うらみっこ 後編

作品集: 最新 投稿日時: 2010/06/21 02:09:28 更新日時: 2010/09/25 22:08:13 評価: 48/123 POINT: 8060 Rate: 13.04



 私にとってその少女は、忘れられない、忘れられるはずのない存在だった。
 例え百年ニ百年の時を経ていようと、彼女のことは、魂に文字通り刻みつけられた記憶となっている。

 彼女は私の憧れで、私の目標で、大切な友で、そして――死んだ理由だったから。


 私たち二人は幼馴染の間柄で、双子の姉妹のように仲が良かった。

 私が生まれたのは、妖怪化生の跋扈する山野の深き土地。人里を一歩出ればたちまち命の保証はできないというほどに、魑魅魍魎のはびこる世界だった。
 しかし、そんな危険な場所でも、人々は生活していた。それを支えていたのが、他ならぬ巫女だ。

 巫女は、妖怪を退治する。悪霊を鎮める。神に身を捧げる。
 幼い少女たちにとって、その勇ましい姿が憧れとなるのは当然のことで、反対に親たちは、巫女には尊敬を抱きつつも我が子がその立場でないのを感謝した。
 巫女の地位は血縁によらず、素質がある人里の少女から適当な時期に選ぶのがしきたりだったのだ。自分の娘が危険な目に遭うことを望む親など、いるものではなかった。

 けれども幼き日の私は当然、巫女に憧れていた。宙を舞い華麗に妖を封じるその姿を見ては、本当の巫女さんになりたいなあと夢想して、ごっこ遊びに興じたものだった。
 私に親はない。私を産んですぐのころに亡くなったらしく、私は、里に住む半獣のもとで育てられた孤児だった。
 転機が訪れたのはそんな最中。まだ両手の指だけで自分の歳を数えられるような頃だったと思う。

 私が、巫女の候補に、と。

 幼い私にはことの重大さも責任も、なにもかも分からず、ただ頭の上で大人たちの会話が飛び交い、気が付いたら巫女見習いになっていた。家を出るとき、育ての親の半獣は、どこか悲しそうに、それでも笑って手を振っていた。

 それから神社で暮らす日々が始まり……彼女と初めて出会ったのが、その時だった。
 私の他にもう一人――それは、あとで知った話では、とても異例なことだったらしいけれど――巫女の候補は選ばれていたのだ。それが、彼女だった。

 右も左も分からない未知の世界に足を踏み入れた幼い私には、とにかく同い年の少女がいるというそれだけで、百万の味方を得た思い。
 歳も背丈も同じくらい。ふたり性格はそれぞれ違っていたけれど、それがかえって噛み合ったのか、私たちはすぐに打ち解け、ともに巫女を目指す者として友達になれた。

 そして、きっと、きっとふたりで巫女になろうと、約束をしたのだった。


 けれどそれが叶わぬ願いだと知るのに、長くはかからなかった。
 言われるがまま、なさねばならないままにせわしない日々を送る幼さに別れを告げ、もっと大きな世界を見られるようになったころ。
 巫女になれるのは私たちのどちらか独りだけなのだと気づいた。二人は、可能性のふたりでしかないということを知った。

 けれど、私たち二人はそれでもなお、互いを思いやり、助け合い、高め合う関係を続けられた。彼女と修行を積む日々――それは優しく、穏やかで、楽しい時間だったのだ。

 例えば、もし私たちが巫女になったら、という話をしたとき。巫女になった少女には、代々受け継がれてきた姓と、名前に『霊』の一字が与えられる。

「それだったらあなたは『霊霧』になるのね。霊霧さん、か……ふふ」

 彼女が珍しく、悪戯な口調でそう言ったのだ。神社で過ごす、修行の日々のひとつ。
 彼女は私に『霊』の字を与え、巫女として呼んだ。それは確かにありえる未来のひとこま。きっと彼女の脳裏には、紅白の巫女服に身を包み、おぼつかない妖怪退治に必死になっている私の姿があったはずだ。

「やだ、なんだかくすぐったいわ」
「素敵な名前じゃない。あなたが巫女になったらそう呼ばれるのよ、『霊霧』さん」
「あ、言ったわね。だったらあなたは……」

 私も負けじと、彼女の名を巫女に相応しく変え、呼んだ。
 その名に私が思い浮かべたのは、巫女服をさっそうと着こなして、たちまち悪い妖怪など退治してしまう彼女の姿だった。それは私が幼いころからあこがれ続けた姿であり、そして、可能性がより大きい未来、だった。
 彼女と比べた時、明らかに私は巫女に向いていなかったから。
 天賦の才の差、持って生れた力の差。私が必死になってたどり着く高みに、彼女は苦もなく辿りつける。私の努力は、いつも追いつくため、置いて行かれないようにするためのものだった。

 けれども彼女は、そんな私に優しかった。親友でいてくれた。

「あなたの空を飛ぶ姿、私は好きよ」

 力を使って空を飛び、駆けるとき。彼女は隣からいつもそう言ってくれた。

「あなたのその姿は、まるで白鳥みたい。綺麗で、とても素敵だわ」

 だから私は、絶望も失望もしなかった。支えられ、ときに支える関係が、あったから。
 けれどそれともう一つ……彼女とふたりで抱いた、大きな目標、叶えたい夢が私に力を与えていたのだ。


「妖怪は、怖い?」

 きっかけは、そんな彼女の一言。

「私は、そうは思わないの。私は妖怪も人も、そんなに変わらないと思ってる。それは、随分と力の差はあるけれど……でも、妖怪だって、人間と同じで、一緒に暮らせるはずなのよ。きっと」

 妖怪の脅威から、力を持たない人間を守るのが巫女の仕事。その巫女になるための修行をする身でありながら、彼女の言葉はその正反対の立場に立っていた。
 妖怪と人が、同じで、一緒に暮らすことができる。あり得ない、とその言葉を聞くものは一蹴するだろう。けれども、私は。

「人と妖怪が仲良くできるって、そういうこと?」
「たぶん、そんな感じだと思う。仲良くできなくたって、もっとこう、憎みあうだとか殺し合うだとか……そんな今みたいな関係は、きっと間違ってると思うの。もちろん、私の親が妖怪に殺されて、それでも同じことを言ってられるかなんて怪しいけれど……」 
「……それだわ」

 まるで、来る冬に怯える秋の日に垣間見た小春日和の空のように、そのとき私が胸に抱いた感情は、温かく晴れ晴れとしたものだった。
 いや、もっと激しく鮮烈な――まさしく、閃きだった。

「それよっ、私たちが目指すのは!巫女になる、私たちがっ」

 普段、そんなに大きな声を出すことが少なかった私の突然の叫びに、彼女は眼を瞬かせた。
 しかし、私の興奮は冷めやらない。

「この郷をっ、みんなが仲良くできる場所にするのよ!妖怪でも人間でも、分け隔てなく暮らせるような、そんな場所にっ」

 楽園――そんな単語が浮かぶ。
 そうだ、まさしく楽園だ。誰もが楽しみ、誰もが哀しむことなく、誰もが一緒に生きていける理想郷。妖怪、人間の区別なく生きていける世界。
 人間の枠を踏み出して、妖怪とも渡り合える巫女だからこそ、そんな絵空事を現実にできるかもしれないのだ。
 ただ妖怪と戦うばかりが巫女の役割ではないはずなのだ。

 もとから、彼女ほど強い心が持てなかった私だから、そんな事を言うのかもしれない。妖怪と戦いたくない。私は彼らに恨みなど無いのに、巫女になれば、そうしなければならなくなる。
 そんな在り方に、私は間違いなく嫌気を感じていたのだ。ではどうすればいいのか。その答えを、私は彼女の言葉の中に見たのだ。

 彼女は私がそうやって、柄にもない熱弁をふるうのを、じっと聞き澄ましていた。その表情には、少しの驚きこそあれ、非難の色は微塵もない。
 二人、きっと脳裏に描いた未来は一緒だったのだ。私が語り終えるその頃には、彼女もまた、興奮に頬を赤くしていたのだから。

「凄いわ」

 彼女はゆっくりと、言った。

「夢――ううん、目標よ。私たちが巫女になったときの。二人で、この郷を、この世界を変えてやるんだわ」
「うん、うん。私たちの楽園を、私たちで作るのね」
「そうよ。……約束だからね。私たちどっちが巫女になっても、きっと楽園を作るよう努力するって。そして私たちはずっと、そのために力を合わせるって」
「もちろんよ」


 交わされた、約束。
 その時かたく結ばれた指は、離れた後でもずっと、心で繋がっていられる気がした。









 切り立った崖のような高さの本棚が整然と立ち並ぶ巨大図書館。
 本来は静謐の象徴である図書館のはずだが、今は弾幕の弾ける爆音がこの空間を支配していた。

「くそっ!いつにもまして厳重だな!」
(そりゃあ、連日こんなことしてれば、向こうも警戒するでしょ)

 ここ数日、魔理沙と霊夢は度々、紅魔館の中にある図書館に忍び込んでいた。門番は大体居眠りしているし、レミリアと咲夜は博麗神社に入り浸っている。
 つまり図書館に本を借りに行くには、絶好の機会なのだ。
 しかし、流石に動かない大図書館ことパチュリーもやられっぱなしではなかったようだ。
 いつも通り、夢の世界へ旅立っている門番をやり過ごし図書館に侵入。目ぼしい本を、持てるだけ懐にしまいこんだところまではよかったのだが

「そうそういつも本を持っていけるとは思わないことね!」

 ここ数日で最も激しい抵抗にあっている真っ最中だった。
 パチュリーが右手を掲げ、何事かを呟くのを見た魔理沙は、素早く箒を加速させた。
 即座に無数の金属刃が射出され、先程まで魔理沙が立っていた地面を串刺しにする。

「そんな攻撃にはやられないぜ!」

 軽口を返すと、パチュリーはムキになって火球を連発してきた。
 しかしそんなものに当たってやる魔理沙ではない。箒を巧みに操り急上昇、一つ、また一つと回避を続けていった。

 魔理沙が本を借り(断じて盗んでいるわけではない)に行くのに、わざわざ霊夢を連れて来るのには理由がある。今ではすっかり陰陽玉が板についてしまった霊夢だが、魔理沙はまだ納得はしていなかったからだ。
 確かに今まで近くにいて、それでもどこか遠い存在だった霊夢と一緒にいられるのは楽しい。
 だが霊夢は、博麗の巫女は魔理沙にとっての目標だったのだ。その目標は高く険しい。しかし困難であるほど霧雨魔理沙は挑戦しがいがあると感じる人間なのだ。霊夢には身体を取り返して、また異変解決を競って欲しい。それが魔理沙の本心だった。
 このスペルカードバトルを通して、霊夢が少しでも感じるところがあればと思ったのだが、当人は普段と変わらず呑気だった。

「霊夢!手ぇ出すなよ」
(はいはい。出せる手はないけどね)

 こんな調子である。
 もっとも図書館は魔理沙にとって、ある意味ホームグラウンドのようなものだ。霊夢が戦いたいと言っても、手伝わせる気は毛頭なかった。ホームで巫女の力を借りたとあっては自分の立つ瀬がない。

「さて、やられっぱなしは性にあわんからな。そろそろ反撃させてもらうぜ!」

 箒を反転させ、まっすぐにパチュリーに向き直る。力押しの勝負。それに気がついたのか、パチュリーの足もとの魔法陣が一際強く青白く輝いた。受けて立つつもりらしい。

「上等だな」
(作戦はあるの?)
「突っ込む」
(……)
「な、何も言わないのか?」
(いや、あんたらし過ぎて突っ込む気もないわ)
「悪かったな。じゃあ行くぜ」

 魔力を箒の先端に集中する。イメージするのは何者も阻むことの出来ない直線。凝縮された魔力が周囲の大気を震わせる。その振動がこれから放つスペルの威力の大きさを物語っていた。

「さあ勝負だ……。彗星『ブレイジングスター』!」

 限界まで集められた魔力が一気に弾け、魔理沙を乗せた箒がパチュリーまでの最短距離を駆け抜ける。

「まずは弾幕か。望むところだ!」

 突っ込む魔理沙に対して、迎え撃つパチュリーが選んだのは五行属性の無数の弾幕だった。
 火水土木金。あらゆる脅威が魔理沙を襲う。しかしその弾幕に怯むことなく魔理沙は突き進む。何発もの弾幕に被弾するが、ブレイジングスターの発する衝撃波はそれらの弾幕をものともしない。

「さあ本命はどこから来る」

 パチュリーがこんな単純な魔法で済ますはずがない。今続いている迎撃はあくまでも囮。それを隠れ蓑にし、必ずどこかに本命を仕込んでいるはずだ。突っ込みながらも左右に視線を走らせ、周囲の動向を伺う。
 それと同時に懐から愛用の八卦炉を取り出し、次なる攻撃のために魔力の充填を始めた。
 本命を回避して、隙が出来たパチュリーに、至近距離から特大の魔砲を叩き込む。魔理沙が脳内で素早く戦術を描いた瞬間、視線の先の地面がわずかに揺れ動くのが映った。

「来たな! 下か!」

 矢の如く進んでいた箒に力を込め強引に機動をずらす。
 次の瞬間、樹齢云年の大木のような、極太の石柱が床からせり上がった。石柱は近場の本棚を押し倒しつつ、そのまま天井に突き刺さる。
 あのまま進んでいれば、直撃は確実。あんなものに当たれば痛いでは済まなかっただろう。
 だが回避に成功した今こそ反撃の好機。八卦炉の準備は既に終わっている。後は溢れんばかりの魔力の暴風をパチュリーに叩きつけるだけだ。

「あいつの悔しがる顔が見物だな」

 しかし魔理沙が見たのは、口元を歪め不敵に笑うパチュリーだった。

「残念だったわね」

 パチュリーが静かに呟く。ゾクっと背筋に悪寒が走るのを感じた。「謀られた」と魔理沙が気づいたときには既に遅かった。図上から降り注ぐ無数の光弾。八卦炉を持った両手は、既にパチュリーに向けられている。頭上の弾幕を打ち払うのも、箒を操作して回避するのも間に合わない。
「やられる」そう魔理沙が思った時だった。

「うおっ!?」

 勝手に箒が動きだし、光弾と光弾のわずかな隙間を縫って、上空に飛び出した。安全地帯に辿り着き、ほっとしたのも束の間に、すぐに箒を加速させその場から離れた。今のが本当の本命だったらしく、トラップを見破られた魔女が小さく舌打ちをし、弾幕をばらまきつつ新たな術式に入ったからだ。

「なんだったんだ……。いや」

 今の状況で、あんな曲芸じみた回避ができる人物を、魔理沙は一人しか知らなかった。

「霊夢。手だしは無用だって言ったぜ」
(あんたが負けたら、私のことがバレちゃうかもしれないじゃない)
「私は負けないっての」
(あら、じゃあさっきのはどうやって凌ぐつもりだったのよ)
「そ、それはだな……」
(はいはい。私が箒を操作するから、あんたは攻撃に専念なさい)
「それはダメだ! 箒は魔女のアイデンティティだ!」
(知り合いに何人か魔法使いがいるけど、箒に乗ってるのは一人しか知らないわね)
「とにかくダメなものはダメだ! 魔女に取っては箒は魂のようなもので――」
(右よ)

「ぬおっ!」

 会話をしながらも、上空を旋回し回避を続けていたつもりだったが、一発の火球を完全に見落としていたようだ。霊夢の声で咄嗟によけたものの、スカートの端が若干焦げている。

「危ねえ……。って手を出すなって言っただろ!」
(今のは口しか出してないわよ)
「むう」
(しょうがないわね。危ないときは私が言うから。それでいいでしょ)
「うーむ……」
(それか懐にしまっている大量の本を何とかするのね。それがなければもっと機敏に動けるでしょ)
「わかった。口出しは許可する」
(わかりやすい性格で助かるわ)

 お前ほどじゃないさ。と魔理沙は心の中で思ったが口に出すのは何とか思いとどまった。この期に及んで霊夢の機嫌を損ねるメリットなど欠片もないのだから。

「今度こそ反撃開始だ!」

 先ほどとは違い、パチュリーを中心に旋回をして様子を伺う。隙あらばいつでも攻撃に転じるが、まずは相手の出方を見ることに徹する事にしたのだ。対するパチュリーは散発的に魔法を放つものの、先ほどの弾幕密度に比べれば、穴だらけの攻撃だった。

「向こうも誘いか。その手には乗らんぜ」

 突っ込むだけが魔理沙の戦い方ではない。弾幕はパワーが信条だが、それを活かすためには緩急が必要なのも十分に心得ているくらいに、魔理沙は弾幕ごっこに慣れていた。

(来るわ。右よ)
「了解だ!」

 いつでも回避できるように箒を強く握りしめた。しかし

(あ、ごめん。左だわ)
「なんだっとぅおおおおお!?」

 全く検討違いの方向から、高圧の水弾が襲いかかって来た。済んでのところで回避したものの、一人で戦っていれば難なく回避できただけに、文句の一つも言わなければ魔理沙の気が済まなかった。

「全然違うじゃないか!」
(私から見て右だったのよ)
「お前がどっち向いてるか、なんてわかるかー!」
(これからはあんたに合わせるから)
「ったく頼むぜ。ほんと」

 そこから魔理沙と霊夢の反撃が始まった。

(あ、後ろ)
「それ!」
(上ね)
「そこかっ」
(ちょっと止まって)
「おっと」

 迫り来る魔法を次々に回避する。霊夢の助言は的確だった。
 博麗霊夢と共に戦う。そんな今までにない経験の中で、まず魔理沙が感じたのは、圧倒的な霊夢のスペルカード戦におけるセンスだった。霊夢は勘がいい。これは天性の才能によるものだろう。パチュリーは複雑な思考のもとでこちらの動きを先読みし、効果的な攻撃を加えようとしてきている。しかしこの巫女は、それをただの勘で予測して避けるのだ。
 そしてそれ以上に強く感じた想いがある。それは

 ――楽しい。

 この一言だった。
 現在、博麗神社にいる綺麗でおしとやか巫女に負けてから、魔理沙の胸の奥にはわだかまりともやもやが残っていた。そして、そのせいで心から弾幕ごっこを楽しめていなかったことに、魔理沙は今になって気づいた。
 そう弾幕ごっこはもっと楽しいものだったはずだ。
 霊夢をどうこうしようと思ってやるものじゃない。

「へへっ。楽しいな弾幕ごっこは」
(何よ今さら)
「そろそろ仕掛けるか。霊夢サポート頼むぜ」
(はいはい。頑張ってきなさい)

 霊夢の言葉に背中を押されるように、魔理沙は再びパチュリーに突っ込んでいった。





「ふい〜。ただいま〜」

 玄関のドアを開け放ち、家に入ってすぐのテーブルの上に戦利品の本をどかどかと積み上げる。

(ちょっと、きちんと整理しなさいよね)
「別にいいだろ。私の家なんだし」
(いま片付けしてるのは私)
「じゃあこれの片付けも頼む」
(魔理沙あんたねぇ……)
「痛ぇ! 跳ねるな!」

 帽子の中で陰陽玉が跳ねまわる。誰にも見られていないのがわかっているからか、全く容赦がない。

(そりゃあ家事は手伝うって言ったけどね。わざわざ仕事を増やされるのを黙って見てられるほど器量は大きくないわよ)
「わかったわかった」

 とりあえず、積み上げた本を適当な棚にしまいこむ。霊夢には自分なりにしまう場所が決まっていると伝えてあるが、はっきり言って適当だ。
 テキパキと片付け(?)をして、最後の本を手に取る。

「戦利品……か」
(どうかしたの?)
「いや、なんでもない」

 霊夢と一緒に戦ったんだよな。と改めて思うと奇妙なものだった。姿はすっかり変わったが、確かに霊夢と一緒だと、あの時は一番強く感じていた。
 弾幕ごっこの後、悔しがるパチュリーに「あんたと巫女を一緒に相手にしている気分だったわ」と言われたときには流石に肝を冷やしたが、特に気付かれた様子はなかった。霊夢と一緒にいることが、ある意味、魔理沙にとっては自然なのかもしれない。
 最後の一冊を棚にしまい終えて、近くのソファーにどかっと腰を下ろす。
 霊夢は夕飯の支度に取りかかってくれているようだ。
 包丁や鍋が宙を舞う、知らない人がみればエクソシストもびっくりの怪奇現象にも既に慣れっこだ。

「これで……いいんだよな」

 ミイラ取りがミイラにというわけではないが、今日一日で霊夢に身体を取り戻させようという考えはすっかり無くなっていた。自分でもよくわからないが、霊夢自身に任せてみようという気になったのだ。
 そしてそれまでは――これだけは絶対に霊夢に言うつもりはないが、この楽しく奇妙な生活を謳歌させてもらおう。そう思う魔理沙であった。







「茸狩りに行こうかと思うんだが、一緒にいくか?」

 そう提案してみたのは、よく晴れた、ある日の朝のこと。
 散らかし放題だった床がいくらか片付いた、霧雨邸の居間で、出かける支度をしていた時である。
 魔理沙の誘いに対し、テーブルの上に浮いていた同居者は、

(ん〜。めんどい。パス)

 と、だるそうな声で、返してきた。
 陰陽玉が湯飲みにストローを挿してお茶を補給しているその図は、見る者が見ればそれこそ茸の幻覚症状である。
 けれども、魔理沙にとっては、ここ数日でようやく慣れてきた、突飛な現実だった。
 肩をすくめて言う。

「つれないなぁ。茸狩りは魔法使いの基本中の基本なんだぜ」
(別に私は魔法使いじゃないし。それに他の魔法使いも茸集めてるとこなんて見たことないわよ)
「ふん。あいつらは茸を舐めてるんだ。いつか痛い目に会うぜ」
(はいはい。その前にあんたが茸で痛い目に会わないように気をつけてね)

 今度は煎餅をぱりぱりと食べながら、霊夢はくるりと回って、見送りのサインを出した。
 陰陽玉の姿になってから、彼女はずっとこんな感じである。興味の無いことにはとことん興味が無く、お茶の味が悪ければ厳しい評価を下す。
 手足が無くとも能力が消えたわけではないので、できるだけ家事を手伝ってくれるのはありがたいが、それでももう少し張り合いというものが欲しい気がした。
 まぁ、それがそもそも、博麗霊夢という少女の性格だったはずなのだが。

 魔理沙はため息をついて、誘うのは諦めることにした。籠と箒を手にし、「行ってくるぜ」と、家を出る。 
 が、扉を後ろ手に閉めた途端、奇妙な想像が頭を過ぎった。

 ――これって、端から見れば夫婦なんじゃないのか。

「ってんなわけあるか!」

 と、魔理沙は思いっきり首を振って、脳内からその考えを叩きだし、肩をいからせ、大股で魔法の森へと出かけた。









 幻想郷における、魔法の森の評判は、すこぶる悪い。日当たりが悪い、湿度が高い、無駄に広くて道が悪い。
 おまけに胞子やら瘴気やらが年中漂っているために、慣れない者が入ればあっという間に体調を崩すことに繋がる。魔法使いでなければ、妖怪ですら近寄りたがらない異質な空間というのが、もっぱらの評価だった。
 しかし魔理沙にとっては、住居を構える大事な場所であり、自らの魔法の出発点でもある。
 同業者にも同居者にも評判はいまいちだが、この森は有用な茸の宝庫なのである。
 それぞれが服用者に対し不可思議な効果を生み、組み合わせによってできるパターンは無限大。
 いってみれば、一つ一つに新しい魔法が隠されているようなものなので、自らのレベルアップと探求心を満たすため、毎日探検しても飽きない空間だった。
 もちろん、魔法の補助薬としてだけでなく、食用としても大変な珍味が見つかることもしばしば。

「お、珍しい茸発見〜」

 森を歩く魔理沙は、早速木の根元に一本生えていた、緑と白のストライプ柄の茸に目を止めた。 
 一日歩けばこうした新種が、二つか三つは見つかる。この時の快感が、茸狩りの醍醐味である。

「なかなか美味そうじゃないか。よくわからないものは食べて確かめるのが霧雨流だぜ」

 と手を延ばして取ろうとした瞬間。茸は黒い隙間に飲み込まれて消えた。

「おわあ!? なんだ!?」

 思わず体ごと引っ込むと、背後から妖しげな声がかけられる。

「ごきげんよう魔理沙」
「紫か。脅かすなよ……」

 空振りした手を撫でながら、魔理沙は振り向き、声の主に文句を言った。
 案の定、現れる場所を選ばないスキマ妖怪、八雲紫が、スキマに頬杖をついてこちらを見ている。
 彼女とは、この前霊夢の記憶騒動の際に、神社で会って以来だった。 

「待て今の茸はどうした。まさかアレの希少価値に気づいて横取りしたんじゃあ……」
「失礼ねえ。あんなもの食べたら、三日は寝込むわよ」
「そんなことは食べてみないとわからん」
「まったく貴方って人間は……」
「それが私の主義だからな。何の用だ一体。私は茸狩りで忙しいんだから、見学するなら黙って邪魔せず端にいろ」

 しっし、と手を払って、魔理沙は無視することにした。
 面倒な会話に付き合わずにいれば、そのうち飽きてどこかへ行ってしまう、というのがこの妖怪への対処法である。
 派手な紫のドレスを視界に入れないようにしながら、地面を見つめつつ、もう一度あの珍しくて美味しそうな茸を探して……、

「そういえば、今日は一人なのね」

 何気ない一言だったが、魔理沙は聞き逃すことはできなかった。
 すかさず振り向き、ニタニタ笑っている妖怪を睨みつける。

「待て。それはどういう意味だ」
「あの人形遣いと一緒じゃないのね、ということですわ」
「嘘をつけ。やっぱりお前は気付いていたんだな。この前のはわざとか」

 魔理沙は紫に詰め寄りながら、霊夢の記憶を取り戻すために集まった、あの日のことを思い出した。
 よくよく考えてみれば、この妖怪があんなふざけた対応だけで、霊夢から去っていったことに対して、違和感を覚えるべきであった。
 そして今の発言。今日は一人。それは、紅白の陰陽玉を連れていない、という意味に他ならない。
 霊夢の中に別の魂が入っており、当人が陰陽玉に封じられていることなどお見通しだったのだろう。いや、むしろ彼女こそが、今回の異変の元凶だという可能性の方が高い。

「一体何を企んでいる。霊夢をあのままにしておく気か。あの魂の正体は何なんだ」

 頭のどこかにずっと引っかかっていた疑問を、魔理沙は矢継ぎ早に問う。
 だが、相手はまともに答えてくれるような、正直妖怪ではなかった。

「……全ては順調。このままいけばね。しばらく黙って見ていなさい」

 彼女は胡散臭い笑みを浮かべたまま、スキマの奥へと消えていく。
 だが、裂けた空間が閉じる前に、不気味な誘いが聞こえた。

(そうそう、次のお祭りは、二人で見に来るといいわ。何が起こるかは、私にも分からないけど。きっと面白いわよ。じゃあね)










(紫が?)
「ああ、何だか知らんが、次の祭りを見に来いだとさ。お前と二人で」

 茸狩りを中断して、家に戻った魔理沙は、真っ先に霊夢に事の次第を話した。

「一番怪しい奴を忘れていたぜ。きっとお前がその格好になったのも、あいつの仕業だ」

 意識せずとも、不機嫌な声になる。
 霊夢を陰陽玉に閉じこめてしまった義憤……もあるが、それよりはこんな頓珍漢な日常を押しつけられたことに対する腹立たしさがあった。
 しかし、陰陽玉の少女の方は、意見が異なるらしい。

(ふ〜ん、本当に紫の仕業だったのかしら)
「そうなのかしらって……他に考えがあるのか?」
(無いけどさ、なんていうか、当たってるような当たってないような、微妙な感じがするのよね……)
「その格好でも、巫女の勘って働くもんなのか」
(さぁ、あんたの茸狩りがろくな結果にならないとは思ったけど、でもお腹も壊さずに帰ってきたしね)

 魔理沙はふくれっ面になった。どいつもこいつも失礼な奴ばかりである。

「で、どうする。私は見に行くつもりはなかったけど、何が起こるか分からんとくれば穏やかじゃないぜ」
(そうね。あいつの言うとおりに行動するのも、あんまり気が進まないけど……私の知らないところで、勝手に何かされるのはもっと気に食わないわね)
「ふむ」

 その点だけは、意見が一致していた。
 君子危うきに近寄らず。しかし幻想郷の住人は、危うきを乗りこなしてこそだ。
 魔理沙はソファーに座りこみながら、機嫌を直して誘う。

「じゃあ一緒に行こうぜ。元々はお前がやるはずの儀式だったんだからな。やっぱり、ちゃんと見届けるのが義務だと思うぜ」
(わかってるわよ。またその帽子の中でよろしくね)
「なっ!? あれはもう嫌だ! まだ瘤が治ってないんだぞ! 茸を詰める袋で我慢しろ!」
(ふざけんじゃないわよ! この体にまで茸が生えてきそうだわ!)

