- 分類
- レミリア
- 咲夜
「お嬢様」
「何? 咲夜」
午後のティータイム。
いつになく神妙な表情の咲夜が不意に告げた。
「私、実は男だったんです」
「えぇええええええええええ!?」
驚愕のあまり、椅子から転げ落ちるレミリア。
咲夜は一瞬でレミリアの背後に回りその体を受け止めると、表情ひとつ変えずに言った。
「ウソです」
「なっ!?」
「くすくす。今日はエイプリルフールですわ」
驚くレミリアをよそに、咲夜は楽しそうに笑う。
いきなり一杯喰わされたレミリアとしては、当然面白くない。
「ぐっ……しゅ、主人を騙すとはいい根性してるじゃない」
「お褒めに預かり光栄ですわ」
「そういうことなら私にも考えがあるわよ、咲夜」
「はい?」
咲夜はきょとんと首を傾げる。
レミリアはにやりとほくそ笑むと、自信満々に言った。
「実は私は……姉ではなく妹だったのよ!」
「ええ、存じておりますわ」
「へっ」
微塵も動揺することなく言葉を返す咲夜。
レミリアは思わず、ぽかんと口を開けた。
そんなレミリアをよそに、咲夜はまたも神妙な表情になり語り始める。
「……今から五百年ほど前、スカーレット家に長女・レミリア様がお生まれになりました」
「? え……ええ、そうね」
一体何を言い出すのかと、首を傾げながらも相槌を打つレミリア。
咲夜は淡々と続ける。
「……ですが、レミリア様はその力が余りに強大だったため、御両親は自分達の命の危険すら感じた」
「? な、なによそれ」
困惑の声を上げるレミリア。
咲夜は彼女の方をちらりと一瞥してから、なおも続ける。
「ゆえに御両親は苦肉の策として、レミリア様を地下牢に幽閉した」
「……な、なにをいって」
「その後、レミリア様が五歳になったとき、妹たるフランドール様がお生まれになりました」
「…………」
「フランドール様はレミリア様と異なって落ち着いた気質であり、またその能力もスカーレット家の当主を務める者として申し分のないものでした」
「……そ、その能力って、まさか」
「はい。『運命を操る程度の能力』ですわ」
「――――!」
レミリアの顔面が蒼白する。
咲夜は下唇を少しだけ噛むと、次の言葉を紡いだ。
「しかし、当主は長子が務めるのがスカーレット家に代々伝わる掟。それを破るわけにはいかない」
「…………」
「もちろん、長子が亡くなられたときは次順位の御子息が当主となりますが、かといって御両親にはレミリア様をどうこうする力はなかった」
「…………」
「そこで御両親は奇策を思いついたのです。―――すわなち、『入れ替え』」
「…………」
「要は、レミリア様をフランドール様に、フランドール様をレミリア様としてしまえばいいのです。幸いにも、レミリア様は生後間もなく地下牢に幽閉されたため、言葉もろくに覚えていない。つまり、自分の名前が『レミリア』であることなど当然知らない」
「…………」
「そして、フランドール様は生まれて間もない状態なので、以後『レミリア』と呼び育てることは容易だった」
「…………」
「もちろん、お二方の間には五年の年齢差があるのですが、吸血鬼という種族は成長が止まるのが早い。よって、双方対面させずに互いの成長が止まる時点まで育て、その後に偽りの真実を告げる」
「…………」
「レミリア様―――いえ、『フランドール』様には、『実は、お前には五歳年上の姉がいる』と」
「…………」
「そして、フランドール様―――いえ、『レミリア』様には、『実は、お前には五歳年下の妹がいる』と」
「…………」
「その後に、対面をさせる。さすれば、双方成長は止まっているので、実際の年齢の齟齬など気付くはずもない」
「…………」
「―――これが、スカーレット家に隠された真実ですわ」
「そ、そん、な……」
衝撃の事実を告げられ、ふらふらとよろめくレミリア。
「う、嘘よ……実は私が妹で、フランドールで……」
「お嬢様、お気を確かに」
咲夜が声を掛けるも、今のレミリアには届かない。
「実はフランが姉で、レミリアで……」
「お嬢様」
「嘘よ! 嘘に決まってる!! ねぇ咲夜! お願いだから嘘って言ってよぉ!!」
「ええ、ウソです」
了
- 作品情報
- 作品集:
- 2
- 投稿日時:
- 2011/04/01 20:29:48
- 更新日時:
- 2011/04/01 20:38:23
- 評価:
- 5/15
- POINT:
- 5077770
- Rate:
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