魔法使いの恋物語

作品集: 最新 投稿日時: 2010/06/14 02:35:49 更新日時: 2010/07/31 22:46:50 評価: 31/76 POINT: 4470 Rate: 11.68
 ある日、目覚めると身体の隅々に、魔力が充ち満ちているのが判った。
 目に射し込んだ日差しは、痛い程に眩しく、忌みく、不愉快なものになり、集めに集めた鉄の臭いが吐き気を催す。
 ひどく調子の良い身体と、最悪の気分が一体となった私は、これ以上寝転がっているのが嫌になり、すくりと立ち上がる。

 これは、何もかもが異様だった。
 いつも通りの時間に起きて、いつも通りの家の筈なのに、どうして私はこんな所にいるんだと、自問を始めた。
 ここが自分の住処、ここが自分の寝床、そんな当たり前の話が、ある日突然信じられなくなる。
 昨日までの私は、長い夢だったのではないかと思い、鏡を探した。

 じっと、鏡を見つめる。
 ウェーブがかった長い金髪も、少し幼い顔立ちも、目も、口も、鼻も、記憶の中の私と寸分違わぬ姿をしていて、私はほっと胸を撫で下ろす。
 ……でも、それじゃあ、この違和感の正体は何だ。
 身体に溢れる力は、陽の光のキモチワルサは。

 家の中で、暫く自問して、私はある答えを導く。
 私は妖怪になったのだ。
 澄み切っていた魔力は、混沌の気を帯び、人間としての本能は薄く。
 身体もいつの間にか、精巧に出来た偽物に置き換わっていたのだろうか。
 新しい靴を履いたときの様な、ぎこちなさが新鮮で、くるりと踊った。

 ああ、なんて良い気持ち――
 どうにも愉しくて、嬉しくて、駆け足で外に出る。
 陽の光も、もう気になりはしなかった。

 この気持ちを、あいつに教えてやらなきゃ。
 いち、にの、さんで、空に跳ぶ。
 ふわりと身体が中に浮き――私は雲の上に出た。
 あれよあれよと見る間見る間に、地上は遥か雲の下。
 天狗だって追いつけっこない。

 私は一人、あははと笑う。
 もう、誰にも追いつかれないぞ、と。

 祝砲代わりに、魔砲を放つ。

 周囲の雲を吹き飛ばす程の大轟音で、私の魔力は天蓋を割る。
 この光の柱は、幻想郷のどこにいても、きっと見えるに違いない。
 ああ、面白い、どうしてこんなに愉快なのだろう、ついに人間をやめてしまったのに、どうしてこうも楽しいのだろう。
 時間の壁、肉体の壁、知識の壁、あらゆる障害が、悩みが全部彼方に行ってしまった気がする。
 ああ、何故、もっと早く妖怪にならなかったのだろうか。

 ……あれ? どうして私は妖怪になりたく無かったんだっけ。

 突然、頭の中が空っぽになったように、私は呆けてその場に浮かんだ。
 雲一つ無く、どこまでも広がる青空を見て、急に心が寂しくなってきた。
 風の音以外、不気味なほど静かな空。
 誰か飛んでいないかと、身体をゆっくり回すようにして、確かめる。

「あ……」

 ぐるりと視界を一周すると、いつの間にか女の子が一人、目の前に浮かんでいた。

 真っ直ぐで、淡く黒い髪。
 吸い込まれそうな大きな瞳。
 紅と白の、お目出度い服。

 ――私はこいつに見覚えがある。

 いつ、何処で会ったのだろう。
 ああ、凄く大事な事だった筈なのに、忘れる筈のない事の筈なのに。
 変な胸騒ぎがして、私は人間だった頃の記憶をたどる。

 ……だのに、どうして思い出せないんだろう。

 ほんの一日前まで、半日前まで、私は人間だったはずなのだ。
 それがどうして、ああ、何故……。

 何故、あいつは、そんなに哀しそうな顔で私を見ているんだろう。
 私はどうして泣きたくなっているのだろう。
 疑問ばかりが思い浮かんで、頭が痛くなる。

 目の前のあいつは、いつの間にか手に持っていた御札を、ゆっくりした動作で持ち上げる。
 さっきまでの哀しげな顔は彼方へ消えて、只、私を滅殺せんとする、無慈悲なキカイの様な冷たい顔だった。
 おおっと、そうだ、そうだった。
 そうでなくちゃいけないのだった。
 私は妖怪で、あいつは人間だから。これが当然の帰結なのだ。

 気がつくと、私は笑っていた。
 両の口の端を持ち上げて、獲物を見つけた猛禽のように、瞳を見開いて。
 あいつがどんなやつだったかなんて、もう、そんな事はどうでも良い。
 身体の底から湧き上がる衝動が、私を突き動かす。
 あれの冷たい顔を、原初の恐怖に歪ませてやれ、こぼれ落ちる涙ごと頬の肉を貪り食ってやるのだ。
 自分の中の黒い意思が強くなれば、強くなるほど、体中に満ちる魔力が何処までも高まっていく。

 目の前の獲物に向けて、私は魔砲を向ける。
 全身に胎動する魔力を、右肩へ、肘へ、そして右手に構える八卦炉へ――。
 魔力の激流は私の身体に、激しい痛みと、強烈な快楽を与える。
 あはは、これじゃあ制御が出来ない、全く、愉快で仕方ない。

 凝縮した魔力に耐えきれず、緋緋色金で鍍金した八卦炉に皹が入る。
 それなら、もうこんなもの必要ではない。
 ぼろぼろと砕け落ちる八卦炉に、最後の仕事をさせようと、溜めた魔力を解き放つ。
 魔砲により熱せられた空気が爆ぜ、私の軽い身体は猛烈な反作用によって、後ろに吹き飛ばされる。
 荒れ狂うエネルギーの塊は、真っ直ぐ飛ぶ事が出来ず、のたうち回る蛇のに、曲がりくねり、獲物に襲いかかった。

 ……ああ、しまった。これじゃあ骨も残らない。
 恐怖に歪む、あれの顔を見られないとなると、少々もったいない気もするが、この新しい魔砲の威力は、十分に私を満足させてくれた。

 右腕に耐え難い痛みが走ったのは、その次の瞬間だった。

「相変わらず曲がっているのね、あんたの弾は」

 二の腕ほどの長さもある、大きく、太い針が三本。私の右腕に突き刺さっていた。
 焼け付く様な痛みで、右手は動かす事も出来ず、突き刺さった場所からは、肉が焦げる臭いがする。
 左手で慌てて針を抜こうとすると、掴んだ瞬間に、焼けた鉄棒を掴んだ様な耐え難い痛みが走り、私は悲鳴をあげた。
 ……この針は、何だ? こんな痛みを、私は知らない。

 そしてまた、次の瞬間、背中で爆弾が破裂したかのような、衝撃を感じ――気がつくと私は地べたに伏せていた。
 痛みも、何も感じられない、地べたに伏せているかのように感じていたのだが、瞳を開くと青い空が見えている。
 まるで上も下も、理解出来ていない。
 やがて、全身を襲う鈍痛に、私はうめき声をあげ、視界を涙で歪ませる。

 ぼやけた視界に紅白の衣装が見える。
 さっきまで、全身を支配していた衝動は、おびえた様になりを潜め、また、目の前のあいつのことを考え始めた。
 あいつの手には、御札が握られている。

 ……ああ、そうか、これが最後。
 幕切れはこうもあっけないものか。
 私は今度こそ、本当に負けたのだ。
 不思議と穏やかな気持ちになった私は、最後にあいつの顔を見る。

 あれ?
 どうして、泣いているんだろ。
 さっきまで殺る気満々だったくせにさ。可笑しいな。

 ……そういや、お前のこんな顔見るの、初めてだな。



 ―――。










            §











「う〜……」
「ちょっと人ん家で、何を朝っぱらから寝っ転がっているのよ。掃除の邪魔よ」

 背中に、ごんごんと鈍い衝撃が走り、魔理沙は目を薄く開いた。
 どうにも、酷い夢を見ていた気がするが、とんと思い出すことが出来ない。
 面倒臭いから起きようと思った魔理沙だったが、どうにも春の陽気が心地が良く、このまま狸寝入りを決め込んで、やり過ごせやしまいかと、ちょっとの間我慢をしてみる事にした。
 尤も、やり過ごせる相手とは思えないのだが。

「全く。あんたも起きて、掃除くらい手伝いなさいよ。朝ご飯だけ食べて、すぐ寝て、一体何しに来たの」

 霊夢は、身体をひっくり返す勢いで、魔理沙の背中を押し続けた。
 寝心地もへったくれもあったものじゃないだろう。
 無視をした最初の瞬間だけは止まったものの、ずっと地味な攻撃が続いている状態だ。だが魔理沙は、まだ起きない、と、だんまりを決め込むことにした。
 そう、こうなったら根比べだ、と。

「あーもう、最近のあんたはじめじめして、扱いにくいったら。はぁ……」

 ため息と共に、ぴたりと攻撃が止む。
 フェイントか、と思うが、それより恐ろしいものが来た。

「もう手段を選んでられないわ。覚悟しなさい、魔理沙」

 短気にも程がある。
 さあ、根比べだと考えたところに、いきなり最終通告が来るとは。
 だが、いくら霊夢でも寝ている人間の背中に弾幕撃ったりしないだろう、と、魔理沙は判断した。
 しかし、やはり霊夢だからもしや、と、一抹の不安も感じる。
 だからと言って、ここで起きてしまうのは、如何にも無様な気がして、魔理沙は数秒悩んだ。
 その結果、一つの答えに辿りつく。
 耐えてみせよう。最終勧告をしたのだから、それさえ耐えれば流石に諦める筈だ。
 来るなら来いと、背中で返事をする。

 さあ、試してあげよう、巫女の力を。
 どうした、攻撃しないのか?
 後悔するぞ。私を倒さなかったことを。

 されど、霊夢は何もしてこない。
 どういうことだ。
 しかも何故か、背中方面に霊夢の気配もない。それが不安を煽った。
 ……一体何を企んでいる、私をどうするつもりだ。
 嫌な予感がどんどん膨れあがり、冷たい汗は背中に浮かぶ。
 ……もしかして、何か外道なことを。
 もう寝るどころの話ではない。

 一体、霊夢は何処にいるのだろう、薄目を開ければ見えるんじゃないか?
 そう考えた魔理沙は、ほんの少し目を開いて、ちらりと天井を見る。

 ――!

 いた。
 振り向けば、頭がぶつかる様な、近いところに。
 いや、これは一体どういう意図なのだ。霊夢は私に何をしようとしているのだ。
 どくん、どくん、と心臓が高鳴る。
 私は、一体何を期待しているのだろう、まさか霊夢は――いや、そんなことは。

 魔理沙は身動きどころか、息一つ出来なくなっていた。
 起き上がれば、霊夢に頭突きをお見舞いするような、至近距離なのだからしょうがない、と、魔理沙は自分に言い聞かせる。
 そうだ、妙なことをしてきたら目突きでもしてやろう。
 そう決意して、こっそりと、さりげなく、拳をチョキの形にした。

 霊夢の暖かい息が、魔理沙の首筋に触れた。
 そのぞくりとした快感が、甘い波のように広がって、全身に鳥肌が立つ。
 ……本気か!?
 そして――。

「ふーっ!」
「きゃあぁ!!」

 思い切り、耳に息を吹きかけられた、遠慮無く。

「あら、魔理沙にしちゃ可愛い悲鳴ね」
「な、いきなり、何をするんだお前は!」
「最後通告って言ったでしょう。あんた最近じめじめしすぎなのよ、そんなところで寝られると縁側が黴るわ」
「黴るって……。幾ら私でも、それはちょっと傷付くぜ」

 魔理沙のふくれっ面を見て、霊夢はニヤニヤと笑う。
 悔しかったら言い返してみなさい、とでも言っている様である。

「魔界から帰ってきてから、湿度が二十パーセント増しなのよ」
「うん、そうかも知れないな」
「あれ、否定しないのね」

 不思議そうな顔をして、霊夢は魔理沙をじっと見る。
 魔理沙は、普段から何かにつけて、霊夢と張り合う。
 尤も、何をやっても大抵霊夢が勝って、その度に魔理沙が軽くへこむ。
 そこをさらに小突くいてやると、悔しさとか、気恥ずかしさのせいか、色々な反応を見せるので、霊夢もそれを面白く感じていたのだろう。その際の自分の姿を客観的に見ると恥ずかしさが物凄いのであまり考えたくはないが、魔理沙は一応、自分の中ではそう結論している。