 その後、どうやって里まで行くかで、長く不毛な議論が続いた。









 鼻腔をくすぐる食べ物の匂い、耳を叩く人の騒ぎ、そして夏の夕空を曇らせるほどの熱気。
 お祭りで賑わう人間の里の中心街を、魔理沙は箒を片手に、いつもの魔法使いスタイルで歩いていた。

「お、おめでとう! 三等賞だ! さぁいらっしゃい! 特賞がまだ残ってる! 一回百円! やってみないかい!」
「はい、ありがとうございます! あ、そこのお嬢さん、綿飴はどうですか? リンゴ飴もありますよ!」
「押さないで、通りの邪魔にならないように列を作ってください! あ、お釣り忘れてますよ!」

 実家を飛び出した後も、たまに人里に寄ることはあるが、祭りに参加するのは久しぶりだった。しかし記憶の中にあるどの祭りよりも、今回の規模は大きかった。
 どこを歩いても人混みが目に付き、左右にずらりと並んだ多色の屋台が映る。里の通り全部を使ってるんじゃないか、と疑ってしまう程の景気の良さである。
 いくら博麗神社の宴会が賑やかだといっても、比べものにならない喧噪だった。六十年周期の祭りという売り文句は、伊達じゃないらしい。
  
「何か食べたいもんあるか? 買ってやるぜ」
(ここじゃ食べられないでしょ。後でいいわよ)

 クレープの屋台で足を止め、独り言を呟くと、頭の上から念話が返ってくる。
 霊夢は結局、帽子に隠れることとなった。ただし長い交渉のすえ、暴力を振るわないという宣誓を取り付けてある。
 魔理沙の方もうっかり実家の連中に見つかるわけにはいかないので、適度に屋台の味を楽しみつつ、自然と祭りの様子に目を配っていた。
 当然ながら人間が多い。浴衣姿の老若男女。他に、頭を上げれば、飛んでいる妖怪や妖精の姿もちらほら。中には出店で遊ぶ存在も……。
 
「ええ!? 今当たりましたよ! 当たりましたよね!?」
「………………」

 魔理沙は人混みの中にその姿を見つけて、眉間に皺が寄るのを覚えた。

「絶対当たりましたって! 裏で止めてるでしょ、おじさん! 見せてください!」
「だから、かすっただけだってお嬢さん。惜しいけど、倒さないと認められないよ」
「じゃあもう一回です! 五発用意してください!」
「はいよ。もうちょっと下を狙うといいよ」
「くっ、今度こそ……」

 射的場で尋常ならざるやる気を見せている少女に、そっと近づき、「わっ!」と背後から脅かしてやる。

「きゃあ!?」
「どわぁ、何すんだ!」

 こちらに空気銃を向けてきた早苗に、魔理沙は尻餅をつきそうになった。

「な、何だ。魔理沙さんですか。脅かさないでくださいよ」
「こっちの台詞だ! 後からちょっと声をかけただけで銃を向けるのかお前は!」
「……不用意にプロの風祝の後ろに立つと、こういうことになるんです。覚えておいてくださいね」
「恐れ入ったぜ……」

 帽子が脱げないように押さえながら、何とかそれだけ感想を述べる。
 空気銃を構えた早苗は、カミソリの刃のごとき鋭い目付きになっていたが、やがて眉から緊張を解き、
 
「魔理沙さんもやってみます? 私、あのぬいぐるみが欲しいんです。右から二つめにある白蛇の、狙ってくださいよ」
「それより、お前こんなところで遊んでいていいのか。守矢神社の仕事はどうした仕事は」
「さっきまでちゃんと働いてましたよ。今は休憩時間なんです。これからまた出番がありますけど、その間だけどうしても遊びたがる方がいらっしゃいまして」
「早苗ー」

 二人は同時に、声のした方を向いた。
 通りの向こうから人の間を縫って、大きな蛙のぬいぐるみが跳ねてくる。

「ほら、これあげるわ。さっき向こうで欲しがってたでしょ」
「えっ、ありがとうございます諏訪子様」

 早苗はそのぬいぐるみを抱きしめ、持ち運んできた存在に礼を言った。
 
「神様もお祭りに参加してるのか」
「当たり前よ。お祭りの主役は、いつだって子供と神様だからね」

 守矢神社に祀られる一柱、洩矢諏訪子は、魔理沙に向かってえっへんと得意げに胸を張った。
 目玉のついたコミカルな帽子、袖の大きな上着も紫色のスカートも含めて、ぱっと見変わった趣味のお子様にしか見えない。
 だが、天真爛漫に遊ぶ彼女は、人間中心の祭りの雰囲気にも、よく溶けこんでいた。早苗が祀る神様だけはある、とも思う。 
 諏訪子は片手を上げて、

「じゃあ、私はそろそろ神奈子の所に行ってくるから。早苗も時間に遅れちゃだめよ。魔理沙、後はよろしく」
「待て待て。こいつのお守りを引き受けるつもりはないぜ」
「ここの住人だったんでしょ。案内してあげてよ。あ……それと、今日の帽子はカッコいいね。ちょっとずれてるから気をつけなさい」

 そう言い残して、ぴょんぴょん跳ねながら、神様は人混みの中に消えていった。
 早苗はこちらの帽子を見て、首をかしげる。

「……いつもと変わりませんよね、それ」
「気にするな。霊夢の儀式はいつ始まるんだ。お前も何かするんだろ?」
「あ、はい。時間になったら、狼煙が上がる予定になってます。それまで、アリスさんの人形劇見てきません?」
「アリス?」

 意外な名前が出てきて、魔理沙は聞き返した。

「そうか、あいつも来てたんだな。何か祭りの打ち合わせがどうだとか言ってたっけ」
「ええ、今度の儀式に使う人形も、アリスさんが作ったんですよ」
「儀式に人形を使うのか。何か怪しげな臭いがするぜ」
「そんなことないですって。それより霊夢さん、魔理沙さんが来てることを知ったら喜びますよ。ちゃんと最後まで見て行ってくださいね」

 早苗に手を引かれながら、二人はさらに里の中心へと向かうことになった。




 里の中心部の往来は、さらに人で混雑し、出し物の数も豊富であった。
 妖怪まで奇抜な屋台を出しているため、名前や外観だけではよく分からない物も多い。
 そんな中、早苗に案内されて、魔理沙は目当ての芝居小屋へとたどりついた。
 中に足を踏み入れると、すぐにアリスが見つかる。紙芝居の要領で、簡単な背景が用意されており、アリスはその横で人形を操りながら、語りと台詞役を一人で行っていた。

 ――お嬢さん、どうしてここで泣いてるの。
 ――雨がちっとも止まないの。ここで止むまで待ってるの。
 ――なら、私の背中に乗りなさい。ところで貴方は食べてもいい人間?
 ――いいえ、違うわ。貴方こそ、食べてもいい妖怪?

 劇はすでに始まっており、小さなお客さん達は、人形の精巧な動きに注目して、時々おかしそうに笑い声をたてる。
 どんな物語かは分からないが、魔理沙にとっては、人間の子供達相手でも楽しそうな笑顔で接するアリスの姿だけで、すでに出し物を見ている気分であった。
 もっとも、彼女の笑顔は魔理沙と早苗を見た途端、半壊することになったのだが。

「アリスさーん……」

 あろう事か、隣の風祝が小声で、パフォーマーに向かって手を振ったのだ。いつもなら距離を置いている所だが、魔理沙も面白かったので「アリスさーん」と手を振ってやった。
 人形遣いは、二人を無視して、劇を進行させるべく、口を開く。

 ――だってこんな雨だもの。人も妖怪も、仲良くしなくちゃ。
 ――いいや駄目。人間信用できません。雨が止んでも許さない。
 ――どうしてそんなに、人を嫌うの?
 ――ずるいから。世の中には、飴を買いもせずに、後ろで見て騒ぐ悪い人もいるんだから。
 ――あら、それは私じゃないわ。きっとみんなの後ろにいるんじゃないかしら。

 そこで子供の人形が、芝居小屋の入り口の方を向いた。
 アドリブに、どっと笑いが起こり、魔理沙と早苗は視線を集めて、赤面することになった。




「やれやれ、こいつのおかげで恥ずかしい思いをしたぜ」
「ま、魔理沙さんだって、手を振ったじゃないですか」
「一番恥ずかしかったのは私よ。全くあんた達は……」

 人形劇を終わりまで見て、魔理沙達はアリスと合流し、屋台巡りをしていた。
 食べ物だけじゃなく、金魚すくいに輪投げにくじ引き。普段からクールを装う人形遣いも、なんと紙相撲大会にいきなり参加して優勝するあたり、満喫しているようだった。
 空いた長椅子に座って、並んで違う味のかき氷を食べていたところで、早苗が遠くに上がった狼煙を見て、

「あ、もう時間ですね。皆さんとはここでお別れです。あ、場所わかります?」
「聞いてないぜ」
「じゃあアリスさん、魔理沙さんを案内してあげてください」
「私も人形のチェックをしに行かなきゃいけないもの。あんたは一人で行きなさい魔理沙」
「どいつもこいつも冷たいやつらだな、かき氷のせいか?」
(場所なら私がわかるわよ)
「うわっ!!」

 いきなり念話がして、魔理沙は大きな声を上げた。
 アリスと早苗が、何事かと目を見開く。
 
「あ、いや、何でもない。今ちょうど思い出した。案内はいらないぜ。じゃあ後でな」

 ぎくしゃくとした動きで、魔理沙は椅子から立ち上がって、二人と別れた。
 人混みから離れて、屋台の裏地へと移動し、文句を言う。

「驚かせるなよ。さっきから声がしてなかったから、寝てるかと思ったぜ」
(実は寝てたのよね。あんたの帽子の中で、人形劇を見てると、うとうとしちゃって)
「私の帽子はコテージじゃないぜ。それより、場所を知ってるなら、さっさと案内してくれ。それが今日の眼目だからな」
(はい、こっち)

 帽子に導かれるままに、魔理沙は里を歩き始めた。 









 儀式が行われるのは、里の外れ、霧の湖へと通じる道の辺りであった。ちょうど高台になっている場所で、そのてっぺんには、祭壇が設けてある。どうやらそこが、その儀式とやらの中心となるようだ。

「人形を使うんだってな。呪いの儀式の間違いじゃないのか?アリスが用意するんだから、きっと藁人形に違いないぜ」
(さあ、知らないわよ。詳しい手順とか祭りの由緒とか、そういうの調べる前にこんなことになっちゃったし)
「いい気味だな……痛。こらっ、約束は守れ」

 ぶつぶつと傍から見れば危ない独り漫才を繰り広げつつ、魔理沙はようやく目的地へと到着した。すでに、祭壇の周りには見物の群衆が取り巻くように集まっている。おおかたが魔理沙と同じく物珍しさからの見物人だろう。
 どうせなら最前列で見物してやろう、と魔理沙は人ごみを掻き分けて進むことにした。それほど大混雑しているわけでもないが、人ごみの中を進むのはやはり至難の技である。けれどもそこは小柄でしなやかな体躯を持つ少女、時に足を踏まれ時にスカートをひっかけては、どうにか前進を続けていく。
 そんなときである。居並ぶたくさんの頭の中に、一つだけ目立つ妙な冠が突き出ているのを魔理沙は見つけた。お弁当箱の包みのような、四角い屋根付きの形。
 わしわしとさらに進み、その傍へ寄ってみる。

「お、やっぱり」

 振り向いた珍妙な冠頭の人物は、はたして上白沢慧音その人であった。
 永夜の異変で知り合って以来となるが、その特徴的な風貌は一度見れば忘れるものではない。そうでなくとも、異変で出会った連中は宴会などで会う機会も多く忘れてしまうことはまれなのだが。
 いっぽう慧音のほうでも魔理沙の姿を見止めると、穏やかに口元をほころばせた。

「久しぶりだな、慧音」
「おや魔理沙か。こんな所で会うとは、よく私だと分かったな」
「その頭なら遠くからでも分かるぜ。ひょっとしてお前の帽子の中にも誰か入ってるのか?……ってあでででで」
「ど、どうした?」
「いや何でもない。ちょっと頭痛がしただけだぜ。忘れてくれ」
「そうか、それならいいが……」

 もちろん、帽子の中の猛獣が乙女の柔肌をいたぶっていたのである。
 涙目の魔理沙に慧音はいぶかしんでいたが、突然起こった周囲のどよめきが、二人の注意をいっぺんにさらった。
 視線を前方へ転じると、祭壇のすぐ下に一人、少女が佇んでいる。

「あれが……」

 思わず魔理沙は息をのんだ。
 そこにいたのは、外見まで彼女の知っている姿からかけ離れた霊夢だったからだ。

 いつも身につけているお洒落だか奇妙だかよく分からない脇巫女服が今は紅白の眩しい正装へと変わり、化粧した肌は白く、鮮やかにさす口紅の朱が美しく映える。整えられた黒髪はみずみずしくまさに濡れ羽色、伏し目がちな表情は奇妙に無表情で、一歩一歩しずしずと歩む所作の端々に清楚な雰囲気が満ち満ちている。

 まさに巫女、としか形容できない姿であった。
 シャッター音が続けざまに二三、天狗も上空からこの霊妙なかんなぎの姿をフィルムに収めんとしている。

(こら、なに見とれてるのよ!)
「いででっ……」

 すっかり当初の誓約も忘れた陰陽玉が、ごつごつ帽子の中でバウンドする。
 たちまち魔理沙は現実に引き戻された。すなわち、あの見目麗しい肉体の持主は、いま自分の頭の上を跳ねまわっている凶暴な生物(らしきなにか)なのだ。認めがたいが。
 もし、霊夢がもとのまま儀式に臨んだとして、果たして自分は今のように感動できたのか……さすがにそこまで言ってはあとが怖い。
 魔理沙はひとまず、慧音に話しかけて緊急避難することにした。下手に暴れて見つかったとして、困るのは霊夢なのである。

「なあ慧音、この儀式のいわれを詳しく教えてくれないか?こうも仰々しい用意までして、普通の祭りで行うようなものじゃなさそうだぜ」

 いきなりの問いだったためか、魔理沙には一瞬、慧音が戸惑ったように見えた。
 しかしすぐ咳払いをひとつして、彼女はものを教える教師の顔になる。

「霊夢から聞いていなかったのか?まあ、あんな騒ぎがあった後だ、こうして祭りを行えているのがそもそも奇跡みたいなものだが……」
「まあな。人里でやるからには、やっぱり人里に関係があるんだろ?」
「うむ。しかし、ことは人里だけに留まるものではないんだ。これは、幻想郷を鎮める祭りなのだから」
「幻想郷を鎮める、ねえ」

 人々の視線が集中するなか、紅白の巫女はゆっくりと祭壇の階段を上ってゆく。その手には神楽鈴が握られ、しゃなり、しゃなりと時折音を響かせている。

「もうずいぶんと昔の話だ。この地に博麗大結界の設けられるよりもずっと昔。この地は一度、崩壊の危機に瀕した経験を持つ」
「おおまかな話は聞いてるぜ。あまりぞっとしない話だな」
「歴史的事実だからしかたあるまい。史書を紐解きその言葉を借りるなら、暗雲立ち込め日輪の隠れること百有余日、山野の草木は枯れ、川の水は濁り、大変な騒ぎだった。このままでは土地もろとも崩壊してしまう……そんなときに立ちあがったのが、」
「博麗の巫女だった、てな。それで、異変の犯人をとっちめたってわけだ」
「いや、そうではない」

 巫女が、祭壇の上へ。いよいよ儀式の本筋が始まろうとしている。
 ふたりとも視線は祭壇に注ぎながらも、慧音は説明を続け、魔理沙は耳を傾けた。そして恐らく、帽子の中の霊夢も。

「妖怪もまた、被害者だったのだ。その多くは幻と実体の境界を超えてやってきた者たちだ。彼らがどうして安住の地を破壊しようとする?幻想郷の崩壊は、彼らにも止めようがなかったのだ」
「そんな異変が本当にあったってのか?信じられん話だなあ。お前も見たんだろ?」
「まあ、な。ともかく望みは博麗の巫女だけとなり、当時の巫女は、それを見事治めた。以来、幻想郷を鎮める祭りの重要な核として、この儀式が執り行われているのだ。六十年に一度だけ」
「なんだかしっくりこない話だな。大皿まで用意して、水を張って……あの道具は一体なんだってんだ」

 祭壇の真下には、並々と水を張った水桶のようなものが据え付けられていた。早苗の行っていた守矢神社の用意したものとは、恐らくその水桶のことなのだろう。
 となれば、アリスの用意した人形はどこにあるのだろうか。まだそれらしきものは、巫女の手にもなかった。

「それは……おや、儀式の始まりだ」

 魔理沙の疑問をよそに、慧音が呟く。第二のどよめきが起こった。

 祭壇の上で祝詞が唱えられ始めたのだろう。すると、それに合わせるかのように、辺りの空気が一斉に緊張する。霊力、魔力、妖力……周囲の力全てが祝詞の調子に合わせて祭壇へと集中してゆくのだ。
 加えて、祭壇下に控えた一団が雅楽を奏し始め、いよいよ場を荘厳かつ異様な雰囲気に包まれた。魔力感覚のない見物人にまでそれとはっきり分かるほど、祭壇へ力が収束していく。

「あれは……」
「うむ、ここで、カタシロの登場だ」

 一人、霊夢ほどではないが正装して身を清く飾った少女が現れた。少女はそのまま、捧げ持つようにして人形を祭壇下へ運ぶ。
 風になびく髪が鮮やかな緑色をしている所をみると、どうもその少女は早苗らしかった。

「なんだかアリスの用意した人形にしちゃあ、デザインが地味だな」

 とっさに、そんな一言が零れた。
 確かに人形は、アリスが肝いりで制作したと言うわりには遠目にもそうと分かるほど、地味な姿だったのだ。
 衣装は真っ白の和服だろうか、これと言ったアクセントもなく、無垢な印象しかない。はっきりとは分からないが、顔の創りもあまり丁寧でないらしく、のっぺらぼうのようにすら見える。
 髪の色も真っ黒で、全体の色が白黒二色でしかないのだ。

「なに、見た目はさほど重要ではないさ。あれにはカタシロとしての役割を果たし得るだけの魔力が施されている。まったく、人形遣いはいい仕事をしてくれる」
「そんなものかなあ……」

 魔理沙の気のない返事とは裏腹に、いよいよ儀式は佳境へ差しかかる。
 祭壇の上の巫女が、お祓い棒のように神楽鈴を祝詞と共に一閃させると、人形は早苗の手を離れ、ふわり浮かび上がった。収束していく力を一身に受けて、人形は巫女の待つ祭壇へとゆらゆら昇ってゆくのだ。

「あとはあれを『ミタテ』の水桶へ投げ入れ、封じる。それで幻想郷の鎮めは完了だ」
「なんだって?みた……」

 しかし、その疑問を最後まで口にする前に、魔理沙は中断して、祭壇を見上げた。

 妙な音がしたのだ。

 下で続いている雅楽の音色ではない。巫女が振った神楽鈴の音かもしれない。だが今の音は、それまで鳴らしていた澄んだ音とは異質な物だった。
 小さな陶器が割れた音に、水たまりをかき回した音。その二つが混ざった、少々場の雰囲気とは合わない、耳に引っかかる音だった。
 異常はそれだけじゃなかった。
 巫女の動きが止まっていた。人形を空中に浮かせたまま、神楽鈴を手に構えたまま、立ち木のように固まってしまっている。

「どうした? 投げ入れるんじゃないのか?」
「うむ……そのはずなのだが」

 魔理沙の疑問に、慧音は気遣わしげに答えた。
 雅楽の音調が、段々と弱まっていき、かわりに人のざわめきが大きくなっていく。

 そして、ついに異変は起こった。

「ああっ!」

 悲鳴が起こった。
 カタシロの人形を手にして、投げ入れるばかりだった巫女が、突如はらりと崩れ落ちたのだ。
 人形は風に飛ばされ、水桶から離れた群衆の元に落下した。ケガレを恐れた人垣が、おののき、左右に割れた。

 「何事だ!」と、慧音が混雑の前へと出る。
 だが魔理沙は動かず、祭壇でうずくまる巫女を凝視していた。
 様子がおかしい。普通の人間には見えないだろうが、巫女の周囲に集まっていた霊力が、奇妙な形に変わっているのだ。
 霧から渦へ、秩序から混沌へ。濁った色の霊気が、死にかけの蛇のように動き、時折口を縦に広げた人の顔となって浮き出す。
 魔理沙は胸騒ぎから逃れるように、低い声で言った。

「霊夢……何かあれ、気味が悪くないか?」
(…………)

 陰陽玉の返答は無かったが、彼女も緊張しているのがわかった。
 やはりあれは異常だ。奇怪な抽象画を宙に描きながら、倒れた巫女を中心に膨らみ続け、頭上の空間をキィキィと鳴らして、広場の空を巡り始める。
 早苗にも見えているらしい。祭壇を挟んで反対側にいた彼女は、揺れ動く見物客の流れの中、青い顔で空中を見上げていた。
 他の人間は、これも儀式なのか、それとも何か不都合が起こったのか分からぬらしく、中途半端な足並みとなっていた。

 やがて魔理沙の視界で、行き場を探すように、ぐるりと場を彷徨った霊力は――

 ――水桶へと飛び込んだ。
 跳ねた水は、常人にも見ることができた。誰も近づいていないのに、ばしゃり、ばしゃりと、見えない何かが、桶の中で獲物を喰らっているようで、そんな薄気味悪い光景が、現実として起こっている。
 突然荒れ出した水桶に、人垣はおののき下がる一方だった。動かずにいたのは、呆然とする早苗、水から人を守るために立ちはだかる慧音、そして、水を睨みつけたまま、警戒する魔理沙だけだった。


(……来る)


 霊夢の囁きが、背中を通り抜けた。

 途端。


「サァアアアアアア!!」

 桶の中の水が、けたたましく「吠え」ながら、いくつも伸び上がった。
 半透明の花の形で、見上げるほど高くそびえ立った水の塔は、ついで大桶から抜けだし、里の八方へと飛んでいった。
 そのうちの一つが、空中でうねりながら反転し、加速しながらこちらに戻ってくる。
 再び俄雨を思わせる咆哮を上げて、勢いそのままに、地面に置かれた水桶を大地ごとえぐり取った。

 広場は大混乱に陥り、人間達は一斉に逃げ出した。
 地面でのたくっていた水の蛇は、次に人の群れへと狙いを定め、鉄砲水のように飛びかかる。
 里の守護者が、瞬時に回り込み、発動させた結界で、それを防いだ。
 砕けた水はまた天へと昇って合流し、今度は里の中心部、祭りの広場の方へと飛んでいく。
 間を置かず、その方角から、悲鳴が聞こえてきた。
 あまりの展開に度肝を抜かれていた魔理沙は、罵声を上げて箒にまたがり、

「何だありゃ一体! 紫が言ってた面白いことっていうのは、これのことか!?」
(ちっとも面白くないわよ!)

 帽子の中の陰陽玉も喚き返す。
 魔理沙は消えた水蛇の行方を追わず、祭壇の方へと飛んだ。
 そこではいまだに、意識を無くしたまま動かない巫女の姿があった。
 倒れ伏す巫女の肩に触れる。

「れ……霊夢! しっかりしろ、こら!」

 だがその体温に、魔理沙は揺さぶる手を引っ込めかけた。
 ぞっとするほど冷たく、震えていたのだ。今は夏の夜だというのに、冬山で過ごしていたくらい。
 どうするべきか考えてるうちに、新たにこちらまで飛んできたのは早苗だった。

「霊夢さん! 魔理沙さん、霊夢さんは!?」
「わからん! 一応聞くが、これは儀式の予定に入ってないんだな!?」
「全然聞いてません! それより、お祭りの出店の方でも水が暴れて、大変なことになってるそうです! あの飛んでいったのだけじゃなくて、使っている水が全部!」
「なんだと!?」

 がくん、と祭壇が揺れ、魔理沙はバランスを崩した。
 見れば、霊力を喰らった水が、再び襲ってきていた。三人を包囲するように、高台でとぐろを巻き、こちらに向けてあぎとを開く。

「悪霊退散!」

 魔理沙が対応する前に、早苗の神通力が効果を発揮した。
 御利益の光を受けて、水の大蛇は力を失い、ただの流水と化して、大地に落ちていった。
 だが、安心するのはまだ早かった。衝撃に耐えきれなかった祭壇が傾き、そのまま横に倒れていく。

「おわわ!」

 魔理沙は早苗と共に巫女の体を担ぎ、手放しで箒にまたがる。
 間一髪、下敷きになる前に、倒れ込む祭壇から離れた。
 巻き上がる土煙に、魔理沙は顔を腕で覆い、気絶した巫女を体でかばって、

「危なかったぜ。とにかく、こいつを安全な所に連れてくぞ。あの水の化け物はその後だ。残らず退治してやる」
「はい、行きましょう!」

 だが、飛ぼうとしたしその時、頭の中で念話が響いた。

(違うわ魔理沙! その鈴を持って、それから……井戸を見つけて!)
 ――なに!?
(早く!)

 魔理沙は逡巡したが、結局その声に従うことにした。

「早苗、やっぱり霊夢を頼む。あっちに慧音がいるから、指示をあおげ」
「え!? 魔理沙さんはどうするんですか!」
「巫女のお導きがあったんでな。こっちはこっちで何とかする。すまん!」

 早口で適当な理由を告げて、魔理沙は地面の神楽鈴を拾い上げ、箒に乗って飛び上がった。

「うひゃあ……」

 里の様子を上から一望して、思わずそんな声が漏れる。
 祭りはかなりの騒動となっていた。屋台が突如、噴水で吹き飛ばされ、飛んで逃げていた妖怪が、空中の水流に叩き落とされたりしている。
 普段里で妖怪が暴れることが無いだけに――それも今騒ぎを起こしているのが、元はただの水なだけに――得体の知れない恐怖を含んだ光景だった。
 
 魔理沙は混乱の中心部を避けて、民家街へと箒を向ける。
 里の住人は地下水を利用しており、彼らの住居を目指せば、すぐに共用の井戸が見つかることを知っていたのだ。
 適当な長屋の裏へと箒を滑らせ、飛び降りるなり、神楽鈴を片手に、目当ての場所に向かった。
 中を覗くと、早苗の言った通り、ここも水が落ち着きなく氾濫している。
 顔を引っ込めて、頭の上の存在に聞く。

「で、何をするつもりなんだ」
(ここの井戸をさっきの水桶の代わりにして、儀式の暴走を止めるのよ)
「そうか、早苗達が用意したのはぶっ壊されちまったからな。けどできるのか?」
(うろ覚えだけど、何とか鎮めてみせるわ。今から指示するように動いて)
「……ちょっと待った!?」

 嫌な予感がした。魔理沙は自分が手にした鈴を見て、顔を引きつらせる。

「まさか、私がやるのか! 冗談だろ!? 巫女なんてやったことないぜ!」
(つべこべ言わずにさっさと動きなさい! 細かい制御は私がやるから!)
「というか、元はと言えばお前が……!」
(わかってるわよ! でもここであの体に戻ろうとしたって、どうなるかわかんないわ!)
「だからって、何で私なんだ!」
(今この状況で、あんたしか頼りにできるのいないんだから仕方ないでしょ!)

 魔理沙は言い返そうとしたが、ぐっと踏みとどまった。
 確かに嫌がっている場合ではない。霊夢も冗談ではなく、この事態に対して本気になっているのだ。
 とりあえず、普通の魔法使いの通り名は一時返上し、魔理沙は覚悟を決めた。

「……よし、わかったぜ! さっさと指示してくれ!」
(えーとまず神楽鈴を手に持って、強く念じるの。思念の集中はわかるわね)
「当たり前だ、魔法の基本だぜ!」

 お望み通り、魔理沙はいつも魔法を使う時の要領で、思念を集中させた。
 だがすぐに、帽子の中からだめ出しが入った。

(全然足りてないわよ! もっと真面目に念じなさい!)
「お、大真面目でやってるぜ!」
(もっと強く! 集中して! 祝詞を教えるから、復唱して! 高天原に坐し坐して天と地に御働きを現し給う……)
「た、たかあまはらにましましたてんとちにむにゃむにゃむにゃ……!」

 何のことだか分からず、魔理沙は井戸に向かって闇雲に祈祷する。
 だが全く効力が働いているようには思えなかった。
 業を煮やした陰陽玉が、頭の中で怒鳴る。

(ああもう! この際祝詞も好きに改造していいわ! 気合いでやりなさい!)
「えーと、えーと……!」

 反射的に思い浮かんだのは、慣れ親しんだスペルだった。

「……マスタースパーク!」

 魔理沙は大きく両手を振るって、息を吐く。
 頭上で帽子が飛びそうになるほどの大風が起こり、鈴の音がダイナミックに鳴り響いた。
 霊夢が感心したように言ってくる。

(やればできるじゃない! けど、もっといい呪文思いつかなかったの?)
「悪かったな! でもこれでいいんだろ!」
(ええ! いい調子よ! もっともっと念じて振って!)
「だああああ!! マスタースパークマスタースパークマスタースパーク!!」

 半ばやけくそで喚きながら、魔理沙は神楽鈴を鳴らした。
 激しい音に合わせて、念が周囲に伝播し、ついに井戸の底まで届く。
 そこで、霊夢が儀式の構築に入った。

 ――うひっ!?

 魔理沙は鈴を手から落としそうになる。なんか、「心」がくすぐったい。
 霊夢の念が、魔理沙の念に入り込み、複雑に書き換え始めているのだ。
 一切無駄がなく、水も漏らさぬ丁寧な構成が組み上げられていく。
 敏感になった髪の毛を、霊夢の心の指で梳かれ、結われるような、未体験の刺激……。

(余計なこと考えないで、鈴を振ってなさい)
「ぐっ!? この! 勝手に人の念を読むな!」

 煩悩を払う修行僧になった気分で、魔理沙は祝詞「マスタースパーク」唱え、鈴を振りまくり、念を頑張って生み出した。
 するとじきに、広がっていた感覚の中で、荒れ狂う水の存在を意識する。そして、それよりも何かもっと大きな存在が、魔理沙と同調し始めた。

 ――なんだ?

