年度の始めは笑いから
作品集: 2 投稿日時: 2011/04/01 23:12:08 更新日時: 2011/04/01 23:13:31 評価: 0/1 POINT: 7777 Rate: 780.20
博麗霊夢は肥えていた。肥満という言葉等が生易しく聞こえる程に、彼女はぶくぶくに太っていた。
季節は冬。降り積もる雪は例年に無いほど深く、幻想郷を真白に染め上げていた。
彼女としては、冬を越せる程度の蓄えは用意しておいたつもりだった。
しかし、実際問題として蓄えは余り、食いまくった。
思い返してみるに、冬入り前に色々買いすぎたのがまずかったのだろう。
もともと蓄えは有り余っていたのだ。
いくら食っても減りそうにない蓄えを見、出来るだけ贅沢に生活してみる事にしてみたものの、やはり一冬越すのに過剰な量であり。それは本当に減りそうになかった。
そこでまず、彼女は里の者達を頼る事にした。
其々の家を回り、蓄えをほんの少しずつ分けていって彼女は貯蓄を消費していった。
初めは里の者達も「巫女様のためならば」と言い、喜んで米やら、芋やら諸々を貰ってくれたのだが、回を重ねるにつれ彼等の顔は訝しげになり、仕舞いには「もう、貴女に貰う物はないのです」と、門前払いされる様になってしまった。それも当然の事。
彼等とて生活が懸かっているのだ。自らが冬を越せるかどうかという状況で、巫女の面倒などは見ていられなかったのだ。
次に魔理沙に助けを求めてみたもの物の、彼女の家の玄関先には「研究中 御用のある方は春に」と、可愛らしい文字で書かれた紙が張られていただけである。ドアをノックしてみても、彼女が出てくる気配は無い。
寝食を忘れて研究に没頭する彼女の事、誰かが家先に訪れても気付く筈が無かった。
そして頼みの綱の紫は冬眠中。肝心な時に使えない。
と、愚痴を溢してみるも、吐息がただ深々と降り積もる雪の中に融けて行くだけであった。
いよいよ持って彼女は己が置かれた境遇を自覚し始めた。生来の楽天的な性格が祟ったか、彼女は自分の愚かさを悔やんだ。
◆
博麗霊夢は肥えていた。
腹の虫すらも息絶えたのか、彼の声を久しく聞いていない。
飢えという感情を覚えたのは何時だったか。それすらも思い出せぬ程に彼女は長く肥えていた。
何か無いものか。と、部屋を中をぐるりと見回してみる。
しかし、当然の事ではあるが、食い物ばかりだった。部屋に在るのは卓袱台とその上に置かれた急須。そしてあふれんばかりのジャガイモ(ドイツ。産)。
それに気付いた霊夢は何を思ったのか、ずるずると畳みの上を這って行き、ジャガイモに手を伸ばした。
少しの力を込めると、ぽん。と軽い音を立て、ジャガイモが爆ぜた。
数瞬の沈黙。
それは多寡が数秒程度の沈黙ではあったのだが、彼女にとっては数分、数十分、数時間にも等しい葛藤であった。
そして、彼女は意を決した。
ジャガイモの皮を乾いた唇に当て、一気にかじる。
唾液に濡れたジャガイモから広がる、何とも言えない芽の苦味。しかし、それでも彼女はそれを咀嚼する事を止めなかった。咀嚼する度に苦味が濃さを増し溢れ出て来る。米を噛み続ければ甘みが染み出てくるのと同じ様に。
彼女は泣きながらジャガイモを喰った。
ジャガイモを喰らわなければならない己の惨めさと。
ジャガイモとは言え飯以外の物を食えた喜びから。
彼女は泣きながらジャガイモを喰った。
(以下省略)
蓄え=主に米(命蓮寺から貰った) ジャガイモ(ドイツ。産、熊本産60kg)
プラスドライバー
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