Coolier - 新生・東方創想話

子曰く尸毘は四道にありて司に巡り侈衣を知らずまた詩思を識らず

2021/11/23 01:02:26
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 一

 旧く大和朝廷の歴史的使命とは力を持った地方豪族らを中央官僚へと再編する段階にこそあり、その集権化と文化的統合は唯物論的な弁証法の定めた宿痾であった。その官僚機構が文官と武官の別を持つのは律令制の登場を待つ必要があり……即ち王権の成立から律令制運用の初期にかけて、官僚の階位は個人の武威によって大きく左右されたことを博識なる読者諸君はご存じのはずである。
 たとえば、かの名高き大官僚たる藤原不比等は偉大な父を持ちながらも、幼少のみぎりに家格は地に落ちており、その身一つで政界に乗り出さねばならなかった。では名もなき下級官僚として立身した彼が一代にして権勢を築き、のちの摂関藤原家繁栄の足掛かりをつかむにまで至ったのはどうしてか? 答えは彼が天才的な武術家であったからだ。
 無論同時代の証言や史書の記録はないのであるが、藤原不比等が武術に秀でていたことは『懐風藻』の漢詩に詳しい。というのも、当時は己の武の真髄を和歌や漢詩に込めて詠うのがこのましいとされたからだ。ここで一つ、不比等が吉野に出向いた際に詠んだ漢詩を引いてみよう。

   飛文山水地
   命爵醇薙中
   漆姫控鶴舉
   柘媛接魚通
   煙光巖上翠
   日影漘前紅
   翻知玄圃近
   對翫入松風

 読者諸君が武を修めたことがあれば、これが歩法についての指南を込めた詩であると一目で察するはずだ。大和朝廷の豪族らが綿々と受け継いできた武術では一撃の破壊力を重視した柔拳が重視される傾向にあるのだが、天才的な武術家の不比等はここが既存の考えと違った。そもそも大和で育まれてきた武とは対神対妖を重んじており、一撃必殺が前提であった。一方で不比等の武は対人を考慮に入れ、歩法を極むことで継戦能力と負傷状況への応用力を取り入れているのだ。神代のあらぶる神々や化生たちが姿を消し、人同士の殺し合いのほうが多くなりはじめた秋津洲に、大時代的な破壊力のある拳法はもはや必要ないと気がついていたのだろう。
 いちおう簡単な解説をいれておくと、飛文とは当然山岳地での歩法のこと、命爵の爵とは今でいう酌のことであり、これは酔拳のことだ。漆姫に関しては、その説話が今日ではほとんど散逸しており柘枝についても同様であるため解釈が難しいとされるが、これらは典型的な神仙譚、今日では天女伝説として知られる説話の類型と考えられる。首聯を受ければ、この二行は対空技の秘技について詠っているのがわかる……という具合である。
 さて、この場は不比等について語るために設けたのではない。もう少し時代の針を一世紀ほど進ませ……平安の都に生まれた官僚にして詩人、都良香について語ろうと思う。
 読者諸君は「ちょっとまった、先の話はなんだったのか」と思ったことかもしれない。当然の疑問だ。都良香の生きた平安の時代、9世紀中ごろの京では、文官たちが武を修める伝統はすっかり廃れていたからだ。文官武官が峻別され、たとい武を極めたとしても文官としての出世にはなんら関係のない時代だからだ。
 かといって、それは都良香が武人でなかったことを意味しない。否、むしろ彼の残した和歌には生き生きと、拳法家としての精神、武を修めるもの特有の闘争への渇望が息づいているのだ。
 なるほどたしかに、良香が武人であるということを証言する史料は存在しない。とはいえそれは先に挙げた不比等とて同じことである。
 わたしは、この場を借りて歴史学に一つの石を投げこもうと思う。いってしまえば、都良香拳仙説である。わたしはこの投石が大きな波紋をおこすものと確信している。

