動きやすい大図書館

作品集: 最新 投稿日時: 2010/06/14 02:41:30 更新日時: 2010/07/31 22:40:07 評価: 50/118 POINT: 7450 Rate: 12.56
 パチュリー・ノーレッジは憂鬱だった。

 乾いた落ち葉に山の匂いを感じる風。
 頬を撫でる心地よい秋風も、パチュリーにとっては本のページがはためくという煩わしさが胸を衝いて、鬱陶しいものにほかならなかった。
 だが、それよりも気に食わないと思ったのは、がやがやと耳に障る喧騒だ。球蹴りをして遊ぶ年少の子どもたち。仕事合間の休憩に茶店で花を咲かす里の大人。広場に集まり始めた人たちに、菓子売りは今日も盛況だ。
 ことさら騒がしいのは、寺子屋から解放された生徒たちである。長い間じっと正座させられた分だけより賑やかなのだ。
 耳に栓をしても聞こえる声に、頭に活字が入っていかない。ここは静かな読書を好む者には、不適な場所だった。

「本を読む時はね。誰にも邪魔されず、自由で。
 なんというか救われてなきゃ駄目なのよ。
 独りで静かで豊かで」
「何いってんの? お姉ちゃん。本貸してよ」

 ――ほらまた、これだ。私は静かに読書を楽しみたいというのに。

 パチュリーは運転席に拵えた簡易受付から、恨めしそうにその女の子を見る。胸の前には大事そうに絵本を抱いている。じっと見上げる瞳は、まったく物怖じもしない純粋なものだった。

 ――この子は、私が魔女だってわかってるのかしら。

 動かないパチュリーに対して、しびれをきらした女の子は、「お姉ちゃん? 聞いてるの?」とパチュリーの顔の前で手を前後させて意識を確かめた。

「はいはい。じゃあ本と読書カードをだしてちょうだい」

 差し出されたカードと本を緩慢な動作で受け取り、カードのバーコードを指先で撫でる。そして今度は本についてある白いプレートをその指で横に払う。すると返却する日の日付と残り日数がプレートに浮かび上がった。
 青白く発光するその所作に、ほわぁ、と口を開いて見つめていた女の子に、パチュリーは本とカードをつっ返す。

「返却日は二週間後。延滞遅延は許さないからね」

 女の子は、その言葉に頷いてパタパタと本を抱えて駆けていく。

 小さくなる女の子の背を少し眺めた後、パチュリーは膝に置いた本を持ち直して読書を再開する。
 本を開いてしおりを外し、これから文字を追おうとした時だった。
 頭上から声が降りかかる。
 出鼻をくじかれたパチュリーは、忌々しそうに声の主を見上げる。

「おい、そんな態度じゃ利用者が嫌な気持ちになってしまうぞ」
「私だって不快だわ」

 目くじらを立てながら小言を言うのは、和綴じの書類を脇に携えた上白沢慧音だった。
 そして慧音の後ろから、ひょっこり慧音の教え子たちが顔を出す。
 一様に皆笑顔だが、対するパチュリーは仏頂面のまま。子どもたちは、反応を示さないパチュリーが飽きたのか「こあお姉ちゃん〜」とバスの腹に開放した書架で本整理をしていた小悪魔の元に走っていく。

「教え子同伴で来るとは嫌がらせなのかしら」
「受付役、こあちゃんと代わった方がいいかもしれないなぁ」
「嫌よ。立ちたくないもの」
「……さいですか」

 そうこうしている内に、先ほどの子どもたちが本を抱えて戻ってくる。

「ほら、仕事だぞ。図書館長」
「冷やかさないで」

 受付の前で子どもたちが列を作る。その後ろに混じって近所の主婦も列に加わる。
「こんにちわ」とその主婦に慧音が話しかけると、「あらあらまぁまぁ」と待っていたかのようにその女性は矢継ぎ早に話し始める。

「大繁盛ですね、館長さん。手伝いますよ」

 整理を中断してやってきた小悪魔がパチュリーに言う。

「こあ、あんたまで」

 広場の中央に鎮座した車輪の付いた鉄の箱。
 かつて外の世界で「移動図書館」と言う名で愛された小型のバスの周りには、今日も人が集まっていた。

 列に並んだ最後の一人の貸出処理を終えて、ほう、とパチュリーは息をついた。
 燦々と降り注ぐ日の光を手傘で遮り、空を見上げる。帯状に広がった薄い雲がゆっくりと流れていく様を見詰めて、もう一度パチュリーはため息を吐く。
 視線を下ろし、広場を見渡せば、先ほどの球蹴りをしていた男の子たちが慧音とじゃれ合っているのが見えた。

「人の気も知らないで、見せつけてくれちゃって……」

 全ては間が悪かった。
 とにかくそれに尽きるとパチュリーは思った。
 今こうして、柄にもなく里に降りてきているのも、そのせいだ。

 事の発端は、一週間前にさかのぼる。
 そう、始まりは、彼女の居住区である大図書館からだった。












 『動きやすい大図書館』












 明かりが少なく常にほの暗いのがこの図書館の常である。地下に位置し窓も無いのだから、明かりがランプの中で頼りなく揺れる炎だけであればそれも当然のこと。金属と金属が重なりあう音を立てながら銀のお盆に2つティーカップを乗せ、咲夜は少し錆びついたドアを閉めた。木が軋む耳障りな音が部屋に満ちる。

(よくまあこんな環境で本が読めますこと)

 天井は高く、そこに届くように並んだ本棚は見るものを圧倒する。蔵書量は量り知れなく毎日毎日増えるというのだから恐ろしい。もっと恐ろしいのはそれを上回るペースで読破していくここの主だが。
 その部屋の主は相変わらず不機嫌な顔をしながらアンティーク風のテーブルに本を乗せ、時折大きく口を開け欠伸を漏らしていた。目の下には黒い三日月がうっすら見え、顔色は青というより紫。その内土気色に変わって倒れそうなほど不健康極まりない表情だ。
 上空で必死に主の読み終わった本を戻し主の読みたい本を探す哀れな使い魔の悲鳴が聞こえる。BGMとして立派に機能している彼女の叫びは同じ従者として同情に値する。

「お茶をお持ちいたしました」
「ありがと、そこに置いといて」
「かしこまりました」

 同情ついでに休息を用意してさしあげるのも、また恒例。完璧な従者は誰であろうと気遣いを忘れないものなのだ。と、咲夜は上方に向かって話しかけた。

「クッキーも焼いてきたんで、どうぞ召し上がってくださいなー」
「あ……ありがとうございます……」

 背中に生やす悪魔の羽が力無く揺れる。あちらへふらふら、こちらへふらふら、制御の効かない状態のまま小悪魔が地面に降りてきた。こちらはこちらで顔色が悪い。悪魔だからとかではなく単純に気苦労のせいかと思われる。

(この人相手じゃ無理もないわね)

 咲夜自身が直接仕える主も主で我侭な部分も多く頭を抱えることがあるが、こちらのほうが精神的にきつそうだ。神経質な知識人の相手なんてそうそう進んでしたくない。文句をつけられる時も理屈をこねられてはたまったものではないのだろう。

「で?」
「は?」

 ダ行に対してハ行で答える。相手を小馬鹿にするようにではなくあくまで『今なんと仰いました?』という目上に対する意を込めての返答である。つい口に出てしまったがその辺のニュアンスはきちんと相手に伝わっただろうか。グチグチと突っ込まれたらどうしよう。

「あなたは何時までここに居るつもり?」
「ああ、そういう意味ですか」

 良かったその程度で。じろりと上目遣いで咲夜を見つめるパチュリーの目は多少なりとも非難の目が含まれる。それがデフォルトなのかわざと向けられたものなのか咲夜には確かめる手段が無い。別に非難されようが構わないが、咲夜にはここに残るだけの理由がある。

「実は相談したいことがございまして」
「手短に」
「かしこまりました」

 手短に、となると一度情報を整理しなければならない。どの情報が必要でどの情報が必要ないか順序良く組み立て、且つ相手にも分かりやすい言葉を選ぶ。弾幕ごっこの前口上のような皮肉や揶揄の混じりまくったものなど論外だ。となると──

「早く」
「申し訳ございません」

 時計を見ると五分ほど時間が経過していた。どうやら考えすぎたらしい。時を止めるという選択肢すら思いつかなかった。目の前の魔法使いのイライラゲージが少しづつ溜まっていくのが手にとるように分かる。先に場を和ませるべきか、ならば──

「むかしむかしあるところに」
「咲夜」
「申し訳ございません」

 失敗した。明らかにゲージが上がっている。MAXになったらどうなるのかな、顔が赤くなるのかしら。横の小悪魔がツボに入ったのか腹を抱えている。

(それはそれで興味深いことですわ)

 そのまま観察していると時間の経過とともにイライラが募っていった。半分くらいを過ぎたところで指でテーブルを叩く動作が加わった。一定のリズムが心地良い、自然に体も揺れる。膝も折ってみたり、一緒に手でリズムとってみたり。

「咲夜」
「申し訳ございません」

 あ、青筋。あと二つ増えたら本題に入ろう。小悪魔は口を抑えていた。

「あなたは報告する気があるの? 無いの?」
「気だけは十分です。美鈴に操作してもらったので。こおおおお」

 増えた。あと一つ、あと一つだけ。小悪魔は床に転がって足をバタバタさせている。

「目障り度、838861点。おめでとう、満点よ」
「それ4点と同じですわ」

 高いのだろうか、低いのだろうか。とりあえず目標の三つまで増えたので本題に入る。小悪魔は拳で床を叩いている。

「このところ、外勤の妖精メイドが騒がしいんですよ」
「で?」
「大変困ってます」
「内容は」
「今日は木の実を練りこんでみました」
「咲夜」
「申し訳ございません」

 無駄な会話であると自覚しつつも時間だけが経過していく。とはいえどれだけ時間が過ぎようと咲夜には何ら関係の無いことだ。主はとうの昔に活動を始めているが、呼び出されなければある程度の自由は保証されている。それだけの余裕を作り出すことなぞ咲夜には造作も無いことであった。
 青筋が当初の目標の二倍まで増えたところでいよいよ本題だ。今度こそ本題だ。小悪魔はついに声を出し始めた。

「敷地内に奇妙なモノが出てきたそうです」
「それがどうして騒ぎになるのよ」
「三つ理由があります。入り口の傍に出現し邪魔になっていることが一つ、それなりに巨大なものであることが一つ」
「あと一つは?」
「二つだけでした、失敬」
「もうあなたの名前は呼ばないことにするわ」
「大変、申し訳ございませんでした」

 ゲージが溢れ返るのを確認し、本筋から少々ずれた話を強引に戻そうと咲夜は話を続けた。小悪魔は呼吸困難。

「調査してほしいのですよ」

 パチュリーの眉間の皺が増える。明らかに鬱陶しがっている。

「それがどうしたの? 別に私が行くほどのことでもないでしょう? あなたが調査しなさいよ」
「申し訳ありませんが、私は日常の業務に忙しくて手が回りません。ですから、こうしてパチュリー様に頼もうと」
「暗に私が暇そうに見えるとでも言いたいの?!」

 そう言って、パチュリーは乱暴に本を閉じて立ち上がった。

「ああそうよ! わかってるわよ! 日がな一日飽きもせず本なんか読んでるなら、少しは天日干しされてきなさい、カビ臭いのよって言いたいんでしょう?!
 私みたいなか弱い魔女は日の光を浴びるとお肌が荒れちゃうのよ。だいたいアンタが使ってる化粧品だって私の知識で調合して作ってあげてるのに。それを暇人扱い?! 
 何が可笑しい小悪魔ぁ!!」

 咲夜の視線の先には、額の青筋が結合して脈打つパチュリーの鬼面があった。紫色をしていた不健康な顔も、小さな耳が真っ赤になるくらいまで、紅潮していた。
 床でのたうち回っていた子悪魔が異変に気付いて、平静を装おうと手で口を押さえて笑ってないアピールをする。
 既に血の気が引いて真っ青な顔に涙を浮かべて、上目づかいでパチュリーを見るもむなしく、渾身の力で振り下ろされた魔導書の一撃で、小悪魔は再度地面を転げ回ることになった。
 ちなみに咲夜は被害が及ぶことのない範囲にそれとなく移動していた。

