課外授業ようこそ妖怪

作品集: 最新 投稿日時: 2010/06/21 02:12:48 更新日時: 2010/08/01 02:12:23 評価: 59/165 POINT: 10210 Rate: 12.33




 ≪プロローグ≫



 ある晴れた日のこと。
 いつものように門前でシエスタに励んでいた美鈴の顔面に、何やらバサリと覆いかぶさってきた物があった。

「むひゃ!?」

 慌てて顔を払いながら跳ね起きる美鈴。
 何者かの気配を感じ、上空を見上げると、そこにはニヤニヤと笑う射命丸文の姿があった。

「な、何するんですか!」
「紅魔館へのお届け物ですよ」
「は?」

 文が指さしたのは、先ほど美鈴に払い除けられ、地面に落ちた封書だった。

「えっ、え?」
「言うまでもなく私の本業は新聞記者なんですけど、まあ印刷代を稼ぐための副業として配達業も始めたんです」
「そんなことより、あの封書は何です?」

 ピクリと頬を引きつらせながらも、文は笑顔で答える。

「さあ、中身までは存じ上げませんが。里の人間から預かったものですよ。……では、私は先を急ぐので、失礼致します」

 それだけ言うと、瞬く間に文は飛び去っていってしまった。
 後に残された美鈴はポカンとした顔で封書を拾い上げながら、首を傾げたのだった。


  ◇   ◇   ◇


 夕方頃、紅魔館のリビングでは、早起きしてきたレミリアと、地下図書館から出てきたパチュリーとが、咲夜の淹れた紅茶の香りを楽しんでいた。
 そこへ、外勤から戻ってきた美鈴が顔を出す。咲夜の姿を見つけ、手招きした。

「あの、咲夜さん、こんなものが届いたんですけど」

 封書を手渡された咲夜は、美鈴と同じように首を傾げた。
 封書の表には、筆で「紅魔館の皆様一同へ」と書かれている。
 その時代掛った毛筆があまりに見事だったので、一目見た咲夜は、どこか名のある剣客からの果たし状か何かかと思った。

「爆弾じゃないの?」

 パチュリーも剣呑な雰囲気をその封書から嗅ぎ取ったらしく、眉を顰めた。
 なるほど、確かにこの封書は、爆弾が入っていてもおかしくないような、どこか物々しい雰囲気を醸し出している。

「やだなぁ。文さんは、里の人間から預かったと言ってましたよ。こんな封書が爆発物だなんて、あるわけないじゃないですか」

 ハハハ、と美鈴は陽気に笑った。

「あら、近頃、封書型爆弾が流行っているのよ。不用意に開けたら爆発するの」
「えッ!? なんですかそれ!」

 パチュリーの言葉に、叫ぶ美鈴。

「面白そうね。開けてみなさい、美鈴。命令よ」

 いつの間にかソファテーブルを倒し、その天板の陰に身を隠していたレミリアが言う。
 パチュリーと咲夜も、そそくさとテーブルの裏に廻ると、レミリア共々顔だけひょっこり出して「貴方が受け取ったんだものね」「責任は取りなさいよ」と詰った。

「あー、やっぱりそういう展開ですか」

 皆に白い眼で見られ、美鈴は仕方ないという感じで、ごくりと生唾一つ、恐る恐る封書に手を掛けた。こんなの湖に捨てちゃえばよかったなぁ、などとぶつぶつ呟きながら。
 美鈴はできる限り自分の体から離し、細心の注意を払いながらゆっくりと封筒を開封しようとした。

「さっさとしなさいよ」「とろいわね」

 途端に外野から野次が飛んでくる。
 なんて自分勝手な連中だ。この封筒をあのソファテーブルの向こう側に投げ込んでやろうか、と美鈴は思ったが、それをすれば後が怖いと考え直し「ホァァァァァ!」と謎の奇声もろとも封を破って捨てた。
 爆発はしなかった。

「ほら、見せてみなさい」

 いつの間にか横に来ていた咲夜が、美鈴の手から封筒を取った。
 お前はもう用済みだと言わんばかりの仕草に、どうせ私なんてこんな役回りばかりですよ、と部屋の隅に行っていじける美鈴だったが、もちろん咲夜はそんな彼女を気にした様子も見せず、封筒の中身を主に見せる。

「『課外授業 〜ようこそ妖怪たち〜』のご案内だって、ふむふむ」

 レミリアは封筒の中に入っていた案内状にざっと目を通し、興味深げに息を漏らした。
 パチュリーも案内状を読みながら呟く。

「里の寺子屋の企画のようね。子供たちに体験学習をさせたい。しかもその講師を人間以外の者に頼みたい、と」

 咲夜がその後を引き取って、続ける。

「『授業内容は、基本的に講師が自由に決めてよい』『受け持つ生徒の数は、各教室あたり十名前後を予定』ですって」

 そこで、ちょっと首を傾げる。

「私まだ人間のつもりなんだけど参加できるのかしら」
「里の子供達と交流ですか。たまには良さそうですねぇ」

 といつの間にか復活してきた美鈴。

「私、教えるならガーデニングがいいです」
「太極拳でいいじゃない」「太極拳でしょ」「太極拳にしなさい」

 三者三様に詰られて、再び部屋の隅へと移動する美鈴。

「私なんて、私なんて――」
「面白そうじゃない。とにかく、一枚噛んでみましょうよ」

 にぃっと牙を剥き出しにして笑うレミリア。

「それにしても、授業内容は自由、ね……。どう、みんな何か考えはあって? 咲夜はやりたいことあるかしら」

 話を向けられた咲夜は、顎に手を当てて考える仕草をする。
 ややあって、咲夜は軽く微笑みながら口を開いた。

「では、お嬢様、もし参加できるのならば、私はティータイムにおける作法などを教授しようかと思います」

 鷹揚にレミリアが頷く。

「なるほど、いいじゃないの。なぁに、心配はいらないさ。咲夜ほどティータイムの講師に相応しいヤツはいない。……それじゃ、パチェは? 本読み教室でもするの?」

 万年引きこもりの魔女は、しばし考え込むように俯いたが、やがてニヤリと笑みを浮かべた。

「――そうね、押し花教室なんてのはどうかしら。栞を作って読書習慣を普及させるのよ」
「素晴らしいアイデアだわ。さすがはパチェね」
「はいっ、はいっ! お嬢様、私はガーデニングを教えたいと思います!」
「え、まあ……うん」
「何ですかその微妙な反応!」

 そんなやり取りをしり目に、思案顔で咲夜が言う。

「でも、お嬢様。問題が一つありますよ」
「……わかってるわよ」

 レミリアが億劫そうな口調で応える。

「フランのことね。あの子には教師役は荷が勝ち過ぎる。かといって、除け者にするのもね」
「ええ、それで一つ提案なのですが。教師役ではなくて、生徒役で参加させてみてはいかがかと」
「危険ではないかしら」

 パチュリーが慎重に言う。

「人死にが出たら、大問題になるわよ」
「それを防ぐ為に、私たちのうちの誰かの授業に参加させるというのはどうですか」
「人間たちが認めるとは思えない」
「その辺は交渉次第だと思います」

 辛抱強く咲夜は言う。

「私たちは進んでこの企画に協力する。代わりに、妹様の参加も認めさせます」

 パチュリーはちらりと友の横顔を見遣った。

「どうするの、レミィ?」
「咲夜に一任するわ」

 レミリアは即答する。

「元々向こうから声を掛けてきたのだから、譲歩させる余地はあるはず。何より、この企画の目的は妖怪と人間の交流みたいだから、フランだけを除け者にするというのは趣旨に反するわね。その辺を突いたら、巧く交渉できると思うわ」
「オーケー、とりあえず全員参加の方向で行きましょう」

 根負けしたのか、軽くため息を吐きながら言うパチュリー。

「申込書に記入するから、咲夜、提出してきて」
「かしこまりました」
「私は押し花教室。咲夜はティータイムのマナー教室。美鈴、貴方は太極拳でいいわね?」
「――はい、もう何でもいいです」
「レミィ? 貴方はどうするの?」

 そんなの決まってるじゃない、と自信満々の顔でレミリアは言い切った。

「『レミリア・スカーレットのパーフェクトカリスマ教室』よ。里のガキ共へ、私が直々に帝王学を教えてやるわ!」


1.


 夕食後のティータイムも終わり、食卓に着いていた紅魔館の面々は自然と解散していく。
 咲夜は後に残されたカップを片付けようとして、ふと思い出すことがあった。
 すでに部屋には咲夜しか残っていない。慌てて追いかけたところ廊下を歩いていく一つの背中を捉えることができた。

「美鈴」
「はい?」

 呼び止められた美鈴が不思議そうに振り返る。咲夜は手を突き出した。

「申込用紙。早く出しなさいよ」

 レミリアの言い付けで、紅魔館の分の申込用紙は咲夜がまとめて提出しに行くことになっている。
 レミリア、パチュリーからはすでに受け取っていて、咲夜自身も記入済み。
 美鈴のものを預かれば全て揃う。

「そのことですか……」

 美鈴は言いにくそうに口ごもった。いつも快活な彼女がこういった態度を取るのは珍しい。

「えーと、私は参加しません」
「え?」

 意外な一言だった。実のところ、今回のイベントに一番向いているのは美鈴だと思っていた。
 誰が相手でも態度を変えたりしない美鈴のような性格は、子供に好かれるのだ。

「そんなに太極拳講座が嫌なら、他に好きな授業をやったっていいのよ。わかっていると思うけどお嬢様は『面白いが正義』のお方だから、結果を出せば命令に背いたからといって怒ったりはしない」
「そういうことではないんです」

 美鈴は首を横に振った。申しわけなさそうな態度とは裏腹に、声からは強い意志が感じられる。

「用事があります。だから、参加はできません」
「用事って、さっきは何も……」

 あからさまな嘘に困惑してしまう。

「ごめんなさい! 咲夜さん」

 美鈴はそう言い残すと廊下をドタドタと走り去っていった。追いかけはしない。無理やり参加させても仕方がないからだ。

「変なやつ。まったく、もう」

 もっとも美鈴が変なのは今に始まったことではない。長い付き合いだから知っている。咲夜は大げさにため息をつくと、ダイニングルームへと戻っていた。


2.


 そんなこんなで動き出した、この企画。
 紅魔館以外からも、この課外授業の教師役を引き受けた人妖は大勢いた。
 何だかんだで皆ノリノリだったのだ。

 例えば、魔理沙は人間であるにも関わらず講師を快諾し、魔法の森の食べられるキノコとそうでもないものの違いをレクチャーしようという意気込みを見せており、妖夢は降って湧いた剣術指南役という大命に大変緊張したものの、幽々子の応援を受けて照れたように笑っていた。鈴仙は応急処置の仕方や手近にある薬草についての説明を、アリスは人形の作り方をそれぞれ教えることにしたようであった。
 その他、幽香がフラワーアレンジメントを教えると言い出した時は、皆無理なのではないかと内心思ったが、断ったら何が起こるかわからないので、申し込みは受理されることとなった。

 開講される課外授業のうち、事前の人気が最も高かったのは『にとり先生のペットボトルロケット講座』で、妖怪の山の麓の河川敷で行われる予定の教室には、早くも子供たちの期待が高まっていた。
 その一方で、企画申請の段階で却下され、幻になった教室も幾つかあった。
 一例としては――

『空先生の科学実験教室〜核融合って何だ?』
『永琳先生の新薬開発〜人体実験編』
『さとり先生の心理戦術 〜アイツを落とせ〜』

 大抵は子供向けでないか、あるいは危険度が高いという理由だったが、中には慧音の『慧音先生の歴史学講座〜ルナティック』のように自分の趣味を丸出しにしすぎ、参加申込者がゼロで打ち切りというのもあった。
 その点について言えば、レミリアの『パーフェクトカリスマ教室』もそうだった。
 そんな珍妙な授業を受けたがる子供など、一人もいなかったのだ。



 ――そして、いよいよ課外授業の日がやってきた。


3.


 地下図書館のフロアには机と椅子が並べられ、教室のように設えられていた。押し花教室は、この地下図書館で行われるのだ。
 自らの仕事を満足げに眺めた小悪魔は、一転して不安そうな面持ちになると、斜め後ろに座って書物へ目を落としている主のほうをちらりと見る。
 それは、これから始まろうとしている「押し花教室」とやらへの懸念の表明に他ならなかった。


  ◇   ◇   ◇


「――あの、パチュリー様」
「……なによ」

 レミリアのところへ件の封筒が届いた日のこと。
 図書館に戻ってきたパチュリーから、「押し花教室」を開くことになったという話を聞いて、小悪魔は首を傾げたものである。

「パチュリー様って、押し花好きでしたっけ?」
「別に」

 パチュリーは即答した。
 確かに、小悪魔が知る限りでは、パチュリーが押し花に興じていたことなどなかったはずだ。押し花をどうやって作るのか、知っているかどうかすら怪しい。
 小悪魔は頷き、再び尋ねた。

「……パチュリー様って、子供好きでしたっけ?」
「全然」

 またしても即答である。
 確かに、小悪魔が見る限りでは、パチュリーはとてもではないが子供好きとは思えなかった。子供をどうやって作るのか、知っているかどうかすら怪しい。
 そして小悪魔の胸中に浮かんだ疑問は、これだけのやり取りで急激に膨らんだ。

「あ、あのぅ」
「はっきりしないわね。言いたいことがあるなら、さっさと言いなさい」

 話を切り上げて読書に戻りたいというような、じれったそうな雰囲気のパチュリーに言われ、小悪魔は意を決して口を開く。

「押し花も人間の子供もお好きではないんですよね? なら、何で押し花教室なんて開こうと思われたので?」

 するとパチュリーはうっすらとした笑みを浮かべた。
 心なしか、小悪魔は背筋がすうっと寒くなるのを感じる。

「……決まっているじゃない。押し花なんて単なる口実よ」
「えっ……?」

 本を開きながら、パチュリーはその声に微かな喜悦の色を滲ませる。

「あの小憎らしい子供たちに、骨の髄まで叩きこんでやるのよ。……図書館のルールというものをね」

 パチュリーの暗い悦びに満ちた眼差しを見た小悪魔は、思い出した。
 以前、彼女が里の小さな図書館へ行った時のことを。


  ◇   ◇   ◇


 夏の宴会異変、緋雲異変を経て、パチュリーは以前より活動的になっていた。
 地下図書館に引き籠もりっきりということはなくなり、外へ出る機会も増えていたのだ。

 そんなパチュリーが、ある日、里にあるという図書館の話を聞き付けた。
 どうやら、里には少数ながら好事家がいて、それぞれが読まなくなった本を持ち寄って私設図書館のようなものを作っていたらしいのだ。そして、一度そのような「場」ができれば、あとは自然と本が集まってくる。
 そのようなわけで、私設図書館は、今では図書館の名に恥じぬほどの蔵書量を誇る、里の施設となっているのだとか。

 生きるために本を読むのではなく、本を読むために生きているようなパチュリーのことである。そんな話を耳にしてしまったら、居ても立ってもいられなくなったらしい。
 さっそく小悪魔を呼びつけ、お伴を命じると、里へ向かって飛び立った。

 里に着き、期待に満ちた目で私設図書館の中へと一歩足を踏み入れたパチュリーは、茫然とその場に立ち尽くした。

「な、な……」

 閲覧室の中に溢れる、子供、子供、子供。
 集まった本の中には、今時の洒落本や黄表紙なども多く含まれ、それらの存在が里の子供たちを惹きつけていたのだ。さながら樹木の蜜に群がる蟲たちのように。
 しかし、問題は子供たちの数ではない。
 木偶のように突っ立ったパチュリーの横から顔を出し、閲覧室の中を覗き込んだ小悪魔は、一目で事態を把握した。

(うわ、これはひどい、ですね……)

 本を振り回す子供、なにやら落書きをしている子供、頁を破り取っている子供……。
 それは、書物の泣き声が聴こえてきそうな、愛書家にとっては何よりも惨い光景だったのだ。

「――ち」

 ふと、すぐ横からそんな声が聞こえてきて、小悪魔はピクリと頭の羽を動かす。
 ひょっとしなくとも、パチュリーの身体が小刻みに震えているのがわかった。
 小悪魔は、ちょっとイヤな予感がした。

「……ち?」
「ちょっと貴方たちッ、そこまでよ!!」

 次の瞬間、普段のパチュリーからは想像もつかないほどの大音声が発せられ、小悪魔は思わず耳を押さえた。
 閲覧室内ではしゃぎ回っていた子供たちも、皆一斉にパチュリーのほうを見る。

「あな、貴方たち、ねぇ、ごほっ、ごほごほッ……!」

 パチュリーは興奮のせいか、咳き込んだ。

(あ、パチュリー様の顔色が……)

 怒るとき、顔が真っ赤になるタイプと青ざめるタイプがいるが、パチュリーは後者だった。血の気が引いたように、顔が真っ青になるのだ。
 ガウンの裾からちらりと覗く手は固く握り締められており、わなわなと震えている。それが不穏な雰囲気をいっそう高めていた。
 普段、冷静に見える者ほど怒った時の反動は凄まじいものがある。
 急速に魔力の渦が巻き起こるのを感じ、小悪魔は慌てた。里のど真ん中で特大の魔法を使えば、ただでは済まない。最悪、パチュリーは処刑されるだろう。
 そして使い魔としては、おとなしく主が処刑されるのを見ていることはできないのだった。哀しき運命の連帯責任である。

「ぱ、パチュリー様! ――わぷっ!」
「…………」
「……え?」

 集まり、高まった魔力が急に拡散し、小悪魔は風に煽られたときのように一瞬目を瞑った。
 そして目を開いてパチュリーのほうを見ると、彼女は白目を剥いていた。
 一拍遅れて、そのままくにゃりと倒れる主の身体を、小悪魔は慌てて支える。
 激昂したためか、パチュリーは気を失っていたのだった。