 心のざわめきが、すっと落ち着き、幻の中に入り込んでいた。

 不思議な感覚だった。霊夢の思念に手を引かれ、見えないけど、とてつもなく大きい何かに、恐る恐る挨拶させられる。
 気を抜いていると、何だか広大な川の流れに、体が溶けていくようで、眠ってしまいそうになる。
 その度に、遠くから聞こえてくる鈴の音が、自分を元の身体に引き戻していた。

(魔理沙、起きていいわよ)

 唐突に、現実が舞い戻ってきた。鈴を手にしたまま、いつの間にか長屋の庭に、座りこんでいた。
 轟々と鳴っていた井戸の水が、だんだん静まっていくのが聞こえた。
 念話を通して、陰陽玉が安堵の息をつく。

「何をしたんだお前は」
(この里の下にいる、水神様の力を借りたのよ。即興だったけど、上手くいったわね)
「そいつはよかった。明日から私も、巫女を始められるかな?」
(調子に乗るんじゃないの。でもよくやってくれたわ)
「もっときちんと礼を言うべきだぜ。ま、元の姿に戻った時まで、ツケにしておいてやる」

 なんだかんだ言って、二人で異変を解決できたわけだし、滅多にない体験ができたことだし。
 スカートの土を払って、魔理沙は鈴を拾い上げ、まだ人の声で騒がしい里を見渡した。

「……と、そうだ。お前の体の持ち主はどうなった」









 祭りは準備が一番楽しく、片づけはちょっぴり寂しいという。
 だが、予期せぬ事態で取り止めになった時、片づけの寂しさは、胸のうちを重くする悲しさを引き連れてくる。
 悲観的な空気ばかりともいえない。たまにすれ違う妖怪の中には、ずいぶん楽しいイベントだったと、話している奴もいた。
 しかし多くの人間達にとって、そうじゃないことは明白だった。
 災厄を防ぐための神事で、災厄じみた水の暴走が起こり、最悪な祭りとなってしまったのだ。
 半刻前とは別の世界が現れ、里には暗い雰囲気が沈殿していた。

(あんたの実家も被害にあってないか、見に行ったら?)
「いらんお世話だ」

 魔理沙は何食わぬ顔で言って、早苗に預けたはずの、巫女の姿を探した。
 ところが、里の診療所を覗いてみても、彼女の姿は無かった。それどころか、会う存在いずれに聞いてみても、誰も巫女の行方に心当たりがないという。
 もしやと霊夢の勘が働き、魔理沙が向かったのは里の外れの一軒家だった。
 時代を感じさせる藁葺き屋根の木造家屋で、竹林と里を繋ぐような位置に建っている。家に明かりはついていた。
 玄関に入る前にノックしようとすると、先に戸が開き、思ってもいない人物が出てきた。
 彼女は口に手を当てて驚き、

「魔理沙さんっ。すごい、今捜しに行こうと思ってたんですよ」
「じゃあやっぱり、あいつ……霊夢はここにいるのか」
「ええ。あれからまだ意識が戻らなくて……」

 早苗は儀礼の時の格好のままだった。
 だが、祭壇の側で見せていた風格はすでに無く、魔理沙の前でしょんぼりと目を伏せる。

「……本当は離れたくないんですけど、これから神奈子様と諏訪子様に、今回のことについてお話を伺いに行かなくてはならないんです。それと、里の後片付けのお手伝いにも行かなくちゃいけなくて」
「中に慧音はいるんだな?」
「はい」
「わかった。じゃあまた後でな」

 魔理沙は早苗と入れ違いに、家の中に入った。
 思えば、ここの場所は知っていても、上がり込んたことはなかった。
 里にある家の中では立派な部類に入ると思うが、妖怪の宴会に使える程広くもなく、何より質素でわびさびを感じる室内である。
 玄関から廊下を適当に歩こうとすると、途中で家主にばったり会ってしまった。

「……お邪魔します」
「言うのが遅い」

 上白沢慧音は仏頂面で、侵入の無礼を窘めてくる。
 魔理沙は両手を軽く上げて、

「まぁまぁ、こんな非常事態で、礼儀を気にしても仕方ないぜ」
「逆だ阿呆。礼儀こそが、人を平穏につなぎ止めるために存在するんだ。まぁいい。突き当たりを曲がった部屋だ。これも運んでくれ」

 慧音は魔理沙に濡れ布巾と作務衣を渡して、廊下を戻っていった。

 部屋に入ると、畳の上に布団が敷かれており、その中で、巫女は眠っていた。
 神事の際に着ていた服は、取り替えたらしい。化粧の落とされた頬には、血色が戻っており、寝息も規則正しかった。
 今はもうないあの祭壇の上で、いきなり倒れた時はどう思ったけど、どうやらこの様子を見る限り、彼女の容態に問題は無さそうである。
 だが、里の方は……。

「なぁ。あの儀式があんなことになっちまったのは、やっぱり霊夢が失敗したからなのか?」

 部屋に入ってきた存在に、魔理沙は振り向いて尋ねた。
 慧音は隣に腰を下ろしながら、小さく息をついて言った。

「私は違う説を採りたい。例えどんな手順を踏もうと、あの結果は異常だ。しかし、他に明快な原因が思い当たるわけでもない。それが問題とならなければいいんだが……」

 魔理沙も察することができた。慧音は、儀式の中心人物である、博麗の巫女に疑いが向けられる可能性を危惧しているのだ。
 関係者は他にもいるし、妖怪や妖精の悪戯という考えもあるが、あれはもっと祟りじみた、得体の知れない悪意が感じられた。
 彼女の額に手を当て、慧音は真摯かつ情味を含んだ声で、

「どうであれ、記憶を失ってから、霊夢は今日のため、ひたむきに頑張ってきた。私はその気持ちを、無下にすることはできない。例え今回のことで、里の者や妖怪がどう思おうとな」
「優しいな、先生」
「ふふ……いや、最近の霊夢を見ていると、ふと思い出してしまうんだ。昔、私によく相談をしに来てくれた、同じ格好の少女のことを」
「昔の博麗の巫女か。そういえば、巫女って昔から幻想郷にいたんだよな」
「ああ。本当に昔の話だ」
「そっか。長生きすると、色んなことがあるな、歴史の専門家さん」
「……いくら歴史を学んでも、過去は変えられない。我々にできるのは、苦い歴史を噛みしめ、新たな未来を築くために生きることだけさ」
「…………?」

 魔理沙は不審に思って聞いた。どこか引っかかる言い方だったから。

「……それ、今回のことを言ってるのか?」

 慧音は答えない。巫女を見る横顔の奥には、憂いと諦観が混ざり合っていた。

 やがて彼女は立ち上がりながら、

「私もこれから、里長や自警団達と会って、今後の相談をしなくてはいけない。彼女が目覚めない間、誰に留守を頼もうかと思ってたんだ。早苗さんが適任だと思ったのだが、彼女も忙しいということで」
「私を呼ぼうと思った、ってことか」
「その通り。霊夢と親しい人間ということで、まず思いついた。では、後はお願いする」

 簡単に引き継ぎを済ませ、慧音はすぐに玄関へと向かおうとしたが、一度こちらを向いて睨む。

「言っておくが、私は自分の家に何があるか、位置を含めて全て覚えている。お茶を勝手に飲むくらいならいいが、変な気は起こさないことだな」
「へいへい。行ってらっしゃいませ」

 魔理沙は手を水平に振って、用心深い家主を送り出した。




 慧音が出て行ってから、およそ半刻。
 かすかな呻きを耳にして、魔理沙はいじっていた八卦炉から視線を移した。
 寝ている巫女の瞼が震え、徐々に開いていく。
 
「起きたな。どっか痛い所はないか? 水が欲しかったら言ってくれ」

 布団に話しかけながら、そういえば、初めて彼女と会った時も、こんな感じだったな、と魔理沙は思った。
 霊夢の容貌を持つ少女は、こちらに顔を傾けて、口を小さく動かした。

「魔理沙……」
「おっ。今回はどうやら、覚えてくれていたようだな」

 剽軽な調子で言ってやったが、少女の眼差しはまだ虚ろで、夢を見ているような声音だった。

「……あれ……ここは……? 儀式は……まだですか……」
「……もう終わったぜ」
「終わった……私……ちゃんとできましたか?」
「…………ああ」

 他に何と言ってやることもできない。
 だが、巫女は敏感に、察したようだった。魔理沙を映す瞳が、揺れて光る。

「駄目だったんですね……」
「いや、そんなことない」
「いいんです。嘘はつかないでください」
「あいにく魔法使いは、嘘つきだからな。騙されちゃいけないぜ」

 冗談交じりに言ってやると、ようやく彼女は、うっすらと微笑んだ。
 しおらしく、布団の端から手を出してくる。
 魔理沙は一瞬躊躇ったが、その手を、そっと握ってやった。

「聞いて魔理沙……。祭壇に上がった時、よくわからなったけど、凄く怖くなったの」
「緊張していたってことか?」

 彼女は天上を見上げて、首を左右に振る。

「緊張もしてたけど、もっと違う何か……。暗闇に引き込まれて、雪の中に閉じこめられたみたいな……そして、とても恐ろしい存在を見ました……」
「………………」
「私の心に入り込んできて……もがき始めたんです。抑えようと思ったけど……手からすり抜けて、飛んで行ってしまって……」
「水に取り憑いて、祭りで暴れて滅茶苦茶にしやがった、ってわけか」

 思わず相槌を打ってしまい、魔理沙は、はっ、と失言に気付いた。
 巫女が目をまん丸にして、息を呑む。

「い、いや。暴れたと言ったって、大したことはないんだ。祭りは駄目になっちゃったけど、怪我人だってそんなにいなかったからな」

 慌てて取り繕うにも、遅かった。彼女は魔理沙の手に顔を埋めて、じきに、しくしくと泣き出した。

「魔理沙……。私……本当に……博麗の巫女でいいんでしょうか?」

 心臓が小さく跳ねた。
 その質問は、この少女の魂の存在を左右する、禁断の問いだったから。

「毎日が幸せでした。ずっとこんな時間を、待っていたような気がしてました。でも、時々、不安になるんです。本当に自分は、この役目にふさわしい存在なのかって」
「……ふさわしいも何も、お前はずっと巫女だったじゃないか」
「だって思い出せないんです、どうしても……! みんなが好きで、巫女をするのも好きなのに……! 前の私みたいに、できないんです……!」
「…………」
「今日も失敗しちゃって……そんなにひどいことになったなんて……きっとみんなに幻滅されちゃって……独りになっちゃう……」
「…………」

 消えてしまいそうになる声は、やがて小さな嗚咽に変わった。
 魔理沙は無言で、じっとその様子を見つめる。
 だがやがて、ふっ、と笑い、

「霊夢、お前にちょっとした魔法を見せてやる」

 「え?」と泣き腫らした目を瞬いて、巫女は聞き返した。

「自慢じゃないが、私は博麗の巫女と一番付き合いが長くてな。記憶を無くす前のお前のことだったら、全部分かるんだぜ。こいつを使おう」

 魔理沙は脇に置いておいた、黒いとんがり帽子を手に取った。

「この帽子をかぶると、すぐに思い出せるんだ。まるで私に、博麗の巫女が乗り移ったみたいにな。昔のお前が、今のお前にどんなアドバイスをするか、考えてやる」

 巫女がきょとんと見ほうける前で、魔法使いはかぶった帽子をさすりながら、適当に呪文を唱え始めた。

「ますたすぱぁく、ますたぁすぱぁく……ふむふむ、そんな気負わないで、のんびりやんなさい。なんかいきなり無責任な言葉が聞こえてきたぜ」

 いかにも芝居がかった、インチキ臭い調子である。
 ぷっ、と少女は吹き出す。

「なになに、暑くて退屈だった所に、水が暴れたんだからちょうどいいじゃない。涼しくなって感謝されるわよ……何言ってんだこいつは」
「ふふふ……」
「次は水祭りを企画してみたらどうかしら。きっともっと楽しいことになるわよね……おいおい、大事な儀式はどうなった儀式は」
「……っ、くっ……」
「あ、そうだ。今度は流しそうめんでも食べない? 冷や麦もいいわね……水繋がりだけで、よくそんな暢気なこと言えるな。慰めてやれよちゃんと」
「ふ、ふふ、あはは」

 そんなことを続けるうちに、しまいに二人は、声を上げて大笑いしていた。
 布団から起きあがっていた少女は、目元を指でぬぐい、

「……ありがとう魔理沙。何だか元気が出ました」
「どういたしまして。また魔法を見たかったら、いつでも言ってくれ」
「記憶を無くす前の私って、本当にそんな人だったんですか?」
「ああ。いっつも危機感が無くて、付き合いにこだわりがなくて、薄情なやつでな。けど、異変の時はちょっと格好良くて 弾幕ごっこも無茶苦茶に上手くて……私の目標でもあった」

 いつの間にか魔理沙は、頭に流れていた台詞ではなく、自分の選んだ言葉を、語っていた。
 少女に向けて。そして、もう一人に向けて。

「けど、博麗の巫女っつったって、幻想郷の道具じゃないんだ。ちゃんとした人間だぜ。前のお前が皆から好かれていたのも、今のお前が皆から好かれているのも、巫女だからじゃない。人徳だと思う。何度失敗しても、多少からかわれるだけで、本気で嫌われたりはしないさ。第一そんな奴は、宴会にも呼ばん」

 ぽん、と頭に手を乗せて、魔理沙は彼女を撫でてやる。

「体調が戻ったら、今度は私も、祭りを手伝うぜ。早く元気になれよ」
「……うん」

 少女は安心したように頷き、布団に横になって、目を閉じた。
 また寝息が規則正しくなってから、魔理沙は立ち上がり、部屋をそっと出て、お茶を入れに行く。

 台所へ向かう途中で、念話が届いた。

(いきなりあんなことやり出すから驚いたわ。あんたも優しいとこあるのね)
「はん、そっくりそのまま、台詞を返してやるぜ」

 頭上に潜む本物の霊夢に対して、魔理沙は調子のよい声で続ける。

「あんなにしょげてるのを見ると、なんか元気づけてやりたくなったんだよ。暗いお前の姿を見るのは、あんまし面白いもんじゃないし」
(ふーん。でも魔理沙。あんた博麗の巫女が道具じゃないとか言ったけど……)
「ああ。それがどうした?」
(今私、陰陽玉なのよ)
「…………ぷっ、あはは! そうだったそうだった!」
(何笑ってんのさ)
「いやいや怒るな。本当にお前は変わらんな、って思っただけだから」

 くくく、と低い声で笑っていた魔理沙は、やかんを火にかけつつ、真面目な顔に戻った。 

「でも、そろそろちゃんと話した方がいいぜ。いつまでもこのまんまじゃ、上手くはいかんだろうからな」
(ええ、わかってるわ。そのうちね)
「そのうちっていつだよ」
(そのうちは、そのうちよ)

 そういう彼女の口調は、やっぱり相変わらず危機感の無い、暢気な調子だった。















 祭りは確かに、失敗に終わった。けれども、魔理沙や慧音が危惧したようなことは、起こらなかった。
 もちろん、少しは悪くいう声が聞こえたものの、どちらかというと巫女に同情的な声が相次いだのだ。
 神社で普段から、今の霊夢が築き上げていた信頼が、実ったということだろう。妖怪も人間も、彼女の純真な人柄に惹かれていたから。
 祭りはもう一度行われることとなり、その日取りもまもなく決まった。魔理沙は陰陽玉の存在を隠したまま、準備の日に、久しぶりに神社まで手伝いに行くことを、元気になった今の霊夢と約束した。
 本物の博麗の巫女の太平楽が、結局正しかったということで、魔理沙は彼女に小言を述べつつも、今度来る祭りの日を楽しみにしていた。
 そんな風に、誰もが、里で起こった事件を忘れようとしていた。





 調査に乗り出していたのは、ほんの一部の妖怪と、関わった神達だけだった。





 巫女は鍵となっただけだった。扉はすでに開きかけていた。
 その奥には、幻想郷が隠し続けた、忌まわしき歴史が封印されていた。
 
 曲げた理の代償は、いつか払わなくてはならない。
 例え、引き起こした者がいなくなり、矛先が行き場を失ったとしても。




 災厄は、まだ終わっていない。

















 幻想郷の曇り空を、黒い影が横切っている。蝙蝠よりも真っ直ぐ。鴉よりも速く。
 その正体は、人間の魔法使い。霧雨魔理沙の乗る箒である。

「全く、どうなってやがるんだこの天気は。晴れるんだか降るんだかはっきりしてほしいぜ」

 とんがり帽子に片手をやりながら、魔理沙は箒の上で文句を言う。
 たまにこうした独り言が出るのだが、最近は独り言じゃなくなっていた。
 金髪を隠す帽子の中から、合いの手が入るようになったので。

(ずいぶんご機嫌ね、魔理沙)
「あー?」
(そんなに嬉しいことでもあったの?)
「なんのことだ。私は絶賛不機嫌中だぜ」
 
 陰陽玉となった博麗霊夢に、魔理沙は軽やかに返答した。
 実のところ、魔理沙が最近の天気に不満だったのは本当だったが、今日という日を楽しみにしていて、浮かれているのは正解である。
 先々週、不本意な終わり方をした祭りを、新たにやる日取りが来週に迫り、博麗神社まで手伝いに行く日が来たのだ。
 昼ご飯を食べ終えて、今から神社で待つ巫女に会いに行く所である。

「なんか、この感じ久しぶりだなー」
(いつも通ってる道でしょうが)
「そうだけど、違うぜ」

 魔理沙は風の匂いを吸い込んで、また懐かしさを覚えた。
 神社に会いたい存在がいる。霊夢が陰陽玉になる前は、魔理沙はそんな気分で、箒で空を飛んでいたのだ。
 それがある日突然、神社に近づき難くなり、その後何度か行く間も、どこか物足りない気分を味わっていた。
 なんてことはない。自分も妖怪と同じく、博麗の巫女に惹かれている一人だったということ。その巫女が変わってしまってから、神社は憩いの場じゃなくなってしまったということ。
 だが、疎ましく思っていたはずの今の巫女は、いつの間にか魔理沙にとって、面倒を見たくなる妹のような存在に変わっていた。
 だからきっと、霊夢が神社にいる時にも似た風を、また吸えるようになってきたのだ。

 当たり前だが、そんなことわざわざ上の存在に教えてやる義理はない。

「私が用意した出し物、気に入ってくれると思うぜ」

 だから魔理沙は、全然別のことを言った。
 陰陽玉は、気のない返事をしてくる。

(ああ、あのでっかい花火ね。あんたらしいというか、根は祭り好きよね魔理沙って)
「いいや、里の祭りよりも、神社の宴会の方が楽しいぜ。今度のはあいつの義理のためだ。特別の例外だ」
(意地っ張りね本当)

 霊夢が念話で、くすくすと笑う気配がした。
 
「それより、お前の方こそちゃんと考えたのか。あいつに本当のことを話すって」
(そうね。今度の祭りが終わったら、ちゃんと向き合ってみるわ。前の祭りの時は、可哀想な目に遭わせちゃったし)
「そうそう。反省するべきだぜ。……痛っ! こら! もうそれは止めろといったろう!」

 脳天に響く鈍痛に、魔理沙は顔をしかめる。
 この陰陽玉の暴力から逃れるためにも、早急に体を取り戻してもらいたいものである。
 だが、その時は、あっちの巫女の魂の方はどうしたらいいのか。陰陽玉に戻ることを受け容れてくれるか。
 普通はこんなのに入りたがらないので、アリスに仮の人形を作ってもらうとか……ちょっと怪しいか。

 色々魔理沙が考えを巡らせていると、霊夢が「あれ」と声を上げた。

(何してるのかしら、あいつら)
「ん?」

 魔理沙は箒のスピードを緩めて、下を見た。
 森の狭間で、よく知る四色の妖怪達がたむろしている。それだけなら別段珍しくない光景だが、こちらまで喚き声が聞こえてくるのが少々気になった。
 遊びの賑わいではない。仲間内で何かが起こったらしい。
 魔理沙は近くまで、箒の高度を下げていった。

「何してんだお前ら」
「あー、魔理沙ー」

 こちらに向けて無遠慮に指をさすのは氷の妖精のチルノである。
 夜雀の妖怪ミスティアが、はぁ、とため息をついて、

「私達、今日も霊夢のところに遊びに行ったの。だけど……」
「追い返されたのか。邪魔しちゃだめだぜ。あいつは今日から、大事な祭りの儀式の準備をしてるんだからな」
「いないのだー」

 宵闇の妖怪ルーミアの発言に、魔理沙は首をかしげた。

「いない? そんなはずないぜ。私は今から、あいつに会いに行く約束をしてるんだ」
「でも、本当にいないもの。だーれもいない」
「じゃあ、ちょっと出かけてるんだろう」
「違うもん。昨日からずっと探してるんだけど、見つからないのよ。今日だって手分けして探してたんだから」
「人間の里は?」

 答えたのは、蟲の妖怪リグルだった。

「私が行きました。慧音さんも知らないって言ってました」
「守矢神社」
「あたいがいったわ! カエルのボスしかいなかった!」
「紅魔館かもしれんな」
「私が行ってきたけど、門番の人も見てないだって」
「まさか無縁塚までは覗いてないだろう」
「寝ている死神さんしかいなかったよー」
「…………」

 本当にどこを探しても、見つからないらしい。
 もちろん、自らのテリトリーである魔法の森でも、魔理沙は巫女を見ていなかった。

「お前ら、何か嫌なことして、あいつに嫌われたんじゃないか?」
「し、してないわよ! ちゃんと仲良く遊んでいたもの! えーとこの前はコマ回しでー、その前は弾幕ごっこでー」
「最後にやったのは何だっけ。隠れん坊かな」

 そんな風に四人が思い出そうとする中、チルノが、ぱちん、と手を鳴らした。

「わかった! きっとまだその時の隠れん坊が続いているのよ! 私達が鬼! もっとちゃんと探すわよ!」
「後探してないのはー、迷いの竹林とかー太陽の畑とかー」
「霧の湖は探したよね」
「上から通ったけど、見つからなかったわね」

 彼女達は不安がってた先の様子などまるで無しに、こちらのことなど忘れてしまったようで、元気よく飛んでいった。
 平和ボケした気質はいかにも幻想郷の子らしいが、しかし魔理沙達にとっては、不審な話だった。

(どういうことかしら……失踪ってこと?)
「さぁな。とりあえず、神社に行ってみようぜ」

 






 子供妖怪達が言ってた通り、博麗神社はもぬけの殻だった。
 珍しく境内にも庭にも、人や妖怪の姿が無く、母屋に入って捜してみても、さっきまで誰かがいた形跡すらない。
 しばらく留守にしてるというのは、本当らしい。

「まさか、この前のことを気に病んで……」

 魔理沙は言いかけて、首を振って打ち消した。
 また祭りを成功させるために、あんなに張り切っていたのだ。彼女が逃げるはずなんかない。

「じゃあ何でいなくなったんだ。誘拐か神隠しか何かか?」
(気のせいか、どちらも容疑者候補がいっぱいいるわね)
「そうだな。まぁ、もう少し捜してみるか」

 と、もう一度、神社周辺を歩いてみて、魔理沙はあることに気付いた。

「おい、蔵が開いてないか? あれ」
(あ、本当!!)

 魔理沙が博麗神社の宝物庫を指し、陰陽玉も気付いて、念話で叫んだ。
 普段は固く閉ざされている木戸が、よく見ると薄く開いている。
 霊夢は憤慨した様子で言った。

(全く。開けっ放しにしといて、どっかに行くなんて。帰ってきたら、ちゃんと叱ってやらなくちゃね)
「陰陽玉の姿でか。いや、もしかしたら祭り道具の下敷きになって動けないのかもしれんぞ」
(……さすがにそこまで鈍くさくないでしょ、あの子も)

 げんなりした口調で言う霊夢に、魔理沙はふむ、その可能性について考えてみて、

「まぁ、念のため見てみようぜ。他に捜す場所も無さそうだし、いなくても何か手がかりが見つかるかもしれん」
(そう言って、また何か盗むつもりじゃないでしょうね)
「盗んだことなんてないぜ。陰陽玉は偶然持ってきてしまったんだ。本当は後で返すつもりで忘れてただけだ」
(あっそ。……そう言えば、この陰陽玉が入ってた箱、あんた持ってきた?)
「いや、まだ蔵にあるんじゃないか。それを見て、あいつ陰陽玉のこと、何か思い出したのかも……しれ……な……」

 頭に突如、電流が走ったような気がした。
 箒を肩から取り落とし、魔理沙は立ち止まる。

「待てよ……なんか変だぞ」

 これまで、大変な思い違いをしていたことに気付いた。
 周囲の存在は、彼女が記憶を無くした霊夢だと思い、自分もそれに話を合わせていたので、盲点となっていたのだ。

「あいつは霊夢が……つまりお前が記憶喪失になったんじゃないんだ。別の魂か何かが、入り込んでいたんだよな」
(今さら何言ってんのよ。まだ信じてなかったわけ?)
「いや、だからそれだと変だろうが。あいつは何も覚えてなかったんだ。白紙の魂が入り込んだわけじゃないんだぜ。言葉だって話せるし、物だって言えた。なのに、自分のことは覚えてない。おかしくないか?」

 記憶というのは脳に蓄積される。それは多くの文献にてそう説明されている。
 だが、かつて紅魔館から借りてきた本には、突き詰めてしまえば、脳も入れ物にすぎず、記憶とは幽霊と似た性質を持つものである、と書かれていた。
 それが本当かどうかは分からないが、陰陽玉に入り込んだ霊夢の魂を基本に考えるなら、今の巫女に記憶があったっておかしくはないはずだ。
 それなのに覚えていないということは、無色の魂だったということではなく……

 ……つまり、彼女は魂の記憶喪失にあったのだ。

「そうだ……前にさとりが言ってた。今の霊夢の心の中には、漠然とした『もや』のようなものがあるって。あれはてっきり、お前の記憶がぼやけてるんだと思ったんだけど、そうじゃなかった。あいつの魂の話だったんだ」
(………………)
「つまり、私達が何をやっても効果は無かったけど、やっぱり何かの拍子に、記憶が戻ることもあるってわけだ!」
(ちょっと!?)

 霊夢もその意味に気付いたらしく、にわかに口調が慌てだした。

(冗談じゃないわ! 今急に思い出されても、私の体で何かしでかされたら困るわよ!)
「……その発言、かなり今さらだぜ」
(だって、あの人畜無害な性格だったら、しばらく貸していても大丈夫だと思うでしょ! もし本当は変な趣味を持ってる奴だったらどうするのよ!)
「そうだな。今頃山奥で、弾幕を使ってリンボーダンスの練習してるかも……痛い! 痛い! 冗談だ! 普通に考えて、そんな奴いるはずないだろう!」

 魔理沙はたまらず、帽子を脱いで、揺れ動く陰陽玉に向けて言った。

「こうなる可能性はいつだってあったんだ。慌てたって仕方がないぜ。まぁ、記憶を取り戻したあいつが、行きそうな所なんて、どっちにしろ分からんけどな」
(……そうね。せめて彼女の魂の詳細が分かればいいんだけど。あ、そうか。箱に封印されていたんだから、箱を調べてみればいいじゃない)
「じゃあやっぱり秘密は蔵にあるな。行ってみるか」

 二人は戸が開きっ放しになった、蔵へと向かった。









 幸いというべきか、箱の下敷きになってもがいている巫女の姿は、発見せずにすんだ。
 だが、彼女の身の安全が保証されたわけではなかった。
 蔵の中は、祭りの道具がいたる所に置かれており、明らかに整理されている最中の状態で、放っておかれていたから。

「つまり、あいつはここで祭りの準備をしていて、何かの拍子で記憶が戻った可能性がある。その何かの拍子が」
(入っていた箱……かもしれないわね。さっそく捜すわよ)

 というわけで二人はさっそく、消えた巫女の手がかりを求めて、蔵の中をあさり始めた。

(綺麗な鳥の絵が描かれた桐箱よ。陰陽玉が入るくらいの。あ、そこどかしてみて。私じゃ重いから)
「へいへい。人使いが荒いことで……」
(文句言うんじゃないの。元はといえば、あんたが私をここから盗んでったんでしょうが。正当な罰と思いなさい)
「もうその分の罰は受けた気がするんだがな」

 主に、たんこぶで。と心の中でつけ加える。

「あいつが箱を見て記憶を取り戻したんなら、意外とすぐに見つかりそうなもんだが……お、これ何だ」

 魔理沙は古めかしい巻物を、床から手に取ってみた。

(ああ、それはうちの神社の系図よ。昔の巫女の名前が書いてあるの)
「へー、ちょっと見ていいか」
(今開いたって仕方ないでしょ。後にしなさい)
「ちぇっ」

 魔理沙はその巻物を、適当な箱の上に放った。
 すると、ちょうど巻物の影になっていて見えなかった、小箱を見つけた。
 開かれっぱなしの桐箱だ。しかも蓋に絵が描いてある。
 魔理沙はそれを持ち上げて、陰陽玉に見せた。

「あったぜ! これだろ!」
(そうそれ! 何か書いてないか見てみて!)

 表の絵を見て、魔理沙はう〜ん、と唸る。
 確かに綺麗な絵だった。大胆に描かれた羽ばたく白鳥は、どこか物悲しさを感じるし、月か太陽か分からない墨の丸も、風情があってよろしい。
 霊夢の美的感覚すら刺激するほどだけのことはある、と魔理沙は失敬なことを考えた。

「けど、絵の他には何も書かれてないぜ。まさか、あいつの正体は白鳥だったのか?」
(そんなわけないでしょ……)

 箱の底を覗いてみる魔法使いに、陰陽玉は呆れてため息をつく。
 だが魔理沙は含み笑いをしつつ、自説を展開する。

「飛ぶのは上手かったから、あながち間違ってないかもしれんぜ。弾幕ごっこの時だって、すいすい飛んでたからな」
(へー、弾幕ごっこもしてたのね)
「そりゃ巫女だから、やらなきゃいけないだろ。教えたのは私だぜ」

 勝敗については、語らなかった。何しろその一戦で、ずぶの素人だった相手に、不覚にも負けてしまったのである。
 霊夢の肉体を持っていたとはいえ、強力無比な強さだった。後は弾幕ごっこに臨む戦意さえ整っていれば、ひょっとすると今の霊夢をも超える存在になったかもしれない。
 だがそれは、才能こそが何をも凌駕するという現実を保証することでもある。だからこそ、あまり魔理沙にとって面白くない話だった。

「全くお前の体は無茶苦茶な能力だよな。鳥みたいに飛べる上に、本気を出せば霊力の馬鹿力だ。陰陽玉で御札をわんさかばらまいて、私の魔砲まで消して……」
(……は?)

 箱の側をうろついていた陰陽玉が、空中にぴたりと静止した。
 
(魔理沙、今なんて言ったの?)
「あー? だから、鳥みたいに飛べるし馬鹿力で厄介だって……」
(その後よ! あの子、陰陽玉を使ってたの!?)
「そりゃ当たり前だろ。博麗の巫女なんだから」
(早く言いなさいよそういうことは!)

 何を驚いているのか、霊夢の口調はかなり興奮していた。
 魔理沙にはさっぱり理由がわからない。

「陰陽玉を使うのが、そんなに不思議なことか? だってあれはお前の体だろう」
(ああ魔理沙、あんた分かってないわね! 私だって今、陰陽玉を操って動いているのよ!)
「んなもん見りゃわかるぜ」
(だから! 私は今肉体なんて持ってないの! 魂だけなのよ!)
「それがどうしたんだ」
(あーもう頭働かせなさい! 陰陽玉を動かすのは、肉体じゃなくて魂の力なの! あんたみたいに、いくら霊力や魔力があっても動かせるもんじゃないの!)

 ぽかん、と頭が割れたような気がした。
 意味をやっとのことで呑み込み、魔理沙の口調も揺れ出す。

「じゃあ……なんであいつは陰陽玉を使えたんだ?」
(決まってるわ。魂が博麗の巫女としての修行を積んでるからよ)
「……ちょ、ちょっと待て。その魂が、博麗神社の陰陽玉に封印されて、蔵に入ってたんだよな。つまりもしかして……」
(そうよ。私達の推理が正しければ……)

 二人の答えが、肉声と念話で、唱和した。

「あいつは昔の博麗の巫女!?」

 驚天動地。
 巫女は幻想郷に一人。多くても風祝という亜種つきで二人。
 しかし何よりも、博麗の巫女というのは、幻想郷で特別な意味を持った、唯一無二の存在である。
 その巫女が同時代に二人存在するなんて、お日様が二つ空に上がるようなものだ。
 幻想郷に住む人間も妖怪も、絶対に考えることのない思考の落とし穴だったのである。

 二人はさっき放り出した巻物、博麗の巫女の系図に、同時に飛びついた。

「なんでもっと早く気付かなかったんだ!」
(だって! あんたが弾幕ごっこをしてたなんて教えてくれないから!)
「えーと、うわ、結構いるぜ。全部霊がついてんのか。この中にあいつがいるんだな」
(古いのは名前が霞んでいるわね。あの箱はどれくらい古いものなのかしら)
「さぁな。香霖に鑑定してもらえばよかった。あ、ここ染みになってるぜ。手入れがなっちゃいないな」
(あんたに言われちゃおしまいよ。あーもう誰なのかしら。私が聞いたことあるご先祖様だって、そうはいないし……)
「よく捜せ! 臆病で争いが嫌いで、礼儀正しくてお人好しな巫女だぜ。心当たりないか!?」
(あるわけないでしょ! 一人も会ったことないのに、性格まで分かるわけ無いじゃない!)

