Coolier - 新生・東方創想話

イドラデウスは弥生人の夢を見るか?

2020/10/04 20:52:51
最終更新
サイズ
6.23KB
ページ数
1
閲覧数
144
評価数
2/4
POINT
260
Rate
11.40

分類タグ



「垂仁天皇が亡くなられた」

その知らせで市の話題は持ちきりだった。
どうやら話によると、蓬莱山に前方後円の古墳を作るようで、前もって大きな堀はできていたようだ。

「けーきっ!」

ケイキの肩を、誰かが強く叩く。

「ひぁっ! ……なんだマユミかぁ……驚かさないでよ」
「ごめんごめん」

マユミは笑ってケイキと肩を組む。
彼女は天皇様のおそばに仕えていた近衛兵の娘である。
本来であれば、汚らしい土器焼きのケイキのような娘と絡む事は許されないことであるが、彼女らはいつからか特別に仲が良かった。

「ケイキさぁ、もしかしてすっごくチャンスなんじゃない?! 埴輪を作れってお触れが絶対回ってくるよ!」
「しーっ! 天皇様が亡くなられたのよ? そんなに嬉々として言うことじゃないわ」

そう言うが、マユミはキラッキラとした笑顔で続ける。

「いーや、最高の機会じゃないの! あなたの天才的なものづくりの才能はきっと評価される!」
「えーっ? えへへぇ、そうかなぁ」
「じゃあさ、呼ばれたとしたら…やる?」
「やる……かもね」

ケイキがそう言うと、マユミは「言ったな?」とでも言うような顔でケイキを見る。

「実はケイキをそれに呼びにきたのよね」
「えっ?」

ケイキは少し驚いたような色を見せたが、いつもの控えめな調子で、

「仕方がない、仕方がないねぇ」

と言って「やる」とマユミに伝える。
マユミはケイキの、控えめすぎる性格をよく知っていた。
ケイキは本当に土器を作るのが上手だったが、「みんなに見せれるような出来じゃない」と言って、いつも才能を開かそうとしなかった。

マユミは嬉しかった。
これで、きっとケイキの才能は評価されるはず。
そしたら、きっと偉い土器焼きになれて、こそこそしないで二人で市も歩けるはず———
この時はそう思っていた。

    ◇

鈍痛。
腹に一撃。

「立て! まだこれだけしかできてないのか! 代わりにお前を埋めてやろうか!」
「…べんなさ……」

いつの間にか、ケイキは窯場にいた。
きっと沢山の職人と一緒に埴輪を焼くことができると思って、楽しみにしていたのに……

だが、そこの環境は最悪だった。
血眼になって、急ピッチで埴輪を作らされる職人たち。
男女の関係もなく、皆その暑さのせいで一糸纏わず黙々と埴輪を作り続けている。
役人は倒れて土を練れなくなった人間を蹴り上げ、死んだとわかれば窯へとくべる。

ケイキの仕事は、練られた土から埴輪の形を作ることであった。
コテなどの道具がバラバラと渡され、一つ一つの埴輪の顔が異なるように造形しなければならない。

「……ぁ……ゔぅ……みえない……」

涙が汗かもわからない汁と、血が混ざり合って視界を赤くボヤけさせる。

「早くしろワッパ!」

罵詈雑言を浴びせられながら、ただ淡々と顔や胴を作る。
確かにケイキの腕は良かった。
作り出された埴輪の顔は一つ一つが異なるものであった。
しかしそこに求められていたのは、量ではなく質であった。
当然埴輪など日頃から作るものではない。
手際良くなどできるはずもなかった。

夜になって、ようやく休む時間ができた。
ケイキはよろよろと寝床に向かう。
新月で、真っ暗になった道。
もう何もみえない。

「けーきっ!!」

ふらついて、倒れそうになった所を誰かが支えた。
新月の月明かりで見えた。マユミだった。

「ごめんごめんごめんごめんっ! 私埴輪焼きの仕事があんなに酷いなんて知らなかった……本当にごめんなさいケイキ……っ」
「ううん……仕方ない、仕方ないよ……」

ケイキの肩に冷たい水滴が垂れる。

「ケイキ……よく聞いて。私と一緒に逃げましょう」

マユミはケイキの耳元でささやく。

「あのね……私……このままじゃ埋められてしまうかもしれない」

ケイキはマユミの腕を掴む。
力強い腕だったが、細かく震えているその腕。

「天皇様に捧げる埴輪の数が……きっと間に合わないだろうって聞いたの……だから、私みたいな下っ端の近衛兵の家族は埋められてしまう……」
「……ダメよ」

ケイキが震えた声で言う。

「マユミが逃げてしまったら……もう二度と幸せな暮らしは出来ないかもしれないのよ……それくらいなら……そうなるくらいなら……」

「頑張るから! 頑張るから! マユミ! 頑張るから! ねぇ!」

ケイキはマユミの腕を振り解いて、走って寝床に戻る。
作ればいいんでしょ、作れば。

なんで?
神様の子供だからって、なんで私の大切な友達を生き埋めにできるのよ!
生まれついた血が違っただけで!