 酉京都大学境界歴史学研究会紀要(八四号)掲載 『都良香新考 涙川と平安古武術を巡って』より引用



 二



 保元元年。外京。とある寺。
「八雲立つ出雲八重垣妻ごみに八重垣作るその八重垣を……この和歌を手習いせずに育った都人なぞおらんが、その解釈は多岐にわかれ未だ論争が続いている。八雲と八重垣を八卦と読んだ流派は陰陽寮によって再編され、八門遁甲の武術として確立された。八岐大蛇を討った説話から龍殺しの業と考えた流派は仏門に多くが流れた。龍を殴り殺し調伏する聖の話は知っているだろう」
 女は天井にへばりついていた。足の指の握力だけで材木にしがみつき、床に這いつくばる男を見上げている。
「吾輩はどの解釈も誤りだと考える。なにせ詠人はあのスサノヲ。この秋津洲随一の荒神が、その業が……それほど生易しいものかよ?」
 女はにやにやと嫌らしく口を歪ませる。彼女こそは300年を生きる怪人、古くは都朝臣良香とも名乗った稀代の大官僚、平安の偏屈者である。
「野狂や。お前さン、弱くなったろ。……ククク、カカカカッ! 京にいた頃のお前は輝いていた。吾輩はあの頃のお前が好きだった。憧れだったよ。それがどうだ? 地獄で仕えるべき主君でも見つけたのか? 本当に……弱くなったァ。カハハ、ハハハハ!」
 相対するは野狂、小野篁。四季映姫に仕官する武人である。
「お前は……やかましくなったな、良香」
「……ようやく口をきいたと思えば、くだらん。この宮古芳香が苦界に産まれ落ちてからというもの、喋りたいときに口を閉じたり、また黙りたいときに口を開いたことがあるものかよ。死ねい、小野篁。そして冥府に帰って伝えるのだ。宮古芳香すでに人にあらず……吾輩は人を超えたもの――――すなわち超人であるわァッ!」

 声が届く距離を瞠目のうちに詰められぬ者がどうして武術家と呼べようか? 良香の縮地は足場の材木を破砕する勢いで、しかし相対する小野篁とてかつては参議にまで任ぜられた官吏であるから、初撃を弾くだけの武技を持つ。が――
「無駄ァ! 吾輩は人を超えたと言ったッ!」
 続く、目にも止まらぬ八連撃。それこそは彼女のたどり着いた一つの極地。神代の残り香、スサノヲが詠った秋津洲の殺人拳――。
「吾輩はこの技を『天玄彌栄潮路(アメノユミハリイヤサカウシホノミチ)』と名付ける! スサノヲの至った神域の業! 八重垣とはすなわち、すきまなく撃ちだされる拳の連撃なりッ! さぁ篁ァ! 二度死ねィッ、否、八度死ねェッ! ワーッハッハッハッハ! アーッハッハッハッハッハ!」



 三



「殺されましたか」
「殺されました」
「強いですか」
「相当に」
 それだけ聞くと、四季映姫は木簡に文字を加える作業に戻る。それから一つ二つ筆を舐めて、逡巡したあとにまた口を開いた。
「……困りましたね。この部署で一番腕利きなのはアナタなのですけど。死ぬべき人間が死なない。これは道理に反している。非道である……」
 取り出した閻魔帳をめくりながらぶつぶつと呟く四季映姫の側に控えて、篁は目を伏せた。
「人が死ぬことはよいことです。死ねばそれだけ地獄は富み、長期的に我々は生きている。我々には無量に近い人的資源が存在します……ちかごろ悪左府が死んだようですね。どうですか、篁」
「やつは政治家です。使い物にはなりません」
 なるほど政治家という生き物は地獄にとり供給過多であるし、欲しいとは思わない。さらに閻魔帳をめくっていく。
「ふうむ……ではこいつはどうでしょう」
 四季映姫が指をさしたのは閻魔帳のなかの『源為義』の名である。
「源氏……武士ですか? 拳を交えたことがないので、なんとも」
「むむむ…………ではこれは! こいつは強そうですよ!」
「『佐藤義清』……? 四季様、こやつはまだ死んでおらぬようですが」
 ぴぇーっ、と声を上げて四季映姫は閻魔帳を放り投げた。
 亡者の魂を私物化し、閻魔帳を傭兵の雇用リストのように運用しているのは閻魔として大問題なのだが、彼らはまるで気にしない。四季映姫は是非曲直庁の組織以上に己の善悪の尺度を絶対としているし、篁は彼女の天秤こそが功利に適っているものと信奉しているからだ。
「都良香……都良香……やつの魂はなんとか手元に欲しいのです。上からのノルマもありますからね。……監視は続けるように。小町を使って構いません、所在だけは把握しておきたいですから」
「拝命いたしました」
 篁が持ち帰った京都土産のお菓子をほおばりながら、四季映姫は考える。
 四季映姫の権限で動員できる獄卒の鬼は篁より数段劣る。上に掛け合って格の高い冥界の悪鬼悪霊を借りることもできるだろうが、そうなると良香の魂を懐に横領できなくなる。どうにか手元の戦力で彼女を謀殺しなくてはいけないのだ。
(うーんうーん、どうしましょう。人海戦術で押し潰す? でも、それで徐福のときは苦労しましたからねぇ。アイツには相当手駒をすり減らされました。あー、やな思い出ですねぇ。うーんうーん)
 徐福は何百年も前の大陸生まれの仙人である。本来は大陸担当の部署が殺すべき人間だったのだが、日本に渡ってきたというので映姫の部署に仕事が丸投げされたのだ。
(あれは貧乏くじでしたねぇ……あの頃はわたしも若かったです……あの手の押し付けは二度とごめんで……む?)
 四季映姫はふと思い出す。たしか大陸から流れてきたとかいう仙人で、殺害を押し付けられそうになっていた案件がまだ一件あったはずだ。
「たしか、この辺の木簡に……あった! こいつの名前は……『霍青娥』。青娥娘々ですか。ふぅむ……」
 頭の中で策謀が巡りだす。四季映姫はそれはそれは楽しそうに、にんまりと笑うのだった。