 焦りと好奇心でテンションが上がった二人は、やかましく言い争いながら、巻物に目を走らせる。
 
 突然、凄まじい稲光と共に、雷鳴が外で轟いた。

 ぶるぶると震動する蔵の床で、魔理沙は腰を抜かした状態で呟く。

「……うわ。今の近くに落ちたぜ。大丈夫かな」

 心配して巫女の名捜しから一度離脱することにし、蔵の戸から顔を出した。


 そして、空を見上げたまま、硬直した。


「何だ……? この空……」

 かすれた声で、呟く。
 出かける前の空は、確かに陰鬱とした天気だったが、ただの曇り空でしかなかったはずだった。
 だが今の空は、雲行きが怪しいというレベルを、とうに超えていた。

 雲の動きが、異常に速い。しかも風に乗って流れているのではなく、膨らんだり縮んだり、渦を巻いたりして、稲妻が時々走っている。
 まるで、顕微鏡に映る菌糸の成長を倍速で見ているかのような、異常なまでに気味の悪い光景だった。
 また天人の悪戯かと思ったが、幻想郷全土に広がるその光景は、世界の終末を見るかのようで、とても規模の点で比較にならない。

 と、蔵の中、外を見る魔理沙と、中で巻物を広げる霊夢の間で、空間が妙な音を立てた。
 斜めに大きく切り開かれ、向こう側に目や手が漂う、異様な世界が現れる。
 出てきたのは、紫と白の道服に身を包んだ、金髪の妖怪だった。

「紫!」
「急ぎの事態になってきたからね。そろそろ伝えておかなきゃいけないと思って。あら霊夢。ずいぶん丸くなっちゃって」

 陰陽玉はそれを聞くなり、直角に空中を動き、スキマ妖怪に体当たりする勢いで迫って、

(いきなり出てきて何余裕ぶってんのよ、あんたは! 今すぐ知ってること全部白状しなさい!)
「あら、お祭りの準備をサボろうとして、体を貸していた誰かさんに威張られてもねぇ」
「なっ!?」

 魔理沙は信じられない思いで、陰陽玉に目を剥いた。

「霊夢本当か!? 本当にそんな理由で先延ばししてたのか!? 見損なったぜ!」
(ち、違うわよ! そうじゃなくて……! ああもう、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!)
「嘘付け誤魔化すな! 後でとっちめてやるからな!」

 魔理沙は正義の怒りを指から発揮して、たじたじとなる陰陽玉を蔵の隅に追いやった。
 そして今度は事件の元凶と思われるスキマ妖怪に、ぐい、と詰め寄る。

「そろそろ話した方がよさそうだぜ。この前は全て順調とかぬかしてたが、これもお前の予定通りか?」
「いいえ。祭りのアクシデントから、事態は悪い方に進む一方よ」
「なら事情次第で、手を貸してやる。この変な空を異変とみなしてな。だから今すぐ吐け。まずあいつは、今霊夢の体に入ってる魂は、誰だ」

 紫ははっきりと答えなかった。
 かわりに彼女は巻物を指さして、平坦な声音で述べる。

「ヒントは、その系図にある」
「それは分かってるぜ。あれは昔の博麗の巫女なんだろ。けど何で陰陽玉に封印されていて、今さら霊夢の体でうろつき回るんだ」
「彼女は、博麗の巫女ではない」
「なんだと?」

 予想を裏切る答えに、魔理沙が眉をしかめて問い直すと、

(魔理沙……)

 と、茫然とした声が聞こえてきた。
 陰陽玉が開いた系図の上で、止まっている。

(これ……染みになってるんじゃない……塗りつぶされてるんだ……)

 霊夢の口調は、力がこもっていなかった。
 魔理沙は無言で顔を戻し、再度紫に、目線で問う。
 彼女はついに、秘密を語り始めた。

「かつて、幻想郷が今より遙かに若かった頃、生まれつき強い霊力を持った、一人の少女がいたの。名前は『紗霧』という。彼女は博麗の巫女となるはずの存在だった」
「さぎり……それがあいつの本名か。その言い方だと、博麗の巫女になれなかったのか」
「ええ。楽園の礎となって、命を落とすことになった。ある存在を封印するために、人柱として、その身を捧げることによって」

 人柱。
 聞き慣れない、慣れたくもない響きだった。
 特にこの平和慣れした、楽園においては。

(……本当にそうなの? あんた達妖怪が、生け贄として差し出した方が信じられるわ)

 陰陽玉の念話は、感情を押し殺していたが、ある種の迫力を伴っていた。
 紫はそれには答えない。魔理沙も霊夢と同じ気持ちで、さらに詰め寄る。

「人柱か。ようやくわかったぜ。あの祭りの人形の意味が」
「………………」
「この変な雲行きもあいつが……いや、あいつが封印した存在が原因なんだな。おおかたその封印が解けかけているってことだろう」
「ええ」
「だったらなぜ止めない」
「恐れているから。私だけではない。全ての妖怪が、その存在を恐れている」

 まさかこの妖怪から、恐れているという言葉を聞く日が来るとは思わなかった。
 からかわれているのかと思ったが、紫の瞳は、まるで笑っていない。

「じゃあ次の質問だ。この異変の根源、かつて封印した存在っていうのは何だ。一体全体お前等は、何をそんなに恐れてるんだ。封印した存在っていうのは、何だ」

 八雲紫は端的に、その名を告げた。



「龍よ」









 時折鳴動する曇天の下、魔法使いは箒に乗って、猛スピードで飛んでいた。

(魔理沙! もっと急いで!)
「分かってる! 直にマックスだ!」


 ――龍神は幻想郷における最高神。龍は流に通じ、あらゆる場所を巡りながら、慈雨を降らせ、恵みを与え続ける、天佑を体現する存在。


「くそ! なんか空気が重たいぜ! こんなに神社から遠かったか!?」
(いつもと変わんないわよ! 喋ってないで速く!)


 ――しかし、龍の流れが滞る時、そこには澱みが生まれる。澱んだ龍気はやがて形を為し、破壊の龍を生み出す。


「大体、何でスキマを使わせてくれなかったんだあいつは!」
(準備に忙しいとかほざいてたわ!)
「忙しいっつったって、ちょっと開くだけじゃないのか!」
(私に聞かれてもわかんないわよ!)


 ――数百年前、邪龍が誕生したことにより、幻想郷が立ち行かなくなる事態となった。妖怪と人間の協力により、人柱を介した封印術を使って、龍を湖へと鎮めることになった。


「見えてきたぜ! 紅魔館だ!」
(そっち側にはいないわ! 逆側!)


――博麗の巫女の候補は、二人いた。一人が人柱として選ばれ、もう一人が博麗の巫女を受け継ぐことになった。今の幻想郷が楽園と呼ばれるのも、その犠牲があったから。以来その湖には、霧が絶えなくなった。


「あれか!? あそこに立ってるのは、木じゃないよな!」
(間違いないわ! よく見て! 赤と白よ!)


 ――しかし、邪龍は復活を遂げようとしている。かつて人柱として身を捧げた、少女の魂に感化されて。




「霊夢!」

 魔理沙はその名で叫んだ。
 たどりついた湖の岸辺に、紅白の巫女装束に身を包んだ少女の後ろ姿を見つけたのだ。
 空はいまだ暗い曇天。速い雲行きに隠れて、おぼろ月が揺らめいており、時々遠雷が、彼方から聞こえてくる。
 上に比べて、下の世界は穏やかだった。夜のこの時間、湖から霧は失われている。光を与えられない湖面は、さざ波の音が流れる闇と化し、黄泉へと続く沼を思わせる光景となっていた。

「……変わっていませんね」

 岸に立つ巫女服の少女は、魔理沙達に背を向けたまま、語り始めた。

「あの時も、こんな空でした。湖の色も、こんな色をしていた」
「………………」
「夏がまだ終わっていないのに、とても肌寒くて……梢を鳴らす風の音も、寂しげだった……」

 朗々と語る彼女が、月の満ち欠けのようにさりげなく、徐々にこちらを向く。
 魔理沙はその容姿を見た瞬間、心中で呟いていた。

 ……違う。

 面立ちも服装も、自分がよく知っている巫女のものだ。だがその内面にあるものが、個を取り戻したからなのだろうか。
 弾幕ごっこで闘った時よりも、本物の霊夢が陰陽玉に入っているというのを知って神社で改めて会った時よりも、はっきりと違う存在だと感じた。
 まとう気配も、その気質も。闇夜に浮かび上がる白い顔は、湖の透明な心が宿っているかのように、ひどく儚げで……。
 霊夢の姿を借りた、霊夢ではない巫女は、抑揚の無い声で続ける。

「魔理沙……そして……博麗霊夢さん。当代の博麗の巫女……お待ちしておりました」
(鬼ごっこになるかと思ったけど、隠れん坊だったわね)

 魔理沙はぎょっとして、傍らにいる存在を見た。
 霊夢の生身の肉体だった頃の姿が、知らぬ間にそこにあったのだ。
 肉声でないことから、すぐに陰陽玉が投影している映像だと気付く。
 いつものごとく危機感の無い口調だが、視線だけは、全く同じ姿を持つ巫女を、凛として射抜いていた。
 過去から来た魂の主、紗霧は、口元にかすかな微笑を浮かべて、

「貴方が貸してくれた、この体。短い間でしたが、感謝しています」
(最初から貸した覚えは無いんだけどね。どっちかっていうと、あんたが無理矢理奪ってったような気がするわ)
「申し訳ないことをしました。その時のことを、あまり覚えてないのです」
(そう。で、悪いけど、そろそろ返してくれないかしら)

 霊夢は単刀直入に、自らの要求を伝える。だが巫女の方は、物憂げな顔つきのまま、小さく首を振った。

「私にはまだ、やるべきことが残っていますから」
(やっぱり。ここに封印されてるっていう、龍神を復活させる気なのね)
「それは……貴方次第です、霊夢さん」
「なんだと?」

 魔理沙は鋭く問いつめたが、紗霧はこちらを無視するつもりのようだった。霊夢の方だけを見ている。

「私は答えが知りたいんです。博麗の巫女に、聞きたいんです。その質問をする権利が、私にはあるのですから」

 遠雷が再び轟く中、彼女は毅然とした態度で、当代の博麗の巫女と対峙する。
 映像の霊夢も、一歩も引かぬ姿勢を見せ、無言で続きを促した。

「昔々……幻想郷に、仲の良い少女が二人いました」

 張りつめた空気に乗せて、紗霧は静かに語り始めた。

「二人の生まれはまったく異なるものでした。一人は人里でも指折りの名家のお嬢様。そしてもう一人は、生まれてすぐに親を亡くし、孤児として育てられた天涯孤独の娘……普通なら、友達にすらなることはできなかったでしょう。でも、二人は博麗の巫女として見出され、ひとところで修行の日々をおくるうち、互いの仲を深めあったのです。育ての親は優しかったものの、頼るべき人の少ない生き方をしてきた孤児の少女は、もう一人の少女を親友と頼り、彼女からも頼られ、助け、助けられながら、年月を重ねていきました」

 物語は、少女の穏やかな幼少時代を紡いでゆく。
 ただ穏やかならぬのは、その語り口。沈んだ面持ちに小さく開かれる唇は、呪詛のような響きを発している。

「……修行の日々は辛く、ときに楽しいものでした。孤児の少女はその才能でこそもう一人に劣っていましたが、彼女に追いつこうと努力を続けました。いつか、二人のどちらかだけが巫女になる。それでも、お互いを蹴落とそうとするようなことはなく、二人はかえって約束を交わしたくらいでした。例えどちらが巫女になろうとも、力を合わせて幻想郷を楽園にしよう、と」

 うっすらとした笑みがその表情に浮かぶのを、魔理沙は見逃さなかった。そしてきっと、霊夢も。
 懐かしさだろうか――いや、違う。
 そこにある意味を読みとった時、魔理沙は、言いようのない哀しみを、目の前の巫女が背負っているのを知った。
 それはまさしく、自嘲の果てに浮かべた笑みだったのだ。

 紗霧は構わず、語り続ける。

「そんなあるとき、幻想郷を大きな異変が襲いました。土地の最高神である龍の邪悪な気が、天地を崩壊に導こうとしていたのです。それは妖怪の賢者ですら、どうすることもできない異変でした。しかし幻想郷の地を救う方法は、たった一つだけあったのです。それをもたらしたのは、他ならぬ妖怪の賢者でした。『博麗の巫女となるべき人間がその身を人柱として龍神にささげれば、邪気を鎮めることができるだろう』……賢者はそう言ったのです」

 妖怪の賢者。それはあの、八雲紫に違いあるまい。やはり彼女は紗霧を知っていた。
 そして、その悲劇のゆく先も、彼女は。

「少女たちは悩みました――少なくとも、孤児の少女は筆舌に尽くしがたい苦しみを味わいました。親友に死ね、と言える人間がどこにいるでしょう? けれどもまた、自分が進んで人柱となる決意も、彼女にはできなかったのです。命の惜しさもあったでしょう。けれど自分にしか果たせない責任から逃げることも、同じくらい恐ろしいことでした。いずれにしても、どちらかに自分が決断したとき、親友の少女は何と言うのだろうか? 孤児の少女はとうとう、相談することもできなかったのです。けれど、もう一人は、彼女は……」

 紗霧の暗い笑みが、最高潮に達する。
 ほとんどそれは啜り泣きのような、自虐の笑みだった。雷鳴が彼女の感情の高ぶりに呼応して、轟きを連鎖させる。

「けれども、もうひとりの少女は、違いました。彼女は『親友』が悩みを打ち明けられずにいるのをいいことに、人里でも大きな力を持つ実家と密かに通じて、孤児の少女を人柱につるしあげたのです。孤児の少女には、もちろんそれは寝耳に水の話でした。すぐさま本当のことを確かめようと親友を探しますが、その姿はどこにもありません。
 ……裏切られた少女は、嘆き悲しみ、世を儚み、とうとうその身を龍神に捧げました。そうすることが彼女を陥れたすべての人妖の思うつぼだと知りながら、孤独に、死んでいったのです。憧れだった博麗の巫女にもなれず、惨めに……」

 聞くに堪えない、黒々とした幻想郷の歴史。
 楽園の基を築き上げた物語は、かくも陰惨な悲劇を隠していたのか。それを嘘だと言わせぬ気魄が、眼前にした少女の言霊には籠っていた。

「邪魔者を除いたもう一人の少女は、きっと満足だったでしょう。巫女の地位は争うことなく手に入り、幻想郷の地も、救われたのですから。しかし一つだけ、不思議なことがありました。人柱となった少女の魂は、なぜか肉体を離れ、陰陽玉の中に封じられたのです。そして、数百年もの長い眠りを経て、彼女は蘇った……」

 それが、私――もはや、言葉にするまでもなかった。
 巫女はそれきり口を閉ざし、魔理沙も、胸に渦巻く彼女の呪詛の念に、言葉を見つけられずにいた。

 沈黙は、しかし長く続かない。

「あんたが、その邪龍やら昔の妖怪やら里の人間やら博麗の巫女やらのおかげで、可哀想な目にあったっていうのは分かったわ。で、あんたの目的は結局復讐なの? 今の幻想郷が許せないから、封印を解いてそれを潰そうとする気?」

 挑発的な霊夢の問いに対し、紗霧は俯いた。
 湿った風に黒髪が揺れ、奥の表情を覆い隠す。

「……陰陽玉に封じられている間、ずっと私を苛んでいたのは、悲しみでした。博麗の巫女に対して、幻想郷に対して、この世界に対して。楽園の裏の犠牲を覆い隠して、のうのうと暮らしていた人達に対しても……そして、私を生け贄に差し出した、彼女……」

 巫女の手が持ち上がり、湖の中心へと向けられた。全身から霊気が、青白く立ちのぼった。

「この楽園にもう一度災厄を。祟りを忘れているなら、思い出させてあげます。かつて、この湖で人柱となって朽ちた、巫女になれないただの女が。私が幻想郷に再び戻ってきたのは、このためだったんです。それが、私の役目。この楽園が失った歴史の語り部として。そして、邪龍を再びこの世に蘇らせるために」

 終始淡々とした語調で、容赦のない宣言をする。彼女の振る舞いは、まさしく巫女の姿に映った。
 情を排し、神託を告げ、災いを呼び込む存在としての、博麗の巫女とは異質の巫女。
 紗霧は手を湖にかざし、邪龍の解放をちらつかせたまま、

「しかし、その前に私は答えが知りたい。聞きたいことがあります。当代の、博麗の巫女に」
(……長かったわね。それであんたの気が済むなら、答えてあげるわよ)

 あくまで自分のペースで、霊夢は交渉に臨む。
 だが、続く紗霧の発言には、それまでに無かった、酷薄な感情が潜んでいた。

「霊夢さん。もし貴方が魔理沙を殺せば、私は潔く消えましょう。どうですか?」
(……!?)

 紗霧の出した条件に、霊夢は目を剥いて絶句した。

「貴方は躊躇うかもしれない。けど結局は、親友の命よりも、幻想郷を選ぶでしょう。貴方にはその才能がある。博麗の巫女というのは、そういう存在。理想の追求のためならば、いくらでも非道になれる。親しき者を生け贄に差し出すことですら……ためらいもなく実行する……!」

 少女の独白は、霧雨から嵐へと変貌していく。

「けれども、もし貴方が拒むのなら、拒むことができるなら、例え幻想郷が滅びの道を歩んだとしても、私はまだあの子と、親友のままのはずだった! でも私は人柱になった! 幻想郷のために、この命を捧げた! どうして!? 私は彼女に、売られたの!?」
「…………」
「彼女の真意が知りたい! けど彼女はもういない! かわりに博麗の巫女を受け継いだ、貴方に答えを出してほしい! 私は博麗の巫女に殺されたのか、あの子に裏切られたのか!」
「…………」
「さぁ、聞かせてください、霊夢さん!」

 稲光が、紗霧の怒りを照らし出す。
 対する霊夢は、唇を噛んで沈黙した。本音では怒鳴り返したい所だが、刺激するのはまずいと勘が働いている。
 すでに彼女は霊夢ではなく、過去の博麗の巫女を見ているのだ。歴史から消されていたこと、そしてそれ以上に、幼なじみに対する憎しみが、彼女を動かしているのだろう。
 だが、ここで、はい、と承諾して魔理沙を殺すのは論外だし、紗霧が邪龍復活を思い直す保証は無い。かといって、邪龍を復活させるのを見過ごすのも得策とはいえない。
 そして今の霊夢には、博麗霊夢の肉体を持つ紗霧を、力で止める手段がなかった。
 打つ手の見えぬ状況に、空気が張り詰めたまま、しばらく膠着が続く。

 だが、

「……霊夢、答える必要なんかないぜ。私はお前に、そんな選択なんてさせるつもりはないからな」

 二人の間に割って入ったのは、それまで傍観していた白黒の魔法使いだった。
 紗霧は冷たく燃える目で、そちらを見る。

「魔理沙……黙っていてください。貴方に対して恨みは無い。けれども、世が世なら、人柱として死んでいたのは貴方だったかもしれないんです」
「ほう。私が巫女をやったのは、ほんの二、三分だった気もするが、まぁ確かにそういうこともあるかもしれん」
「私は不幸にも、幼い頃から巫女を目指し、巫女に憧れ、巫女になれる可能性もあった人間でした。幼なじみがいたのも同じ。彼女は貴方にとっての霊夢のように、私のライバルで、目標で……」

 彼女は嗚咽を挟み、自嘲の混じった、泣き笑いの表情へと変わった。

「親友だと……思っていた。けどそれは、私だけだったみたいです。気付いたときには、遅かった……」

 狂気に囚われた巫女、その伸ばした手の指が印の形へと変わる。湖の封印を解く、最後の一手を進める気配があった。
 その機先を制して、魔理沙は口を開く。

「紗霧……だったよな。一つお前が私に対し、勘違いしていることがある。確かにこいつは、私のライバルで目標だった。けど、もっと大きな目標を、今見つけたぜ」

 魔法使いは、不敵な笑みを見せて言った。

「それはお前だ。お前こそが私のヒーローだったんだ」









 二人の巫女の視線が、こちらに集まる。両者共に唖然としていた。一体何の話か、まるでわからない様子である。
 だが、魔理沙は分かっていた。紗霧と話す役目は、自分にあることを。
 黙って見ているつもりだった。異変や妖怪退治、引っかき回してやるという気持ちはいつもあったが、今回だけは霊夢に任せるつもりだった。
 しかし話を聞くうちに、胸の内で抑えきれぬものが湧き起こっていたのだ。それは怒りでもなく、辛さでもなく、一人前の魔法使いを目指すことに、これまでずっと駆り立ててきた、気炎と呼べるものだった。
 魔理沙は今一度紗霧のために、霊夢の前で、自らの心情を語り始めた。

「お前の言う通りだ。境遇はちと違うが、私はずっと、博麗の巫女に勝ちたかった。もちろん最初は、小さい頃に会った霊夢に、なんでもいいから勝負で勝ちたかったんだけどな。途中からそれは、博麗の巫女に対する気持ちにもなってたんだ。妖怪退治でも異変でも、博麗の巫女はこの世界の鍵となって動く。せいぜい添え物にしかならん私達では、いつも扉を開くことが許されずに終わってばかりだ。けど、もし異変が起きて、その博麗の巫女から主役の座を奪うことができれば、霊夢に実力で勝つことができれば、こんなに痛快な話は無いと思った。自分を一人前の魔法使いとして、認められる日が、来ると思ってた。私にとってそれが毎日の目標で、生き甲斐になっていた……」

 そこで一端言葉を切り、魔理沙は笑みを深くする。

「……ところが、私よりもずっと昔に、もっと凄いことを成し遂げた奴がいたんだ。博麗の巫女に勝って、幻想郷を救った英雄がな。……お前のことだよ、紗霧」

 魔理沙の発言に、紗霧はあからさまに動揺した。激昂したといってもよい。

「な、何を言ってるの! 私が好きで人柱に選ばれたと思ってるの!? 自由な選択がある貴方とは、全然違うわ!」
「確かに、同情するぜ。きっとこんな風に考えちまうのは、私だからかもしれん」

 魔理沙は逃さぬよう、紗霧の目を真っ直ぐ見て、断言した。

「けどな、お前が博麗霊夢として見てきた、平和でぬるい幻想郷。その全てが、お前の遺産なんだぜ。お前は妖怪の親玉にも、普通の人間達にも、ましてや博麗の巫女にすらできないことをやったんだ。ちょっと空が飛べて、妖怪退治ができるくらいの、ただの一人の人間だったのに、幻想郷を丸ごと救っちまったんだぞ。物凄いことだと思わないか。誰が何と言おうと、私は尊敬するぜ」
「…………」
「お前がこの世界にやってきたのは、災厄をまた起こすためなんかじゃない。お前が築いたこの楽園を、お前に見てもらうためなんだったと、私は思う。それが誰の願いなのかは、見当が付かんけどな」

 滑らかな調子で語っていた魔理沙の声色が、そこから重々しく変わった。
 帽子の鍔をつまんで下げ、反対の手の内に隠し持っていた物を、持ち上げる。

「だから、私は止めなきゃならない。お前が築いたこの楽園を、お前が憎んで幕を閉じてしまう。そんな悲しいヒーローの結末、私は気に食わん」
「………………」

 八卦炉の発射口が、紗霧へと向いている。

「お前がどれだけ寂しくて、どれだけ悲しくて、どれだけ苦しんだのか。私には分からない。分かってやりたいけど、できない。分かるのは、お前の中ではまだ災厄は終わって無くて、その呪縛から逃れたがってることだけだ」
「何を……!」
「けど、そのために幻想郷をぶっ壊して、本当に救われると思うのか!? またお前は独りになるぜ! だがそんな真似は私がさせないからな!」

 怒れる巫女を超える激情を、魔理沙はぶつけた。

「お前に必要なのは、復讐相手なんかじゃない! 気の置けない宴会仲間だ! 私達じゃ不足か!? ずっと楽しんでいたじゃないか!」
「…………!」
「愚痴が言いたければ酒の席でぶちまけろ! 怒りが冷めるまで、弾幕ごっこに付き合ってやる! そして、辛い過去なんて忘れちまえ! この楽園にだって、お前の居場所はあるんだ! 復讐なんて止めて、わかってくれ!」

 人間の魔法使いの、悲痛な訴えが、湖に響き渡る。
 対峙する紗霧はうたれたように硬直していた。
 博麗の巫女の、偽物ではない。一人の存在として認めた上で、彼女が叱り、救おうとしてくれていることに、気付いたのだ。
 魔理沙はおもむろに、八卦炉を下ろした。

「お前の名は、歴史から消したりしない。何があっても、私が語り継ぐと約束する。裏切ったりなんてしないぜ。だから、これ以上格好悪い姿を見せずに、戻ってこい」

 そう言って、武器をしまい、静かに手をさしのべる。
 見つめる紗霧は、強い葛藤に捕らわれているようだった。その手に向かって踏み出すか、それとも振り切って、湖へと向かうか。
 復讐者の影は薄れ、神社でよく見せていた純朴な気質へと戻り、なおかつ真剣に、彼女は迷っている。
 魔理沙は待った。信じた。迷子の巫女が勇気を出して、この手を取ってくれることを願った。

 やがて、紗霧は手の印を崩し、伸ばした腕を湖から下げる。そして、二人の方へと、歩み寄る気配をみせた。
 魔理沙は頬から緊張を解き、霊夢も安堵の息をついた。

 その時だった。
 
 寝静まっていた湖面が、突如音を立てて跳ね、伸びた影が紗霧の体を掴んだのは。

「なにっ!?」

 霊夢と魔理沙は走り出した。だが、あっという間に、赤と白の姿が水中へと引きずり込まれる。
 紗霧は手を泳がせ、助けを求めた。

「まりっ……!」
「掴まれ!」

 だが、魔理沙の手はわずかに間に合わず、空を切る。
 怯えた巫女の顔が水に沈み、黒い湖面に水泡が浮かび上がる。
 背筋の冷たい感触を振り払うべく、魔理沙は毒づいた。

「くそっ! 何だ今のは!? 霊夢、水中を案内しろ! 飛び込むぜ!」
(待って! 様子がおかしいわ!)

 狼狽する魔理沙に、霊夢も緊迫した念で答える。
 間をおかず、異常が目に見えて現れた。

 静謐だった湖の、様相が変わっていた。
 水面が沸騰したように泡だっており、深みで光が明滅している。
 不気味な震動が岸辺を揺らし、周囲の木々の枝葉を鳴らし始めていた。

 目の前で、水柱が立った。
 頭上から降るしぶきを凌ぐ間もなく、次々と、霧の湖を取り囲むように、幾つも水柱が立つ。

 霧の湖の中心から、巨大な影が、少しずつ浮上していった。
 滝となって流れる水の間で、揺らめく黒い炎のように、表面が波打っていた。
 蛇の山だった。黒々とした大蛇が何千匹と固まって、湖の半面に広がり、さらに高くなっているのだ。
 黒山の端から、大きな突起が伸びて、龍のあぎとの形となる。

 そして、吠えた。

 禍々しい妖気が、突風となって、幻想郷全域に広がった。間近で波動に触れた魔理沙は、髪の毛の端まで戦慄が走った。
 悪夢を告げる怪物の咆哮に、周辺の森から鳥達が飛び去っていく。
 邪龍、その封印が解けてしまったのだ。
 復活した過去の災厄は、再び幻想郷を滅ぼすために、すぐさま活動を始めた。
 天空の雲が大渦を巻き、稲光でその姿を照らし出す中、妖気の波が龍を中心に、外へと放たれる。

(魔理沙!)
「……ああ、やるしかなさそうだ。行くぜ霊夢」

 幼なじみの声に、魔理沙は正気を取り戻した。恐怖を燃やす情熱が、胸の奥から吹き出して止まない。
 白黒のエプロンドレスの勇姿が、箒に乗って、紅白の巫女の幻影と共に上昇し、力強く宣言した。

「見てろよ幻想郷! 人柱なんてごめんだぜ! あれは私の獲物だ!」









 邪龍の咆哮が、幻想郷にこだまする。だがその姿は、龍という名であっても、蛇とも蜥蜴とも異なる、醜悪な体つきをしていた。
 時々、あぎとが伸びて吠えるものの、本体は超弩級の粘菌が湖に浸かっているようで、表面は黒い蛇のような小龍が無数にのたうっているのだ。
 見ているだけで吐き気をもよおす、悪夢に棲む怪物としか思えなかった。
 霧の湖の深さについては聞いたことがあったが、こんな化け物が眠っているとは、想像するはずもない。
 その頂点、一つだけ伸びた触覚のような『腕』に、白い姿が捕らわれていた。
 ずるずると引きずり込まれそうになるその姿に向かって、魔理沙は全速力で箒を飛ばした。

「まずは、あいつを助けなきゃな」

 近づくにつれて、赤と白の巫女服がはっきり見えてきた。
 紗霧だ。息絶えたのか、気を失ってるだけなのか、邪龍の表面に張り付いたまま動かない。

「しっかりしろ! 目を覚ませ紗霧!」

 魔理沙は空中から、彼女に向かって呼びかけた。
 返事のかわりに、邪龍の体から伸びた別の触手が、こちらに迫ってきた。

「おっと!」

 魔理沙は箒を旋回させ、その魔手から逃れる。
 絡み合う蛇で構成された邪龍の触手は、蝸牛の触角のように、再び引っ込んでいった。

「これ以上近づき難いな。弾幕を使ってあいつの体を、何とか切り離すぞ」
(アミュレットを!)

 念話の短い要請に従って、魔理沙は持参した博麗アミュレットを、空中にばらまいた。
 すぐにそれらは、霊夢の思念に従って、弾幕となって動き出す。
 アミュレットの一群は、邪龍の体表から紗霧をかき取るような角度で、回転して飛んでいった。
 だが、

(何よあれ!?)

