Coolier - 新生・東方創想話

ブラックホールに成る

2021/12/30 16:43:55
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 ブラックホールとは、何か。一言で言うならば、究極の力である。通常ブラックホールといえば、大質量の恒星が超新星爆発とともに重力崩壊を起こし、無限に体積が小さくなり続け、やがて事象の地平面より小さくなった結果、できた天体を指す。そして、万物を吸い込み続け、体積がゼロのまま質量が増大していくのである。太陽質量の三十三倍から、二百十億倍まで、そしてさらにどこまでも。悠久の時が流れ、ホーキング放射で蒸発するまで。
 しかし、これらの現象は究極の力が発生したことを起因とする結果である。いや、「究極の力が発生した」と言うと語弊があるだろう。万物は究極の力を元々持っている。重力崩壊とは、重力が中性子の縮退圧の力を超えた結果であるから、ブラックホールの誕生を抑える巨大な力をはねのけ元々持っていた「究極の力が顕現した」と言った方が良いだろう。
 つまり、ブラックホールという天体は先程説明したような手順を踏まずとも、ただ抗う力をはねのけて究極の力を顕現させることができれば誕生するのである。
 例えば、我らの地球を不思議パワーで圧縮してピーナッツくらいの体積にしたとしよう。ブラックホールが誕生する、ただそれだけで。これは、地球が持つ潜在的な究極の力を不思議パワーによって顕現させたということだ。
 同じように、秒速一億キロで拳を振れば、もしくは一垓テスラの磁力を持つ磁石を開発すれば、究極の力を顕現させることができるだろう。

 まあ、小難しいことを言ったが、つまりはどんなものでもブラックホールに成れる可能性があるということだ。

 





「恐ろしいわね」
と、吸血鬼。フランドールである。彼女が引きこもる地下室の、大体真上にいる紫の魔女から借りたブラックホールの本を読みながら。
「こんなのが紅魔館にやってきたら、爆発なんてもんじゃすまないわ。幻想郷ごと吸い込まれて終わりね、終わり」

 地下室は豪華の一言であり、絨毯も、机も、クローゼットも外の世界から持ち込んだ一級品である。その中でも特に、ベッドは入るものを歓迎し、極上の暖かさを与えてくれる包容力を感じさせる。しかし、そのベッドにそれを与えられながらも、彼女の白磁の肌には鳥肌がたっている。

「きゅっとして」
「どかーん」

 それなりに分厚い本が内側から爆発し、破砕する。彼女に得体の知れない恐怖を与える本は、興味よりも拒絶が大きかったようだ。

「パチュリーに謝らないとね、壊しちゃったこと」



「ねえ、パチュリー。あの本に書いてあることってデタラメなの?」
 四人が座れるテーブルに、二人は座って話す。四分の二である。
「全部本当の話よ。それより『あの本』っていうのは」
「あー」
「本はどうなったの?」
「壊れちゃったわ。ごめんね?」
 バツが悪そうな感じは全く醸し出さない。だが、目の光は消えている。それこそ光さえも吸い込むブラックホールの如く。それは、彼女自身の狂気からか、それとも恐怖からか。
「次からは気をつけなさい」
「分かったわ」
「…もう少し壊れにくい本を貸すべきだったかしらね。もっとマイルドなやつを」
 人間は高い思考能力を持つ故に、想像し、恐怖する。人間を凌駕する思考能力を持つ彼女は、もしかしたら人間よりも恐怖を感じやすいのかもしれない。
 
 少し経った後。
 不意に、大図書館の扉が開く。
 二人が話すテーブルの空いた席側の扉、紅魔館へ繋がる扉である。

「よう、パチュリー。借りに来たぜ」
「来たわねこそ泥」
「お?フランもいるのか」
 会話のキャッチボールは無論成り立たない。こそ泥もとい霧雨魔理沙はずかずかとテーブルまで歩き、遠慮などなく椅子に座る。四分の三である。

「ねえ魔理沙、ちょっと付き合ってくれない?」
「弾幕か?悪いが朝飯を食ってきてなくてな、気分が乗らないんだ」
「違う違う、話に付き合ってほしいのよ。弾幕もいいけど」
「そもそも図書館の中でやるのはよしなさい」
「でさ、さっきまでパチュリーとブラックホールについて話してたのよ。魔理沙の見解も聞きたいなあって」
「ブラックホールかあ。まああれも一応星だしな。私に聞くのは間違ったことじゃあない」
「うんうん」
「だが私の専門は熱と光だ。熱も光も発しないあんなものを星の気質としては認めたくないんだ」
「つまりは専門外ってこと?」
「そういうことだ、ブラックホールの降着円盤なんかは話が別だが」
「知りたかったのになあ」
「ここにはブラックホールの本だってたくさんあるだろ。それを読んでみたらいいんじゃないか?」
「読んだわよ。でも、理屈の上では分かったけど、認められないの。あんな怖いものをさ」
 少し魔理沙は驚いたような表情をして。
「お前に怖いなんて感情があったとはな」
「正体不明に怯えるのは人間だけじゃないのよ」
「ふうん」
 
