、もともと暗くはあるのだが、心理的にもだ。
あの巫女が、あの魔女が、あのメイドが、あの庭師がひしめく光景、そんなのは妖怪にとっての地獄だ。
室内でメイドが一面にならんでモップ掛けをし、外で庭師が両刀をブンブンと振り回し、空に逃げれば魔女が暴走しており、どこへ逃げても巫女が『都合よく』待っている光景が幻視できた。
そんな場所、なにがあっても行きたくない!
「ど、どうしよ! 今すぐ逃げなきゃ! 攻め込まれるよ!?」
混乱したルーミアが、大きな身振りで訴えた。
「落ち着きなさい」
ちっちっち、とばかりに人差し指を振り、ミスティア・ローレライは自慢気に告げた。
「その為に、あの大結界があるの」
「え、それって、あの博麗大結界? あの邪魔もん?」
「勘違いしちゃだめよ、ルーミア……アレはわたしたちを閉じ込めてるんじゃないわ、むしろ、外敵からの攻撃を防いでるのよ」
ビシッ! と意味も無く彼方を指差す。
「そ、そーなのかー!」
ルーミアはポカンと口を開け、感心した。
「いい? 想像してみてよ。あの連中みたいのが雪崩れとなって押し寄せる光景を!」
ぶるぶるっと、二人は振るえた。
「こわいね」
「ええ、そうよ。『侵入してきた』のが、あの四人だけで幸運と思わなきゃね」
「外、こわい。幻想郷は平和だね」
「まったくね。胡散臭い妖怪だけど、それだけはアイツに感謝してもいいかもね」
「そーなのかー」
+++
二人は分からなかっただろう。
真の暗闇と思えた空間、そこに僅かばかりの『切れ目』が付けられていたことを。
その先では、噂を広めた張本人、博麗霊夢と八雲紫がハイタッチをしつつ、『してやったり』の笑みを浮かべ合っていた。
今日も、幻想郷は平和なのである。