 感情が爆発したショックに身体が耐えられず、パチュリーはごほごほとせき込んで椅子にもたれかかるように座った。顔からは青筋が消えてなくなっていた。溜まりに溜まりかねた怒りを小悪魔に向けて放出したので、幾分か激情が和らいだらしい。と言っても顔は未だ赤色に染まっているままなのだが。
 冷静になって一呼吸置くと、怒りが連鎖反応を起こしたのか。パチュリーは、つい先日のことを思い出して、その不満を咲夜にぶつけた。

「全く貴女は、また面倒事を私に持ちこんでくるのね。あの里の賢者のなんて言ったかしら? あぁ、上白沢慧音とか名乗ってたわね。
 ああいう手合いは別にここまで通す必要なんかないのに。
 そう……あの時もしつこかったわ。噂通りの頑固頭。あれで頭突きなんかされたらたまったもんじゃないわね。何度断っても、少し考えて欲しいとか言ってくれちゃって。しょうがないから考えてやるって言って追い返したけど」

 その時のことがよほど、不快だったらしい。パチュリーは当事者を睨むように咲夜を非難の目で見た。が、特に咲夜の方は気にした様子もなく、そして先ほどの激昴の原因も咲夜が作ったというのに、平然と聞き返してくる。

「結局慧音さんは何を仰っていたのですか?」

 その泰然とした咲夜の態度には、一切の非が感じられない。内心もう一度爆発したい気分ではあったが、反動でどっと疲れていたパチュリーにはその気力がもうなかった。

「子どもたちの教養を身につけさせるために、図書教育をしたいそうよ。それで里に図書室つくるのに私の力を借りたいらしいんだって。蔵書提供も含めてね。
 もちろん、今度来たら色々理由をつけて断固拒否してあげるわ」

 咲夜の脳裏には、難しそうな顔をして門を出て行った哀れな教育者のことが思い出された。無碍もないパチュリーの言であったが、当人の問題なので咲夜は黙っていた。自分が何か言ったところで、パチュリーが心変わりしないことを咲夜は知っている。
 しかも今は自分がそうしたとは言え、すこぶる状況が悪い。

「はい、そういうこと。とにかく私は外には出ないわ。咲夜も、わかったら静かに退席なさい」

 語尾を強めて言い放つ。と同時に、手元の本に再び目を落とし、これ以上の会話をしないという意思を咲夜に示した。パチュリーは完全に機嫌を損ねてしまった。こうなってしまうと、まともに視線すら合わしてくれない。

「それでは、いつまでもあのまま置いておけないので処分しろ、とお嬢様が仰られておりますので、廃棄してもよろしいですか」

 それでも、咲夜は自分を完全に無視している本の虫に向けて一応の確認を取る辺り、そんな様子にも手慣れているということが感じられた。

「なんで私に聞くのよ。別に構わないわ」

 多少の間があったが、いつまでもその場を去らない咲夜に観念して、唸るようにパチュリーは答える。これで満足したでしょ、と言わないまでも言葉の端々に鋭い棘が見え隠れしていた。

「そうですか。では、明日にも解体して、本の方はせっかくなので里に寄付してあげましょう」
「ちょっと待ちなさい、咲夜。今、本の方は、って言ったわね」

 一礼して去ろうとした咲夜を、思わずパチュリーは呼びとめた。咲夜が最後に言った「本」と言う言葉を、老獪な魔女は聞き逃さなかった。
 何を見るのも億劫と言ったように半分つぶられていた瞳も、電光石火の速さで見開かれ、しおりも差さずに本は閉じられてしまった。咲夜は慌てるパチュリーを見越していたのか、軽い微笑を湛えていた。
 立場はもはや逆転し、先ほどまでは、聞きたくもないと思っていた咲夜の言葉を、今か今かとパチュリーは待っている。至って普通の速さで口を開く咲夜であったが、パチュリーにとっては自分を焦らして楽しんでいる不届きな従者と映っていた。

「えぇ。そうですけれど、何か問題でもございましたか?」
「案内しなさい」

 間髪を入れずに答えたパチュリーに、聞き取れなかったのか、それともわざとか咲夜は「はい?」と聞き返した。いや恐らくわざとであろう。咲夜はニコニコと笑っている。
 一方のパチュリーは舌打ちをしたい気持ちを抑えて、咲夜の挙動を確認しながら、同じ台詞を言う。悔しいけれど、主導権は咲夜が握っているのだ。

「聞こえなかったの? 私をそこまで案内しなさいと言ったのよ」

「ですが、パチュリー様? お外には出られないのでは?」

「あぁ、もう! 本があるとならば、話は別よ。全くそういうことは早く言いなさい」

 言うが早いが、パチュリーは既に立ち上がって、出発の準備をしている。咲夜は胸の前に手を置いて恭しく礼を返す。

「承知いたしました」

「貴女……最初から分かってやってたでしょう?」

「滅相もございません。さぁ早く参りましょう。いたずら妖精が落書きをしてしまうかもしれません」

 詰問する魔女に対して従者は、さっと身を翻して図書館の出口に向かっていく。

「ちょっと、まだ話は、って……まぁ、いいわ。大切なのは本の方だもの。待ちなさい、咲夜」

 腑に落ちない点はあるが、それよりも大事なことに目を奪われて、パチュリーは足早に咲夜の後を追っていく。

 そうして主が出て行った図書館には、動かなくなった小悪魔の亡骸が一つ残されるのみとなった。

「ちょ、まだ死んでない……」








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 コオロギの鳴き声がチロチロと静謐の中響いていた。少し肌寒い秋の深夜。
 どうやら引き籠っているうちに、いつの間にかそういう季節になってしまったらしいと、彼女はふとそんな事を思ったが。
 もっとも、感慨とか感傷とかには随分遠い場所で生きているのがパチュリー・ノーレッジという魔女であったから、一瞬頭を過ったどうでもいい感情など捨て置いて、ただただ一直線に足を進める事をしていた。
 今は沸き起こる興味に従順である事が何よりも優先された。
 
 秋晴れの星空。ただし月は無い。
 新月の暗夜に十分な光源は咲夜の持つカンテラのみ。
 玄関の大扉より門へと至る通路のど真ん中にて、それは最初ぼやけたシルエットとして姿を見せた。
 
 巨大な四角い箱のようだった。おそらく、紅魔館で働く妖精メイドにあてがわれている一般的な居住室に容積で勝る。
 少し近づくと、酷く錆の浮いてしまった金属製の外装に、すっかり掠れてしまったペンキが申し訳程度に残っているのが見えた。
 かつて板ガラスが嵌めこまれていたであろう、正面の窓枠は、しかし今となっては真っ黒な箱の内面へ、冷たい風を吹き込ませるだけだ。
 視線を少し下へ移すと、黒いゴム製の車輪が付いているのが見えたが、力なくぺしゃんこになっているそれが、本来の役目を果たすのは素人目でも無理だと分かった。

 朽ち果てている。
 スクラップ。

 そんな表現がしっくりくる物体だった。
 どうやら内蔵されているらしい、幾つかの機構は、残念ながらもはや完膚無き鉄屑と化している。

 生来の役割を終え、廃棄され、管理の手が入る事もなく、長い時を放置され、雨風にさらされ。そして最後は土へと還る。

 彼が幻想入りを果たしたのは、そんな未来に対する必死の反駁であったのかもしれないとか咲夜は思ったけれど、さして同情がふつふつ沸いてくるという感じでも無かった。
 彼女は優しい人間ではないし、何より合理的だ。無機物に対して使えるか使えないかの二択以上を求めたりしない。

 ふむふむと頷きながら物体をしげしげ眺めているパチュリーの動きに合わせるようにカンテラを照らす。
 頭の中では、既に明日の行動計画が検討されていた。すなわち、この巨大なスクラップを解体する手法についてだ。

 ――とりあえず、人海戦術で行けばどうにかなるかしらね? そういや、こういう作業は美鈴が得意そうだし話を聞いてみようかしら?
 
 解体する前にパチュリーの耳に入れたのは、従者的な気遣いであり、つまり処分が終わった後に『そんな面白そうなもの、どうして私に知らせなかったのよ?』と文句言われるのを阻止する一つの保険だ。
 とりあえず、中に幾つか収められている書籍を回収さえしてしまえば、彼女は満足するだろうと、そういう判断であったのだが。

 いや、しかし、今のパチュリーの表情はここ数カ月で一番と言っても差支えない程に溌剌としていて。
 その余りにらしくない表情に、不思議がってみようとして、それより早くパチュリーの楽しげな含み笑いが聞こえた。

「ふふふ……咲夜、よくぞ知らせてくれたわ」
「はぁ……まあ、満足していただけなら幸いですが」
「早速、大図書館に運び込むわよ」
「収められていた書籍の数はそれ程多くもなかったようなので、すぐに終わると思います。妖精メイドを何人か手配しましょう」
「は? 咲夜何か勘違いしてない?」
「え……? いや、運び込むって、本をですよね?」
「ああ、まったく。これだから素人は……」
 
 心底がっかりしたように、パチュリーはわざとらしく一つ溜息をついた。
 しかし、そこで何かに気付いたように物体に向き合うと、訳が分かっていない咲夜を置き去りにして、唐突に宣言をやり始めた。

「やあやあ、同朋。大丈夫。安心して欲しい。従者にはちゃんと言っておくから。
 もうあなたは、あの陰惨たる腐食をもたらす忌々しい雨にも、蔵された貴重な書物を脅かす日照りと乾燥の脅威にも、残虐に肉体を朽ちさせる時間の魔手にも曝される事無いの。
 適正な管理と整備が保障された安穏たる環境がこれからのあなたの住所となる」

 怪訝な目付きを隠す事もなく、咲夜はパチュリーの視線の先を見た。
 辛うじて残る塗装に文字列は『――区自動車図書館』と読めた。
 
「咲夜、彼を大図書館に招き入れるわ。当然歓迎してくれるわよね?」

 何となく面倒くさいな事になったなぁとか、これなら最初から知らせず解体した方が良かったかもとか、咲夜はそんな事を考えていたけれど。
 パチュリーの口調は有無を言わせぬそれだったので、従者階級にある身としては当然頷く他の選択はない。
 ふふんと、パチュリーの満足げな鼻笑いが聞えた。








 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽








 ずきずき痛みが残る頭を押さえ、何やらやおら騒がしくなった一角へ姿を現した小悪魔は、そこで偉く場違いな光景を目撃する事となる。
 咲夜のなんとなく同情してるような瞳で、とりあえず仕事が増えた事は一瞬で理解できた。

「ああ……パチュリー様、珍しく何かしでかしたと思ったら、また碌でもな……もとい、野心的なそれで……」

 大図書館にどんと鎮座している、その巨大な錆くれは、やはりというか随分と異様に見えた。
 そもそも、自動車が保管される場所として、高級な赤絨毯の上がそぐわないのは明らかだった。

 倉庫でいいじゃないですかと、至極まっとうな咲夜の意見を封殺し、大図書館の中にそれを運び入れたパチュリーの表情は実に嬉しげだ。
 ちなみに、トンの単位で重量あるそれを移動させるのは、妖精メイドを何人動員しようが、大変な難事業になるはずだったが、パチュリーがその強大な魔力を盛大に無駄遣いして、ほいと空間転移させたらしい。そんな行動力があるなら、もっとまともなベクトルに使ってくれればいいのにと小悪魔は少し呆れながら思った。

「それで、パチュリー様。この鉄く……、もとい、野心的な箱は一体?」
「BM」
「はい? びーえむ?」

 それなりに専門性のある単語を、さも周知な如く語るのはパチュリーの偏屈な部分をよく表しているようだった。
 当然のように、なにそれおいしいの? な反応を返した小悪魔へ、これだから素人は……とパチュリーは侮蔑の一瞥を割かし理不尽にくれた。

「ブックモービル。自動車図書館とでも訳しましょうか。呼び方としては移動図書館が一般的みたいだけど。
 書籍を車両に搭載する事によって、唯一の弱点である機動力を克服した画期的な図書館だわ」

 あまり聞けない、溌剌とした口調だった。普段のぼそぼそ声とは違う朗々と響くそれ。
 こんなに大きな声出せたんだと咲夜は少し驚いた。

「多くは小型のバスを改造して運用されるわ。客席を設けず、代わりに本棚をずっしり搭載するわけね。このサイズの車両ならおよそ三千冊の書籍を内蔵する事ができるはずだわ」