ケイキは休まずに埴輪を作り続けた。

「マユミの代わりに……私の埴輪を埋めてもらうから……!」

ケイキはおぼろげな自我の中で、脳を使わぬ作業の中で、ただ思っていた。
誰かが死んだとしても、次の日から空の色が変わるなんてことはアリはしない。
生まれながらにして意味を持つ強者が弱い者の持っている意味を貪る。
あたかも、慈悲深く、「お前の命は無価値だ」と定義した上で意味を与える。
それこそが犠牲、生贄。

そんなのは嫌だった。

    ◇

到底間に合う筈がないであろう埴輪作り。
マユミは、ケイキをただ信じていた。
ケイキなら、きっと自分を埋めさせないように、埴輪を沢山作ってくれるだろうと。

ケイキはただ願っていた。
自分が作り続ける埴輪。
その中のどれか一つに、彼女に相当する埴輪がありますように。
ありますように。
ありますように。
ありますように……



「埴輪の数が足りないため……以下の人物は生き埋めとする事となった。あの世で天皇様によく仕えるように」

「そんな」

「ケイキ…仕方ない、仕方ないよ」

「仕方なくなんか……ない……」



「嫌!」

いつの間にか、ケイキは古墳の穴の中で埋められるマユミを見ていた。

縄で繋がれた人々が穴の中で目を閉じる。
その上から、役人たちが土を投げていく。

「嫌! 嫌! 嫌! 私の友達がいるの!」

ケイキは駆け出していた。
斜面を駆け上がり、静止する役人を振り切り、

「マユミ!」

赤い花が散る。

追いついた役人の持っていた鞘から引き抜かれた銅剣は、ケイキの首を切り裂いた。 
訪れる闇の中で、叫ぶ誰かの声。
それは友人の悲鳴か、役人の怒号か……

夢よ、夢、これは全部ただの夢……













私を呼んだのは誰?

創造を望む声がした。
その霊魂から、名が奪われる。
純粋な「創造」のみが残った。
その女の、創造への執念。
ただ、造形の神に最も相応しい女の魂が選ばれた。
ほら、最初から意味などないだろう?

「私は……」






埴安神袿姫は、ジャーキングで強かに膝を机にぶつけた。
いててて、と膝をさすり、机に垂れていたヨダレを吹きながら考える。

「面白い夢を見ていたわ」
「どんな夢ですか?」

隣に立っているのは彼女が作った埴輪の兵長、杖刀偶磨弓。
作り込まれたその表情やセラミックの肌は、どう見ても人間のそれ。

けいきは、少し口角を上げながら、首を横に振って言う。

「忘れてしまったわ」

彼女は、何を模したかも忘れた前方後円古墳の中で埴輪を作り続けている。

何のために作ってるんだっけ?
そんな事が頭の中に浮かんでは消えていく。
造形こそが彼女のホメオスタシスであり、それを止めることは彼女の否定である。
故に、彼女が束縛から逃れることはない。
創造のみに純化された彼女にとって、なぜ? とは不必要であった。
そんな事は疑問の神が対処していればいい。

あの時作ることのできなかった埴輪が、今は彼女の横にいるのだから。
新月に月明かりなどありません。
全部袿姫様の夢。
仮に本当の記憶だったとしたのなら、
きっとマユミが照らされてみえていたのは、その人があまりに大切だったからなのかもしれません。

しかし、神であり、純粋であり、造形そのものである、その本質に名を持たぬイドラデウスには、何の関係もないことなのでした。
マジカル☆さくやちゃんスター(左)
0814ishizaki@gmail.com
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.70簡易評価
2.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
3.100終身削除
主人の忘れられた墓でもそうあるように作られた埴輪は意味がなくてもずっと守り続けているんでしょうね もし袿姫にとっての昔があったなら時間も場所も手の届くことも変わってしまった今では本当に遠いところの話になってしまったんだと思いました この袿姫様は人間霊を守ろうとした時にも何か感じるものがあって欲しいなと思いました