Coolier - 新生・東方創想話

爆竹

2021/02/01 10:03:22
最終更新
サイズ
5.42KB
ページ数
1
閲覧数
441
評価数
8/11
POINT
910
Rate
15.58

分類タグ

 神霊廟の一室、十七畳ほどある部屋に神子、布都、そして青娥が一堂に介していた。理由はない。布都は携帯ゲーム機で遊んでいるだけだし、青娥は客観的に見て邪悪な試みを企てているだけだけど、神子に関して言えば、なにやらそわそわしていた。そのそわそわのせいで布都はゲームに集中できず、本来ならなんでもないところでミスを連発した。

 「太子さま、なにかあったんですか」
 痺れを切らした布都が、心ここにあらずと言った様子の神子に声をかけた。が、神子はそわそわするばかりで、返事をしなかった。なにか知っているのではないかと思い青娥の方をチラリと見たが、青娥は思い出したように掌をポンと叩くだけだった。
 「太子さま?」
 が、また返事がない。布都は、ゲームでミスしまくったのもあってイライラしていたので、火のつくような舌打ちをかました。なにが豊聡耳だ。こんなに近くで声をかけてんのに、ぜんぜん聞こえないじゃん。
 と、その舌打ちが神子を現実に引き戻した。まるで呪いが解けたようだった。自分がどこにいるのかもわかっていないみたいだ。

 「太子さま?」
 「んあ、布都?」
 「大丈夫ですか、様子が変ですけど」
 神子は思案顔になった。その表情は、幻想郷の愚かな群衆を惑わす算段を立てているときのそれだった。すごく真剣という意味だ。
 神子が言った。
 「ぜんぜん平気だよ」
 「……」

 そうですか、とだけ言って布都はゲームに戻った。布都のプレイしているゲームは、初見では絶対にクリアできないけど、やればやるほど知識と技術がついて次第にクリアできるようになってく大器晩成型のゲームだった。かれこれ一万回ほど同じステージで試行を繰り返しているが、いまだに見通しは暗い。クソゲーかも、と布都は思いはじめていた。なんと言っても霍青娥が仙術で生み出したゲームだし。
 と、神子がまたそわそわしだした。途端、画面上のキャラクターの操作が覚束なくなる。シングルタスクなのだ。一つの気がかりが、実行中のプログラムに著しい影響を与えてしまう。気がかりさえなければ、普段の布都は神子に負けず劣らずの抜け目なさを発揮するのだが。

 「太子さま?」布都はゲーム機を畳の上に置き、尋ねた。「なにか気になることでもあるんですか?あるならあるでさっさと言ってくださいよ、我もそんなに暇じゃないんです」
 「暇じゃないって、きみ、ゲームなんかやってるじゃないか」
 「我がいつ暇で、いつ忙しいかは自分で決めます」
 神子は、なに言ってんだこいつ、的な顔をしたが、布都の断固とした態度には折れざるを得なかった。
 「いやね、今日ね、実は驪駒と会うことになってるんだよ」
 布都は記憶の抽斗の中を探った。驪駒、驪駒、驪駒……果たしてそれが、神子がはるか昔に可愛がっていた馬の名前だということに思い至った。
 「へえ。生きてたんですか」
 「いや、死んでたよ」神子の声音が驪駒の死という事実に引っ張られてちょいと下がる。「でも、地獄で元気にやってたんだ」
 あり得ることだ、と布都は思った。幻想郷では。
 「驪駒、地獄でヤクザやってた」
 あり得ることだ……いや、あり得るかな、布都は迷った。
 
 「大丈夫なんですか、ヤクザって」
 布都が当然の疑問を口にした。
 「平気、平気。わたしへの忠誠は変わってなかったよ」
 「いや、そうじゃなくて。ヤクザなんかと会って大丈夫なんですか。世間体というか……」
 「政治家とヤクザは切っても切れない縁なんだよ」
 あり得ることだ。ここが幻想郷じゃなくても。
 
