Coolier - 新生・東方創想話

青娥からの手紙

2021/02/03 20:09:05
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 「マジでムカつく!」神霊廟の一室、十七畳ある部屋──通称『十七畳のお座敷』──に、布都の声が怒声が響く。「あの阿魔め、我を見下しおって!」
 部屋には他に屠自古がいた。屠自古は手を頭の後ろに組んで、仰向けに寝ていた。
 「そうかりかりすんなよ」屠自古は布都をなだめた。これで一万回目くらいだ。「青娥にも悪気があったわけじゃないんだ。だろ?あいつにだっていいところはあるんだし、そういうところを見てやろうぜ」
 「悪気がないのがムカつくんじゃ!」布都は落ち着きなく部屋をぐるぐる回る。まるで衛星みたいに、見えないなにかの周囲をぐるぐると回っている。「くそ、あいつめ、ちくしょう、くそったれ!あやつにいいところなんかあるもんか!」
 屠自古は口に指を当てて思案した。青娥のいいところを一つでも捻り出したやつが勝ち、というルールの遊びが成立するくらい、客観的に見た青娥のいいところというものがない。

 「そんなにムカつくんならさ、またハメてやりゃいいじゃん。わたしのときにしたみたいにさ」
 「おまえも大概だな!やめろ、無邪気に過去を抉ってくるの!我が心を痛めてないとでも思ってんのか!」
 「痛めたの?」
 「ぜんぜん」
 屠自古が笑い、布都が笑った。部屋を包み込むムードが、少しだけ和やかになった。雷鳴が轟き、光が一閃した次の瞬間に、布都は黒こげになった。
 
 騒ぎを聞きつけたのか、神子があくびを噛み殺した顔で入室した。黒こげの布都に一瞥をくれ「またか」というように首をコキコキ鳴らした。聡明な神子の頭の中に、瞬時にチャートが組み上がる。
 「また青娥と喧嘩したのかい」
 喋れない布都に代わって、屠自古が返事をした。
 「新しいボードゲームを青娥が持ってきたそうなんですけど、それのルールが複雑みたいで。布都がぜんぜん覚えられないから、青娥がキツく言っちゃったみたいなんです」
 「ほう」神子は寝癖を整えながら、「『なんでこんなこともできないんだ』とか?」
 「そうです」
 「『それ、さっきも言ったよね』とか?」
 「ええ」
 「『大学行ってたんだよね?』とか?」
 「はい……よくわかりますね」
 「心当たりがあるからな。わたしも、人に教えるのは向いてないってよく言われたよ」
 指導者という立場は、まず教えられる側の立場になって考えなくてはならない。自分にできることが、相手も必ずしもできるわけではないということを理解しなければ、よい師弟関係というものは生まれないのだ。神子は遥か昔にそれを理解し、いまでは指導者として立派に役目を果たしているが、青娥の方はとんとダメダメであった。
 
 「ムカつくのです」いつの間にか復活していた布都が神子に泣き付く。「太子さまにそう言われるのならぜんぜんいいんですけど、青娥とかいう社会不適合者にそんな風に言われるのがムカつくのです!」
 「青娥がムカつくってことには全面的に同意するけど、それなら一緒に遊ぶのをやめたらいいじゃないか」
 そうだ、そうだ、と屠自古が同調する。
 「お言葉ですが、あれは遊びなどではないのですよ」神子と屠自古は顔を見合わせた。「あれは互いの自尊心をかけた決闘なのです。将棋しかり、囲碁しかり、オセロしかり。勝った方は相手の人格をけちょんけちょんに貶せるんですよ。青娥のあの悔しそうな顔を見るだけで、我はごはんを三杯は食えますね」
 「あっそ」神子は興味なさそうに頷いた。「じゃ、好きにしてくれ」
 「そんならさ」と、屠自古。「命をかけた決闘をすればいいんじゃないか?格下だと思ってる相手に殺されたらすごく不愉快だろ?絶対に青娥が勝てない勝負を挑んで、やっちゃおうぜ」
 「物騒だな、さっきからおまえは!なにが『そんならさ』だ、おぬし、内心では我が青娥どのを亡き者にしてくれればいいとか踏んでるんじゃないのか!」
 「……」
 「マジか」

