- 分類
- 雲さん
「おいお前が行けよ。私は嫌だぜ」
「何言ってんのよ。放り込んだのは魔理沙でしょ」
昼下がりの幻想町。磯野霊夢は親友である中島魔理沙と、今日も今日とて野球の祭典「紅魔園」を目指して練習していたのだが、お約束のように魔理沙のホームランボールがフェンスを越えてお隣さんの家の窓をぶち破ってしまった。
家は噂も噂の雷親父、雲居宅である。近所でも雲さんで有名だ。
「参ったな……私のサインでもしておけばよかった」
結局、あみだくじに負けた魔理沙がチャイムを鳴らし、ボールを取りに行ったのだが──
「あら、いいのよいいのよ。丁度窓も汚くなってたから」
雲居さんは思った以上に優しかった。というか、親父じゃなかった。
「いえいえ、それなら良かった」
言ったものの何が良かったのか判らない。というか、こんなアバンギャルドな窓で良いのか。
「あ、よかったらお茶でもどうぞ」
奥の間に勧められる魔理沙。
「いや、そんな……私はこれで」
「いいのよいいのよ。新しいお菓子もあるから是非食べていってほしいわー」
「あ、いや……その」
「食べていってほしいわー」
大事な事なので二度言われた。目が笑ってない。
霊夢も待っていることだし、ここは手早く済ませれば良いか。
そんな軽い気持ちで、魔理沙は乗ってしまったのだった。星蓮船に。
「いやー、それで花沢紫の奴ときたら磯野にゾッコンでね」
「あはは、磯野君はモテモテねえ」
盛り上がってた。魔理沙と雲居さんは盛り上がってた。
窓割ったのに……窓割ったのに……でもまあ良いか、と魔理沙は思ってた。
でもコーヒーを飲み干した魔理沙は、そのカップの底に書かれている文章を見た。
「このカップを置いたら、おまえは死ぬ」
ドドドドドドドドドド
生唾を飲む魔理沙。
微笑む雲居さん。
「どうしたの?何か書いてあったの?」
「い、いや、その」
「最近壁の落書きも多くてね。困っちゃうのよ」
「はは……それは困りますね」
魔理沙の背中に妙な汗が伝った。あの落書きもやっぱり魔理沙の仕業である。
目玉親父とか、目玉焼きとか、何でも落書きはパワーと見せつけた。
雲居さんは全てお見通しだった。魔理沙はまた一つ、ごくりと音を立てた。
「どうしたの?」
慎重に、慎重に、カップを置いたらすぐに逃げよう。
慎重に。慎重に。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
カチャ
「ブルアアアアアアアア!」
おい、声優違うぞ!
魔理沙はここに来てようやく、雲居さんが雲さんと呼ばれてる理由がわかった。
雲居さんはスタンド使いだったのだ。
魔理沙はこなみじんになり、薄れ行く意識の中で命乞いをした。
「雲ざぁん……」
- 作品情報
- 作品集:
- 2
- 投稿日時:
- 2011/04/01 18:25:01
- 更新日時:
- 2011/04/01 18:27:54
- 評価:
- 0/4
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