 少しの沈黙の後。

「パチュリーはどう考えてるんだ?」
 紫の魔女は本にかじりつく目線を少し上へずらし。
「…私は星の気質については詳しくは知らないわ。でも、ブラックホールはフランの能力に類似しているものだと思っている」
「さっき話してくれたけどさ、それってどういう意味なのさ?」
「私も言ってることがよく分からないな。説明を求める」
「そもそもの話ね」
「ああ」
「フランの言う『目』って何のことか分かる?」
「物質の緊張点でしょ、私の能力なんだもの、それくらいは分かってるわ」
「じゃあ物質の緊張点って?」
「物質の力が一点に集まっているところよ」
 割り込んで魔理沙。
「…なんとなくパチュリーの言いたいことが分かったぞ」
「万有引力だ。あの、リンゴから引力を発想した偉人が発明した、法則だ、万有引力の法則。すべての物質は引力を持ち、引き合ってる。この机だって。だから、地球でいう核の部分がこの机にも存在する。フランの能力は、物質から引力の中心、つまり『目』を見つけ出して手のひらの上に移動させる能力なんじゃないのか?」

 読んでいた本を机に置いて。

「まあ、大体合ってるわね。ちなみにその偉人の名前はニュートン」
「へっ」
「もう一回説明されたら何となく分かったかも」
「付け加えるなら、『目』を失った物質の中心は、擬似的な縮退圧がかかり、結果として爆発するということ。超新星が起こる原理でね。だから『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』。『目』が大きすぎると壊せない、力が強すぎるから。こう考えるとフランの能力に合点がいくわ」

「…うん、ちょっとすっきりしたかも。ブラックホールは私で、私はブラックホールなのね」
「確かになあ…。…私はすべてのものには星の気質が含まれていると思っててだ。地球に住んでるんだからな。そのフランの能力の解釈は私の考え方に似通うところがある。フランの中にはブラックホールがあるっていうところな」



「じゃ、私はそろそろ帰るかな。お腹すいたし。…ああ、あの本と、この本。ちょっと借りてくぜ」
「明日には返しなさいよ」
「私が明日死んでたらな」
「別に明日あなたを殺してあげてもいいのよ」
「ひゅー、怖い怖い」
「…じゃあね、明日よ」
「おう。じゃあな、フランも」
「ばいばーい」
 今度は扉からではなく、図書館の窓から黄の魔女は飛び去っていく。これで、四分の二。
 その直後。
「パチュリー様。昼食です。…あら、妹様もいらしたのですね」
「ああ、咲夜。今日はスパゲッティなのね、…面白いこともあるものね」
「…?…ありがとうございます…」
「妹様の分も」
 一瞬のうちにメイドの姿が消え、また一瞬のうちに現れ、昼食を置く。
「ありがとー」
「それにしても良いタイミングね」
「ええ、あれの目の前でスパゲッティなんて見せたら、『自分の分も』とねだるに決まってますわ」
「違いないわ、朝食を抜いたって言ってたし」
「ああ、そうそう、咲夜。ちょっと話に付き合ってほしいのだけど。」
 これで、再び四分の三。

「それで、話とは一体」
 メイド自身の分も一瞬で持ってきて、瀟洒に頬張りながら。
「さっきまでブラックホールについて話してたのよ、魔理沙も含めてね。ブラックホールといえば重力じゃない。重力は時間と空間に密接に関係しているのは知ってるわよね。相対性理論に……」
 ぽろぽろとこぼしながら。
「つまり、咲夜の能力について教えてほしいってこと!」
 割り込んで吸血鬼、優雅に食べながら。
「…まあ、そういうことね」
 ぼろぼろとこぼしながら。

「重力と時間空間は密接に関係しているというのは、どういうことでしょう。私にはそのあたりの知識はあまりありませんので」
「まあ、簡単に言うと。時間と空間をトランポリンだと思ってちょうだい。それで、その上に物体が乗れば、当然トランポリンは沈む。沈むということは、他の物質がトランポリンの上にあれば沈んだところに転がっていくということ。これが引力よ。引力…というか力の全ては時空を歪ませ得るの」
「なるほど。理解できました。」
「ホントかしら…。まあ、時間を操れるあなたなら逆に時空から力を操れるんじゃないかなと思ってね」