 三人がやいのやいの言い合っていたら、また襖がピシャリと開いた。全員の視線がそっちに向いた。
 「おー、みんないた」芳香だった。「ね、ね、せーがから手紙を預かってきたよ。布都宛てだって!」
 嫌な予感がしたのは布都だけだった。青娥がわけのわからないことをしだしたら、関わり合いになるのを避けるに限る。神子と屠自古はすっかり自分の領分に帰り、それぞれがそれぞれのやるべきことをやり始めた。神子は読書、屠自古は瞑想ってな具合に。

 芳香から手紙を受け取ると、布都はそれを読まずにビリビリに破ろうとした。無駄だった。なにか特殊な術がかけられていて、紙は紙とは思えぬ強度に仕立て上げられていた。布都は観念して封を開けた。
 
 『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……』
 
 「……」
 「あ、間違えた。そっちじゃなくてこっちだった」
 「だれ宛のと間違えたのじゃ⁉︎」布都は手紙を突き返した。
 「それ、わたしが書いたやつだった」
 「だれに送るつもりだったんだ!」
 「ほい、これ」
 布都はあらためて手紙を受け取り、封を切って中身をたしかめた。
 
 『明日の夜、里の鯨呑亭というお店でお待ちしてます。愛しの青娥より』

 布都は、青娥直筆の手紙に火をつけて消し炭にしてやりたい衝動に駆られた。特に『愛しの』という部分。『愛』という字の中にある『心』の部分がハートっぽく書かれていた。
 「青娥どのはなにをしておるのじゃ?」
 布都の質問に、芳香はへらへら笑うだけだった。わからないという意味なのか、教えられないという意味なのか、思い出せないという意思表示なのかは判別がつかない。いずれにせよ、ろくでもない用事なのはたしかだ。だいたい、なんで手紙なんだ?呑みに行きたいから、直に誘えばいいではないか。
 
 「行くのか?」悟りの境地に至ったか、それを諦めたかした屠自古が手紙を覗き込む。「行くなら手を貸すぜ、どう攻める?」
 「おぬしはもう殺意を隠そうともしないな!」
 「やめといた方がいいんじゃない」と、神子。「特に根拠はないけど、なんか危なそうだし」

 布都は考えた。考えるまでもないが、青娥の誘いにホイホイついて行くのは救い難い愚か者だけだ。だけど、と思う。青娥はたしかにどうしようもないやつだけど、常識が一切ないわけではない。むしろ幻想郷じゃ弁えてるほうだ。その青娥が他のお客さんもいる居酒屋で蛮行に走ったりするだろうか?
 と、芳香が布都の裾を引っ張った。
 「せーがね、わたしにこの手紙を預けたとき、すごくニコニコしてたよ。すごく楽しそうだった!」
 芳香が付け足したその情報は、むしろ鯨呑亭に行く気を削ぐものだった。あやつがニコニコしていないときなんか、自分との決闘に負けたときくらいのものではないか。

 布都は考える。誘いに乗った場合になにが起こるかは見当もつかないけど、誘いに乗らなかった場合になにが起こるかは、おおよそ見当が付く。
 「……行きます」
 布都がそう言うと、神子と屠自古がマダガスカルの珍しいキツネでも見たような面になった。芳香ですら驚いて目を見開いている。
 「やめた方がいいよ、せーがだぞ?なにされるかわかったもんじゃないよ」
 「おぬしはどの立場にいるんじゃ!」
 「心配してやってるのに!勝手にしろよもう!死ね死ね死ね死ね死ね死ね……」
 「どうなってんだ、おまえの情緒!急に腹でも空いたのか!」芳香の腹が、ぐう、と鳴った。「マジか」

 「でも、本当になんで行く気になったんだ」と、芳香に食べかけのどら焼きを与えながら屠自古。「手紙に、読んだ人間を洗脳する術でもかけてあったのか?」
 「そこまで疑われると青娥どのがちょっと不憫!」
 「じゃあ、なんで?」
 神子が尋ねると、布都はちょっと躊躇いがちに答えた。
 「行かなかったら行かなかったで、煽られそうで……」
 「……ああ」