 「それに、邪悪さで言えば青娥の方がよっぽどだしね」
 神子はちらりと青娥の方を見た。青娥は梨の礫を決め込んでいる。
 「ここ最近、あいつがなにしてたか知ってる?」
 布都はかぶりを振った。
 「あいつ、最近、近所の野良猫に餌やってて『いいとこあるな』って感心してたんだけど、昨日、その猫の尻を爆竹で吹き飛ばしてたんだ」
 「うわあ」
 「無駄に生き物を殺すなって説教、説いたらさ『無駄じゃありませんわ。爆竹の威力がわかりましたもの』だって。なんに使うつもりなんだ、爆竹なんて」
 「中国では魔除けに爆竹を使うんですよ〜」と、いままでだんまりを決め込んでいた青娥が口をきいた。
 「きみにはあの猫が牛鬼蛇神の類に見えたのか?妄想に取り憑かれてるんじゃないの、周りのものがぜんぶ自分を殺しにくる魔物に見える妄想に」
 「昨日のは威力の偵察をしただけですってば」
 「ね?こんなこと言うやつと常に連んでるんだし、いまさらヤクザと会うことくらいどうってことないのよ」
 
 あまりの説得力に、布都は感嘆の声を漏らしそうになった。ゲームに伸びかけた手を引っ込めて、布都は再度、質問をした。
 「で、なにに悩んでたんですか。驪駒がヤクザでも構わないなら、別に悩むことなんてないでしょう」
 「そうそう。驪駒がさあ、めちゃくちゃ美人になってるのよ」
 「……」
 「それでさあ……その、出会茶屋を予約しちゃったんだよね」
 「しっぽりいくつもりですね」
 「そうなんだ」
 「屠自古にバレたら雷が落ちますね」
 「くそ」

 布都はゲームに戻った。神子がこのように屠自古以外の女と出会茶屋にしけ込むのは珍しいことじゃないし、愛に対する不誠実さが原因で屠自古に雷を落とされるのも珍しいことじゃない。酷いときには、一度に十人の女と関係を持っていたことがあった。
 神子曰く、スピノザとかいう哲学者曰く、こうだ。
 「人間っていうのは情熱に支配されてるときは囚われの身で、理性に支配されてるときは自由なんだ。理性の伴う恋愛なんか、恋愛って呼べる?いや、呼べない。わたしは常に囚われの身なんだ。つまり、わたしも覚悟を持って恋愛をしてるってことなんだよ」
 神子の熱弁の結果として、屠自古から強烈な雷を落とされた。神子は青娥のことをとんでもない悪党だと嘯くけど、あんたも相当だよ、と布都は思った。

 聖徳太子の伝説に、一度に十人の話を聞ける、というのがあるけれど、これはかなり信憑性がある。一度に十人の話くらい聞けなければ、十股なんかかけられないだろう。だれがなにを言ったかちゃんと記憶し、整理し、整合性を保つためにはそれくらいできなくてはダメだ。

 まあ、傷つくのは自分じゃない。指を動かしながら、布都は考える。太子さまがだれとなにをしようが、傷つくのは糟糠の妻である屠自古なのだ。自分には関係ない。
 「いや、でも、驪駒なら屠自古も許してくれるんじゃないかなぁ〜」
 「……」
 いつの間にか部屋から青娥がいなくなっていた。外で爆竹がパンパン鳴ったが、この部屋の『魔』が祓われることはなかった。
 
精進します
いびでろ
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.140簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
面白く良かったです
2.100名前が無い程度の能力削除
くそじゃねえんだわ
4.100めそふらん削除
なんか面白かったです
5.100夏後冬前削除
自分の旦那が愛馬としっぽり決め込んでたらどんな嫁でも仰天するんだよなぁ
6.100名前が無い程度の能力削除
欲に塗れていて良かったです
7.100名前が無い程度の能力削除
ふとちゃんシングルタスクなのか
太子様を見習えよ
9.100南条削除
面白かったです
豪族どもが今日も楽しそうで何よりでした
11.80名前が無い程度の能力削除
まあうん……布都に相談する意味あったんですかね太子様。誰が何と言おうと浮気する気満々じゃないですか。どのみち屠自古にもばれそう。
なんかわかりませんが、最後の爆竹鳴らすくだりが妙にきれいなオチに見えてしまいました。