Coolier - 新生・東方創想話

湯呑みが割れた

2020/09/20 20:35:49
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 昨日の夜、眠る時に布団から出していた足先は、まるで石になってしまったかのように冷えきっていた。いや、足先だけではなく、体全体が悴んでいる。凍えた体をなんとか動かし、とりあえず布団から出た。
「何か飲も...」
 お茶でも白湯でもいい。とにかく温かい飲み物が欲しかった。そう思って、卓袱台の上に置いていた湯呑みを手に取った。中には昨日に煎れた冷めたお茶が入っていた。
「......」
 足裏からの冷たさを我慢しながら勝手まで行き、中身を棄てる。その時だった。悴んだままだった私の指は、湯呑みを取り落してしまったのだ。
 軽い音がして、湯呑みが割れた。


 そんな事が朝にあって、私は今すこしだけブルーになっている。いや、すこしだけではないかもしれない。あうんが心配そうな視線を向けてくるから、見たら判るくらいには落ち込んでいるのだろう。
 私は畳の上で寝転んだ。朝に比べると寒さは和らいだもので、このまま昼寝でもしようかと思ったが、私の目は冴えきっていた。無意に寝返りをうつと、卓袱台の上の急須が目に入った。割れた湯呑みは、あれと儷だったのだ。
 瞼を下ろしても、眠気は感じなかった。私は夢を見るかわりに、過去を遡ることにした。




「あっ」
 焦ったふうでもなく、紫がそんなことを言った。どうやら湯呑みを落としてしまったようで、破片が散らばっていた。まだ幼かった私でも、こいつがうっかりするなんて、珍しいこともあるな、と思った。紫は手箒で破片をチリトリに集め、雑巾でお茶を拭いさった。
「困ったわ。新しいのを買わないと」
 ぽつり、とそんなことを言ったのだが、そこに妙な含みがあることを察した。
「霊夢、貴女も行かない?」
「ゆのみを買いに?」
「えぇ。ついでに、貴女の湯呑みも買ってあげるわよ」
 湯呑みが欲しかったから、私はついて行くことにした。人里の器屋で、紫は件の急須と湯呑みのセットを買った。そして、以来ずっとそれを使っていたわけだ。




 今思えば、紫はあの時わざと湯呑みを割ったんだと思う。多分、幼い私に湯呑みを買ってあげるために。そんな回りくどい事をせず、正直に買ってやると言えばよかったのに。紫は不器用なんだな、と思う。
 私は目を開き、外のほうを見た。そしたら、丁度あうんが此方に向かって来ていた。
「あうん、どうしたの?」
「霊夢さんが寝てる間に、お客さんが来たんです。それで伝言を」
 寝てなかったけどね、と心の中で言う。
「お客さんって誰?」
「紫さんの式神です」
 藍が私に伝言を残した。ということは、結界の問題か何かだろうか。少し前に確認したばかりで、その時は問題無しだったけど。
「言ってみてくれる?」
「はい。『もし何か必要な物があったら言いに来るように、と紫様から預かってきた』と」
 つまり、紫の伝言をあうんに預けたわけか。それで、必要な物があったら言うように、と。タイミングからして、私が湯呑みを割ったのを知っての事だろう。
 やっぱり不器用な奴だ。正直に、また一緒に買いに行こうと言えばいいのに。
 
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コメント



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1.100サク_ウマ削除
良かったです
2.100終身削除
色々と器用そうでたまに不器用になりそうな紫いいですね 明け方の寝起きで体のまだ温まっていないうちの寒さとか些細なきっかけで少しふさぎ込んでしまう内面がよく伝わってきて印象に残りました なんだかんだでまた一緒に買いに行くことになってほしい
3.100Actadust削除
不器用に母親してるゆかりん尊い……。
おいしいゆかれいむ頂きました。ごちそうさまでした。
4.100名前が無い程度の能力削除
いい関係性のゆかれいむでした。互いにわかっているけど、照れ隠ししていて、にやにや出来ました
5.90大豆まめ削除
よきゆかれいむでした。
お互い不器用そうなのがいいですね
6.100名前が無い程度の能力削除
心の中のゴローが「こういうのでいいんだよこういうので」と言っている