 近くの本棚にパチュリーは手を伸ばす。
 英文で書かれた分厚い専門書のように見えた。ぱらぱらとめくりながら話を続ける。

「図書館学において、この移動図書館というやつは、とても興味深い分野だわ。一般的には図書館より遠距離にある地域へ教養を提供するために使われる。
 そのほかの運用法。またそれに伴う影響、コスト等おもしろい考察が沢山あるのだけど、まあその辺はあなたたちに言っても理解できないだろうし、今は割愛するわ」

 くくくと、壮絶なまでの自己満足の笑みを浮かべ、ぱたんと本をパチュリーは本を閉じる。

「とりあえず、今重要なのは、すなわち、これが図書館である事、その一点」

 カツカツと車両に近づいた彼女は、側面に誂られた、錆で殆ど隠れてしまっている取っ手をぎゅっと握った。手が赤茶色に汚れるのも気にせずに。
 ぐっと力を込めた。みしみしという数秒の軋みがあった。劣化しすぎたペンキがぼろぼろと落下した。
 そして、バタンと音を立ててそれは開かれた。

「さあ、小悪魔、咲夜。分かっているわね、我々が次に為すべき事を。すなわち彼のお腹を再び知識で満たしてあげること」

 比較的保存状態の良い、木製の棚のようだった。かつては、ここを一杯にするように、多くの書籍が収められていたのだろう。

「修理するわよ。彼にもう一度命を吹き込むの。協力してくれるわよね?」

 パチュリーのその滅多に見せない情熱に、殆ど押し切られるようにして、二人は顔を見合せながら、おずおずと頷いた。








 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽








 修理は、翌日の朝早くから早速開始された。
 ピンク色のつなぎに身を包んだ小悪魔が、作業のリーダーだ。
 
 錆を落とし、やすりをかけ、錆止めを挟み、ペンキを塗っていく。色はこの館の一員になるんだし、というパチュリーの意向で鮮やかな赤が選ばれた。
 今までになく騒がしくなった図書館内。しかしパチュリーは気にした様子もなく傍らで読書をしている。 

「少々不格好ですが、まあ仕方ないですよね。ええ、遠くから見ると中々味があっていいと思いますよ」

 べっこり穴が開いている部分には金属板を当てた。
 基本インドアな司書である小悪魔。こういう作業には不慣れな事もあって、補修した場所が明らかに浮いて見えたり、ペンキに塗りムラがあったりしたが、その辺は割かしアバウトに生きてる彼女の事。
 「どうせパチュリー様も気にしませんって」と楽観的にぐいぐい作業を進行させていった。

「溶接ですか……? はあ、まあやってやれない事はないと思いますが……」

 あんまりにも損傷が激しくて、もう小手先の補修ではどうにもなりそうにならない部分は、ごっそり新しい物にする事にした。
 幸い相談先の美鈴には板金に若干の知識があった。
 かつてはスクラップにしか見えなかったあの車両が、苦労の甲斐あって、徐々に現役の姿を取り戻しつつあった。
 一か所を除いては。

「パチュリー様。一つ問題があります」
「どうにかしなさい」
「出来ないから言ってるんです」

 小悪魔が指し示した先には、真っ赤に錆朽ちた鉄塊がある。そう、もはや鉄塊としか表現しようがないそれだ。

「あれの心臓部みたいなんですけど、すっかり駄目になってます。どうしましょうか?」

 原形を殆ど留めないそれは、いわゆるエンジンである。
 これがなければ当然、バスは走る事できず、ただの箱となり下がる。
 しかし、代わりを作る技術もなく、そもそも、新品を搭載出来たところで、車輪を駆動させるまでの機構を完成させる知識は小悪魔達に無かった。

「ああ、そんな事。簡単じゃない」

 事もなさげにパチュリーは答える。

「あら、パチュリー様、何か心当たりが?」
「ちょっと待ってなさい」

 読んでいた書物にしおりを挟み、車両に向かうとぶつぶつと何かを詠唱しはじめる。

 瞬間、新たなガラスをはめ込まれたばかりのヘッドライトが、眩しく輝いた。
 次いで響き渡るクラクション。
 突然の事にびっくりして、思わずパチュリーの後ろに隠れた小悪魔が、こわごわと顔を覗かせる。
 アイドリングの微かな震えを見せる移動図書館の姿がそこにあった。

「あの、パチュリーさま……これは?」
「魔法で解決できるような事、問題にもならないわ」

 その強大な魔力を、また盛大に振る舞った魔女によって、難題はあまりにあっさりと解決した。
 
「わぁ、パチュリー様相変わらずチート臭いですねぇ」
「いいから、さっさと作業に戻りなさい」

 再び本に目を落とし始めたパチュリーに、小悪魔は元気よくはーいと返した。
 何だかんだで、彼女は楽しんで作業していたらしい。

 さて、そのあと幾つかの細かい補修を経て、ともかく移動図書館は数年ぶりにかつての雄姿を取り戻したのだった。
 艶めく赤いボディは、どこか誇らしげなようにも見えた。
 そんな彼の姿に、パチュリーは満足げにひとつ頷いたのだった。








 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽








 その日、紅魔館には来客があった。
 上白沢慧音は、真面目で頑固で、何より性善説の半獣だ。
 一度は断られたが、誠実に頼み込めば必ず理解してくれると、そんな根拠のない確信を抱き、再びパチュリーへの依頼を携えてきたのだった。

「嫌だって、この前伝えた筈だけど」

 迎えるパチュリーの反応は、やはりというか冷淡なものだった。
 読んでいる本より視線をずらす事すらしない。

「まあ、そう言わず、少しだけでいいんだ」
「私は協力しないって言ってる」

 取りつく島もないパチュリーの態度に、慧音は一つ溜息をつく。
 見慣れぬ物体が目に入ったのはその時だった。

「おや、これは?」

 恐らく、図書館内に置いておくには些か不似合いな、その真っ赤な車両の正体をパチュリーに尋ねたところで、まともな回答は得られなかったのだと思う。
 ただ、このタイミングにおいてはパチュリーよりずっと話が通じる瀟洒な彼女がいた。

「ああ、確か移動図書館とかいう代物ですわ。動く事ができる図書館だとか」
「ちょ……咲夜。何勝手に洩らしてるのよ!」

 お茶菓子を用意しに来た咲夜は、声を荒らげたパチュリーにきょとんとしていた。

「あら? これ秘密だったのですか、パチュリー様」
「当然よ。最重要の機密だわ。漏れれば紅魔館の平穏が揺らぐ」
「あら、それは何だかロマンですわね」

 へえ、これ、そんなに凄い兵器だったんだ。こんなに赤いのにと、何を勘違いしたのか、目をキラキラさせ始めた咲夜にパチュリーは軽い頭痛を覚えた。
 この天然と突っ込む気にもなれなかった。
 そして、この頭痛がもっと酷くなりそうな事を、慧音の声で悟る。

「ほう……移動図書館。なるほど……」

 明らかな興味を湛えた声だった。
 彼女は善人だから、この辺り厄介なのだ。
 つまり、こんなに丁度いい物があるなら、当然貸してくれるはずだと、そういう信頼を無抵抗に浴びせてくる。

「改めて依頼する。人里に読書を普及させるための協力を願いたい。
 幸い。この移動図書館というやつは、それをするにうってつけのようだ。きっとみんな喜んでくれると思うし、あなたに感謝をするだろう」

 確かに移動図書館は確かに移動する事に意味があると言えばそうだ。しかしパチュリーはそれを分かって移動に積極的でない。
 自分の物なんだから、当然自分の手元にあるべきだという、収集家的な理由が大きいようだった。
 だから、当然慧音の申し出を拒否したいのだけど、その邪気のない笑みに、思わず交渉をごり押されそうになって。

「だ、だから駄目だって……!」

 荒らげた調子が残る声で抗う。
 頼み込む慧音と、拒絶し続けるパチュリーの構図がしばらく続いた。

 決着がついたのは、図書館への新たな訪問者の出現によってだ。

「別にいいじゃん?」

 至極軽い調子でレミリア・スカーレットはそう言った。
 暇つぶしに適当な本を物色しようと訪れた彼女が目にした二人の知識人の交渉合戦。

 少しばかり興味をそそられたレミリアは、傍らの咲夜に事情を聞き、そして先の一言に至る。

「つかさ、パチェ。あんたに常識を求めてる訳じゃないけど、こういうのは室内に置いとくべきじゃないと思うのよ。
 一応は、品位とかそういうのも考えないといけないわけだし。
 それに、こんなでっかい鉄の塊、ただ置いておくだけってのもどうかと思うの。使い道があるんでしょ? なら使えばいいじゃない」

 別に里の教養がどうとか、そういうのにレミリアは興味ない。
 ただ、紅魔館の名を売るいい機会だとは考えたらしい。

 ともかく鶴の一声である。
 依頼が聞き入れられて心底嬉しそうな慧音と、深い溜息をつくパチュリー。
 人里へ移動図書館を派出する計画は、なし崩し的に、この時発動したのだった。








 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽








「大体、レミィもレミィよ。自分が外に出るわけじゃないからって簡単に言ってくれちゃって。
 使い道がある? 使う方法を知って尚使わない事こそが最高の贅沢なのに。貴族の癖に風情がないわ。だからお子様扱いされるのよ」
「何いってんの? お姉ちゃん。それよりかさぁ、これどうやって動かすの? ちょっと乗せてよぉ」

 回想に耽るパチュリーを呼び戻したのは、無邪気な子どもたちの声だ。腕白な男の子たちは、サイドミラーに手をかけてバスの屋根に登ろうとしている。

「ちょっと、そっちに乗るわけ?! って、ええい、ここは図書館なんだから静かになさい」
「えぇ〜!! だって文字ばっかでつまんねーもん」
「だったら、帰れぇ!!」

 静かにしろと言ったパチュリーの声がけたたましく、広場に轟いた。

「わぁい、怒ったー!! 魔女につかまったら、鍋で煮込まれて薬にされるぞぉ」

 しかし、その怒声に怯んだ様子もなく悪童たちは、頭から蒸気を出したパチュリーをからかいながら逃げ出していった。

「まったくもう……いやんなっちゃう」

 頭を抱えてため息をこぼす。今回の一件でさらに人間嫌いに拍車がかかりそうだ。
 
 対照的に、小悪魔の方は今の仕事を心から楽しんでいた。社交的な彼女は、司書業務の傍らで、子どもたちと遊んだり、近所の奥様方の四方山話をしたりと楽しそうだ。
 少なくとも、蔵書に押しつぶされながら、さらに主人の我儘に閉口する大図書館よりは、開放的でお日様の日差しを浴びることができるこの仕事の方が、環境的にも心理的にも小悪魔にとっては、働きやすい職場であった。
 淫魔が日中に、しかも餌となるはずの人間と楽しく戯れている風景など、それ自体おかしな話と思われるかもしれない。けれど、もともと小悪魔の日常も終日本整理に明け暮れるしがない労働者暮らしなので、もはや悪魔の名前もどこへいったとしても何ら不思議ではなかった。

 もう一つの楽しみを上げるとすれば、外回りに辟易しているパチュリーをにやにやしながら眺めることで、日常の慰めをしてもらうというものである。せいぜいその程度のちょっとした意趣返しだ。しかし思いのほか、小悪魔のささやかな報復は成功していると言えた。
 のびのびと業務にあたる小悪魔の姿は、スパルタを強いるパチュリーに対するあてつけのように映り、無性に腹が立った。多少の嫉妬もあったことだろう。
 そして、人は、自分が不幸であると、他人も同じように不幸であることを望むものだ。パチュリーもその例に漏れず、小悪魔と一緒に被害者の会を開きたいと思っていた。主人である自分が不幸なら、従者もまた不幸であってしかり。
 だというのに、小悪魔と言えば、見せつけるように幸せオーラを醸し出している。しかも楽しそうにパチュリーを眺めているとくる。なにより、小悪魔が里で評判の図書館小町と噂されているのも気に食わない。
 何が爽やか図書館ガールだ、小悪魔なら悪魔らしく陰湿で寡黙な薄幸少女でも演じていろ、と思ったりもするのだが、それはそれで一部にコアな人気を博しそうになるのを、パチュリーは気付いていなかった。

 とにかく現状では、愚痴を聞かして明るい気持ちに水を差すことに甘んじることにした。

「そもそも……図書館を出すことは、誠に遺憾ながら、ええ、心底嫌々承諾したけれど、なんでシステム面まで私がやらないといけないのよ」

 その問いかけに対して、小悪魔はやれやれと肩をすくめる。

「いやいやパチュリー様。パチュリー様が里の人間には任せておけないって言ってたからじゃないですかぁ」
「そうよ。大切な同胞である書物たちをぞんざいに扱ってもらっちゃ困るもの」
「なら、いいじゃないですか」
「よくないわよ」