「というわけで、霍青娥を殺してほしいのです。対価は貴女の生存権の保証。むこう300年は地獄からの使いが貴女を襲うことはないと確約しましょう」
「もし吾輩が断れば?」
「朝昼晩、時間を問わず場所を問わず、地獄の使いたちが貴女を襲います。我々の人的資源が尽きるまで……即ち地獄の死者が尽きるまで終わりませんよ」
 まるでこけ脅しだと知りつつも、良香は了承した。
 がらがらと昇降機が降っていく。忘れられた井戸の底、果ての見えぬ深い闇のなか。地獄につながる大洞窟。
 壁面にガリガリと爪を立てながら良香は疑問を口にした。そこは是非曲直庁の固定資産に含まれるからやめなさい、と四季映姫は制止しながら答えた。
「吾輩は……すでに人間を超えたはずだ。だのになぜ……なぜ是非曲直庁は吾輩を殺そうとする?」
「かわいらしい問いかけですね。その答えは一つです……我々の定義上あなたはまだ人間なのですよ、都良香」
 良香が腕に力を込めると、壁面にヒビが入る。クカカ、と笑い声が洞窟に響く。
「吾輩が人間か……人間か! 舐められたものだ。忌々しい閻魔め、鬼め、仏め、根の国の神々め! 吾輩はすでに老いを超越し、死を超克したはずだろう……吾輩は、超人のはずだァッ!」
 壁面を破壊した腕が四季映姫の首へと伸びる。四季映姫は抵抗しなかったが、その目は冷ややかだった。
「私を殺しますか? 愚かな。それこそ賽の河原の石を積む……いえ、崩すような徒労です。控えなさい、人間。貴女はすでに生きすぎるという罪を犯している。相応しい分を知るのです。そして我々のために働くがよいでしょう」

(ふん。御しやすいものだ。これで霍青娥を殺してくれれば仕事が捗るし、返り討ちで殺されればそれもよし。どっちみち生き残ったほうも、後ろから篁に始末させてくれる)
(……などと考えているのだろうな、この閻魔は。その策略に乗ってやるわ。この宮古芳香は違わず超人よ。小人の技、浅知恵などこの拳で粉砕してみせようぞ)
 かくして、都良香と霍青娥の戦いの場は整えられたのである。



