Coolier - 新生・東方創想話

闇の後ろに光は無い

2020/10/09 11:03:01
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 山の中腹あたりから人里を見下ろす。ぽつぽつと灯っていた明かりも消えていき、たった今、最後の明かりも消えた。
 いつか、明るいうちに私も混ざってみたいものだが、そうはいかない。一応は妖怪だし、何より、私は人間からあまり好かれていない。だから、こうして見ているのが一番いいのだ。経験から知っている。
 ふわり、と風が吹いて、何者かが私の横に下りてきた。
「厄神様かぁ。拝んとこっと」
 黒い球体から声がした。
 これは、何だろう。触ってもいいのだろうか。いや、厄を感じるから、誰か中にいる。
「だぁれ?」
「ただの妖怪だよ」
 腐った果実のように、ぐじゅり、と球が崩れる。中には黒い服を着た少女がいた。
 多分、前に会ったことがある。たしか宵闇の妖怪だったはずだ。ただ、妖怪の山に来るほど活動的ではなかったと思うが。
「こんな所まで来るのね」
「私は何所にでもいるよ」
 とん、と彼女は地面に降り立った。私をちらりと見て、それから空を見た。つられて私も見上げてみたが、今日は星はなく、ただ欠けた月が浮かんでいるだけだった。
「今日は星がないわね」
「安息日だから、星も休んでいるの」
 よくわからないが、そうなのだろう。空にあるのが月だけだから。
「それより貴女、どうして人里を見つめていたの?」
「見てたの?」
「ええ」
 いったい何時から見られていたのだろう。少し恥ずかしくなった。
「まぁ、楽しそうだったから」
「楽しそう?」
 彼女はおそらく人里があるであろう場所を見た。夜の暗さで、もはや私ですら何処が人里だったのか判らなくなってしまった。
「こんな夜更けの人里が?」
「うん」
 そう、とだけ言ってこちらに向き直る彼女。猫のように光る彼女の紅い目が、私を見据えた。
「それなら、行ってみれば?」
「人里に?無理でしょう」
「大丈夫、私が覆ってあげるから」
「貴女まで人里に入るつもり?」
「…peekaboo」
「ぴーかぶー?」
 何だかこのまま彼女と話していると疲れそうなので、私は退散することにした。触らぬ神に祟りはない。
 ところが、私が歩き始めると同時に彼女はついて来た。私の腕に寄り添うように。
「何か用があるの?」
「まぁ、一応ね」
 ならば言えと思うが、もしかしたら話しにくい内容なのかもしれない。その内話してくれるだろうし、それまで待つことにした。
 夜の山はいつものように静かで、時々虫の声が聴こえる。それと、葉が風に揺れる音も。その合間に都合二人分の足音がする。柔らかな土では、たいした音にはならないが。
「何で人里に入りたいの?」
 ぽつり、と彼女が言う。そこに理由が必要かはわからないが、答えておいた。
「寂しいからねぇ」
「ふーん」
 興味なさげな返答で、会話は終わった。本当に私に用があるのか?ただの暇つぶしなんじゃなかろうか。というより、眠たいから家に帰りたいのだが。もし家に帰りたいと言ったら、彼女は去ってくれるだろうか。
「ねぇ、私もう眠いのだけど」
「一緒に寝ようって?」
「深読みしすぎよ」
 何なんだこいつ。頬を赤らめるんじゃない。
「とりあえず、帰っていい?」
「まだ私が用事を言ってないからダメ」
「言えばいいじゃない」
「まだなの」
 いったい何がまだなのか。まったくもって、彼女の言う事はよくわからない。ただ、私がまだ帰れそうにない事は判ったので、おとなしく歩いていく。別に歩くのは嫌いじゃないからいいけれど。
 しばらく歩くと、ちょっと開けた場所にでた。月明りが柔らかく辺りを照らして、夜風にざぁっと草が揺れる。居心地が好さそうだったから、私は立ち止まり、目を閉じてみた。
 穏やかな虫の声が聴こえる。閉じた瞼の向こう側に、月光を感じる。自然と気持ちが落ち着いて、いい気分になってきた。
「なんだか、踊りたい気分」
「どうぞ。見てあげるわよ」
「せっかくだから、パートナーになって頂戴よ」
「私ダンスなんて出来ないもん」
「適当にステップして、ターンして、ムーンウォークすればいいの」
 私は彼女の手を取った。