 霊夢が当惑した声で言った。
 四角い手裏剣は刺さったものの、動かず止まってしまったのだ。
 邪龍の表皮を構成する蛇の群れが、引きちぎる端から、再生されていくために。

「マジックミサイル!」

 今度は魔理沙が、弾幕を放った。緑の魔弾が、紗霧の体の周囲に突き刺さる。
 比較的制御の効く攻撃だったが、威力は決して低くはない。それでも手応えは、底なし沼に礫を投げ入れたくらいにしか感じられなかった。
 そうこうする間に、蛇の群れは紗霧の体を、徐々に飲み込もうと広がっていく。
 魔理沙は動揺を押さえ、陰陽玉に向けて怒鳴った。

「おい、あいつはちゃんと生きてるんだな!?」
(ええ! でもさっきから呼びかけてるけど、反応しないわ!)
「あいつが龍に食われる前に、何とかしなきゃならんぜ!」
(魔力貸して! ありったけ!)
「任せろ!」

 惜しみなく、魔力を注ぎ込んでやる。
 陰陽玉が黄金の光を放ち、御札を高速で配置する。
 閃光と共に、紗霧の体にまとわりついていた蛇達が、溶けて霧散した。
 二重結界。巫女の体を包む頑強な球となって、邪龍の妖気をはね飛ばしていた。

「よし、これでひとまず……」

 魔理沙の続く台詞は、無理矢理中断された。
 蛇達が魔理沙に向けて、妖弾を発射し始めたのだ。数千個もの弾が波状となって、二人に迫ってくる。
 魔理沙は箒を反転させ、逆方向へと逃げ出した。
 できるだけ距離を取ってから、広がった空間を利用して回避を始める。
 難解な迷路をハイスピードで攻略し、ゴール地点に固まった弾幕に到達する。
 得物を構えた。すでに自慢のミニ八卦炉は、魔力の充填を終えている。

「マスタースパーク!!」

 弾幕ごと消し去る魔砲を、魔理沙は龍の土手っ腹に向けて撃ち込んだ。
 手加減などするはずもない。一撃必殺の威力そのままである。
 光線をまともに受けた邪龍は、耳障りな呻き声を上げ、鈍重な動きが、さらに遅々としたものになった。

「……やったか?」

 魔砲が直撃した箇所から、大量の黒い霧が発生している。活火山の噴煙のような図だったが、相当のダメージは与えられたようである。
 やがて、霧が止み、龍の腹が大きく割ける。

 「目」がそこに生まれた。
 体の側面の大部分を占める大きさの、眼球が出来上がり、小さな箒が浮いている方向へと固定される。
 洞穴のような瞳孔が縦に引き絞られた。

 殺気が針となって、肌を刺してくる。
 邪龍は今まで、こちらのことなど、まるで意識の外だったのだ。
 どの程度の知能を持っているのか知らないが、今から魔理沙達のことを、はっきり邪魔者として認識したようである。
 
「望むところだぜ」

 無理にふてぶてしい笑みを浮かべて、魔理沙は気合いを入れ直す。
 今度は邪龍の体から、これまでとは違う弾幕、点滅する玉が幾つも発射された。
 陰陽玉を一回り大きくしたような代物だ。八方に散っていくそれらを、魔理沙は目で追った。

(やばいわよ、何か)
「ああ」

 霊夢の念話に答えたが、敵の狙いがわからない。
 弾幕にしては広すぎるし、こちらに向かってくる様子は無かった。
 不気味な挙動を繰り返す玉の狙いは一体何か。魔理沙は経験から、次の攻撃を予測した。

 玉の一つが、予想通り弾けた。
 だが生み出されたのは、光弾の嵐ではなかった。
 もっと直線的で、強力な気配。

「嘘だろ、おい!?」

 魔理沙は咄嗟に、箒を急発進させた。一拍遅れて、背後を巨大な光が流れていく。
 マスタースパークだ。魔理沙が放った攻撃と、威力も規模もほぼ同じ。
 だが、

(まだ来るわよ!)
「わかってる!」

 遠方あちらこちらに配置されていた陰陽玉が、次々と弾けていく。
 息つく暇もなく、四方八方から箒を標的にして、魔砲が飛んできた。

「はは! やっぱラスボスはこうじゃなくっちゃな!」

 魔理沙は笑って、交差する光線を次々にすり抜けた。
 分身した自分を相手にしている気分だが、スピードと気合いが物を言う回避は、得意分野である。
 常時危なげなくやり過ごし、最後の光束を捻りこみでかわしてみせる。

(余裕こいてんじゃないわよ! あんたが喰らったら、私まで消し飛ぶのよ!)
「そんなへまはしないぜ!」

 斜めに飛びながら、魔理沙はもう一度反対側から、魔砲を撃ち込んだ。
 どれほど体力があっても、向こうは攻撃をかわすことができそうにない。
 紗霧が上部に捕らわれている以上、上から圧殺することはできなかったが、そちらを避けて横からいくらでも攻撃することができる。
 しかし魔砲を二つや三つ受けたくらいでは、この怪物はくたばりそうになかった。

(忠告よ。あんたが倒す前に、私の結界の時間が切れる方に一票)
「了解だ。もう一度仕掛けるから、援護を頼む」
(気をつけなさい。またあんたの馬鹿力を真似た光線が、返ってこない保証は無いわ)
「そっちもお前が何とかしてくれ」
(ちょっと……!?)

 魔理沙は陰陽玉を帽子にしまって、箒を急発進させた。
 龍の上部に向かって、真っ直ぐに飛んでいく。それを待ち受けるかのように、細かい弾幕が傘雲のように広がった。
 しかし箒は止まらず、操縦者はスペルカードを発動させた。

「魔符『スターダストレヴァリエ』!」

 三色の星屑をばらまきながら、流星となって突進する。

(夢符『封魔陣』!)

 さらに前方に霊夢の結界が、盾となって張り巡らされた。
 敵の弾幕に削られながらも、魔理沙と霊夢は突き進み、ついに怪物の表面へと、再び接近した。
 紗霧を守る結界は、薄くなっていたが、幸いまだ消えていない。しかし陰陽玉の見立てでは、状態は深刻なようである。

(効力が弱まるのが速いわね……もう一度かけ直した方がいいわ!)
「それより引き剥がす方がいいぜ。魔力なら貸してやる。結界を絶やすな」
(あんたまさか!?)
「いくぜ! 『ブレイジングスター』!!」

 魔理沙は邪龍の表面へと突っ込み、蠢動する皮膚に潜り込んだ。
 黒蛇のプールの中をぐいぐいとかき分けて進む。速度は普段の三分の一に満たないが、龍の邪気に決して負けていない。
 箒の前面に広がるのは、かつてない壮絶な光景だった。邪龍の表皮は、多種多様な攻撃で、二人を脅かしてくる。
 巨大な触手を鞭のように振るい、結界に叩きつけてきた。舵をそらされたが、魔理沙はすぐに修正した。
 菊花が開いたように広がり、箒ごとまとめて食らおうとしてくる。魔理沙は前面に魔力を集中させることで、突き破った。
 そしてついに、二人は紗霧の結界にたどりついた。
 魔理沙は蛇の沼に、さらに深く潜り、粘着する結界を引き剥がそうとぶつかった。

 衝撃で、中の紗霧が目を開けた。
 すぐに周囲を見渡して、状況を悟ったらしく、魔理沙達を見つけて助けを求める。

「待ってろ! 今救い出してやる!」

 だが、魔理沙がもう一度体当たりを仕掛けようとした箒の下で、表皮に裂け目が生まれた。
 不気味な光が一筋、二人を煌々と照らす。

「やばい!!」

 かわそうとするが、間に合わない。
 霊夢が緊急の結界を張ったが、それが障子程度にしか思えない程の威力の、破壊光線が撃ち込まれた。
 近距離からのマスタースパークだ。
 ブレイジングスターの障壁が、みるみるうちに溶かされていく。

「まだだぁ!」

 魔理沙はマスタースパークを、『斜め』に撃った。
 敵の魔砲の相殺と同時に、反動で箒を離脱させる、咄嗟の荒技だった。
 命からがら逃げ出した二人は、再び邪龍から離れてしまう。
 その向こうで、紗霧を包む結界が、ついに裂け目から飲み込まれてしまうのが見えた。
 魔理沙の顔から、血の気が引く。

「霊夢! あいつはどうなった!?」
(まだ大丈夫よ! 中から封印を保とうとしているわ! 食われてない! けどどれくらい保つかは……!)
「くそう! もう一度か!」

 魔理沙は特性キノコの粉末を服用した。ごっそり減っていた魔力が、再び満タンとなる。
 もう一度ブレイジングスターを発動させようと力を貯めて……。

 その時、邪龍の体から、陰陽玉が発射された。
 上空に向かって昇っていくそれに、魔理沙は意識を移す。
 また魔砲の連射かと身構えたが、陰陽玉は弾けて光っただけだった。
 螺旋を描く雲で覆われた空から、水滴がいくつも降ってくる。

「なんだこれ、雨か?」

 と呟いた瞬間、がくんと魔理沙の体が重くなった。
 背負わされた透明の籠に石がどんどん積まれていくように、重さは急速に増していく。

「わわわっ!」

 魔理沙の箒が、湖へと降下を始めた。
 体にかかる負担が、さらに増していく。原因はこの雨に違いない。妖術の一種か。

(魔理沙!?)
「このぉ!」

 魔理沙は箒の上で、体の向きを前後変えた。
 逆さまに落ちていく中、鉛と化した腕を持ち上げ、八卦炉を天へと構える。

「マスタァ……スパーク!!」

 雲に大穴が開き、周辺の雨が蒸発して消えた。
 瞬時に戻った体の感覚を頼りに、箒を急制動。もう一度天へと向かおうとした。
 だがそこで切羽詰まった意識が、頭に鳴り響いた。

(魔理沙! 飛ぶのは私に任せなさい!)
「はぁ!? 何言ってんだ、これは私の箒……」
(いいから! 死にたくないでしょ!)

 怒鳴り返す前に、箒の主導権が無理矢理奪われ、空中に停止する。


 前方の空間が割れた。


 視界が真っ白になり、耳をつんざく轟音が、体を打った。空気の焼ける異臭が漂う。

「まさか……どわわわわ!!」

 箒が蚊とんぼのような不規則な動きを始め、魔理沙は泡を食って柄に伏せた。
 その周囲を、稲妻が何度も通り過ぎていった。
 凄まじい威力、本物の雷だ。雷鳴が轟く度に、芯まで体が痺れそうになる。
 だが、命など一瞬で奪える光の銛を、箒は予め軌道を予期しているような、神懸かり的な勘を宿し、回避し続けていた。

 ――なんて奴。

 魔理沙はほんの一時だけ、邪龍よりも同乗者の方に戦慄する。
 より安全な位置を求めて、霊夢は低空に位置を移動し始めた。
 魔理沙とて必死で箒にしがみついているだけではない。
 その間に、用意したスペルを発動させる。

「光符『アースライトレイ』!」

 湖の中、邪龍の下をめがけて、魔力の数珠を投げつける。
 青い光線が剣山となり、怪物の腹にいくつも突き刺さった。
 これには意表を突かれたらしく、邪龍は怯んで、稲妻の攻撃を中断した。
 その間に、魔理沙達は体勢を立て直す。ついでに罵声を上げながら、

「呪いの雨に本物の雷か! 無茶苦茶だな龍神様っていうのは!」
「……苦労してるわね」

 その声は、霊夢の念話ではなかった。
 首を横に動かすと、にゅっ、と脇にスキマが開く。
 魔理沙は鼻を鳴らして、軽口を叩いた。

「おかげさまで、滅多にない経験をさせてもらってるぜ。お前もようやく参戦か?」
「残念ながら、私は戦うことはできないわ」
「なんだと!?」
(どういうつもりよ紫!)

 怒鳴り返す魔理沙以上の迫力で、陰陽玉は湯気を立てて怒った。
 邪龍よりも先に、こっちのスキマ妖怪を退治しそうな勢いである。

(元はといえば、あんたがさっさと紗霧を止めていれば、こんなの相手にしなくてすんだんでしょうに!!)
「どのみち邪龍は復活していたのよ。封印は始めから不完全だった。いずれこうなることは分かっていたわ」
「なら今何とかしろ! 他の妖怪達は何してるんだ!」
「とても近づけないわ。龍の気は、妖怪を無力化させる。神をも超える力を持つ。私もここから話すのが精一杯なのよ」

 魔理沙はようやく、邪龍が最大の災厄と呼ばれている理由を悟った。
 いくら強くとも、幻想郷中の妖怪が結託すれば、倒せるんじゃないかと内心楽観していたのだ。
 だが、鬼に天狗に吸血鬼。上から下まで妖怪の戦力が、一切期待ができないとなると……、

「冗談だろ!? やる気で何とかなる問題じゃないのか!」
「無いわ。龍は妖怪の頂点に位置するの。例え正負がひっくり返ろうと、抗える力ではない。私だって、あっという間に飲み込まれて終わり」
「だあああ! 肝心なときに役に立たん!」
(せめて弱点くらいないわけ!?)
「それを教えに来たのよ。あら大変」

 稲妻が三人に向かって飛んできた。
 黒こげになる前に、スキマが魔理沙達を飲み込み、反対側へと転送させる。
 心臓が止まるかと思うほど驚いた魔法使いのかわりに、陰陽玉が叩きつけるように言った。

(とっとと倒し方を教えなさい!)
「邪龍の力をコントロールしている核が、どこかに潜んでいるわ。それを妖力を含まない高圧のエネルギーで破壊すれば、龍は自壊して、自然界に戻る可能性がある。もちろん、周囲の体は無尽蔵に再生するから、半端な攻撃は受け付けないけどね」
「ふん、結局は力押しか」
「早くしないと、霊夢の肉体まで取り込んで、さらに手に負えなくなるわよ」
「言われるまでもないぜ!」

 スキマが閉じるのを見届けて、魔理沙は今度こそ、紗霧救出のために、箒を発進させようと身構えた。

 しかし照準を合わせた瞬間、邪龍の様子が何だか妙なことに気付いた。
 始めは、姿が先程よりも大きくなったと思い、次に目の錯覚かと思い直した。けれども、実際に邪龍の背中は膨らんで、丸くなっていた。
 雷鳴と強風で、気付かなかった。邪龍が水音をとともに、湖から浮遊していく。
 さらに、なだらかな山の形状をしていた巨躯が、徐々に孤を描き、球体になっていく。
 その姿は、呆れるほど大きな黒真珠か、墨で描いた太陽、あるいは卵を連想させる物体だった。
 表面は蠢く蛇で歪に揺らぎ、暗雲を背景にして、鋼をこするような耳障りな音で、大気を振るわせている。

 球の上部の面が、ぼこりと動き、枝のように伸びた。
 出現したのは、龍の頭部だった。同じく、球の表面に、頭が一つ、二つ、三つと生えていき、ついに八つの頭が、球から伸びていた。
 かつて幻想郷を傾かせた災厄の実態は、古の神々を脅かした伝説の怪物に酷似していた。
 
(八岐の……文献で読んだことはあったけど……)

 滅多に恐れることのない霊夢も、声に緊張の色が隠せなかった。
 魔理沙もしばらく、その禍々しい姿に見入ってしまっていたが、やがて気持ちを切り替えた。

「あんなもんに幻想郷をうろつかれたら、おちおち森で茸狩りもできなくなるぜ……核を見つけて壊せとかどうとか言ってたな」
(その前に、今あそこに入り込んでる私の結界だって、いつまで保つかはわからないわよ。どっちを先に?)
「両方だ!」

 魔理沙は即答し、箒がたわむ程の勢いをつけて、ロケットスタートを切った。
 速さと火力。その二つこそ、自分の最大の武器。幻想郷を危機から救い、一泡吹かせるとすれば、これしかない。
 こちらに気付き、深紅の瞳を燃やす龍頭に向けて、魔理沙は八卦炉を構えた。

「恋符『ダブルスパーク』!!」

 発射した光線は、いつもと違うアレンジだった。照射範囲を狭めることで、威力を集中させる狙いである。
 龍は顎を大きく広げ、迫る魔砲に対して吠え返した。
 てっきり同じような光線が返ってくるかと思ったが、予測は大幅に外れた。
 丸くに描かれた紋様の壁によって、光線が全て弾かれていくのだ。魔理沙は魔砲を中断して、吃驚した。

「け、結界!? さっきまで使ってなかったぜ! あんな技まで持ってんのか!」
(あー、たぶん、さっきの私の真似されたのね)
「……おいおい。ってことは」

 邪龍の底から伸びていた龍頭に、嫌な予感がした魔理沙は、箒を急上昇させる。
 案の定、下から青白い魔力の槍が、次々と突き出されてきた。
 これもさっきの魔理沙の魔法だが、威力と範囲が比較にならないほど広がっている。
 攻撃はそれで終わりはしなかった。龍の頭は、それぞれが別種の弾幕を、間断なく魔理沙達に仕掛けてきた。
 あるものはアミュレットを模した弾幕を、あるものはマジックミサイルを。破壊光線にや防御用の結界、妖力の込められた雨に雷撃。
 これでもかというほど激しく、回避の余地などほとんど残されていない。

(魔理沙、一端引くわよ!)
「だめだ! あいつが助けを待ってる! お前の体でもあるんだぞ!」
(そんなこと言ったって、これじゃきりが無いわ!)

 八つの頭が繰り出す波状攻撃は、一つ一つがスペルカード一枚分。だが異変の際でも、これほどの攻撃を一度に制したことはない。
 際限のない弾幕が、操縦者の疲労を蓄積させていく。それなのに、目標は近づくどころか、遠ざかるばかりだ。
 引きたくなる気持ちをぐっとこらえて、魔理沙は相方に頼んだ。

「霊夢。また箒の制御を頼む。突っ込むぞ」

 陰陽玉は何も言ってこなかった。止めても無駄だと思われたのだろうか。
 箒に別の念がこもり、負担が軽くなったのを感じた。
 魔理沙は深く深呼吸し、出力だけに専心し、目の前の弾幕に突っ込んだ。
 
 視界が極彩色に変わった。
 赤い御札で作られた、生きた迷路。スピードを一定に保った魔理沙の箒を、霊夢が微調整する。
 体にまとっている魔力が、鍋を焦がすような音を立てるが、体を傷つけることなく切り抜けることができた。
 二人を進ませぬよう、橙色の結界が張られる。これは魔理沙が大きく箒を旋回させることで、やり過ごした。
 次は黄色の流星群だった。斜めに直線的に降る弾幕に、霊夢は平行に箒を傾け、星の間をすり抜けながら、龍の体へと向かった。
 緑の魔弾がいくつも飛んでくる。こちらにまっしぐらに向かってくるそれを、右は魔理沙の魔法で、左は霊夢の結界ではね除けた。
 青い陰陽玉が天に向かって射出された。妖術の雨だ。これは魔理沙が魔砲を撃つことで消滅させる。
 横っ腹に藍色の雷。霊夢の勘がぎりぎりで働き、魔理沙を稲妻の通り道から避けさせた。
 霊夢より先に音を上げるわけにはいかない。魔理沙の意地が、普段なら引っかかる死線を一歩超えては、箒を進ませ続けた。

 しかし、限界はついに訪れる。

 紫色の魔砲が、正面の首から、そして周囲に撒かれた陰陽玉から同時に放たれた。それが目くらましだと気付いたときには、すでに遅かった。
 正面に御札の壁ができ、退路も別の弾幕に塞がれる。
 上からは、自分のものによく似た、星屑が降ってきて、下には結界が張られていた。
 あらゆる方向を塞がれた状態になってしまった。
 魔理沙は強行突破のために、八卦炉をチャージし始める。だが間に合いそうもない。
 せめて陰陽玉だけでも逃がそうと思ったが、彼女は奇特にも、結界を急いで構築して、こちらを逃がそうとしていた。
 八卦炉を構えたまま、覚悟の笑みが魔理沙の頬に浮かぶ。

「……死んだら幽々子の所から、もう一回出直ししてやるかな」

 絶体絶命だと思った瞬間だった。
 霊夢のため息が、念話で伝わった。

(……遅いんだから、本当に)

 途端、弾幕の流れが、魔理沙達に達する前に、空中で停まった。

 前触れ無く出現した銀の時計群に、魔法をかけられてしまったかのように。
 魔理沙は信じられない思いで、首を動かした。こんな芸当ができるのは、幻想郷広しといえど、そうもいない。

「咲夜!」

 傍らに、期待通りの姿があった。
 紅魔館のパーフェクトメイド。十六夜咲夜が、空中で瀟洒に腕を組んで立っている。

「お待たせ。紅魔館を代表してやってきました」
「ようこそ。主人の方はギブアップか?」
「伝言だけは授かってきたわ。私達が生き残る運命、まだ残っているそうよ」
「そいつは何よりのお知らせだ。……後ろに気をつけろ!」

 巨大な黒いあぎとが、咲夜の背後から迫っていた。
 だが、魔理沙が八卦炉を撃つ前に、斬線が空中を横切り、邪龍の頭部は両断される。

「人符『現世斬』!」

 日本刀を振るって、咲夜の側に着いたのは、銀のおかっぱ頭の少女だった。
 体ほど大きな霊魂を引き連れ、童顔を険しくさせて、邪龍を睨みつけている。

「妖夢もか!」
「助太刀に来た。あんた達が死んで家に居着かれたら、騒がしくてやってられないもの」
「……そうか。その時はよろしくな。宴会の片づけはお前に任せたぜ」

 珍しく、キックの効いた挨拶する魂魄妖夢に、魔理沙も鮮やかに切り返した。
 霊夢が口調に笑みを混ぜて、

(考えてみれば、異変に横槍入れてくる人間は、あんただけじゃなかったわね)
「そういうこったな」

 同意した直後、邪龍の背中から、陰陽玉が二つ、撃ち上がるのが見えた。光を放って破裂するとともに、またあの厄介な雨が降り注いでくる。
 だが、空に大きく描かれた赤い五芒星に、陰陽玉は消失し、雨は速やかに吹き散らされた。
 最早驚きはしない。魔理沙は愉快な気持ちで、奇跡を起こした巫女服の少女に、思いっきり文句を言ってやった。

「遅いぜ早苗! 何してた!」
「準備してたんですよ! 皆さんの力で、この湖の周囲に結界は張り終えました! 後は霊夢さんを助けて、私達の力でこの化け物を倒すだけです!」

 緑の長髪をなびかせて、早苗は凛々しい声で返答した。
 簡単に言ってくれる。だが、今は何より心強い。
 妖怪達は参戦できないものの、応援はできるらしい。それに、彼女達がいなくても、今の幻想郷には、闘うことのできる人間がいるのだ。
 五里霧中だった視界が、いっぺんに広がる気がした。

「霊夢! お前の体の位置はどの辺だ! 指示できるか!?」
(まだ中に入りきってないわ。上の……今こっち向いたあの蛇の根元よ!」

 魔理沙は八卦炉を、邪龍に向けた。
 魔砲の照準線だけを、指示された場所に当てる。咲夜達は、意図をすぐに理解してくれた。
 ただちに三方から、球体の上部に生えた、ひときわ大きな龍頭へと向かう。

 首をもたげた周囲の龍が、一瞬標的が増えたことに戸惑ったように、動きを止めた。
 やがて一頭が、一人に目標を定めて大口を開け、飲み込もうと首を伸ばす。
 だがそれは、守矢神社の劇薬。早苗の周囲が暗転し、緑色の稲妻が収束していった。

「蛙符『手管の蝦蟇』!!」

 凄まじい大爆発が起き、龍の頭がはじけ飛んだ。
 白い衝撃波は、他を狙っていた二つの頭も半壊させた。
 その下を、魔理沙、咲夜、妖夢の三人が並走する。
 首を失った邪龍の体表から、近づかせまいと、高密度の弾幕が放たれた。

「魔符『アルティメットショートウェーブ』!!」

 魔理沙は広範囲に渡る魔力の波をぶつけ、弾幕を相殺する。
 魔砲より威力は劣るものの、この状況ではベストな選択だった。
 敵の攻撃を無効化すると同時に、蛇で作られた表皮をはぎ取り、紗霧が必死に維持している結界の端を、発見することができたのだから。

「見えたぜ! あれだ!」

 しかし邪龍は、魔理沙の攻撃に対応して、蠕動を始めた。巫女を渡さぬよう、球体となっている結界を、自らの肉体の中に引きずり込んでしまう。
 飛び込んだのは、白い影だった。雨を斬り、空気を目標に、日々鍛錬を重ねる白玉楼の剣士は、邪気の底中でもがき輝く、巫女の姿を捉えた。

「人鬼『未来永劫斬』!」

 縦横無尽に斬線が走る。乱雑に刃が流れているようで、持ち主の完璧な制御により、ただ一点を避け続けている。
 見事、妖夢は紗霧を傷つけることなく、邪龍の分厚い鎧だけを切り裂き、通じる道を作った。
 魔理沙と早苗は、霊夢の結界を盾に、しつこく攻撃してくる龍の頭を相手にする。
 救出役となったのは、咲夜だった

「傷符『インスクライブレッドソウル』」

 毒蛇の群れを相手に、クールな声音で宣言し、妖夢に劣らぬ苛烈なナイフ裁きを見せる。
 銀の光を両手に携え、龍の体を掘り進み、メイド長はついに、巫女の元へとたどり着いた。
 計ったように結界が消失し、精も根も尽き果てたように、中の巫女は両手を下げて、邪龍の中に倒れていく。
 咲夜はしっかりと、彼女を受け止めた。

「よく頑張ったわね。さ、行くわよ」
「ごめんなさい……本当にごめんなさい……」
「何のことかしら」

 巫女は腕の中で、うわごとのように呟く。

「……私は違うの。咲夜さん、私は貴方の知ってる霊夢じゃ……」
「そんなこと、会った初めから気付いていたわ」

 驚く少女、紗霧に対し、咲夜は微笑んで言った。

「けど、例え貴方が本物じゃなくても、私の行動は変わらない。あの時、紅茶を褒めてくれたじゃない」

 そして彼女達は、迫る蛇の壁を切り抜け、邪龍の咆哮を後にして、脱出することに成功した。









「やったー!! 霊夢が助かったー!!」
「さすが! やってくれるわね!」

 妖精のチルノが歓声を上げて、隣で見守る鈴仙もガッツポーズしていた。
 子供妖怪達が万歳をし、騒霊三姉妹は、それに合わせて応援歌を演奏している。
 ウェーブは岸をくまなく広がり、やがて湖を包み込む大歓声へと繋がった。
 その輪の中にいたレミリアが、ふん、と微笑して、

「咲夜がついているんだから、心配することはないわ」
「ああああ、私も助けに行きたいのに、腰が抜けて……咲夜さん、頑張って!」

 側では門番をしているはずの紅美鈴が、必死な形相で応援している。
 何と、滅多に外出しないパチュリーまで、戦局をじっと見守っていた。
 集まったのは妖怪だけではない。白玉楼からも亡霊が参観に来ている。

「妖夢はちゃんと帰ってこれるかしら。半分じゃ困るわ〜」
「半分なんて結果があるのが驚きね……みんな死んじゃうわよこのままだと」
「あらあら、半霊の方だけは、ぜひとも戻ってきてほしいものね」
「魔理沙が半分になったら、箒と帽子だけかしら? 霊夢はどうなるかな」

 いまいちずれた会話を続けながら、西行寺幽々子とアリス・マーガトロイドは、それぞれのパートナーの戦いぶりを眺めていた。
 亡霊だけじゃなく、真剣に見つめる人間達の姿もある。

「願わくば、こんな形で歴史に幕を下ろしたくないものだ……」
「いいんじゃない? あいつら強いし。危なくなったら、次は私が入るかな」
「行くつもりだったのか?」
「うーん、私の力じゃ、相性が悪いからね……でも、そんなことも言ってられないでしょ」

 死なない人間、藤原妹紅は、右手に炎をともして、上白沢慧音に言った。

 妖怪、妖精、幽霊、亡霊、そして人間。湖に終結した誰もが、自らの楽園である、幻想郷の行く末を、目撃しようとしている。
 だが、四人の人間に賭けることを、不安がる者は存在しなかった。

 その様子を離れた位置で、大局から見下ろす、大妖怪がいた。

「…………」

 幻想郷の賢者、スキマ妖怪八雲紫は、邪龍の咆哮を聞きながら、無表情で佇立していた。
 側には不安そうに彼女の手で支えられる、化け猫の少女がいる。
 そこに、黄色の影が高速で飛来し、紫の元に跪いた。

「紫様、ただいま二つめの結界を引き終わりました。しばらくは食い止めておくことができるはずです」
「ご苦労様。貴方は対岸で、見張ってなさい。油断しては駄目よ」
「かしこまりました。橙、お前もこっちに来て手伝いなさい」
「はい藍様! 恐いけど、行ってきます、紫様!」

 九尾の式は、二又の式の式を連れて、再び主人の元を飛び去っていく。
 二人の気配が遠ざかってから、紫はおもむろに口を開いた。

「ご協力に感謝しますわ。お二柱とも」

 振り向くと、同じく空に立っている、高次の存在が二つ。
 暁色の服にしめ縄を背負った山の神、八坂神奈子は剛胆な笑みを浮かべて言った。

「祟りは私らの大事なアイデンティティでね。例え龍神といえど、そう簡単に譲れない」
「よかったのですか。あの巫女を貸していただいて」
「私達が無理に何とかしようとすれば、この地も危なくなる。うちの早苗の方が適任よ」
「そうそう。なんたって、神の子孫だからね。心配ないわ」

 洩矢諏訪子の明るい口調で、踊るように跳ねて言った。
 だが、 
 
「ただ一つ気に入らないことがある。貴方、何を隠しているの?」

 にっこりと笑う諏訪子の帽子が、ぎょろりと目玉を動かし、紫をねめつけた。
 降って湧いたような強大なプレッシャーにも、スキマ妖怪は動じたところなく答える。

「何のことでしょう」
「とぼけちゃダメよ。神の目は誤魔化せない。封印が不完全だったと説明は聞いたわ。ただ失敗したとも、貴方は言ってなかったでしょ」
「………………」
「祭りの手順について、私達も知る機会が十分にあった。だからこそ、このタイミングであれが再び生まれたのが分からない。しかもあいつは、今も何かを探して怒り狂っている。秘密はお前さんが握ってると見た。述べよ、八雲紫」

 神奈子も諏訪子の後を受けて、淡々と問いつめた。
 湖の戦闘とは離れた場所で、別の戦の緊張が起こる。
 結局紫は、日傘を下ろし、容疑を認めた。

「確かに、封印が不完全だったのは、私のミス。本来は祭りも必要ないはずだった。そして、封印を完全にする手はずも、まだ残されている」
「じゃあ、あの子達を送り出さずに、貴方が落とし前を付けるべきなんじゃないかな」
「それはできない。許してくださいな」

 神は瞠目した。
 形式的とはいえ、八雲紫が頭を下げたのだ。しかも理由のはっきりしない、感情的とすらいえる返答つきで。
 さすがにこれは予想外で、神奈子も諏訪子も、互いの顔を見合わせた。
 紫は二柱の神の前で、悲しげに微笑み、湖の方に目を向けた。

「ごめんなさい。私にも約束があるの。どんな形になっても、守らなくてはならない、大事な大事な約束が」










 忘れもしないあの日の光景。私は、人里に向かう道の途中にあった。


 空は変わらず黒雲に覆われ、辺りは暗い。吹く風の濁りも、『異変』が起こってからそのままに。

 それは前触れらしい前触れといったものもない、突然の出来事だった。
 黒い雲、轟く雷鳴が人里と言わずこの幻想郷の地の空すべてを覆い、夏の暑さは一転、冬の極寒と化してしまった。
 晴れぬ曇天や気温の低下のみならず、まるでめぐりめぐる天地自然のすべてに濁りが生じてしまったかのように、異変はいたるところに表れた。
 川は濁りあるいは枯れ、木々の緑葉は皆落ち、作物の穣まで痩せ衰えてしまった。

 前代未聞の変事だ。私と彼女はまだ正式な巫女ではなかったものの、里の長老などと協力してなんとか対処せねばならなかった。

 人里は、閑散としていた。
 かつては賑わいのあった通りには人っ子ひとりおらず、押し殺した気配がぴたりと閉じた戸の奥より、漂い来るのみ。
 私はそんな暗澹たる空気から逃れるように、歩を速めた。里の人たちが待っている。長老や名家の人々を集めて、この異変をどうのりきるかの策を講じる会合。
 まだ見習いとはいえ、博麗の者である私と彼女は、二人交代でその会合へ参加し様々に話し合いを続けてきた。異変に乗じて襲ってくる妖怪にどう対処するのか、どうやって明日の生活を支えるのかなど、問題は山積だった。

