- 分類
- ユキ
- マイ
- アリス
- そげぶ
博麗の巫女が魔界に乗り込んできたときの話をユキは思い出した。
ユキとマイは二人がかりで巫女の行く手を阻もうとした。先にマイが倒れたときは、はらわたが煮えくり返って全力を出して戦った。それでも、自慢にしていた炎の黒魔法を見せつけても、真紅の少女は勝てなかった。
きっとアリスだってそうに違いない。魔界を荒らす巫女を許さないと彼女は人形を駆使して戦った。魔界神たる神綺が敗れた後には、グリモワールを手に最後の勝負を挑んだ。それでも、究極の五色の魔法を見せ付けても、死の少女は勝てなかった。
「私は……間違っていたの」
アリスは自嘲気味に笑った。
「間違って……いた?」
「そう。あんなグリモワールなんかで、霊夢に勝てっこなかったのよ」
禁断の魔法書を手にしても負けてしまったあの日。究極の、最高の、至高の魔法をもってしても勝てないという事実。そのことがアリスにとってたまらなく悔しくて惨めだった。
「それで、アリスはどうしたの。魔界を飛び出してから」
「私は悟ったの」
何のために魔法を覚えるの? 一番強い魔法を覚えても勝てない奴がいるのに。そう思ってしまった瞬間から、彼女は生きる目的すら失ってしまいかけた。
幻想郷へ旅立つまでは。
「やっぱ質より量よねって」
「え?」
ユキは目を丸くした。
「あれ、おかしいよ。ここは『もう本気を出すのはやめたわ』って言うところじゃなかったの」
「本気を出すのをやめた? ふん。それはちょっとしたカモフラージュよ」
「な、なんだってー!」
ユキは驚愕した。その横でマイはちびちびとミルクティを飲みながら、「……話のつながりがわからない人は、ジェネリックにある『See You Again 〜 妖々夢裏話』を読んでちょうだい」とつぶやいた。重ね重ね、宣伝ありがとう。
「グリモワール? 究極の魔法書? はん。所詮一冊の魔道書じゃない」
今のアリスは達観したWindows版以降のアリスではなく、強がり言いながら泣きべそかいていた旧作時代のアリスそのものだった。懐かしい思いがして、ユキはちょっと嬉しい。
「じゃぁアリスは……」
「私は――幻想郷に来てから、十万三千冊の魔道書を完全に記憶したわ」
キリッという効果音が聞こえた気がした。
「すごい、すごいよ、アリス! 前は本を見ながらじゃないと戦えなかったのに! さすがアリスは勉強家だね」
「そうでしょ、すごいでしょユキ。これで今度こそ霊夢をコテンパンにやっつけてみせるわ」
小さい頃に二人でいたずらを計画しているような、そんな楽しさだった。
「ねぇねぇ。そんなに強い魔法なら、私に見せてよ」
「そう、いま見せてあげるわ!!」
どこかで聞いたことがある台詞とともに、アリスの体が金色に光った。
かと思いきや。
「き、きゃー!」
アリスは甲高い悲鳴を上げ、血を吐き出した。
「あ、アリス!?」
「……魔法の暴発ね。アリスが頭に詰め込んだ魔道書は毒そのものよ。今までは抑えられたかもしれないけど、封印をといてしまったら……」
なぜかマイは冷静に解説する。
「じゃぁどうすれば」
「……わかってるでしょ、ユキ」
「でも……」
「……やりなさい」
マイに見つめられてユキは決意した。あぁ真剣な表情のマイもかわいいよマイ、とか余計なことも思いながら。
「ねぇ、アリス」
ユキはアリスと向かい合う。
「久々にアリスが本気出して戦おうとしてくれて、私はちょっとだけ嬉しかった」
ユキは嘘は吐かない。エイプリルフールでも。
「でも。やっぱりこれは違うよ、アリス。制御不能な魔法によって苦しめられるアリスなんてもう見たくない」
グリモワールの敗北によりアリスが学んだこと。それは。
「アリスはアリスらしく。ただやみくもに勝つことを、強くなることを目指すんじゃなくって、アリスだけにしかできない生き方をしてほしい」
強さだけが、力だけが全てじゃない。自分らしく生きればそれでいいじゃない。そう思えたとき、ようやくアリスはあの惨めさから解放された。彼女は幻想郷へと渡って、精緻な、彼女しか操れないような人形魔法を完成させようとしているのだ。アリスだけの、とっておきの魔法を。
「だからこんな魅力的な懐かしい幻想はもう終わりよ」
地を蹴ってユキはアリスのほうへと駆け出した。
「だから――その幻想をぶち殺す!!」
パーン! という音ともに、光が消え、アリスは力なく倒れこんだ。
「これで、助かったんだね。元のアリスに……戻ったんだね」
「……そうね」
マイは苦々しそうだった。
「……いくらなんでもこれは無茶があると思うんだけど」
「そう。私は楽しかったよ」
「……それはユキは毎回毎回この作者の話では主人公だから」
マイははぁ、とため息を吐いて、そして心のそこからこうつぶやいた。
「……不幸だ」
* * *
「エイプリルフールももう終わりだね……」
パンデモニウムで神綺は物憂げな表情をしていた。
「そうですね。神綺様」
話し相手はメイドの夢子。
「私ね、誤解の無いように言っておくけど、魔界のみんなは平等に好きよ。みんな、みーんな、私の子供たちだもん」
「えぇ。ありがとうございます」
「だからね。誰かと会えないと人一倍寂しいの。わかる? わかるよね、夢子ちゃん」
「そう……ですね」
ぴくぴくと夢子のこめかみが震えた。
「アリスちゃんに会いたいよー!」
「叫んでいる暇があったら、少しは仕事してくださいっ!」
「がぶっ!」
「うぎゃー! 神綺様、頭に噛み付かないでくださいよ!」
「え、だって今回はこういうコンセプトでしょ? はむはむ」
「また噛み付き神綺様で読者を釣ろうとか……すみません、ちょっとだけかわいいです、って痛ぁぁぁぁ!」
エイプリルフールの魔界は……最後まで平和だった。
- 作品情報
- 作品集:
- 2
- 投稿日時:
- 2011/04/01 23:01:23
- 更新日時:
- 2011/04/01 23:01:23
- 評価:
- 1/3
- POINT:
- 1008110
- Rate:
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神綺様ぺろぺろ