 翌日。夕方頃に外に出た布都は、友達の雲居一輪と鯨呑亭とは別の居酒屋に入って酒を飲み交わしていた。
 「ふうん」十分ほどで日本酒の一本目を空けてしまった一輪・ザ・ろくでなし僧侶。「じゃあ、今日はこれからその青娥とかいうド畜生女狐と呑むのね」
 「うん。まあそうなんだけど。話に聞いただけなのに、なんで青娥にそんな攻撃的なんじゃ……?」
 「こんなところでわたしと呑んでていいの。これから呑むんでしょ?平気?ちゃんと鯨呑亭まで行ける?」
 「我はおぬしが寺にちゃんと帰れるかが心配じゃよ。そんなに酔っ払って帰ったら、あの筋肉僧侶にめちゃくちゃ怒られるんじゃ……」
 「へーきへーき」と、一輪は酒をバカスカ飲みまくる。「わたし、もう半分くらい諦められてるからさ」
 「なんで仏教やってるんじゃ、おぬしは!」
 と言いつつ、布都も酒をあおった。
 
 「くそ、飲まなきゃやってられん。青娥どのとサシ呑みなんか……」たん、とグラスをテーブルに叩きつける。「卑怯じゃ、あやつは。あんな誘い方をしたら断れないに決まっておる!誘いに乗れば鬼が蛇が出るかわからないし、逃げたら逃げたで煽られる(※そうと決まったわけではない)し!」
 「ね、布都。わたし、今日はなんのために呼ばれたの?」妙に甘ったるい声で一輪が尋ねた。
 「ん?ああ……作戦じゃよ」
 「作戦?」
 「うむ。万が一輪、青娥が我を罠にハメようとしたら、おぬし、助けてくれんか」
 「わたしの名前と『万が一』をくっつけんな。……なに、そんなことのために呼び出したの?」
 不機嫌そうに眉間にシワを寄せる一輪。心なしか、酒を飲むペースも早くなっている。
 「我は青娥の誘いにまんまと乗せられたように振る舞う。で、やつがなにか仕掛けてきたら、おぬしの出番じゃ。さしもの青娥と言えど、我が伏兵を連れてるとは思わんじゃろ!よいか、おぬしは最初、我と他人のフリをして店の中に……」
 
 と、一輪がいきなりテーブルに拳を打ち付けた。ダンッという音とともにテーブル上の食器類が一瞬浮き、店の中が静寂で満たされた。
 「なによ、それ?」
 「え?なんでキレてるの?」
 「わたしとあんたが他人って……わたし達、そんな水臭い関係だったの?」
 「いやいやいやいや、だから……それは作戦で……別に我とおぬしはそんな関係じゃないっていうか……」
 「そんな関係じゃないって、どういうことよ!」
 「めんどくせっ、こいつ!」酒臭い息を荒げながら追求する一輪の顔を押し戻す。「落ち着け、一輪。だから、我とおぬしはそんな水臭い関係じゃないって……」
 「あんなに熱い夜を一緒に過ごしたというのに!」
 「誤解されるような物言いはやめろ!一緒にマリオカートやっただけじゃろ!」
 静寂を取り戻したはずの店内が、ざわざわと色めき立つ。一輪が当夜の白熱したデッドヒートの模様を、「キノコ」とか「イカ墨」とか「なんとかカップ」とか交えながら話すものだから、余計に奇異の目にさらされることになった。
 さんざん喋り倒した一輪が酔い潰れて眠ってしまったので、布都は料金をテーブルに置いてそそくさと店を出た。
 
 
 すっかり夜も更けていたので、布都は青娥の待つ鯨呑亭へと向かった。足取りは重く、その上に千鳥足とバッドステータスを二つも抱えた状態であったが、なんとか店にはたどり着けた。客の入りは盛況で、立錐の余地もないくらい人で溢れてはいたが、布都はなんとか座敷に座ることができた。
 ──てゆーか、青娥どの、まだ来てないのか……

 そう、青娥は店のどこにもいなかった。手紙には正確な時刻は書かれていなかったが、時間的にはちょうどいいくらいだ。先に帰ったというのは考えにくいが、一応、店の看板娘が注文を取りに来た際に尋ねてみた。
 「一見、柔和で温厚そうに見えるけど、その実、腹黒くてヤバそうな人、ですか?ごめんなさい、特徴がちょっとわかりにくいんですけど……。え?見たらわかる?じゃあ、見てないです……」
 看板娘に礼を言い、布都はつまみだけ注文した。酒なら既に入っているし、青娥が来てからも呑むことになるのだから、ここは余裕を持っていた方がいい。