 この日もまたその通りで――そんな風に、思っていた。
 思っていた私が、愚かだったのだ。



「私が、人柱に!?」

 言葉を失う感覚とは、その時私の受けた衝撃の、それなのだろうか。
 話し合いが始まるや、すぐ、それは告げられた。

 博麗の巫女の犠牲をもって異変を鎮める。その人柱に選ばれたのは私――紗霧である、と。

 目の前で頷く里の人々。その中には彼女の父親の姿もあった。私はただ一人彼らの前に座り、突きつけられた現実に、唖然とするばかり。
 助けてくれる彼女は、私の隣にはいない。

 博麗の人間が身を捧げることで、この異変を治めることが出来る。確かにそれを私と彼女は知っていたし、里の人に知らせてあった。私と彼女、ふたりどちらかの命が犠牲となれば、みんなが助かるのだと。

 けれど私たち二人の間で、その相談はしていない。
 私は、聞いていない。

「どうし……いや、それは、決まった事なのですか?彼女も、知っていることなのですか!?」

 口の中が渇いてひりひりする。冬のような寒さなのに、汗が止まらない。信じられないと、叫びたかった。嘘だと誰かに言って欲しかった。

「彼女は何も言わなかった、私に、私に一言もっ!」

 けれど、答えてくれる人は誰ひとりいない。それどころか、何をお前は言っているんだと言わんばかりに、皆が私を不思議そうな目で見ている。
 その視線と沈黙に耐えかねた私は、居並ぶ里の人々の顔を見渡す。本当のことを教えて欲しい。そんな願いを込めた返しの視線が、ぴたりと止まる。

 彼女の、父親だった。彼もまた困ったような表情を浮かべている。
 私の眼が喰いついて離れないのに気づいたか、彼は、やがてゆっくりと口を開いた。

「それはもちろん。そもそもきみは、娘、いや彼女からこの話を聞いた上で、今日ここへ来たのではなかったのか?この話だって、あれの方からあったものだが……」

 その瞬間。
 体中の力が、一気に消えうせ、私は無様に崩れ落ちる。慌てて駆け寄り身体を支えようとする人の手を、しかし私は振り払った。
 彼女にあって確かめねば、と。信じたくないその気持ちが、一気に弾けたのだ。

 気がつけば私は、その場を飛び出すや神社を目指しに目指し、空を駆けた。

 彼女がそんなことをするはずがないのだ。勝手に私を人柱に差し出すなんて、そんなはずは。
 去来するいくつもの思いに押しつぶされそうになりながらも、鳥居をくぐり、かすかな日差しに暗く沈んだ境内へ。玉砂利を蹴立てて飛び込むや、私は大声で彼女の名呼んだ。

「――ッ!」

 返事はない。構わず社殿にかけ込む。

「――ッ」

 いない。開け放たれた扉の向こうは、暗い無人の部屋があるばかり。

「おねがい、返事をっ……――……」

 いくら呼んでも、どんなに声を張り上げても。
 今朝、笑顔で私を送りだした彼女の姿は、境内のどこにも見当たらなかった。そこに間違いなくいるはずの姿は、まるで神隠しにあったかの如く、影も形もなく消えうせていたのだ。

 いないはずが、ないのに。

 どうしても彼女に聞きたいことがあるのだ。確かめたいことが、あるのだ。
 神社に彼女の姿がないと分かると、私は再び境内から飛び出した。
 確かなあてがある訳ではない。けれど、じっと彼女の帰りを待っている気になど、とてもなれなかった。





 いつしか境内の玉砂利は白さを失い、辺りの暗さを、夜闇が手伝っている。
 方々を文字通り飛びまわり、疲れきって神社へ帰って来た私を迎えたのは、変わらぬ無人の社だった。
 私は独り、拝殿前の階段に座り込んでいる。

 その日私は、とうとう彼女の姿をどこにも見つけることができなかった。彼女は、私に何も教えてくれず、何も言わないまま、いなくなったのだ。そして、夜になっても帰らない。
 それは、一つの答えを否が応にも導いていた。私の最後の寄る辺を打ち砕く、非情な現実と言う名の解を。


「そういえば彼女、言ってたな……」

 何ともなしに思い出したのは、数日前の話し合いを、私が頭痛がするからと彼女に代わってもらった時。
 一日寝込み通しだった私は、彼女が里から帰って来ても、出迎えられず、床から上がることも出来ず。

 けれど彼女は少しも迷惑そうな顔をせず、かえって私を気遣ってくれた。その事がいっそう私に申し訳ない気持ちを起こさせて。
 そうやって謝ってばかりの私に、彼女は言ったのだ。

『気にしないでいいのよ。あなたの代わりに私がいるんだから、さ』

 その一言は、私を再び奈落へ突き落とすのに十分な、恐ろしい言葉。
 代わり。そう……私が人柱として身を捧げたところで、博麗の巫女は、彼女と言う代わりをもって受け継がれるのだ。
 そう、思い至った時だ。疑念は確信へと変わり、もう私の胸の内にしっかと根付いてしまっていた。

 彼女の父親が言ったことは本当だった。密かに私を人柱に選び――私を殺す手配を、彼女は既に済ませていたのだ!

「なんだ」

 ぷちん、と糸の切れた音を聞いた気がした。それは確かに、私と彼女を繋ぐ絆の最後の一糸が切れた音かも知れない。
 しかし私の耳に届いても、その音は、もはや心へ届きはしなかった。

「やっぱり私は、私は――」

 ふらり立ち上がると、無我夢中のうちに身体が動いていた。
 私は必死に駆けた。夜の境内を飛び出し、そして、刺すように冷たい夜気のなかを。駆けて、駆けて、駆けて。

 きゅう、と唇を噛んだ。荒い息にも構わず、血の出るほどに噛締めた。

 楽園を創ろう、と誓い合ったのだ。博麗の巫女になろう、と決意したのだ。力を合わせようと。きっと追いつこうと。
 私と彼女、二人が巫女になることなどできない。やがてどちらかが選ばれ、一人は彼女に守られるただの人間に戻ってしまう。そんな分かりきった未来に目をそむけることもあれば、はっきりと自覚を抱くこともあった。
 彼女の才能は私の遥か上を行き、何もしなければ、きっと巫女に選ばれるのは彼女なのだ。けれども、私にも矜持があった。彼女の背中に近づくため、文字通り血のにじむ努力を続けた。
 そしていつかは追いつけるはずだった。そのいつかが、来るならば。誰かの手で摘み取られることさえ、なければ。


「はあッ、はあッ――」


 切れ切れの息が、もう白く染まることもなくなったころ。
 視界が開けた。漠とした闇よりも濃い黒を湛えた、湖の水面が眼前に広がっていた。

 幻想郷の湖。異変の源、身を捧げるべきだと教えられた場所。

 博麗の力が間近に迫っているからなのか、湖は急に波立ち、風がその中心へ竜巻のように強く吹き上げ始めた。地鳴りのような低く重い音も大地から湧きおこり、天は黒々と湛えた雲をいっそう濃くし、雷鳴を響かせる。
 この地の悪しき歪み、龍の陰気がここに集まっているのだ。


 ――それを、鎮める?


 この私が……巫女にもなれず、ただ斬り捨てられただけの小娘が。
 恐ろしい光景を前にしても、私の心は波立つことなく。ぼんやり、そんなことを考えていた。


 大きく、稲光が閃く。轟音が空気を揺らした。

「はは……は……」

 知らず、乾いた笑いがこぼれた。
 博麗の巫女になったら、だなんて。思い出されたのは彼女と、戯れに互いを呼び合ったこと。
 楽しかったはずのその思い出も、今となっては滑稽に過ぎる。私が『博麗霊霧』になることなんて、とうとうなかったのだ。

 幻想郷の地と、私の命と。二つを天秤にかけて、みんなみんな、幻想郷を重く見た。私一人のことよりも、みんな、この土地のほうが大事だった。

「当たり前じゃない……私は、できそこないなんだもの。選ばれて当然だもの、ねえ?」

 例え、二人が親友であっても。巫女の責務の前ではそんなもの、まるで無意味だった。
 そもそも私と彼女は――本当に親友だったのだろうか。現に、彼女を信じ、頼り続けた私は人柱としてこの場にいる。他ならぬ彼女の言葉で、そうなったのだ。

 裏切られたんだ。彼女に。里のみんなに。幻想郷に。

 再び強く唇を噛みしめ、私はおぞましい黒の湖へと歩みを進める。一歩一歩足が地を離れるたびに、今まで私の信じてきたもの全てが崩れ、剥がれ落ちてゆく。
 いつしか私の体は湖水に浸り、それでも私は、湖の中央を目指し歩みを止めなかった。

「あっ」

 その一言を残して、私の全身が、漆黒の湖水の中に浸かりきった。それからはあっという間だった。

 四肢を絡め取る湖水の黒が、たちまち私の衣を墨染にして、身体の隅々を塗りこめてゆく。龍神の陰気が、この地を治め来た博麗の血肉を喰らわんと殺到する。
 氷のような冷たさにそんな感覚すら押し潰されてゆくようで、思わずあがいた手足は、けれども金縛りにあったかのごとくぴくりともしない。
 恐ろしい力が私を引き寄せていた。この身が黒に食べられる。そして、そして。

 瞬間、私が思い浮かべた姿。
 彼女の笑顔を思ったとき、私の心を支えていた、最後の柱が砕け散った。



 ――いやだ、死にたくないっ!!



 こぽり、と最後の息が泡を立てて昇ってゆく音がする。それきり、私の一切は闇に塗りつぶされた。









 過去の夢は終わり、時が体に戻ってくる。
 記憶に染みついて離れない、無情の冷たさを持つ、霧の湖の岸辺で、紗霧は目を覚ました。
 その湖の中心では、悪夢が別の形で続いていた。真の姿を取り戻した、邪龍神。その周囲で踊る、三つの影。

「ここにいれば、大丈夫ですよ」

 自分の背中が、誰かに支えられていることに気付いた。
 顔を上げると、蛙の髪飾りをつけた、緑の髪の少女が微笑んでいる。

「早苗さん……」
「なんだか、大変なことになっちゃいましたね、紗霧さん」

 彼女にその名で呼ばれたのは、初めてだった。
 けれども早苗は、初めて会った時と変わらぬ、優しげな態度のままだ。
 それが紗霧には、少し辛かった。
 
「貴方も……私を恨まないんですか? ずっと騙していたことを」
「恨むわけないですよ。事情を知ったのはついさっきですし、本当に驚いたけど……でも、少しそんな気がしていたんです。貴方は霊夢さんじゃなくて、別の誰かなんじゃないかって。だけど私は、一緒にいて楽しかったですから」
「…………」

 紗霧は彼女に頭をもたれ、また湖に目を向けた。 
 邪龍のいななきと、弾幕の遠鳴りが響き伝わってくる。ここから見れば豆粒ほどにしか映らない小さな者達が、遙かに強大な魔物に立ち向かっていた。
 彼女達の戦いぶりを見つめるうちに、紗霧は不思議な感情にとらわれていた。

「どうして……逆らえるのかしら」

 無意識に呟いたことに対し、早苗が反応した。

「貴方の時代では信じられませんか?」

 紗霧はうなずいた。邪龍に力で抵抗する、そんな無謀な考えを抱く者など、人間も妖怪も含めて、一人もいなかったから。
 だからこそ、自分のような存在が生まれ、怒りを長く鎮めるために、命を捧げることを強いられたのだ。 
 それが今、博麗の巫女ですら無い人間が、邪龍に挑戦している。さらには、

「妖怪さん達まで……」

 反対側の岸に集まっていた集団に、紗霧は気を引かれた。
 よく観察すれば、湖を囲むようにして妖怪達が集まり、結界を作っていることがわかった。
 それだけじゃなく、みんなが応援をしていた。龍の怒りを何よりも恐れるはずの妖怪が、ただの人間を一生懸命後押ししている。
 一撃が入る度に歓声が湧き、ピンチの度に悲鳴が上がり、邪龍の咆哮の度にどよめき、それに負けないようまた声を張る。
 幻想郷の危機を前にして、博麗神社で体験した宴会、いや、弾幕ごっこの観戦のような騒ぎだった。

「私の時代とは、まるで違う世界です。どうして、こんなことが……」
「なら、これがきっと、幻想郷が手に入れた強さなんですね。貴方のような犠牲者を、二度と生まないために」

 風祝の言霊が、紗霧の胸の内で、温かく弾けた。
 湧き上がる思いは、声援を受けて戦う人間達を見るうちに、さらに熱くなっていく。
 その声を、そして感情を振りほどくようにして、紗霧は首を振った。

「でも、龍には勝てません! ……勝てるわけ……ないんです」
「勝てますよ」
「どうしてですか」
「そう信じてるから、戦ってるんです。みんな、この楽園を守るために。私は新参者ですけど、もう同じ気持ちです」

 風祝は力強く言って、口を引き結んだ。
 身近で同じ場所に立っていたはずの少女が、まるで小さな神様のように見えて、紗霧は眩しさに目がくらみそうになった。
 早苗だけじゃない。早苗だけじゃない。魔理沙も、霊夢も、人間達も、そうでない者達も、この楽園に住む存在全てが、どうしようもなく眩しく、逞しく見えた。
 だがその輝きに、紗霧は惹かれていた。この時代に来られて、良かった、と思った。
 魔法使いの助言が、頭に浮かび上がる。自分はこの楽園を見るために、再び戻ってきた。

 本当に……見るだけ?

 早苗は厳しい顔つきのまま、立ち上がった。

「……紗霧さん、もう立てますか? これから結界の外に案内するので、避難していてください。私もまた参加してきます」
「……邪龍は完全な姿となるために、ある魂を求めています」
「え?」

 呪文のように呟きながら、紅白の巫女は立ち上がった。

「過去に取り込んだ肉体が、邪龍の性質に変化を生じさせた。弱点があるとすれば、そこに隠されている。私の役目は、今見つかった」
「……紗霧さん?」

 傍らで茫然としている風祝に対し、巫女はすがすがしい笑みを浮かべて、

「……拠り所を失っていた私に、一番親切にしてくれたのは早苗さんでした。忘れません。今までありがとうございました」
「……待って! 紗霧さん! 行っちゃだめ!」

 だが、紗霧はその声を振り切った。


 過去の一生を狂わせた悪夢と、もう一度対峙するために。









「星符『ドラゴンメテオ』!!」

 邪龍の真上から撃ち込んだ、色鮮やかな魔砲は、敵の結界を突き破り、奥の首を一つ吹き飛ばした。
 別方向から飛んできた雷に、魔理沙は追撃を止めて回避。

「くそっ、倒れてくれんな」

 また魔砲を撃ち込みつつ、魔理沙は舌打ちした。
 光線は龍の体に直撃し、残った頭部が狂おしい怒声を響き渡らせるものの、焼き滅ぼした側面はただちに再生を始め、反撃してくる。
 その中に、見覚えのある緑の玉を発見し、魔理沙は大急ぎで避難した。
 閃光と共に、爆音が曇り空に轟いた。余波の勢いだけで、箒の軌道がぶらされる。
 どうやら敵は、早苗の術までコピーに成功したらしい。爆風が届かぬ位置まで何とか退避した魔理沙は、帽子が飛ばないように押さえながら、

「次から次へと驚かせてくれるぜ。そのうち時間まで止めたりしないだろうな」
(魔理沙! 生きてる!?)
 
 霊夢から念話が入る。見れば紅白の陰陽玉が、こちらに飛んでくる所だった。

「まだぴんぴんしてるぜ。あちらさんもそんな感じだがな」
(ええ。首がまた生えてきてるわ。いくらでも再生するみたいね)

 すでに討ち取った邪龍の頭部は、八を超えている。
 加勢が二人増えたことで、一度に全て相手にしなくとも済むようになり、戦局はこちらに有利に傾いているはずだったのだ。
 ところが、邪龍の生命力は無尽蔵かと思うほどで、こちらの弾幕で傷つける度に、蛇の大群を元にして再生してしまう。
 やってることは、永遠のもぐら叩きに近かった。

「紫の言った通り、根元を絶たんと駄目か。核とやらが見えてるんなら、迷わず私が吹っ飛ばしてやるんだが」
(とどめを刺す役はあんたでいいとして、そこまであの蛇の鎧を掃除する役目がほしいわね)
「妖夢だけじゃ足らんな。咲夜と協力しても分からん。早苗が戻ってきてくれるまで……粘る……か……」

 魔理沙は湖の岸に目をやって、口が半開きになった。
 こちらに向かって、巫女が飛んでくる。それも白と青の巫女服ではない。紅白の方である。

「紗霧!?」
(……ったく。ちゃんと捕まえときなさいっていったのに)

 魔理沙よりも先に、陰陽玉が前に出て、近づいてきた巫女を念話で叱りつけた。

(こら! 何しに戻って来たのよ! あんたはしっかり私の身体守ってなさい!)
「返します」
(え?)

 紗霧は聞き返す陰陽玉を両手に持ち、そっと口づけた。
 長く引き延ばされた一瞬のうちに、二人の周囲で、青く電気のような物が走った。
 瞳を閉じた巫女は、空中でふらりとよろめき、倒れかける。
 あまりの出来事に面食らっていた魔理沙は、我に返って、彼女を抱きとめた。

「おい、どうした一体。いきなりこんなとこで寝るやつがあるか」
(大丈夫、気を失っているだけです)
「…………」

 魔理沙は浮いている陰陽玉を、食い入るように見つめた。
 頭に流れた念話は、霊夢の声ではなかった。

「紗霧……お前なんで……」
(ごめんなさい魔理沙。霊夢さんに、伝えておいてください。あの時、体を取り返さず、預けてくれてありがとうって)

 紅白の陰陽玉に戻った紗霧は、念話を通じて、感謝の気持ちを喜びに乗せ、伝えてきた。

(いつでも取り返そうと思えば、取り返せたはずなのに、彼女は待ってくれていた。楽園に浮かれる私の身を案じて、ずっと待ってくれていた。私の知る博麗の巫女とは、全然違ってました。でも、最後に裏切る形になって、ごめんなさい……)

 魔理沙はその時になって、霊夢がこれまで体に戻るのを先延ばししていた理由に、ようやく気付けた。
 だが今は、もっと切迫した疑念が、心にあった。

「お前、何するつもりだ」
(…………見ていてください)
「待て! 紗霧!」

 手を伸ばして掴もうとするが、陰陽玉はすり抜けて飛んでいく。いまだ妖夢達を相手に暴れ狂う、邪龍の本体へと向かって。
 そこで早苗が、息を切らしてやってきた。

「ごめんなさい魔理沙さん! 止めようとしたんです! でも!」
「後でいい! 霊夢を頼んだ!」

 巫女の体を早苗に受け渡し、返答を待たずに、魔理沙は陰陽玉を追った。
 スピードを上げるうちに、声が届く範囲まで迫る。

「答えろ紗霧! 何をするつもりなんだ!」

 すぐに念が返ってきた。

(邪龍の核は、過去に人柱として使われた、私の身体と一つになっています。復活した龍の狙いは私、残った魂の方なんです)
「だからどうした! むざむざあれにまた食われに行くつもりか!」
(上手くいけば、私の魂でコントロールできるかもしれません)
「確証はあるのか!?」
(できなくとも、核をむき出しにすることくらいは、きっと。後はその核を……)

 濁った台詞の先を、魔理沙は聞き逃さなかった。
 並走する陰陽玉を睨み、はっきり追求する。

「それでお前はどうなるんだ」
(………………)
「止まれ! 二度も犠牲になることないぜ! あれは私達が何とかする!」
(……犠牲じゃないわ魔理沙。あの時とは違う)

 返ってきた念話には、揺るぎなき誇りと、熱意が内在していた。
 彼女はさらに強く、魔理沙に向けて、告げる。

(今度は、私の意志で、あれと戦うの! 私は、博麗の巫女で、貴方のヒーローだから!)

 陰陽玉のスピードが増す。
 追いすがる魔理沙は、見たことのない少女の背中を幻視した。

 歴史から消え、たった今幻想郷に復活した、翼の生えた、古の博麗の巫女の背中を。 









 それより数分前、白玉楼の剣士は、蛇の沼で孤軍奮闘していた。
 迫る弾幕を一足飛びにかわし、吠える龍の首を霧靄へと変える。
 剣は心。義を見てせざるは勇なきなり。自らの正道を曲げることがあれば、剣はたちまち鈍る。
 例え逆らえぬ主人である幽々子の命令が無くとも、きっとこうしているはずだった。
 しかしこの異変は、ちょっとやそっとで切り崩せる存在ではないことが、すでに身に染みて感じていた。
 斬っても斬っても復活して向かってくる龍の首は、庭の桜の手入れとはわけが違う。地獄の草刈りのようである。

「けど、やるしかない!」

 また龍が顎を震わせて、星屑を雨あられと降らせてきた。
 妖夢はそれを体捌きでかわし、剣風で払って、首を一閃する。
 死角をついて、大きな触手がぶつかってきた。
 妖夢は剣を構えて迎え撃つ。勢いがそのままであれば両断していた。だが触手は楼観剣の前で減速し、刀身に絡みついた。

「あっ!」
 
 刀を離さなかったのが、逆にあだとなった。引き戻そうとする動きを止めるように、蛇の沼が妖夢の足を絡め取る。
 ぞっとする感触と共に、龍の口の一つが、こちらに向けて開かれているのが見えた。
 危機を救ったのは、ナイフの大群だった。触手の根元を貫いて、その先の頭を牽制する。
 妖夢は軽くなった手応えを遮二無二に振るって、脱出した。すぐ後を、龍の光線が過ぎ去っていった。
 背中をメイド長が預かりに来る。

「何でもかんでも一人でやろうとすると、足元をすくわれるわよ」
「ごめん……」

 命を助けられたことに、妖夢は素直に謝った。

「事前に聞いた話は、頭に入ってるかしら」
「どこかに隠れてる核を、剣で斬らなきゃ、倒せないってこと?」
「ナイフで穴だらけにする、っていう方法もあるけどね」

 弾幕に向けて銀の刃を飛ばしながら、咲夜は冷静な声音で言った。

「でも、いつまで経っても目標にたどり着けないのは問題ですわ」
「何か策があるわけ?」
「こちらへ」

 妖夢の手を引いた咲夜は、御札の波をかいくぐって、邪龍の体の側面部へと移動した。
 途中、再生していく龍の首を横目に、分析を始める。

「大きな頭が八つ。いずれも厄介な攻撃だから、全て一度は潰してきたけど、その度に復活している。けれども再生は、体に受ける傷よりも遙かに遅い」
「……ってことは」
「ええ。つまり、頭に核は無いわ。体のもっと深い位置に眠ってるみたいね」
「つまり、頭を無視して、体に剣を通せばいいのね」
「そして私の能力なら、貴方の剣をさらに効果的なものにすることができる。核までの道は通せるはずよ」
「通した後は」
「あちらに控えている大砲でいいんじゃないかしら」

 咲夜は遠くに見える、箒に乗った白黒の魔法使いを指した。
 飛んできた魔弾をかわしてから、妖夢は首肯する。

「集中に時間がほしい。援護して」

 咲夜も頷き返し、妖夢の背後に立った。
 攻めてくる龍の首共に対し、かわすことを止め、無数の投げナイフで相手する。
 妖夢の方は、弾幕のことを一切忘れ、刀を立てて、気を溜め始めた。

 これから繰り出す技は、使い手に心の揺れがあってはならない。緊迫したこの状況で選択するには、ふさわしい技とはいえないかもしれない。
 だが、これまでの異変騒ぎ、そして今宵の戦闘にて、背中を守るメイド長の強さは、十分に知っている。
 そして自分の知る魔法使いなら、チャンスを逃さず、核に大砲を撃ち込んでくれるということも、ちゃんと信じることができた。

「……断迷剣!!」

 機は熟し、妖夢、開眼。

「『迷津慈航斬』!!」

 大上段に振りかぶった楼観剣は、青く輝く、長大な霊気の刀身を作っていた。
 ありったけの気合いをこめて、妖夢は得物を垂直に振り下ろす。湖を割き、地の底まで届けという念で、邪龍の澱んだ体に刃を叩き込む。
 その一瞬に、咲夜の技が発動した。

「『プライベートスクウェア』」

 邪龍の表面が、奇妙なねじれを起こした。
 厳密には、咲夜が操る対象は時であるものの、その能力をさらに押し進めることで、空間に干渉することも可能であった。
 普段は館の部屋を広げたり、廊下を縮めたりして、模様替えや掃除に使うくらいにしか利用していない力であるが、戦闘の際には意外な使い方があるのだ。
 
 妖夢の剣が作った龍の傷口に、変化が起こった。
 迷いを捨てた渾身の一撃ですら、針の一点程にしか、敵の核に届くことはできなかった。
 だが、それで十分。咲夜の能力により、空間は一気に広げられる。
 極細の空気穴が、人が通れる程の洞穴と化した。

「あれが!」

 妖夢は眼を見開いた。
 蛇腹で作られた道の奥に、妖しく輝く物体を見つけたのだ。あれこそが邪龍の核。
 すぐさま剣を振るおうとした。だが、力を出し切った両腕は、得物をすぐに持ち上げるには重すぎた。
 咲夜の表情が、苦痛で歪む。
 急所をさらされた邪龍の強烈な反発により、空間が力押しで閉じられようとしている。
 二人は遠くで構えているはずの、魔法使いの追撃に期待した。

 だが、視界を横切ったのは、虹色の光線ではなく、全く別の存在だった。

「えっ!?」

 紅と白の陰陽玉だった。邪龍の核へとまっしぐらに向かい、光の中に飲まれていく。
 呆気にとられていた咲夜に、耐久の限界が来た。空間は再び閉じていく。だが、邪龍の傷口は、妖夢の剣が斬った状態から、再生を始めようとしなかった。
 八方に吠えたけっていた龍の首が、歯車が故障したかのように、ぎこちない動きとなった。
 何事か分からない二人に、念話が伝えられた。


(二人とも、ありがとう! 下がってください!) 









 ――やりやがった……。

 紗霧の取った行動に、魔理沙は驚嘆していた。
 一切の躊躇いもなく、非力な陰陽玉の姿で邪龍の体に突っ込み、妖夢と咲夜が作ったわずかなチャンスを、見事物にしてしまったのだ。
 さすが我がヒーロー、と思ったのはほんの一時だけだった。
 彼女の念話が龍の底から、魔理沙の心に届く。

(撃って魔理沙! あの時教えてくれた、本気の魔砲を!)

 絶好の勝機が、魔理沙の目の前に転がってきている。
 妖夢と咲夜は、動きを見る限り、場を離れる体力しか残っていないらしかった。
 余力があり、とどめの役にうってつけなのは、自分に他ならない。今こそ、鍛え抜いた火力の出番であった。
 けれども、

「できない!」

 魔理沙は叫んだ。
 邪龍が咆哮し、首の一つが、核から陰陽玉を引き剥がそうとするかのように、自らの肉体を食い破り始める。
 他の首は魔理沙へと狙いをつけ、唸り声を上げるものの、弾幕を撃てない状態に怒り狂うことしかできずにいた。 
 また焦燥にかられた念話が届く。

(早く! 間に合わないわ! もうこれ以上、私に罪を重ねさせないで!)
「嫌だ! 絶対にお断りだ!」

 死よりも重い覚悟が、魔理沙に強いられていた。
 魂とはいえ、人を一人、自分の手で殺す。それも、魔理沙にとって、赤の他人ではない。ある意味、もっとも自分に近い友人を。
 他の逃げ道を、紗霧を助ける方法を、思考が勝手に回り始め、必死に探り当てようとしていた。
 その間にも時は過ぎ、邪龍の傷口は鳴動し、回復を始めようとする。

「……魔理沙、やれる」

 背中から、水を浴びせられた気がした。
 魔理沙に声をかけてきたのは、意識を取り戻した霊夢だった。早苗に支えられながら、蒼白な顔で腕を持ち上げ、こちらに何かを伝えようとしてる。 

「『私達』なら……やれるわ。全力で……あれを撃ち抜いて」
「そんな……!」

 早苗が悲鳴じみた声で、霊夢の案に首を振る。
 魔理沙だって、叫びたい気持ちだった。胸の内を様々な葛藤が入り乱れる。
 博麗の巫女は、幻想郷のためなら、いかなる犠牲も気にすることはない。紗霧があの時言い放った、呪いの言葉まで、この期に及んで復活する。

(魔理沙! 早く!)
「……魔理沙!」

 霊夢は紗霧を見殺しにしようとしているのではないか。

 その邪念を解き放ったのは、同じく紗霧が、別れの際に自分に告げた真実だった。
 霧雨魔理沙は、博麗の巫女よりも、博麗霊夢という自分の親友を信じる。

「……わかった。早苗、力を貸してやってくれ!」
「で、でも!」
「任せたぞ!」

 二人から距離を取り、魔理沙は最後の魔法薬を口に含んだ。
 そして、閉じゆく核への入り口へと、八卦炉を構えた。
 苦い粉を喉の奥に流し、息を大きく吸って、止める。両手できちんと持ち、腕に余裕をもたせる。


 空気が変わった。


 腹の底で、思念の螺旋を描くイメージ。踵から魔力を、指先まで汲み上げていく感覚。

「……マスタァァァァ」

 魔理沙は、体内に眠っていた力を、八卦炉に注ぎ込みはじめた。
 魔砲が一つ分、二つ分、と充填されていき、茶色の八卦炉が、黄金の光を放っていく。
 ざわめく髪の毛が、頭の帽子を持ち上げ、白と黒のエプロンドレスが、風にはためき始めた。
 リミッターを外した八卦炉は、さらなる魔力を要求してきた。

「アアアアアアアア……!!」

 目に映るほど、濃い魔力の粒が、両手の中に吸収されていく。
 空間が震動し、魔理沙の真下の湖水までもが、大渦を巻き始めた。
 だが魔理沙は、まだ止めない。限界はもっと先にある。五つ、六つと溜めこみ、歯を食いしばって七つめを積み上げる。
 膝を揺らすほど大きく心臓の音が聞こえ、頭にソーダが流し込まれたようなトランスに踏み込み、ついに八つ分が溜まって、

 魔理沙は引き金を引いた。



「スパーク!!!!」



 極太の光線が、目撃した人妖全ての視界を、白く焼いた。

 圧倒的な魔力の奔流が、虹色に輝きを放ちながら、核に取り付く陰陽玉へと迫る。
 妖怪だろうと神だろうと、倒すために磨き上げた、魔法使いとしての、集大成。 
 そのままでは、邪龍の核はおろか、取り付く陰陽玉もろとも消し飛ばしてしまうはずだった。
 だが、魔理沙の魔砲よりも早く、発動していた術があった。

「夢想……天生!!!」

 霊夢の奥義だった。
 魂の交換の直後でありながら、気力と霊力をありったけ振り絞り、早苗の霊力までも借りて、発動させた封印術。
 七つの陰陽玉が、霊気に青く発光し、核の周囲から高速で迫っていった。
 しかしそれは攻撃を行わず、紅白の陰陽玉、紗霧を標的として、一点に封じ込める。
 すかさず、魔砲が着弾した。

 ――そうか!

