Coolier - 新生・東方創想話

ワラキアの邂逅

2020/10/17 14:09:39
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1800年 ワラキア

 まるでこの世界を象徴するかのような黒い雨が降り頻る夜に少女が1人駆けていた。
そして少女は何かから逃げるように駆けている。
現に後ろから怒号と共に彼女を追いかける足音が聞こえる。ワラキア独立主義者供を狩るイエニ・チェリかアーヤーンの手先だろうか。

しばらくもしないうちに彼女は袋小路へと追い詰められる。
いつの間にか鳴り響いていた雷が彼女の顔を照らし出す、美しい銀髪を三つ編みで束ねた少女だ。
少女を追い詰めた男達は彼女に対して下衆な笑いを向けながら彼女に対して歩み寄る。
彼女を辱めるつもりだろうか、拷問にでもかけるつもりだろうか。
そうして男達が彼女に手を伸ばそうとし、彼女が目を瞑ったその瞬間、何かがぼとりと床に落ちた音がした。
「大丈夫かしらお嬢さん?」
女性の声だ。老獪さを含む大人の女性の声だ。
銀髪の少女はおそるおそる瞑った目を開く。
「貴女は……?」
彼女の眼に映ったのは大清帝国の民族服を着た女性と紫色のドレスを纏い、背中から蝙蝠の羽を生やした少女と先ほどまで彼女を追いかけていた男達の首と骸であった。
「貴女も災難だったわね。アーヤーンの手下に追いかけられるなんて。」
羽を囃した少女は同情を隠さずにそう言い放つ。
「全くお嬢様。こんなことして片付けるのは私なんだから勘弁してくださいよ〜。」
「はいはい美鈴、反省してるわ。今度から気をつけるわ。」
「もうそれ何回目ですかお嬢様〜。こんなことばっかりするせいでメイドが増えて給金が払えるかもギリギリなんですよ?」
中華服を纏った女性は困ったようにそう言う。
銀髪の少女は置いてけぼりだ。
「自己紹介が遅れたわね、私はレミリア・スカーレット。父祖にヴラド・ツェペシュ
を持つワラキアの末裔よ。貴女はアーヤーンに追われる身なのだしいる場所はないのでしょう?貴女も私の館で働かない?」
彼女は中華服の女性に対して言われたことの責任を果たすつもりなのだろう。
「嫌ならそれでもいいのよ?見られてしまったら殺すしかないんだから。丁度腹も空いているしね。」
そう言い彼女は舌をちらつかせ、牙をちらりと見せる。確かに彼女はヴラド公の末裔なのだろう、彼によく似た残忍さを持ち合わせている。
「では、お断りします。」
そう言うとレミリアと呼ばれた少女は意外という気持ちを貼り付けたかのような表情を見せる。
「この状況で断る人間は初めてよ。面白いわ、尚更私のものにしたくなってきたわね。」
そういい彼女は銀髪の少女の頬を触りまじまじと見つめる。
「ところで貴女の名前はなにかしら?」
「名前……?なんですかそれは……?」
彼女は名無しの権兵衛ないし詠人知らずなのだろう。
「貴女、名前がないのね。美鈴、何かいい名前を取り繕って頂戴?」
そう言い彼女は美鈴に無茶振りをする。
「また無茶振りですかお嬢様〜。う〜ん……そうですね……。」
そういい美鈴は空を見上げる。いつの間にか雷雨は止み十六夜の月が空を照らしている。
「じゃあ十六夜咲夜とかどうですかお嬢様。今は十六夜の月ですし夜は咲き誇っているのですから。」
「じゃあそれで決まりね。貴女はこれから十六夜咲夜よ。」
そう言い彼女は咲夜と名付けられ、困惑し続けている少女の腕を掴み空へと飛び立つ。
アーヤーンの手下に追いかけられ続ける日々から解放され、新たな生を歩む彼女を祝福するかのように夜風が気持ちよく吹き、レミリアは咲夜に向けてにっこりと笑いかける。
「ようこそ、夜の世界へ。貴女はこれから私の物よ。」
傲慢な物言いではあるが彼女の口ぶりは気骨のあるものを尊ぶ貴人の態度そのものである。
そして彼女に手を掴まれ浮かぶ咲夜は大きな口を開け空を飛ぶことに対して驚嘆を隠さずにいる。
「空を……飛んでいる……?」
「飛んでいるわよ、誰も縛ることがない自由な大空を。そして貴女を祝福する門出を夜のものは皆喜んでいるのよ。」
彼女は唖然としつつも笑顔でレミリアに対して微笑む。美しき主従の証であろう。

そしてこの晩、彼女の十六夜咲夜としての生を祝うかのように三千世界の鴉は彼女を守るようにして飛び立ち、月光は彼女達の影帽子を紅の館に辿り着くまでの短くもあるが悠久でもある時を美しく照らし出していた。
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コメント



0.180簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
雰囲気が良かったです
2.100終身削除
色々な事に戸惑いながらどこか心が通い合ったみたいな出会いの場面が印象に残りました しれっとこの時から100年以上若いままで生きてそうな咲夜さんもどこかで二人に追いつけたのかなと思いました
3.80名前が無い程度の能力削除
この導入自体は腐るほど読んできましたが良かったです
もっと読みたかったですが
4.70大豆まめ削除
いい雰囲気。
咲夜さんの出自やなにを考えての発言なのかなど、もっと練り込んで盛り込んでもよかったかも
6.100ヘンプ削除
かっこいい……レミリアが毅然としていてとても良かったです。
7.90めそふらん削除
地の文と雰囲気がかっこいい…!
10.100南条削除
面白かったです
レミリアもさることながら情景がかっこよかったです
11.100Actadust削除
読むほどに続きが気になっちゃいますね。
綺麗な描写が素敵でした。