人気のない道を歩き、魔法の森に近づいたところで僕の店は見えてきた。
古道具屋「香霖堂」。
鍵もかけていない扉をゆっくりと開け、中へと入る。
扉を閉じて、荷物をおろしてから僕はぐっ、と背伸びをした。
「祭り」は、僕には慣れないにぎやかさだったが、とても心地よいものであった。
負けてしまったとはいえ、僕は清々しい気持ちを胸にしている。
・・・さて。片付けを済ませていつお客が来ても良いようにしておこうか・・・
会場に持っていった小道具も、元々陳列されていた場所へと戻しておこう。
「これはここ、これはあっち。こいつは・・・んっ!?」
その時、僕の頭の中に電撃が走った。
「そうか、これがあれば!」
夕刻過ぎ。
荷物をかかえて「香霖堂」へと走る黒い少女の姿があった。
店の前まで走り、そのままの勢いで扉を開けて叫ぶ。
「おい香霖!この前もらった電子・・・ん、なんだっけ。
まぁ忘れたが、アレが壊れたんだ。
もらった時はいらないと思っていたんだが、いざ使うと便利でさ。
使えなくなって困ってるんだ。
悪いが修理を頼まれてくれないか?
報酬のガラクタもほれ、これだけ持ってきた・・・って、香霖? いないのか?」
それを聞いて、主人が店内奥の小部屋からひょっこりと顔だけを出す。
「ここにいるよ。
あの勢いで入ってこられて気付かない方がおかしいよ。
・・・悪いが今ちょっと手が離せないからこっちの部屋まで来てくれ。」
「ああ、言われなくても行くぜ。・・・で、私が思うに、多分ここが悪くなってるんだが・・・」
故障の状況を話しながら小部屋の扉を開く魔理沙。
そこにいたのは、霖之助ではなかった。
いや、普段の霖之助ではなかった。
「・・・香霖、お前その格好・・・っ、まだ入らないほうが、良かったか・・・?」
顔を紅潮させながら、「ソレ」を見た魔理沙は言った。
それに対して、主人は威勢良く言った。
「はは、良く気付いてくれたね!
この格好、『ふんどし』は今日の祭りでとても評判が良かったんだ。
それを、荷物の片付けをしている時に思い出してね。
この格好をしていればこの店の客も増えると思ったんだ。
ああ!どうして今まで気付かなかったんだろう!
ほら、魔理沙。君もこの衣装を見て何か買っていこうと思うだろう?」
魔理沙はしばらく視線をあちこちへと移動させていた。
「ほらほら、僕の魅力が引き出されているだろう?」
満足げに腕を組みながらにじり寄る霖之助。そして後ずさりする魔理沙。
「あっ、ああ!私はいいと、その、思う・・・ぜ?
あぁ、そういえばれっ、霊夢に用事があるんだった!
ソレは置いていくから修理は任せた!また明日取りに来る!」
そう早口で言い切って走り去っていった。
駆け出して行った魔理沙を見送りながら、僕は自分の考えに狂いはなかったと感じていた。
そう、僕に足りなかったものはこれだったんだ。
この「ふんどし」さえあれば、この「香霖堂」が幻想郷一の人気店になる日もそう遠くはないだろう。
僕は、口元からこぼれる笑みをしばらく消すことができなかった。
(おしまい)
古道具屋「香霖堂」。
鍵もかけていない扉をゆっくりと開け、中へと入る。
扉を閉じて、荷物をおろしてから僕はぐっ、と背伸びをした。
「祭り」は、僕には慣れないにぎやかさだったが、とても心地よいものであった。
負けてしまったとはいえ、僕は清々しい気持ちを胸にしている。
・・・さて。片付けを済ませていつお客が来ても良いようにしておこうか・・・
会場に持っていった小道具も、元々陳列されていた場所へと戻しておこう。
「これはここ、これはあっち。こいつは・・・んっ!?」
その時、僕の頭の中に電撃が走った。
「そうか、これがあれば!」
夕刻過ぎ。
荷物をかかえて「香霖堂」へと走る黒い少女の姿があった。
店の前まで走り、そのままの勢いで扉を開けて叫ぶ。
「おい香霖!この前もらった電子・・・ん、なんだっけ。
まぁ忘れたが、アレが壊れたんだ。
もらった時はいらないと思っていたんだが、いざ使うと便利でさ。
使えなくなって困ってるんだ。
悪いが修理を頼まれてくれないか?
報酬のガラクタもほれ、これだけ持ってきた・・・って、香霖? いないのか?」
それを聞いて、主人が店内奥の小部屋からひょっこりと顔だけを出す。
「ここにいるよ。
あの勢いで入ってこられて気付かない方がおかしいよ。
・・・悪いが今ちょっと手が離せないからこっちの部屋まで来てくれ。」
「ああ、言われなくても行くぜ。・・・で、私が思うに、多分ここが悪くなってるんだが・・・」
故障の状況を話しながら小部屋の扉を開く魔理沙。
そこにいたのは、霖之助ではなかった。
いや、普段の霖之助ではなかった。
「・・・香霖、お前その格好・・・っ、まだ入らないほうが、良かったか・・・?」
顔を紅潮させながら、「ソレ」を見た魔理沙は言った。
それに対して、主人は威勢良く言った。
「はは、良く気付いてくれたね!
この格好、『ふんどし』は今日の祭りでとても評判が良かったんだ。
それを、荷物の片付けをしている時に思い出してね。
この格好をしていればこの店の客も増えると思ったんだ。
ああ!どうして今まで気付かなかったんだろう!
ほら、魔理沙。君もこの衣装を見て何か買っていこうと思うだろう?」
魔理沙はしばらく視線をあちこちへと移動させていた。
「ほらほら、僕の魅力が引き出されているだろう?」
満足げに腕を組みながらにじり寄る霖之助。そして後ずさりする魔理沙。
「あっ、ああ!私はいいと、その、思う・・・ぜ?
あぁ、そういえばれっ、霊夢に用事があるんだった!
ソレは置いていくから修理は任せた!また明日取りに来る!」
そう早口で言い切って走り去っていった。
駆け出して行った魔理沙を見送りながら、僕は自分の考えに狂いはなかったと感じていた。
そう、僕に足りなかったものはこれだったんだ。
この「ふんどし」さえあれば、この「香霖堂」が幻想郷一の人気店になる日もそう遠くはないだろう。
僕は、口元からこぼれる笑みをしばらく消すことができなかった。
(おしまい)