「面白くないわねぇ」
「掃除はもういいのかよ」
「ん、もういいわ。明日でも出来るし」
「それなら、無理に起こさなくたって良かったじゃないか……」
「じめじめしてるから、掃除が必要になるのよ。折角良い天気なんだから、その湿気を何とかして来なさいよ」
「お前に言われなくたって、そうするつもりだったさ」

 先日の出来事のことだ。
 異変とは言えない程度のものではあったが、異変解決競争に負けて悔しい思いをするのは、魔理沙にとっては別段珍しい事でもなかった。
 ただ――あの日の敗北は、魔理沙にとってどうにも、気分が良いものではなかった。
 霊夢にからかわれて、そこまで悔しく無かったのも、霊夢に負けたこと悔しかったからではない。
 聖白蓮。
 そう名乗る『魔法使い』に負けたのが、どうしても、耐え難く、悔しかった。
 ルールを違反を犯した訳でない、どこまでも正々堂々とした勝負であったはずなのに、どうしてこんなに――納得がいかないのか
 その理由が喉の奥で引っかかり、どうやって吐き出そうかと、苦悶していた。

「ふうん、私の勘だとまたあんたの負けね」
「いいや、今日は勝てるさ。なんたって仏滅だからな。縁起が悪いぜ」
「……ま、止めないわ」
「勝ったらさ」

 夕飯作れよ。そう言い残して、魔理沙は素早く箒に跨がり、春風と共に空に飛び立った。










            §











 頼もう、と挨拶をして門を叩き、魔理沙は周りを見渡す。
 早く入りたくてしょうがなかった。
 その証拠とでも言うように、門を叩く音は大きなものだが、その声は彼女には珍しく、覇気が無く小さい。
 門を叩いた途端、急に怖気づいてやる気をなくしたという訳ではない。
 場所が悪いのだ、と少しだけ命蓮寺の立地を憎く思う。
 そう、場所が悪いのだ。
 命蓮寺の建てられた、この人里の一角が。
 基本、自給自足の生活を送る魔理沙ではあるが、人里に全く来ない、と言う訳でもない。
 ただ、命蓮寺が建たなかったのなら、この近辺には近寄らなかっただろうと魔理沙は思う。少なくとも魔理沙自身が自発的にここに来たことは無いし、この先数年は近寄る予定も無かった。
 すぐ側に魔理沙の実家、霧雨道具店があるからだ。

 もう一度、今度は己をもっと主張するように先程よりも強く門を叩く。
 反応が無い。
 三度目の正直に、全力で門を叩こうとした直後だった。
 拳を振り上げた瞬間、狙ったようなタイミングで、門が内側から開く。

「はいはい、どちら様でしょうか? ああ、貴方ですか。いらっしゃい」
「ああ、お前か」

 星が出てきた。
 また少し気まずくなり、一瞬口ごもる。
 美鈴の拳法を真似たような、少し間抜けなポーズだったからというのもあるが、それ以上に星の人格もまた、魔理沙の苦手なものの一つだった。
 星個人を指して苦手という訳ではない。
 基本的に真っ直ぐな善人や、底無しのお人好しと言う存在が、どうにも苦手なのだ。
 魔理沙もまた、内面は素直なのだが、外面は捻くれたフリをしている。
 だから、その素直さを羨ましいと思うし、妬ましく感じる部分もある。
 そう思う自分を未熟だと思うし、そうした自分の部分が浮き彫りにされてしまうような気がする。

 無論、相手にはそんなつもりはないだろう。完全に一人相撲である。
 そんな惨めな感情が湧きあがってくるから、善人やお人好しは苦手だった。
 昔はこうではなかった筈だが、と考えていたところで、声を掛けられる。
 何か御用ですか、と言われ、魔理沙は笑みを浮かべた。

「白蓮、居るか?」

 と少し気恥ずかしそうに言うと、ええ、どうぞ、と呆気なく奥へと通される。
 廊下を歩いて思うのは、やはり綺麗だというである。
 今まで、幻想郷に寺は存在しなかったのだから命蓮寺は当然新築なのだし、外見からの勝手なイメージだが、星や白蓮は綺麗好きな上に家事も上手そうだ。
 通された居間らしき場所ではナズーリン、一輪、ムラサが雀卓を囲んでいた。
 仮にも寺に住んでいるメンバーなのに麻雀をやって良いのだろうか、いやそれ以前に、この連中は他にすることが無いのだろうか。

「……無いんだろうなぁ」

 今の時分なら、例えば早苗などは布教活動を頑張っているのだろうが、このメンバーが布教活動をしているのを魔理沙は一切見たことが無い。
 白蓮自身がそういう性格ではないのかもしれないし、星たちが怠けているのかもしれない。
 いや、多分両方だろう。
 魔理沙が適当に空いているスペースに腰を下ろすと、星は隣の部屋に向かった。
 隙間から見える光景からするに、台所らしい。

「おー、悪いな」
「普通の緑茶で良いですよね?」
「ああ、サンキュ」
「まぁ、星にとっては良いタイミングだったかもしれないねー」

 ムラサに声をかけられ少し首を傾げたが、空いている席の手牌を見て納得した。
 一、二、三……十二枚しかない。
 宝塔といい、何でこうも物を失くしてしまうのか。

「こればっかりは買い戻せないしな」

 先日、香霖堂で聞いた話を魔理沙は思い出す。
 ははは、とナズーリンが笑っているが、他のメンバーは首を傾げていた。
 台所から小さな咳ばらいが聞こえてきて、大らかそうな外見と違って星は意外と恥ずかしがり屋なのかもしてないと魔理沙は思う。
 ところで、とナズーリンは小首を傾げ、

「私のご主人に何の用事だい?」
「いや、星には用は無いよ」

 ふぅん、と言いながらナズーリンは牌を片付け始める。
 星の恥を隠すためなのかは分からないが、今回はもう、お開きにするつもりなのだろう。
 忠誠心が低そうなくせに、微妙にこういったフォローをしているのは好感度が高いからだろうか。

「まぁ、遊びに来るならご主人から話は私も聞いているだろうしね」

 少し過保護な気がするが、警戒されているのだろうか。
 面識の薄い人間が何のアポも無しに来た上に、誰かに何をするでもなく居たら警戒する様子は従者としては当然かもしれない。
 今まで会ったことのある従者連中はそのような感じであったし、その中で少しぶっきらぼうに見えるナズーリンは多少浮いている印象を持っていた。
 ここのボスは白蓮なのだろうが、それよりも星の方を先に持ってくるナズーリンの姿勢で、彼女の中での優先順位が見えた気がした。
 他の従者と同様に、白蓮が復活する以前からしっかりと星を支えていたのだろう。
 まぁ、考えすぎかもしれないが。

 そのようなことを考えながら、部屋の窓から見える本堂の方に視線を向けた。
 そこに、今回の目的の者が居る。

「再戦しに来たんだよ」
「あー、負けたみたいだからねぇ。でも、無理もないんじゃない?」

 やはりそういう反応か、と魔理沙は内心で呟いた。
 うっかり口に出しそうになったが、しっかりと堪えた自分を褒めてやりたい。実際に口に出さなかった理由は、単なる意地なのだが。
 ムラサはあっけらかんと笑って言ったが、そのような反応をされたことは悔しいのだ。
 ここのボスは白蓮なのだし、種族の違いもあるとはいえ、魔法使いの分類の上でも白蓮は自分に比べて遥かに上位に位置している。
 白蓮の活躍の場面を目にしているムラサたちからしたら、年端もいかない小娘である自分は確かにヒヨっ子同然だろう。
 それに、自分は負けたのだ。
 その事実が何よりの説得力となっている。

「かなり惜しい部分まではいったんだけどな」

 霊夢に聞いた話では、自分が敗れたスペルカードである『超人「聖白蓮」』が最後だったらしい。
 ラストワードかはわからないけどね、とも言っていたが、少なくともそれをクリアすれば勝っていたのだろう。
 ……自分で言っておいて、負け惜しみかもしれない、と思ってしまった。
 言い過ぎたのかもしれないと思ったのか、ムラサは、まぁ、と言葉を続けて、

「年季が違うしさ。聖は魔理沙の何万倍もの年季が」

 本堂の方から光弾が飛んできた。

「……何倍もの年季があるからね」
「聖は身内に対しても容赦しないんだな」
「うん。罰も平等に与える感じなんだ、ガンガン来るよ?」

 魔理沙が皆を見ると、皆は露骨に顔を背けた。
 何があったのだろうか。
 微妙に沈黙が続き、

「どうしたんですか?」

 うおう、と驚いて背後を見ると、煎餅と茶を乗せたお盆を持って、星が首を傾げて立っていた。

「ああ、すみません。また私だけ片付けに参加しないで」
「いや、良いんだ。ご主人はすぐに牌を無くすし」
「あと爪切りと耳掻きもね」

 それは仕方ない話だ、と思ったが、星のテンションが一気に下がるのが視覚的にも分かり、少し同情をした。
 得てして、幻想郷では真面目な妖怪ほど弄られやすい。
 例えばそう、白玉楼の庭師とか、永遠亭の月ウサギのように。
 星からもどことなく、臭いを感じてしまう。
 命蓮寺の中での立場としては決して低くない筈だが、そう見えないのは恐らく、こうした部分があるからなのだろう。
 宝塔のことも言わなければ良かったかもしれない。暫くの間、それをネタにからかわれる光景が容易に想像出来た。

「それで」

 話題を切り替えるようにナズーリンはこちらに向き直り、現在しょぼくれちゅうの「ご主人」が煎れた茶を啜りながら言う。

「聖と再戦ねぇ。応じ無いと思うよ。第一、争うメリットがない。それに彼女は争いを好まないし、まして人里で弾幕ごっこをするような馬鹿じゃない」

 異変の時はともかくね、とナズーリンは言葉を占めた。

「それなら大丈夫だ、そっちのことも考えてるさ。私もそこまで無作法じゃないさ」
「ふぅん、君に勝つメリットねぇ……」

 ナズーリンは首を反対側に傾ける。少しして何度か頷くと、魔理沙を怪訝そうな顔で見て言う。

「例えば、家事勝負とか? ……超人「聖白蓮」で家事をするとこんな小さな寺、一瞬で廃墟になるよ? 大体、そうでなくても君に勝ち目がない」
「ふふん、なら試してみるか? こう見えても料理の腕は中々なんだぜ……って家事勝負じゃない、弾幕ごっこに決まっているだろう。大体、なんで私ん家が散らかってるって知っているんだよ」

 宝塔を探していたときに、と、何事も無げに応えるナズーリンは、どこか気が合う感じがして話がしやすかった。
 この場にナズーリンが居なかったら、もう少し気まずい雰囲気になっていただろう。他のメンバーを悪く言うつもりはないが、微妙にノリが合わない。白蓮の影響なのか元々の性格は、良くも悪くも温和でのんびりとした空気がある。

「私が負けたら、何でも言うことを聞くつもりだ」

  合いの手を入れるようにナズーリンは煎餅をかじったので、魔理沙も一枚煎餅をいただく事にした。
 ナズーリンは煎餅を飲み込み、茶を啜って「ほぅ」と吐息し、でもさ、と尻尾をぱたぱたと動かし、

「何でも言うことを聞くって言っても、限度はあるだろう。考えつかないから、聖から提示して貰おうって事じゃないのかい?」

 そういう訳じゃないさ、と魔理沙は表情を少し真面目なものに変えた。

「それだけの価値があると私はおもっている」
「価値?」
「もちろん、勝てれば更に「かち」が増えるけどな」

 全員が黙り込み、何故か窓の外から聞こえてくる喧騒も止んだ。
 一輪だけがフォローのつもりなのか、寂しく拍手してくれているのがまた物悲しい。
 魔理沙は無言で座布団の上から退き、