 小悪魔にとってみれば、こうして外に出る機会を与えられたのは天恵であった。慧音に感謝をしたいくらいだ。欲を言えば、パチュリーがあのまま大図書館にひきこもっていてくれればもっと羽を伸ばせたのだが、がさつな小悪魔の性格をよく知るパチュリーは、彼女を一人で里に行かせることを由としなかった。また、自分の管理の手を離れて、里の人間に蔵書を触れられるのも嫌だった。
 やりたくないけれど、やらざるを得ないという背反する葛藤を抱えて、悩みに悩み抜いた末に自分も里の移動図書館に参加することにしたのだ。

「いやいや、パチュリー様がいてくれたからこそ、円滑な図書業務ができるわけで。ほら、このカードだって画期的じゃないですか?!」

 これ以上不機嫌になると、大図書館に帰ったのち、ストレス発散の道具にされること請け合いである。
 身の危険を感じた小悪魔は機嫌を取り持とうと、パチュリーのシステムを褒めることにした。
 
 小悪魔が取り出したのは、この移動図書館限定で使える読書カードである。紅い蝙蝠が刻まれたそのカードには、黒い棒線の羅列が刻まれている。いざ利用者登録をすると、利用者情報をその棒線に記憶させる仕組みである。黒い棒線の太さと間隔の組み合わせで、10センチほどのコンパクトなカードにも、利用者ごとの差別化した情報を詰め込むことができる。外の世界で言うバーコードというものである。パチュリーの図書館学の知識には、現代図書館のシステムまで網羅されているのだ。

 そしてこのバーコードを活用した貸出システムが移動図書館には採用されている。
 ただ、幻想郷には磁気情報を読み取るバーコードリーダーがない。しかし、そんな機材を作る必要もなかった。移動図書館の原動機を直してみせたように、魔法でその機能を代用すればいいだけのこと。
 魔術刻印を読み取る知識と、それを外に出力する魔法さえあれば、コンピューターやバーコードリーダーなど無くても、何の問題もない。
 あとは、読み取った情報を記憶する媒体、これはパチュリーの頭であるが、こと本に限って言えば精密なスーパーコンピューターにも匹敵する処理能力があるので、こちらも問題はない。
 また、使役する小悪魔とも魔力供給で繋がっているので、その情報は小悪魔も管理できる。もちろん小悪魔だけでは暗記などできるはずもないので、この情報疎通は非常に重要なものである。
 ちなみに、貸し出す本に備え付けられたプレートには返却期限が浮かび上がり、二週間の貸出期間に応じて自動でカウントダウンされるようになっている。これがゼロになると、本は自動で図書館に転移されることとなり、利用者はペナルティを負うことになる。

「ふん、当り前よ。なって言ったって外の世界の最先端の技術を魔法で応用してるんだもの」

 鼻息を荒げて、そっぽを向くパチュリーであったが、存外に調子に乗ってほくそ笑む顔を目敏く小悪魔は確認した。

「いやぁ、本当にすごいですよ。磁気によって情報をやりとりする代わりに、魔術刻印を使うなんて!」

 重ねてヨイショ。この機を逃すわけにはいかない。

「発想の転換よ。磁気のバーコードは使えないけど、その仕組みを応用することで同じような機能を持たせることはできるのよ。憶えておきなさい、知識は臨機応変に使ってこそ知恵になるのよ」
 腰に手を当てて、ふんぞり返るパチュリーを見て、今夜は可愛がってもらえそうだと小悪魔は微笑む。

 ――知識人という輩は、気難しくて、不機嫌そうにしてる癖して、おだてられるのには滅法弱いんだから。それにパチュリー様は案外単純だし。そこが可愛らしいところだけど。

「まさにその通りですよ。まったく、里のみんなは、もっとパチュリー様に敬意を払うべきなんです。でもいずれはきっとパチュリー様の偉大さがわかる日がきますよ。だから、優しい私たちが哀れな里の連中のためにもうちょっと頑張ってあげましょう」
「ふん、まぁ、そうね。あと、もう少しだけならね」
「その意気ですよ」

 照れながらも、パチュリーは気を良くしてくれたようだ。当面の懸案事項も解消できたことに小悪魔は満足する。
 と、呑気にパチュリーの相手をしていて気付かなかったが、だいぶ広場も閑散として来ているようであった。遠く見える山の端に紅に燃える夕日が沈んでいく。天球の上方では、藍色に染まった夜空が迫ってきて、もう少しすれば一番星が見つけられるかもしれない。
 遊んでいた子どもたちも、夕飯の香りに誘われて、足早に帰路につく。そろそろ、閉館の時間であるようだ。

 小悪魔は開いた書架をスライドさせる。迫り出していた本棚をバスの横腹に詰め込んで、帰宅の準備を進める。そして景気よくドアを引いて、一日の労を吹き飛ばす。あとに待ってるのは美味しい夕食と閨での一時だ。
 さて、これで運転して帰るだけだ、と軽い足取りで運転席に向かうと、子どもたちに手を振ってお別れをした慧音が近づいてきた。小悪魔の背筋に悪寒めいたものが走った。

「今日もお疲れ様」

 慧音は、笑顔で一日の労を労ってくれた。
 パチュリーはつっけんどんに「ありがと」と返す。
 小悪魔は内心はらはらしながら、その様子を見つめている。せっかく取り持った機嫌が、慧音の登場により陰りが見え始めてきていた。
 パチュリーにとって、慧音は怨敵そのもの。顔を見たくないのが本音である。しかし性善説の塊の先生様は、自分が嫌われている理由を知ってるはずであろうに、それでも、いつかは仲良くなれるとでも思って声をかけているのだろう。気にした様子すらもない。
 そして、慧音は、思ったことを口にすぐ出すタイプで、先生だけあって礼儀に厳しい。

「まったく、そんな言い方しかできないのか、だから」
「わああああああ、ちょっと慧音さん! 小言は結構ですから!」

 全く空気が読めていない。そんな説教をされたら、と小悪魔がおそるおそるパチュリーの顔を見ると、案の定、大層御立腹なふくれ面をしているのが見えた。
 慌てて、慧音の言葉を制して、それ以上の苦情を言われるのを止めたが、慧音はまだ言い足りなさそうだった。だが、必死の形相の小悪魔に気押されて、仕方なく慧音は引き下がることにした。

「まぁ、とにかく。里のみんなもパチュリー殿に期待してるんだ。しっかりやってくれると助かる。それでは」
 むくれたパチュリーを尻目に、一転して快活な笑顔を浮かべて、慧音は肩を叩いて去って行った。

 ――どこまでお人好しなんだ?! こいつはぁ……。

 嵐が過ぎ去り、僅かな静寂が訪れる。固まった空気に思わず冷や汗を流した小悪魔に、「帰るわよ」という怒気を孕んだ声がかけられる。
 これから紅魔館に帰るまで、狭い車内で延々と愚痴を聞かされることを予期して、小悪魔の瞳からは一筋の涙が流れた。








 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽








 十分な盛況で幕を開けたパチュリーの移動図書館。こういう物珍しいものには、様々な手合いが勝手に集まるものだ。例えば彼女のケース。

 ちょっかいを出してくるだろうことは分かりきっていた。珍しい、しかも外からの乗り物。中身は本。誰でも利用することが出来る。ここまでの要素が揃えば来ない方がおかしいと言える。確かに来ないのはおかしい、が、最高速で突っ込んでくるのはもっとおかしいだろ。
 衝撃のほとんどがあらかじめ施しておいた防護壁に吸い込まれていったが流石に耐え切れなかったのか、中の本が数冊バサバサと音を立てて下に落ちた。運転席のパチュリーは生来気難しい顔に皺を寄せ窓から外の様子を伺った。小悪魔が口をぽかんと開けたった今突撃してきた“利用者”を見ている。パチュリーは心底うんざりした口調で話しかけた。

「営業妨害するつもりなら帰れ、黒白」
「何だ結構な口を利くじゃないか、司書殿?」

 スカートに付いた埃をぱんぱんと払い魔理沙が答える。不敵な笑みを浮かべ目には好奇心、スカートに記された自身の頭文字ははてさて自己顕示欲の表れか。鬱陶しいことこの上ない。全く悪びれていない様子にも憤りを通り越してため息しか出てこない。
 一息ついたところで小悪魔は通常業務に戻り、何事かと立ち止まっていた里の人間も動き始める。当事者である魔理沙は車体をぐるっと一周し興味深そうに赤いボディを見つめていた。手で感触を確かめながら何やら頷いたり首をかしげたりしている。懐からは手帳を取り出し熱心に外見のスケッチや気になったこと、特徴などを書き留めていく。ちょうどその調査が運転席下のタイヤに達したところ。頭上から声。

「何しに来たの? 見物? それとも単なる冷やかしかしら」
「部屋貸し? 本を借りに来たに決まってんだろ、何素っ頓狂なこと言ってんだお前」

 小悪魔には確かに血管が浮かび上がる音が聞こえた。次に聞こえるのは血管が切れる音か。対する魔理沙は全く意に介していない。相手の怒りに気付いていないのかあえて無視しているのかは定かではない。
 やがて興味は中の本へと移ったのか魔理沙はしげしげと本棚を観察し始めた。目についた本を取り出してはページを捲りまた戻す。里の人間を対象にしているせいか、童話やら昔話などの簡単な内容のものが多い。しかし中には外の世界に関する文献や魔道書などもちらほら混じっておりそれが増々魔理沙の好奇心を刺激した。

「これ、貸してくれるんだろ? 無料で」
「言っておくけど貸すだけだからね」
「分かってるよ、それくらい」
「“盗む”と“借りる”が同義になってるあなたの辞書だと不安で不安でしょうがないわ」
「んな辞書は不良品だ。とっとと返品しちまえ」

 結局魔理沙は長いこと本を物色した後、数冊の本(『魔法陣と情報伝達』、『怪異の民俗学』、何故か『金子みすゞ詩集』)を引っ張り出してパチュリーに手渡した。受け取った本を興味なさげに確認し、パチュリーは座席の奥からごそごそとカードを一枚取り出した。

「何だそりゃ」
「読書カード。利用状況を管理するためのモノよ。つべこべ言わずにこの線を指でなぞって」
「へえへえ」
「“へえ”は三回で十分」
「増えるのかよ」

 差し出されたカードに引かれた線をすっと指でなぞる。線に淡い光が灯ると思うと直ぐに消えてしまった。

「登録完了。次からはこれ持ってこないと利用出来ないからね」
「刻印術の類か? 味なことするなお前も」
「期限は二週間。無断延長は認められないから」
「へえへえへえ」
「期限は二週間。無断延長は認められないから」
「何故繰り返す」
「大事なことだからよ」

 何か釈然としない表情を浮かべながらも、取り敢えずは満足気味に魔理沙は本を受け取った。

「返しなさいよ」
「返すよ、多分な」

 一応はそう言い残し黒い塊は来た時と同じように最高速で飛び去っていった。



 ∽∽∽∽



 二週間という期間は特に意識しないと意外なほど早く過ぎるものである。魔理沙にとってもそれは例外でも何でもない。さて、彼女は借りた三冊の本を二日もしないうちに読み終えた。新たに得た知識も認識を改めざるを得ないような概念もあった。それらをオリジナルのグリモアに纏め、実験し、自らの知識として定着させようと彼女なりの努力を積み重ねた。
 それで満足してしまった。満足してしまったのだ。使い終わった知識の塊は再び使うまで彼女の倉庫に仕舞われる。正確に言うと積み重なった実験器具や拾ってきた道具の山に埋もれてしまう、だ。それらは終わったものとして扱われ彼女の脳内から一旦は削除されることとなる。
 削除されたモノをどうこうすることなど誰が出来ようか。当然、期限当日も貸し出された本たちは依然山の中というわけである。その日パチュリーは終日眉間にシワを寄せていた。思わず小悪魔が引いてしまうほどである。だがパチュリーは動かない、小悪魔を使って催促することもない。その理由は深夜、日付が変わる瞬間、魔理沙邸で判明した。
 魔理沙は遅くまで起きていることが多い。実験の結果を考察したり文献を漁ったりしているといつの間にか辺りは闇に包まれてしまっている、ということがほとんどなのだ。その日もランプの光を頼りに虫たちのさえずりを鬱陶しく思いながら机と向き合っていた。

 ──ガサッ

 音がした。最初積み上げた山がとうとう崩れたのかと思った。やれやれ、と振り向いた時にはもう遅かった。既に視界には本の背表紙に書かれたタイトルが広がっていたのだ。瞬間、鈍く重い音が家の中と頭の中で鳴り響いた。

「がっ!!」

 本の角というのは今更言及するまでもなく、痛い。とてつもなく痛い。しかもそれが三冊同時となれば尚更だ。魔理沙は一瞬意識が飛びかけた。目の裏に広がる星の海を何とか振り払い、辺りの状況を確認しようとした時には『、』既に本には淡い魔法陣が浮かび今まさに姿を消そうとしていた。

「あ! こらてめえ待ちやがれ!」

 手を伸ばすが間に合わない。虚しくも反撃は空を切り、腕を振り下ろした反動で蹈鞴を踏んでしまった。

(時限式の移動魔法陣か? しかも小型かつ対象への攻撃も組み込むとかお前)
「なんつーめんどいことを……!」

 痺れる額を押さえつつ怒りやら感心やらがごちゃ混ぜになったまま、魔理沙はその夜を過ごすこととなった。



 ∽∽∽



 翌日のことである。
 抗議してくるだろうことは分かりきっていた。延滞のペナルティは当然あの黒白にも与えられたに違いない。本も無事元の場所に収まっているということは、きちんと施していた術が作動したのだろう。奴は絶対に文句を言う、パチュリーはそう思っていた。何かしら攻撃を受けるだろうとも。
 いきなり超高圧のエネルギー波をぶち当てられるとは思ってもみなかった。町中だぞ、おい。
 轟音と砂煙が移動図書館の周りに広がった。

 ──や、やったか!?