 四



 ぎゃりりりりりり。森に奇怪な駆動音が響く。
 女が糸を曳くたびに唸り声は高まっていく。
「魔界工房産九五式回転鎖鋸……ご存じかしら、こちらはチェーンソーという道具です」
 体を捻らせて避ければ、後ろの巨木がバッサリと伐採される。
「この時代に持ち込んでいいシロモノじゃなかろうて!? 痴れ者が……かかってこい、相手になってやる!」
 ときは保元二年。後白河天皇の御世。二人の女が対峙する。
 邪なる女仙、霍青娥。大型の機械仕掛けを構え、不遜にも道祖神の大岩を足蹴にしもう一人を見下している。
 数百年を生きる怪人、都朝臣良香。小刀を構えて迎え撃つ。
「お得意の傀儡どもはどうした!? 貴様一人の身で吾輩に伍するとでも!?」
 強気な言葉とは裏腹に、良香は後ろ足を隠さない。大振りを繰り返す青娥相手に踏み込めないでいるのだ。
「ご安心を。貴女はここで殺しますので……逃げても構いませんよ? ……長期戦望むところですわッ」

 青娥が振りかぶった隙に小刀を投擲、さらに掌底を二発、後転の要領で顎に蹴りを入れる。しかし。
(硬い! まるで鍛えられた鋼、これが大陸の仙人なのか!)
 耐久力にものを言わせた捨て身の攻撃に、良香はビビッた。幾度と後ろに跳んで距離を取る。もとより青娥は得物を持っているのだから、悪手である。
(必殺だ。必殺せねばならん。……使うか)
 あのチェーンソーなる異郷の武器を受ければ、良香の肢体はたちまちバラバラになってしまうだろう。であるからこそこちらも捨て身の一撃を叩きこむほかない。
 良香はピンと両の腕をまっすぐ伸ばす。尋常の武技というのは身体をバネのように動かして瞬発力を得るものだから、脇を締めて腕をたたむ構えを取るものである。しかし良香の技は真逆である。
 良香は小手先の技量のみで瞬発力・破壊力を担保している。であるならば、腕は前に伸ばしておいた方が射程は伸びるのだ。そして良香の歩法はかつての天才藤原不比等の影響を受けている。
 声が届く距離すべてが必殺の圏内である。声が届く場所ならば殺しうる。己の詩の届く距離はすべて死界である。
「死ねい、霍青娥。我が必殺を受けて地獄に堕ちることを名誉と知れ……『天玄彌栄潮路』ッ!」
 良香は大胆に踏み込んだ。そして勝利を確信した。一つ一つが暴風がごとき風切りと打撃音が森に響く。
 止まらぬ連撃を受けた青娥の肢体にヒビが入る。まるで陶器が割れるように。入れ物が壊れるように。
「ふん、それが硬さの秘密か? 我が拳を受けて形を保っていることは褒め称えよう、しかし――ッ!?」

 ぽろり、ぽろりと。青娥の皮膚が剥がれていく。まさしくそれは陶器のように。顔の半分がひび割れて、その皮がこぼれ落ちた。良香は見た。青娥の中身は空洞であった。
「くき、くきき、きひひ。ひはは。ひゃは……お見事、お見事です。わたくしの外殻を壊すお方は……豊聡耳さま以来かしらねぇ……」
 ぽろり、ぽろりと。何かがこぼれ落ちる。外皮ではない。蟲だ。蟲が青娥の空洞の身体のなかからこぼれ落ちている。
(人は生まれつき三種の虫……すなわち三尸を体内に飼うという。だが……こ、これはッ!? ……数が、多すぎるッ!?)
 止まらない。虫が、蟲が、むしが。とまることなく青娥の体内より湧き出てくる。たちまち蟲は地を覆い、天を覆い、這って、這って、津波のように襲いかかる。
 良香は途端に逃げ出した。這いずり回って視界を埋め尽くす蟲たちをぶちぶちと、ぶちゅぶちゅと、踏み潰し握り潰し噛み潰しながら。
(まずいッ! まずいぞこれは……なんだあれは!? 殺せるのか!? 死ぬのか!?)
 ぎぃぎぃぎゃあぎゃあ。蟲たちは不協和音を掻き鳴らし、耳がつんざく。鳴き声しか聞こえない。蟲しか見えない。
(……是非曲直庁はあれすらも殺したがっているのか!? 地獄の定義ではあれが人間だと!? あんなものすら、あんな化け物すら人間の範疇だというのか!?)
 走る。駆ける。蟲が追いかける。

