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目が覚めると慧音の部屋にいた。
なんだか酷い悪夢を見ていたような気がする。
でも、唇にはなんともいえない心地よさが残っているのは何故だろう?
布団から出て居間に行くとやっぱり慧音がいた。
今は春休みで寺子屋は開いていない。
私は彼女の笑顔を確認するとなんとも言えない安心感と幸福感に包まれるのだ。
「ああ、起きたのかい?妹紅。」
「おはよう、慧音。」
「おはよう。」
彼女との何気ない会話は生きる活力を与えてくれる。
死ねない身なのに変な話だが、事実、前向きに日々を過ごそうと思えるのだ。
慧音は私にとっていなくてはならない、大切な存在なのだ。
「妹紅、起抜けで悪いが是非聞いて欲しい話があるんだ。」
慧音が笑顔を急に曇らせ、暗い表情になる。
彼女のそんな表情を見るのは初めてではないが、心を締め付けられる思いがする。
「どうしたの?私でよければ力になるよ?」
私は急いで彼女に隣に座る。
傍にいると彼女が震えているのが分かる。
「慧音、何があったの?」
「ああ、妹紅。私にはお前しかいない。悩みを打ち明けるのも、大事なことを託せるのも。」
彼女は私の手をとると涙ながらに話し始めた。
「…すまないが、寺子屋のことをお願いできないだろうか?」
「え、何を言い出すのよ!?」
「今の私では寺子屋で教えることは出来ないんだ!その資格は無いんだ!!」
「何言ってるの!貴女以上に寺子屋の教師に相応しい人はいないわ!!」
「でも、駄目なんだよ!私は子供を欺き続けきた!そんな人間が教えるなんて言語道断だ!!」
「ちょっと落ち着きなさい!」
私は彼女を頬をはたいた。
乾いた音が居間に響き渡る。
「…落ち着いたかしら…。」
「ごめん、妹紅。」
「ねえ、少しづつでいいから話してくれない?」
「ああ、まず、自分の心に素直になろうと思ったんだ。」
「自分の心に?」
「寺子屋の教師ということは不満は無い。しかし、それ以上に自分に相応しい仕事があると知ってな。」
「だから、辞めようと思ったのね。」
「自分を欺き続けるのはもう耐えられなかった。こんな気持ちじゃ子供たちと向き合えるはずが無い。」
「…そう。」
私は深く追求しなかった。
普段は冷静で思慮深い彼女がここまで取り乱すのは滅多に無い。
残念だが、彼女を寺子屋の教師に引き止めておくのは無理だろう。
「分かったわ。子供たちへの説明や引継ぎは私がやるわ。」
「すまない、妹紅…!」
「いいのよ、私と貴女の仲じゃない。ただ、次の仕事のこと、教えてくれないかしら。」
「勿論だ。私にはお前に伝える義務がある。」
「次はどんなお仕事?あなたがそこまで悩んだのだから、教師に負けないくらい素敵な仕事だと思うけど。」
「ああ、今度は家畜になろうと思うんだ。」
何?今何て言った?家畜?確かにそう言った。
試しに頬を全力でつねってみる。
簡単に頬は引き千切れて血が溢れる。間違いない、本当の出来事だ。
「なんじゃそりゃあ〜!?」
引き千切った頬をリザレクションしつつ私は咆哮した。
唯一の理解者で最愛の女がこんな馬鹿げたことを言うなんて!
「ちょっと、落ち着け妹紅!」
「これが落ち着いていられるかあ!親友が家畜になると言いだして冷静にいられるかあ!!」
「ま、待つんだ妹紅!お前は家畜を誤解している!!家畜だって素晴らしい立派な職業じゃないか!」
まだ言うか、この半獣人は。
一体、どこで頭を打ったんだ?それともエロ同人でも読みすぎたか?
もしくは、永遠亭でH細胞の実験台にでもなったか?
「親友が『豚になります』とかいって応援する人間がどこいる!?」
「いや、それは違うぞ!私は豚になるんじゃないんだ。ああ、とにかく落ち着け!!」
慧音がやおら私の頭を掴むと、頭を思いっきり振りかぶった。
グシャッ
「…あれ?」
「お、起きたかい?」
「慧音?」
そうか、今度は私が取り乱してしまったのか。
慧音の相談役を買って出たつもりが、とんだ迷惑をかけてしまったようだ。
よく見ると、慧音の顔や体の至る所には私の体液や脳髄や眼球がこびり付いている。
「ごめん、冷静にならなくてはいけないのは私だったね。」
「いや、こんな話を聞いたら誰だって取り乱すさ。」
「うん、話を戻そっか。…慧音、なぜ豚に、家畜になろうと思ったの?」
「待ってくれ、さっきも言ったが私は豚にはならない。」
「そうなの?」
「ああ、メス豚は既に先約が、天子殿がいるしな。」
「そ、そうか。」
やはりあの不良天人、そういう趣味があったか。というと、飼主は霊夢か幽香か、はたまたスキマか。
じゃなくて、まず慧音だ。
「慧音は何になるの?」
「実はな、妹紅。私は、その、」
「ごめん、言い難かったら言わなくていいよ。」
「待ってくれ、お前には、妹紅にだけは言っておきたいんだ。」
「慧音…。」
「妹紅、実はな、私は」
「乳牛になろうと思うんだ。」
「はい?」
「驚いて声も出ないかい?まあ、無理もないか。」
「いや、それもそうだけど、何故に乳牛になろうなんて?」
「この前の満月の夜から急に胸が張るようになってな。」
「はい?」
「搾ってみたら9Lも採れたんだ。」
「それから毎朝搾れるようになって、白澤化していなくても平均して6Lは採れるようになったんだよ。」
「はあ。」
「最近じゃあ、紅魔館の近くの妖精が母乳による育児に勤しんでいる噂だし、ならば私もと思ってな。」
「さよけ。」
「丁度、人里に買い物に来てた貧乳PADメイドに味見してもらったら太鼓判を押されて、専属契約を申し込まれてしまって。」
「ヘエヘエ。」
「なにか、新しい道が拓けた、とでも言おうか、新たな希望が見つかった、とでも言おうか…。」
「フーン。」
「これこそ自分の生きる道だ!と感じてしまってな。」
「ヘーソウ、ソレハヨカッタデスネー」
「ありがとう妹紅。申し訳ないが、寺子屋のことは任してもよいだろうか?」
「ワカッタマカセロ、トイウカニドトコドモニチカヅクンジャネー、ソレトエイエンテイデノウミソデモミテモラエコノメスウシヤロウ」
「ああ、勿論!今度は食料を供給する側に立つからな、健康面は今まで以上に気を使わなくてはいかんからな!よし、愚図愚図しておれん!!」
そう言うや否や、慧音は家を飛び出して永遠亭に飛んでいってしまった。
…嗚呼、神よ。何故、ここまで私を苦しめるのですか…?
でも慧音先生の搾乳ならちょっと見てみたいかも。
桜田晶
- 作品情報
- 作品集:
- 2
- 投稿日時:
- 2011/04/01 15:16:58
- 更新日時:
- 2011/04/01 15:21:47
- 評価:
- 1/3
- POINT:
- 1008554
- Rate:
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