 やってない、誰だ今言ったの。パチュリーは抗議という名の攻撃を見越して防護壁を重ねがけしていたのだ。当然、図書館は無事だが衝撃で本は散乱した。小悪魔が声にならない悲鳴を上げている。
 騒ぎの張本人はパチュリーの頭上で舌打ちを打ち、すーっと下に降りてきた。パチュリーが窓を開ける。

「町中で八卦炉とか頭が沸いてるの?」
「蔵書一つ一つに時限式の魔法陣を組み込むことのほうがよっぽど沸いてらぁ」
「これくらいなら、余裕。ただ本家は無理ね。未だに蔵書量すら把握できてないもの」
「はん、随分とズボラな司書様だな?」
「ええ本当にね」

 パチュリーの目線は魔理沙ではなく、その後ろ。小悪魔が一瞬体を強ばらせたがそのまま作業を進めた。若干涙目で。

「で、今日は何の用?」
「私の顔に傷を付けた復讐だ! ……と言いたいところだが止めた。色々興味あることも増えたんでな」
「ご利用ならカード出してね」
「いや、もうカードは使わん」
「無断で持ち出しても同じ魔法陣が発動するわよ」
「だろうな。だから私はっと」

 風を切る音、目の前から消えた魔理沙を追って頭上に目を向けると靴の裏が視界を遮った。屋根に腰掛けながら魔理沙は得意げにパチュリーを見下ろした。

「今日からここで本を読むことにする。面倒な手続きも何も無しだ」
「邪魔」
「猫だと思っとけ」
「猫度満点にしてあげるからさっさと帰れ」
「断る」

 はぁ、と一つ深い溜息をつきパチュリーは窓から顔を引っ込めた。もうこの人間に対して労力を割くことは止めよう、無駄だ。暖簾に腕押し、現状維持ならば実害は出ないだろう。
 そう自分に言い聞かせパチュリーは真上から聞こえる物音をシャットダウンした。

 以来図書館の屋根に、黒白の猫が住み着いたという。居心地は定かではない。








 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽








「あらあらごきげんよう」

 そんな軽い挨拶を投げ、他の利用客と混じるように、或いはさも当然なように蔵書を物色し始めた魔法使いの姿にパチュリーは顔をしかめた。

「どうしてあなたがここにいるのかしら?」
「私がいて何か不都合でも?」
「いや、まあ、そういう訳じゃないんだけど……」

 蜂蜜色の柔らかな髪が艶めく。
 アリス・マーガトロイド。知らない仲ではない。
 というか、引き籠りがちなパチュリーの交友関係の中では、比較的親しい部類に入る。
 彼女はしばしば大図書館に本を借りに来る事があったし、時折魔術関連で意見の交換を行う事もある。

「あなたが珍しい事やってるて聞いてね。そりゃ興味沸くわよ。
 それにわざわざ紅魔館まで出かけなくても、近場で用を済ませられるなら、利用しない手はないわよね」
「むう……」

 アリスの言う事は真っ当であったし、それに平素からの態度が魔理沙のそれと違ってずっと常識的で、何より役に立つ知識を多く持つ彼女だから、とりあえず仲良くしておきたいのはパチュリーの本音でもあって。

「魔道書の類は奥の棚だわ」

 だから、それ以上は文句も言わず、おそらくアリスが欲しているであろう書物の所在を素直に教える。
 あまり里の人間にこの手の書物は需要がないが、パチュリー本人が時間を潰すために相当量が搭載されていた。
 「ありがと」と短くアリスは礼を述べると、バスの中、足を進めていく。

「あら?」

 しかし数歩も行かず彼女の足は止まった。訝しげな視線を送るパチュリー。

「珍しいわね。というか初めて見たかも。あなたの図書館、こういうのも扱ってたんだ」

 本棚より引き抜いかれたその一冊は、普段彼女がよく目を通す書籍とくらべて明らかに薄かった。
 絵本。
 平易な単語とふんだんな平仮名で綴られた文章。柔らかい挿絵。
 実用性皆無と大図書館の主は言うだろう。きっとあの広大な図書館を隅から隅まで探しても殆ど見つける事が出来ないであろうそれにアリスは不思議そうな顔をした。

「ああ、それね。この図書館が幻想入りした時、中に収まってたのよ。抜き取るのも面倒だし、そのまま運んできた」
「なるほどね」

 ぺらぺらとアリスは絵本のページをめくる。
 悪い魔女に騙された美しい御姫様。幻想的な住人の優しい献身。最後は王子様のキスで大団円。

 子供騙しな、しかし、アリスにとってはどこか懐かしい世界がその中に広がっていた。
 「神綺さま……」そんな呟きが小さく聞えた。ふと彼女の頭をよぎったのは、毎晩寝る前に読み聞かせをしてくれた、偉大なる創造主であったのだろう。

 そろそろお休みしましょうと閉じられた絵本に、続きを聞かせてと駄々こねられて困り顔な彼女を思い出して、アリスはくすりと笑みを零した。

「パチュリー。ちょっとこれ借りて行くわね」

 ぱたりとそれのページを閉じたアリスは、いくつかの絵本を棚から抜き出し、脇に抱えた。

「そんなのを読みたがるなんて、何だからしくないわね。あなたも実用性重視の魔法使いだって思ってたから」
「ちょっと懐かしくなってね。それに割と切実に必要なのよ。人形劇のシナリオの参考にしたいのだわ」

 人形劇。
 そういや、彼女はしばしば里でそんな事をやっているんだとか、鴉天狗の新聞で読んだ気もする。

「そんな子供騙し読むならもっといい選択肢がある気がするけどね」
「子供騙しだからいいのよ。だって、子供相手の勝負なんだから」
「あんな軽薄なストーリーにそれほどの価値があるようには思えないけど。うわべだけの善人が好みそうな話」
「薄っぺらい、いい話。大いに結構じゃない。人々は結局綺麗なハッピーエンドが好きなのだわ。
 シンデレラはあくまで心優しい薄幸の少女であるべきで、継母や義姉に陰惨たる復讐なんて考えもしないし。継母と義姉も最後は心を入れ替えてシンデレラの善良な理解者となるのだわ。
 靴のサイズが合わないからって、手斧で踵を切り落とすなんて以ての外。グロいあのグリム版原本とか子供に見せたらトラウマになるでしょ」
「お伽噺には、多くの場合重要な教訓が含まれている。それを軽薄にも美談に仕上げてしまったら、何の意味もないじゃない」
「あなたは引き籠ってばっかりだから知らないかもしれないけど、説教とエンターティメントは概ね相反するのだわ。とても重要な基本よ。
 そして私が目指すところは説法みたく堅苦しい倫理の啓蒙じゃなくて、ちょっとした暇を有意義に埋めてくれるエンターテイメント。なら何も問題はないわね」

 そもそも口の上手さではアリスの方が上だ。伊達に人里でパフォーマンスの経験を積んでいない。
 それに彼女は理不尽な事を強弁しない代わりに、十分正論と呼べそうな言を堂々と展開してくるからより厄介だった。

 むうと、パチュリーは少し不平そうに何度か唸った。
 取り立て非難出来そうな部分もなかったので、貸し出しを断るだけの理由もなく。

 アリスが差しだしてきたカードにパチュリーは指先を触れた。

「ありがと。人形劇、完成したら見せてあげるわ」
「別に興味はないんだけどね……」
「そう言わない。たまには童心に触れてかつての新鮮な気持ちを取り戻すのも大事よ」
「必要ないわ。今の自分が充実してるから」

 なんだか、にやにやとした笑顔で、アリスはカードを受け取る。不機嫌なパチュリーが面白かったのかもしれない。
 微妙に気に食わない表情だったけれど、それを顔に出すと、それなり以上に性格の悪いこの魔法使いを更に喜ばせるだけだけだろうから、仏頂面を押し通した。

「じゃ、また来るわね」

 最後にそう言い残して、アリスは去って行った。
 ふわりと、甘い香水の香りが微かに残っていた。何となく疲れを感じて、パチュリーは一つ溜息をついた。



 ∽∽∽



 数日後。相変わらずバスに群がり、わいわいがやがやしている里の住人に、パチュリーの表情は相変わらず渋いままだった。
 そろそろ物珍しさも薄れてきただろうに、どれだけ暇人ばかりなのかしら。ぼそりと呟く。

 幾らかの苛立ちを封殺するように、視線と思考を手にした書物のページに戻す。戻そうとした。
 結局、その試みが成功しなかったのは、つまり今までのそれよりも明らかに大きな群衆のざわめきを聞いたからだ。

 ばたんと、いささか乱暴に音を立てて本を閉じる。
 バスの外に出た。人だかり。
 その中央に、よく見知った顔を見つけて。彼女の髪は陽光に輝いてよく目立つ蜂蜜色だ。

「アリス……一体なにかしらこれ?」
「人形劇。完成したから見せに来てあげたわよ」
「騒がしいのは嫌いだわ」
「元々十分騒がしいでしょうに。音源が一つ増えるくらい誤差の範囲よ」

 テーブルの上には、すでに人形や小道具がセッティング完了されている。
 そして、どうやら、アリスはこのまま押し問答を続けるつもりはないらしい。
 朗々と声が響く。

「観衆の皆さまこんにちわ。アリス・マーガトロイドの人形劇、ただいまより開演致します。
 なお、この演目は、移動図書館の主であります、彼女、パチュリー・ノーレッジ女史の全面的な協力を得てクリエイトされました。
 左様。彼女の存在がなければ、そもそもこの演目はこの世に存在すらしなかったのです。
 言うなれば彼女は母親。さあ、この偉大なる知とエンターティメントの理解者に、皆さま盛大な拍手をお願いします!」

 ちょっとした嵐みたいな拍手だった。音量にびっくりして思わず耳をふさぎたくなる。
 そして、四方八方からのやたらきらきらした期待で一杯な瞳。
 ううっ……っと、呻いてパチュリーは数歩後ずさる。

 このシチュエーションでアリスへと文句を言ったなら、きっと空気が読めない女の烙印を押されてしまうだろう。

『パチュリー様ったら、相変わらずですねぇ。ぷ……ぷぷっ!』

 脳内に沸いた小悪魔のうざい笑みに、広辞苑の角で制裁を与えるが、それで事態が好転するはずもなく。
 アリスの狡猾な策謀に完全に嵌った事をパチュリーは悟る。
 アリスはぱっと見、善良さで一杯な笑顔をパチュリーへと向けていた。

「……し、仕方ないわね。この前、完成したら是非見てほしいって言ってたしね。いいでしょ、あなたの演目が私の審美眼に適うか、見極めてあげる」

 アリスは心底愉快そうににやりと唇を歪めた。
 一瞬ちらついた腹黒い本質を、しかし次の刹那には、例の善良で爽やかな笑顔で塗り隠し、普段より半オクターブ高い口上で演目の開始を宣言する。