 しかし……待てど暮らせど青娥は現れない。三十分待っても来ないし、一時間経っても来ないし、二時間待っても現れないときには、さすがの布都も青娥の意図に気づいていた。
 「ふふ……そういうことか」布都は独りごち、待ちぼうけ三十分目あたりから頼み始めた酒をグイッとあおった。「騙されたんじゃ、我は」
 布都の目に涙が溜まった。はじめから青娥は店に来るつもりなどなかったのだ。団体客で盛り上がる店に一人で放置するというのが、今回の青娥の試みらしい。邪悪すぎる。あまりに悪魔じみた所業だ。団体客に挟まれて一人で飲む酒ほど寂しいものはない。だからいつも家で飲むんだ。

 やがて他の客も掃け、店の主人も奥に引っ込むと、本格的な孤独感が布都を襲った。深淵のような悲しみに包まれながらも、布都はさらに酒を飲んだ。
 「お客さん、大丈夫?呑みすぎじゃない……?」
 看板娘の優しさが心地よかった。その優しさにもっと溺れたくて、布都は酒を呑みまくった。が、青娥の意図に気が付いた布都が、とっとと店を出ないのは、看板娘の優しさが理由ではなかった。意地になっていたのである。青娥が我を騙して怒らせるつもりなら、こっちは悲しみのドン底にまで沈んでやる。ドン底にまで沈んで、青娥とみんなが居合わせてるときに目の前で泣いてやる。ことここに至っては、布都にできるのはそれくらいだった。ちくしょう、涙が止まらない。

 気がつけば、看板娘相手に青娥の悪口を捲し立てていた。『霍青娥にぶつけられる悪口辞典』が作れるほどに、彼女へ向けられる痛罵は数多い。
 「あらあら、かわいそうに……」看板娘は底無しに優しかった。布都の悲しみも底無しに変わってしまうほどに。「酷いわねえ、その人」
 「酷いなんてもんじゃない。あやつが生きてる限り、この世に生存するすべての小動物に平穏は訪れないのじゃ。この前だって、寺子屋に通ってる子供が飼ってた犬を──」
 「そんな人のこと、忘れちゃえばいいんじゃない?」
 「え……」
 「だって、お客さん、その人にこんなに悲しい目に遭わされて……」と、看板娘が身を乗り出し、布都の目を覗き込んだ。「本当にかわいそう、かわいそう……忘れてしまいなさい……」
 鯨呑亭の看板娘ってこんなキャラだったっけ、布都の中に芽生えた疑問は、しかし、彼女の蠱惑的な声のトーンに掻き消されてしまった。
 青娥の顔、声、自分のことを悪党とも思わない性格、その性格から行われた数々の悪行。そのすべてが布都の記憶から抜け落ちていくようだった。しかし、同時に確信めいたものも浮かび上がってくる。鯨呑亭の看板娘は絶対にこんなキャラじゃない。
 
 「……おぬし、青娥じゃな」
 薄れる意識の中で、布都はどうにか声を絞り出した。看板娘は驚いたように身を引いた。
 「顔や声は変えられても、内から滲み出る邪悪なオーラまでは塞ぎ込めんかったようじゃな」
 看板娘はうろたえる素振りも見せず、ただ、じっと布都のことを見据えている。
 二人はしばし見つめ合い、やがて看板娘の方が相好を崩した。それを見て、布都も破顔した。
 「……バレてしまっては仕方がありませんわ」
 と、看板娘が自分の顔の顎あたりに手をかける。すると、指がズブズブと顔の中に入っていくではないか。いわゆる肉じゅばんというやつなんだろうけど、そのグロテスクな光景に肝を潰した布都は、座敷から転げ落ちてしまった。
 
 「そんなに驚かなくてもいいじゃありませんの」
 「いや、仙術かなんかで顔を変えてると思ってたから、まさかそんなありきたりな方法でやってたとは……」
 布都は座敷に座り直した。すっかり客の退けた鯨呑亭の店内は、祭りの後みたいに寂しい雰囲気が漂っている。
 「なにが目的じゃ、青娥どの」
 青娥はあの鼻持ちならない笑みを浮かべながら、布都をじっと見つめていた。かと思いきや、いきなり目を逸らし、頬をポッと赤く染めるのだった。布都は、青娥の妙にしおらしいこの態度を初めて見たのだが、だからといって驚いたりはしなかった。この女は、きっと自分の目的のためならどんなにしおらしい態度だって取るだろう。布都は気を引き締め、周囲への警戒を怠らず、青娥の動向から決して目を離そうとしなかった。