  ◇   ◇   ◇


「うーん、確かにあれは酷かったと思いますよ。ですけど……」
「本もまともに読めないような子猿どもには、躾が必要だと思わないかしら」

 口元は三日月のように吊り上がっているが、目元は笑っていない。
 パチュリーほどの魔女であれば、人間の子供を猿に変えることなど朝飯前だろう。
 小悪魔としては、トラブルという名の爆弾が、導火線に火の付いた状態でやって来たようにしか思えないのだった。

「で、でも、それなら『図書館マナー講座』とかにすればよかったじゃないですか」

 パチュリーの言をそのまま受け取るなら、本をきちんと読め、ということになるはずだ。そこに押し花教室の入り込む余地も由縁もなさそうである。
 しかし、パチュリーは呆れたように肩をすくめた。

「あのねぇ、そんなマナー講座に、あの子猿どもが集まると思う?」
「あー、なるほど……」

 マナーを守れている者にマナー講座は必要ない。
 しかし、マナーの守れていない者ほど、マナー講座の類には興味を示さないものだ。
 つまるところ、一番話を聴かせなければならないはずの層には、マナー講座の影響力を及ぼすことはできないということになる。あまりにも無意味なのであった。
 パチュリーは皮肉げな笑みを浮かべると、人差し指を軽く振る。

「本当は、『誰にでもできる魔法講座』とかのほうがエサとしてはよかったのだろうけど。……企画者連中の顔ぶれを見る限り、そういうのは通らなさそうだったからね」

 上白沢慧音や八雲紫といった連中が計画の立案者のようであったが、確かにうるさそうだ。特に寺子屋を預かる慧音は、色々な意味で頭が固いことで有名であり、魔法講座などというようなものが受け入れられるかどうかは怪しかった。

「はぁ、そういうことでしたか」
「ふん、貴方もちょっとは頭を使いなさい」

 じっとりとした目でこちらを見てくるパチュリーに、小悪魔は笑顔で言う。

「なら、もう一つだけ質問を」
「……? まだ何か」
「ええ。パチュリー様は『押し花教室』とおっしゃいましたが、本を乱暴に扱うようなやんちゃ小僧は、押し花になんて興味を示さないのでは、と思うのですが」
「んむ……」

 パチュリーの眉がひそめられる。
 どうやら痛いところを突いてしまったようだ。

「うふふ、どうなんですか、その辺り――ひゃ!?」

 にやけながらパチュリーに近寄った小悪魔は、頬を捻り上げられた。

「いひゃひゃひゃ! いひゃいでひゅ! パヒュリーひゃまっ!! あひゅっ!」
「……問題ないわ」

 パチュリーは一見すると冷静な表情で、いっそ冷酷な声音で応える。
 小悪魔の頬は捻り上げられたままであった。

「ひゃなしてくだひゃいよぅ!」
「仮に、本を乱暴に扱っていた子猿たちが来なくとも、押し花教室へやって来た子供たちにマナーを教え、注意してもらうようにすればいい。要は、自浄作用を高めればいいの」
「ひょ、ひょれは、ひぇっひょうなこひょでひゅが……」
「それなら最初からマナー講座と銘打ってもいいのでは、と貴方は言うかも知れないわね」
「ひょんなこひょより、ひゃなしてぇ!」

 パチュリーは、小悪魔の訴えが聴こえていないかのように続ける。

「だけど、それは浅慮というものよ。なぜだかわかるかしら?」
「ひゅにゅうぅぅ〜」
「つまりね、タイトルはそれだけ重要だということよ。小説と同じね。参加者がゼロだったら意味がないの。押し花教室なら、最低でも数名の参加者は見込めるだろうけど、マナー講座であればどうかしら。参加者がいれば、それは素晴らしいことだわ。だけど、あの図書館の惨状を見る限りでは……」
「びゃゃぁあぁぁ!」

 思い出して怒りが再び募ってきたのか、頬を捻り上げる指の力が増した。
 小悪魔は涙目である。調子に乗って主をやり込めようとすると、いつもこうなるのであった。
 もっとも、それを忘れて、何度も失敗を繰り返してしまうのだったが。

「……いないでしょうね、マナー講座に参加しようだなんて、殊勝な心がけの持ち主は」
「いひゃ、ッ! あふうっ! い、痛かったですよっ!」

 ようやくパチュリーの魔指から逃れられた小悪魔は、頬を押さえながら抗議する。
 パチュリーはというと、手元で開いている本から視線を上げようともしなかった。

「わ、私の頬を捻り上げる時間を長引かせるためだけに語ったでしょ! パチュリー様ったら、ホント陰険ですよねっ!」
「……あら、何か文句でも」
「ないです、ハイ」

 パチュリーが再び指をわきわきと動かしたのを見て、小悪魔は愛想笑いを浮かべた。
 そこで、ようやく視線を上げると、パチュリーは微かな微笑を張り付かせながら口を開く。

「そんなわけで、色々と準備のほう、よろしくね?」
「ハイ」

 返事をしながら、小悪魔は内心ため息を吐いた。


  ◇   ◇   ◇


 そんなこんなで、もう「押し花教室」の当日である。
 押し花作りの用意もしてあるが、主の本命はそこではない。
 押し花教室に参加しようというくらいだから、きっと少年よりも少女のほうが多いだろう。お転婆よりもお淑やかな娘のほうが多いのではないか。だとすれば、大過なく終えることができるのではないか……。
 そう考えかけて、小悪魔は首を左右に振る。それは希望的観測に過ぎない。たとえば、好きな娘へプレゼントするために押し花を作ろうという少年たちが参加するかも知れない。あるいは、お転婆同士が誘い合って参加する可能性だってある。
 つまり、何がどう転がるかわからないのであった。
 とりあえず、ここ数日で一通りの打ち合わせは済ませておいた。だが、そうはいっても、なかなかに頑固なパチュリーのことである。小悪魔の進言にどれだけ耳を傾けてくれるのかは、魔界神のみぞ知るといったところであった。

「パチュリー様」
「心配ないわ、小悪魔」

(――めちゃめちゃ心配なんですけど)

 キロリと目を輝かせる主に、そんなことを思いはしても、決して口には出せないのであった。



 やがて、開講の時間が迫ってくる。
 咲夜は里のほうへ行ってしまっているので、別のメイドに地下図書館までの案内を頼んでいた。
 小悪魔とパチュリーは、図書館でそれを待ち受けていればよかった。
 主のほうへ視線を向けながら、小悪魔は自らの決意を改めて確かめる。



 ――そう、今回の企画に際して、小悪魔にはひとつの決意があった。
 それは、決意と呼ぶにはあまりにもささやかな事柄であったかも知れない。
 だが、果たすことができれば、それは不器用な主への何よりの贈り物になるのではないか、と小悪魔は思っていた。

 彼女の主は、病弱だった。
 他者との関わりを避け、書物の世界へと没入するようになったのは、きっとそれが大きな原因となっているのだろう、と小悪魔は考えていた。
 書物の世界は奥深く、広大である。インクと古びた紙の匂いに包まれて、およそ考え得る限りの幻想がそこにあった。
 孤独だった知識と日陰の少女は、その煌めきに魅せられたのだろう。

 小説の中で、少女は遠い異国を旅することもできたし、あらゆるスポーツの熱気に触れることもできた。互いに命を差し出すことのできる刎頚の友を得ることもできれば、砂糖菓子のような恋もできた。
 そして物語を読み終え、裏表紙を閉じた彼女を取り巻くのは、いつだって薄暗く孤独な現実だった。彼女の現実が色褪せるほど、物語は輝きを増した。
 幻想は、魅力的に在るために現実という名の生贄を要求する。極度の退屈がしばしば娯楽を生み出してきたのは、そういうことなのだ。

 孤独な少女。密室の中でただ独り、本を読みふけっていた少女。
 他者との関わりを排除し、幻想に生きた少女。

 けれども、誰よりも他者との関わりに憧れていたのもまた、その少女だったのだ。

 小悪魔は知っていた。パチュリーが、その表情に乏しい外面の裏で、どれだけレミリアを、そして咲夜を、美鈴を大切に思っているかということを。
 小悪魔はわかっていた。パチュリーが、どれだけ人間という存在を知りたがっているのかということを。
 なぜなら、あらゆる物語には、常に人間が描かれているのだから。

 悪魔とは、己を呼び出した者の願いを叶えるモノである。
 だから、強大な魔力を持ちながら、そのくせ不器用で臆病な主の願いを叶えてやりたいと、小悪魔は思っていたのだ。

(――って言うか、パチュリー様おひとりなら十中八九失敗するでしょうし。あの方、ホント素直じゃないからなぁ……)



 ため息を吐いた小悪魔を、パチュリーが胡乱な目つきで見た。

「何よ、心配ないって言ったじゃないの」
「はぁ、そうなんでしょうけどね」

 言葉を返しながら、小悪魔は思考を巡らせる。
 どうやって今日の教室を成功させるか、ということについて。
 人間を欺くために頭を働かせるのも面白いけれど、誰かのために考えるのも悪くない。小悪魔は、そう思ったのだった。


4.


 咲夜は十数人の子供たちを連れ立って、商店の並ぶ通りを移動していた。
 食料を買い込むためにここへはよく来ているが、いつもは一人だ。こうして、大勢で歩くというのは新鮮だった。
 今回、授業を行う場所は里にあるごく普通の喫茶店だった。咲夜は紅魔館で開催するものとばかり思っていたのだが、企画打ち合わせの段階で提案が出たのだ。
 せっかくだから別の場所でやった方が面白いというのである。

 咲夜は子供たちがちゃんと付いてきているか、確認するために時折振り返った。ひいきするつもりはないがついつい一人の少女に目がいってしまう。
 フランドールは黒い日傘の中に身を隠すようにして歩いていた。あまり楽しそうには見えない。他の子供たちからも少し距離を置いているようだ。
 普段、滅多に紅魔館から出ることのないフランドール。突然、初対面の子供たちの中に放り込まれるのだから、人見知りをしてしまったとしても仕方のないことだと思える。

 人間の里での開催を提案したのはレミリアだ。当初、咲夜は我が主の意図を掴みかねたが、やがて理由に思い当たった。
 レミリアはフランドールに外出させる機会を作りたかったのではないか、咲夜はそう推理している。
 フランドールが紅魔館の外に出ることができないのはレミリアの命令によるものだから、矛盾していると言えるかもしれない。
 しかし、レミリアのフランドールに対する接し方は、酷く拙くて屈折しているのだ。こういう機会でもなければ、妹に外出の許可も与えられない臆病な姉なのである。
 それは親しい者だけが知っているレミリアの一面だった。

 喫茶カナ・アナベラル。幻想郷では珍しい西洋の建築様式を用いたデザインで、非常に目立っている。
 咲夜が板造りの扉を開けると、ベルが音を鳴らして迎えてくれた。

「こんにちは」

 咲夜はマスターに向かって挨拶する。

「こんにちはー!」

 子供たちが元気よく後に続いた。

 入ってすぐのところにはカウンター席があり、その奥にはキッチン。奥へと進めば四人掛けのテーブルが並んだ部屋に出る。
 紅魔館で暮らしている咲夜にとって広いとは思えなかったが、無駄のないシンプルなレイアウトのお陰で席数は多い。

 さて子供たちを席に着かせようかと考えていた時、カウンター席に座っている男が目に入った。今日は、この店を貸し切りにしたわけではなかった。
 この店での開催をマスターは快く引き受けてくれたのだが、一つだけ条件があった。
 それは他の客のためにカウンター席を空けておくことである。常連の客を大切にしたいというマスターの考えに異論はなかった。

 どうやら、店内にいる客はこの男一人であるようだ。室内だというのに黒いコートをボタンまで留めていて、頭にも同じ色の中折れ帽。さらにはサングラスまで掛けている。
 コーヒーカップの横には新聞が広げられていたが、捲られる様子はなかった。あからさまに不自然な格好だった。まさか子供たちを狙った変質者だろうか。
 しかし、すぐに答えは出た。男がカップを取ろうと伸ばした手が見えたからだ。大きくて傷だらけだけど、白くてほっそりした女性の指先。この手には見覚えがある。

 ――美鈴!

 驚いたが理由に心当たりがないわけではない。
 フランドールが心配だから、ここで見守るつもりなのだ。教師役を辞退したのもそのためだろう。
 
 咲夜は自身で美鈴が隠れる位置に立つと、子供たちを奥へと促した。
 最後尾はフランドール。足取りは重たい。咲夜は微笑んで見せたが、フランドールは浮かない顔のまま奥へと歩いていった。


5.


「ええっと、みんなおはよう」

 妹紅が戸惑いと緊張とぶっきらぼうさを黄金比で混ぜ合わせたような声で挨拶をした。

「今日、お前たちを遠足に連れていくことになった藤原妹紅だ。妹紅でいい。よろしく」

 子供達をぐるりと見回し、モンペに突っ込んでいた手を慌てて出すと、ぺこりと頭を下げる。
 集まった二十人ほどの子供達から拍手。妹紅はバツが悪そうに離れた場所から遠巻きに見守っている慧音を見つけると目で『何とかしてよ』と訴えるが、慧音はニコニコ顔でジェスチャ『いい調子だそのままで』

「ええと、今日は妖怪の山に行くことになっているけど、あそこは危険な場所だから私一人じゃみんなを見きれないかもしれない――そんな危ない所に子供を行かすなって話なんだけど、こういう機会でないとなかなか行けないからって――まぁいいや」

 妹紅の照れ笑い。子供達のくすくす声。

「そんな訳でこの班には私以外にもう一人付き添いの先生がいるんだ。それが、ええっとコイツだ」

 コイツ――レミリアはすっぽり体が収まる日傘に隠れるようにその場に座り込み、地面に“の”の字を描いていた。完全にヘソを曲げている。
 まるで子供だ。いや、見た目だけで言うなら子供だ。集まった子供達の群れの中に並んでいても見分けがつかない。

「おいふざけんな、お前は私の『妹紅先生と行く妖怪の山探検隊』の付き添いをする約束だろ。いじけてどうするんだよ」

 妹紅が顔を寄せ、子供に聞こえないようにヒソヒソ。

「私のPCK(パーフェクトカリスマ教室)が取りやめになるなんて解せないわ」

 後ろに立っている慧音が威圧感たっぷりの視線を寄越してくる。妹紅が囁いた。

「そんなこと言っても、お前のとこの妹を参加させる条件の一つだろ。ちゃんとしろよ」
「ウッ」

 痛い所を突かれた。
 レミリアはPCKを没にされたばかりか、予定よりも大袈裟になったこのイベントの、いわば穴埋め要員として引っ張り出されることになったのだ。
 プライドよりもフランドールの参加を優先する――その自分の大人な判断は素晴らしいものだと自信を持っていたが、それを褒めてくれる部下や友人達はこの場にはいなかった。
 妹紅がレミリアの手を引き、子供達の前に無理やり立たせる。

「こいつはレミリアだ。みんなも知ってると思うけど紅魔館の吸血鬼――って、みんなに挨拶」

 レミリアの尻を叩く。レミリアは不承不承という感じでそっぽを向きつつ、今日はよろしくと呟いた。

「吸血鬼っていうからどんな怖い奴かと思ったらチビじゃん!」

 ワハハと子供の群れの中から聞こえる豪快な笑い声。
 レミリアの眼球がぐりぐりと動き声の主を探す&補足。如何にも悪ガキといった風情の少年。年の頃、十歳程。

「言葉遣いには気をつけなさい、チビ助」
「チビはそっちだろ、お嬢ちゃん」

 咄嗟に出たレミリアの言葉に、意外にも少年の方は飄々として言い返してきた。

「な、何だと」

 ギリギリと犬歯を噛み締め拳を握り締めるのを妹紅がまぁまぁと取り成した。

「これじゃどっちが子供か分からないよ。五百歳の貫禄で今の言葉くらい笑って受け流さないとね」

 妹紅が千年分の貫禄を見せてにやり笑い。

「うー、生意気な奴だ」

 ガジガジと爪を噛みながらレミリアが唸る。妹紅の呆れ顔。

「驚いた。子供の相手は初めてなのか? 言っておくが、子供は怖いぞ」
「吸血鬼が怖いのは太陽とニンニクくらいなものだ」
「流れ水もだろ。違う、そういう意味じゃない。子供を舐めないことだ。さもなきゃ今日の遠足はお嬢ちゃんのトラウマになるよ」

 慧音が遠く離れた所からジェスチャ『そろそろ時間が押してるぞ』
 妹紅は頷き、手馴れた感じで子供達を並ばせる。

「よーし、出発するぞー。みんな一列になって私の後を付いて来るんだ。いいな、離れるんじゃないよ」

 妹紅を先頭にカルガモ式に連なって里を出発する。レミリアは殿に付いた。
 和気藹々と喋りながら歩く子供達。レミリアの目には弱い生き物にしか見えない。それが怖い? トラウマになる?
 ふん、と鼻を軽く鳴らし、レミリアは自分の計画のことを思った。
 PCKはたしかに幻の教室になってしまったけども、カリスマの意義と素晴らしさを身を以って教えることは可能だ。
 畏怖せよ、人間ども。幻想郷の吸血鬼は此処にあり、だ。
 うっふっふ、と不敵な笑みを漏らすレミリア。
 すぐ側を歩く女の子が、ひそひそ声で友達に囁いた。

「なんかこの先生、変よねぇ」


6.