 ストーリー自体はなんでもない、ごくごく平凡な“いい話”だった。
 悪役も味方も主人公も、最後は一つの輪になって愛と友情の賛歌を朗々と唄い上げるような。下らない。

 しかし、アリスの人形操者としての腕前は称賛せざるを得ないものだったし、彼女の紡ぐ物語を見つめる少年少女の瞳があんまりにも邪気が無かったものだから。

「明日もまた頼むわ」

 全く以って社交辞令のそれだったけど、言わざる得ない程にアリスの人形劇に欠点がなかった訳で。
 腕一本で偏屈者の魔女からこの台詞を引き出し、アリスは心底満足そうだった。

「もちろんですわ。対価は新しい絵本の貸し出しでいいから」

 それからしばらくの期間、アリスの人形劇はバスの隣で定期的に開催される事となった。
 騒がしさを増した広場に、やれやれとパチュリーは溜息をついて、もう気にしない事にしようと、本の中に意識を集中させたのだった。








 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽








 パチュリーの嫌いな天気に雨がある。ちなみに晴れは日差しが煩わしく、雪は寒いから嫌いである。つまるところ外の天気全てが嫌いだ。

 ただ、雨はその中でも嫌いな天気だ。雨が降ると湿度が上がる。じめじめとした空気はそれだけで不快だ。
 図書館に引きこもっている時でさえ、袖に張り付く皮膚が気持ち悪かったのだ。
 しかも紙にとって湿気は劣化の原因になる。頁はめくりにくい。破けやすい。しわになる、と本にしてみれば最悪の天気だ。

 ましてここは外である。突如降り出した雨に、パチュリーは急いで書架の扉を閉めに行った。傘をさしてはいたが、その際に跳ねた水滴でパチュリーのスカートと靴下が濡れている。
 閉め切ったバスの車内は換気が悪く対流が生じないため、空気が淀む。車内の不快指数は時の経過てともに二乗倍で加算されていった。

 雨の日など図書館に篭っていればよかったのだが、生憎午前の内は晴れていた。
 だから、こうしていつものようにバスを出したのだが、夕立とは予想外だった。にぎあう頃合いであるはずなのに、広場にはほとんど人がいない。
 帰ってしまいたい、とパチュリーは思う。何を好き好んで劣悪な環境で読書をしなければならないのか。苛々しながら読んでは本が可哀相というものである。
 帰りたい、だが、帰れないのだ。それは連れの小悪魔が不在だからである。そもそもパチュリーが一人で来ていたならとっくに紅魔館に帰っている。いや正確には移動図書館で来なければ、だ。

 今現在、運転手の小悪魔は、足の不自由な子どもの家に本の宅配で出払っている。だから、パチュリーは留守番をしているのだ。

 出て行ったのは、雨が降る大分前になるが、おしゃべりな小悪魔なことだ。鉄砲玉のように戻ってこないのは明白だった。
 それにこの雨である。たたでさえ、おしゃべりしたいというに、雨なんか降っていようものなら、油売りの口実を与えるだけだ。

 だから、パチュリー・ノーレッジは今日も憂鬱だった。

 文を紡ぐ意識に、耳障りな音が聞こえる。みずたまりに足がはまって弾む音が断続的からはっきり聞こえるようになり、次第に足音が近づいてきた。
 一瞬小悪魔かと期待したパチュリーだったが、すぐに思い直した。
 小悪魔ならあんな汚く音を立てずに帰ってパチュリーを驚かすか、もっと激しく遊びながら帰ってくるかのどっちがだ。

 結論が出るのと同時に足音が止まる。そして勢いよくドアが開かれた。

「う、うらめしやー!!」

 パチュリーは、視線を本に落としたまま無言でドアを閉めた。

「ちょっとー雨って言ったら傘、傘と言ったらこの小傘を無視するなぁ!!」

 がんがんとサイドガラスを叩くのは、唐笠お化けの多々良小傘だ。
 パチュリーはやっと小傘に視線を合わせると、ガラスに指を伝わらして文字を書く。

 ――ごめんなさい、ドアが閉まってるから聞こえないわ――

 それを見た小傘は、再度勢いよくドアを開いて、同じ台詞を言う前にパチュリーにはたかれた。

「雨が入るでしょ!」

 怒鳴りながらパチュリーは、小傘の鼻先でドアをバタンとしめる。

 流石に小傘は涙目である。腫れた頬をなでながら、窓越しにパチュリーに懇願する。唐傘お化けなのに、傘を放り出して雨に打たれる小傘。この哀愁に満ちた姿にパチュリーも情が生じたのか、仕方なくドアを開けて小傘を招き入れた。

 ただそれだけだった。特に小傘に構うつもりなどなかった。
 厄介事になりそうだから極力会話を避けたい、とパチュリーは思っていた。
 
 ただ、パチュリーは本が濡れるのは嫌だった。小傘が風邪を引こうが知ったこっちゃないのだが、そのままの体で動き回られると本がびしょびしょになってしまう。パチュリーは仕方なく小傘にタオルを渡した。
 だがその際、パチュリーは何も語らなかったので、小傘はどうやらパチュリーが親切にしてくれたと勘違いしててしまった。

 だから訊いてもいないのに、身の上話までされてしまった。

「……そしたら、あの緑巫女が言うんです。
  『デザインセンスのかけらもない。持ち主の趣味を疑うわ。あぁ、外の言葉だとわからないか。
   つまり、いとおかしってことよ。こんなところで古典の知識が役に立つとはね。
   はい、アンタはわかったら帰りなさい。退治しちゃうわよ』
 って。」

「『を』かしって大変風流で趣があるっていう意味ですよね。それくらいわちきにもわかるのに、あの巫女、その言葉を『お』かしいって思って使ってるんです。そんな阿呆巫女に馬鹿にされるなんて、我慢できません」

「だいたい、自分だって腋丸出しのあられもない恰好してるのに、小傘のことを言うとか、ずるくないですか? そっちの方がずっと恥ずかしいです。殿方を誘ってるようにしか見えません」

 相槌すら打ってないのに勢いでまくし立てる小傘の根性に、パチュリーは、ある意味驚きを隠せなかった。ちなみにパチュリーは半分も真面目に聞いていない。しかし、そんな聞き手として失礼な態度をとったパチュリーに気付かず、小傘は続けて言う。

「悔しいから小傘、お勉強します。怪談話貸してください」

 ここで断ってもまた、何か言われるだろうし、何より関わるのが面倒臭かった。パチュリーが乗車席からつながった後方にある書架の棚を指差すと、小傘は意気揚々と飛び出して行った。やかましい来客から解放されたパチュリーは、本を開きなおすと、自分の世界に落ちていった。
 これでやっとゆっくり本が読めると安堵したパチュリーは数分後、小傘が半ベソで帰って来た時には、特級のアグニシャインをぶちかましそうになった。

「書架暗くて怖いです。雨の音が怖いです。目次の文字から怖いなんて反則です」

 振り払おうとするパチュリーの足にしがみついて喚く小傘を、本の角で殴りつけて黙らせる。
 しばらく悶えていた小傘だったが、殴られた頭をおさえながら、パチュリーに恐る恐る切り出した。

「小傘、一人じゃ読めないから、怪談を聞かせて欲しいです」

 その言葉を聞いて、我慢の限界とばかりに棚に戻されていなかった近くの百科事典を振り上げる。パチュリーの激怒に小傘はすくみ上がって小さくなった。
 しかし、その事典が小傘にたたきつけられることはなかった。パチュリーの目の前には、手で頭を守りながら目をつむり、小さく震える小傘の姿がある。
 そう、縮こまる小傘の態度を見て、パチュリーは嗜虐心を刺激させられたのだ。

 ――さっきから、いちいちかわいいことしてくれるじゃない。

 不機嫌だったパチュリーは、その腹いせをこの可愛い唐傘お化けにぶつけることにした。苛々が募り、爆発寸前だったこの心。パチュリーは小傘が泣こうが喚こうが、この可愛い少女で自身の鬱憤を晴らそうとその心に決めた。むしろ小傘が、泣いて叫んで喚き散らして、たじろぎすくみ上がって狂ってしまうことを望んだ。徹頭徹尾徹底的に痛めつけて、ストレス解消の材料にしてやろう。
 思っただけでなんと甘美な妄想なのだろうか、とパチュリーは気持ちが明るくなるのを感じた。
 非常に楽しみである。わかりやすい反応を示してくれることは請け合いだ。
 俄然、やる気になってくる。

 パチュリーは、湧き上がる邪な感情を無理やり押し込んで、にやけた笑みを微笑みに変えて小傘に答える。

「わかったわ」
「へ?」

 小傘が聞いた声色は、殴って来た時の様子とは打って変わって静かで優しかった。だから思わず、呆けた声が、息と一緒に零れた。

「えぇ、聞かせてあげる」

 優しく微笑んだパチュリーに、つられて小傘もえへへと笑う。期待に満ちた瞳を向けられ、パチュリーは今までの笑みをさらに歪めて言う。

「ただし、最後まで逃がさない」

 背筋に悪寒めいたものを感じた小傘は、本能的な直感に従って逃避行動を取る。狭いバスの中だ。三歩も行かず、外に飛び出せるだろう。
 しかし、先行する思いとは裏腹に思うように足が動かない。怯んで動けないのか。小傘は歯噛みしながら自分の足を見る。
 すると、足下には六芒星の魔方陣が鈍く発光していた。額から汗が頬へ流れ落ちる。顎の下に雫がたまり、こぼれおちんばかりに膨らんでいく。それと同じくして小傘の焦りも増大していく。
 足元に向けた視線をゆっくりと上へ向けると、そこには、それは凄絶に口が裂けたパチュリーの姿があった。



 ∽∽∽



 それから、一時間に渡って、パチュリーの朗読会が催された。
 いつまで経っても帰ってこない小悪魔に対しての不満も上乗せされたパチュリーの感情は、一握の慈悲も、少しの憐憫も、毛ほどの情もなく、小傘の心を粉々に叩き壊し、その粉塵すらも一片たりとも残さずすり潰した。
 降りしきる雨の中、ぽつんと取り残された移動図書館の中から、この世の終わりとも知れない絶叫が絶え間なく響き渡り、里の人々の恐怖を煽る。
 絶叫の後にはすすりなく声が、いつまでも耳に残り、聞く者の同情を誘う。しかし、それはパチュリーにとっては逆効果だった。
 めそめそとスカートの端で涙を拭く小傘に、パチュリーはさらに劣情を抱いた。耳を塞ごうにも魔法の力で頭に直接響く声に身じろぐしかできない小傘。パチュリーは顔が上気するのを感じながらも、その狂おしいまでの劣情に身を任した。

「……そして、振り向いた先には、破れた傘をさす青白い女の姿があった。と、おしまい」

 ようやくのことでまさに地獄の朗読を終えた。精魂尽き果てた小傘は肩口でハァハァと息をしながら、どこか遠い何かを見ているような顔をしていた。

 そんな小傘の様子に満足したのか、パチュリーは、涙と鼻水まみれの小傘の顔をハンカチで拭ってあげた。
 小刻みに震える体を抱きながら、パチュリーは刹那的な衝動が生まれるのを感じていた。
 パチュリーは、一線を越えようとする破滅的な欲求を何とか押しとどめる。いつまでもこの甘い一時酔いしれているわけにも行かない。辺りは、夕闇に包まれて、すっかり夜の様相を呈していた。

「さぁいつまでも泣いてないでおうちにお帰り」

 パチュリーは小傘を宥めすかして、帰宅するように促した。
 しかし、小傘はいやいやと首を横に振る。

「暗い夜道、小傘一人で帰れません。助けて下さい」
 あまりに怖がらせすぎたかと、パチュリーは少し後悔した。思考レベルが子どもと同じだけあって、勇気も子どもレベルだ。いや、近所悪童の方がよっぽど勇敢だ。

「そんなこと言われてもねぇ」
 
 困ったパチュリーが適当にあしらおうとすると、小傘は恥じらいを覚えつつも、びしょ濡れの体を抱いて顔を赤らめた。

「小傘をこんなんにしたんです。責任、とってくださいね」
「ただいま戻りました。パチュリー様!」

 そしてその小傘の言葉が発せられた絶妙なタイミングで、小悪魔が運転席のドアを開けて押し入ってきた。
 固まる小悪魔。眼前には、足が震えて小鹿のように座り込む、頬を朱に染めた小傘と、困惑して慌てふためくパチュリー。

