Coolier - 新生・東方創想話

具なしの味噌汁

2021/12/30 01:32:38
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 現在、幻想郷は冬にさしかかろうかというところである。つまりは、霜月。紅葉の神が晩秋の残り香を胸に感傷に浸り、雪女の体積が少しづつ大きくなっていき、春告精の機嫌は引き続き悪い、そんな頃である。
 では、そんな季節の移り変わりの時季、竹林に住まう狼女はどうしているかというと。

「影狼ー!もう辰三つの時だぞー!早く起きなさい!」
「霖之助さん…?ぁーあとちょっと……眠ぃから…」

 香霖堂で居候をやっていた。

 居候とは言っても、畑もやるし、店主の物集めも手伝うし、店内の掃除もする、極めて有能な居候である。特に畑仕事においては、畑の耕す速さは幻想郷一であろうというくらいに速い。彼女は自分の手と足と爪を存分に使い、耕運機になるのだ。そして偏屈で青黒の服の店主がその柔らかい土の上に野沢菜やら水菜やら大豆やらの種をまくのである。
 そして、収穫のため、ぬくぬくの布団から出た狼は、ようやく他の居候の妖怪たちと共に店主を手伝う。いつものローブのような赤白茶の服を着て。

 店のすぐ横にこしらえられた畑はうねが十くらいある、結構大きな畑。その前に集まった妖怪たちは、鳴釜、ぬりかべ、付喪神化した箒やらお皿やら壺と百鬼夜行十分の一はあるくらいの多さ。まあ霖之助含め十体弱くらい。畑仕事ができるか怪しいやつもいるけれど。
 そこから見られる、いや見上げられる香霖堂は二十尺はあろうかというほど。森の中にたたずむ一軒家としては少々場違い、もっと小さくあるべきである。おそらく店主の蒐集癖が物を、付喪神を、果てには妖怪を呼び、それらが居候となってあれやこれやした結果だろう。
 どこぞの妖怪神社も顔負けである。
 話が逸れた。

「この大豆抜けないんだけど!霖之助さん手伝ってよー!」
「もう少し待ってくれ!こっちにも抜けないのがあるから!」

「葉っぱが虫に大分食われてるな」
「いやこの食い跡は虫にしては大きすぎない…?」
「じゃあ君の仕業か」
「そんな訳ないでしょ!どんだけ悪食なのよ私!」

「野沢菜の根っこって食べられるんだっけ」
「食べられるのは根が太い品種だけのはずだよ。僕の育ててるのはまた違う種さ」
「ふーん」

 まあ、そんな感じで。
 異様に大きい香霖堂の横での収穫は割と上手いこといった。

 そして、日が真上へそして真西へ行った後。

「味噌ができたよ。白味噌だ」
「へ?いくらなんでも作るの早くない?収穫したの今日の昼前くらいでしょ」
「外の世界の技術の賜物さ」
「乾燥は?大豆の」
「この『どらいやー』なる物を使ったよ」
「発酵とかそういうのは?」
「外の世界の本に半日でできる発酵法があったのさ」
「外の世界の技術はすごいわね…」

 ちなみに「どらいやー」は外の世界のものではなく、河童印の干しきゅうり生産機の一部である。流石にそんな凄い機械は外の世界にもない。

「少し遅くなったが夕食は何にする?」
「ミソニコミウドン!」
 とぬりかべ。ちなみにぬりかべは何にも畑で働いていない。当たり前である、手が無いのだから。しかしいっちょ前に口だけはある。
「じゃあ、みんな手伝ってくれ」

 少しの間の後。

「「「いただきまーす」」」

「龍神の像の目が青に光ったらしいぞ」
「何でそんな事知ってるの…。人里にあるのに」
「天狗の新聞さ」
「あの紙が天気予報なんてそんな有用なことを」
「強気だなあ」
「面と向かっては言えないけどね。言ったら私が記事になっちゃうわ。もしかしたら連れ去られるかも。」
「君はそんなに幼くないだろう」
「それもそうね」