 メイドに案内されて、ぞろぞろと入ってきた子供たちの数は、十三名。別に縁起を担ぐというわけでもなかったが、小悪魔としてはささやかな幸運の予兆を感じ取った。

「皆さん、どうも初めまして、こんにちは」

 入口のところで待ち構えていた小悪魔は、笑みを浮かべて愛想よく挨拶をした。
 女の子が九名に、男の子が四名。おっかなびっくりといった感じで辺りを見回している。

『こ、こんにちはー』

 子供たちからも挨拶が返ってきた。
 悪魔の館といわれる紅魔館の、その地下にある大図書館である。子供たちの挨拶の声にも、若干の不安と緊張の色が混じっているようだった。
 小悪魔は子供たちの様子を素早く観察すると、案内役のメイドに会釈をした。メイドは一礼をして、退出する。

「さて、私のことは小悪魔、とお呼び下さい。それでは、皆さんをパチュリー先生のところまでご案内致しますね」

 「ええっ」という意外そうな声。どうやら私を「パチュリー先生」だと勘違いしたようだ、と小悪魔は思った。
 そうして、灯りをかざしながら先頭に立ち、子供たちを案内する。子供たちは飛ぶことができないので、パチュリーの待つフロアまでは階段を下りていかねばならないのだった。

「そうそう、しっかりと私の後をついてきて下さい。ここは広いですから、迷子になったら見つけられない可能性があります」

 どよめく子供たち。
 小悪魔は、殊更にゆっくりとした口調で続ける。

「いやぁ、毎年いるんですよね。二、三名くらい、迷い込んで行方不明になってしまうメイドさんが……」

 青ざめる子供たちをちらりと見て、小悪魔はペロリと唇を舐めた。

 妖怪や妖精、魔女に悪魔、亡霊、宇宙人、果ては神様までがひしめく幻想郷において、人間とそれ以外の者との関係は、外界のそれとはかなり異なっている。
 様々な者がいるのだから、生じる考え方も多種多様である。人間と人外の者との関係性についても、それは同様であった。大雑把に言えば、一方には妖怪を始めとする人外の者は人間の恐れや畏れを糧とするのだから、人間とは距離を置くべきだという考え方があり、他方には人外の者と人間とが対立しあう時代は――少なくとも、この幻想郷においては――終わったのだから、人間とは交流を深めるべきだという考え方があったのである。
 この企画を発案したのは、おそらくは後者寄りの考えの持ち主なのだろうと思われた。

 そして小悪魔は、“親しき仲にも礼儀あり”とでもいった感じで、一定の線引きは必要だろうと考えていた。そうした意味において一部の連中が唱えるがごとき過激な平等論には与しなかったのである。
 そんなわけで、ある程度は吸血鬼の館に対する恐怖心のようなものをいだいてほしい、と小悪魔は思っており、適度に子供たちを脅かそうと決めていたのであった。
 加えて、安心させるよりは脅かしたほうが、おとなしく振舞ってくれるだろうという目算もあった。不安を捨て去った子供たちが調子に乗ってパチュリーを怒らせるようなことがあれば、そちらのほうがよほど危険なのである。

(――とはいえ、脅かしすぎたら交流ができなくなりますし……難しいところですね)

 案外自分って苦労性なのかしら、と思わないでもない小悪魔だった。
 そんなことを考えながらも、頭に浮かぶのは主のことである。自分で「押し花教室」などと言い出したくせに、「押し花? 何それ」という状態だったパチュリーに呆れて、「せめてこれだけでも目を通しておいて下さい」と積み上げておいた押し花関連書籍。きっと、面倒くさそうにしながらも読んでくれただろう、と小悪魔は確信していた。
 先ほどパチュリーが開いていた本も、確か小悪魔が選んだ押し花の本のうちの一冊だったはずだ。
 だとすれば、口実という名の瓢箪から飛び出てきた「押し花教室」という駒も、ひょっとすると上手くいくかも知れない。


7.


 フランドールが部屋の中に入った時には、すでに席のほとんどが埋まっていた。最後尾なので当然である。
 何度か視線を往復させてみるが、空っぽのテーブルは見つからない。仕方なく、近くにあった席に着くことにした。
 四人掛けのテーブルの構成はフランドール以外に、女の子が一人、男の子が二人である。
 フランドールにとっては人間の子供とここまで間近に接近するという機会自体が初めてだった。心細い。
 俯いて周囲と視線を合わせないように努める。それでも、子供たちの騒がしい嬌声だけは耳から入っている。
 皆、友達同士なのだろう。フランドールだけがひとりだった。

 紅魔館から出たりしなければ、こんな思いをすることもなかった。
 お姉様がずっと私を閉じ込めていてくれれば良かったんだ。

 すがるように咲夜を探すが、まだ準備から戻ってこない。
 もう限界だった。今すぐ、この店を壊して紅魔館に逃げ帰りたかった。でも、それをしてしまったら紅魔館の皆が悲しむような気がした。

「ねぇキミ、名前なんていうの?」

 突然話しかけられて、フランドールの心臓が跳ね上がった。顔を上げると目の前に座っている男の子がこちらを見ていた。
 間違いなく今の質問はフランドールに向けられたものだ。なぜか喧騒はぴたりと止んでいた。
 皆がフランドールに注目している。パニックになりそうな思考を、必死に落ち着かせる。

「……わ、私はフランドール――フランドール・スカーレット」

 自分の声じゃないみたいに聞こえる。まるで壊れた人形の関節が軋む音のようだ。

「長い名前だね」

 質問をした子とは別の男の子が言った。

「お屋敷の皆はフランって呼んでる」
「フランちゃんかー。綺麗な羽だね。吸血鬼ってホントなの?」

 今度は隣に座っていた女の子から質問がきた。

「うん、吸血鬼だよ」

 フランドールは頷いた。途端に、次々と質問が飛んで来る。

「吸血鬼ってコウモリとかに変身すんの?」
「お姉さまはコウモリとかになるよ」
「ニンニクが嫌いって本当? 僕はピーマンが嫌いなんだけどさ」
「ニンニクは匂いが苦手。ピーマンも好きじゃない」
「じゃあ僕と一緒だね」
「ねぇ何かすげー能力とか使えるの?」
「んー、きゅっとして、ドッカーンとか」
「凄そうだね。やってみせてよ」
「駄目だよ。お姉さまに叱られちゃう」

 皆が好奇心満々と言った感じで、フランドールの周囲に寄って来る。
 その熱気に怖気付きながらも、次から次に振られる話題に必死に付いていく。いつの間にか緊張も和らぎ、自然に声が出ていた。フランドールは段々と理解し始めていた。

 ――もしかして、これって。
 ――私、仲間に入れて貰えてるって事なのかな。

 きっと、そうなのだろう。
 フランドールは俯くと、きゅっとテーブルクロスを握った。背中の羽がパタパタと犬の尻尾みたいに振られた。


8.


 妖怪の山は山頂に神社があったりするが、交通の便はすこぶる悪い。少なくとも徒歩での移動には向いていない。
 空を飛んで移動する幻想郷の住人には普段は大した事はないのだが――それをあえて歩く。歩くから遠足なのだ。
 しかし子供の足だから山頂まではとてもいけない。半日掛けてせいぜいが3合目くらいだ。だが、山は文字通りの妖怪の巣。そうでなくても歩き慣れない山道は危険だ。その辺をよく心得ている妹紅は先頭に立ちながらも時折振り返って、子供達の姿を確認することを忘れない。
 一方、殿のレミリアは――完全にへばっていた。

「お姉ちゃん、足大丈夫?」

 小さな女の子に心配される。レミリアは既に二度足を挫いていた。フリルのついた上品なエナメルの靴は山歩きには向かないらしい。

「ふん、吸血鬼の回復力を舐めて貰っては困るわね」

 実は地味に結構痛くて、参っていたのだがなけなしのプライドがそれを認める事を許さない。
 足が痛い。館の柔らかいカーペットに比べると、剥き出しの地面はまるで針のそれだ。
 そんなレミリアの前を子供達は平気で歩いていく。見掛けによらずタフだ。逆に純粋な体力では勝っている筈のレミリアが根を上げかけている。
 その時、前方で悲鳴が上がった。

「ヘビだー!!」

 大きなヘビだった。太さが人間の胴ほどもある。
 さすが妖怪の山だ。動物まで妖怪染みてるわとレミリアが思うと同時に、妹紅が雄叫びを上げヘビの頭にヤクザキックをお見舞いした。
 ヘビはその一撃で怯むと電光石火の速度で退散した。子供の歓声が上がる。
 『妹紅のカリスマがアップした!』という吹き出しが目に浮かぶようだった。

「ぐぬぬ」
 
 これでは自分のカリスマアピールが出来ない。一番後ろから付いて行くだけでは出番が無い。

「妹紅、交代しましょう。次は私が先頭を行くわ」
「そうか。じゃあ交代しよう」

 前後交代。地図を参考に決められたルートを歩く。里から山へ、少し登り、ぐるりと回って里に帰ってくる。
 天狗達の住処まではいかないが、途中、河童の住処の近くを通る。そういや河童が空気で飛ばすロケットの工作をやっているのもあの辺りの河原だったか等と考えていると背後から悲鳴。

「イノシシだー!」

 妹紅が大きなイノシシにヤクザキックを放っている。
 レミリアはハンカチーフを取り出すと思いっきり噛み締めた。


9.


 蒼く煙る闇の中で、パチュリーは黙したまま本を読んでいた。
 いや、読んでいたというのは正確ではない。先ほどから、視線は文字の上を滑ってゆくばかりだったのだ。
 そうだとしても、問題はない。どうせ既に読み終えてしまった本だ。念のため、もう一度目を通そうかと思って開いているだけなのである。
 それは、同じ本を何度も繰り返し読むことの少ないパチュリーにしては珍しいことだったが、彼女自身はそのことに気づいていなかった。

(――何故かしら。どうも集中できていないわ)

 だからといって本を閉じる気にもなれず、パチュリーは不本意ながらも無為な時間を過ごしているのであった。
 もうじき、小悪魔が子供たちを連れてここへ戻ってくるはずだ。押し花作りの手順を頭の中で確認している己に気づいて、パチュリーは小さく舌打ちをした。
 そう、押し花教室は単なる口実なのだ。パチュリーは、ひとり頷いた。本来の目的を見失ってはならない。今日は何としても子供たちの頭に図書館を利用する際の基本的なルールとマナーを叩きこまねばならないのだ。

「……そうよ、絶対に」

 呟いて、パチュリーは椅子に腰かけなおした。



 ほどなくして、灯りが近づいてくるのが見えた。
 小悪魔と子供たちがやって来たのだろう。パチュリーは開いていた押し花の本を閉じて、机の引き出しの中へ入れた。そして別の本を取りだすと、それを開く。

「――皆さん、到着しました。全員揃っていますね? はい、あの方がパチュリー先生です!」

 そんな、おどけているのだか真面目くさっているのだか判断のつかない小悪魔の声が聞こえてきて、指の鳴らされるパチリという音がした。
 瞬間、闇に包まれていたフロアが、一転して灯りに包まれる。

『おぉ〜!』

 子供たちのものらしき、どよめき。
 見ると、妙に得意げな顔つきをしている小悪魔の後ろで、十数名の子供たちが目を丸くしていた。
 天井からの光に呼応するかのように、机の上にひとつずつ設置された魔法石の結晶がキラキラと七色に輝いている。薄暗い地下図書館の中で、この一帯だけを包み込む、夢のような淡い煌めき。
 そして、それらの灯りはパチュリーの姿をも浮かび上がらせていたのだった。
 数日前の、小悪魔とのやり取りが思い出される。

――パチュリー様、初見のインパクトは大事です。ひとは見た目が12割なのですよ。
――“過ぎたるは猶及ばざるがごとし”というヤツじゃないかしら。その余分な2割。
――まあまあ、とにかく、とにかくですよ、ファーストインパクトの演出はお任せ下さい。子供たちもパチュリー様に心服すること間違いなしです。
――貴方が言うと甚だ怪しいけど……まあ、任せるわ。

 あの時は適当に返事をしたのだが、今の子供たちの様子を見る限りでは、初見の印象はまずまずといったところなのではないだろうか。
 悪魔とは、人の心を弄ぶモノだという。ならば、少なくとも自分よりは子供たちの心を掴むのも上手いのだろうな、とパチュリーは認めざるを得ないのであった。
 そんなことを考えているうちに、小悪魔が手際よく子供たちをそれぞれの座席に座らせていた。幾人かの子供たちは、淡く光る魔法石の結晶を、そっと指で突いてみたりしているようであった。

「ごほん」

 立ち上がって、咳払いをする。
 子供たちが一斉にこちらを見たのを確認すると、パチュリーはおもむろに口を開いた。

「私が本館を統べる魔女、パチュリー・ノーレッジよ」

 《低くてもいいから、はっきりと喋ること》
 《そして、聴き手の顔を見ながら話すこと》
 パチュリーがこの前、何となく、ほんの気まぐれで読んだ『教師の心得』という本の初めのほうに書いてあったことである。
 確かに、俯き加減でぼそぼそと喋るよりは、相手の目を見ながらはきはきと話したほうが、印象は良くなるだろう。パチュリーも、そう思ったから採用することにしたのだ。
 別に、子供たちに気持ち良く押し花のことを教えてあげたかったからとか、そういう理由ではない。断じてない。

「ようこそ、この偉大なる知識の宝庫へ」

 少しのあいだ、目を瞑る。
 ゆっくりと息を吸うと、パチュリーは目を見開き、一番言いたかったことを口にした。

「まずは、この場所でのルールを説明するわ。図書館でのルールをね」

 パチュリーは、やや強い口調で注意事項を述べてゆく。
 騒がないこと、走り回らないこと、飲食は原則禁止、そして本を丁重に扱うこと。書き込みをしたり、線を引いたり、ましてや破いたりするなどもってのほか!

「……でもね、これは何もここだけのルールではないわ。貴方たちの里にも図書館があるでしょう。あそこにおいても、まったく同じ。いいかしら? そもそも図書館というのは――」
「あっ、わかった!」

 突如として、パチュリーの言葉を遮るように一人の男子が叫び声を上げる。
 面食らうパチュリー。

「ちょっと、静かにしなさいよ」
「何、どうしたんだよ?」

 男子の横にいた女子が顔をしかめて注意をする。
 それと同時に、前に座っていた男子が振り向いて、叫んだ男子へ尋ねた。

「ほら、前に図書室で何か叫んで倒れたひとがいたじゃん。あれ、あのひとだった!」

 その言葉に、二、三人の子供たちが「あぁー」だの「えっ」だのと声を上げる。
 パチュリーも事態を悟った。おそらく、かれらは以前パチュリーが里の私設図書館へ行った時、その場に居合わせた子供たちなのだろう。

「む……」

 パチュリーは言葉に詰まった。
 軽く受け流して話を続けるか、それともこれ幸いとばかりに叱りつけるか。とっさには判断がつかなかったのだ。

「はい、皆さんお静かにー」

 その時、パンパンと手を叩く音がした。
 小悪魔は笑顔のままで、滑らかに言う。

「確かにパチュリー先生は、皆さんも利用なさったことがあると思いますが、里の図書館へ一度行かれたことがあります」

 その途端、子供たちから「やっぱりー」だの「へぇー」だのと囁き声が漏れる。
 囁きが収まるタイミングを見計らっていたのか、静かになったところで小悪魔が続けた。

「ですが、あそこの利用状況をご覧になって、先生は非常に悲しまれたのです。おわかりですか、皆さん」

 今度は、もっぱら一部の女子の側から賛同のような囁き声が聞こえてくる。
 しかし、小悪魔の物言いはどうしたことか、とパチュリーは思った。「悲しまれた」だって? いいや、違う。私は「憤りを覚えた」のだ。
 怪訝な表情をするパチュリーに気付いたのか、小悪魔が目配せをしてきた。

「そう、今そこのお嬢さんたちが言って下さった通りです。今しがたパチュリー先生もおっしゃりましたが、図書館では騒いではいけませんし、本を乱暴に扱ってもいけないのです」

 言いたいことを小悪魔に取られた形になったパチュリーは、何とはなしに子供たちの顔を眺めた。
 向かって右のほうに座っている女子たちは頷きながら小悪魔の言うことを聴いている。おそらく図書館マナーを心得ている子供たちなのだろう。
 中央の辺りに座っている子供たちの一部は、やや反発まじりの表情といったところだろうか。あるいは、里の図書館で騒いでいた連中でもあるのかも知れない。
 そして、向かって右のほうに座っている子供たちの一部が頷いてくれているほか、後の者たちは賛成も反対もしていない――敢えて言うなら中立か――ように見えた。

(――思ったよりは悪くない、のかしら)

 パチュリーは、「ふむ」と頷いた。
 これで、集まった子供たちの多くが反対ないし無関心といった反応を示したとすれば、自分としても決然とした態度を取らざるを得なかっただろうが、この様子なら穏当にいけるかも知れない。パチュリーはそのように考えた。
 そろそろ話を引き取ろうかと思った時、小悪魔は軽く指を振りながらこんなことを言った。

「まあ、そうは言っても、皆さんにも色々とお考えはあるんじゃないかと思います。一方的にああだこうだと言われても、面白くないでしょう。何と言ったって、皆さんは図書館マナーを教わりに来たのではなく、押し花を習いに来られたのですからね」

 今度は、反発まじりだった者をも含む幾名かが頷く。
 パチュリーが睨みつけると、小悪魔はまたしても目配せをしてきた。どうやら、彼女にも彼女なりの考えがあるようだ。しぶしぶパチュリーは腕組みをし、押し黙る。

「本の魅力については、また追々パチュリー先生が教えて下さると思います。……さて、それでは皆さんお待ちかねのことと思いますので、いよいよ押し花についてお話をして頂きましょうか。先生、お願いします!」
『お願いしまーす!』

 小悪魔の言葉に一拍遅れるようにして、子供たちの声が上がる。
 いきなり話の主導権を手渡されたパチュリーはパチクリと瞬きをしたが、気を取り直して子供たちの顔を見渡した。

「……それじゃあ、まずは簡単な作業の流れから説明するわ」

 言いながら、パチュリーは欲求不満めいた感情を覚えていた。
 本来ならば、押し花なんてそっちのけで図書館のルールやらマナーやらについて、たっぷりじっくりとっくりと語って聴かせてやるつもりだったのだ。それなのに、どうも小悪魔に上手くしてやられた気がする。
 その時、またしても小悪魔とのやり取りが思い返された。