「え、パチュリー様……私に隠れてそんなことを! うらやまけしからん」

 もう全てを諦めたパチュリーはどうにでもなれ、とため息をついて座席にもたれかかった。



 ∽∽∽



 成り行きで、紅魔館まで連れてくることになった小傘だったが、基本的に人当たりの良い小悪魔がうまくあやして、気持ちを落ち着かせてくれた。
 図書館のテーブルで夕飯を囲むころには、ついさっきのトラウマを忘れてしまったかのように明るく振る舞う小傘の姿があった。

「怖い話はわかったけど、一体小傘は何がいけないのかなぁ
 雨の日だったらわちきのステージなのに」

 小傘は、ロッキングチェアに腰掛けて魔導書を手繰るパチュリーに話しかける。
 夕飯も終わり、食後の読書タイムといったところだ。一方の小傘は、図書館のその蔵書量に目を白黒させながらも怪談話を探していた。
 午後にパチュリーから怪談を聞いただけあって、多少の耐性はできたようだ。

 話しかけられたパチュリーはめんどくさいながらも、その疑問に理論的に答えてやった。

「大体雨の日に傘なんて予想できて驚かないわ。出てくるってわかっていたら、あぁやっぱり出てきたーってなるものよ。現実と想像の乖離、現象の不確実性、その事象が予期できない未知のものであればあるほど、人は驚くものよ」
「うぅ、難しくて小傘わかんない。つまりわちきはどうしたらいいの?」
「具体的にいえば、そうね。静まり返った場所で大声を出す」
「うん、他には?」
「例えばあるべきものがない、いるべきでないものがある」

 数秒ほど考え込んだ後、小傘はポンと手を叩き飛び上がった。

「わかったよ。小傘!」

 本当にわかったのかパチュリーは不安だったが、そこまで心を配る義理もない。

「そう」

 パチュリーは、一言返して読書に戻った。それからけたたましい騒音が聞こえ始めたが、パチュリーは努めて黙殺することを通した。



 ∽∽∽



 三日後、今日も今日とて移動図書館のある広場には人が集まっていた。
 その人だかりの中心には多々良小傘が唐笠を掲げて大きな声を出していた。

「さぁ多々良小傘のびっくり唐笠だよ!」

 そう叫ぶと、自慢の不気味な唐笠を回転させる。
 そして、「はぁ!」と掛け声一声。見物人の目の前には突き出した傘。
 しかし、茄子色の唐笠には、トレードマークたる舌が消えていた。

 沸き起こるどよめき。
 里の子どもたちは驚いて、小傘にかけよる。

「すげぇよ。小傘ねーちゃん」
「ねぇどうやったの?!」

 小傘はとても満足そうに頷くと、手を後ろに回す。

「それはね……」

 子どもたち、うんうん、と握り拳を作って身を乗り出す。
 
 そして小傘はばっと手を前にだした。

「ちょん切っちゃったのさ!!」

 いつの間にか小傘の手には、うねうねと踊る桃色の舌があった。切られてなくなったはずのものがそこにある。
 先程の驚きとはまた違った悲鳴を聞きながら、パチュリーは、「それは怖いじゃなくてグロいだわ…」と呟いた。

 なんだか何か違うし、一度きりの大技だったけれど、パチュリーはやはり何も言わず今日も本を読むのだった。








 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽








 「良い知らせと悪い知らせと両方あるがどちらから聞きたい?」

 移動図書館というものを始めてから何ヶ月か経った時のことである。秋の匂いはとうに消え去り、冬の鋭く刺さる冷気が混じり始めた頃、あろうことか里の賢者殿は訪ねてくるや否やこんな台詞から会話を切り出した。
 初っ端からこんなことを口走る輩にろくなやつはいない、というのは誰の持論だったか。慧音がはてさてろくなやつかどうかは各々で意見が分かれるところだろうが、パチュリーはろくなやつだと思っていない。そもそもの発端がこいつなのだからおおよそ良い印象なぞあるわけがない。
 そしてこの台詞だ。ウケ狙いか? とちらりと思ったが当の本人はいたって真剣な表情をなさっている。本当に良い知らせと悪い知らせが両方あるのだろう。

「どちらも聞きたくない」
「ではまず良い知らせから話そう」

 聞けよ。

「我が里にめでたく図書館が設立されることとなった」
「ふうん」

 パチュリーは心底どうでもいい、という顔をした。
 移動図書館、というか外の世界の車が珍しいということで、見学ついでに利用する者がそこそこ多かった。おかげで活字離れも徐々に解消され、今では文庫を片手に茶屋でのんびりというのがちょっとした流行りらしい。
 そこで里の実力者同士で相談したところ、現在使われていない廃屋を改装して規模を大きくした図書館として一般に開放しようということになったのだ。物珍しさは無くなり利用者も減るだろうが、きちんとした公共施設として図書館があるのは里にとっても意味があることだと、そういう話らしい。

「どれもこれもこの移動図書館のおかげだ。改めて礼を言わせてほしい」
「それ、止めて。私嫌いなのそういうの」
「む、と言われてもな……」

 慧音のどこが苦手かというとこういう義理堅い部分なのだ。普段他者との関わりを滅多に持たないパチュリーにとって、義理だとか、人情だとか、貸し借りだとか、人と人との間に生まれる感情は未知の、理解し難い存在なのだ。そういう意味ではパチュリーは常に独りだったと言ってもいい。だがそれを嘆くことは無く当然のものとして彼女は受け止めていた。

「気にしなくていいし気にする必要も無い。それともあなたは嫌がる相手に無理矢理頭を下げる趣味でもお持ちなの?」
「その捻れ切れそうな根性、叩き直しがいがありそうだな。どうだ? うちの寺子屋に顔出してみないか?」
「丁重にお断りするわ」

 この二人、とことん相性が悪い。横で話を聞いている小悪魔が何やらそわそわと落ち着かなくなるほどだ。人の好意を素直に受け止める気が全く見えない相手にやれやれといった感じでため息をつき、慧音はパチュリーと向き合った。ここからは真剣になる必要がある。

「でだ、悪い知らせなんだが」
「お役御免とかそういう話かしら?」
「ぐ、ぬ……察しが早いな。知っていたのか?」
「さっきの良い知らせを聞けばすぐ分かる」

 パチュリーは表情を変えない。
 先程の図書館設立の話と同時に行われたのが、この移動図書館の今後についてである。狭い里の中で同じ公共施設が複数ある必要があるのか? ということだ。わざわざ機能を分散させる必要も無いだろうし、それならばいっそ吸収してしまおう。そんな意見が大半を占めていた。
 慧音はそれに反対した。移動図書館は今までたくさんの人に利用され愛着を持つ人も少なくない。ここを中心としたコミニュティも形成されつつあり、里の一部として期間は短いが機能していたのだ。もちろんきちんとした図書館を設立することには異論は無いが、だからといってお払い箱にするのはいかがなものか。

「と、頑張って説得を試みたんだがな……最終的には司書殿のご意見を聞いて、ということになったよ。何と言うか力不足で申し訳ない」
「いいわよ、別に」
「え?」
「少し日を浴びすぎたからお払い箱にでも引きこもって静かに本でも読みたいってこと」
「い、いいのか? そんなあっさり……」
「忘れてるようなら思い出させてあげるけど」

 パチュリーは少し責めるような目つきのまま慧音を指さした。

「私はそもそもこんなこと、したくなかったの。無理矢理なし崩し的にやらされていただけよ」
「だがここ数カ月は立派に勤めていたじゃないか。てっきり私は」
「愛着がわくと思った? やりがいを感じてると思った? あなた、少し頭の中のお花畑に手入れをしたほうがいいんじゃない?」
「……筋金入りだな。寂しい魔女め」
「寂しくて結構。御託はいいからさっさと戻ってこのことを伝えなさいな」
「分かった、そうすることにしよう。すまなかったな」
「ええ」

 そのまま慧音は一度も振り返ることもなく早足で去っていった。パチュリーもそれを見送ることなく慧音が踵を返した瞬間に読書に戻り、辺りには静寂のみが満ちていた。

 事情を知っている者も、知らない者も、どちらが見てもこの日の移動図書館は何もかもがいつも通りだった。



 ∽∽∽∽



 数日後、里から正式に移動図書館の廃止が告知され、さらにその二週間後、貸し出していた本を全て回収し移動図書館は撤退ということになった。
 蔵書はほとんどが寄贈され、残りが紅魔館に戻される。車体も一応紅魔館名義のものなのでやはりそちらに移る。持って帰る本と置いていく本を分ける作業の途中、小悪魔が本を抱えながらパチュリーに話しかけた。

「良かったんですかねぇ、これで」
「何が」
「せっかくパチュリー様が外に出られる良い環境だったのにすんません私の足元の魔法陣を解いてくれませんかね。メガロポリスですか、エメラルドメガポリスですか」
「余計なこと言ってないでさっさと作業を進めなさい」

 解放された、というのがパチュリーの率直な感想である。何もかもが調子の狂うことばかりだった。やっと好意も感謝も向けられることのない独りで静かな空間に戻ることが出来るのだ。喜びこそあれそこに名残惜しさなんてものは欠片も無い。
 多くの者が今日限りで見納めとなる大きな鉄の箱に別れを告げようと集まった。みんながみんな、パチュリーに一言お礼と残念だということを話していった。ありがとうという言葉が耳に入る度にパチュリーの額に小さな皺が出来上がっていく。当人も辛いのだろうと彼らは受け取り胸を痛めた。横の小悪魔だけが別の意味で胸を痛めた。どうかプツンしないでください。

「んだよ、昼寝の場所が減るじゃねえか」
「空いたスペースに台置いていいかしら? 興行用の」
「見てわちきの指が離れるよ!」
「帰れ」

 若干場違いな反応を示すものも数名いたが、問題無く撤退の準備は完了した。パチュリーが車体に向かって手をかざすと馬の嘶きのような爆音と共にエンジンが点いた。ただ、ライトの明度がいまいち上がらない。それがまるで何かを訴えているようで。

「なんか寂しそうですね」
「物に感情を求めるのはエゴというものよ。悪魔のくせに偽善者ぶっちゃってまぁ」
「悪魔よりひねくれてるってのも考えものですよ」
「丸焼きをお望みのようね」
「さぁ帰りましょう全速力で帰りましょう」

 座席に乗り込み里を後にする。見送りの行列は長く手を振るもの、声を掛けるもの、それぞれが一様に思いを寄せて。それも途切れた頃、流れる景色の端に沈む赤く太陽が見えた。
 空になった車体を走らせ一行は帰路へとつく。



 ∽∽∽∽



「これは何?」
「前にも見せたでしょうが」
「だからこれが何でうちにあるのかって聞いてるんだよ」

 開口一番の台詞である。一仕事終えた友に何という口振りだ。失礼にもほどがあるじゃないか。

「役目を終えた道具は安らかに仕舞われるべきだわ」
「ここを倉庫か物置部屋か勘違いしてるんじゃないだろうな?」
「図書館でしょ」
「“私の邸の”図書館だ。品位の話はしたでしょうが」
「図書館は知識が集まる場所。これも一種の知識であり情報よ。ここに存在する条件は満たしている」
「ああ言えばこう言う……!」
「お嬢様、抑えて」

 咲夜が宥めるがレミリアは欠片も納得していない様子だ。はあはあと大きく息をする彼女の背中にカリスマ性は微塵も感じられない。咲夜に両肩から頭、背中にかけて全身をなでなでされていては尚更である。

「それが知識や情報ってんなら活用するあてはあるんでしょうね」
「活用? 何それ」
「はぁ!?」
「知識は独占するからこそ価値があるのよ。使うわけないでしょうが」
「お嬢様、神槍はマズいです流石に」

 こいつは何も変わっていない。槍状のエネルギー体を消し去りながらレミリアは思った。

「分かった、理解した。それは備品でテーブルや本棚と同じ分類の物だ。そういうことにしておく、しておいてやるから感謝しろこの野郎」
「アリガトーレミィ」
「アリ・ガトー・レミィ。人名ですね」
「咲夜ぁ!」
「申し訳ございませんお嬢様」
「帰る!」
「ここ“あなたのお邸”ですよお嬢様」
「部屋にだよ! 自室!」

