Coolier - 新生・東方創想話

何の為に戦う

2021/04/15 17:16:30
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「とっとと失せなさい妹紅!!」

「そっちが失せろっっ!!」

半月の輝く夜空の下、だだっ広い竹林の奥深くで、凄まじい声が響く。

それは、殺し合う彼女達の心の叫びだった。






藤原妹紅は、大きな恨みを持つ少女である。
その矛先は、まさに今殺し合っている相手、蓬莱山輝夜。



1300年程前。ある日、貴族であった藤原氏は、輝夜に恋をした。恋をしてしまった。
そして、求婚された輝夜は、藤原氏にとある難問を告げた。

しかし、彼がその問題を解くことはなかった。
それにより、藤原一家は大恥をかいた。
娘であった妹紅は腹を立て、それから輝夜を恨むようになった。

ある日、輝夜から送られてきた蓬莱の薬。
「輝夜を困らせてやろう」。そんな軽率な考えで、妹紅はその薬を盗み、飲んだ。



永遠に後悔することになるとも知らずに。






「ッぐ......!!」

喉の辺りが焼けるような感覚に見舞われ、輝夜は苦しそうに顔を顰める。いや、実際に焼かれたのだ。目の前の、妹紅というライバルに。
しかしすぐに再生したので、痛み以外は特に何も残らなかった。

「うわっ!?」

輝夜に近づいた拍子に襟元を掴まれ、妹紅は反射的に、両手で輝夜の腕を掴もうとする。
すると不意を突かれ、ガードのなくなった腹に思い切り蹴りを入れられた。

「ぐは...ッ.........!!」

一瞬薄れた意識の中で、丁度満足げにこっちを見て笑っている輝夜が目に映ったので、もう一度炎をお見舞いしておいた。





「勝ったわ」

「いいや、私の勝ちだ」

2人は地面にパタリと倒れた。
トサッと軽い音がした。

両者ボロボロ。どちらが勝ったのかさえも分からない。そもそも死なないのに、勝ち負けなどあるのだろうか。
そんな疑問は、彼女達の中で長年の間、存在している。

「明日も殺しに行くからな」

そう言い、妹紅はひょいと起き上がる。
そして、まだ倒れている輝夜に向かって、にいっと笑う。
輝夜も妹紅の方を見、ニコッと微笑んだ。

「待っているわね」

「ああ」







妹紅と輝夜が殺し合えるのは、同じ不老不死の蓬莱人だからだ。
怪我もしなければ病気もない。死ぬことも無い。
恨みを持った相手に、好きなだけぶつかれる。それも、永遠に。
これは、妹紅にとっての救いだ。

「なんだ、またボロボロじゃないか」

玄関で履物を脱いでいると、聞き慣れた声が聞こえてきた。その瞬間、妹紅は嬉しそうに振り返る。

「慧音!」

「こんばんは、妹紅」

いつものことに呆れながらも、一応挨拶はしておく慧音。
手元には1人分のおにぎりがあった。

「お腹空いただろう?今日の分だ」

「あ......ありがとう」



そんないつもの一日が終わろうとする。
本当に何の変哲もない、平和で、幸せな日々。

............幸せ?

妹紅は何かに気づいてしまったような気がした。
そんな違和感から目を逸らすように、その日は布団に潜り、寝てしまった。







翌日、妹紅は岩に腰かけ、遊んでいる妖精たちを眺めていた。
正確に言えば、遊んでいる訳では無い。
1匹の妖精が4、5匹の妖精たちにいじめられているのだ。
膝と肘を地面につけ、腕で頭をガードしている妖精。そして、彼女を蹴って嘲笑っている妖精たち。

妹紅はそれを見て、なんだか哀れに思った。
いじめている奴らは、なぜそんな意味の無いことをしているのか。
そしていじめられている奴は、自分の力がないばかりにそんなことをされて、悔しくはないのか。
どちらも、心の弱さが原因であることには違いない。

「その辺でやめとけよー」

妹紅が声をかけると、妖精たちは次々と散っていった。いじめられていた妖精も、おろおろと去って行く。

(いじめられても、力が及ばないから何も出来ないんだな)

本当に哀れだと思う。
意味のないことをして、何になるというのか。

途端、その言葉が急に胸に刺さった気がした。

意味のないこと。それは、輝夜との殺し合いも同じなのではないのだろうか。

確かに最初は、輝夜を懲らしめる目的で殺しにかかっていた。
だが最近はどうだろうか?
何のために輝夜と殺し合っている?

昨日の殺し合い直後、妹紅と輝夜はお互い笑いあっていた。憂さ晴らしだけの為だったら、こんな親しくないはずだ。
最近の殺し合いは、娯楽目的になっていないか?
そう考えると、妹紅の中で物凄い悔しさが込み上げてきた。




「妹紅、来てやったわよ!さあ今日も勝負を...」

「タンマタンマ」

急にそう言われ、輝夜は普通に困惑した。
いつも乗り気で来る妹紅が、こんな風に断るなんて。様子からしても、用事とは考えにくい。
かといって、蓬莱人は病気にはならないし、怪我もしない。
だから、妹紅がここで戦いを拒否した意味が、輝夜にはよく分からなかった。

ただ、妹紅はどこか、元気が無さそうだったのはよく分かった。
こんなんじゃ、勝負もままならない。輝夜は仕方なく、その日はそそくさと帰っていった。


殺し合うほど仲が良い。
そんな言葉が頭をよぎり、そして妹紅を更にイラつかせた。
輝夜は自分が憎んでいる相手。決して友人関係では無いのだ。それは、もう1000年以上も昔から自覚していたことなのに。
それなのに............それなのに...!

それからしばらく妹紅は、輝夜と殺し合いをしなくなった。







竹林を歩いていた。
本当に何でもない、ただの散歩。

それはそれは、本当に静かな夜だった。
妖精の声も、風の音も、そして輝夜の叫び声も聞こえなかった。
ただ、聞こえるものがあるとすれば......鈴虫の音色くらいだろうか。

ザッザッと、そこら中に落ちている竹の葉を踏み鳴らしながら、妹紅は歩く。

(どうせなら慧音も誘って来れば良かったかな......)

そんなことを考えながら、不完全な月を見上げたその時。

「妹紅」

背後から冷たい声が、妹紅の名を呼んだ。
妹紅は1回舌打ちし、面倒くさそうに振り返る。
何故こんな態度をとるのかといえば、相手が相手だからだ。
冷たく、軽く睨むように、妹紅は声の主を見据える。

「何の用だ、永琳」

妹紅を呼び止めたのは、八意永琳。彼女も、同じ不老不死の蓬莱人であり、輝夜の従者である。

「率直に聞くけど、何かあった?」

永琳は一切の躊躇なく、妹紅に問いかける。
妹紅は面倒くさそうにそっぽ向いた。

「お前には関係ねぇよ」

「輝夜がなんか心配してたけど、『妹紅が最近元気ないみたいなの』ってね」

妹紅は一瞬硬直した。
心配?いつも自分の手で殺していた相手のことを?自分に殴りかかってくる相手のことを?

「なんだそれ、アホらしいなっ、ははっ」

妹紅はそう言い、健気に笑った。
しかし、永琳は表情ひとつ変えず、妹紅のことをじっと見つめていた。
そして、今度はさっきとは違う、人としての感情の込もったような声で、妹紅に言う。

「私にはあなたが理解できないわ」

妹紅は何のことを言われているのか分からず、思わず首を傾げる。
永琳は続けて言う。

「永遠を生きる者のくせに、昔のことをいつまでもズルズルと引きずるの?これからもずーっと、過去に苛まれ続けるの?」

「......何が言いたい?」

「どーせ、何で自分が輝夜と殺し合ってるんだろうとか考えてたんでしょ」

永琳の言葉の矢が、妹紅の心臓部分を貫いた。
心がズキズキと痛む。図星を突かれたのだ。

「..................だから何だよ...」

妹紅は、消え入りそうな声でぼそっと呟いた。
今の彼女には、それが精一杯なのだ。
しかし、永琳はそこに気づいていながらも、見逃してくれるほど優しくない。

「何?もっと大きな声で言ってくれなきゃ分からないわ」

「...だから何だって言ったんだよ!!」

妹紅は半ギレ状態で、永琳に言った。
空間にぽっかりと穴ができたようだった。
しかし、妹紅がハッとしても、永琳は表情ひとつ崩さなかった。
それどころか、笑った。

「別に何も意見するつもりはないわ」

「じゃあ何で話しかけてきたんだよ」

「ちょっとだけ、暇つぶし」

「...何だよそれ.........」

妹紅は呆れたようにため息をつく。
本当に何を考えているのか分からない人物である。永琳は。
それも当然だ。何せ相手は、自分と比べ物にならない程の長い長い時間を過ごしてきた人物なのだから。

すると、不意に永琳は妹紅の方へ歩み寄った。
妹紅はほんの少しだけ後ずさる。

「あなたも大変ね」

2人の距離はどんどん近づく。
そして、その距離わずか30センチ辺りまで永琳が迫る。

「こんなに髪も白くなっちゃって」

永琳が、妹紅の髪を少しだけ持ち上げる。
そして、儚げに微笑む。

「それだけ長い時間、輝夜を追い続けてきたのね」

「何の真似だ」

「ねえ妹紅、何を考えていたのか教えて貰ってもいいかしら?」

永琳が問う。流石に妹紅も参ってしまった。
仕方なく、妹紅は話した。

「ああ、そうだよ、さっきアンタが言った通り、輝夜との殺し合いの意味について考えてた」

「それで、あなたの導き出した答えは?」

「......ただの娯楽と化してるなあって」

「で?」

「『で』って......」

妹紅が口篭る。
永琳は妹紅のことをじっと見据える。

「殺し合いは楽しい?」

「ああ、輝夜を潰しに行けるからな、凄く楽しい」

「ならそれで良いじゃない」

「お前は私が輝夜にどんな恨みを持っているのか、知ってるだろ......」

「だから楽しんじゃ駄目なの?そんな言い訳、ただの逃げも同然よ」

「お前なっ............!!」

妹紅はキレそうになった瞬間、腹部に物凄い圧と、痛みを感じた。そして驚く暇もなく、数メートル先まで吹っ飛んだ。


「......ったた、おい!永琳!」

「油断は禁物よ、気をつけなさい」

そう、妹紅は今まさに、永琳に腹を殴られ、ぶっ飛ばされたのだ。腹部にズキズキと痛みが走る。
そんな間にも、永琳はゆっくりと歩み寄ってくる。
太めの竹にもたれかかった妹紅は痛む腹に力を込め、ゆっくりと立ちあがる。

「こっち来るなっ......!!」

そう言うと、妹紅は永琳に向かって手のひらをかざした。その瞬間、永琳の身体は灼熱の炎に包まれる。中から「あちっ」と、小さく声が聞こえたような気がした。
だがその途端、永琳は炎の中から飛び出し、再び妹紅に殴りかかった。

「来るなっ!!!」

妹紅はそう叫ぶと、永琳の攻撃をギリギリで躱した。

永琳の拳が、竹にめり込む。
その竹は、メギャ、と音を立て、永琳の手首ごと飲み込んでいく。一方で、砕けた竹の破片の刺さった永琳の手首から、血が流れていく。

永琳は軽々しく、自分の手を竹から抜き取ると、反対の手で患部をさすった。
だが、そこに残っているのは血のみ。傷は一瞬でリザレクション。

「............何の真似だ?」

妹紅は怖気づきながらも、永琳に向かってそう問いかけた。
その声に反応した永琳が、妹紅のことをじいっと見つめる。そして、不敵な笑みを浮かべる。

「私に言い負かされるのが悔しかったら、私に勝ってみなさい」

「何だよそれっ......!!」

今度は妹紅が永琳に殴りかかる。
だが、なんと永琳は避けることなく、妹紅の拳を両腕で受け止めたのだ。

妹紅はニヤリと笑う。
そして、ガラ空きになった永琳の腹部に、思い切り蹴りを入れた。

「かはっ......!!」

「どうだ?お前の姫様に教えて貰ったんだ、この技」

妹紅は挑発げに親指で永遠亭の方を指さす。
そして、腹部を押さえ込み、その場に跪く永琳の目の前に立ち、ニィ......と笑う。

だが、ふと妹紅の方を見上げた永琳の表情は、一切変わっていなかった。
さっきまでと同じ、凛とした笑み。妹紅は、もはや恐怖を覚えつつあった。

そんな間にも、永琳はひょいと立ち上がり、今度は妹紅の顔面に、思い切り拳をかまそうとしていた。

流石に顔面は痛いので、妹紅はそのまま左にずれ、攻撃を躱す。
だが、安心したのも束の間。すぐさま永琳は、常人を超越したスピードで、くるりと向きを変え、反対の手で妹紅に殴りかかってきた。

「ッあっぶな......!!!」

妹紅は咄嗟にしゃがみ、再び、ギリギリで攻撃を躱す事に成功した。

普段は弓矢を使っているくせに、肉体戦も強いとは......。なんて奴だ、と妹紅は思う。

「避けるのは得意みたいね」

「......」

「まあ、輝夜はいつもこれに......」

「うるさいっ!お前に何かを言われる筋合いはない!!
私がっ......父上の恨みは、私が晴らすんだ!!」

そう言い、妹紅は右腕に炎を纏うと、そのまま永琳に殴りかかる。
流石の永琳も熱いのは嫌だったのか、今度は受け止めることなく、横にずれて攻撃を躱した。

「死ぬことのない蓬莱人を相手に、何を言ってるのかしらね!」

「それ以上言うなぁっ!!!」

妹紅は身を翻し、そのまま左足で永琳に蹴りを入れようとするが、しゃがみ込まれたせいで、失敗してしまった。

それどころか、妹紅は隙だらけになった背中に思い切り蹴りを入れられ、再び数メートル先までぶっ飛んだ。






あれから、どれ程の時間が経っただろうか。

疲れ果てた妹紅は、どさりと地面に、うつ伏せに倒れ込んだ。

「あ〜......冷たくて気持ちいい」

「全く、はしたないわよ」

永琳も妹紅と同じように力尽き、近くの岩に力なくもたれかかって座っていた。
どちらも、身体からずるずると力が抜けているようだった。

「クッソ......手加減したな、お前」

妹紅は恨みがましく笑いながら、永琳のことを見つめる。
永琳はただクスッと笑うだけで、何も言わない。

二人とも、既にボロボロだった。
服もそこらじゅう裂けたり破けたりしているし、身体のいろんなところから血を流していた。
それなのに、傷はひとつも付かないものだから、本当に奇妙で笑えてしまう。

「......妹紅、今の楽しかった?」

「いや、全然」

「そうよね」と、永琳はくすっと笑う。

「そもそも、輝夜は蓬莱人なんだから、殺せるわけがないのよ。それなのに父親の仇だなんて、矛盾にも程があるわ」

永琳は笑いながら、自分の髪をくるくると弄っている。

「......で?だから何だ」

「つまり、あなた達の殺し合いは、父親の仇討ちでも何でもない、ただの娯楽なのよ。あなたの言った通り」

「......」

「ほら、私と戦っても楽しくないのに、輝夜と戦う時は楽しいって、あなたも言ってるじゃない」

つまり、妹紅たちの殺し合いは、楽しいと感じてしまった時点で娯楽と化していたと。
父の仇討ちは、輝夜が不老不死である時点で、既に不可能だったと。

妹紅は、現実を突きつけられたというより、ばっちり言い負かされてしまったように感じた。
よりによって、ライバルの従者という存在に。

言い表しようのない悔しさに襲われた妹紅は、永琳を半眼でじいっと見つめる。


「はぁ......なんか、アンタのせいで目が覚めたような気がするよ」

妹紅はうつ伏せの状態からごろんと横に転がり、そのまま仰向けになった。
すると、竹の葉の隙間から差し込む月光が、妹紅の顔から足元までを明るく照らしだした。

「んえぇ......」

眩しそうに目を細める妹紅を見て、永琳はくすっと笑みを零した。









半月の輝く夜空の下、だだっ広い竹林の奥深くで、凄まじい音が響く。

「はぁー......今日の戦いも一段と激しいなぁ」

永遠亭の縁側で、無数の弾幕に見惚れている鈴仙を見て、永琳はふふっと笑った。



もこえーりんの殺し合いが書きたくて……
澪音
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コメント



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1.20名前が無い程度の能力削除
面白くなかった。
3.100南条削除
面白かったです
ひょっこりでてきた永琳が思いのほか熱くて驚きました
妹紅と永琳が戦うというのもなかなか見ない組み合わせなので楽しかったです
4.60めそふ削除
えーもこのバトルってのが新鮮でした
ただちょっと描写が不自然なところがあったなぁとは思いました