――提案ですって?
――ええ。始めのほうでの図書館マナー講義は、ちょっと控えめになさったらいかがでしょう、ということです。
――何それ。ろくでもない押し花の話をしろというの? あの子猿どもに。
――いえいえ、滅相もない! ただ……ええっと、たとえばですよ、パチュリー様が「三時間でわかる賢者の石の創り方」という話を聴きに行って、講師がいきなり延々と「猫にでもわかる明るい挨拶の仕方」とか、そういう話をし始めたらどう思われます?
――そいつを賢者の石の素材に使ってやるわ。
――それは素晴らしいお考えです。で、その場合、実践しようと思いますか、猫にでもわかる明るい挨拶。
――そんな挨拶、うちの門番にでも喰わせてやればいい。
――美鈴さんの挨拶はいつだって明るいですよ。ともあれ、そういうことなんです。反感を買ったら、逆効果というわけでして。
――む……。

 パチュリーとしては真に不本意ながら、小悪魔の言葉に納得せざるを得なかった。
 いくら図書館マナーについての説教をしたくとも、それによって図書の扱われ方がより乱暴になってしまっては意味がない。自分自身は言いたいことを言うことによって一時的にすっきりするかも知れないが、自分の気持ちを晴らすために本を犠牲にするのでは、それこそ本末転倒である。
 欲求不満めいた感情を振り払うように軽く頭を振ると、パチュリーは話を続けた。

「……原理としては簡単なものよ。@花を用意する、A花を押し花に適した形へと処理する、Bそれを押して平らにする。それだけの話だと言えるわね」

 さすがに、数冊の本を読み込んだだけあって、言葉はすらすらと出てくる。
 パチュリーの話を頷きながら聴く子供たち。
 本題である押し花についての話は、素直に集中して聴いているようであった。

 《話はなるべく簡単に、わかりやすく》
 《それでいて、威厳を保ちながら》
 『教師の心得』の一節である。この二つの両立が意外と難しい。
 わかりやすく話すことの難しさに加え、誰にでもわかる話しかしないと思われてしまったら、舐められかねない。
 押し花に使う道具を子供たちに見せながら、パチュリーは、この経験は魔導書の記述の仕方の参考となりそうだ、と思った。

「押し花と言っても方法は色々とあるのだけど、今回は基本的なやり方にするわ」

 それは、処置をした草花を紙で挟んで袋に入れ、重しをするというだけのものだ。
 ただ、もちろん魔女たるパチュリーの開く「押し花教室」である。口実から始まったこととはいえ、やるからにはただの押し花で終わらせるつもりもない。

 一通りの手順を簡単に説明し終えたところで、小悪魔が「では、パチュリー先生」と言い、パチュリーは「ええ」と頷いた。
 子供たちの顔を見渡して、言う。

「――それじゃあ、草花を採集しに行きましょうか」


10.


 咲夜が台車にティーカップを載せて戻ってくると、そこには信じられない光景があった。

 フランドールが子供たちに囲まれて楽しそうに会話をしている。
 思わず口を押さえて立ち止まった。こうして見れば普通の女の子と変わらない。

 少女には荷が重すぎる力を持ったがために、周囲から恐れられ、ほとんど誰とも関わらずに生きてきたフランドール。
 約五百年という人間の咲夜には考えられないような年月、紅魔館という小さな世界に閉じこもっていたのだ。
 何も行動を起こすことがなければ、千年後も二千年後も同じように、狭い地下室で姉を呪う毎日が続いていたに違いない。

 しかし、今フランドールは外の世界に一歩進むことができた。変わっていけることを証明した。
 きっと次の五百年後には、フランドールはたくさんの人や妖怪に囲まれて賑やかに暮らしていることだろう。咲夜はそう願う。

 咲夜は泣き出しそうになるのを必死で堪えた。咲夜の後ろ、カウンター席の方からはすでにすすり泣くような声が聞こえている。
 咲夜は目元をハンカチで拭うと、声を上げた。

「それでは授業をはじめますよ。席につきなさい」

 次は咲夜の番だ。ここで咲夜がしくじる訳にはいかない。妹様にはさらに里の子供たちとの交流を深めてもらわねばならない。
 化粧は普段より入念に行っている。服も丹念にアイロンを掛けて来た。一切、抜かりは無い。
 パーフェクトメイドとして、本場英国仕込みのティータイムの楽しみ方を子供達に教授するのだ。
 カツン、と軽く踵を鳴らし、咲夜は前に出る。きびきびとした動きで皆を一瞥。

「今日、皆さんの先生役をする事になりました。十六夜咲夜です。短い間ですが、宜しくお願いします」

 優雅にお辞儀をしてみせる。子供たちの視線を一身に受けながらも、怯むことなく計算し尽くした極上スマイルを披露。
 事実、それだけで咲夜は子供たちの警戒心を打ち解く事に成功した。厳しい特訓を自らに課し、果たしてきた咲夜だからこそ可能な芸当である。

 ――よし、完璧。

 咲夜は早々と己の完全勝利を確信していた。


「ポットの為の一杯という言葉があります」

 ティーポットを指先で操りながら咲夜が教える。

「ポットに入れる茶葉の量は、ティースプーンに人数分。そして、それにプラス一杯を加える事により理想的な味と香りを楽しめるという先人の知恵ですわ」

 咲夜が洗練された動きで、カップに茶を注いでいく。何気ない動作でありながら無駄がなく、見ている者に「これが正しい紅茶の淹れ方なのだ」と納得させる。

「しかしそれは硬水を使用している英国での事。軟水が主なこの国でプラス一杯の茶葉は余計かもしれません」

 そこで咲夜は再びにっこりと笑顔を見せる。

「でも、そんな上辺の知識よりも大事なのは、使い慣れたポットとカップを使用する事です。そして自分や相手の好みをよく知っておく事。慣れれば美味しいお茶は誰にでも淹れられます」

 説明をおえて、心の中でほっと一息をつく。あとは子供たちがきちんと理解してくれているといいのだが。

「ねぇ、せんせー」

 男の子が手を上げた。おでこに絆創膏を貼っている。よくもそんなところを怪我したものだ。いかにもやんちゃそうな少年だった。

「はい、何かわからないことがありましたか?」

 咲夜は優しく尋ねる。

「お茶に美味いも不味いもあるのかよ。何だって一緒だろ」

 いきなり、この授業そのものを否定するような発言。
 そもそも、何でアンタはこの授業を受けにきたのよ。もしかして、紅茶と一緒に出されるケーキとクッキーが目当てか。

「それもそうだな」
「俺んち緑茶しか飲まねぇし」

 賛同の声を上げる子供まで現れる。授業のきりりとした雰囲気は台無しになり、どこか白けた空気が漂い始めていた。

 ――くっ、私の完璧な授業が。

 子供は予想外の行動に出るから恐ろしい。しかし、絆創膏少年の気持ちも分からないわけではない。
 咲夜も幼い頃、お茶の味など気にしたことはなかった。
 絆創膏少年が咲夜を困らせようとしているのではなく、純粋な疑問として発言したのならば、こちらも誠意を持って答える必要があるだろう。

「それではお茶にまつわる話をしましょうか」


  ◇   ◇   ◇


 まだ咲夜が紅魔館に来て間もなくの話だ。
 
 レミリアには夜中の十二時、ちょうど日付が変わるところでティータイムを取る習慣があった。あの頃はまだ、レミリアは夜間を活動の場としていたのだ。
 咲夜は昼夜逆転の生活に参っていた。それもやがて慣れてしまうのだが、始めは眠気で頭が回らず失敗ばかりしていた。
 そんな咲夜にとって、一番嫌だった仕事はティータイムの準備だった。
 
「不味い」

 レミリアが無表情で言う。

「申しわけありません」

 咲夜はぺこりと頭を下げて謝罪する。まだ今のように冗談を言えるような仲でもない。張り詰めたような空気がさらに険悪になる。

「何がいけなかったのでしょうか」
「香りが薄いのよ」

 それでも、レミリアは紅茶について具体的な指示はしなかった。咲夜はレミリアに試されているのだと思っていた。
 図書館で紅茶の淹れ方を調べたり、茶葉を変えたりあらゆる手を尽くしたがレミリアを満足させることはできない。
 負けん気の強い咲夜は悔しくて仕方がなかった。紅茶の知識だけが無駄に増えていく。


 ある日、レミリアはテラスでティータイムを取りたいと言った。
 月明かりの下で風に揺れるレミリアの銀髪が輝いてみえる。咲夜はレミリアがティーカップに口を付けるところを、祈るような気持ちで見つめていた。

「不味いわ」

 咲夜は肩を落とす。天を仰ぐと雲一つない星空。
 自分はあまりにちっぽけなことに悩んでいる。咲夜は恐る恐る話しかけた。

「お嬢様」
「何かしら」
「紅茶専門の料理人を雇ってみてはいかがでしょうか」
「なぜ?」

 本当に理由がわからない。そんな表情でレミリアが見上げる。

「ティータイムの準備ですが、私には少々荷が重すぎるようです。腕の良い者に担当させるべきではないかと」

 口に出してみると、自分の情けなさに消え入りたい気持ちになった。目が潤んできていることをレミリアには悟られたくない。

「ばかね。私はあなたの淹れた紅茶が飲みたいのよ」
「えっ」

 思い返すと、レミリアは咲夜の紅茶に文句は言うが決して残すことはなかったのだ。


  ◇   ◇   ◇


「たしかに味に大差はないかもしれません」

 子供たちを見渡しながら続ける。

「本当に大切なのは皆さんが相手のことを思って淹れるということです。たとえ煩わしくても、時間をかけて正しい手順で淹れた紅茶には心が籠ります」

 絆創膏の少年も黙って咲夜の話に聞き入っている。

「皆さんに紅茶を淹れてあげたい人がいるのなら、それは幸せなことです。たとえ、もし今いなくても、いつか必ず淹れてあげたい人に出会うことができると先生は思います」

 少し難しかったかな。それにちょっと恥ずかしい話をしてしまったかもしれない。

「先生」

 女の子がおずおずと手を挙げた。

「何でしょう」
「私、淹れたい人がいます。お母さんに淹れてあげたい」

 すると、至るところで同じような声が上がった。


11.


「おい、レミリア。レミリア、レーミーリーアー」
「煩いわね! なんなのアンタは!?」

 再び殿に付いたレミリアにやたらと子供が絡んでくる。出発前にレミリアに生意気な口を利いた少年だった。

「レミリアはこの辺はよく来るのか?」

 完全に呼び捨てだ。くそう、舐められている、とそういうことには敏感なレミリアは口元をひくつかせるが先程の妹紅の言葉を思い出しクールダウン。取り澄まして答える。

「この辺はあまり来ないわね」
「そうなのか。里の子供は親にこの辺で遊ぶことは禁止されている。レミリアもそうなのか?」
「それは違う。私は用もないのに自分の館を出ないだけだ」
「家に篭りっぱなしか? それじゃ面白くないだろ。どうやって遊んでるんだ?」
「色々。友達に本を借りたり、チェスをしたり、紅茶を飲む」
「つまらなそうだな」
「そりゃ子供にはね。大人になればそういう遊びの面白さも分かるわ」
「ふぅん。そうだ、レミリア。『手袋』を逆から言ってくれ」
「えっと、ろくぶて?」

 六回肩を打たれた。
 唖然とするレミリア。まさか、吸血鬼であるこの私が、単なる人間の子供に六回も叩かれるなんて!
 意外すぎる展開。にやにやと笑う少年。

「ろくぶて。六回打てってことだろ。これが子供の遊びだ」

 ようやく、からかわれたのだと気付く。

「あ、アンタねぇ」

 舌を出し、逃げ出す少年。それを追いかけるレミリア。すばしっこい、追い付けない。

「ぎゃおー!!」

 奇声を上げる。妹紅の溜息。

「何やってんだお前ら?」

 子供達の笑い声。威厳も尊厳もへったくれもない状態。

「ああもう何なのよ!」

 苛立ちをまさか子供達にぶつける訳にもいかず、地団太を踏んで悔しがる。
 妹紅の忠告通りだ。子供を舐めるな。子供は子供であるが故に、大人には手出しのできない、コントロールのできない存在なのだ。
 子供は無知で無垢だから、幼い吸血鬼なんて怖がらない。畏怖なんてしない。
 ああ、何てことだ。こいつら全員、吸血鬼の天敵だ。
 お日様、ニンニク、流れ水、エトセトラエトセトラの弱点に一つ追加――『人間の子供』


12.


 吸血鬼を主とする紅魔館は窓が少なく、内部には陽の光が差さず薄暗い。
 だが、一歩外に出ると、そこには花畑が広がっている。美鈴の管理するその花畑は、色とりどりの花々が咲き乱れ、訪れる者の目を楽しませていた。
 子供たちも、色彩豊かな花畑を目の前にして、やや浮かれている様子である。

「さて、この中から各自好きな花を採取すること」

 眩しそうに目を細めながら、パチュリーは子供たちに言った。
 すかさず、小悪魔が注意をする。

「ただし、あまりお花畑を荒らさないで下さいね。あと、あちらの畑には入らないように。畑泥棒対策にマンドラゴラを植えているそうなので。等間隔に」
『はーい!』

 元気の良い返事と共に、子供たちは花畑に散らばっていく。
 パチュリーと小悪魔は一冊の本を片手に、そんな子供たちの様子を見て回ることにした。



 いざ採集をさせてみると、子供たちは意外と真剣な目つきで花を選んでいるようである。
 花を眺め、そっと葉に触れて、その感触を確かめていた。

「あの、先生」

 巡回していたパチュリーに、声がかけられる。
 見ると、小さな女の子がしゃがんで花を指さしながら、顔を上げてこちらを見ていた。

「この花……」
「ふむ、どれどれ」

 指先ほどの白い花が密集して咲いている。細い枝に降り積もる雪のような花だった。

「なるほど、悪くないと思うわよ」
「これは、なんていうお花なんでしょう」
「それはね――ほら」

 質問を受けて、パチュリーは小脇に抱えていた本を開く。
 それは植物図鑑であった。開かれた頁には、目の前にあるのと同じ花の写真が綴じられ、説明が書かれていた。女の子は、覗きこむようにしてそれを見る。

「えっと、ゆき、やなぎ……」
「そう、雪柳よ。バラ科のシモツケ属、落葉低木。別名、小米花。押し花には比較的向いているんじゃないかしら」

 女の子は、嬉しそうに「ゆきやなぎ」と繰り返した。
 パチュリーは本を閉じると、軽く振るようにして見せる。

「雪柳だけじゃないわ。この本にはね、ここにある花の全てが載っているのよ」
「ふわぁ、そうなんですか!」

 女の子は立ち上がりながら広い花畑を見回し、目を丸くする。
 そんなふたりのやり取りに気付いたのか、数名の少女が寄って来た。

「ねぇ、どうしたのお雪」
「あ、たまちゃん、今ね、パチュリー先生にお花の名前を教えてもらってたの」
「へぇ、そうなんだ」
「ほらこれ、『ゆきやなぎ』って言うんだって。あたしと同じ」

 子供たちの会話を聴きながら、パチュリーは内心で頷いた。なるほど、自分と同じ名前を持つ花なら、愛着も湧こうというものだろう。

「いいなぁ」
「――貴方は、もう花を選んだのかしら」

 パチュリーは、たまと呼ばれたその子に話しかける。
 すると女の子は照れくさそうに笑った。

「いえ、その……私、花とかに詳しくないんで」
「どんな花にしようとか、そういうイメージはあるの?」
「うーん、どうかなぁ」

 考え込む女の子に、パチュリーは「これなんかどうかしら」と後ろに咲く花を指さした。

「それは、えっと?」
「ほら、この頁を見て」

 と、パチュリーは図鑑を開いて差し向ける。

「マーガレットよ。キク科のクリサンセマム属、半耐寒多年草ね。別名、木春菊」
「本当に色々な花が載ってるんですね、その本」

 お雪が感心したように言う。

「ええ。そしてね、マーガレットは元々異国の古い言葉なのよ。その意味は『真珠』。つまり、『たま』ということね」
「えっ、じゃあ……!」

 たまの顔がパアッと明るくなるのを見て、パチュリーは思わず頬が緩むのを感じた。

「先生、私の選んだやつも見て下さい」
「あっ、私のも〜」

 何人かの子供に群がられ、パチュリーは「はいはい」と苦笑まじりに図鑑の頁を捲るのであった。



「あのぉー、小悪魔さん」
「……あ、はいはい。なんでしょうかー?」

 少し離れたところから主の様子を見守っていた小悪魔は、近くに居た子供から声をかけられ、振り向いた。
 三人の少年が花を覗き込むようにしている。

「この花がいいなって思うんですけど」
「ほほう、見せて下さい」

 子供は少し身体をずらし、一輪の花を指さした。
 花を摘む前によくよく考えて選ぶこと、という話をパチュリーがしてあるので、必要以上に花が採取されるということもない。
 美鈴に話をつけ、花を摘む許可をもらった時に、気をつけるようにと頼まれたのだ。約束をした以上は、小悪魔としても最善を尽くすしかない。

「へぇ、綺麗な花じゃありませんか。こういうのがお好きなんですか?」
「え、あ、いや……」

 途端に口ごもり、顔を背ける男の子。
 すると、隣にいた男の子がニヤニヤと笑いながら言う。

「いやぁ、こいつ、プレゼントにしたいって言うんですよ」
「わっ、おいバカやめろ!」
「いてて! だってお前たえちゃんのことが」
「うっ、うるさい!」

 なかなかに微笑ましい少年たちのじゃれ合いを見ながら、小悪魔はクスクスと笑った。
 顔を真っ赤にした男の子が、友人に掴みかかるのをやめ、慌てて小悪魔のほうを見る。

「いや、その、違うんです!」
「いえいえ、いいんですよ。実に素敵なことじゃありませんか。よーし、わかりました。そういう話なら、私もできる限り応援しちゃいます!」

 小悪魔はグッと拳を握り、力強い笑みを浮かべた。
 なんてったって、恋の魔法なら魔女と悪魔の専売特許である。この場合、魔女のほうはあまり期待できないが。
 小悪魔はパチュリー同様に携えていた図鑑を開くと、パラパラと捲る。