 八卦炉を構える魔理沙の脳裏で、理解が弾けた。
 霊夢の術の目的は、邪龍の核を攻撃することではなかった。
 その前に存在する陰陽玉の『盾』となり、魔理沙の『矛』を遮ることで、龍の核だけを消滅させる狙いだったのだ。
 光線の威力は絶大だった。湖はおろか、妖怪の山にすら穴を開けることができそうな程に。
 だが、霊夢の術も凄まじかった。陰陽玉の前で、その力を凌ぎきるだけの念がこもった、珠玉の封印術だった。
 花火玉を数百発一度に火をつけたとしても、この光景には及ばないだろう。錯綜する光の中で、邪龍の核が消失していく。

 八つの首が、断末魔の咆哮を上げた。
 幻想郷が誕生して以来、たまり続けた淀みが、純粋な人間の魔力によって、大気へと散らされていく。
 ついには頭の一つ一つが崩れ、元の汚泥の様となり、それすらも光線に飛ばされていく。

 魔砲が徐々に、収束していった。霊夢の封印術も、効力を失っていった。
 魔理沙は力尽きて、箒ごと湖に落ちていく。霊夢も、それに続くように。
 だが、ぱきん、と澄んだ音が、朦朧としていた魔法使いの、臓腑を掴んだ。
 邪龍の死骸の中に、ふらふらと陰陽玉が浮いている。ぱきん、ぱきん、とひび割れて、砂となってこぼれ落ちていくのを、揺れる視界の中で、眺めることしかできなかった。

 ――そんな……。

 しかし、絶望に落ちかけた魔理沙を、続く光景が救い上げた。
 陰陽玉が消えて無くなった空間、その一点に、小さな、魂があった。
 残された邪龍の体が巨躯が、風に乗って渦を描く。
 蛇だった体が霧となり、黒から白へと変わって、空に舞い上がっていく。 
 黒々とした曇天が、白い霧を吸い込んで、徐々に雨雲が、青空に溶けていった。

 岸に断つ妖怪の一人が、指をさした。すぐに、他の者達も気がついた。
 雲の輪から差す、天からの光に導かれるように、魂がゆるやかに昇っていく。
 そして彼女の念話は、見守る全ての人妖達に、確かに届いた。


 ――魔理沙、霊夢、そしてみんな。ありがとう。短かったけど、博麗の巫女になれたこと、忘れない。



 それは戦いの前に聞いたような悲痛なものではなく、彼女の心からの言葉。柔らかく、温かい彼女の気持ちそのものだった。

 上りゆくその魂が思い返すのは、儚くも楽しかった日々。生まれ、死んで、また生まれ。
 たくさんの思い出と、その中に現れるひとびとが、みな優しく彼女に微笑みかけた。彼女が生きたことは決して無駄でなかったと、教えてくれた。

 やがて思い出は尽き、ぼんやりと辺りが別の形をなしてゆく。

 自分は死ぬのだろうか?待っているのは、彼岸?それとも、なにもない無の世界?



 全ての予想を裏切って紗霧の心に広がったのは、ありふれた、見慣れた光景だった。


 いつか、誰かが見た博麗神社。
 彼女の知らない記憶が、そこにはあった。









 博麗神社、境内。

 真白き羽をひらりひらりと、蝶が、独り舞い踊る。
 玉砂利の上に落とす影は小さく、その孤独を写す鏡のように、湛えた色は沈んだ黒。
 けれども、降り注ぐ日差しは柔らかだ。
 見上げる空は青々と澄み切っている。浮かぶ雲は無垢の白で、吹く風の運ぶ空気は滑らかに清い。


 春が、来ていた。


 遠く望む野原に咲く花も色とりどりに、枯れ枝の後に芽を吹いた若葉の緑はただただ明るい。
 長く、暗い冬の跡はどこにも見当たらず、この郷のすべてが、新しい季節を謳歌していた。

 神社の境内にたたずむその少女は、そんな郷に吹く春風が忘れていった、桜の精のようだった。紅白の衣装に身をつつみ、じっと何かを待っている姿は、開花を待つつぼみにも見える。
 けれど境内の桜の花はとうに咲き誇り、あたりを赤く染め上げている。咲いたが最後、散るばかりの花弁をいっぱいに枝に留めているのだ。

 二度目の風が吹き抜けたとき、紅白の少女は、ふと顔を上げた。
 境内の空気が、僅かに、揺らいだ。

「ごきげんよう。博麗の、巫女」

 柔らかな光を鋏で断ち切ったように、何もない空間が割け、その中から姿を現した妖怪は言う。
 振り向く紅白の巫女に、驚きの表情はない。大地に降り立った妖怪を正面に迎え、ただ、曖昧な笑みを浮かべているばかりだ。

「ええごきげんよう、八雲紫。妖怪の賢者様」
「お久しゅう。あまり良きに過ぎるこの日和、せっかくの冬眠からも覚めてしまいましたわ」
「さもあらんと思います。なんといっても春が来たのですから」
「ええ。春が、来たのですからね」
「はい、春が……」

 春の訪れ。それは二人にとって、特別な意味を持つ言葉なのだろうか。
 相対したきり、彼女らは口を噤む。あたかも特別な春を、その身すべてで改めて実感するように。

「覚悟は、できたようね」

 そう言って、八雲紫はかろく少女の姿を眺める。
 紅白の服。巫女の装い。少女はその視線と言葉の意味に気付くと、切なげな微笑を浮かべてみせた。

「はい、あんな家とはもう、縁を切りました。私は、博麗の巫女を継ぎます。そして博麗の巫女としてのみ、生きていきます」
「それはあなたの決断。私が口をはさむことではありません。ですが……本当に、覚悟はできたのですね?」

 妖怪は無表情に問う。少女の笑みが、情けなく崩れた。

「やはり、分かってしまいますか。……そうです、本当はまだ、迷っています。本当に私が、私なんかが巫女になって良いのかって」
「どうして?あなたをおいて他に巫女をできる人間はいません。あなたが臆せばこの地は我ら妖怪のもの。再び冬が来るのです。それでもあなたは良いのですか?」
「でも……でも!」
「そんなことは誰も望みません。彼女とて、そうです」

 その言葉を聞いた途端、巫女は、声を張り上げた。

「あの子は、紗霧はっ。本当は、彼女が巫女になるはずだったっ……代わりに私が、私が……」
「過ぎたことです。それに、あなた一人の落ち度ではありません。むしろ責めは私が負うべきもの。妖怪の賢者とは名ばかり、私はあなたたち博麗の手を借りねばこの地を守ることはままならなかったのです。尊い犠牲をあなた達二人のどちらかに、強いてしまった」
「里の人にもお願いしてっ……彼女をよろしくって、それであとは、私が行くだけだったのに!あの日、彼女に隠れて、慧音様へ相談に言ったばっかりにっ……」

 少女は肩を震わせ、慟哭する。けれど彼女のそばに立つべきもう一人の少女は、あの日、闇に飲まれてしまった。
 取り返しのつかない小さな行き違いと、二人の知らぬ間につかれた大きな嘘。
 その結果は、あまりにも残酷に、残された少女を苛んだ。

「あなたの家の者が動いていたのは、私も関知していました」

 妖怪はじっと少女の前に立ったまま、手を差し伸べることも、傍で支えることもしない。

「彼らはあなたの名を騙り、あの子……紗霧に人柱の役を押し付けた。あなたの不在を、見計らってのことです」
「どうして……どうしてっ」
「……人は愚かです。ですがそれを看過した我ら妖怪もまた、愚かなのでしょう。責めたければ責め、憎みたければ憎めばよい。けれど最後に一つだけ、あなたに聞いて欲しいことがあります。愚かな妖の願いを……」

 妖怪は、巫女にそっと手を差し伸べる。その上にはぼうとした形の定まらない光の珠があった。
 少女はそれを目にするや、あっと小さな驚きの声を上げた。

「彼女は人柱の役目を、立派に果たしました。ただ、彼女がその死の直前に抱いてしまったが感情のために、封印は不完全となりました」
「不完全ですって?」
「役目は、立派に果たしているのです。ただその心、魂は、恐怖や苦痛に染まってしまった。最後の最後に……残念ながら、それは後のちの禍の源となるやも知れません」

 ゆっくりと妖怪は少女へ、その光を手渡す。両手で、大切な物を渡すように。
 事実それは、大切などと言う言葉で言いきれるものではないのだ。

「ですから私はこうして、彼女の魂を掬いあげました。陰気を湛えたまま封印の地に要として留めておくのは、かえって宜しからぬと。あえて彼岸への旅に出し、六道を輪廻させれば、その間に彼女の魂は清められることでしょう」
「あの子が、ここに……」
「最後のご挨拶にとお連れしたのです。役割を果たした今、彼女は眠っています。怖れや慄きを胸に、来るはずのなかった次の生を、じっと待って」

 形の定かならぬ光――親友の魂を、少女は抱きしめた。
 答えの帰って来ないたくさんの問いと、たくさんの謝罪と、たくさんの願いを込めて。一度その手を離れれば、もう二度と彼女は戻って来ない。

「……もう一度言いましょう、彼女は立派に責を果たしたのです。ですから次は、残されたあなたたち博麗の巫女の番。魂なき封印が不完全である以上、あなたたちは彼女に代わり、鎮めの儀式をこれからも続けてゆかねばなりません。そう、六十年に一度――やっては、くれませんか」
「待って。あなたは、あなたはどうなるのです?さっき、あなたも仰った。責めを負うのは自分だと……強いたのだ、と……」
「ええもちろん。私も、大きな咎と、果たすべき役割があります。あなたたち博麗とともに、この地を真の楽園とせねばならないのですから。それは私の願いでもあり、同時に」
「私の、私たちの願いでもあるから……」

 二人で、誓ったのだから。楽園を作ろう、そのために力を合わせようと。
 そのとき結んだ指は、今でも少女の心の中で、離れずにいるのだ。

 少女の眼に決意の火がともったのは、その時だった。

「……私からもお願いをしても良いでしょうか。八雲紫、あなたに」
「ええどうぞなんなりと。この妖めにできることであれば、ね」

 少女が抱きしめた光。愛しげな眼差しをそそぎ、博麗の巫女はかすかに笑んだ。

「この子に――紗霧に、私は楽園を見せてあげたい。彼女の成し遂げた全てを。私たちの、ううん、彼女の夢を」
「それは……」
「いつか本当に楽園がこの地に成るのならば、それを目にする権利が彼女にはある。そして私たち博麗の巫女とあなたには、自らの言葉が嘘でない証明を、彼女に示す義務がある。……だから私は紗霧の魂を封じ、留めます。彼女の魂を、彼女のままで、残します。全ての条件がそろったとき、博麗の巫女にしか解けぬ封印をもって」

 何年何百年かかろうとも、彼女なら待つことが出来る。一度身を捧げ肉体を離れた魂なら、きっと。
 巫女のそんな決意が、妖怪を言い淀ませる。大妖怪の智慧をもってしても、人はときに測りきれぬ行動をとるのだ。

「神に仕える巫女とは思えぬ言葉ね。そのような真似こそ後の禍根となるでしょう。それでも、あなたはやると言うのですか?」
「ええ。その禍根こそ、他ならぬ私たち博麗の巫女が負うべき咎ですから。……ですから、お願いです八雲紫。あなたは見守り、そして見届けてください。そのときが来るまで眠り続ける彼女と、私たちの、夢の行く末を」

 沈黙が、痛々しく辺りを支配する。
 動くものは、春風にそよぐ緑と、その姿を追う影の黒。
 妖怪は、やがて口を開いた。

「……分かりました。ならば、私は止めません。あなたと続く博麗の子らに全て託すとしましょう」
「ああ、ありがとう、八雲紫。本当に、本当に――」









 神社の情景は遠のき、気が付くと私は、真っ白な世界にいる。
 すべてが、分かった。あれは私の魂と共に、陰陽玉に封じられた記憶。彼女が残した、最後の……


 ――ごめんなさい。


 彼女は、私と同じくらい苦しんでいたのだ。せめて私にだけは分かって欲しいと、届かぬ叫びを私に向けて。
 数百年も私たちは行き違い続けて、ようやく声の届く場所に来た私は、そんな彼女の叫びに気付けなかった。

 彼女はずっと、親友でいてくれていたのに。二人の間に結ばれた約束の糸は、切れてなんていなかったのに。

 そう――楽園は、幻想郷は、確かにあった。そして私はその中で間違いなく生きた。それが人の体を借りた偽りの生だとしても、そこで見たもの、聞いたもの、感じたもの、そして、触れ合った人々……それらは決してなくならない。なくなるはずがない。
 彼女と目指した未来は、まぎれもなく現実となっていたから。夢は、叶っていたんだから!



 光が、私を包み込んでゆく。その向こうには彼女が――私の親友が、待っている。



 さようなら、私たちの楽園。

 そして、ありがとう。































☯ エピローグ ☯









 霞漂う闇の奥、二色の蝶が舞い遊ぶ
 残りわずかな灯火を、互いに与ふようにして




 その実態は、博麗の巫女が蔵の片付けをしているだけである。
 清潔で鮮やかな巫女服に身を包んだ可憐な少女、そんな瑞々しい外見だというのに、手つきはいかにも物ぐさで、今にもどっこいしょ、と掛け声が出そうな動きだった。

「だから……里で保管してくれればいいってのに……よっと」

 博麗霊夢は楯を入れた大きな箱を隅に寄せ、ふぅ、と額をぬぐった。
 他にもまだ神楽鈴を含めた、様々な道具が転がっている。いずれも、今回の葛琉祭に使用した神具だった。
 やがて霊夢は片づけを終え、最後に残していた、新しい巻物を手に取った。
 表情から不服の色が消え、安らぎにも似た微笑が浮かんだ。
 彼女は巻物を一度広げてみて、その一点に目をやり、うん、と満足げに頷く。

「霊夢ー、まだか」

 声と共に、戸口からひょいと顔を覗かせたのは、金髪の癖っ毛にとんがり帽子を乗せた少女である。
 いつもの白いエプロンを飾りとした黒い洋服姿だが、今は箒の代わりに、空の桶と杓子を手にしていた。
 霊夢は巻物を閉じながら、その友人に軽く二言。

「もう終わったわ。あんたも少しは手伝ってよね」
「いや、入るのは遠慮する。今度は何が見つかるか分からんからな。さすがにもう懲りたぜ」
「ふふっ」

 小さく笑って、霊夢は巻物を箱に収め、蔵の手前側、手の届きやすい場所に安置する。
 片づけが終わったところで、服の埃を払って立ち上がった。

「お待たせ。じゃあ行きましょう」




 博麗神社の周囲には、参道から境内に至るまで、鎮守の森が続いている。
 ブナやミズナラ、カエデなどの多様な樹木は、夏は緑に生い茂り、虫や鳥達の楽園となって、神社を賑わせていた。
 蝉時雨の止まぬその森をしばらく行くと、神社の正面にある石段より狭く、左右に草が生い茂った段々が現れる。魔理沙と霊夢は、その段を下り始めた。

 夏虫の声を下敷きに、時おり野鳥のさえずりが流れてくる。頭上は木の枝が近いため、足場の悪さを我慢して歩かなくてはいけない。巫女は慣れた様子で、魔法使いを先導していた。
 進むにつれて緑の匂いが強くなっていき、唐突に視界が広がって、快晴の空が現れる。その下に、墓石が立ち並んでいた。
 幻想郷の東端にあるこの山の中に、ぽつんと目立たぬように作られたこの墓場は、下りてみると木々の狭間から、幻想郷が見渡せる位置にあった。
 霊夢が桶を受け取って、端にある井戸に水を汲みに行く。
 残った魔理沙は、立ち並ぶ古い墓の中に、一つだけまだ新しい白色の墓を見つけ、その前で足を止めた。

「……………………」

 しばらく無言でそれを眺めているうちに、霊夢が水桶を手に戻ってくる。
 二人で墓の回りの小石を取り除き、柄杓から水をかけて、摘んできた季節の花を活けた。
 線香の火は、八卦炉で点けることにした。霊夢も何も言わずにそれを受け取り、二人は順に立てて、手を合わせて祈った。

「……博麗霊霧か。ちゃんと博麗ってつけたんだな」
「うん」

 呟くように言った魔理沙に、横に立つ霊夢も頷いた。

 邪龍を倒してから、一週間が経っていた。だが、魔理沙がここに来るのは初めてだった。
 幻想郷の平和を取り戻した殊勲者の一人になったはいいものの、その後永遠亭で、しばらく寝込む事になったのだ。
 全力で魔砲を撃った直後に、湖で霊夢の体を抱えて必死の水泳である。
 気絶した後に迷いの竹林に担ぎ込まれ、入院する間に、新たな儀式も墓の建築も終わってしまっていた。
 もちろん、そんな短いウラシマ生活に、納得できる魔理沙の性格ではない。動けるようになってから、半ば脱走する形で永遠亭から退院し、すぐに霊夢の所に駆けつけた。
 彼女は魔理沙の希望を受け容れ、蔵の片づけを先に済ましてから、墓所に二人で向かうことになったのである。
 博麗神社の裏に、こんな場所があることを、魔理沙は初めて知った。
 役目を終えた博麗の巫女達が、幻想郷を影から見守りつつ、ひっそりと眠る場所。
 目の前の墓に眠る存在に対して、遅すぎる処置だったとも思うが、それでも彼女の願いが適えられたことに、ある種の達成感があった。

「なぁ……」
「ん、なに?」
「……いや、何でもない」
「何よ、言いなさいよ」
「えーとだな、あれから何か他に変わったことは無かったか? 何か体の調子がおかしくなったりとか」
「別に。お茶も美味しいし、お賽銭は入らないし。陰陽玉の頃と大して変わんないわよ」
「……あっそ」

 魔理沙は呆れて、そっぽを向いた。
 霊夢自身に対しても、聞きたいことが山ほどあったのだ。一番聞きたかったのは、湖で紗霧と対峙した時のことについてだった。
 あの時自分が水を差さなければ、霊夢はどのような決断をしたのだろうか。幻想郷と自分を天秤にかけ、最後にどのような行動を取ったのだろうか。
 しかし、答える必要なんてない、と言ったのは、魔理沙自身である。聞くわけにはいかないし、それに本人も、空とぼけるようにしか思えない。
 とにかく、この巫女はそういう性格だと熟知していた。

「あーあ。それにしてもいなくなると、やっぱり寂しいな」

 魔理沙は意地の悪い笑みを浮かべて、わざと大きな声で言ってやった。

「優しくてお淑やかな巫女が恋しくなるぜ。誰かさんが、また記憶を無くしてくれれば面白いんだけどなー」
「よく言うわよ。初めに会った時は、あんだけ怖がってたくせに」
「はは、そうだった……あれ?」

 帽子をかいて苦笑してから、霊夢の発言の、おかしな点に気がつく。

「変だぞ。お前はその時、陰陽玉に入ってたはずじゃないか」
「ええ、そうよ」
「じゃあどうして……」

 そこで魔理沙は理由に思い当たり、すまし顔の巫女を、穴の開くほど見つめた。

「……まさか、覚えてるのか? あの紗霧がお前だった時のことを」
「頭に残った記憶は、本当は消せたはずなの。忘れることを薦められたんだけど、でも断ったわ」
「なんでだ」
「捨てたくなかったから」

 霊夢は白紙の墓を見ながら言って、それから――背後にある幻想郷を一望した。

「この記憶も、あの子が博麗の巫女として生きた証だと思ったら、ね」

 伸ばした黒髪が、赤いリボンの間で、そよ風になびく。
 その横顔は確かに、魔理沙がずっと知っている霊夢のものだった。けど、ほんのわずかに、魔理沙が短い間に過ごした、霊夢の面影があるような気もした。
 現代に突然現れ、博麗の巫女に対して一途だった少女。彼女がこの楽園で、何を見て、何を考え、何を想い生きたか。
 そうした迷子の思い出を受け容れられるのも、あるがままに生きる霊夢の強さだった。
 またきっと、今回の異変で、当代の博麗の巫女は新たな強さを身につけたのだろう。

 それでこそ、生涯のライバル。追いかけ甲斐があるというもの。

「……よーし! 宴会だ宴会! 早速準備しようぜ!」

 魔理沙は彼女の肩を抱き、元気よく歩き出した。

「ちょっと、聞いてないわよ。まさかこれから集める気?」
「その通り! 今決めたからな!」
「あんた病み上がりでしょうが。無茶して大変なことになっても知らないわよ」
「こんな日は飲むに限る! 特にお前は朝まで付き合ってもらうぜ!」
「はいはい。片付けもちゃんと手伝うなら考えてやるわ」
「知ってる奴を片っ端から呼ぶぞ! 全員だ全員!」

 青く澄み渡る空の下、夏の緑が続く道を通って、二人の少女は、墓地から仲良く去っていった。



 博麗神社の蔵には、博麗の巫女の系図を記した、新しい巻物が眠っている。
 そこには、過去に二度幻想郷を救った英雄の名が、当代の巫女の手によって、秘かに書き加えられていた。




(おしまい)
・博麗
博麗です。まずは、こんな長い作品を投稿してごめんなさい……じゃなくて、読んでくださってありがとうございます!
ミストさんのアイディアを形にして、限られた時間を使い、何とかここまで書き上げることができました。
陰陽玉霊夢は、書いていてすごく可愛かったです! また書く機会があるといいなぁ。
それでは改めて、ご読了ありがとうございました!

・ドラゴン
ドラゴンです!
母星からの電波受信担当でした。主に妨害電波。
長い長い物語を一部でも担ってゆくのは大変でしたが、良い勉強になりました。
お読みいただいた方には、最大限の感謝を。

・ミスト
ミストですっ。
前二人と合わせて、博麗ドラゴンミストです〜。
霧の如く存在を感じさせず、みんなを包みこんで気温を若干下げる程度の作業を担当しておりました。
ちなみに「霧」という言葉は今作の重大なテーマになっています。
霊霧は霊夢と同じ音であると共に、努力家の霧雨(魔理沙)にも掛っているんですよ!(キリッ
と冗談はこれくらいにして、霧は霧らしく霧散しようと思います。
こんなにも長い作品を読んで頂きありがとうございましたっ。


9/25
お久しぶりです。博麗ことPNSです。遅くなりましたが、メンバーからのコメ返しをお届けいたします。
たくさんのコメントと好評価をありがとうございました。300kbが報われた思いでございますw

秘密というほどでもありませんが、ちょっとしたエピソードを。
タイトルの『うらみっこ』には、「恨みっこ」と、「裏巫女」の二つの意味が込められていました。
半日かけて様々なタイトルを考えましたが、結局これが一番シンプルでいいんじゃないかということで落ち着いたわけです。
しかしエンディングでは、どちらの言葉からも、紗霧は解放されています。ハッピーエンドはメンバー共通の思いでした。
内容については、展開は王道、しかし設定では冒険だらけ。〆切から解放された私達の燃え尽きた姿も立派なSSの材料に(ry
はい、余計な話になりそうなので自重しますw それではあらためて、読んでくださった方々、そしてコメントしてくださった方々、ありがとうございました。



※なお、メンバーは全てそれぞれの顔文字で返信いたします

博麗(PNS):( ・∀・)( ;∀;)(;゚д゚)
ドラゴン(蛸擬):(゚ε゚)(゚з゚)
ミスト(如月日向):(`・ω・´)



2. 20点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/01 03:35:53
自分勝手で不快に感じる登場人物が多かった

 ( ;∀;)
 だー、申し訳ございませんorz
 私は東方キャラって大半が自分勝手なイメージがあるのですが、しかし不快に感じさせてしまうほど嫌なキャラもいないと思うので……。
 どこかに行き過ぎな部分があったのかもしれません。次回作は気をつけたいと思います。

5. 100点 大和 ■2010/07/01 13:39:37
なんだか、〜劇場版 東方Project〜 ってかんじがして良かったです!

 (゚ε゚)
 こうご期待。ですね! ちなみに東方香霖堂の発売と同時公開だっててゐが言ってましたよ。

12. 100点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/ 01 21:57:46 01 21:57:46
読み終わったときマジで泣きました

 (`・ω・´)
 書いてるときにマジで泣きました。
 (締め切り的な意味で)
 というのは冗談にして、そこまで感じて頂けた方がいる事がとっても嬉しいですっ。

13. 100点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/ 01 22:00:26 01 22:00:26
王道な展開をうまーく魅せる形にしてますね。 霊夢in陰陽玉シーンのコミカルな描写なんかも分量ある作品をスラスラ読ませる要因になったと思います。面白い作品を読ませていただき有難うございました

 (`・ω・´)
 読みやすい作品を心がけていたので、狙い通りっ。
 陰陽玉のほかには、早苗さんもコメディ要員として頑張ってくれました。今作の影の主役かもしれません。

19. 100点 873 ■2010/07/02 20:00:08
堪能させていただきました。
素晴らしい王道物語でした。ありがとうございました。

 (゚з゚)
 王道こそ至高。故に調理が難しい訳ですが、ご堪能いただけたとあらば本望です!

20. 90点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/02 20:58:37
うほ、これはいい俺得。前後編すらりと読めました。面白かったです。ただ、オチが予想と違ったので−10点で。

 ( ・∀・)
 ありがとうございます。どこら辺が得だったかについても是非知りたいところですがw
 オチは一番王道的というか、すんなりまとめる形になりました。が、もう少し冒険することもできたかもしれません。

26. 100点 あおこめ ■2010/07/03 13:21:33
笑いあり、涙あり、バトルあり、300kbを超す大作ですが、長さを全く感じませんでした。
小さなトラブルがどんどんの大きな事態になっていくストーリーって最近見る事が少なくなってしまった気がします。
創想話初期〜3年目の名作を彷彿とさせる様な、登場人物がみんな元気一杯な作品でした。

 ( ・∀・)
 おお! 長い容量をどれだけ軽快に読ませるか、というのも目安に入っているので、上手く書けていたのであれば嬉しいです。
 ちなみに私、創想話初期〜三年目の名作が大好きなので、絶対に影響は受けていると思います、ご明察ですw
 またこんな大きな材料を見つけて書いてみたいですねぇ。

25. 80点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/03 10:25:28 10:25:28
長い話をしっかりまとめっきったお三方に 拍手 拍手! 王道でした

 (`・ω・´)
 ハッピーエンドにしよう!
 というのは、最初の会議ですぐに決まりました。
 やはりハッピーエンドは王道。そして大団円は拍手で締めるべきですね。
 パチパチパチ。

27. 100点 霽月 ■2010/07/03 14:27:36
なんかもう、物凄くいい作品でした。
前半の魔理沙と紗霧のやりとも、魔理沙と霊夢のやりとりもすごく雰囲気があってよかったですし、
後半の幻想郷が一つになってる、っていう感じもよかったです。
そして、紗霧の迷いや、決意に胸を打たれました。
最後の方はディスプレイが見えなかった・・・。
素晴らしい作品をありがとうございました!

 (゚ε゚)
 こんなに素晴らしい評価をいただくなんて、ディスプレイが滲んでよく見えないよ……
 幻想郷は一つ、というお言葉、しかと胸に刻まれましてございます。ありがとうございました!

32. 100点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/04 01:35:37
すごくよかったです。
引っかかる所とかもありましたが圧倒的な面白さに飲まれてしまいました。
素敵な幻想郷の話でした。

 ( ;∀;)
 素敵な幻想郷、というのは嬉しいコメントです。
 完成度が高いのも目標ですが、突き抜けた面白さ、というのも、SSにおける大事な要素だと思いますので、それが実現できていたのなら、満足かなーと。

35. 100点 名前が無い程度の能力
■2010/07/ 04 02:16:08 04 02:16:08
史上最高傑作だ この作品には100点すら生ぬるいそして俺もその高みを目指す

 (`・ω・´)
 ありがとうございます。
 そしてあなたのSSを楽しみにしていますっ。

38. 100点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/04 12:57:05
良い話でした。
博麗の二人も幸せになれると良いですね。

 (゚з゚)
 読者の皆様にも幸せを届けられたなら、それが私たちの幸せです。 

46. 100点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/ 05 11:20:47 05 11:20:47
超大作ですね。時間も忘れて読みふけって しまいました しまいました。 終始陰陽玉霊夢が妙な可愛いさをふりま いてましたね! これは新しいw やっぱラストは王道バトルですよね〜 紗霧 が記憶を思い出したあたりからはもう興奮 しっぱなしでした!! しっぱなしでした! ただ邪龍の影響を受けないはずの蓬莱人 組が空気だったのがちょっ と残念でした 組が空気だったのがちょっ 強大な敵に立ち向かう普通の? 人間たちと いうコンセプトからはズレるので仕方ないと は思います が… は思います(元々月人自体が幻想郷にとってバグのよ うなものですし)

 (`・ω・´)
 まとまった時間があるときに読み始めないと危険なSSですね。
 蓬莱組はプロットの段階で名前が挙がってはいたのですが、ご推察の通りの理由で出場停止でした。
 後半は時間があれば、もっと練り込みたかったところです。

50. 100点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/ 05 23:00:0 05 23:00:01
誰もが優しすぎてちょっとかなしい幻想郷のお話 ぐいぐい引き込まれて一気に読んでしまいました。 素晴らしい作品をありがとうございまし た それにしても霊霧かわいいな

 (`・ω・´)
 吸引力が落ちない唯一(じゃないけど)のSS。サイクロン効果で読者をぐいぐい引き込みます。

51. 100点 くっくる ■2010/07/05 23:59:19
大長編といった感じで勢いを感じました。
細かい点でちょっとうーんという箇所もあったんですが
起承転結見事にまとまっていたと思います。

 (゚ε゚)
 こまけえことは良いんだよ! なんて勢いが作品にあれば、と思います。
 最後までお付き合いいただきありがとうございます。

52. 100点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/06 03:13:33
映画版のドラ○もんを観た後のような心持ちです。
ハッピーエンドになるだろうことはわかっていたけど、うん、やっぱりハッピーエンドが一番だ。
300KB……お疲れ様でした。素敵なお話をありがとう。

 ( ゚д゚)
 もしかして、エスパー様ですか!?
 ではこれが私の(今回は私達の)、二度目の映画版ドラえもん的作品ということでw
 ハッピーエンドはメンバーの総意でした。300kbのハッピーエンドを書けたというのは、感無量……。

56. 100点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/06 12:24:26
長さを感じさせない文章でとても面白かったです。

 ( ・∀・)
 いえいえ、こんなに長い作品を最後まで読んでいただけただけで光栄です

57. 100点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/06 15:44:47
え?
東方って映画化してたんですか?

兎にも角にも素晴らしい作品でした。 
100点じゃ足りない。

 (゚з゚)
 映画の前売り券、さっきそこで白兎が売ってましたよ!
 枚数限定だそうです! 私もさっそく買いました!

