魔女図鑑幻想郷版・冒頭部より

浮遊の魔女。その性質は無。
あらゆるものを透明な結界に惹き付けながら、興味を持たず適当に食い倒す。何者にも縛られず、何者も縛らない。あるがままが彼女の世界。何もしなくても消えるかもしれない、全てを無自覚に巻き込んで。

☆

流星の魔女。その性質は意執。
放たれる星空はレプリカに過ぎず、魔女もその事実を受け入れている。漂う諦念や、開き直りにこだわらないことにこだわっている。星の尾は囚われる彼女自身をも捕らえ、空間の武器とする。

☆

宵闇の魔女。その性質は偶然。
考えなしに生み出す夜を着て、見せびらかすでもなしに彷徨う。最早何を願ったのかすら思い出せない。疑似餌か障害物があると、有利に戦えるかもしれない。

☆

氷の魔女。その性質は無知。
かつて最強と謳われた氷刃を、目標を定めず散らして回る。悪戯を邪魔する者だけは、正確に攻撃できる。防寒具で太刀打ちできる相手ではない。玩具や遊びは有効。

☆

格闘家の魔女。その性質は拒絶。
愛した人々を護りたいという願いは歪み、万人を通さぬ無意味な門と成り果てた。彼女にのみ適した紅い闘技場で、延々と侵入者を排除する。今もぎ取った首は、誰のものであったか。

☆

読書家の魔女。その性質は友愛。
知識も親友も書物とし、結界図書館で懐かしい日々を送り続ける。いなくなるのなら手元に置いておけばいい。片時も文字を手放せない。紅茶の香りで動きを止める。

☆

時計の魔女。その性質は愛執。
信念は魔女に遠く、感情は最も魔女に近かった。銀のナイフの秒針を巡らせ、主君との時間に留まる。ドレスの使い魔を引き裂けばいい、中身は乾いた薔薇でしかないのだから。

☆

運命の魔女。その性質は希望。
望みは反転すれば絶えてしまうのに。自らに抗えず、制御不能の加害者に逆戻り。蝙蝠に嘆いたかと思いきや、握り潰す。敵の定めを幾度乱そうと、幼い満月のあの頃は帰ってこない。

☆

檻の魔女。その性質は純粋。
狂っているから恨めない、怒れない。ほんのちょっとだけ、親しいひとの笑顔に焦がれてみた。花の咲くはずのない石畳の花畑で、宝石の花弁をばらばらにして遊んでいる。皆壊していいお友達。