「……じゃ、真面目な話をするぜ。お前ら、白蓮の考えを、どう思っている?」

「反対だったら最初からここには居ないよ」

 ムラサの答えに、全員が頷いた。

「そうでなけりゃ、ああまでして姐さんを助けたりしないしね」

 続く一輪の言葉を聞き、ムラサも星も頷いた。ただ、ナズーリンだけは、相も変わらずお茶をすするだけだった。まあ、そりゃそうだよな、と、魔理沙は改めて思う。

「私は、はっきり言って白蓮の考えが好きじゃない。その、白蓮の言う平等ってのがさ」
「そうかい」

 だから、

「再戦ってのも間違っちゃいないけどな……一番の目的は白蓮をブッ飛ばすことだ」

 どうだ、と片眉を上げて周囲を見たが、全員の反応は鈍いものだ。

「……怒らないんだな?」
「そりゃ、本心から言っているのなら怒るけどね」

 ムラサが茶を啜りながら言い、続くように一輪が煎餅を齧って、

「大体本音なのは分かりますけど、底が透けてますからね」
「……さすがおばあちゃん連中は落ち着きが*おおっと*今のは本音じゃないぜ!?」

 全員半目で武器を下ろした。

「というかムラサのは洒落にならん」
「大丈夫だよ、ババァでも持ち上げれる程度の重さだし」
「ははは、ドスンという音はどこから出たんだろうな?」

 無言。
 魔理沙は髪を掻き、あー、と短く呻いた後で、

「いや、本当はさ、私もよく分かっちゃいないんだよ」

 聖が言ったんだ、人間は昔と何も変わっていないって、と呟く。

「私はさ、まぁ、負けたんだ。でも「普通」だから「超人」に負けたとは思っていない」

 魔理沙が人間だから、人間であることを捨て、「向こう側」に行った白蓮に負けたのではない。
 だから、人間の敗北じゃない。
 魔理沙という個人の実力が足らず、白蓮という個人に負けただけだ。
 少なくとも、魔理沙自身はそう思っている。
 負け越しているのが、嫌だと思う気持ちがあるのは否定しない。
 再戦の理由が負けず嫌いだからと言われても否定はしないが、決してそれだけではない。
 人間は昔と変わっていないと言われ、それも何だか気に食わなかった。
 それだけではない、他にもモヤモヤと思うところがある。
 魔理沙自身もどのように表現をすれば良いのか分からないが、白蓮に対して何とも言えない気持ちがあるのだ。
 だから、もう一度ぶつかってみようと思った。
 相手を否定する為ではなく、理解する為の手段として。
 魔理沙の表情を見て、ほう、と星は表情を真面目なものにした。

「なるほど、詳しく聞きましょう」

 言って、星は魔理沙の前に座り込んだ。
 正座だ。
 裾を巻き込まぬよう丁寧に膝を折り畳み、背筋を伸ばした姿を、綺麗だと魔理沙は思う。

「非力な上に粗忽者という身ではありますが、その程度は出来ましょう」

 いざや申しませい、と視線で訴え、真正面からこちらを見つめてくる。
 武門を司る仏の化身は、その背筋と同様に折れてなどいない。
 そう、この視線だ。この視線が、魔理沙は苦手だった。
 しかし、今はありがたかった。
 自分でも、まとまりの付かない心情を、少しでも理解しようとしてくれる者がいて、本当にありがたいと思う。
 もちろん、口や表情には出さないが。
 そうか、と魔理沙は頷いた。

「じゃあ、聞くが」

 は、と息を吐く。

「白蓮は、何で人であることを止めた」

 今まで窓の外から聞こえていた周囲の喧騒が、突然増した気がした。
 空気が張り詰め、暖かくなっていくばかりの季節の筈なのに妙に冷える。
 がやがやという人々の声は、心音を遮っているかのようだと感じる。

「そんなことが気になるのかい?」

 ムラサが机に頬杖を突いた姿勢で問うてくるが、答えられない。
 自分にとっては、とても大事なことのような気がするのだ。

「そういえば、考えてみればムラサも元人間ね」
「まぁ、そうだね」

 そうだな、と魔理沙は心の中で頷いた。
 しかしムラサと白蓮では、自発的に人間を止めたかどうかという大きな違いがある。
 魔理沙が知りたいのは、「向こう側」に行った時の心の部分だ。
 何が白蓮をそうさせたのか。
 人間は昔から変わっていないと言った、その心が知りたいのだ。
 ずず、とナズーリンが茶を啜る音がうるさく感じる。

「貴女は」

 ぽつり、と星が言葉を発した。

「それを知って、どうするというのですか?」
「それは、その……」

 これも、上手く答えられない。
 星が責めているつもりが無いのは、真剣だが攻撃的ではない表情を見れば分かる。
 重大な話なのだから、話をするかどうかという判断の為に、先に目的を問うておこうということだろう。
 星が白蓮をどれだけ慕っているか、というのもあるだろうし、迂闊に他人に話してはいけない部分だからでもある。
 それに即答出来ず、気遅れを感じているのは、そういうことが分かるからだ。
 だが、興味本位で聞いているのではなく、真剣なのだ。
 上手く言葉に出来ない感覚がもどかしい。
 何か言おうとして、その度に適切な言葉を選ぼうと考え、答えとして「これは違う」というダメ出しが浮かんでくる。
 理由を自分に問い、否定するというサイクルが何度も続く。
 暫くそうしていると、新しい音が聞こえた。
 ぎしぎし、という、誰かが廊下を歩く音だ。
 消去法で言えば、それは白蓮の足音だろう。
 規則正しくリズムを刻む足音は、何かの儀式の音のようにも聞こえる。
 それは、と魔理沙が口を開きかけたところで、がらりとふすまが開いた。
「あらあら」
 視線を背後に向ければ、一人の尼が立っている。
「何やら私のことを話しているようですが」
 ねぇ、と白蓮は魔理沙の顔を見た。
「それについては、あまり多くを語りたくありません。……哀しい事も思い出してしまいますから。
 ですが、貴方はまだ若く、才能に溢れている。そう言う若者にこそ、話すべき事柄なのかもしれません。
 その代わり、どうしてそんな事を知りたくなったのか、それだけ教えてもらえますか?」

 問うてくる。
 声の質で、これは白蓮の保身ではなく、きちんと理由を聞いてきたものだ、と分かる。
 ――では、私はどうしてそんな事を訊きたいと思ったのだろう。
 白蓮のことを、知りたい、理解したいと思ったからだろうか。
 それもあるだろうが、本当の理由ではない。
 どうして私は妖怪になりたくないのか。
 本当は、そんな自分自身への問いかけではないのか。

「私自身、よくわからないな……」

 結局、言葉を濁してしまった。

「そうですか。……ならば」

 今は無理です、と言いきった。

 やっぱり、ちょっと待ってくれ、という言葉と、僅かな安堵が同時に湧いてくる。

 ――安堵? そうか、私は安心しているのか。

 魔理沙自身も問う理由が纏められない状態である。
 知りたい気持ちも、知りたくない気持ちも、半分と半分。
 悔しい思いもあるが、星や白蓮が逆に問いかけてきてくれて良かったとも思う。
 それでも宜しいですか、と白蓮に問われ、魔理沙は頷いた。
 今日の目的の内の一つ、自分の気持ちを知りたいということを合わせれば、むしろ気力も湧いてくる程だ。

「ところで、今日はこのようなことを聞きに来たのですか?」
「いや、まぁ、それもあるが」

 懐から八卦炉を取り出し、魔理沙は唇の端を釣り上げた。

「コンティニューしに来た。前は惜しい所でやられちまったからな」

 お陰でまた霊夢に良い所を取られたぜ、と言うと聖は苦笑した。

「しかし私は構いませんが……」

 どうでしょう、と白蓮は周囲を見た。
 特に反対意見は発生しない。
 ムラサは煎餅をかじり、一輪が茶をすすった。
 ナズーリンは肩をすくめただけだ。
 良いのではないですか、と星は笑みを作り、

「少なくとも私は、一足先に話を聞いた限りでは問題ないと思いました。聖には少しだけ申し訳ないですが、この娘を応援したいという思いもあります」

 へぇ、とナズーリンは星を見て首を傾げ、

「どういう風の吹き回しだい?」
「魔理沙の先程の言葉が気に入ったのですよ。「普通」だから「超人」に負けたのではない、というのは、分かっていても中々言えないですからね」

 そうですか、と白蓮は何度か頷いて、

「ここでやると人里に被害が及びます。場所は移動しましょう」
「ああ、それはまぁ、わかってるさ」

 魔理沙は無意識に辺りを見渡していた。
 気がつくと、ふと実家のある方を向いていたことに気づき、反対側に顔を向ける。
 はは、と誤魔化すような表情を浮かべ、魔理沙は外を見た。
 空は晴れていて、雲一つない良い天気だ。
 白蓮が復活したときの状況と対照的な感じで、だからこそ余計に綺麗に見える。
 間違ってもUFOや船なんか飛んでいないし、異変の気配も存在しない。
 この状態にしたのは自分ではなく霊夢だ。いや、実際は異変でもなんでもないのだったか。自分たちが何もしなくても同じ感じに落ち着いただろうし、霊夢がどうしたというのは話違いになる。
 ただし魔理沙の心境を除いては、という言葉が付くが。
 白蓮が復活するに辺っての異変、正しくは騒動で、自分は脇役だった。
 結局白蓮は霊夢に倒されて、自分は引き立て役で終わったのだ。
 全部が終わった後、なんとなくそう思ってしまったことを思い出す。
 いかん、と悪い方向に流れて行きそうになる思考を切り替え、無理に笑みを作った。

「まぁ、時間は取らせないぜ。五分もしない内に終わる。超人「聖白蓮」を超えられれば私はそれで良いんだ。その他のスペカは正直、眼中にない」
「また凄いことを言うね」

 ナズーリンたちが驚いたような呆れたような、何とも言えない表情で見てくるが魔理沙は無視をした。
 どうだ、と言うと、白蓮は頷いた。

「あ、そう言えば、私が勝ったら何でも言うことを聞くと言っていましたね」

 聞こえてたのか、と思うが、深く突っ込まないことにした。

「で、私が勝ったら私の言うことを聞いて貰うぜ?」

 うわ、と白蓮以外の全員、星までもが魔理沙を蔑んだ表情で見た。

「それは流石に図々しいんじゃないのかい?」
「いや、そんなことはないだろ?」

 この程度は普通だと言うか、他の知り合いはもっと外道の度合いが高い。
 命蓮寺のメンバーは地下に住んでいたので少し不慣れなだけだろうと魔理沙は判断した。
 善人が多いが順応速度が速そうなので、すぐに染まるだろう。

「ではルールは」
「基本的には前回の再現にしたいけどな。……その他の細かい部分については外に出ながら話そう」

 そうですね、と聖は立ち上がり窓の外を見た。
 魔理沙自身も先程確認したばかりだ、大きな変化があるとは思えない。
 しかし釣られるようにして外を見ると、角度が悪かったのか先程流れてきたのかは分からないが、今まで見えなかった大きな雲が浮かんでいるのが見えた。
 雲山や天人とは関係ない純粋な雲で、端からは昼の月が見える。

「どうした?」
「紫雲というものを知っていますか?」

 ん、と魔理沙は首を傾げ、

「念仏系の坊さんが死ぬとき、迎えに来る仏様が乗り物に使う雲だっけ?」
「大体そんな感じですね」

 それがどうした、と魔理沙は再度雲を見た。
 色の付いていない、普通の白い雲だが、白蓮には違うものに見えているのだろうか。
 もし、と聖は軽く目を伏せ、

「死ぬ間際に改宗したら、どうなるのでしょうね?」
「さてな。知り合いに閻魔が一人居るから、その内聞いてみるか。それに休日には人間の里にも説教しに来るし、私が立ち会わなくても大丈夫かもな」

 でもさ、と魔理沙は伸びをした。
 屋外に出たことで、気分が少し解放的になる。

「そういう不信心な奴の所には、最初から行く予定は無いんじゃないのか?」

 それが宗教である、というものが魔理沙の考えだ。
 聖の言いたいことは、なんとなく分かる。
 仏はきちんと修行した人間の元に訪れる。
 白蓮は人間を止めてしまったが、先程までは本堂に居たのだし、そういったことは止めてはいないのだろう。
 人間を止めてしまい、しかしそれでも尼僧を続けている者に対しての、仏の基準はどうなるのか分からない。
 白蓮はそこで少し、思うところがあるのだろう。
 少なくとも魔理沙は妖怪が死んだ際に神や仏に救われたという話を知らないし、仏教徒の妖怪の知り合いも存在しない。
 そもそも幻想郷には妖怪や神様が沢山居て、更に妖怪と神様の境界線もはっきりとしないという、中途半端というか妙な状況だ。
 詳しく話を聞こうにも、知人に神もそれなりに居るが、魔界神以外は雰囲気的に部署が違う。
 幻想郷で死ねば映姫が裁くということになっているらしいが、迎えに来るのとは意味が全く違う。
 幻想郷の場合は、死んだ後は自分の魂が順路を通って進むだけだ。
 ここでは宗教観もシステムも仏教と違う。
 死んでも報われる保証が無い。
 仏教徒としてはきちんと道を歩んできた白蓮からしたら、幻想郷のものは只でさえ滅茶苦茶な状態なのに、更に自分のこともあり、これで何も思わないという者は居ないだろう。
 それでも今も尼僧を続けているのは、心が継続されているからだろうか。