 ふぅ、と息を吐く。体を動かしたから、すこしだけ疲れた。腰を下ろして、空を見上げる。やっぱり、今日は星が瞬いていない。
「疲れたわー」
 宵闇の妖怪は、ぐでんと地面に横たわっていた。ダンスなんて出来ないと彼女は言っていたが、決してそんな事はなかった。むしろ上手な方だろう。なにしろ、私が見惚れそうになったくらいだから。
「それじゃ、聞いてもらおうかな」
「何を?」
「用事があるって言ったでしょ?」
 今なのか。ダンスの中で彼女のスイッチでも踏んでしまったのだろうか。
「厄を受け取ってよ。私のさ」
「何だ、そんな事」
 それなら、いつもやっている事だ。なぜ今まで言い出さなかったのか。
 私はいつものように厄を貰おうとした。だが、その途中で。
「…うっ」
 吐き気をもよおす。あまりにも厄が多すぎる。こんな量の厄は、初めてだ。
「…あぁ、やっぱりそうなっちゃうのね」
 残念そうに、彼女が言う。こんな量の厄を背負っていたなど、正気の沙汰ではない。普通なら狂い死にしてもおかしくないのに。
 そもそも、この厄は何処からきたのだ。意図的に集めでもしなければ、こんな量にはならない筈だ。
「貴女は、なんでこんなに…?」
「そりゃ、人喰い妖怪だからね。食べた人間の厄が、全部私にきてるのさ」
「…え?」
 それならば、貴女は。いったいどれだけ人を喰ったのだ。訊こうとしたが、止めた。訊かない方がいいに決まってる。
 彼女が出した闇が、私を覆っていく。すると、厄が私から離れていった。まるで闇に持っていかれたようだ。
「どうせなら、と思ったんだけど。やっぱり私じゃないと背負えないみたいね」
 そう言って微笑む彼女。厄を孕んだ闇が、彼女の中におさまっていく。それでも平然としていられるのが、私には理解できない。
「私が食べた訳だし、ズルはダメよね」
 また、彼女が薄く笑う。でもそれは、なんだか悲しげな表情だ。
「貴女はこれからも、人を食べる?」
「食べるよ。日々の糧だもん」
「人を食べないという選択肢は?」
「ないねぇ。私は人を食べないと」
 私は少しだけ、彼女のことが解った気がした。きっと、不器用なんだ。ずっと、ずっと人を食べてきて、それ以外を選べなくなってしまったんだ。そんな気がする。
 だから、これからもずっと、厄を背負い続けていくんだろう。別に望んでもいないのに。
「さて、私も眠くなっちゃったよ。さよなら」
「さよなら」
 ひらひらと手を振りながら、闇に包まれる彼女。そして完全に姿が見えなくなってから、何処かへと飛び立った。
 月明りにぽっかりと穴を開けながら、闇は遠くへと飛んでいく。私はその背中をいつまでも見送った。
――貴女は、私が知っているよりもっと深い闇を知っているのでしょう。その中に、厄業を背負い続けるのでしょう。でも、どうしても辛かったら、私を頼ってほしいの。
「…幸せになって欲しいなぁ」

思ったより相性がいい二人でした。ですが、組み合わせた時の難しさも段違いです。
転箸 笑
df7bc2ced7uwle2w23yw@softbank.ne.jp
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コメント



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1.100終身削除
命を奪う事に背負うことも一緒に受け入れているようなルーミアもそんな彼女の事を分かっているような余計なお節介はせずに出来ればそっと見守ろうとしているような雛も2人とも儚い立ち位置の中に芯を感じて良かったです
2.90大豆まめ削除
雛とルーミアとは、珍しい組み合わせ。
ですが、お互い闇を纏うもの同士という親和性の高さに、新たなカップリングの可能性を見ました。
やってることはどう考えても大悪党なのにさらっと語って平然としてるあたり、あー妖怪だなあ、って感じがして好きです
そろそろ巫女にしばかれそうですが
3.90サク_ウマ削除
発想好きです