「うーん、ちょっと待って下さいよ」

 言いながら、先ほど男の子が示した花に触れて、色々と確かめる。
 ほどなくして、小悪魔は頷いた。

「なるほど……わかりました。結論から言いますと、この花はあまりおススメできません。見た目は綺麗なんですけど」
「えっ、なんでですか?」
「えーっとですね、これはガーベラというお花なんですが、茎や花弁のところに――ほら、ここです――水分が多く、ちょっと難しいんですよ」

 押し花にするには、なるべく薄くて水分の少ないものがいい。
 そのほうが早く綺麗に仕上がるのである。

「へーっ、そうなのかぁ」
「おっ、すげぇ、載ってるじゃん!」

 少年たちが図鑑を覗き込み、歓声を上げる。
 小悪魔は隣の列に植えてある花を眺め、手をポンと叩いた。

「じゃあ、何がいいのかと言いますと、これなどいかがでしょうか?」
「えっ、どれですか」

 小悪魔が指さしたのは、手のひらよりもやや小さいくらいの、白やオレンジ、紫の花だった。

「これはビオラ、つまり三色すみれです。下準備に手間があまりかからないですし、見た目も綺麗に仕上がると思いますよ」
「おぉー!」
「それにですね、実はこのお花、花言葉が素敵なんです。ほら、ここに書いてありますよ」

 小悪魔はうふふ、と笑いながら本を開いて示す。

「『私を想って下さい』――私としては、『好きです』とか『愛しています』とかよりもドキドキしちゃう感じかなーって思うんですけど」

 小悪魔の言葉に、またしても真っ赤になる男の子。
 隣にいる友人たちは、手を叩いて大喜びである。

「いやぁ、もうお前、これしかないっしょ!? わはは、サイコーだって! ピッタリ!」
「ホント、これはもう、やったねたえちゃん! って感じ!?」

 なぜかこういうとき、本人よりも周りの人間のほうがテンションが上がることは多い。真っ赤な顔でビオラを眺める男の子の隣で、図鑑を指さしながらバカ受けしている男の子を見て、小悪魔は「人間って面白っ!」と思った。

 その後、男の子は図鑑と花を何度も見比べながら、照れくさそうに「これにします」とビオラを指さし、小悪魔は「頑張って下さいね」と笑顔で応じたのだった。

 このようにして、それぞれの子供たちがパチュリーや小悪魔の助言を受けながら、自分の気に入った花を選び終えた。
 持ってきた植物図鑑も大活躍であり、パチュリーは満足げな笑みを浮かべ、小悪魔もそんな主を見て、安堵の息を漏らした。


13.


 この短時間で咲夜は子供たち、特に女の子の憧れとなっていた。

「――咲夜先生ってフランちゃんのお家のメイドさんなんでしょう?」
「うん」

「綺麗な人だね」
「うん」

 フランドールは無意識の内に、背中の羽をぱたぱたと動かしていた。
 褒められているのは咲夜なのに、まるで自分が褒められた気分。ちょっと得意気。
 それは要するに、本当に優秀な従者は、その主をすら誇らしげな気持ちにさせてくれるという事なのだろう。
 さぁ皆の者、我が家の優秀なメイドをとくとご覧じあれ、という感じ。

 ――そうか咲夜、いつもと違うお化粧してるんだ。

 僅かに引かれた控え目なルージュ。それはフランから見ても十分に魅力的なものだった。
 何時も見慣れた顔なのに、全く見知らぬ他人を見ているような不思議な気分。
 フランドールは幸せだった。


  ◇   ◇   ◇


「それでは、皆さんにも実際に紅茶を淹れていただきます」

 咲夜が手際よくティーポット、カップ、茶葉の入った瓶を各テーブルに配る。
 考えてみれば、今まで自分で紅茶を淹れようなんて思ってみたこともなかった。
 自分が紅茶を淹れている姿をイメージすることができない。
 他の子供たちも同じ気持ちなのか、少し難しそうな表情でテーブルの上の食器を見つめている。

「あたし葉っぱ入れるね」

 女の子が意を決したように立ち上がって瓶を取った。
 各テーブルにポットは一つ。役割分担をしながら進めていく方が良いということはわかる。

「じゃあ、俺はお湯をもらってくるよ」

 次に男の子が言うと、もう一人の男の子もカップを並べ始めた。
 フランドールだけが動けずにいた。
 仲間に加わりたいという気持ちはあるのだが、自分が関わったせいで何か悪いことが起こるような気がしてならなかった。
 そして、思い出してしまう。

 ――私は禁じられた存在だった。

 意識が沈んでいく。暗い地下室を思い出す。
 私の居場所はあそこだけなのだ。こんな華やかで暖かいところにいるのはおかしなことだ。
 今ここにいる自分が酷く現実離れをしているように思えた。地下室のベッドにうずくまって幸福な童話を読んでいるような。

「ねぇ、フランちゃん」

 突然呼びかけられて、フランドールは跳び上がるほど驚いた。

「な、何?」
「カップに注ぐのやれる? あたし、熱いの怖くて」

 気付けばすでに、紅茶の用意はほとんど整っていた。どうやら、あとはカップに注ぐだけのようだ。

「やる。私やるよ」

 フランドールは反射的に答えていた。
 変わらなきゃと思う。もうフランドールは待つことしかできない弱い存在ではないはずだった。

 ポットを手に取り、ゆっくりとカップに向けて注ぎ口を倒す。
 流れ出した液体はカップを満たした。
 無事に一つ目を終えて、少しほっとする。

 しかし、それがいけなかった。
 空いていた左手が無意識に動き、死角にあった別のカップを倒していた。
 カップはころんとテーブルの上を転がり、端を超えて落下する。

 足元で嫌な音が響いた。
 フランドールは目の前が真っ白になった。


14.


 道中、吸血鬼VSガキンチョの仁義無き戦いは続いた。
 隙あらば仕掛けられる各種の『可愛い』悪戯。
 膝かっくん――。
 肩を叩かれ後ろを振り向くと人差し指で頬をぷにぷに――。
 あ、見ろよUFOだ。え、どこどこ? 繰り出される見たチョップ――。
 ブラウスの首元から放り込まれるトカゲ――。
 豪快なスカート捲り――。
 実害は無いが腹は立つ。子供の悪戯だと笑ってばかりはいられない。
 泥沼化したゲリラ戦を戦うレミリアを横目に、妹紅は子供達と和気藹々と遠足を楽しんでいる。
 小さな女の子を肩車をしてやり、花や樹や虫の名前を数え上げ、教え、感心され、尊敬されている。
 一方レミリアは反撃の糸口も見つからないまま、一方的に打たれ続けてグロッキー状態。

「ああッ、もうなんなのよアンタは! こっち寄らないでよ!」

 もはや単なる五百歳児と化した吸血鬼の悲痛な叫び。
 そのマジ切れ気味の声に流石に十歳児もやりすぎたと感じたのか、バツの悪そうな顔をして一歩引いた。

「ちぇー、そんなに怒んなくてもいいじゃないか」
「キーッ、これが中世だったらアンタ串刺しにしてバラして晒してるわよ!?」
「物騒だなぁ、なんだよもう」

 すごすごと引き下がる少年。
 レミリアの初勝利は、しかし苦々しいものだった。
 PCK所の騒ぎではない。カリスマなどという曖昧なものはコイツらには通じない。
 同時に、妹紅は良くやっているとも思った。彼女は子供を手懐けるのが上手い。
 いや、あれは手懐けるというよりも、自分から子供と同じ目線に立って共感を引き出しているのだ。意識的にやっているのではないだろう。元々の才能なのかもしれないし、千年の間に身に付けた処世術かもしれない。
 それに比べて自分のやり方は、全くのナマクラだと認めざるをえなかった。ただ普段通りにふんぞり返っていれば大人しく従うだろうという判断は改めなければならなかった。
 考えてみれば当然のことで、この子供達は自分の部下でも友人でもない。紅魔館にいる時の様にはいかないのだ。
 子供達と意思疎通を図る必要がある。そのことに気付いたレミリアがどうしようかと思案していると先頭から悲鳴が聞こえた。
 ヘビ、イノシシ、さぁ次は何だと悲鳴のした方を見遣るとクマがいた。

「ぶっ」

 思わず噴出す。
 大きなヒグマだった。身の丈三メートルほど。隻眼。全身の至る所に疵痕。何より特徴的なのは齢を重ねて白くなった体毛。
 しかし全身に漲っている戦意は歳による衰えを全く感じさせない。百戦錬磨の古強者といった風情。
 あー、ヤバイ。なんか強そう、と思った瞬間、先手必勝とばかりに妹紅がポケットから手を引き抜き、踊りかかった。
 一歩二歩、三歩目で跳躍。右足を横薙ぎにしてクマの側頭部を狙う――クマは身を屈めて回避。妹紅は空中で身を切って、そのまま左足の踵落としに移行。それを片腕で難なく受けるクマ。

「妹紅!」
「子供達を連れて逃げろ! ここは私が引き受けるッ」

 カッコよすぎることを言う蓬莱人。
 レミリアの逡巡。助太刀してクマを倒す――子供を守りながら?
 無理。一時が万時だ。蓬莱人や吸血鬼は兎も角、周りにいるのは普通の人間だ。クマの怪力にちょっとでも『撫でられ』でもしたら、それでお陀仏。

「お前達、こっちに来い! 引き返せッ!」

 レミリアの怒号。恐怖で固まっていた子供達が息を吹き返してレミリアの元へ殺到してくる。
 クマが後ろ足で立ち上がり、威嚇の咆哮。その身の丈は妹紅の二倍以上。質量は八倍以上にもなる。しかし妹紅は迷うことなく、地上で最も凶暴な動物に全身で組み付いて行った。
 ええっ、何じゃそりゃ。日本のお伽話に主人公がクマとスモウで勝つ話があったけど、アンタ幾らなんでもそれは――と思う間に吸血鬼の耳にはポキッと厭な音が聞こえる。うわぁ折れた。
 レミリアは一番小さな子を肩車し、その子に日傘を持たせ、両脇に別の子供二人を抱える。

「一列になれ。離れるな。一人も置いていくなよ!」

 自然、命令口調になる。アドレナリン全開。十万のオスマン軍に囲まれた悪夢が蘇る。それを払拭するように走る。
 途中振り返ると、血塗れの妹紅がクマ相手にベアハッグを試そうとしていた。ナイスガッツ、妹紅。


15.


 摘んだ花を袋にそっとしまわせ、子供たちと共に紅魔館へ戻る。
 午前中、初めてこの扉を越えた時の子供たちの表情がどうだったかはわからない。けれども今は皆、それなりの笑顔でいるように、パチュリーには思えた。
 玄関ホールに入ると、妖精メイドが数名並び、頭を下げる。

「お帰りなさいませ。昼食の支度が整っております」

 パチュリーは、思わず横にいた小悪魔の顔を見る。
 すると、視線に気づいたのか、小悪魔は笑顔でサムズアップをしてきた。
 準備は任せる、と言ったものの、これだけ色々と段取りを付けておいてくれるとは思っていなかったので、パチュリーは少し驚いた。今日の小悪魔は、まるで咲夜並みに気が利くではないか。

「そういやお腹すいたねー」
「うん、喉も渇いちゃった」

 そんな声が聞こえてくる。
 考えてみれば、陽射しの下でずっと花を選んでいたのだから、喉の渇きも覚えようというものである。それに、もう昼過ぎだ。
 日が沈む前までには子供たちを帰さねばならないので、午後からは摘んだ花の処理と、それを押す作業に取り掛かる必要がある。今日中には完成しないので、子供たちの作った押し花は、後日纏めて寺子屋に送ることになる、と小悪魔は言っていた。

「いやはや。それにしても、時間が経つのは案外早いわね」
「うふふ、そうでしょうパチュリー様……ひにゃぁ!」

 得意げな小悪魔の顔つきが、なぜかちょっと腹立たしかったので、パチュリーはその頬を捻り上げた。



 ダイニングルームでの昼食の時間は、和やかに過ぎた。
 レミリアがいるときには光を通さない分厚いカーテンが引かれているが、そうでないときは、数少ない窓からも明るい日差しが差し込んでくる。

「ねぇねぇ先生、このおうちは吸血鬼のおうちなんですよね?」
「ええ」
「今、どこにいるのー?」

 人間にも食べられるように調理されたサンドイッチを摘まんでいると、子供たちが話しかけてくる。

「レミィは、えーと、どこだったかしら。小悪魔、知ってる?」
「え、レミリアお嬢様ですか? す、すみません、こちらの準備に掛かりきりだったものでして、存じ上げませんね」
「レミィは……なんか別の教室をやってると思うわ」
「へぇ〜、そうなんですか」

 こんな会話が交わされたと思えば、

「このお茶、とってもいい香り!」
「それはよかった。ですが、ここの館にはもっと美味しい紅茶を淹れることのできる方がいるんですよー」
「それって、小悪魔さんとか?」
「いえいえー、残念ながら私じゃないです。咲夜さんと言いましてね、ここのメイド長を務めている方で」
「もしかして、それ『ティータイム教室』の先生じゃないですか」
「あっ、たぶんそうです。お茶の『時間』を支配することにかけては、咲夜さんの右に出る者はいない、っていう感じですからね」
「いいなー」
「うふふ、皆さんも素敵な押し花を作って、他の教室に出ていた方に自慢しちゃいましょう!」
『おー!』

 こんな会話も交わされる。
 美味しい食べ物と飲み物があれば、いくらでも話は弾む。
 企画者側の事前要請によりアルコールは出されなかったものの、昼食は大いに盛り上がった。


16.


 咲夜はフランドールに起こった事態に気付き、反射的に時を止めていた。
 この世に存在する全ての物体の運動が止まり、生気のないオブジェと化す。
 はしゃぐ子供たちで輝いていた部屋は、冷え冷えと影が差して見えた。決して他者の介入できない咲夜だけの世界。

 今にも泣き出しそうな表情でテーブルの下を覗き込もうとしているフランドール。
 他の子供たちも事態に気付き始めているようだ。残念ながらカップはすでに破片に変わっている。
 時はいつまでも止めてはいられない。こうして観察している間にも限界は迫っている。
 あと残りは十秒程度か。どうする――。

 割れたカップを回収するのは、一番手っ取り早いが百点とはいえない。
 咲夜が介入したことをフランドールは良く思わないだろう。それに、今回はフランドールが一人で成し遂げることに意味がある。気付かれないように事を処理すべきだ。

 ならば、すり替えしかない。

 止まった時の限界が迫る。キッチンには同じティーカップがあるはずだが、取りに行って戻ってくる時間はない。

 それでも、救いを求めるように振り返りカウンター席に目をやると、変装した黒づくめの美鈴が目に入った。
 厨房に乗り出すような姿勢で固まっている。よほど派手に動いたらしく帽子とサングラスが取れかかっていた。
 何をやってたんだろう。

 キッチンへと伸ばされた左腕は、なぜか手首が折り曲げられている。
 外れたサングラスから覗く目は咲夜を見ていた。まるで、咲夜に何かを期待しているかのようだ。

 ――まさか!

 今日は美鈴に驚かされてばかりだ。頭上に視線を送ると、浮いたまま止まっているティーカップがあった。美鈴は投げていたのだ。

 あの位置からフランドールのカップが割れたことによく気付いた。そして、すぐに店のカップをくすねる決断の速さ。
 咲夜が即座に時を止めることまで計算している。なんだかんだと言いながらお嬢様が手放さない理由がわかった気がした。

 咲夜は頭の上のティーカップを掴むと、人間離れした跳躍でフランドールの前へと移動した。破片はエプロンドレスのポケットにしまい、代わりにカップを置く。
 再び元の位置に戻る咲夜。トラブルは完璧かつ瀟洒に処理された。

 何とか間に合った。

 しかし、もう一度何気なく後ろを振り返り、咲夜は声を上げそうになった。そう、変装が剥がれかけた美鈴のことを失念していたのだ。
 このままではフランドールにばれてしまう。

「ごめんね、美鈴」
 
 咲夜はスカートの中に仕込んだナイフを取り出し放った。
 ナイフを後頭部に受けた美鈴がカウンターを乗り越え厨房の中へ突っ込んでいったところで限界――時は動き出す。


  ◇   ◇   ◇


 ――あれ? 割れた音がしたと思ったのに。
 フランドールは無傷のカップを不思議そうに見つめた。

「大丈夫だったみたい」

 心配そうに覗きこむ子供たちにカップを掲げてみせる。

「もう、フランちゃん。気をつけてよ〜」
「ごめ〜ん」

 フランドールは頭を掻きながら照れ笑いをした。


17.