「……人間のままでいれば良かったのにな」

 呟くと、白蓮は不思議そうにこちらを向いた。

「いや、なんでもない」










            §











「では、最後にもう一度だけルールの確認を」

 おう、と魔理沙は白蓮と共に浮き上がりながら、

「あのときの再現ってことで私は一発被弾したら負け、逆にそっちのスペルを避けきった場合が私の勝ちだ。他のスペルは無しの勝負……被弾は二発だけど。それで、負けた方が勝った方の言うことを何でも一つだけ聞くってことで」
「いえ、ですから被弾は三回までにしましょうと言っているでしょう。前回もそうでしたし」

 はぁ、と審判役となったナズーリンは溜息を吐いた。
 ここに来るまでで勝負の被弾回数で少し揉め、それが今も続いているのだ。魔理沙が一回で十分と言って、白蓮が三回だと言っている。相手の言うことを何でも聞くと言う酷い罰が待っているのだから、

「普通は逆だろうに」

 ナズーリンは小さく呟いた。

「はい、じゃあ二人の間を取って被弾二回だね。ほら、さっさと始めるんだ。このままじゃ勝負を始める前に日が暮れてしまうよ」
「……では、それで」
「むぅ。……まぁ、当らなければ良いだけか」
「そういうことだよ。では、尋常に」

 始め!! とナズーリンの声が響く。
 白蓮は頷き、懐から一枚のカードを取り出した。
 魔理沙が破ることの出来なかったスペルカード、『超人「聖白蓮」』。

「お覚悟を」

 参ります、と呟いた白蓮の指先からカードがこぼれ落ちる。
 それに伴い、白蓮の足元に円陣が展開された。
 轟、と風が吹き荒ぶ。
 亜麻色の長髪を風に翻しながら、白蓮は薄く笑みを浮かべた。
 超人「聖白蓮」。
 白蓮の身体の隅々まで、活力が充ち満ちていくのを魔理沙は感じていた。
 女性らしい、か細い手足はそのままで、柔和な笑みもいつもと変わらず、見た目には変化がない。
 ただ、白蓮が持つ質量とでも言うのだろうか、それが何十倍にも膨れあがったような錯覚に陥るのだ。
 一歩踏み込めば、大地を砕き、吐息一つで木々をなぎ倒してしまう、そう、まるで鬼のような――。
 魔力による身体強化の極致を利用した、白蓮にのみ使えるスペルカードだった。
 じっと立っているだけで、後ろに飛ばされてしまいそうな圧力を感じながらも、魔理沙は動かない。
 目を逸らせば、負ける。
 未だ遠くにいるように見えても、もう既に必殺の領域なのだ。
 ルール上では被弾二回となっているが、自分で一回と言った以上は、当たる訳にはいかない。
 気を抜けば、その踏み込み一つで終了ということも有り得る。

 そして一歩、白蓮が右脚で地を踏みしめる。
 その姿勢は、まるで突き出される槍のように前のめりになって。

 二歩、白蓮は左脚で大気を踏みしめる。

 三歩目で亜音速に達した脚が、『音の壁』を踏みしめ、その身体を前へ前へと飛ばす。

 昔、馬鹿な遊びをしたことを思い出す。
 近所の池で行った、水の上を歩くというものだ。
 右足が沈む前に左足を出せば反作用で水の上を歩けると霖之助に嘘を教えられ、実際に試したことがあった。
 水も柔らかいとはいえモノなのだから、理屈の上では可能だよ、と無表情で言っていたので本気にしてしまった。
 確かに、それは可能だろう。
 ただし、情人離れした速度があれば、だが。
 ただ、「超人」の速度はそれを液体ではなく気体で可能にした。
 しかも、移動ではなく、加速という手段として。
 だが、と魔理沙は思う。
 脚力によって大気を圧縮し、足場にすることで通常の飛行速度を超越しようとするなど馬鹿げている。
 その馬鹿げた話を白蓮は膨大な魔力を燃料に、円陣と経典の複合制御により可能にした。
 大気を踏んで踏み出した白蓮は、三歩目には既にトップスピードに至っている。

「早いな。でも」

 まだ捉えられる――。
 それが何故、前回は負けてしまったのか。
 その日から考え続けていて、見付けた答えがある。
 戦闘中に交わされた会話で、自分が気付かない程度ではあったが、隙が生まれていた。
 あまり認めたくない話だが、気圧されていたのだろう、と思う。
 白蓮よりも強い者との弾幕戦も何度かやったことがある。
 命の危険というのならば、それは毎回のことだ。
 妖怪との本気の戦闘に比べればリスクは遥かに低いかもしれないが、それでも毎回命懸けであることには変わりはない。
 それなのに何故、気圧されてしまったのか。
 その一端は、はっきりと分かる。
 元は自分と同じ人間でありながら、まるで"鬼"と同等の力を発揮しだす白蓮に対する実力差への畏怖や困惑、恐怖を、戦闘中に不覚にも感じてしまったからだろう。
 だが、それだけではない。
 それも今回の戦闘で明らかになるだろう。
 これも恐らく、白蓮に対するもやもやとした感情の内の一つだからだ。
 それでも分からなかったのならば、自分で納得出来るレベルにまで、自分を押し上げるのみ。
 行くぜ、と唇の端を歪めて、箒のグリップ部分を強く握った。

 ――いざ、進め。

 もう、幾千、幾万と見てきた光景。
 鮮明だった視界は速度に合わせて少しずつぼやけていき、最終的にはカラフルな帯の姿で映り込むようになっていく。
 この光景が、魔理沙は好きだった。
 流星群のようで綺麗だし、自分の力で、速く、高く飛ぶということの爽快感もある。
 魅魔に空を飛ぶ魔法を教わり、飛ぶことが出来るようになった初めの頃はこの光景が楽しくて、スタートと停止を何度も繰り返していたし、今でも暇なときや研究が行き詰ったときなどは、このようにして気分転換をしたりもする。
 だが今は、と魔理沙は自分を戒め、真正面を見る。
 宙を「飛ぶ」というよりも、「駆ける」ようにしている白蓮の手に、足に、魔力光が集中し、その攻撃が来ることを告げていた。

 ――来る!

 右足を軸に、まるで踊るように身を回し、スカートの端と髪を大気を含んで翻らせ、腕全体のスナップも合わせて白蓮は一つの動きを形成する。
 定まった形式は無いが、それは一つの舞のように思えた。
 大気のうねり。
 葉のざわめき。
 自然に満ちる様々な音を引き連れて。
 そして、短い舞の完成と共に光弾が飛来した。
 最初のカウントは五つだが、その程度では終わらないことを覚えている。
 続く動きで、左手の五指からも光弾が発射されたが、まだ足りない。

 舞は続く。
 光弾の連射は終わらず、その後も白蓮の身体の各部の動きによって何度も繰り返し、繰り返し。
 即興で動きが決められ、白蓮は動く。
 それが演出であるかのように光弾が飛びまわる。
 大気の踏み込み。
 腕の振り。
 関節や、髪の動きにすら反応して無数の光弾が生成と発射を繰り返されていく。
 結果として白蓮の周囲に形成されたのは、天の川のような光の帯だ。
 それを見て、魔理沙は少し嬉しく思う。

「……白蓮も星を見るのかな」

 少し緊張がほぐれた気がした。
 気圧されていた前回と違い、心に少し余裕が出てきた感じもする。
 小さく、はっ、と笑い声が漏れた。
 だからこそ、弾幕をしっかりと見ることも出来た。
 正確に言えば、光弾の部分はあくまでも身体強化の為の魔法の副産物だ。
 全身に浸透し筋力や骨格、その他様々なものを強化した魔力の余剰分と、役目を終えた魔力の廃棄分が宙にばらまかれ、慣性のままに飛んでくるものが、弾幕となって襲い来る。
 分類するならば、自分のブレイジングスターに近いだろう。
 箒を浮遊にのみ利用し、後の魔力展開とブーストを八卦炉の火力に任せたものだ。
 その結果、ブースト部分も弾幕になっているというものだが、端的に言ってしまえば、ただ余剰の量が膨大な為に起きる現象だ。
 
 ――それを逆に言えば。

「身体の動きを見切れば、対応出来る」

 弾幕の初期位置は軌跡の通りになっているし、「走る」という動きは基本的に同じ動作の繰り返しで、一歩辺りの距離を計算すれば、どの位置の弾幕がどの方向に来るのは理論上では十分に推測出来る。
 しかしながら計算の量が膨大な為、並の集中力では到底追いつかない。
 以前は集中を欠いた結果、その予測の計算に遅れが出て不覚を取る形になってしまった。
 紫や藍、それに式神などのように計算が得意なら余裕だろうが。
 ――いや、言うまい。
 自分も魔法使いのはしくれだ。単純な直線運動の弾幕なぞ余裕で計算しきってみせよう。
 箒の柄にうつ伏せに寝るようにして身を低くし、更に身体全体で抱き込むようにして箒とのスペースを出来る限りゼロに近付けた。
 右から七発、左から六発、更に送れるようにして無数の光弾が迫ってくる。
 弾幕の回避で大切なのは、相手の弾が近付き過ぎる前に安全な位置に動くことと、回避した先が袋小路にならないようにすることの二点。
 それを魔理沙は忠実に実行した。
 体重移動で大きな方向転換をし、グリップ部分を左右にずらすことで細かな角度調整を行い、無数の光の壁の中をすり抜けるようにして回避を続けていく。
 マスタースパークという一応の回避手段はある。
 基本は魔力の奔流による攻撃目的のものだが、放出の余波で相手の弾幕を対消滅させることも可能なものだ。
 今は逃げ切りが目的なので役目としては後者の方が大きいが、前回の戦闘を再現するという制約もあるので自身に課した発射数は二発のみだ。
 白蓮自身は八卦炉のエネルギー残量など知らなかっただろうから、数発分あったと嘘を言うことが出来るが、それをしたら意味がない。

 ――普段は適当なことを言って流すことが出来るくせに。

「たまに、自分の馬鹿正直さが嫌になるぜ」
「何か言いましたか?」

 小さく呟いたつもりだったが、聴覚も強化されていたのか、問うてくる白蓮に魔理沙は黙って首を振った。
 そうですか、と笑みを浮かべている白蓮が、今は何を考えているのかは分からない。
 今は回避を続けるべきだ、と自身に言い聞かせ、魔理沙は身を振った。
 避ける。

「頑張りますね、魔理沙さん」
「じゃなきゃ、再戦した意味が無いからな」

 ですね、と言いつつ、白蓮が新たな動きを見せた。

「では私も意味を持たせる為に、もう少しばかりハードに行かせて戴きます」

 ウソだろ、と魔理沙は眉根を寄せたが、白蓮はそれを無視して経典を起動。
 両手を大きく広げる動きで一気に文字列を展開し、足元の円陣の直径が役二倍になった。
 円陣の中の書き込み量も飛躍的に増大し、注意して見なければ只の板に見える程の密度だ。
 負荷が大きくなったことにより大気には軋みのような音が鳴り、ばちばちと放電のようなうねりを持った魔力の残滓が、白蓮の周囲を駆け巡る。

「超人「聖白蓮」!」

 おいおい、と魔理沙は苦笑し、

「それはルール違反じゃないのか?」
「いいえ、大丈夫ですよ? ルール確認のときに追加スペル禁止ではなく「他の」スペル禁止と言ったでしょう? 只の上位レベル移行なら反則ではありません」

 それではでは、と白蓮は加速した。
 全身から放つ光量が増し、弾幕の厚みが一気に数倍に膨れ上がる。
 更に速度のみではなく、動きにも要素が増えた。
 今までは地を走る人間的な二次元的の動きだったが、移動の際に上下への角度が追加され、天狗が飛びまわるような三次元的な動きになった。
 弾幕の軌道が一気に複雑なものになる。
 これは今までに体験したことのない。

 ――だとしても、だ。

「やることは同じだぜ」

 そう言って、高度を落とす。
 しかし基本は変わらない。
 相手の軌道を見て、身体の動きを見て、歩行距離を見ての繰り返し。
 既に空の青と白の光弾、そして白蓮の姿しか見えない世界の中で、魔理沙は身を振った。
 弾幕はそれぞれ様々な方向から飛来してくるが、光弾一発ごとの動きは直線でしかない。
 スペルカードルールが適用されている以上は必ず回避出来る。