 良香は駆けた。数瞬のうちに一里、二里、三里。全力の跳躍をしてみせた。しかし蟲はとめどなく湧き続ける。
 どこからか声が響く。
「王手でございます、良香さま。貴女さまは大変素晴らしい……であるから、死体になればもっとすばらしいですわ♪ ぜひ、ぜひ♪ 死にましょう?」
 ふいに良香の足を何かが掴む。蟲ではない。これは人間の手だ。
 地面がボコボコと膨れ、土中から死体が這い出てくる。霍青娥の十八番、傀儡の使役である。
(……逃げ道を誘導されていたッ!? 死地に誘い込まれたッ……!)
「ここに集めたるはわたくしのお気に入りの死体ばかりでございます。どうかどうか! ご堪能くださいましィ♪」
 必死で拘束を振り解き、傀儡を蹴散らしていく。蟲たちを踏み潰していく。しかし死なない。減らない。視界を敵のみが埋め尽くしている。殺せど殺せど敵は減らない。
「ふ、ふざけるなァーッ! なんだこれはァッ! ……霍青娥ァ! 姿を、姿を見せろッ! 戦えッ! 吾輩と戦えッ! こんな、こんなものが認められるものかァーッ!」
 良香は海に埋もれていく。傀儡と蟲の群れの海。個は群に敵わない。人間である限り。矮小な人間である限り。
「ふざ、ふざけるなぁっ……! 吾輩はぁっ、わたしはっ、こんなところでっ……ぁ、ぁぁ……い、いやぁっ…………」



 五



「男が目覚めたとき、アッラーは問いかけました。『汝はいかほど眠っていたのか?』男は答えます。『一日か、一日の一部である』と。しかし男のロバはすでに朽ち果て、一方でイチジクはみずみしい果実を保っていました。かくして男はアッラーに帰依したのです……いかがでしょう閻魔さま? 都良香、たしかに殺してみせましたわ♪」
 四季映姫は絶句していた。天外である。しかし数巡のうちに、なんとか思考を立て直したようだった。
「ご苦労様です霍青娥。約定通り良香の屍肉は貴女に、魂は私に……そして向こう300年、是非曲直庁は貴女に追っ手を差し向けることはないでしょう」
 二回戦も歓迎ですわよ、と言わんばかりに霍青娥は殺気を隠さない。
「……ふん。大道に狼がいるとき、どうして貴様のような狐狸に構わねばならぬのか。是非曲直庁は忙しい。貴様はどこへなりとも消え失せるがいいさ、大陸の仙人よ」
 青娥は残念そうに、しかしにっこりと笑いながら衣服の裾を持ち上げて櫛を振るう。瞠目する間もなく、霍青娥は良香の死体ごと影に溶けて消えうせた。

「よろしかったのですか?」
「よろしいもなにも、あの蟲は殺せませんよ。弁えなさい、篁。我々は都良香すら殺せなかったのですから」
 四季映姫はもともと良香と青娥の両名に約定を持ちかけていた。どちらが勝っても保身は達成されるし、かなうならば漁夫の利を狙おうという魂胆である。
「……ですが、いつか殺します。アレの魂もわたしのものにする。手駒は多い方がいい。……我が大望、一切衆生がために」
「……一切衆生がために。この身朽ちるまでお供いたします」
「結構。小町を呼び戻しなさい。我々の仕事は多いのですから」

 四季映姫は二人を引き連れて、手の中で都良香の魂を弄びながら廊下を進む。
 なんとも。人間などというのは弱いものだ。拳仙と謳われようと、形を失った化け物だろうと。
 人が死ねば地獄は富む。我々は長期的に生きている。であるから、四季映姫は帰結的に己が勝利するのだと確信しているのだ。
生前の芳香ちゃんはいくら盛ってもいいらしいので、みなさんも盛りましょう。そして惨めに殺しましょう。
芳香ちゃんの死ぬシーンはもっとねっとり書きたい気持ちもありましたね。でもあっさり死んでこそじゃない?ってフォロワーに言われたのであっさり殺しました。

『天玄彌栄潮路』←かっこいい。
アルジャバル
https://twitter.com/Al_muftah_San
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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
4.100南条削除
面白かったです
芳香も四季映姫もカッコよかったです
5.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。青娥の底知れなさと昔の芳香の無頼派な感じが文体とかみ合っていて良かったです。