 ずるずると音をたてながら、夜のとばりが折りきった中、十鬼夜行は団欒を。

「で僕の言いたいのは明日雪が降るかもしれないということ」
「はあそれは大変なことね」
「でどうするんだい」
「竹林に帰ってもいいけど。ちょっとここの布団が恋しいわ」
「狼は藁の上に寝るものだと僕は思うんだが」
「偏見は良くないわね、布団で寝る狼もいてもいいじゃない」
「君の眷属は藁の上で寝てるのにか」
「それはまあ、うん。でも眷属っていうほどじゃないわ、竹林の狼たちは。同族みたいなものよ、横のつながりって感じ」
「まあそろそろ帰ったほうがいいんじゃないか。雪が降るときは君らが一番喜ぶ時だろう。君は満月が嫌いみたいだし」
「まあ明日には帰ろうかな、もう一ヶ月は帰ってないし」
「追い出したいわけではないんだがなんで君はそんなここを気に入ってるんだ」
「あのカードゲームが楽しすぎてね、菫子ちゃんも時々やってくれるし」
「そういえばそう言ってたな」
「ま、そうと決まれば準備しとかなきゃ。明日は雪ね雪、楽しみだわ!」
「こっちは雪かきが大変なんだがね」
「私がいなくて大丈夫なの?」
「まあみんなが頑張ってくれるさ」
「んー。じゃみんな食べ終わったみたいだし」

「「「ごちそうさまでしたー」」」

 今度は、月が真上へそして真西へ行った後。

「おはよー」
「おはよう、今日は早いね」
「そりゃあ今日出かけるんだもの。あ、そうそう雪は?」
「降ってるよ」
「やった!」

「じゃそろそろ行こうかな」
「狼の姿でかい?」

 影狼の姿はいつもの人狼のものではなく、どこからどうみても狼そのものである。風呂敷で荷物を背中にくくりつけてあるため、外の世界の山脈のラマを彷彿とさせる雰囲気だ。

「雪の上だとこっちの姿の方がね」
「ふうん。…あ、そうだ、これでも持っていってくれ」
「これ、味噌?昨日の」
「ああ。随分上手くできたと思ったからね、同族にでも振る舞ってあげたらどうだい?」
「そうするわ。背中に置いといてくれない?風呂敷の上にでも」
「不安定そうだなあ。風呂敷の上からもう一回くくるか」
「はあ」

「これ、これ」
「赤色の、マント?」
「童話にちなんでさ、これを使って」
「赤色のマントで思い浮かぶのは私の友達なんだけど。そもそもちょっと童話の話とは違うし、私襲う側だし」

 ちょっとの後。

「ばいばーい」
「ああ、ばいばい」

 しんしんと降る雪の中、狼は竹林の同族の元へ向かう。
 晩秋もとい初冬ということもあり、そこまで大雪という程ではないが、人間のくるぶしくらいには積もっていて、移動を阻害することだろう。だからどこかの宵闇が喜んで白を赤に染めるかもしれないし、もしかしたら面倒くさがって染めないかもしれない。
 氷精が狼に氷の弾を投げつける。初雪で興奮した氷精はいろんな所に向かって弾幕ごっこのような雪合戦を持ちかけているのであろう。
 勝者はもちろん狼である。氷精に高速で走る生物を狙うエイムなんてなく、雪玉を眉間に当てられてそれはもうピチューンと。背中の味噌でも狙っていたら、当たらずとも狼の動きを止められたかもしれないが、後の祭り。