「同じ相手に二回も負けられないからなァ」

 真正面から飛んでくる光弾を見て、魔理沙は思い切り、身体を右に傾けた。
 快音。
 風を切る音が、先程まで自分の頭があった場所を通過していくのを知らせてくる。

「危ねぇな、当ったらどうすんだ」

 憎まれ口を叩くが、確実に先程のもので背中が汗で少し濡れた。
 もう本気で、ほんの少しも油断は出来ないと思いながら、バランスを調整する。
 このままの方が楽だと判断して、勢いのまま魔理沙は身体を箒を軸にするように回転し、元の姿勢に戻した。
 地面に擦れて落ちそうになった帽子を被り直しつつ、あまり大きなアクションは出来ないな、と思考して、は、と短く息を吐く。

「でも、少しばかり無茶をしてみるか」

 もっと高度を落とした。
 地面から僅か数十センチ、先程のような回転も危ない高さで飛行する。
 三次元的な動きをする白蓮が、ある程度の高度に達していることを逆利用。
 こちらを精密に狙って撃っているものではない以上、基本的には相手との距離が開けば開くほど弾幕の隙間は大きくなる。
 更に自分が飛ぶことで発生する衝撃波で地面の砂埃が舞い、煙幕の効果も期待出来るだろう。
 ただ無意味にバラ巻いているとは思えないので、無駄にはならない筈だ。

「あらよっと」

 飛び回りながら地面に弾幕を打ち込み、砂埃の量を多くした。
 白蓮からの視点ではもう地上は殆んど見えない筈だし、弾幕が地面を抉る反響音でこちらの位置を特定するのも難しくなっただろう、と、魔理沙は考える。
 元々、魔理沙自身も亜音速で飛行しているので、音で見つかるとは思えないが、居間での冗談に本堂から突っ込みを入れてくる、白蓮の地獄耳を切り捨てるつもりはない。
 どれも前回で使わなかった、と言うよりも使えなかった手段なので、白蓮にとっては初見だ。それなりに効果はあるだろう。
 それ以外にも、出来る限りのフェイントを魔理沙は繰り返していく。

 ――大サービスだ。

 今まで培ってきた弾幕戦の様々な技術を用い、回避を繰り返す。
 それほどの相手なのだ。
 煙幕の一部にゆらぎが見えたら、その軸から身体をずらす。
 牽制の弾幕を放ち、相手の位置をずらす。
 不規則に煙幕から脱出し、白蓮の思考を混乱させる。
 そこまでやって、初めて互角になる相手だと魔理沙は思っている。
 体感時間では十分経過したように思うが、現実では一分も経過していないだろうという理性の部分がとても恨めしく思える。
 それに、白蓮の顔も気に入らない。
 こちらは必至でやっているというのに、白蓮は笑みを浮かべているのだ。
 楽しいのだろう、と思うし、魔理沙自身も楽しい時間だとは思っている。
 だが自分が余裕が無いのに対し、向こうはまだ余裕があるというのが透けて見えてしまい――

「反則だぜ」

 思わずこぼれた言葉だった。
 何を言う、自分で決めたルールじゃないかと戒める。
 白蓮も全力に近い力を出しているのだろうが、完全に全力ではないだろうし、こっちが必死の思いでやっているのに対して相手は必死という感じではない。
 それだけの実力差があるのは、仕方ないと言ってしまえばそれまでだ。
 しかし魔理沙としては、認めたくない、という感情の方が強い。
 向こうは元人間の魔法使いで、こっちは普通の魔法使い。
 紫曰く、自分も人間の領域から外れてきているらしいが、それでも人間であることには変わりはない。
 それに人間を止めるつもりもない、あくまでも「普通の」魔法使いだ。

 ただ、現実は理想では動かないことも知っている。
 人間という生き物が物理の法則で縛られている以上は、妖怪などに比べ遥かに低い段階で限界というものがやってくる。
 魔理沙は自分が未熟だということを知っているから、それに加えて自分が人間だから、自分のレベルを努力と根性で無理やりに押し上げてきたのだ。
 人間だから、と諦めるのは嫌だ。
 相手が反則級に強いのならば、自分もそこに到達すれば、良い。
 幼馴染みの霊夢は人間だが、生まれと能力と才能で人間の領域を超越している。
 しかし、それはあくまでも例外としての話なのかもしれない。

 でも、努力を続けていけば――。

「そこに行ける筈なんだ」

 今の霊夢には敵わないが、過去の霊夢よりは、きっと今の自分の方が強い。
 ならば続けていけば、いつかは霊夢や他の存在のレベルにまで行ける筈だ。
 今回も、その一環だ。
 利用しているようで悪いとは思うが、ここを乗り越えることが出来れば、周囲との、自分が大好きな「彼女」との差を少しでも縮めたことになる。
 ふ、と息を吐いて、魔理沙は右腕を横に伸ばす。
 音速を超過すれば生身の状態では身体が大気の圧力に負けるし、何よりも呼吸が難しくなるので、魔理沙は飛行する際は衝撃を相殺するのではなく、大気による圧力を減衰する魔法を利用している。
 ただあくまでも減衰の魔法なので圧力は発生するし、今も腕が大気の震えで痺れているが、そこを気にしていたら白蓮を越えられない。
 魔理沙は箒の速度を更に上げ、右腕を振ることでの舵取りや、腕を大きく広げて表面積を多くしてのブレーキングなどを利用して前へと進んでいく。

「痛ッ」

 痛みの方向に目を向けると、掌が僅かに切れていた。
 かまいたちの発生で切れたらしいが、その程度で済んで良かったと少し安堵する。
 もし光弾がぶつかったのだとしたら、ヒット1のカウント程度では済まなかった。
 自分の速度も手伝っての、音速超過の状態での激突。
 肘から先が折れても仕方がない。
 それに使っている魔法が減衰タイプで良かったとも思う。
 もし相殺タイプなら傷口周囲に発生した真空が継続され、一気に大量出血をしていたところだ。
 そのまま意識を失って地上に落下したり障害物にぶつかったりすれば、命が無くなる。
 足で強く箒を挟んで身体を固定すると、ポケットからハンカチを取り出して傷口に巻く。
 今までも何度かあったことだ、動きに迷いはない。

「あーあ、また嫌味言われるんだろうなー」

 血が滲んで取れなくなると、使い物にならないし、何よりも使いたくないので毎回香霖堂に新たなハンカチを買いに行くが、その度に馬鹿な遊びをするからだと言われる。
 霖之助本人に他意はなく理由を言っているだけなのだろうが、何度も言われている身としては少々心が重い。

「まぁ、それでも何だかんだ言って八卦炉の修理とかしてくれるんだからツンデレだよな」

 と言っている間に次のものが来た。
 思考を切り替え、大きく身体を右に振って、更に身を捻る。
 急速的な加重の変化を気合いで制御して、バランスが崩れるのを防いだ。
 先程から増加の一途を辿る弾幕により、それは難しくなっていくが、まだまだ泣き言を言っている段階ではない。
 それに、悪いことばかりでもない。
 弾数は数倍、方向も複雑になったが、代わりに得たメリットもある。
 弾幕の配列が平面のものから立体のものになったことで、スペースに入り込んだ場合、その空間が前の段階のものに比べて広くなったことだ。
 その空間を利用して、魔理沙自身も身を縦にする旋回運動が可能になった。
 魔理沙は箒のブラシ部分を踵で蹴り上げることで角度を調整し、下方向に向きを変更。
 地上数センチにまで突っ込むように高度を下げた直後、頭の上を弾幕が通過した。
 地面が近い。
 がりがりと箒のブラシ部分が地面を擦っているのを聞き、グリップを引いて方向調整。
 更に下方向に弾幕を数発放ち、その反動で強制的に箒を垂直にして上昇する。

 爆音。

 地面に被弾した弾幕が土埃を撒く中、全身から土埃の煙を引いて魔理沙は高度を上げていく。
 口の中に土くれの一部が入るが、腹を壊さなければどうということはない。
 唇付近のものを腕で乱暴に拭い、進行方向を再び変える。
 連続で弧を描くように宙を滑り、持てる力の全てを使って回避を続ける。
 上下左右が目まぐるしく反転し、方向と言う概念が薄れていきそうになるが、これこそ飛行の醍醐味。
 天と地が等しくなり、右と左が同等の物となる。
 自分と世界の全てが同化するような感覚は他では絶対に味わえないだろうと思うし、それに弾幕の光が加われば、それは尚更素晴らしいものになる。
 星が上下などの区分も無しに好き勝手に飛び回っているように見える光景というのは、これこそ絶景。
 楽しい、綺麗、そんな気持ちが胸の中で乱舞する。
 確かに弾幕の量は少しばかりキツいものになってきているが、それすらも楽しみの一つになってしまうのだ。
 増えろ増えろ、もっと増えろ。
 苦しいが、天体の密度が増していくのは嬉しいことだ。

 それがどのくらい続いていたか分からないが――。

「流石に半分は超えただろうな」
「そうですね」

 声の方向に振り向くと、白蓮が自分のすぐ後ろの位置に浮かんでいた。

 ――やられた!

 弾幕も攻撃手段の一種ではあるが、それを更に目眩ましにされたことは予想の外。
 顔は相変わらず笑みのままだが、各部を余剰魔力や肉体の酷使による熱量で周囲には薄い陽炎が出来ている。
 それでは、と白蓮は奇妙な形で拳を握り、腕を振りかぶった。
 攻撃が来る、と本能的に目を瞑ってしまった直後、額に痛みが額に走った。

「はい、まずは一発です」

 ぱぁん、と空気が弾ける打撃音がする。

 ――……デコピン?

 予想よりは弱い痛みに、呆気に取られたが、少ししてデコピンをされたことに気が付いた。
 全力ではないだろうが肉体強化でのものなので痛みは強い。ひりひりと痛む部分を押さえて、こんなのアリかと心の中で愚痴をこぼした。
 いや、アリか。昔リグルが飛び蹴りのようなことをしていたときもルールには抵触しなかったし、文が美鈴に取材をしに行った際も蹴りが飛んできたと聞く。
 それに比べたら可愛いものなのだからルール上でも余裕で大丈夫なのだろう。
 そう、自分で思い出し、確認するまでもなく分かり切っている。
 ただ、ルール上では大丈夫なのだろうが、なんか納得がいかない。
 今度抗議してやろうと魔理沙は決意した。
 おまけにヒット一回だ。
 後が無くなった。
 自分でヒット一回と言っておきながらルールに救われた感じもあるが、もう食らうまい。
 距離を取ろう、と箒に込める魔力を強めようとした瞬間、箒から軽い振動が伝わった。

「安心して下さい、今からサービスタイム中です」

 一回戦終了ですね、と背中から声が聞こえる。
 まさか、と思って振り向くと、白蓮が横座りで乗っていた。
 体勢の関係上、白蓮の顔は見えないが、やけに突出している身体の一部分でその存在がはっきりと分かる。
 というか何だ、そんなに大きいのを自慢したいのか。
 そんな拘束服のような衣装の癖に全く押さえこめてなかったり、微妙に肉に食い込んでいる謎の紐部分で柔らかさとか弾力とか大きさとかを無意味に主張したりと自分に喧嘩を売っているとしか思えない。
 セーブしていて今のサイズとか馬鹿にしているのか、もういっそのこと邪魔な肉をもぎ取ってやろうかとか思ったが、その言葉を飲み込み、

「……今は勝負の真っ最中だぜ」
「魔理沙さん、魔力が乱れていますよ?」

 やかましい。

「大体、何で尼僧なのにムチムチしてるんだよ? 僧侶は豆腐以外の食品ではタンパク質とかカロリーとか取れないんじゃなかったのかよ」

 いかん、ついに口から出てしまったと思うが、もう遅い。
 普段の冗談が口から出て行ってしまうのは余裕が発生しているからだろうか、とせめて前向きに考えようとする。

「え? いえ、特別なことは何も」
「あー、分かった。ババァ状態から元に戻るときに身体に細工したな?」

 鈍痛。
 エア巻物で殴られると痛いということを魔理沙は学習した。

「あ、今はサービスタイムだから被弾ノーカウントだよな?」

 というか、これで終了なのは悲しすぎる。
 元々負けるつもりはないが、負けるにしても出来ればマシな方が良い。

「はい。つまり何発イッても大丈夫ということですね」

 魔理沙は素直に謝った。
 数秒。
 白蓮は表情を真面目なものに変え、

「今から真面目なお話をします」

 こん、と指先で箒の柄を叩いた。
 何の強化もされていない、ただの手遊びだ。
 その程度では飛行にも何の影響も出ないし、深い意味は無いのだろうが、カチンと来た。
 これは自分に余裕があるからではなく、

「もう少し大事に扱ってくれよ。この箒は大事な相棒なんだ」

 自分で先程地面に擦らせておいての言い草だが、自分がする場合と他人がする場合では話が違う。

「それは申し訳ありません。大変失礼致しました」

 ですが、と白蓮は声を少し低くして、

「箒は、どこまで行っても箒なのではありませんか?」

 馬鹿言うな、と魔理沙は身を起こし、改めて白蓮の顔を見た。
 顔は笑みのままだが、小さな違和感のようなものがある。
 それを気にしながらも魔理沙は白蓮を軽く睨み、

「これは私が小さい時からずっと一緒だったんだ、もう普通の箒とは言えないぜ?」

 そうですか、と白蓮は頷き、

「もっと小さい時から、それこそ生まれた時から貴女の傍に居てくれた人達を切り捨てているのにですか? 少し不思議ですね」

 嫌な言い方をする女だ、と舌打ちを一つ。
 命蓮寺は人里に新しく出来たにも関わらず、それなりに周囲と上手くいっているらしいという話は皆から聞いている。
 ならば白蓮も、自分が道具屋の娘だということも誰かから聞いていたとしても不思議な話ではない。自分がそれなりに有名人だということは自覚をしているし、詮索されたとしても隠すつもりもない。
 それに、白蓮の言い分と魔理沙との認識は違う。

「切り捨てた訳じゃない。向こうが勝手に勘当と言ってるだけだ」
「そうですか。では」

 表情が消えた。

「貴女から和解をしようともしない、それどころか実家に帰ろうとも関わろうともしない。その理由があるのなら、聞かせてくれると嬉しいのですが」
「親父の差し金か?」

 いいえ、と白蓮は首を振り、

「私の意思です」

 こん、と再び箒を叩いた。

「老婆心ながら……あ、今のはナシです。純粋な親切心で……単語は正しく使いましょう」

 うふふ、という笑い方に一瞬黒歴史時代のトラウマが蘇りかけたが、魔理沙は我慢した。

「どうして、そうしているのですか?」
「それは」

 言いかけ、しかし言い淀む。
 私と貴女は似ています、と白蓮は言った。

「あのとき、貴女を含めて三人の少女がやって来ました」

 霊夢と早苗と、それから自分のことだ。

「私は貴女に勝ち、そして紅白の巫女に敗れてしまいましたが」
「おい、緑のも居ただろ? 自分で三人って言ったのに」

 あー、そういえば、と白蓮は首を傾げ、

「何だかんだで寝起きの運動にブッ飛ばしたので言いにくくて」

 酷い話だと思い早苗に同情しつつ、「それで?」と話を促す。

「そりゃ、その三人なら私が一番似てるだろうさ。私は魔法使いで、霊夢は神職だ。残りの一人は……あー、うん。その、アレだ」

 でもよ、と魔理沙は言葉を続け、

「それくらいのモンだろ? 他に何が有るってんだ?」
「家族と生きたまま離れています。私の弟は既に死んでしまいましたが、貴女の年頃の頃は生きたまま離れていました。しかし、決定的な違いもあります」

 嫌な話だ、と思う。

「何故、家族と会わないのですか? 貴女の家族は修行中でも無いでしょうし、他の二人と違ってご両親も健在でしょうに」

 貴女は甘えています、と言葉を繋ぎ、箒の上で立ち上がった。
 会話をする為に速度は落としているが、それでも結構なものの筈だ。その証拠に長い髪やスカート、袖口が風に揺れ、ばたばたとうるさいくらいに音をたてている。
 それなのに、地上で、しかも少し風が強い程度の感覚で立っているように見える理由は一つしか思い当たらない。
 既に予備動作である肉体の強化、スペルカードの待機状態に入っているのだ。

「今の内に、私の願いを言っておきましょう」

 なんだよ、と魔理沙は問うが、なんとなくの予想は出来る。

「私が勝ったら、実家に帰りなさい」

 良いですね、と白蓮は念を押した。

「何も魔法の勉強を止めろとは言いません。せめてご家族と一緒に暮らしなさい、と言っているだけです」

 何でもすると言ったのは自分だが、ふざけるな、と内心で叫ぶ。
 魔理沙はせめてもの抵抗に顔を背け、眉根を寄せた。
 良いですね、と先程と同じ念押しをされ、分かったと小さく呟く。
 良い訳がない。
 実家に帰ったら魔法の勉強など禁止にされてしまうだろう。
 それに何よりも、霊夢のところに辿りつけなくなる。
 差が開くのではなく、道が閉ざされてしまう。
 そんなことは死んでもごめんだ。
 両手を広げ、仰向きに倒れ込み、落下する。
 心配はしない、心配するとしたら自分の身の安全の方だ。
 髪が風に踊り、表情を隠しているが、唇の動きははっきりと見えた。
 自分は既に加速を始めているので声は聞こえないが、何を言っているかは動きで分かる。

 超人「聖白蓮」

 突風が巻き起こり、白蓮の全身からの光量が爆発的に増していく。
 それはもはや、一つの星だ。
 青くすら見える白の光の渦の中、ふ、と大きく息を吸うのが見えた。
 無呼吸による高速運動の兆しだ。
 大気が、空間が音をたてて爆発する。
 瞬間的に移動を開始して回避したが、その軌跡を見て魔理沙は表情を歪めた。

「冗談じゃねぇぞ……」

 熱で道なりに陽炎が発生しているし、その軌道上に発生した真空によって、風の流れがおかしくなっている。
 そして発生する弾幕の密度は、ルールに抵触するかどうかギリギリの量になっていて、

「ルナティックってレベルじゃねぇな」

 ファンタズム、という単語を頭に思い浮かべる。
 今はもう、使わなくなった言葉だ。

「今のは警告です。ご両親に会うのに、怪我はさせたくありません」
「……っ、ナメるな!」

 箒に全力で魔力を注ぎ込み、一気にブーストする。
 もう半分は来たのだ、やってやれない事は無いだろう。
 互いに身体から亜音速による水蒸気の糸を引きながら、加速を続けていく。
 魔理沙は白蓮を見る。

「いよいよ動きが化け物じみてきたなぁ!」

 踏み込みによる加速だけではなく、白蓮は身体の全てを利用して宙を移動している。
 宙に拳や肘を突き込むことで別方向の反動を発生させ、それによって移動の方向などを調整している。
 他にも蹴りや膝の打ち込み、振った髪やスカートの裾の重量分でも打撃が発生し、それを利用して縦横無尽に移動する姿は鬼だ。
 今までの舞うような動きとは性逆の、荒れ狂っているとすら思える動きを、暴れているようだ、と魔理沙は思う。
 だったら、

「一人で楽しむなよ」

 暴れるのは自分の得意分野だ。
 それに加えて思うのは、やっと本気を出してきた、ということだ。
 まだ全力ではないというのは表情を見れば分かるが、今まではしていなかった打撃による制動を行い始めたというのは、自分がそれをする価値があると認められたということじゃないだろうか。
 どうだ、霊夢、と心の中で語りかける。
 お前はこれを、目にしたのか、と。
 私はここまで認められたんだぞ、と。
 もしこの場に霊夢が居たら、「どうでも良いわよ、そんなの」などと言っていたかもしれないが、それでも歓喜は止まらない。
 今の自分は遥か格上の相手に対等だと認められて、ここに居るのだ。
 少し自分勝手かもしれないが、被弾は二回にして正解だったと魔理沙は思う。
 弾幕が来る。
 およそ数千発、星空のように展開された弾幕を回避しながら、魔理沙は一つのことに気が付いた。これだけの数の弾幕が発生しているのに、白蓮の周囲には必ずスペースが発生しているのだ。
 無論、白蓮の居る位置は常に軌道の先端だし、移動する際にも比較的大きな動きの取りやすい広いスペースに向かっているのだろうというのは分かる。
 副次的に引き起こされる暴風や真空、陽炎を生むような熱の場所を避けているのも分かる。
 動きに乱れが生まれるし、不要な事故や怪我を引き起こす恐れがあるからだ。
 しかし、それだけでは説明しきれない妙な違和感があり、その理由を考えた。
 心当たりは幾つかあるが、確信は無い。

 一瞬の思考時間が仇となった。
 気付けば光弾が真正面から飛来してくるのが見える。
 間に合わない、と魔理沙は瞬時に判断。
 八卦炉を構え、魔力を込め、自身の代名詞とも言えるスペルカードを発動させる。
 恋符「マスタースパーク」
 最初に砲のような音が響いて、続くのは電性を帯びた魔力が大気を裂き、焼き、そして分解していく歪な音だ。黄色のレイラインが視界を正確に両断し、進路上の全てのものを飲み込みながら唸りをあげる。

「あっぶねぇ……ん?」

 マスタースパークは基本的に動きの遅い砲台である。
 それ故に回避行動にしか使えないだろうし、白蓮に当たることも無いだろう、と魔理沙は思っていたが、何故か白蓮は回避行動をギリギリまで取らず、今までと同じように弾幕の生成を行うだけ。
 何故だ、という疑問の答えはすぐに来た。
 頬に冷たい感触が来て、指先で軽く拭えば、

「血か?」

 自分は被弾していないので、そうなると消去法で血は白蓮のものに違いない。
 時間の経過によりマスタースパークの光が消え、白蓮の姿が見えるようになって、それは確信に変わった。
 見上げると未だに弾幕を撒いているが、今のものでスカートが破れたのか白蓮の脚が完全に見えていた。
 正確にいえば脚どころではなく、その奥にある黒のレースが見えて――。

「……清楚に見えて、結構エゲつないの穿いてんだな」

 白蓮が顔を赤らめて、結果的に弾幕の量が更に二倍になった。
 厳しいな、と思うが、しかし魔理沙は前に出る。
 見えたのは白蓮の下着だけでなく、太腿に新しく出来た小さな傷もその内の一つ。
 自分のマスタースパークが掠ったのなら、電性を帯びたものなので軽く火傷になるか、あるいは小さな変色が発生するかの筈である。
 それなのに出血するような傷が生まれたということは他の要因があるということではないか。
 ここは空中で障害になるようなものも存在しないし、かまいたちで切れたのなら今頃は既に全身がズタズタになっている筈だ。
 それに真空が発生しているので出血は今のように些細なものでは終わらないだろう。
 ならば考えられる要因は、白蓮自身の弾幕がヒットしたということなのだろうか。
 そうだと考えるなら白蓮が弾幕のない広いスペースに常に移動していたことにも説明がつくし、ギリギリまでマスタースパークを避けなかったことにも納得がいく。
 早めの回避をしなかったのではなく、自分の弾幕のせいで出来なかったのだろう。

 そして、攻略法も一つ思い付いた。
 それが前に出るという選択だ。
 弾幕の密度は広がりが少ない分、濃くなってくるが、それをかいくぐるようにして前へ前へと進んでいく。
 
 目指すのは白蓮の隣。
 
 一番の安全地帯は白蓮が居る場所だし、『超人「聖白蓮」』というスペルカードの特性上、速度で負けることが無い。
 自分は音速を超えることが出来るが、白蓮は音速を超えると物理的に踏み込みの反作用を発生させることが出来ないため、必ず音速未満で動くことになる。
 そこが隙だと判断した。
 上下左右に身体をブン回し、光の嵐の中を魔理沙は進んでいく。
 軌跡と弾幕の作る暴風が肌を叩いてくるが、痛みよりも目的の方が勝っている。
 グレイズによって服の何箇所かが破れたが、肌に傷はついていない。どうせ女同士だ、多少露出が多くなったところで恥ずかしいとは思わない。

「負けて、たまるか」

 本当に恥ずかしいのは、つまらないプライドを気にして負けることだ。
 進撃の速度を上げる。

「もう、怖くもなんともない」

 少なくとも、気圧されることは無い。
 鬼のような力だなんだと言っても、白蓮は自分のことを対等だと認めてくれた。
 ならば、そこにあるのは自分と弾幕戦をしている程度の相手でしかない。
 正確に弾幕の軌道を読み、進み、そして打ち倒すだけだ。

 眼前に弾幕がある。

 だからどうした。

 進め、進め。

 果たして、魔理沙は目的の場所まで辿り着いた。
 白蓮が驚愕を顔に浮かべるが、魔理沙は笑みを作り、

「おい」

 叫ぶ。

 その速度ゆえに声は殆んど背後に流れていくだろうが、それでも言わなきゃいけない事があった。

「お前、魔界で会ったとき、魔法を使ったが為に封印されたとか言ってたな」

「ええ」
「私は今は魔法を使っても大丈夫な時代になったって答えたけど――。やっぱり、お前の言う通り、人間は変わっていないかもしれない。
 私が迫害されたりしないのは――」
「人間の味方をしているから、でしょう?」
「……そうだな」
「人間は弱く、臆病で、そして恐ろしい。理解の及ばないもの、異端者を見つけると、排除せずにはいられない――」

 白蓮もかつてはそうだった。
 その力を弱い人間のために使い、恐ろしい妖怪達から守っていた。
 でもそれは、単に人間が恐ろしかっただけなのかもしれない。
 異端――。『弱い人間』の敵にされるのが恐ろしくて。

「この幻想郷もそうでしょう。異端者が行き着いた最後の土地。外の世界は、私が千年前に危惧した通りの世界になってしまった」
「千年間、か……。私には想像もつかんよ。私みたいな普通の人間に出来る事なんて、せいぜい五十年の短い生涯を、精一杯生きる事くらいさ」

 そう、この感覚だ。
 自分と白蓮は、ある意味似たもの同士の筈なのに、ある境から、その超然とした思考についていけなくなる。
 その差はなんだ。
 単純に生きた歳月の差なのだろうか。いや――。

「お前みたいに『人間は変わっていない』なんて言える程、長く生きられしないし、賢くもなれないだろうよ」

 魔理沙は八卦炉を構え、白蓮の目を見た。

「それのどこが悪い! 弱くて、臆病な人間なりに、精一杯生きてるだけじゃないか!」

 そんなことも分からないのかよ、と魔理沙は叫ぶ。
 減衰されているとはいえ十分に強い空気の圧で、喉が張り裂けそうだ。
 それでも、叫ばずにはいられない。

「だから、私は言ったんだ」

 ほう、と白蓮が目を細めた。

「お前のような『妖怪』がってな!」

 そう、そうだ。
 迷いが完全に消え、思考がクリアになる。
 白蓮に対する苛立ちの正体が、はっきりと見える。
 これは、憤りだ。

「何が超人だ」

 お前は、人間など超えてはいない。
 人間の枠から、自主的に外れただけだ。

「色々考えててさ、今、ようやく判ったんだよ。何がやりたかったのか。……お前をただの人間に戻す!」
「何を馬鹿な、そんなこと出来る筈がありません」
「超人を打ち破る、普通の人間の力を見せてやる!」
「……面白い!」

 八卦炉の周囲に、余剰魔力が溢れ出す。
 オーバードライブの熱で掌が焼ける感触があるが、それを不快に感じることは無い。

「そこまでしようとする「意思」とは、一体何なのですか!?」

 決まっている。

「認めて貰うのさ。人間のままで……「普通の」魔法使いのままで、それでも皆と対等の存在になれるってことをさ! 
 親父だって「普通」という言葉に文句を言えなくなる位に、親父も霊夢も、妖怪たちも、それに白蓮……お前も、皆が平等に暮らせる為に!」

 自分が霊夢にこだわっているのは、純粋な行為からだけではない。
 傍に居たいと思うだけならば、それこそ簡単だ。ただ毎日遊びに行って、話をすれば良いだけだ。霊夢は来るものは拒まない、だからいつまでも近くに居ることは可能だろう。
 だが、それだけではないのだ。
 自分の目指す平等の体現の一つが、霊夢の実力やスタンスである以上は、妥協など出来はしない。
 そうして初めて、「傍に居る」のではなく「隣に居る」ことが出来る。
 しかし、白蓮は白蓮自身にとっての「それ」を諦めた。

 人間を見限った存在の癖に、

「私が「普通」であることを、そして人間が「人間」であることを侮辱するな大馬鹿野郎!!」

 そうですか、と白蓮は抑揚の足りない声で答え、

「ならば見せて戴きましょう。その「普通」や「人間」というものを」

 大きく腕を振って、弾幕を展開した。
 しかし、それは魔理沙に向けてではなく、自分の前方に対してだ。
 何をするつもりだ、と思う魔理沙の視界の中、白蓮の身体の光が増加する。
 それこそ白蓮のシルエットすら視認出来ない程に。
 それだけでは終わらない。
 白蓮は放り投げるようにして経典を広げた。
 長さにして数十メートルを超過するそれは、一瞬の脈動の後で自分からの動きを見せた。
 白蓮の周囲に壁を作るように、経典自身で正確な円の防壁を作り、更に何層もの円を重ねることで球に近い形を作り上げていく。
 紫の壁の向こう、白蓮は両手を振り上げる。
 そして弾幕が展開された。
 音速を超過した際の、大気の破裂音が一瞬だけ響き、白蓮の姿が掻き消えた。
 馬鹿な、不可能な筈だ、と思うが、宙に咲いた赤の色で原理を理解する。

「弾幕で足場を作ったのか!?」

 白蓮の弾幕は、本人に対しても物理的な干渉を与えるものだ。
 ならば音速を超過していようと踏み込みの反動を与えてくれるし、その運動エネルギーが持つ分だけ、むしろ白蓮の加速を後押しするものとなる。
 その代わりに全身の皮膚は裂けているし、そこからの出血によって体力も減るだろう。おまけに被弾を恐れていないのか、弾幕の密度が濃い空間も平気で駆け抜けており、その結果、目算すら出来ない程の密度に量が増加した。
 もう、勝つとか負けるとか、そういう次元ではない状態だ。
 無理かもしれない、と一瞬思うが、それよりも強い想いは、

「やっと100%の本気を出してくれたな」

 残りは十秒、と白蓮は叫び、

「全て避けて下さい」

 お願いします、と言葉が続く。

「私に対する貴女の姿勢を、とても好ましく思います。それこそ真の不惜身命である! ――南無三!」

 自分でこれだけ酷い弾幕にしておいて無茶な話だ、とは思うが、

「頼まれたら断る訳にはいかないよなぁ。何しろ目標は平等だし」

 体力の消耗が激しいせいか、八卦炉の予想起動可能時間は三秒程度。
 つまり七秒間避けきることが出来たら、そこで勝利は確定する。
 十秒間避けきっても勝利にはなるが――しかし、それだけでは面白くない。
 相手の勝利条件を更に越えてこそ意味がある。
 出来るだろうか、ではなく、出来る、と心の中で呟き、

「行くぜ」

 帽子を目深に被り、加速する。
 先程のように、白蓮の傍に向かうのは恐らく不可能。近付いたなら、その瞬間に白蓮の身体から発せられる弾幕に当てられて負けてしまうだろう。
 つまりここからは、純粋な回避力の勝負となる。
 大きく息を吸い、身体を左に飛ばした。
 元の位置を数発の弾幕が通過、しかしすぐに次のものが来る。
 暴れるように回り、揺れ、流れる視界の中で、魔理沙は弾幕を避ける。
 何としてでも、避けてやらねば。
 それだけでない、倒してやらねば、と魔理沙は思う。
 でなければ、相手に失礼だ。

「ここまで来たんだ」

 相手がもう全てを曝け出したのなら、それを打ち倒してやるのが礼儀というものだろう。
 そもそも、逃げるために来たのではない。
 白蓮と、ぶつかり合うために。
 もやもやとした気持ちを晴らすために。
 白蓮と、そして自分自身とを理解するために今日は会いに来たのだから。
 速度は音が背後に置かれている状態で、聞こえる音といえば自分の心音程度のものだ。
 早鐘を打つように鳴っているのを、楽しんでいるな、と自覚しつつ八卦炉の照準を白蓮の居る方向へと合わせていく。

 残り七秒。
 真っ直ぐに相手に届けたい気持ちがあるのなら、それは何かと自問する。

 残り六秒。
 答えは「恋」だ。

 残り五秒。
 だから魔理沙は、このスペルに恋という文字を名付けたのだ。

 残り四秒。
 咲け、咲け、咲き誇れ。
「恋華ッ!!」

 残り三秒。
 咲いてしまえ、恋の華。
「爛ッ!!」

 残り二秒。
 光輝き、己を誇れ。
「漫ッ!!」

 残り一秒。
 私の気持ちを届けておくれ。
 相手に真っ直ぐ貫き届け。
 その大輪を、見事に咲かせて魅せろ、私の中の恋の華。
 カウントゼロ。

 恋符「マスタースパーク」

 超過駆動により八卦炉から放たれたのは、大轟音と長大な魔力の道。
 反動で構えた手の爪は剥げ、骨や関節が悲鳴をあげているが、それでも魔理沙は構わずスペルを継続する。
 そして白蓮はこちらを見ると笑みを浮かべ、

「お見事! ですが……」

 負けません、との言葉を体言するように動きを更に加速した。
 踊るように、舞うように、暴れるように、荒れ狂うように、ありとあらゆる動きを混ぜて、壁とも言えるような量の弾幕を作り出していく。
 一秒経過した。
 白蓮の弾幕がマスタースパークに飲まれていくが、それでも動きを止めることは無い。
 魔理沙はそれを、綺麗だ、と素直に思う。

「昔の奴らは見る目が無いな」

 こんなに綺麗なのに、それを異端扱いするなんてどうかしている。

 ――二秒経過。

 音をたてて、八卦炉にひびが入るのが見えた。
 それに伴って僅かに魔力流の幅が狭くなるが、なんとか耐えてくれ、と魔理沙は思う。
 白蓮がこんなに「人間らしく」しているのに、それを完了しないままに終わってしまうなんて勿体ない話だ。
 あとたった一秒間だけ耐えてくれれば良いのだ、そうしたら後で、幾らでも休ませてやるから、と。
 あ、と魔理沙は叫ぶ。
 その後の飛行すら困難になる程に八卦炉に魔力を込め――。

「あああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっッ!」

 一気にマスタースパークの量が増した。
 あぁ、今日はめでたい日だ。仏滅だしな。
 今日は綺麗なものをたくさん見ることが出来た。

「今度、あいつにも聞かせてやらないとな」

 どういう反応をするだろうか。
 いつもみたいに、興味が無いと言って素っ気ないふりをするのか。
 それとも、一緒に喜んでくれるだろうか。
 八卦炉から聞こえていたみしみしという音が、ばきり、という決定的な音に変わった。
 八卦炉は砕け、白蓮の弾幕が全て消え、

「ありがとう、ございます」

 光の奔流が白蓮の身体を飲み込んでいく。
 勝った、と思った瞬間、視界が黒く染まっていく。
 不味い、と思うが意識が薄れてきて、身体に力を込めようと思っても動かせない。
 飛行とは別の、落下するとき独特の浮遊感が来て、落ちている、と他人事のように思う。
 それでも、と魔理沙は声を漏らし。

「ほら、普通の人間でも」

 妖怪に勝つ程度のことならば、出来るのだから。
 それを伝えていけば良いんだぜ、と呟いたのを最後に、完全に意識が途切れた。










            §










「ン? やっと起きたみたいね」

 うン? と首を捻って周りを見渡せば、視界に入ってくるのは見なれた風景。
 博霊神社の居間だった。
 布団を敷いているのではなく畳の上に直接寝転がり、二つ折りにした座布団を枕に、薄い毛布を掛けているだけのもの。
 魔理沙が普段、ここで昼寝をするときの基本スタイルだ。
 いつもの光景に安心はするが、おかしい、とも思う。

「……私は白蓮と弾幕戦をしていて」

 そして勝った。…………筈。
 まさか、と嫌な考えが頭に浮かんでくる。
 朝の夢から、ずっと夢だったんじゃないだろうか、と。

「……まさかな」

 そんなことは無いだろう。
 障子の向こうは黒一色で、時間の経過としては合っている。
 普通に考えれば夢である筈は無いのだが、未だに少し、信じられない部分もあるのだ。
 戦闘中はハイになっていたので気にもならなかったが、素に戻った今は、夢だったんじゃないかと少し臆病になってしまう。
 確認の為に魔理沙は寝起きの顔を覗き込んでいる霊夢の襟首を掴み、

「確認するけど、私はいつから寝てた?」
「え? 昨日の夜から丸一日だけど?」
「嘘!?」
「嘘よ」

 本気で落ち込みそうになったが、間一髪で救われた。
 元々落ち込みそうになった原因は霊夢だが。
 何はともあれ、良かった……と安堵の気持ちが湧いてくる。
 白蓮との勝負は夢でもなんでもなく、そして自分は……。

「で、負けたの?」
「せめて「勝ったの?」って聞けよ」

 意味合いは同じでも、ニュアンスが正反対だ。
 しかし、それなりに気にかけてくれていたのだろう、という事実に嬉しくなり、

「勝った」

 短く、そう答えた。
 そう、勝ったのだ。
 自分よりも遥かに格上の白蓮に。
 いや、と魔理沙は首を振った。
 格上などと呼ぶのは失礼だ、白蓮は自分を相手に本気を出してくれたのだから。
 だから正確に言うのなら、「勝った」だ。それ以外の何でもない。
 そっか、と霊夢は立ち上がり、台所へと向かっていく。