「理解があまり及びませんが、私の能力では時間と空間しか操れないのは確かですわ、力、ましてやブラックホールなんて私の範疇の外も外だと考えております」
「何も本気であなたが力を操れるなんて思ってないわ。でも、ブラックホールはワームホールの入口であり、吸い込まれた物質はホワイトホールから吐き出されるという仮説があるのよ。実際、ホワイトホールなんてものは観測されていないし、物理学的に何もないところから物質が出てくるなんてありえない」
「確かにそうですね。…そのようなワープの力を持つ者は幻想郷にはちらほらいますが」
「境界の妖怪とか、隠岐奈とかね!」
「そうね。そして、あなたの能力はそれらのものと似通っている」
「あなたも、私と同じでブラックホールの断片が中にあるんじゃないかな」

 食べ終わり。

「では、私はそろそろ。洗い物をしなければなりませんので」
「私も帰ろうかなー、お昼寝したい。吸血鬼だからね」
「ん」

 紫の魔女は再び本にかじりつき、それを後ろに吸血鬼は地下室への階段を降りてゆく。



(寝れない。)
(やっぱ、怖いのかな。)
(お姉様からキリストのことを教えてもらった時も、こんな感じだったな。)
(この部屋に霊夢が来たときは、全然怖くなかった。)
(私の力が通じない、無重力の巫女。)
(『目』が体中どこを探してもなかった。)
(得体のしれない人間なのに、興味と…羨望?憧れ?感嘆?もしくは親近感のような暖かさ?…言葉には言い表せない、良い気持ちになった。)
(ブラックホールに対して、そんな気持ちを抱けるとは。)
(到底思えない。)

(ブラックホールの特異点とは、一体何なんだろう。)
(パチュリーが時空をトランポリンに例えてたけど。)
(特異点というのは、重すぎてそのトランポリンが破けちゃった場所なんじゃないかな。)
(特異点は密度が無限大になっているらしいし。)
(有り得る。)
(だから、別のところにつながるワームホールとなっている。)
(…考え出すと、寝られなくなっちゃうな。)

 体を起こそうとした、その時。
 地下室の扉が開かれる。
 無論、吸血鬼はドアノブに手をかけていないし、何ならドアノブが下げられた様子もなかった。

「隠岐奈…?何しに来たの」
 究極の絶対秘神である。

「なに、面白そうなことを話していたのでな。ブラックホール、だったか?私は悩める少女に道を示す神でもある」
「…覗いてたの」
「悪く思うな、後戸からは幻想郷の全ての情報が入ってくるからな」
「まあいいけどさ」
「それにしても。ブラックホール、面白い性質だよ。惑星を、恒星を、中性子星を、果てには同族のブラックホールまでをも飲み込む、まさに宇宙の掃除屋だ」
「そうね」
「幻想郷を包む博麗大結界は、外の世界から非常識を吸い込むものだ。だが、常識も非常識も関係なく吸い込む結界に成ったとしたら、どうなる」
「…」
「そう、それはまさにブラックホールの有り様と何ら変わりないだろう。博麗大結界は、ブラックホールに成れる可能性がある」
「お前が嫌いな太陽だってそうだ。天照大御神がもし三十柱いらしたとしたら、将来的にブラックホールに成り得るだろう。私は星神でもあるから、このようなことにも精通している」
「なあ、フランドールよ、万物はブラックホールに成る可能性があるのだ。お前もだ」

(未だに、ブラックホールへの恐怖は拭えない。)
(でも、少しだけ、少しだけ、ほんの少しだけ、恐怖が別な感情に変わった気がする。)
(興味でも、羨望でも、憧れでも、感嘆でも、親近感でもない、もしくはその全てかもしれない。)
(霊夢に対しての気持ちのような。)
(この気持ち。)
(スケールの違うものと自分とを照らし合わせて得られるこの気持ち。)

「…そうね」

(好き、で総称しちゃっていいのかな。)
天文学が好きなので、書いてみました。
ロスワネタが多分に含まれてます。
時計太郎丸
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コメント



0.60簡易評価
1.100植物図鑑削除
着想がとてもユニークだと感じました。そしてその着想からの膨らませ方もお見事。ブラックホールを作る、とかではなくブラックホールに成る、というのは考えたこともなかったです。壮大だけど身近な気もして、とてもおもしろかったです。
2.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
3.90福哭傀のクロ削除
理系的なお話で面白く読ませていただきました
話の内容な言葉選びなど面白かった反面
少し誰の地の文か誰のセリフかわかりにくいところもあるきもしました
今後の作品も期待させていただきます
5.100サク_ウマ削除
面白い着想で、思考の描き方がとても良いなと思います。良かったです。
6.100そひか削除
キュっとしてドッカーンがブラックホール形成・蒸発だというのはなるのどなと思いました。
7.100南条削除
面白かったです
不思議なものを怖がっちゃうフランがかわいらしかったです