 雨上がる。
 少年が姿を消してから十分余り。山の天気は、雨が降り出した時と同じ唐突さで晴れ間を覗かせた。
 日傘を片手に洞穴を抜け出すと、ちょうど向こうから妹紅がやって来ていた。

「やあ」

 ボロボロになったブラウス。切れて片方がぶら下がったままになっているサスペンダー。クマと乱闘した少女の顔はどこか誇らしい。

「わぁ妹紅先生だー!!」

 妹紅が帰ってきたことに気付いた子供達が一斉に飛び出してきて飛びついた。
 おいィなんだこの私との扱いの差は、とレミリアは爪を噛みながら嫉妬。が、すぐに気持ちを切り替えて、妹紅に質問。

「ここへ来るまでの間、少年と擦れ違わなかったか? あの生意気なチビ助だ」
「お前にやたら懐いてる子供か。いや、見なかった」
「助けを呼ぶ為に一人で下山するつもりで、出て行ったんだ」
「どうして止めなかった――いや、雨で動けなかったのか。ああ、困ったなぁ。クマは仕留め損なったんだよ。途中で逃げられた。追い掛けようにもこちらも両手両足がまるで――」
「子供が聞いているから具体的な描写はいい。そうか、クマはまだこの辺にいるのか」
「可能性は高い。強敵だったよ。スペルが殆ど利かないんだ。あれは普通のクマなんかじゃないよ」
「齢五十年以上の長生きクマらしい。猫又ならぬ熊又かな。妖怪に近付いているのかもしれない」
「いやむしろ神様か精霊か、そっちの方に近い気がする」

 妹紅が感慨深そうに言った。

「アイヌの神話では、クマは神様の遣い、時には神様そのものだったりする。キムン・カムイ、山の神だ。或いは森の精霊だったりね。あれだけの大きさのクマだ。里でも有名なんだろう」
「キンタロウとかいう名前があるらしい」
「それはつまり信仰されてるということだと思わないか。あのクマは人の畏怖を一身に受けているんだ。ま、それはいいとして助けにいかなきゃね」

 取って引き返そうとする妹紅を、レミリアは素早く押しとどめた。

「私が行く。スカートを捲られた借りをまだ返せていない。それに、あの勇者気取りの子供には一人で抜け駆けしてもチーム全体を危機に陥れるだけだということを教えないといけない」

 妹紅が苦笑した。

「勇者気取りというよりは、お姫様を守るナイト気取りだろうね。あの子は」
「どういう意味だ?」
「分からないなら良いよ。オーケー、残りの子供達は私が下に連れて行く。あの子はアンタに任せた。ふぅん、それにしても変な感じだねぇ」
「何が?」
「妖怪が――しかも吸血鬼が人間の子供を助けるのに躍起になるなんて。吸血鬼にとっちゃ人間ってのは要するに餌なんだろ? 血を吸う為のさ。一昔なら考えられないことだよ。妖怪が人間にここまで肩入れするなんて」
「要はシュミの問題だ。もし私が人間よりクマが好きだったら、我が館のメイド長は人ではなく、クマがやっていただろう。そういうことだ」
「十六夜咲熊か。それはそれで見てみたい気もするけど」

 レミリアは上品に笑うと片目を瞑り、指先をそっと唇の前に立てて言った。

「こんな状況だから、こっそりとお前に教えておくが、実際『鬼』と名前の付く妖怪は、人間が愛しくて仕方ないのさ。何せ、人なしでは生きていけないからね」


18.


 地下図書館へ戻ってきたパチュリー一行は、いよいよ押し花の製作に取り掛かろうとしていた。

「……というわけでね、まずは花の構造をしっかりと押さえたうえで、形を整えていく必要があるの」

 今度は植物の断面図が描かれた本を開いて示しながら、パチュリーは説明をする。
 一緒に花畑で花を摘み、昼食を共にしたおかげか、子供たちは午前中よりもずっと素直に話を聴いている様子だった。
 これだけの短時間で、子供たちがここまで大人しくなるとは……。里の図書館でのイメージが強かったパチュリーは、内心驚いていた。小説などにおいて、登場人物の心理の変転が急過ぎて気になるということは今までいくらでもあったが、実際にこうして接してみると、心というものは意外に移ろいやすいものなのかも知れない、と思わされる。

「それじゃあ、実際に花処理を始めましょう。まずは、厚ぼったい花びらを取り除くのよ。ただし、バランスも考えながら。常に完成形を意識して――!」

 《勢いも大事》
 《生徒の様子に目を配りながら》
 ――いや、もう『教師の心得』の世話になる必要はない。そうパチュリーは思った。
 魔理沙やアリスと魔法談義をしたことを思い出す。そうだ、あの時のように話せばいい。魔法だって押し花だって、きっと根底にあるものは同じだ。
 本を読んで学び、それを誰かに伝えることで考えを整理してゆく。形のない知識を体系化してゆく「学問」という道程は、いつだってそうだったのではないか。

「うん、いいわよ。その調子ね。小悪魔、そっちの子を見てあげて」
「はい! パチュリー様!」

 押したときに重ならぬよう余分な花びらを取り除き、茎に切り込みを入れて水分を取る。茎の中にあるワタを取り、葉の形を整える。ものによっては葉脈にも刃を入れ、花芯を取り除く。
 こうやって、押したときに水分が出やすいように、綺麗な形を保ったまま仕上がるように、下準備をしてゆくのだ。
 パチュリーは子供たちの様子を見て回りながら、適宜手を貸した。アリスほどではないにせよ、パチュリーもまた手先が器用だった。というより、魔法や魔術を扱う者は、それなりに手先が器用でないとやっていけないのである。

「すごい、パチュリー先生……!」

 細く薄いナイフを駆使し、場合によっては風の補助魔法をも用いながら花を加工してゆくパチュリーに、子供たちは圧倒されたような様子を見せる。
 小悪魔もまた、そんな主の姿をどこか嬉しそうに見つめていた。

 このようにして子供たちの花処理が終わると、今度は作品としての体裁や構図を考える作業へと移る。
 重ならないように並べるのはもちろんのこと、台紙をどうするか、花をどのように配置するのか、そういったイメージを膨らませる工程である。
 今日一日では押し花は出来上がらないので、作品として完成させることはできない。しかし、子供たちに台紙や構図を用意させておけば、後日パチュリーたちが手を加え、「作品」を子供たちのところへ送り届けることができる。
 ちなみにパチュリーとしては、明日にでも咲夜に頼み、押し花の出来上がりを早めてもらってもいいだろうという考えもあった。

「さて、ここからが重要なんだけど」

 下準備を全て終えた段階で、パチュリーは言った。
 後は押すだけという時点での発言に、一部の子供たちは意外そうな顔つきをした。おそらく、もともと押し花の手順を知っていた連中なのだろう。
 小悪魔に書かせた教室案内には、「紅魔館の花々を用いて、魔法の押し花を作ります」といった抽象的なことしか記していなかった。それは、あまり具体的なことを書いては面白くないといった考えもあっただろうし、また小悪魔自身がパチュリーの押し花教室への熱意に対して不安をいだいていたからでもあった。
 だが、わざわざ吸血鬼の館にまで来て、ごく普通の押し花を仕上げてお終い、というのではあまりにもつまらない。「魔法の押し花」とは比喩でも何でもないのだ。

「みんなの作る押し花には、ひとつの魔法をかけるわ」

 パチュリーは、改めて子供たちの顔を見渡す。
 皆、期待の籠った眼差しでパチュリーのほうを向いていた。
 小悪魔も微笑みながらパチュリーを見ている。

「そのひとつの魔法を、今から挙げる三つの中から選んでちょうだい。いいかしら? @光の魔法、A音の魔法、B香りの魔法」

 子供たちは、互いに顔を見合わせてざわめいた。

「@光の魔法を選んだ場合、暗いところで押し花が淡い輝きを放つことになるわ。ほら、ちょうど皆の机の上に置いてある魔法石の結晶、そんな感じの光」

 それぞれの子供たちが魔法石の結晶を眺め、考え込む様子を見せる。
 パチュリーは続けた。

「A音の魔法を選んだ場合、その花から音を引き出して、鳴らすことができるわ。知っている? 花って、それぞれ違う音を発するのよ。鈴みたいな音や、風のような音を」

 またしても子供たちは迷うような様子を見せる。自分の花に耳を近づけて、何か音がしないかと耳を凝らしてみる者もいた。

「B香りの魔法を選んだ場合、その花の香りがいつまでも持続するわ。押し花にしてしまうと、ほんの数日から数週間程度で香りは消えてしまうけれど、香りを保つ魔法をかければ、何年経っても摘みたての香りが楽しめるの」

 今度はそれぞれの花に鼻を近づけ、匂いを嗅ぐ子供たち。

「このほかに、色の魔法といって、色褪せるのを防ぐ魔法もあるけど、それは全員サービス。全ての押し花にかけてあげる」
「はい! パチュリー先生!」
「あら、質問かしら?」
「あのー、その三つの魔法、全部かけてもらうっていうわけにはいかないんですか?」

 予想通りの反応に、パチュリーは薄く微笑む。

「そうできれば素敵なのかも知れないけれどね。魔法というのは、あまりあれこれとかけるものではないの。それに、選ぶという行為が重要なのよ」

 首を傾げる子供たちに、パチュリーは説明を続けた。

「みんなも、経験があるんじゃないかしら。たとえば、貴方、自分で選んだ仕事と、親でも先生でもいいけれど、誰かに命令されて仕方なくやらされる仕事、どっちが能率よく、質の高いものにできると思う?」
「それは……自分で選んだほう、かな」
「そうね。なぜそうなるかと言うと、そこには意思の力が働いているからよ。自分で選びとった、という思いがあるからこそ、力が湧いてくるの。そして、それは魔法も同じこと。魔法とは、意思によって世界に働きかける手段の一つなのよ。だから、みんなが選ぶことで、それぞれの魔法はよりしっかりとしたものになる」

 パチュリーが説明を終えると、辺りは水を打ったように静かになった。
 やがて、子供たちがそれぞれの魔法を選ぶための相談を始めるのを、パチュリーと小悪魔は見守っていた。



「それじゃあ、みんな花を置いたわね。――押すわよ」

 それぞれの魔法はかけ終えた。
 薄紙で挟んだ花を新聞紙でさらに挟み込み、袋に入れて空気を抜き、辞典などの重い本を載せる。後は陽の当たる場所へ移しておけばいい。
 祭りの本番よりも、祭りの準備のほうが時間を要するのに似て、押し花作りはあっけないほど簡単に終わった。

 押し花に明け暮れた一日も終わろうとしている。
 後片付けを済ませて、子供たちは最初と同じように、パチュリーのほうを向いて座っていた。
 小悪魔は、パチュリーの横に控えている。

「……さて、これで押し花教室はお終い。出来上がった作品は、後日みんなのところへ送ります」

 パチュリーは、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「最後に、少しだけお話をするわね。……みんなは、本というものについて、どう思っていたのかしら。寺子屋で読まされる、文字だけの退屈なモノ? 自分には縁も愛着もない紙の束?」

 もう、反発まじりの顔はなかった。
 小悪魔も、パチュリーの話を止めようとはしない。

「今日は、たまたま押し花というものを通して、みんなに図鑑や百科事典、研究書などに触れてもらったわ。知らないこと、わからないことについて、色々と記されているということが、ちょっとだけでも伝わったら嬉しいな、って思うの」

 パチュリーは、手に持った書物を抱き締めるようにする。

「たとえば、野に咲く一輪の花の観察に、生涯を捧げた者たちがいた。かれらはそうした気の遠くなるような作業の末に得た知識を、ひとつひとつ綴り、書物に纏めていったの。一冊の本に、その著者の魂が宿るというのは、そういう意味よ」

 子供たちが何を考え、思っているか。
 それはパチュリーにはわからないことだったが、想いを込めれば、きっと通じるものがある、という気がしていた。

「だからね、みんなも、この先、生きてゆくうちに手に取ることとなる一冊一冊を、少しでも愛し、尊重してくれれば……私は、嬉しい」

 自分の感情を素直に出す。
 それはパチュリーにとって、苦手とすることだった。
 表情に乏しいと友に揶揄されるのも、いつものことである。
 だが、今、子供たちを目の前にして、パチュリーは自分の想いをそのまま言葉にできているように思えた。

「――説教くさくなっちゃったわね。私の言いたいのは、それだけ。今日一日、みんなと押し花を作っていて、なかなか悪くなかったわ。ありがとう」

 それだけ言って、パチュリーは口を閉じる。
 しばしの静寂。
 そして。

 ――パチ

 パチ、パチパチパチパチパチ!!

 図書館は、精一杯の拍手の音で満たされた。
 小悪魔も手を叩いている。

 パチュリーは、不意に視界が滲むのを感じた。


19.


 テーブルに並べられたティーカップからは芳しいアッサムティーの香り。
 それぞれのカップは咲夜お手製のケーキが添えられ、各テーブルの中央にはクッキーの盛られた皿が置かれていた。
 子供たちは目を輝かせながら、甘いお菓子を頬張る。

 他愛もない会話が弾む。
 フランドールはすっかり子供たちと打ち解けていた。

「ねぇー、フランちゃん家ってすっごいおっきいんでしょ」
「どうかなぁ、他のお家を知らないから分からないや」
「今度遊びに行ってもいい」
「いいよ! あ、でも、お姉様が許してくれるかなぁ」

 言いながら咲夜を見ると苦笑していた。
 
 咲夜は今日のことをお姉様に話すだろうか。
 それを聞いたらお姉様は喜んでくれるだろうか。それとも、笑うだろうか。
 もしかしたら、興味すら持とうとしないかもしれない。

 それでも、何かが変わった自分の姿を唯一の肉親に見せたかった。
 
「まぁ、お姉様に許可なんて取る必要はないわ。今日、この後遊びにおいでよ!」


20.


 追跡――少年が走っていった方向と、頭に叩き込んだここら辺の地図を見比べながら。
 予想――ショートカットの為に、無鉄砲にも道を外れて斜面を下って行った可能性。
 発見――ぬかるんだ地面に子供の足跡。後を追う。
 上空――黒雲で隠れる太陽。いつ降り出してもおかしくない緊張を孕んだ天気。だが、お陰で傘を差す必要は無しに。
 戦慄――ぬかるんだ地面にクマの足跡。

 クマの足跡と子供の足跡がぶつかる場所で、両方の足跡が横道に逸れ、斜面の方へと続いている。
 だが、周囲に暴れた跡は無い。チビ助がここで襲われた訳ではなく、クマと遭遇して横道に入って斜面を下って行ったか、斜面を下って行った子供をクマが追いかけているかだろうと検討を付ける。というか無理やりそう思うことにする。
 レミリアも斜面を下りショートカットする。
 九十九折りになっている一つ下の道に出る。再び、足跡を発見。
 小さな足跡を、大きな足跡が踏みつけている跡が見れる。
 直感――クマがあのチビ助を追跡しているのだ。不味い、さっさと追い付かないと。
 逸る気持ちで夢中になって足跡を辿る。
 エナメルの靴はもう泥だらけだ。
 くそう、なんなんだ。私をここまでさせるなんて!
 そして、唐突にクマの足跡が消えた。

「あれ?」

 理解が追いつかない。子供の足跡は依然として続いているのに、クマの足跡だけ忽然と消えている。
 横道に入るにも跡は残る筈だ。まるでここから急に空を飛んだようだ。
 空――クマが空中を浮遊していた、なんてことは無かった。実際、飛んでいたらさぞかし楽しい光景だろう。楽園の素敵なクマ。
 冗談めいた思考とは正反対に、ドッと溢れ出す冷や汗。吸血鬼の直感が告げる危機。
 
 何か――大変なことを見落としているのでは――。

 衝撃が全身を襲った。吹き飛ばされたのだと、空中に放り出されてから理解した。
 受身を取るまでもなく地面に投げ出される。左腕が熱い。血が溢れ、折れている。再生まで使い物になりそうにもない。
 傘を掴んで立ち上がると、クマもまた立ち上がり威嚇の咆哮を上げた。鼓膜がビリビリと震える。
 後ろから完全に不意打ちを食らった格好だった。

「コイツ、自分の足跡を踏んで――」

 一旦進んでおいて、自分の足跡を消さないように後退し、自分を追うハンターが行き過ぎてから背後から狙う。
 野生の動物が生き残る術か――いや、コイツの場合は逆なのかもしれない。獲物を確実に仕留めるための手段の一つとしてのテクニック。
 妹紅の言うとおり強敵だ。単なるクマだと思って舐めない方がいい。大自然を相手にしているとでも思わなければ捕食されかねない。幾らタフな吸血鬼といえども、野生生物に食べられては一溜まりも無い。灰は灰に、塵は塵にだ。

「かかって来なさい! 丁度ロビーに新しい毛皮のカーペットが欲しいと思っていたところよッ」

 クマが走る。何て速度と質量。幾ら死なないからって、妹紅もよくこんなのと正面切ってスモウをしようだなんて思ったものだ。
 前脚の引っ掻きを傘で防ぐ。丸太でぶん殴られたかのような圧力と衝撃だ。しかし咲夜が未来水妖バザーで手に入れた『炭で出来ている』とかいう傘の骨組みは壊れることなく耐えた。
 チャンスを狙い下顎に向かって蹴り――石の塊を思いっきり蹴ったかのような痛み。
 治り掛けの左腕でスペルを紡ぐ――ミゼラブルフェイト。紅い魔力の鎖で雁字搦めにしてやろうとするが、白い毛皮に弾かれる。
 これも妹紅の言うとおり。下手なスペルは効かない。
 コイツはキムン・カムイ。山の神だ。漲る野生と大自然の代行者だ。この大山丸ごと一つを相手にするようなものかもしれない。弾幕ごっこのスペルだなんて大火事にジョウロで水をやるようなものだ。

「――しゃあない。やってあげようじゃないの」
 
 犬歯を剥き出しにして笑った。
 物理攻撃で潰す。吸血鬼の馬鹿力で縊り殺す。お前が神様なら、こちらは悪魔だ。どっちが生き物として優れているかここで証明してやる。
 跳躍。
 傘の石突を下にして、相手に頭蓋に向かって突貫。吸血鬼のパワーで繰り出されるパイルバンカー。
 クマがそれをバックステップ一つで回避する。そして身を引いた姿勢から、体当たり。
 吸血鬼は真正面から受ける。両足を踏ん張って、押しとどめる。圧し掛かる重さ。ずるずると足元が滑る。

「こんのぉぉぉぉぉ!!!」

 爪先を地面に突き立てて、耐える。耐えたが、うわぁこの後どうしよう、と思っていると足払い。投げ飛ばされる。顔から泥の中に突っ込む。
 クマが圧し掛かり、大口を開いて噛み付いてくる。咄嗟に傘を横にして咥えさせる。そうしておいてテンプルを殴る。一発、二発。平気な顔をしている。ええい、どうすれば!