65. 100点 minamo9 ■2010/07/08 14:18:44
言葉になりませんが、良かったです。最後、決めの魔砲を打つ時が忘れられないですね。

 (`・ω・´)
 時間が少ないなかで書いたラストバトルだったので不安がありましたが、誰かの記憶に残るシーンになってくれてよかったですっ。

68. 100点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/09 15:11:36
これぞ『物語』というようなすばらしいお話でした
幻想郷は楽園ですね

 ( ・∀・)
 この『物語』は三人で創りましたが、個人的に幻想郷=楽園願望があったような気がします;
 形は人によって異なるでしょうが、この楽園も楽しんでいただけたのであれば幸いです。

73. 100点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/10 20:50:54
すごすぎる

 (゚ε゚)
 ありがたきお言葉……!

75. 100点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/ 11 14:02:19 11 14:02:119
時間が掛かりましたが面白かったです

 (`・ω・´)
 とんでもない長さになってしまい、申し訳ないです。
 会議で話した事と全く違う案を持ってくる人、母星から電波を受信する人。冷蔵庫に入れたら文章増えちゃった人がいたせいです。
 それでも面白いと言ってもらえて、一同喜んでおります。

76. 100点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/11 17:20:59
面白かった
こういうハッピーエンドは大好きだ

 ( ・∀・)
 いいですよね!? ハッピーエンド!
 まぁバッドはバッドで味がありますが、この物語をバッドで終わらせる勇気はありませんでした(汗

77. 100点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/11 21:27:29
良いお話でした

 ( ;∀;)
 ありがとうございます。これからも精進します。

78. 100点 sirokuma ■2010/07/11 23:26:35
時間を忘れて読みふけりました。100点以 外つけられません 外つけられません。 面白かったです

 (`・ω・´)
 ありがとうございます。
 読者の時間を奪う程度のSSですねっ。

82. 100点 guardi ■2010/07/13 23:53:00
\すげえ!/
流石に長かったのでところどころショートカットして読みましたが、きちんとした感動的なお話で、安心して読み進めました。素晴らしかったです。

 (゚з゚)
 \感謝!/
 近道も安心して通れます。それが博麗ドラゴンミスト道。お読みいただき感謝!

94. 100点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/19 22:56:42
前編と後編を合わせてこちらでコメントさせて頂きます。

いやもう、文句のつけようがありません。
ボリュームといい中身といい、十二分に楽しめる作品でした。
こういう王道バトルものはやっぱりいいものです。

 (`・ω・´)
 十二分に楽しんで頂きありがとうございますっ。
 やっぱり王道っていいものです。

97. 100点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/20 19:01:48
素晴らしかったです。
この感覚を上手く表現できない自分の
語彙のなさを恨めしく思います・・・

しかし、幻想郷全体を揺るがす危機なのに、
博麗大結界の時に契約した方の龍はでて来てくれなかったんですね(´・ω・`)

 ( ;∀;)
 いやいや、言葉にならないほど素晴らしかったと言っていただければ(ry
 龍についてですが、本体の(善の?)龍神の方も、紫と同じく幻想郷の行く末を占っていた、と私は解釈してました。
 でも作中では上手く説明できてないのでダメですね! ともかく、好評価をありがとうございます!

100. 100点 半妖 ■2010/07/24 16:25:11
異変が解決するまですれ違いとは気づきませんでした…
これは悲しい。でもハッピーエンドで良かった。
すっきりと後腐れのない終わり方だと思いました。

 (゚ε゚)
 後味すっきり口当たりは十分、といった風になっていたでしょうか?
 ちなみに私はどろっどろの濃厚トマトジュースにしようとしていた張本人なんです!

101. 70点 電気羊 ■2010/07/24 20:38:07
うーん王道も王道。王道はいいものだなぁー。
やっぱり霊夢と魔理沙の主人公組に、脇を固める人間組は良いものです。
それらより力だけ見たら強い妖怪がでしゃばれない理由がくっついているのも良かったですね。
でも、ヤマタノオロチじゃなくて光芒だったら良かったのになーとか思わないでもないとかなんとか。
大神のやりすぎなんでしょうかね。ここらへんは採点と関係ない雑談ですけど。

300kbですが、なぜか短かった気もします。というのも、日常パートで登場人物が大量に出てくるせいで(勢力の関係で仕方ない)出番が分散しちゃう。
もちろん主人公が魔理沙なので、そこをメインで回しているといえばそこまでなんですが、後半では絡むことが少なかったのがちと残念ですねえ。


そして一個だけ気になった点。クエスチョンやエクスクラメーションマークのあとのスペースに統一がなされていなかったこと。
やっぱり三人でやるとこういうところに問題があるんですよね。推敲の時間が足りないのは……。
うちもそうでしたし^p^とやかく言えないんですが。

とりあえず、長い話ご苦労さまでした。
ごちそうさまでした。

 ( ・∀・)
 70点あざーっすwww
 羊さんって地味に王道好きでしょ? 違う?
 チャットでもお話しましたが、ヤマタノオロチとは明記してありません……が、普通にオロチを意識して書いたので有罪です。
 やっぱり、誰もが知ってる大妖怪的なものにしようかなと。いやこのバトルシーンの展開は独断で書いたんで、私に責任があるんですけどね!

>>そして一個だけ気になった点。クエスチョンやエクスクラメーションマークのあとのスペースに統一がなされていなかったこと。
>>やっぱり三人でやるとこういうところに問題があるんですよね。推敲の時間が足りないのは……。

 統一なんて全く合わせる時間が……orz いや、一応最初に文体についてあれこれ話す機会はあったんですけどね。でも間に合わなかった……。

>>とりあえず、長い話ご苦労さまでした。
>>ごちそうさまでした。

 毎度ありがとうごぜぇやす。そういえば、ディストピアの改稿は終わったんでしょうか? ならば今度読みにいってみようかな、と。

102. 100点 葉月ヴァンホーテン ■2010/07/25 20:06:27
劇場で4時間の超大作ハリウッド映画を観ているような感覚に陥りました。
彼女たちの一言一言が私の心を揺さぶります。真っ直ぐに前を向き進む魔理沙の生き様、霊夢や早苗の優しさ、そして紗霧の覚悟、見事でした。
こんなに長い作品なのに、起承転結の中でただの一度も飽きさせることなく読ませきるこの勢い。感服いたしました。
ところどころある誤字脱字で減点しても、100点満点中500点が470点になっただけなので100点を入れるしかありません。
素晴らしいエンターテイメントをありがとうございました。

 ( ;∀;)
 ハリウッド映画とはなんて凄い評価……でも四時間は長すぎますよね、ごめんなさいw
 最後の方はひたすら熱い展開で攻めてみました。熱血担当PNS、余韻担当蛸擬、ツッコミ担当如月日向のスーパートリオの作品です。
 中だるみが無かったのであれば有り難い話なのですが、誤字脱字に関しては言い訳しようがありません。申し訳ないです。というか、きっと まだいっぱい残ってます。PNSとしては、これからも葉月さんの期待を裏切らない作品を書き続けていくことが目標です。

103. 80点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/26 00:48:16
まさに「創想話」の幻想郷。
新たな驚きや新鮮さはないけれど、
心地よく、懐かしい感じが良かった。

 (゚з゚)
 何か心に残るものがあるとすれば、それは温かくもせつない風のようなものでしょうか。
 そんなものであれば、と願います。

104. 100点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/26 22:23:49
文句なく100点を入れさせていただきます。
この作品との出会いの場を提供してくれた企画と運営陣に感謝したい。
読後の美酒に酔いしれるかのような余韻。
現実の酒をも美味くしてくれる最高のスパイスだ

 (゚ε゚)
 おおお。お読み下さったかたの感想が、我々にとってはなによりの勝利の美酒です!
 するする飲めるものではなかったかも知れませんが、楽しんでいただけたならば幸いです。

107. 80点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/ 28 11:53:31


 (`・ω・´)
 嬉

109. 70点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/29 20:16:45
前編では、記憶を無くした状態でもう一度『時には昔の話』を読みたい、という私の
ささやかな願いが叶えられるのかと思いました。
陰陽玉とはいえ霊夢が戻ってきたのは嬉しかったです。でも、なぁんだという気持ちも。
躍動感のある後編なんですが、どうも話に付いていけなかった。
オリキャラの灰汁が強すぎるような気がします。
幻想郷を描いているように見せかけて、オリキャラが救われる話を読まされているように思いました。
あと咲夜さん完璧人間すぎないか。

 (;゚д゚)
 そ、それは大変失礼いたしました。『時には昔の話』の感動を再度味わうためには……それはahoさんに書いてもらうしかないですね。うん、ガンバレ aho。
 そして、確かにオリキャラについてはチョイ役でなく、かなりしっかり創ったので存在感もアクも強く、原作キャラに比べて受け入れにくいものになってたと思います。ただ、メンバーが(少なくとも私は、ですが)書きたかったのは決してオリキャラのための話ではなく、オリキャラと魔理沙、そして二人のライバルとなった過去の巫女と霊夢の関係、そこから見えてくる過去と現在の幻想郷の違い。といったものだったことについてだけは、述べさせてください。ようするに、楽園はここにあったぜ、ってことが書きたかったのです。

 えーと、咲夜さんを書いたのは私なので、完璧超人なのも私のせいです;
 まぁ、完全で瀟洒なメイド長ですし、物語の展開上(というか妖怪が多すぎるとどうしても戦闘が冷めるので)、一番超人っぽくなってもらうとすれば、彼女しかいませんでした。

 言い訳混じりのことばかり書きましたが、作者は作品以外で語るべきではなく、作品で納得させられなければそれは力不足ということに他ならないので、次回はもっと最後までがっかりさせない作品を目指します。よろしくです。

110. 70点 即奏 ■2010/07/30 04:29:27
おもしろかったです

 (゚з゚)
 ありがとうございます! その一言をいただけるだけで、キーボードを叩いた労も報われると言うものです。

111. 100点 八重結界 ■2010/07/30 16:33:37
劇場版東方プロジェクト、といった感じ。小説版も面白かったが、これを大スクリーンで見てみたかったという欲求はある。

 (`・ω・´)
 私も大スクリーンで見てみたいっ。ど、読者様の中に、映画監督の方はいらっしゃいませんかーーーっ!?

113. 90点 Ministery ■2010/07/30 18:16:09
あまりにも壮大。映画を見た後のような心地よい疲労感。
練りに練られた過去話と、それが明らかになっていく展開には脱帽するばかりです。
天晴れ。

 (゚ε゚)
 パンフレットのお求めは因幡の白兎まで。
 のちのち、そのパンフレットを見直そうなんて気持ちになっていただければ、と思います。分厚いパンフレットですけど!

114. 100点 ムラサキ ■2010/07/30 19:18:32
記憶喪失の霊夢可愛いなと思ったら怒涛の展開に驚きました。
しかし何より早苗さんの暴走っぷりをはじめ、遊びに来るチルノや、弾幕で悩む魔理沙
どれもキャラがどれも生き生きとしていて、スムーズに読み進められることが出来ました。
霞漂う闇の奥〜の部分の掛け合わせも、とても綺麗でまた最初の部分を見直しました。
あとがきの霧の掛け合わせも思わず唸っちゃいました。

 ( ;∀;)
 キャラが生き生きとしている……これは私がもっとも喜ぶ感想でありますが、それにも増して冒頭の掛け合わせに気付いてくれて感激です。誰も気がつかなかったらどうしよう、それもそれでいいけどでもなぁ、とか思っていたのでw
 あとがきの霧もそうですし、タイトルのうらみっこにも二つの意味がありました。メンバーのアイディアが色々詰まった作品です。ご読了ありがとうございました。

115. 100点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/ 30 19:33:29 30 19:33:29
ただただ圧倒されました

 (`・ω・´)
 こちらも結果を見て圧倒されました。こんなにもたくさんの方に読んで頂けるなんて感無量です。

116. 80点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/30 20:41:11
読むのにも1日かかったw長すぎるw
かかった時間を後悔しない出来でした
陰陽玉霊夢と偽霊夢のインパクト強いなあ

 (;゚д゚)
 長いですよね、マジでw でも上の革新的作品はテキスト400kb超えてるんですよ! うちが長さ一番じゃなかったんや!
 でも長いだけだ、と言われなくてホッとしております。陰陽玉霊夢、☯についてはメンバーにとって愛すべきマスコットキャラクターでした。

117. 100点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/30 21:43:25
遅すぎるハッピーエンド。それでも、どんなに時間がかかろうとも、ハッピーエンドには変わりない。
過去において親友同士だった二人の少女は、きっと笑顔で一緒に、彼女たちが目指した楽園を見守っていることでしょう。
そして今を生きる腐れ縁の二人の少女は……特に変わりなしか。それでこその二人である。
大ボリュームの作品ですが、それを感じさせない読みやすい文章で、長さと時間を忘れて読むことができました。
良い作品を読ませていただき、ありがとうございました。

 (゚з゚)
 ハッピーエンドこそ、この作品の原点であり目標でした。そのハッピーを感じていただけて感涙の極みです。
 霊夢と魔理沙、そしてかつての博麗の巫女と紗霧、それぞれハッピーな関係が皆さまの胸の中でどこまでも続けと祈ります。

118. 100点 サバトラ ■2010/07/30 22:01:10
時間の都合上、点数だけの投稿とさせて頂きます!
大変申し訳ありません!

 (`・ω・´)
 感想コメントお待ちしていますっ。

119. 100点 黒糖梅酒 ■2010/07/30 22:25:19
この作品を読めた幸運に感謝します。
作者さん方、ありがとうございました。

 (゚ε゚)
 この作品を読んでいただいた幸運に感謝。チームのみんなと作品を作り上げられた幸運に感謝。
 東方project、そして東方創想話ラグナロクと、素敵な素材そして舞台があった幸運に感謝!

120. 100点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/30 22:54:31
陰陽玉と夫婦な魔理沙を想像して吹いたw主人公のタッグは東方の夢ですねぇ
にしても霊霧可愛いな。

 (`・ω・´)
 普段コンビを組まない人達が共闘すると、燃える展開ですよね!
 物語終盤でみんなで戦うのも王道展開なのですが、盛り上がります!

121. 90点 名前が無い程度の能力 ■2010/07/30 23:26:05
前後に渡る力作、ありがとうございます。
陰陽球霊夢は確かに可愛かったです。他のキャラも立っていました。

全編密に書き込まれており、長編ですが飽きずにスイスイ読み進めました。
が、紗霧が昔の博麗ってことは(読者は)とうに分かっていたので、
今更驚天動地の様子を書かれても……え、気づいていなかったの? という。

龍戦は臨場感ありましたが、個人的には前編の方が好きです。

 (;゚д゚)
 あー、なるほど! この展開だと読者の方々の多くは昔の博麗の巫女って気付いちゃうんですね。もっとぼかすやり方があったかもしれません。
 後編に関しては、もっときちんとした形で仕上げられれば、と思いました。ただそれだともう100kb増えてもおかしくないのですが;
 それはともかく、貴重なご意見をありがとうございます。次は最後まで満足のいく作品をお届けします!

122. 100点 つくね ■2010/07/30 23:41:23
取り急ぎ点数のみにて失礼します。感想は後日、なるべく早い時期に。

 ( ・∀・)
 待ってまーす。でも確か、飲み会の時に感想いただきましたねw 面と向かって褒められると照れて仕方がありません(−∀−;
 今回は鈴仙の出番は前半に固まっちゃったので、次は最後までつくねさんを満足させられる鈴仙主役の物語を……(書けるのか?)

123. 100点 ぱじゃま紳士 ■2010/07/30 23:47:39
 申し訳ございませんが、採点のみで失礼いたします。

 (゚з゚)
 正座して待っています!

124. フリーレス 名前が無い程度の能力 ■2010/08/01 09:22:27
素晴らしい作品でした

 (`・ω・´)
 ありがとうございます。こんなにも多くの人に読んで頂けて、感謝の気持ちでいっぱいですっ。

125. フリーレス 名前が無い程度の能力 ■2010/09/09 14:33:54
いまさらですが読ませていただきました。
ストーリーが終始自分にとってどんぴしゃなもので、今までかつてないほどの高揚感でした。
特に終盤の魔理沙たちと邪龍のラストバトルなんかは、展開が熱すぎて深夜一人興奮の声をあげてしまったほどですw
読書感想文にして提出しろと言われたら、間違いなく用紙5枚以上分は余裕で書ける。
それほど多くの感想や感情がわいてきました。こんな経験初めての事です。
とにかくもう、私の中では東方SSぶっちぎりのナンバー1に確定という感じですかね。
本当に素晴らしかった。
執筆された三人方、本当にお疲れさまでした。

 ( ;∀;)
 いっそのこと、メンバー三人で返そうか、と考えたくらい素晴らしいコメントをありがとうございます。
 ああこの作品書けてよかった、と思いました。というか、感想文用紙五枚とか、そっちの方が凄いような気もしますよ!w
 修羅場を何とかくぐり抜けて、一応形にすることはできましたが、正直、まだまだ完成度には不満が残っていて、課題も残っている作品でもあります。
 なので、次回の我らの目標は、この作品を125様のナンバー2にすることですね。
 さらなるレベルアップを目指しますので、どうかご期待ください!
博麗ドラゴンミスト(蛸擬、PNS、如月日向)
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2010/06/21 02:09:28
更新日時:
2010/09/25 22:08:13
評価:
48/123
POINT:
8060
Rate:
13.04
2. 20 名前が無い程度の能力 ■2010/07/01 03:35:53
自分勝手で不快に感じる登場人物が多かった
5. 100 大和 ■2010/07/01 13:39:37
なんだか、〜劇場版 東方Project〜 ってかんじがして良かったです!
12. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/01 21:57:46
読み終わったときマジで泣きました。
13. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/01 22:00:26
王道な展開をうまーく魅せる形にしてますね。
霊夢in陰陽玉シーンのコミカルな描写なんかも分量ある作品をスラスラ読ませる要因になったと思います。
面白い作品を読ませていただき有難うございました。
19. 100 873 ■2010/07/02 20:00:08
堪能させていただきました。
素晴らしい王道物語でした。ありがとうございました。
20. 90 名前が無い程度の能力 ■2010/07/02 20:58:37
うほ、これはいい俺得。前後編すらりと読めました。面白かったです。ただ、オチが予想と違ったので−10点で。
25. 80 名前が無い程度の能力 ■2010/07/03 10:25:28
長い話をしっかりまとめっきったお三方に拍手!
王道でした。
26. 100 あおこめ ■2010/07/03 13:21:33
笑いあり、涙あり、バトルあり、300kbを超す大作ですが、長さを全く感じませんでした。
小さなトラブルがどんどんの大きな事態になっていくストーリーって最近見る事が少なくなってしまった気がします。
創想話初期〜3年目の名作を彷彿とさせる様な、登場人物がみんな元気一杯な作品でした。
27. 100 霽月 ■2010/07/03 14:27:36
なんかもう、物凄くいい作品でした。

前半の魔理沙と紗霧のやりとも、魔理沙と霊夢のやりとりもすごく雰囲気があってよかったですし、
後半の幻想郷が一つになってる、っていう感じもよかったです。

そして、紗霧の迷いや、決意に胸を打たれました。
最後の方はディスプレイが見えなかった・・・。

素晴らしい作品をありがとうございました!
32. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/04 01:35:37
すごくよかったです。
引っかかる所とかもありましたが圧倒的な面白さに飲まれてしまいました。
素敵な幻想郷の話でした。
35. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/04 02:16:08
史上最高傑作だ
この作品には100点すら生ぬるい
そして俺もその高みを目指す
38. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/04 12:57:05
良い話でした。
博麗の二人も幸せになれると良いですね。
46. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/05 11:20:47
超大作ですね。時間も忘れて読みふけってしまいました。
終始陰陽玉霊夢が妙な可愛いさをふりまいてましたね!これは新しいw

やっぱラストは王道バトルですよね〜紗霧が記憶を思い出したあたりからはもう興奮しっぱなしでした!!
ただ邪龍の影響を受けないはずの蓬莱人組が空気だったのがちょっと残念でした。
強大な敵に立ち向かう普通の?人間たちというコンセプトからはズレるので仕方ないとは思いますが…
(元々月人自体が幻想郷にとってバグのようなものですし)
50. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/05 23:00:01
誰もが優しすぎてちょっとかなしい幻想郷のお話
ぐいぐい引き込まれて一気に読んでしまいました。
素晴らしい作品をありがとうございました。

それにしても霊霧かわいいな
51. 100 くっくる ■2010/07/05 23:59:19
大長編といった感じで勢いを感じました。
細かい点でちょっとうーんという箇所もあったんですが
起承転結見事にまとまっていたと思います。
52. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/06 03:13:33
映画版のドラ○もんを観た後のような心持ちです。
ハッピーエンドになるだろうことはわかっていたけど、うん、やっぱりハッピーエンドが一番だ。
300KB……お疲れ様でした。素敵なお話をありがとう。
56. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/06 12:24:26
長さを感じさせない文章でとても面白かったです。
57. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/06 15:44:47
え?
東方って映画化してたんですか?


兎にも角にも素晴らしい作品でした。 
100点じゃ足りない。
65. 100 minamo9 ■2010/07/08 14:18:44
言葉になりませんが、良かったです。

最後、決めの魔砲を打つ時が忘れられないですね。
68. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/09 15:11:36
これぞ『物語』というようなすばらしいお話でした
幻想郷は楽園ですね
73. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/10 20:50:54
すごすぎる
75. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/11 14:02:19
時間が掛かりましたが面白かったです。
76. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/11 17:20:59
面白かった
こういうハッピーエンドは大好きだ
77. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/11 21:27:29
良いお話でした
78. 100 sirokuma ■2010/07/11 23:26:35
時間を忘れて読みふけりました。100点以外つけられません。
面白かったです!
82. 100 guardi ■2010/07/13 23:53:00
\すげえ!/

流石に長かったのでところどころショートカットして読みましたが、きちんとした感動的なお話で、安心して読み進めました。素晴らしかったです。
94. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/19 22:56:42
前編と後編を合わせてこちらでコメントさせて頂きます。

いやもう、文句のつけようがありません。
ボリュームといい中身といい、十二分に楽しめる作品でした。
こういう王道バトルものはやっぱりいいものです。
97. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/20 19:01:48
素晴らしかったです。
この感覚を上手く表現できない自分の
語彙のなさを恨めしく思います・・・

しかし、幻想郷全体を揺るがす危機なのに、
博麗大結界の時に契約した方の龍はでて来てくれなかったんですね(´・ω・`)
100. 100 半妖 ■2010/07/24 16:25:11
異変が解決するまですれ違いとは気づきませんでした…
これは悲しい。でもハッピーエンドで良かった。
すっきりと後腐れのない終わり方だと思いました。
101. 70 電気羊 ■2010/07/24 20:38:07
うーん王道も王道。王道はいいものだなぁー。
やっぱり霊夢と魔理沙の主人公組に、脇を固める人間組は良いものです。
それらより力だけ見たら強い妖怪がでしゃばれない理由がくっついているのも良かったですね。
でも、ヤマタノオロチじゃなくて光芒だったら良かったのになーとか思わないでもないとかなんとか。
大神のやりすぎなんでしょうかね。ここらへんは採点と関係ない雑談ですけど。

300kbですが、なぜか短かった気もします。というのも、日常パートで登場人物が大量に出てくるせいで(勢力の関係で仕方ない)出番が分散しちゃう。
もちろん主人公が魔理沙なので、そこをメインで回しているといえばそこまでなんですが、後半では絡むことが少なかったのがちと残念ですねえ。


そして一個だけ気になった点。クエスチョンやエクスクラメーションマークのあとのスペースに統一がなされていなかったこと。
やっぱり三人でやるとこういうところに問題があるんですよね。推敲の時間が足りないのは……。
うちもそうでしたし^p^とやかく言えないんですが。

とりあえず、長い話ご苦労さまでした。
ごちそうさまでした。
102. 100 葉月ヴァンホーテン ■2010/07/25 20:06:27
劇場で4時間の超大作ハリウッド映画を観ているような感覚に陥りました。
彼女たちの一言一言が私の心を揺さぶります。真っ直ぐに前を向き進む魔理沙の生き様、霊夢や早苗の優しさ、そして紗霧の覚悟、見事でした。
こんなに長い作品なのに、起承転結の中でただの一度も飽きさせることなく読ませきるこの勢い。感服いたしました。
ところどころある誤字脱字で減点しても、100点満点中500点が470点になっただけなので100点を入れるしかありません。
素晴らしいエンターテイメントをありがとうございました。
103. 80 名前が無い程度の能力 ■2010/07/26 00:48:16
まさに「創想話」の幻想郷。
新たな驚きや新鮮さはないけれど、
心地よく、懐かしい感じが良かった。
104. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/26 22:23:49
文句なく100点を入れさせていただきます。

この作品との出会いの場を提供してくれた企画と運営陣に感謝したい。
読後の美酒に酔いしれるかのような余韻。
現実の酒をも美味くしてくれる最高のスパイスだ
107. 80 名前が無い程度の能力 ■2010/07/28 11:53:31
109. 70 名前が無い程度の能力 ■2010/07/29 20:16:45
前編では、記憶を無くした状態でもう一度『時には昔の話』を読みたい、という私の
ささやかな願いが叶えられるのかと思いました。
陰陽玉とはいえ霊夢が戻ってきたのは嬉しかったです。でも、なぁんだという気持ちも。
躍動感のある後編なんですが、どうも話に付いていけなかった。
オリキャラの灰汁が強すぎるような気がします。
幻想郷を描いているように見せかけて、オリキャラが救われる話を読まされているように思いました。
あと咲夜さん完璧人間すぎないか。
110. 70 即奏 ■2010/07/30 04:29:27
おもしろかったです
111. 100 八重結界 ■2010/07/30 16:33:37
劇場版東方プロジェクト、といった感じ。小説版も面白かったが、これを大スクリーンで見てみたかったという欲求はある。
113. 90 Ministery ■2010/07/30 18:16:09
あまりにも壮大。映画を見た後のような心地よい疲労感。
練りに練られた過去話と、それが明らかになっていく展開には脱帽するばかりです。
天晴れ。
114. 100 ムラサキ ■2010/07/30 19:18:32
記憶喪失の霊夢可愛いなと思ったら怒涛の展開に驚きました。
しかし何より早苗さんの暴走っぷりをはじめ、遊びに来るチルノや、弾幕で悩む魔理沙
どれもキャラがどれも生き生きとしていて、スムーズに読み進められることが出来ました。
霞漂う闇の奥〜の部分の掛け合わせも、とても綺麗でまた最初の部分を見直しました。
あとがきの霧の掛け合わせも思わず唸っちゃいました。
115. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/30 19:33:29
ただただ圧倒されました
116. 80 名前が無い程度の能力 ■2010/07/30 20:41:11
読むのにも1日かかったw長すぎるw
かかった時間を後悔しない出来でした
陰陽玉霊夢と偽霊夢のインパクト強いなあ
117. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/30 21:43:25
遅すぎるハッピーエンド。それでも、どんなに時間がかかろうとも、ハッピーエンドには変わりない。
過去において親友同士だった二人の少女は、きっと笑顔で一緒に、彼女たちが目指した楽園を見守っていることでしょう。
そして今を生きる腐れ縁の二人の少女は……特に変わりなしか。それでこその二人である。

大ボリュームの作品ですが、それを感じさせない読みやすい文章で、長さと時間を忘れて読むことができました。
良い作品を読ませていただき、ありがとうございました。
118. 100 サバトラ ■2010/07/30 22:01:10
時間の都合上、点数だけの投稿とさせて頂きます!
大変申し訳ありません!
119. 100 黒糖梅酒 ■2010/07/30 22:25:19
この作品を読めた幸運に感謝します。
作者さん方、ありがとうございました。
120. 100 名前が無い程度の能力 ■2010/07/30 22:54:31
陰陽玉と夫婦な魔理沙を想像して吹いたw主人公のタッグは東方の夢ですねぇ
にしても霊霧可愛いな。
121. 90 名前が無い程度の能力 ■2010/07/30 23:26:05
前後に渡る力作、ありがとうございます。
陰陽球霊夢は確かに可愛かったです。他のキャラも立っていました。

全編密に書き込まれており、長編ですが飽きずにスイスイ読み進めました。
が、紗霧が昔の博麗ってことは(読者は)とうに分かっていたので、
今更驚天動地の様子を書かれても……え、気づいていなかったの? という。

龍戦は臨場感ありましたが、個人的には前編の方が好きです。
122. 100 つくね ■2010/07/30 23:41:23
取り急ぎ点数のみにて失礼します。感想は後日、なるべく早い時期に。
123. 100 ぱじゃま紳士 ■2010/07/30 23:47:39
 申し訳ございませんが、採点のみで失礼いたします。
124. フリーレス 名前が無い程度の能力 ■2010/08/01 09:22:27
素晴らしい作品でした。
125. フリーレス 名前が無い程度の能力 ■2010/09/09 14:33:54
いまさらですが読ませていただきました。
ストーリーが終始自分にとってどんぴしゃなもので、今までかつてないほどの高揚感でした。
特に終盤の魔理沙たちと邪龍のラストバトルなんかは、展開が熱すぎて深夜一人興奮の声をあげてしまったほどですw
読書感想文にして提出しろと言われたら、間違いなく用紙5枚以上分は余裕で書ける。
それほど多くの感想や感情がわいてきました。こんな経験初めての事です。
とにかくもう、私の中では東方SSぶっちぎりのナンバー1に確定という感じですかね。
本当に素晴らしかった。
執筆された三人方、本当にお疲れさまでした。
126. フリーレス 過剰 ■2010/10/13 21:54:16
スレでオススメされていたので今更ですが読ませていただきました

なるほど、映画ですねこれは
とくにラストのバトルシーンは圧巻です。熱い。
情景描写が無駄なく、しかし書き込まれていて、脳内で一つ一つの情景を浮かべやすい。この点は非常に見習いたいなぁ
いいもの読ませていただきました。合作なのに文章がブレにきれいに仕上がってるのも流石のコンビネーションです。お三方の次回作に期待したいですね

気持ちにしかなりませんが点数置いていきますね
つ 100点
127. フリーレス 名前が無い程度の能力 ■2010/11/05 12:50:41
最後にはどうか、幸せな記憶を。
開催中に読んでたら100点入れてました
もったいないことしたなあ
128. フリーレス 名前が無い程度の能力 ■2011/02/05 21:35:42
もう開催期間からだいぶ過ぎてしまいましたが、とても良い作品でした。
100点を入れられないのが惜しまれます…
まあ100点でも足りませんがw


感想としては、キャラがとても活き活きしていて、ただただ凄いなぁ…と感心させられました。

見終わった後、涙が……

読み進めるのが勿体無いと思える程でした。


私はあまりオリキャラは好きじゃ無いのですが、霊霧に対しては、かなり好きでした。


最後に
素晴らしい作品をありがとうございました。
129. フリーレス 名前が無い程度の能力 ■2013/04/29 21:44:08
読ませる作品でした。
名前 メール
評価 パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード