Coolier - 新生・東方創想話

幻想戦争抄 #2

2020/10/02 20:12:34
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《弐夜目 誰が為~reason~》



「開催二日目となりました。参加者は決闘を中断してください」

十六夜咲夜は、ナイフに込めていた手の力を緩めた。
同時に、そのナイフをつまんでいた鈴仙も手を放す。

「興覚めだわ。折角いいところだったのに」

咲夜のメイド服には大量の泥、熱に焦がされて空いた穴、自分のものか相手のものか分からなくなってしまった血。
不思議と痛みはほとんどない。
攻撃され、体が損傷していることは分かるものの、生活に影響を与えない程度の痛み。

「今回はお預けかぁ」

鈴仙も体に多くのダメージを負っていた。
明らかに人間の力では不可能であろう速さのナイフ、ありえない方向への反射。
その一つ一つが鈴仙の体を着実に削っており、白かったスカートには赤いバラが乱れている。

「また会ったのなら、その時は必ず殺すわ」
「ええ、また相手してくださいね」

血の味がする唾を飲みながら、二人は休息のために自らの家へと戻ってゆく。
他の者も皆、帰途に就いたであろう。

一夜目は探り合いだった。
互いの戦法、癖、弱点を見つけまいと奔る少女たち。
かたや、戦術や小細工に頼ることなく、純粋に戦いを好む少女もいた。

「はぁ~! つまんないわ!」

どうやらこの天人の娘――天子は不満なようであった。
二、三度拳を振りかぶったところで、皆霧のようにいなくなってしまう。
緋想の剣を使うことを禁じられていたわけではなかったのだが、その慢心やプライドから、「本当に本気をぶつけるべき相手でなければ緋想の剣は使わない」というスタンスをとっていた――が、そもそもその相手が向かってこないことには閉口する。

もちろん参加者のほとんどは、天子のデタラメなパワーや防御力についてよく理解していた。その肉体の強靭さは、彼女の帽子にもついている仙果によるものである。
そのため、天子が素手だと分かっていても、初日から玉砕覚悟で喧嘩を吹っ掛けようというバカは居なかったのである。
―――チルノを除いて。

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一日目 
チルノ 残機1点減点
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初日の残機の移動はチルノの減点のみだったようだ。

「総領娘様~!」
「ん? ……ああ~、衣玖か」

羽衣をはためかせて降りてきたのは、竜宮の使いである永江衣玖。

「やっと見つけましたよ、ご両親が大変心配してらっしゃいます! さあ早く異変解決を辞退してください!」
「へ? 何でよ。私緋想の剣もまだ持ち出してないし、今回は悪いことしてないわ。しばらく地上にいるって置手紙もしてきたじゃない」

天子が面倒くさそうにシッシッと衣玖を追い払おうとする。

「まだ持ち出してないって……使うつもりなんですか?! ご両親や天人様たちは、天子様がこの異変解決に参加して方々に迷惑がかかるのを心配してらっしゃるのですよ! さぁ早く辞退してください!」

ぴたりと天子の動きが止まる。
俯いて、ぼそりと呟く。

「私の心配じゃないのね」
「え……あ、そのですね……」

衣玖はそれを見て困ったようにおでこを抑える。
天子は、非常に憔悴する衣玖の顔を見て笑わずにはいられなかった。

「ぷっ、あははははは!! 冗談よ冗談! あんな奴らに心配されるなんて屈辱の極みだわ!」
「そ、総領娘様ーっ!」

衣玖はとうとう怒鳴りつける。
それを尻目に笑い続ける天子。

「悪かった、悪かったわよ。……あーあ……でも私は辞退なんてしないわよ。必ず全員倒して叶えたい願いがあるもの」
「天界のものでほとんど願いなど叶うじゃありませんか」

天子は首を横に振る。

「できないことを叶えるために来てるに決まってるじゃない。それに、スペカ無しでの本当の殺し合いなんて、今後一切ないかもしれないじゃない」

天子の脳裏に浮かぶのは貧乏神、依神紫苑。
彼女は天子の横にいることでのみ、自らにも降りかかってしまう不幸を避けることができる。
ただ天子は考えていた―――紫苑がその神格を失うことなく、本人は一人でも幸せに生活することができるようになる願い……

「……とにかく、私はどんなに迷惑かけてでも勝つわよ」
「そ、総領娘様ぁ……貴女を止められなかったら怒られるのは私なんですよぉ……おねがいしばすからぁ」
「ええいうるさい! 暴虐の限りを尽くしてやるわ!」
「やめてぇぇぇぇ」

涙目で天子を押さえつけようとする衣玖を引きずりながら、夜までどのように暇を潰そうかと天子は考えていた。

    ◇

夜が来た。
戦いの夜。
鬼人正邪は走っていた。

「はあッ、はあ、やっば!」

追いかけるのは東風谷早苗。
突風が駆け抜け、巨大な風の腕が正邪の前に突き付けられた。

「これが! 奇跡☆なのです!」
「わばっふっ!」

大きな力に投げ飛ばされた少女の体が地に擦る。
2度のバウンドの後、正邪が勢いよく腕を振り下ろすと風は逆流し、元の風とぶつかり合って霧消した。

「ぺ、おえ、砂が口に……」
「時に正邪さん、『ラプラスの魔』という言葉を御存じでしょうか?」

土一つついていない白い装束が、風に打たれてぱんぱんに張っている。
彼女は現人神。この異変において、唯一参加を許された神格である。

「世界の物理法則をすべて理解することによって、決定された未来を知ることができるのです。今の私はこの勾玉のおかげで、天地を操る事すらできます。これはもう『ラプラスの神様』と名乗ってもよいのでは?!」

早苗が首に下げているのは、『ヤサカニノマガタマ』のレプリカである。
二体の神の力が込められているという点において、その本物とは大きく異なるものである。
八雲紫の異変とあって、二人の神が徹夜で作り上げた宝玉は、その想定された用途で使われることとなったのだが……これがスペル無しでも恐ろしく強かったのである。

宙に五芒星が描かれる。
土、石、皆空高々と放り投げられ、その体をめがけて壁となって吹き付けられる。

「これこそがマジの『神風』です!」

あれに巻き込まれれば、正邪の残機が一つ持っていかれてしまうのは確かだ。
正邪の目が突き刺すような鋭さと圧を帯びる。

    ◇  

八雲紫の異変? しょうもねえ。

早朝鳴り響くアナウンスの中、正邪はただ一人で逆さ城の天守閣に、文字通り腰かけていた。
八雲紫を直々にシバける望みなどないだろう。
正直、疲れ切っていた。長い間逃亡を続けたが、一向に下克上の目途は立っていない。諦めようかとすら思っていた。

「賞品は『願い事を何でも一つ叶える』です」

正邪はその言葉を聞いて、ひっくり返した自分を見た。
ひっくり返された自分はいったい、下克上をとっくに諦めていた。
迷ったときはいつも真逆の自分を見る。すると、今の本当の自分が見えてくる。
あのババア、とことんムカつくぜ。
チャンスを目と鼻の先にぶら下げてさんざん煽っておいて、捕まえたかと思えばひょいっと取り上げやがる。

「興味ねー!!」

異変とやらを解決して、下克上を成功させられたら……
その時は、小槌から持ち逃げした魔力で、あの姫を太らせてやろうかな――

    ◇

ベクトルは一方通行。
正邪の能力は、そのベクトルの符号を反対にするものである。
ただし何事にも限度というものは存在するのが理だ。

「っ!! おっ!!!」

数メートル先で風と風がぶつかり合い、石の散弾が飛ぶ。

頭が割れそうなほどに能力を酷使しているのは、これが初めてだ。
対して相手は余裕そうな面をして赤子の手を捻ろうとしてやがる。
ぶち殺してえ。
 
スキマの傘を開き、落ちる。
角を風がかすめるのを感じる。

「む……そこですね!」

スキマから足が出てくる。
このタイミングでの無理な脱出はやはり失策だったようだ。

「いただきましたよ!」

驚愕した顔で正邪が札に動きを封じられる。
早苗が握りつぶすような動作をした。

下から上に向かって大量の土砂が、弾丸のように突進する。
ミキサーのように石は体を削るだろう。
やすりのように土が肌を削ぐだろう。
間違いなく取った――!!!

「よそ見してんじゃねーこの乳女!!」

声は後ろから飛んできた。離れたところに立つ正邪を見る。
ならば今ボコボコにしているのは―――

黒い風の中に垣間見えたのは、ズタボロになったデコイ人形。

「いただきまーす!」
「へ?」

早苗の頭の上に、何かずっしりとしたものを感じる。
それが四尺花火玉であると気づいたのは、頭が吹き飛ばされた後だった。

「よっしゃ!」
「ふ、不覚~……というか卑怯じゃないですか? 残機増やしてるようなもんじゃないですか!」
「あれはただの人形だろ? 何であんなのをぶっ壊すのにヤケになってたんだ?」
「くやしー!!!」

撃破された参加者は、30分間再準備の猶予が与えられる。
正邪は少しさわやかな顔で歩き出した。
正邪バーサス早苗

早苗さんスペカでしか戦ってるイメージないから独自設定もりもり出すの許してぽ
マジカル☆さくやちゃんスター(左)
2003hasuo@gmail.com
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コメント



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1.100終身削除
力はそこそこな代わりに機転を使ってなんとか食らいついてるような正邪が良かったです なんだか一番主人公感を感じて面白かったです