「レミリア!」

 最悪のタイミングでチビ助が現れる。

「こあーーーッ!!!」

 このアホ、こんなところウロウロしてないでさっさとどっか行きなさいよ危ないでしょ。というかアンタのせいよ!どうしてくれんのよこれ。靴が泥でグチャグチャでこのワンピースももう着れないじゃないの、ねぇというか何考えてんのよ!?分かってるわ。アンタ何も考えてないでしょ!
 レミリアの絶叫。略して、こあ。

 クマは当然の選択として、吸血鬼より子供を生贄に選んだ。
 さっと身を翻すと、筋肉質な体を震わせ少年に向かって突進。
 少年はそれを予期していたのか、躊躇無く逃げ出すと横道に入り、斜面を下る。
 莫迦、あんな走り難い場所に逃げ込んで、とレミリアは飛び起き、追いかける。
 クマは――意外にも坂を下りるのに難儀しているようだった。直感――前足が短いので、下り坂は大変なのだ。
 あのチビ助、意外にもモノを知っていると感心する。狩人だったという祖父から、教えて貰ったのかも知れない。しかしこの土壇場でそれを実行に移すのはまた別の話。いずれにせよ大した度胸だ。
 空を飛び、樹を追い越し、クマより一足先に少年の下へ。

「チビ助、こっちだ捕まれ。飛んで逃げるぞ」

 ぎゅっと手を握る。わぁ、と少年は情けない悲鳴を上げて振り解いた。

「何がわぁだ。クマは怖くなかった癖に、吸血鬼と手を握るのは怖いのか」
「そうじゃない!!」
「だったら掴まれ」

 遠慮がちに握ってくる少年の手を強く握り返すと、背中の羽を羽ばたかせた。
 アデュー、さようなら森のクマさん。私は屋敷に帰ってバスタイムを存分楽しませて貰うことにするわ。その後、優雅なティータイムだ。
 しかし、ぽつり、とレミリアの頬に雨粒が当たった。
 本能的に体が竦む。
 雨が再び降り出し始めたのだ。
 頭が真っ白になる。恐慌。クマが傍まで来ている。なのに雨に閉じ込められて一歩も動けなくなる。

「逃げろ」

 傘を開きながら、レミリアは言った。

「予定が変わった。お前はこのまま真っ直ぐ行け。もうすぐ山の麓に着く筈だ。妹紅がもう先に着いていると思う。彼女と合流しろ」
「やだよ。アンタ、残ってどうするんだ」
「足止めをする」

 顔に付いた泥をハンカチで拭いながら答えた。
 少年が笑う。

「カッコつけんなよ。どうせ雨の中で動けないだけだろう。吸血鬼は雨に弱いんだ」
「舐めるなガキ。クマの一匹や二匹どうということはない。ワラキア公は数倍の戦力のオスマンの大軍と戦って勝ち続けたんだ」
「どうせ、最後はやられて死んだんだろ」
「ぬぬぬ」

 しゃあねぇなぁと少年がニヤニヤ笑った。

「おぶって行ってやるよ。良かったなチビで。お陰でおれにも運べるってもんだ」


21.


 雨は勢力を増し、広げた傘の布地を今にも貫通しそうな勢いで降り注いできている。

「もっと速く走らないと追いつかれるわよ」
「分かってるよ! アンタ思ったよりも重いんだもんなぁ!」

 耳を引っ張る。ギャーと少年が悲鳴を上げた。
 それにしても人間は非力だな、と少年の後頭部を見ながら思った。私くらいの重さの物を背負っただけで重量超過になりかけている。走るのも遅い。持久力も無い。哀れな生き物だ。
 だが、その哀れな生き物にしがみ付かなければ動くことすらままならないのが今のレミリアだった。

「今日は厄日だわ」

 ぽつりと呟いたレミリアに、少年はそうかなと答えた。

「おれは結構楽しいぞ。アンタとこうやって雨の中を走ることになるなんて思いもしなかった」
「楽しいのか」
「友達に自慢できる。吸血鬼をおんぶしたって」
「言うな。カッコ悪いから!」
「さっきのレミリアはカッコよかったぜ」
「さっき?」
「アンタ一人で残ると言った時。ちょっと感動した。リーダーって感じがしたな」

 レミリアはにんまりと会心の笑みを漏らす。

「あれこそ私のカリスマが為せる業だよ。よければ教えてやろう。パーフェクトなカリスマを身に付けるその秘儀を――」
「興味ない」

 ぎゃふん。

 暫く走ると、左右に広がっていた森林が急に消え、地面剥き出しの崖のある場所へと続いていた。
 崖の上からは水が降り注ぎ、川となって下流に流れて行っている。
 山頂の湖が九天の滝となって降り注ぎ、里の方へと川を形成しているのだ。この川を下り続ければ紅魔館を臨む霧の湖に辿り着く。
 しかしまたしても流れ水――。
 道は橋となり、川の上へ渡されている。レミリアには渡れない。

「今日はつくづく水難の日みたいね」
「別の道を探すよ」
 
 頭を振った少年が凍り付く。
 クマがこちらへ歩いて来ている。一歩ずつ、のしのしと。獲物には既に逃げ場所がないことを知悉しているようだった。

「降ろせ――降ろしなさい、少年」
 
 少年は大人しく従った。
 レミリアは純粋なその両目をひたと見据える。

 「私をよくぞここまで運んでくれた。感謝する。しかし見ての通り、これ以上は進めないようだ。今度こそ私を置いて行け」

 少年がぐるりと目玉を動かす。

「それは命令か」
「命令じゃない! 私のお願いだ!」

 沈黙。
 少年は手を擦り合わせ、飄々と肩を竦めた。

「お願いされたんじゃ仕方ないな」

 恩着せがましく言い、後じさりする。レミリアは迫ってくる脅威の方に目を向けた。背中だけで少年が走り去るのを感じる。
 そうだ、それでいいんだ、少年。
 レミリアは傘を閉じた。
 たちまち全身がずぶ濡れになり、吸血鬼の体が悲鳴を上げた。
 血が凍る痛み。力が失われていく。体重が何倍にもなったように重い。腕を上げるのも一苦労だ。
 レミリアはクマを見据えたまま、一歩ずつ下がった。川縁の限界まで。
 背水の陣。
 畳んだ傘を槍のように構え、クマを誘う。
 クマは両の足で立ち上がった。雨の中、白銀の生き物が屹立し、こちらを睥睨している。
 不覚にも美しいと思った。
 前脚を再び地面に付けた。突進の構え。レミリアも腰を落とし、構える。

 ――さぁ来なさい、クマ公。

 足と背の筋肉を躍動させ野生が走ってくる。
 レミリアは動かない。
 一秒、二秒――ギリギリまで引き寄せる。
 三秒。相手の毛並みまでしっかり見える距離。
 四秒。声もなく踊りかかってくる。前脚を伸ばし、横殴りの一撃。
 五秒。がら空きの胴体。レミリアは素早くお尻を落として、その場に仰向けになる。
 相手にとっては意外過ぎる行動だったのだろう。動揺が伝わってくる。
 仰向けに寝たレミリア。ノーガードのクマの胸。心臓の直上に傘を突き立てた。
 腕を空振ったクマが倒れこんでくる。レミリアの構えた『槍』の上に。
 これが本当の槍だったら既にレミリアの勝ち。しかし、傘の石突で分厚い毛皮を貫ける筈も無く――。
 さぁここからが腕の見せ所とばかりに、レミリアは残った力を腕と背中に集中させた。
 クマを傘の一点で支えたまま、相手の力を利用し、後方へと投げ飛ばす。
 巴投げ――。
 クマが浮いた。傘の軸が限界までしなるが――折れはしない。
 やれ、やってしまいなさいレミリア!

「とぅあああああッ!」

 投げたクマを背後の増水した川へ落ちる。グッバイ、テディ、私の勝ちだ。
 だが、クマは投げ飛ばされながらも前脚の爪をレミリアのワンピースに引っ掛けた。
 自分で投げたクマごと引っ張られる。
  ――不味い。
 一緒に川の中に転落した。
 もがくが、すぐに体が石のようになる。沈み、浮き上げれない。ゴポゴポと水を飲むのを感じた。
 ああ、もうダメかも。フラン咲夜パチェ美鈴、あと小悪魔も、ゴメンなさい、私もうダメだわ。

 遠く、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。


22.


「あー、生きてたよー!!」

 能天気な声がした。周りがガヤガヤと煩い。

「何言ってんの、こいつが死ぬ訳ないじゃない」

 この声は妹紅か。どうなってるんだ、と体を動かす。
 薄暗い。布で周囲が覆われている。テントのようだった。服は脱がされている。

「ここはどこ?」

 レミリアの問いに、妹紅はそばへ来て教えてくれた。

「『にとり先生のペットボトルロケット講座』の会場だよ。山を降りたらここに偶然辿り着いたんで、一緒に混ぜて貰っていた。そしたらお前と子供が一人上流から流されてきた。ビックリしたよ」
「クマは? 一緒に流れてこなかった?」
「いや、お前達だけだ」

 あの程度で死んだとは思えなかった。どこかで生きているに違いない。あんなのがいるなんて妖怪の山は立派な魔境だ。

「どうだ? 凄い生き物だったろう?」

 からかうような妹紅。レミリアは唇を突き出し、虚勢を張る。

「雨さえ無ければ楽勝だった。夜の王がクマに負けるものか」
 
 にとりがテントに入って来た。

「ごめんねー。服は勝手に洗濯させて貰ったよ。ほら、もう乾いたから着れるよ」

 泥まみれになっていた服は見事に綺麗になっていた。これも河童の技術の為せる技なのか。

「歩けるか? 外は晴れてるぞ、ほら傘」

 妹紅から少し軸が曲がってしまった傘を受け取ると、外に出た。憎い位の晴天だった。

「途中で雨に降られて、ちょっとトラブったけど、予定通りにロケット飛ばせて良かったよ」

 満面の笑顔のにとり。言葉通り、子供達が黄色い歓声を上げながらあちこちでロケットを飛ばしていた。
 全くタフな子達だと、内心笑ってしまう。
 クマと遭遇するなんて恐ろしい目に遭いながら、既に気持ちを切り替えられている。
 それとも単に莫迦なのか。愛すべき莫迦だ。莫迦な人間。人間の子供。そういう連中をすっかり気に入り始めている自分も莫迦だと思った。

「あのロケットは月まで行けるのか?」

 レミリアは大空に向かって飛び上がる透明な容器を見詰めながら聞いた。にとりは首を真横に振る。

「無理だね。第二宇宙速度を突破できないよ。水の反作用で打ち上げるだけだから」
「所詮は、玩具か」
「でも面白いよー」
「お前もやってみればいいんだ。子供達と遊ぶ。そういう企画だろ、これは」

 妹紅が楽しそうに言った。

「ガキの遊びだ。私は興味ないって、ひゃあ!」

素っ頓狂な悲鳴を上げた。振り向くと、例のチビ助が手にした大きな水鉄砲でレミリアを狙っていた。

「河童に借りた水鉄砲だ。よく飛ぶぞ」

 圧縮空気に押し出されぴゅーっと水が勢いよく噴出した。
 その光景にレミリアはゾッとなる。

「人が増えてロケットが足りなくなったんで貸したんだ。これも面白いよ。射程が十メートルくらい」
「いや、私はいい。今日はもう水は沢山だ」
「何だ逃げるのか、レミリア。折角、おれが助けてやったんだ。感謝の印に少しは遊びに付き合えよ」

 少年の言葉。助けてやった? 妹紅を見る。妹紅の頷き、肯定。
 流された私を引き上げたのはこのチビ助か!
 カァッと耳まで赤くなるのを感じた。何たる失態。

「よし私も参加しよう」
 
 意気揚々と妹紅は水鉄砲を受け取り、レミリアの方へ照準を向けた。

「コイツで鬼ごっこでもしようか。私が鬼。私に撃たれた奴が次の鬼。参加する子は皆集まれぇー!!」

 妹紅の集合の合図に子供達が応える。

「私は厭だ。熱い紅茶が飲みたい」
「我侭言うな。お前、皆よりお姉さんだろ。こういう時は付き合ってやるもんさ」
「う、ううー」

 千歳児に諭されてぐうの音も出ない五百歳児。

「ほら、いつもやってる弾幕ごっこと一緒だよー」

 にとりに水鉄砲を渡され、強制参加決定。がっくり。

「三十秒経ったら追い掛けるから、いいかなぁー。ほら、いーち、にーい――」

 蜘蛛の子を散らすように逃げる子供達。
 よく分からないまま、所在無さ気に立ち竦んでいると、少年に肩を叩かれた。逃げるように促された。

「鬼ごっこは初めてか? 仕方ないからおれがこのゲームのコツってのを教えてやるよ」

「ううぅ」

 教える筈の立場なのに、今日は色々教えられてばかりいる気がした。

 仕方ないのでプライドを一旦引っ込めて、子供達と遊ぶことにした。

 弾幕ごっこと一緒だ、本気でやらずに真剣にやる。

 ふぅん――何だ結構楽しいじゃないの。








 ≪エピローグ≫


 レミリアが館に帰ってきた時、既にパチュリーと美鈴は紅茶を片手に打ち上げ会らしきものを始めていた。

「ハロー、レミィ。酷い格好ね」

 パチュリーは至極ご機嫌な様子だった。一仕事やり終えた疲労と、その代価として受け取った満足感を思う存分楽しんでいる。

「色々あったのよ、色々ね」

 クマに引っ掛かれ、服の破れた部分を指で触りながら溜息。

「咲夜とフランはまだ帰ってきてないの?」
「咲夜は帰ってきたわよ。でも、帰ってくるなり自分の部屋に引き篭もっちゃったわよ。何があったのやら。妹様の方はまだ里よ。すっかり他の子供と仲良くなったみたいで」
「それは想像以上の収穫ね。我が妹ながら俄かには信じ難い――里は大丈夫なのかしら」
「お節介な妖怪たちがついてるから平気でしょ。それより晩御飯はどうするの?」
「咲夜は疲れているのかも知れない。フランのお守りを頼んだのだから仕方ないわ。無理言って夕食を用意させるわけにもいかないし」

 レミリアはお腹がペコペコになっていた。
 皿の上のプレッツェルを一つ摘まみ、紅茶と共に流し込む。

「ホント、こういう時につくづくうちのネコイラズの優秀さを実感するわね」

 パチュリーはプレッツェルを齧りながら溜息を吐いた。レミリアも溜息。

「まったく、シケた打ち上げ会じゃないの。そうだ、美鈴、キッチンからパンとチーズを持ってきて。ついでに地下セラーからワインも持ってきなさい。とっておきのヤツを」
「とっておき? あ、はい! わかりました」

 美鈴が飛んでいく。その後姿を見送ってからパチュリーが笑う。

「あの子のこと、なぜか珍しく咲夜が褒めてたわ」
「そういう話はワインが来てからにしましょうよ」

 苦笑まじりに言い、レミリアは窓辺に近付く。
 赤い夕日。館を朱に染める。差し込む夕日――逢魔ヶ刻。
 妖と人が交わる時間帯。
 そして、今日は妖と人が交じった一日だった。里にとって、そして妖怪たちにとっても記念碑的な一日。

 暫くして、ワインが来た。シャトー・コウマカン。咲夜がお得意のマジックで作り出したヴィンテージハウスワイン。
 程よく回った酔いが舌を滑らかにする。
 レミリアの話――自分の活躍を格好良く――許される程度の脚色を交えて。
 パチュリーが笑う。
 美鈴が笑う。
 レミリアも笑った。

「本当に粗野で生意気な子よ。ちょっかいばかり掛けて来て、本当に厭になるわ。でも見所もあるチビ助だった」

 息巻くレミリア。

「あははは、違うのレミィ、その子はね――ねぇ美鈴?」
「ええ、お嬢様も罪なことをしたもんですね。純真な少年を相手に」

 ふたりして含み笑い。何か自分だけが知らない事で楽しんでいる気配を感じ、むくれるレミリア。

「どういう事なのよ! 説明しなさい!」
「どうもこうも――ねぇ、ぷっ、ふふ、レミィったら初心なんだから」

 顔を真っ赤にしたパチュリーがクヒヒと笑いを噛み殺しながら、バンバンと美鈴の背中を叩いた。

「お嬢様、パチュリー様はこう仰りたい訳なのですよ。その男の子はきっとレミリア様のことが好きなんだろうって」
「は?」

 手が滑り、危うくグラスを落としかける。それを見て二人はますます笑いを深める。

「だって、そうでしょ? その年頃の男の子って、女の子にどうやって接したらいいのかわからないからそういう態度を取るのよ。なのにレミィったら全然気付いてないし、四百九十年も歳離れてるのに同レベルだなんて、可笑しくて可笑しくて」
「そそそそ、その好きっていうのはどういう?」

 美鈴がにやりと笑う。滅多に取れないレミリアへのマウントポジション。

「勿論、ラブ、という意味ですよ、お嬢様。惚れたというヤツですね」
「馬鹿馬鹿しい! 人間が吸血鬼を好きになってどうするんだ!」

 自分でも思いがけず大声が出た。テーブルを叩いた拍子にチーズが宙を舞う。

「愛に国境はないというじゃありませんか。美しいものを好きになるのはこの世の真理ですよ」

 酔うと肝が据わるのか、どっしりと構えた美鈴。好物のコッペパンを片手に滔々と語る。

「でもアイツはまだ十歳かそこらの子供じゃないか」

 無意識に爪を噛んでいるレミリア。

「だったら初恋なんじゃない?」

 魔女の容赦無い追撃。
 レミリアが少年の手を握ろうとした時、確かにあの子供は手を引っ込めた。
 吸血鬼の自分が怖いのかと思ったが――違う、照れていたのか。
 胸が熱い。何か得体の知らないものがこみ上げてくる。
 不味い。我慢できない。感情が制御できない。