「それなら私も苦労して運んできた甲斐があったわ」

 どういうことだ、と魔理沙は首を傾げたが、問う前に霊夢の姿が消える。
 しかし、その答えはすぐに来た。
 こちらに聞こえるように配慮してか、霊夢は少し大きめの声で、

「やけに大きい音がしたと思ったら、窓の外からアホみたいに大きい光の柱が見えたのよ。そんなことをするようなのは魔理沙くらいのものだし」

 それに、と続く言葉と共に霊夢の姿が現れる。
 その手には酒の瓶や、何点かの小料理が乗った盆があった。

「それに、なんだよ?」

 うん、と霊夢は頷いて卓袱台に瓶と小皿を置いた。
 料理がそれぞれ二品ずつあるのを見る限り、魔理沙が起きるまで霊夢も夕食を口にしていなかったのだろう。
 今の正確な時間は分からないが、自分に付き合うために食べるのを我慢してくれていたことを嬉しく思う。
 そのことを口に出せば霊夢は「たまたま」などと言うのだろうし、自分も照れるので口には出さない。
 昔からそんな関係だった。

「お互い素直じゃないよな」

 小さく呟いた声に、霊夢は首を傾げた。

「何でもない。それに、の続きを聞いただけだ」

 うん、と霊夢は再び頷き、

「そういう無茶をするときって、魔理沙は限度を知らないでしょ? だから、少し心配しただけよ。そんな状態の上に負け犬だったら、もう救いようが無いじゃない」

 酷い言い草だが、自分を気遣ってのものなのだろう。
 それに、何だかんだと言って気遣ってくれているのも嬉しい。
 卓袱台の上に並んだ料理は好物の割合が比較的高めだし、魔理沙はあまり好きではないが、『源平なます』まで出てきている。
 色が気に入っているのか博霊の伝統なのかは分からないが、何か良いコトがあれば霊夢はこれを食卓に出してくる。
 つまり、それを出す程度の気持ちはあるのだろう。

 それに、酒の瓶にも、「おめでとう魔理沙」などと書いてあるし、

「いや、待てよ?」

 透けて見える瓶の反対側にも、何故か文字が書いてあった。嫌な予感がして百八十度回すと、「次はもっと頑張ろう」と書かれている。

「おい、手を抜くなよ」
「一本しか無かったのよ」

 こんなにありがたくない「おめでとう」を、魔理沙は他に知らない。
 表裏一体と言うか、壁面が円になっている瓶の構造上、はげましの言葉が繋がっているように見える。
 おめでとう魔理沙、次はもっと頑張ろう。酷い言葉である。
 だが、嬉しさとありがたさは別物だと魔理沙は知った。
 これは意外な新発見だ。
 白蓮辺りならば四字熟語系統で、もっと良い感じのありがたい言葉をくれそうだが、今の霊夢の方が嬉しいのだ。
 例え、送ってくれた言葉が微妙な感じになっても。
 その証拠に今の自分は、戦闘で身も心もボロボロになった上、寝起きの状態だと言うのに、こんなにも活力が満ちている。
 新スペルカード『魔法使い「霧雨魔理沙」』が発生しそうな程に。
 白蓮のことを考えていたから、というのは関係無いだろうが、霊夢は思い出したように手を打った。

「そうだ、魔理沙。魔理沙を持って帰るときに白蓮さんが言ってたんだけど、『少し人間らしく生きてみようと思います』だって。元は人間なんだから、普通にしてたら十分人間らしいでしょうに。……アンタ何したのよ?」
「えーと」

 そう言われても、対応に困る。
 普通に弾幕ごっこをして普通にブッ飛ばしただけで――他には、少し文句を言ったり、その程度でしかない。
 だから、強いて言うならば。

「罰ゲーム?」

 何それ、と霊夢は首を傾げる。
 それよりもさ、と魔理沙は笑みを浮かべた。
 枕にしていた二つ折りの座布団を元に戻し、それに座ると、真正面から霊夢の顔を見る。

「これ食べ終わったら弾幕ごっこやろうぜ?」
「はぁ? アンタ今ボロボロなのに何言ってんの? それに運ぶときに見たけど、今八卦炉壊れてるでしょ?」

 そうだった、と魔理沙は膝を打った。
 指先が異常に痛い。

「あ、馬鹿、爪剥げてるのに」

 そう言えばそうだった。
 最後にマスタースパークを撃った時、反動で剥げてしまっていた。
 今までは何とも無かったのに、それを意識した瞬間に、じくじくとした猛烈な痛みが襲ってくる。
 ……と、痛む指を見ると、きちんと包帯が結ばれていた。
 十本の指全部。どこかで見たリボンのような、綺麗な蝶々結びで。

 ――結んでくれたんだ。

 何だかとても気恥ずかしく思えて、魔理沙は頬を染める。

 しかしこの指では箸も持てないだろう。
 あーんしてくれるだろうか。……無理だろうなぁ。

「せっかく一段と強くなった私の雄姿を見せれると思ったのに。あー、早く弾幕ごっこがしたいぜー。したいぜー!」

 はいはい、と適当に流す霊夢を魔理沙は睨み、

「おい、信じてないな? なら聞かせてやるぜ、私がどうやって白蓮を倒したのかを」

 ふぅん、と相槌を打ち霊夢は立ち上がった。

「どうでもいいわ。そんな話聞いてたら、お料理が冷めちゃうから持ってくるわね」
「酷い……いや、それよりもだな」

 必要ないって、と霊夢は振り返り、

「魔理沙が強いのは小さい時から知ってるわよ」
「は?」

 ――らんらん、ららら♪ ららん、ららら♪

 鼻歌を歌いながら台所に向かう霊夢の背を、魔理沙は大口を開けて見送った。
頑張りました。
魔理沙の研究をしていくうちに、レイマリにいきつきました。
でも魔理霖も捨てがたい。
打鍵三号(□ボ、千と二五五、匿名希望)
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2010/06/14 02:35:49
更新日時:
2010/07/31 22:46:50
評価:
31/76
POINT:
4470
Rate:
11.68
分類
博麗霊夢
霧雨魔理沙
聖白蓮
バトル
2. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/01 10:39:44
これこそがまりさの強さの根底なり
15. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/04 02:28:48
あっついバトルと聖の巨乳っ
徳の分だけ大きいのですね。
20. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/04 21:25:47
霊夢かわいい。
なんか色々と考えてたけど、この言葉しか出なかった。
霊夢かわいい。
21. 90 名前が無い程度の能力 ■2010/07/04 22:10:21
熱くなれる弾幕勝負と優しい霊夢の二段構えにやられました。
26. 90 名前が無い程度の能力 ■2010/07/05 18:02:23
申し分ない、意思と弾幕のぶつかり合い、
文章を読みながら、実際にプレイしているように感じました。
ルナティックなんていけないけどね。

しかし、最後と最初との繋がりがどうにも見られなかったことが、非常に残念です。
これでは『普通』の『人間』の敗北ではありませんか。
27. 30 電気羊 ■2010/07/06 05:50:08
バトルは難しいですねぇ。心情と状況で、なんでこんなに余裕あるの? って疑問を抱かせたら負けなんだと思います。
申し訳ない。まことに申し訳ないのだが、私はそう思ってしまったのだ。
スピード感の食い違いモヤモヤが、読んでいて自分の中に付き纏っていたのでした。
28. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/06 14:44:21
自分のイメージの魔理沙とそっくりで読んでて楽しかったです
>らんらん、ららら♪ ららん、ららら♪
・・・少女綺想曲?
34. 80 あおこめ ■2010/07/09 01:31:38
魔法を使いながら人間であり続ける魔理沙というテーマは
過去にかなりの数が扱われてますが、その答えは作品によって様々です。
そして、今作でも魔理沙らしい答えを見る事が出来ました。

そしてレイマリって良いですね。鼻歌霊夢にときめきました。
38. 70 半妖 ■2010/07/11 01:07:57
大口開けて呆けている魔理沙を想像したら笑えてしょうがない。
やっぱり魔理沙にとって、人間とそれ以外の区別はどうしようもなく大きいものですね。
39. 70 名前が無い程度の能力 ■2010/07/11 11:31:44
話はとても面白かったんだすが、少々中だるみしていると思いました。
最初の夢も、本当にただの夢で少し残念です。

ただ霧雨魔理沙という存在や、魔理沙と霊夢の関係とかは凄く良かったです。
これは恋というより友達以上恋人未満夫婦同然ですがねw
40. 100 名前がない程度の能力 ■2010/07/11 21:50:18
最後の霊夢の鼻歌にニヤッとしました
魔理沙がんばれ!
46. 90 名前が無い程度の能力 ■2010/07/18 14:14:14
「普通」VS「超人」 
決定的に違う二人の魔法使いの魂のぶつかり合いが熱い。ただひたすらに、熱い。
そして最後の霊夢のセリフに、魔理沙と霊夢の関係性が凝縮されていると思いました。
良いバトルをありがとうございました。
48. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/19 23:37:58
面白い。ツボにはまる面白さでした。
聖が登場するものはラグナロクにもいくつかありますが、この作品の聖が自分の中の像とぴったり重なりました。
バトルシーンの描写も白眉。ボリュームも丁度良い長さ。

いや感服です。
50. 80 名前が無い程度の能力 ■2010/07/22 21:01:28
べね
53. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/25 22:42:49
魔理沙が「普通の人間」であるが故の葛藤とそれを乗り越えようと必死に努力している姿が良く書かれていて(;∀;)カンドーシタ
57. 80 名前が無い程度の能力 ■2010/07/28 12:00:06
59. 70 ずわいがに ■2010/07/29 01:49:58
レイマリは苦手なんですがメインはバトルだったのでちゃんと最後まで読めました;w

なんという正統派弾幕ごっこSS。一つのスペルを計算によって攻略していく魔理沙マジカッコイイです!
そして彼女のポリシーというか、自分の在り方もまた「なるほど」と感心させられましたね。面白かったです。
60. 90 名前が無い程度の能力 ■2010/07/29 20:49:03
燃えた。熱くて暑い作品。読んでいるうちに心が高ぶってくる。弾幕の描写が綺麗で格好良い。
この化け物が、という印象は魔理沙だけでなく、私もDSでさんざん思い知らされました。聖さんは圧倒的な存在でいてほしい。
これを読んでから、えげつない下着を履いている聖さんが頭から離れないんですがどうしてくれましょうか。
61. 80 名前が無い程度の能力 ■2010/07/29 22:57:22
好い
62. 90 PNS ■2010/07/30 01:03:35
霊夢のお祝いが心にじんわり来ました。じんわり。
あと、なんだかんだいって私もレイマリ派なんだと実感させてくれましたw
63. 60 即奏 ■2010/07/30 04:43:13
バトルの描写が熱くて面白かったです。
64. 80 Ministery ■2010/07/30 15:55:36
やっぱり魔理沙だよなあ。普通って、なんでもないような言葉をここまで重くするのは。
そしてそれに正面から向かい合うように、聖がいい味出してる。
あいやお見事。
65. 30 八重結界 ■2010/07/30 16:40:12
説得もパワーだぜ
68. 60 ムラサキ ■2010/07/30 19:11:27
間の価値観を持って戦う魔理沙の姿や、それを受けての聖の姿が面白かったです。
さいごの霊夢と魔理沙の掛け合いも、昔からの友人を見てる感じでよかったです
69. 100 サバトラ ■2010/07/30 22:04:08
時間の都合上、点数だけの投稿とさせて頂きます!
大変申し訳ありません!
70. 60 如月日向 ■2010/07/30 22:04:38
魔理沙の根性を見せてもらいましたっ
72. 90 名前が無い程度の能力 ■2010/07/30 23:31:21
なんかレイマリっぽい作品多いなw
やっぱ東方はスペルカード戦だな!と思える作品でした
バトル部分でも所々力抜くとこがあって読んでて疲れなかったし下着黒だし
73. 100 春野岬 ■2010/07/30 23:34:01
バトルシーンが熱い!
とても魅力的な魔理沙でした。
74. 60 つくね ■2010/07/30 23:36:51
取り急ぎ点数のみにて失礼します。感想は後日、なるべく早い時期に。
75. 80 名前が無い程度の能力 ■2010/07/30 23:40:59
人の強さ。意思の強さ。諦観の踏破。
魔理沙らしい、普通の魔法使いらしい、人間らしい戦いでした。
76. 100 ぱじゃま紳士 ■2010/07/30 23:51:59
 申し訳ございませんが、採点のみで失礼いたします。
77. フリーレス 匿名評価
78. フリーレス 名前が無い程度の能力 ■2012/01/03 09:53:13
最後の締め方が素晴らしい
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