「ようやく見えてきたー」

 真東へ三時間程走り続け、迷いの竹林へ。
 そして。

    ……ウォーーーン………

「あ、声。でも、助けて、って言ってる?どうしたんだろ」
「家、家、どこだっけ、早く行かないと」
「あ、あった!あれあれ!」

 家の周りには、彼女の仲間の狼が三頭。そのうちの一頭に影狼は話を聞く。

「どうしたの?」
「バウォウ」
「洞窟の中に変なのがいるって?」

 影狼は日本語はもちろん、ウェアウルフとしての英語、ライカンスロープとしてのドイツ語、ルーガルーとしてのフランス語、そして狼の言語を巧みに操る、トライリンガルも真っ青の器用な狼である。ただし裁縫や料理はできない。もっぱら生肉党である。

 彼女の家である洞窟の中を進み、大きな布やら藁の積んだのが置いてある、比較的生活感のある所に着くと。
 影狼が腕を広げたよりもさらに大きい、巨大な蛹があった。

「なにこれ」

 もぞもぞと蛹の先っちょの方が動き、ぱかりと開く。そこから現れたのは、顔。人面蛹か?いや、そんな妖怪聞いたこともない。

「気持ち悪っ!え?誰?」
「お邪魔しちゃってごめんね、ここあなたの家だったかしら」
「え、うん。ていうか喋った…」
「あなたさっきから失礼じゃないかしら、気持ち悪いとか」
「ごめん、ちょっとびっくりしたから…」
 
 さらに蛹が開き、珍妙な服を着た、背中から蝶の羽が生えた少女がその中から出てくる。
 神に近づく蝶の妖精、エタニティラルバである。
 冒頭で秋は憂い、冬は大きくなり、春は不機嫌と言ったが、夏はここにいた。

 少し落ち着いてから。

「エタニティラルバっていうのね。私は影狼。今泉影狼よ。」
「長いからラルバでいいよー」
「ラルバちゃんは何で私の家にいたのかしら、なんとなく想像はつくけど」
「うん、お察しの通り寒さを凌げるところが欲しくて…。というか今も寒い!」
「あ、蛹の中に入ってていいよ」
「ありがとう〜。あ、勝手に家の中に入っちゃってごめんね?ほんとに寒くて寒くてさあ〜」
「大丈夫大丈夫。それより私気になることがあるんだけど」
「なあに?」
「ラルバちゃんっていつも竹林にいるの?私竹林にいる妖怪たちとは大体コンタクト取ってるから、見慣れない子だなあって」
「あー、私ね、冬は魔法の森の奥のほうでこうやってくるまってるの。それ以外の季節は太陽の畑で過ごしてるんだ、太陽が好きだからね」
「はあー、なんだって魔法の森じゃなくて竹林に来たの?真逆の方向じゃない」
「それは…たまにはこっち側にも行ってみようかなって…」

 二人の間に沈黙。
 ちょっとした後。

「ふふ…」
「あっ!ちょっと笑わないでよ!恥ずかしいんだもん!」

 これまたちょっとした後の昼頃。

「お腹すいたなあ〜。影狼さん、何かある?」
「味噌しかないわね、魔法の森にある店の店主さんからもらってきた」
「お味噌!それなら私も作ったよ!昨日くらいに!」
「え?家にあるもので?豆なんてなかったと思うけど」
「豆は幽香さんからもらったのを使ったんだよ、一週間前くらいに太陽の畑からここに来る時にもらったんだ~」
「え、あの花妖怪から!?」
「意外と優しいよ」
「はあ…あんなに怖そうなのに」
「味噌がいっぱいあるんだったらお豆腐が食べたいな~」
「午後といえば紅茶でしょ、嫌よ豆腐での午後なんて」
「おおふべのおお?」
「どうやったらそうやって聞き間違えるのよ、それに付け合わせの生姜もネギもないしね」
「嫦娥?」
「それは別の人のネタ」
「ふふふ」
「あ、紅茶はないわよ」
「嘘!?」
「まあ作るのなら味噌汁かな、具なしだけど」
「びんぼー!」
「生のお肉ならすぐ調達できるかもよ」
「何の?」
「さあ?」
「うーんちょっと不安ね」