「浅はかな子供の考えだ」

 グラス一杯にワインを注ぎ、一口に飲む。
 得体の知れないものも一緒に胃の腑に飲み込もうとする。

「吸血鬼を――妖怪を好きになってどうするんだ。私たちは同じ時間を生きられないんだぞ」

 そうね、とパチュリーが素っ気なく言う。

「きっとその子、もう暫く経ったら他の子を好きになる。里に住んでいる人間の女の子を。そして、吸血鬼は淡い子供の頃の記憶になる」
「そして結婚して、家庭を作り、子供を育てるんですね」

 美鈴の相槌。

「そんなに先の話じゃないでしょう。あと十年か、そこらの――」

 十年はすぐだ。吸血鬼にとっては。そして多くの妖怪たちにとっても。
 感慨――人間はいつだって妖怪より先に逝くのだ。その当たり前の現実、事実、変えようのない真実。
 思い出――いつか自分は、あの少年の中で記憶だけの存在になるのだと思った。里の行事で出会った変な吸血鬼――雨の中を二人で駆けたこと。
 ワインをもう一杯飲んだが、今度は何の効果もなかった。
 得体の知れないもの――感傷という毒。
 毒が身体に回る。

 パチュリーが話し出す。どうやって里の子供達と交流したか。最初はどうなることやら、という感じだった。でも思ったよりずっと面白かった。押し花を宝物にすると言われた。嬉しかった。
 途中から涙声になっていた。笑い上戸の次は泣き上戸だ。
 皆、感傷という毒にすっかりやられて正常ではいられなくなっている。
 そして来年もまたあのイベントはやるのかと話し合い、美鈴なんてすっかりやる気になっている。十年後、二十年後でもやろうとする勢いで。
 しかし十年後には、今日子供であった子たちは大人になっている。教えるとすれば別の子たちだ。
 素面では話せない内容。普段は関わりもない里の事であれやこれやと言い合う。
 全く馬鹿げた三人組。

 やがて咲夜が部屋から出てきた。

「ご迷惑をお掛けしました。今から御夕飯を作ります」

 疲れた顔と声を押し隠す優秀なメイド。

「いい、今日はもう無礼講だ」

 グラスを差し出しながらレミリアが笑った。

「明日も一日休みを取るといい。掃除も洗濯も料理もするな。これは命令だ」

 夜が更けていく。月が昇り、時が進む。
 笑い上戸に戻ったパチュリーがレミリアをからかう。

「ねぇ聞いて咲夜。レミィったらモテモテなのよ」

 びっくりまんまる眼、やがて破顔する咲夜。
 むくれるレミリア。黙々と何処からか持ってきた日本酒を手酌で楽しむ美鈴。
 弾む話。何故か自分の身に起きた事を話したがらない咲夜。怪しさ満点。そこを突っつき新たなお酒のあてにする。
 楽しい時間が過ぎる。

 イベントの打ち上げとしては上々の出来。
 笑いを引き裂き会話を中断させ、突然鳴りだす気の利かない柱時計。
 突如として、パズルの最後のワンピースの様にカチリと嵌る思考。

「ねぇ、そういやフランはまだ戻ってこないのかしら」

 一瞬の静寂。
 コンコン、と遠慮がちなノック。

「客? こんな時間に?」
「もしかしたら里の人が妹様を連れてきて下さったのかも」

 一同、顔を見合しエントランスへと向かう。
 半開きの玄関扉からフランドールが顔だけ覗かせていた。

「どうしたのフラン。早く入って来なさい」
「あの、お姉さま、実は私、今日、いっぱいお友達が出来て――」
「その話は咲夜達から既に聞いている。私も貴方の口から直接聞きたいわ。早くこちらへいらっしゃい」
「だからお姉さま、そのお友達が遊びに来てくれて」

 分厚い玄関扉越しに感じる『大勢』の気配。
 一体これから何が起きるのか――その場にいた誰もが予感し、戦慄した。
 
「だって、お友達が出来たら家に連れてきても良いって前言ってたもんね」

 パタパタと羽を嬉しそうにはためかせるフランドール。
 学校の授業の後は、楽しい放課後の時間。
 アフタースクールは終わらない。







ZUNさんとmarvsさん、運営さん、そして読んで下さった皆様に感謝!

誤字などを訂正致しました。
ご指摘下さった方々に感謝申し上げます。
PCK(桐生、天然果実、春野岬)
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2010/06/21 02:12:48
更新日時:
2010/08/01 02:12:23
評価:
59/165
POINT:
10210
Rate:
12.33
分類
レミリア
咲夜
パチュリー
美鈴
フランドール
小悪魔
紅魔館
慧音
妹紅
1. 80 ずわいがに ■2010/06/24 17:15:18
>すぐ側を歩く女の子のひそひそ声で友達に囁いた
>何より特徴的なのは歳を白くなった体毛
>今日はもう水はもうたくさんだ
誤字脱字でしょうか

レミリア編はコミカルで面白かったです
『パーフェクトカリスマ教室』とか受けてみたいでしょ普通wwPCKてw
それにしても、予想はしてたけどやっぱスイッチ入るとカッコイイですなぁ
ま、へたれみりあも愛嬌があって良いんですけどねv

パチュリー編は非常に現実的
実際、ためになるような話や「うんうん」と共感出来る例えが多くて良かったです
パチュリーも小悪魔もホント「先生」してましたわ

フランドール編は感動ものですね
フランが何かキャラ的に軽いような気もしましたが、可愛いのでOKです
美鈴がフランを気にかけてわざわざやってきたってのも個人的にかなり嬉しい展開
咲夜さんとのコンビネーションもマーベラスでございました

最後はそれぞれを上手くまとめてあったと思います
今宵の紅魔館はまだまだ興奮冷めやらぬようですけどねw
5. 70 名前が無い程度の能力 ■2010/07/01 01:08:28
話はまあ面白かったが、急に教室を開いてくれと言われ、報酬も無しに二つ返事で了承するのに各々の思惑があったとしても違和感を感じた。
13. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/01 08:43:47
リアルで涙でてきた。
是非紅魔館以外の勢力達にもスポットを当てた作品が読みたいです。
15. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/01 11:14:00
話もオチもお見事!
あとパッチェさんのとこは何故かオイラまで泣きそうになりました
19. 100 にあ ■2010/07/01 13:10:57
面白かった!本当に面白かった!!少年私と代われ!!
レミリア初々しいw歳すごく離れてるのに同レベルとか最高です!!
ああ、吃驚マーク付けずにはいられない!!私もこの企画参加したかった;;
24. 80 名前が無い程度の能力 ■2010/07/01 15:57:54
とてもおもしろかったです
子供というのはこちらの心や行動に反応していろいろなものを返してきます
それを通じていろいろなものに気づく紅魔館のみんなはとても活き活きとしていました
27. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/01 17:52:45
時間があっという間に過ぎてしまった。
29. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/01 21:46:13
やっぱり美鈴はフラン様が大切なんですね
これは他の教室の様子も読んでみたいですね

それはそれとして。押し花教室のところで、「風邪の魔法」になってました
31. 90 名前が無い程度の能力 ■2010/07/01 23:20:28
レミィだけ散々だな!とか思ってたけど綺麗にしまってよかったです
がきんちょの気持ちがよく判ってつらいw
34. 100 あおこめ ■2010/07/02 02:22:13
とりあえず、レミィに合掌。数年間は賑やかな紅魔館になりそうですね。

どの授業の風景もとっても幻想郷らしい光景でした。
ある人は教師として、ある人は生徒として、忘れられない一日になったと思います。
楽しい作品でした。
38. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/02 07:31:24
人間と妖怪が混じりあう。
いい光景ですけど、時間って言う概念を考えると、少し寂しいものを感じますね。

でも、皆が皆、里の子供達と交流して、何かに気付いていく様子は、非常によかったです。

これから、紅魔館はもっと賑やかになっていくのかな、なんて。
40. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/02 11:48:35
ぬぅぅ、何という素晴らしさ、点数が100点までしか無いのが悔やまれる!

もう咲夜ママと美鈴パパはフランを養子に結婚すれば良いんだよ!
43. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/02 12:33:58
イイハナシダナー
46. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/02 15:46:57
面白かったです。
47. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/02 17:48:28
いいです。特にパチュリー編がほっこり和みました
53. 90 名前が無い程度の能力 ■2010/07/03 01:57:00
おぜうかわいいなチクショウ!
54. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/03 02:13:57
とても長いのにぐいぐい惹き込まれて読破してしまいました!

紅魔館メンバーが生き生きしていてとても良かったです。
レミリア、フラン、パチュリーの三人が特に良かった。
心がほんわり温かくなりました。

素敵な物語をありがとうございました!
55. 90 名前が無い程度の能力 ■2010/07/03 10:08:17
紅魔館のメンバーそれぞれの個性が出ていていい作品でした
59. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/03 17:43:20
ほのぼのとしてて読んでて楽しいです
61. 70 873 ■2010/07/03 22:21:56
面白かったです。
ありがとうございました。
63. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/04 01:59:04
凄く面白かったです。暖かい物語、ありがとうございました。
66. 80 名前が無い程度の能力 ■2010/07/04 17:50:09
みんな輝いていて良かったです。
69. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/04 20:10:02
面白かったです。平穏無事な他メンバーとレミリアのギャップが凄いことにw
にしても、はちきれんばかりの子供のバイタリティに驚かされるばかりです。
70. 90 名前が無い程度の能力 ■2010/07/04 22:42:42
なんというハートフル……これならN○Kでも放送できる……まあ冗談はさておき。
二枚目半だけどいざというときはやはりカリスマ溢れるお嬢様と
慧音顔負けの先生っぷりを発揮するパチュリーさんが印象的でした。
72. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/05 00:09:26
人と妖怪の触れ合いの暖かさと一抹のさみしさが
よく書かれていてとても優しい気分になれました

私は空先生の科学実験教室が受けたいんですがどこに申し込めばいいんでしょうか?
73. 90 名前が無い程度の能力 ■2010/07/05 01:00:05
レミィに絡む男の子の気持ちが分かりすぎて辛い・・w
紅茶会といい押し花教室といいほんわかすてきな雰囲気なのに
レミリアだけ完全に芸人枠だこれww
80. 90 ナナシ ■2010/07/06 00:26:41
ほのぼの、シリアス、ラブコメ他のいろいろな種類の話が入っていましたが読みにくさは感じませんでした、
話のチャンポンは大好きです。

風邪の魔法は誤字でしょうか?
83. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/06 10:59:56
風邪の補助魔法
風邪のような音を
誤字ですよー

図書館は時々本当に酷いですよねぇ
89. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/07 01:20:12
初心なお嬢様にニヤニヤせざるを得ない
91. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/08 01:14:56
もう、全てが素晴らしいとしか言いようがない。楽しさと郷愁、感慨深い何か、とても一言では
表せることができない、本当に最高の作品でした。
創想話見てて本当に良かったです。
97. 80 名前が無い程度の能力 ■2010/07/09 16:15:35
ほのぼのして素敵でした。
103. 70 名前が無い程度の能力 ■2010/07/11 23:51:54
ハートフル課外授業 おれによし
妹紅と聞いて作者にピンときたような、来ないような
108. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/13 14:23:14
面白かったです
110. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/13 23:12:21
とっても素敵なss。
感謝。
114. 100 山の賢者 ■2010/07/16 19:52:53
初心なレミリアもいいですねえ。
美鈴がちゃんとひそかに活躍したのもGOOD!
 
>>逢う魔ヶ刻
「う」は要らないと思います。
121. 40 euclid ■2010/07/19 01:19:15
場面転換でちぐはぐなところが少々あり。
ヘタレにヘタレて最後ちょっとカッコいいところ見せるって構図は好きですが、もう少しお嬢の扱いかっこよくてもいいかなぁとも思ったり。
口調もなんか安定しないで怪しい感じ。
123. 80 名前が無い程度の能力 ■2010/07/19 22:54:12
これぞ王道! って感じのほのぼのでした。
子供に弱いレミリアも何か新鮮。
124. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/19 23:22:37
遠足組の場面がうまくつながらないような気がしましたが、
各先生がそれぞれ頑張っていたこの素敵な話を読んだ後では気になりませんでした。
どれか一つだけ受けていいってことになったら
パチュリー先生の押し花教室か妹紅先生の遠足か、真剣に悩みます。
126. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/20 14:26:31
きれいにまとまっていて、気持ちよく読めました。
こあの某死神っぷりに笑いましたww
132. 80 名前が無い程度の能力 ■2010/07/22 21:18:00
ほんまにええはなしやで…
140. 30 電気羊 ■2010/07/24 18:56:19
ちょっと印象薄いかなぁ。長編作品が並んでいるのでその中から抜け出せたかというと、それはどうなんだろうと。
舞台設定上、派手さや重苦しさがないのは当然なんだけども、その分地の文での楽しみが欲しかっただけに、残念。
141. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/24 23:57:57
なんて楽しい話なんだろう!
レミリアが可愛すぎて辛い。
143. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/25 14:16:44
最高に暖かい紅魔館でした!

個人的にはパチェの話が一番好きです
144. 100 I・B ■2010/07/25 16:16:22
紅魔館のメンバーそれぞれの“良いところ”がしっかりと出ていて、誰の視点から見ても面白く感じることが出来ました。
人間と妖怪の交流、まだまだ続いて行くであろう、物語。
和やかながら、どこか胸が熱くなるお話でした。とても面白かったです!
146. 80 半妖 ■2010/07/26 10:40:00
授業を通して紅魔メンバーの心情に劇的な変化が訪れるのがいいですね。
特にパチュリーの話が好き。
147. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/28 20:12:41
ああ、何かみんなかわゆい。
149. 90 名前が無い程度の能力 ■2010/07/29 20:12:02
レミリアお嬢様の魅力の塊を見た気がします。愛らして微笑ましくてカッコくて素敵で不敵で可愛い!
フランちゃんは、お友達と仲良くできてよかったですねー。
咲夜さんと美鈴はいつもの通り、信頼と安心のお二人です。
パチェも後半が復権してましたが見所はやはり小悪魔ですね。なんという大人のお姉さん。
図書館の完璧で瀟洒な司書さんですね。
あと最後のレミリアお嬢様が可愛すぎて鼻から忠誠心が…
そしてまとめでしんみりとさせられました。

>小悪魔は「人間って面白っ!」と思った。
この一文の時だけ、小悪魔の顔が某死神に変化してしまいました。おのれ。
150. 100 PNS ■2010/07/30 00:53:09
それぞれの場面(あるいは箇所)を、分担したのでしょうか。
この執筆法って、文体が一定しないので読みにくくなったりするかも……と先入観を抱いていたのですが、そんなこともありませんでした。むしろ一粒で様々な味がw
最後は綺麗にまとまっていて、後味が良かったです。

……で、「やったねたえちゃん!」を書いた人は誰かな。先生怒らないから手をあげてごらん(ゴゴゴ
151. 60 即奏 ■2010/07/30 04:27:59
おもしろかったです。
152. 30 八重結界 ■2010/07/30 16:32:55
子供の相手は吸血鬼や魔女でも疲れるものなんですね。
154. 90 Ministery ■2010/07/30 18:31:56
いや、これはすごい作品。
キャラ一人一人が主役を張れるレベルで描かれている。
そしてそれをまとめる最後の一文が実ににくい。
もうぐうの音も出ません。天晴れ。

ところで、レミリア・スカーレットのパーフェクトカリスマ教室はいつ開講されますか?
155. 100 ムラサキ ■2010/07/30 19:18:53
子供達に悪戦苦闘する紅魔館住民の姿が見ていて凄い面白かったです。
妖怪と人間のほのぼのとして、それでいてピリッとした掛け合いはやっぱり見ていてほっこりします。
フランちゃんが友人を作ろうとする姿や、それを保護する咲夜さんや美鈴もとてもよかったです。
特に最後の、パタパタと羽をはためかせるフランちゃんは、本当に応援してあげたくなります。
あと妹紅ヤクザキックとか男前すぎる。
157. フリーレス サバトラ ■2010/07/30 22:00:41
時間の都合上、点数だけの投稿とさせて頂きます!
大変申し訳ありません!
158. 90 蛸擬 ■2010/07/30 22:12:31
タイトルに惹かれて。
キャラクタそれぞれの物語がたいへんよく展開されていたと思います。
純粋にたのしめました!
159. 70 黒糖梅酒 ■2010/07/30 22:26:21
登場人物みんながらしくて面白かったです。
161. 70 如月日向 ■2010/07/30 23:09:02
課外授業って心が躍りますよねっ。
小悪魔と美鈴のポジションがステキです。
162. 100 ■2010/07/30 23:38:49
僕大きくなったら、子供になって課外授業に出るんだ。
なんて本当になったらなあ……。

いやしかししかし待てよ。
500歳から見れば10歳も30歳も50歳も、そうそう違わないのではないだろうか!
163. 90 つくね ■2010/07/30 23:41:41
取り急ぎ点数のみにて失礼します。感想は後日、なるべく早い時期に。
164. 100 ぱじゃま紳士 ■2010/07/30 23:47:13
 申し訳ございませんが、採点のみで失礼いたします。
165. 60 更待酉 ■2010/07/30 23:48:24
これは優しい紅魔館。
場面が頻繁に入れ替わるのが気になりましたが、各人物のストーリーの流れた楽しかったです。
167. フリーレス サバトラ ■2010/08/02 18:30:46
その……ごめんなさい……。
100点を入れたつもりだったのにフリーレスで採点してしまっていました……。
どこかでお会いしましたら、存分に叱ってやってください……。
168. フリーレス 名前が無い程度の能力 ■2011/10/08 03:07:54
やったねたえちゃんは禁句だろうよww

そしてレミィの扱いはラストを差し引いても納得行かない。
169. フリーレス 名前が無い程度の能力 ■2013/03/31 14:41:40
とっっっても面白かったです!
名前 メール
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