 青娥が口を開いたのは、それから少し経ってからだった。
 「聞いちゃったんです」
 「え?」
 「その、布都ちゃんとか、屠自古ちゃんとか、豊聡耳さまが、わたしへの悪口で盛り上がってるのを……」
 「……」
 「わたしってそんなに嫌われてるんだって思うと、ちょっと寂しくなってしまって……」
 嘘をつけ、騙されんぞ、布都は喉元まで出かかっていた青娥の人格を全否定するような言葉を、しかし、吐き出せないでいた。
 「布都ちゃん、わたしがキツいことを言ったことで、すごく傷ついていたみたいだったから……その……」
 どうせ『その』の後にはろくでもないセリフが続くんだろ。布都は身構える。
 「布都ちゃんにどうしても謝りたくて……」
 「なんだと、コラ!──って、え?」
 青娥は俯き、テーブルの一点を見つめている。そこには、さっきまで看板娘の格好をしていた青娥が飲んでいたグラスの作った透明な輪っかがあった。
 「わたし、正直になれなくて。でも布都ちゃんに嫌われたくなくて……今回みたいなやり方で、わたしのやったことを忘れさせようとしたの」
 「それはちょっとどうなんじゃ。我、おぬしのやったことどころか、おぬしの存在まで忘れかけてたぞ」
 「それは……その、布都ちゃんのおつむの方に問題があったというか」
 「甚だ失礼だな、貴様は!」
 「ごめんなさい。いままでのことも、ぜんぶ謝るわ。だから……許してはくれないかしら?」

 青娥は布都を真っ直ぐに見つめ、青娥の口から絶対に出てくることはないだろうと思わ!ていた言葉を口走った。
 布都はお猪口に残っていた酒を干した。胃の中を熱が迸った。それは怒りや怨恨とは無縁の熱だった。なんなら、その熱さえすぐに冷めてしまった。
 布都は言った。
 「やだよ」
 「……」
 「なんかいい感じに許されようとしてるけど、悪いもん、おまえ」
 「……」
 「首尾よく我が記憶をなくしたら、それで済まそうとしてたじゃん」
 青娥はニコニコしていたが、一瞬、口の端が歪に歪み、チッ、と鳴った。その舌打ちをきっかけに、青娥のまとっていた分不相応な清楚系オーラが、店の中の酒臭い空気と弾けて混ざった。
 
 「よく言った、布都!」
 入口の戸がガラリと開き、闖入したのは蘇我・青娥デストロイヤー・屠自古であった。
 「うわ、出た!」
 「いまこそ積年の怨みを見せつけてやるときだ!」
 青娥の抜き差しならない瞳が、屠自古の方を向いた。「わたし、なにかしましたっけ?」
 「わたしが楽しみに取って置いたどら焼きを食っただろ!」
 「おまえの積年、薄ッ!」
 布都は屠自古の雷を躱しながら店を出た。雷光迸る店内で、青娥がどうなったかは知る由もないし、知りたくもない。
 ただ、わかったことは、芳香がしたためたあの呪咀が書かれまくった手紙は、きっと青娥宛てだったということ。それから、鯨呑亭の本物の看板娘は、拘束された状態で、店の裏で凍死寸前で発見されたということくらいである。
精進します
いびでろ
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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
面白く良かったです
2.80名前が無い程度の能力削除
蘇我・青娥デストロイヤー・屠自古
3.90名前が無い程度の能力削除
面白かったデス
4.50夏後冬前削除
何というかこう、こういうどうしようもないクソみたいな人間模様が好きでした
5.100名前が無い程度の能力削除
布都ちゃん可愛いです
6.100めそふらん削除
布都が可愛かったです
7.100Actadust削除
振り回される布都ちゃん可愛いです。
8.100南条削除
面白かったです
青娥が犬をどうしたのか気になりました
爆竹でしょうか
9.100名前が無い程度の能力削除
布都ちゃんだってそんな毎回騙されてばかりじゃないんだなぁ。よく見破ってくれたとほっとしました。
布都ちゃん可愛かったです。青娥は黒焦げになってしまえばいいと思う。
10.100名前が無い程度の能力削除
全員が全員どうしてそんな小気味良い性格をしているんだ…大好き。
あと美宵ちゃんの服を着込んだ青娥はちょっと見てみたいかもしれませんねぇ!?