 焚き火があれよあれよと言う間に出来上がる。積み藁が役立つ。
そして火の上には古ぼけた鍋の中の具なしの味噌汁。

「あとは温まるまで待つだけね」
「それにしても妖精が味噌を作れるなんて」
「凄いでしょー、ルナから教えてもらったのよ」
「ルナって?」
「ルナチャイルドのことよ、月に縁がありそうなあなたなら知ってると思ったんだけど」
「あー、あの月の光の妖精ね、見たことはあるわ」
「で、そのルナはめちゃくちゃ賢いのよ!なんでも知ってるの!」
「確かに眼鏡をかけて飛んでるのを見たわね」
「…あっ、ぶくぶくしてきたわ」
「これの上に置いてくれる?」
 
 影狼が立ち上がって鍋敷きを用意する。

「はーい。…って熱っ!」

「味噌は私のとラルバちゃんのとを混ぜよう、せっかくだし」
「そうしよ!」

 お待ちかねの食事の時間。半刻と待っていないが。

「「いただきまーす」」

「そうそう、魔法の森のお店から帰ってきたのよね」
「そーよ」
「私、そのお店知ってるかも、っていうか行ったことあるかも」
「そうなんだ、あんな店で買うものなんかあるの?」
「お店の中には入ってないよ、ちょっと外の畑の葉っぱを頂戴したことがあるの、水菜、だっけ」
「え、じゃああの水菜の虫食い跡って…」
「私かも」
「まあアゲハの妖精だもの、仕方ないけどさ…」
「ごめんごめん、今度からは店主さんに言ってからもらうね!」

 そして。
「「ごちそうさまでしたー」」

「食べたら眠くなってきたわねー」
「私もお昼寝していい?」
「いいわよ、寒いだろうから一緒に寝ましょ」

 藁の中で。

「起きたら魔法の森に行こうかな、いつもの冬のねぐらのところ」
「寒いけど大丈夫?」
「うん、頑張るよ。それに味噌汁、とっても暖かかったし!」
「ふふふ」
「ねえ、冬を越したら、またお豆で何か作って持ってくるね!」
「ありがとう、その時は竹林で迷子にならないようにしてね」
「うん!また食べようね!」

「じゃあ、お休みー!」

 また、具なしの味噌汁を。
ラルバの小説が書きたい一心でノリで投稿したけど、いつの間にか影狼メインになってた…
時計太郎丸
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コメント



0.100簡易評価
1.無評価時計太郎丸削除
小説を書くことは難しいと感じさせられました。起承転結の起を思いついても、結がどうしてもいい感じにならないし、その中でキャラを立たせるのも難しいかったです。
いつも創想話で見させてもらっている作品は凄いんだなあと…
2.100植物図鑑削除
わちゃわちゃとしてすごく楽しいお話でした。どの子も季節を存分に楽しんでいるようですごくほっこりしました。プレイヤー目線ではあまり意識しないのですが幻想郷では多くが他人同士。それでもこの小説のとおり、案外すぐに仲良くなれたりしそうです。
3.90奇声を発する程度の能力削除
楽しめました
4.100サク_ウマ削除
うおォン 私はまるで妖怪耕運機だ
会話のキレが良いですね。細かな言い回しも地味に好きです。影狼の切り貼り日常スケッチといった風な味わいでした。
6.90名前が無い程度の能力削除
かわいらしいやり取りが素敵でした。具なしの味噌汁。風情がありますね。
7.100南条削除
面白かったです
とても暖かいお話でした
ラルバも影狼もいいキャラしていてよかったです
8.80竹者削除
よかったです
10.80KoCyan64削除
タイトルと本文がマッチして面白い作品でした
11.100モブ削除
とても溌溂としていて、読んでいて目がきちんと踊る作品でした。
ご馳走様でした。面白かったです。