 これで話は終りだと言わんばかりの勢いで、肩を怒らせながらレミリアは部屋から立ち去った。残されたのは小悪魔とパチュリー、それと移動図書館。
 ようやく静かになった自分の領地に安堵しつつパチュリーはいつものように読書を始めた。紅茶を片手に捲る本は説明する際に使った専門書。横にある巨大な鉄の箱がはてさてどのような歴史を綴ってきたのか、今夜はそれを知識にしよう。紙の擦れる音が、染みるように響いた。








 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽








 小悪魔は最近僅かな違和感を覚えることが多い。それが何なのか幾度となく考えるのだが、結局その正体は掴めない。何だろう、何がおかしいのだろう。分からないまま作業を進める。その時、扉が開く音が聞こえた。

「あ、パチュリー様お帰りなさい。どうでした?」
「目当てのものは手に入ったわ。里にも一応魔法道具を扱ってる所はあるみたいね」
「へぇ、そうなんですか」

 バタン、と扉の閉まる音。それを聞いて小悪魔の手がはた、と止まる。

(パチュリー様、こんなにドア開け閉めしてたっけ)

 くだらない思考は直ぐに雇い主の声と共に掻き消えた。今日もまた動かない大図書館の日は暮れる。
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作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2010/06/14 02:41:30
更新日時:
2010/07/31 22:40:07
評価:
50/118
POINT:
7450
Rate:
12.56
分類
パチュリー
2. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/01 03:04:10
各々の会話がいちいち面白いw
移動図書館をすることによって、変わっていくパチュリーがなんとも愛しい。
3. 70 名前が無い程度の能力 ■2010/07/01 03:07:19
話の本筋とは別に、大半のキャラの性格がなんかウザく感じた
5. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/01 11:54:00
楽しく読ませていただきました!あと小傘ちゃんぺろぺろ
6. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/01 12:05:09
パチュリー様可愛い
9. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/01 12:53:20
パチェが動くようになったってことかな
面白かったです
レミリアは気の毒すぎるけど仕方ないね
14. 80 名前が無い程度の能力 ■2010/07/01 20:50:48
動きやすい大図書館は動かない大図書館に変化をもたらしたようで実は全然変えてなくて、
と思いきやそんなこともあったりなかったり。な……何を言ってるのかry
とにかく、なんだかものすごく“らしい”パチュリーを見たような気がします。
そしてなんだかんだでパッチェさん、振り回されっぱなしである。
15. 80 名前が無い程度の能力 ■2010/07/01 21:38:42
展開、設定等は非常に好みだったのですが、もう少し膨らませれる余地もありそう。
平行線の二人もらしいと言えばらしいのですが、少々鼻につく部分もあったのでこの点数で。

しかし小傘が可愛すぎですね。
21. 90 名前が無い程度の能力 ■2010/07/02 07:01:10
パチュリーさんの魅力が詰まった作品だな。
23. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/02 19:46:18
読みやすく、面白い。
27. 100 あおこめ ■2010/07/03 02:07:23
雰囲気がとってもいい感じでした。
荘厳で知の貯蔵庫的な図書館も良いですけど、騒がしいけど住民の憩いの場的な図書館も良いですね。
ただ単に移動図書館の日常とせずその前後の話も入っている所が、ストーリーを深め面白さを増していると思いました。
動いてる図書館のお話を堪能致しました。
30. 60 名前が無い程度の能力 ■2010/07/03 15:45:24
序盤なんで咲夜があんなにパチュリーを挑発するのかが気になった
38. 90 名前が無い程度の能力 ■2010/07/04 17:16:01
ありそうでなかった題材に着目したのが面白い。
呼んでもないのに寄ってくる自分勝手ないつものメンバーといい、
変わってるんだか変わってないんだかよく分からないパチュリーといい、良い味が出ています。
折角の企画モノなんだから山か谷でもあれば良かったかなと思う反面、
このだらだらっぷりがむしろ好きかもと思ったりも。
パチュリーの心情や変化が結局よく分からないままなのが残念と言えば残念か。
41. 80 名前が無い程度の能力 ■2010/07/04 21:23:05
小傘怖いよw
42. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/04 21:26:04
最終的にアクティブになってしまうパッチェさん、コミカルな小悪魔、瀟洒にボケを繰り出す咲夜さんなどキャラが非常に魅力に溢れていました。
おもしろかったです。
43. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/04 22:32:16
動きそうで動かない、ちょっと動くようになったパチュリーさん。
動く図書館は務めを果たしたのですね。
47. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/05 00:48:19
子供のころ来た移動図書館のこと思い出しました。
今もまだあるんでしょうか。
不要になった道具の幻想入りは自分のつぼにぴったりです。
51. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/06 00:51:46
あとがきで台無しw
55. 40 電気羊 ■2010/07/07 03:33:22
うーん。初めの部分は楽しめたんですが、物語が連綿と続いていくのに、シーンの転換のたんびに文体が変わるのでだんだんと。
話自体は面白かったんですけど、三人で一個の普通の話を作ったという違和感が強かったです。
59. 70 名前が無い程度の能力 ■2010/07/08 02:10:40
タイトル〜「修理するわよ。」までの部分と、撤収開始〜終までの部分。
パチェ・咲夜・小悪魔の掛け合いに笑わせていただきました。
多方面から仕込まれたネタにいちいち腹筋引きつった。
谷口ジロー絵のパチェで「孤高の読書」、脳内変換余裕でした。

移動図書館も幻想入りする夢がひろがりんぐな着想だっただけに
人里での出来事はもうちょいはっちゃけて欲しかった気がする。
無難すぎる感じ。慣れない分担書きのせいかもわかりませんが。
そして小傘かわいいよ小傘。
61. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/09 07:11:40
始終仏頂面なパチュリーと自分勝手に振る舞う他の面々とやりとりがコミカルで面白かったです。
外に出るようになったパチュリーはきっと「知識を求めてるだけ」と言うんでしょうが、きっと変わった部分もあるんでしょうね。
64. 70 更待酉 ■2010/07/10 02:10:47
何に一番影響があったのかと言えばパチュリーだったようですね。
熱くもなければ冷たくもない、緩やかな流れのストーリーを楽しませてもらいました。
67. 100 みやび ■2010/07/11 01:08:28
小傘ちゃんがかわいい。
パチュリーと移動図書館を基軸に様々な出来事の話がおもしろくまとまっていて読みやすく楽しかったです。
69. 90 みすみ ■2010/07/12 22:12:54
パッチェさんも咲夜さんも小傘もこぁもすごくかわいい!
だが作者共、テメエらはダメだwww
しかし移動図書館もついに幻想入りかぁそういや最近もう見ないな
72. 80 半妖 ■2010/07/14 15:25:52
これはうらやまけしからん!
移動図書館も幻想入りしてしまったのですかね。
珍しく活動的な図書館さんが見られて楽しめました。
73. 80 名前が無い程度の能力 ■2010/07/14 16:58:39
図書館っていいですよね
すごい落ち着く

そして筆者その2がひどい
76. 70 euclid ■2010/07/19 02:28:37
心情も何もかも全てがツンしか描かれていないのにも拘らず、いきなり最後にデレが来てるパチュリーが可愛い。
77. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/19 23:27:12
SSというものをシリアスとそれ以外に分けるとすれば、今回の非シリアス作品で一番好きなのはこれです。
移動図書館! 自分の学校にも来てたなぁ。これを使おうという発想にまず脱帽。
さらにパチュこあコンビと他キャラのドラマがとても面白く、良いテンポで読み切れる良作でした。
78. 80 名前が無い程度の能力 ■2010/07/20 08:40:43
知り合い選ぼうぜパッチェさん。
雇い主選ぼうぜ小悪魔。

題材的にはほのぼのになりそうなのに、幻想郷の住人ときたら一人残らず話を聞かねぇw
80. 80 ずわいがに ■2010/07/21 14:20:00
なんと愉快なw小悪魔と咲夜のキャラが特に素晴らしいww
慧音がちょっとめんどくさい感じだったけど、パッチェさんもひねくれてますからねぇ;w
それにしても移動図書館を幻想入りさせるとは……いやぁ、そう言えば懐かしいです
システムも現実的かつ幻想的で感服致しました、面白かったです
83. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/23 21:17:50
これはいい! 

>淫魔が日中に、
さりげに素敵な設定ごちそうさまです
88. 80 白麦 ■2010/07/25 02:09:45
なんか読んでいてほのぼのしました……パチェがいちいちいい行動をしてくれてますw
そして小悪魔の行動がおもしろかったです
89. 90 葉月ヴァンホーテン ■2010/07/25 20:11:21
咲夜の性格がツボにはまりました。これは魅力的すぎる!脇で笑ってる小悪魔もいいですねw
それと小傘がめちゃめちゃかわいいです。
キャラの使い方がピカイチだなぁと感じました。
96. 90 PNS ■2010/07/30 00:58:36
全体的に素朴でまったりとした雰囲気でした。
でもあとがきは、そんなこと無かったぜ!
97. 100 即奏 ■2010/07/30 04:39:29
くっはぁ! なんて素敵なSS!
移動図書館というノスタルジーを感じさせるものを作品の幹としながらもあくまでも語り口が洒脱していて、
それがとても心地良く、心にトキメキを維持したままスルスルと読み終えてしまいました。
とてもおもしろかっです!
99. 90 Ministery ■2010/07/30 16:14:55
最後の締めが題も相まって愉快痛快。パチュリーのささやかな変化が微笑ましかったです。
天晴れ。

そして筆者その3氏、官能小説の目録が出来たら是非こっちにも廻してく(ry
100. 100 八重結界 ■2010/07/30 16:39:13
小悪魔「動いた! パチュリー様が動いた!」
103. 90 ムラサキ ■2010/07/30 19:12:39
とりあえず最初の咲夜さんで負けました。
そしていやいやながらも移動図書館を続けるパッチェさんも可愛かったです。
途中に出てきたアリスや小傘との掛け合いも見ていてほっこりしました。
あと最後の咲夜さんでも負けました。
104. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/30 19:54:47
会話にかなり惹かれました
これは…たまに移動図書館やってるってことか?
106. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/30 21:03:36
こら後書きww
・・・と言いつつ筆者その3に全力で同意。
107. 100 サバトラ ■2010/07/30 22:03:29
時間の都合上、点数だけの投稿とさせて頂きます!
大変申し訳ありません!
108. 60 名前が無い程度の能力 ■2010/07/30 22:20:50
パチェの変化が面白かったです。
魔理沙……
109. 90 蛸擬 ■2010/07/30 22:25:26
なんでしょうこの雰囲気……すごくいいです。
バスに乗って移動するパチュリーさんを想像するだにじわじわきます。
110. 70 如月日向 ■2010/07/30 22:44:46
移動図書館……懐かしいですね。
そこに目を付けるなんてとってもステキですっ。
でも全体的に淡々と話が進行しすぎなのがちょっと気になります。
面白いセリフがいっぱいあったのでストーリーにもメリハリが
あったらもっと良かったと思います。
111. 80 名前が無い程度の能力 ■2010/07/30 23:03:42
ライトなギャグ作品。消極的にアクティブ、というレビュアーの表現がぴったりきました。
112. 90 春野岬 ■2010/07/30 23:16:02
パチュリーが生き生きしていて、性格悪くて、さらに可愛いから言うことなしです。
113. 90 名前が無い程度の能力 ■2010/07/30 23:23:06
いいですねぇ。いつもの創想話のノリで合作した感じが安心できます。
さて、動かなくなった図書館を見て魔女は何を思うのか…
114. 90 名前が無い程度の能力 ■2010/07/30 23:29:46
くすりと笑わせられる部分が何箇所も
習慣って恐ろしいものですね。動かない大図書館が外出するなんて
115. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/30 23:31:22
駄目だこの変態……早くなんとかしないと……

発想、展開、内容とどれも一流で、結構短く感じました。
これを最初に読んだのですが、話や雰囲気が滑らかに繋がっていたので
あとがき見て「そういや三人チームだったな」と思い出した程です。

パチュリーの偏屈っぷりが遺憾なく発揮されていました。
116. 80 つくね ■2010/07/30 23:37:44
取り急ぎ点数のみにて失礼します。感想は後日、なるべく早い時期に。
118. 100 ぱじゃま紳士 ■2010/07/30 23:51:01
 申し訳ございませんが、採点のみで失礼いたします。
119. フリーレス 名前が無い程度の能力 ■2011/10/08 03:39:00
この小説のキャラが好きになれない。

いや内容は上手いんだろうけど、正直個人の感想としては周りのキャラがウザくてパチェが不憫。
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