あなたの人生のフィロソフィ

作品集: 2 投稿日時: 2011/04/01 12:23:45 更新日時: 2011/04/01 12:23:45 評価: 6/12 POINT: 6046662 Rate: 93025.95

 

分類
地霊殿のペットたち
古明地さとり
古明地こいし
 ぼくたちがさとりさまの寝室に忍びこんだのは午後八時のことだった。
 
 さとりさまはいつもこの時間になるとお風呂に入る。几帳面な性格なので、きっかり三十分の入浴をしてあがってくる。それから髪を乾かしたり、梳かしたり、牛乳を飲んだりして、総合四十五分で寝室に戻ってくる。
 その四十五分間にぼくたちは目をつけた。そのあいだにさとりさまの寝室に侵入して、ふとんやまくらやブラウスでモフろうという話なのである。
 
 確実を期するため、計画は周到な用意のもとにとりおこなわれた。
 さとりさまの動向をうかがうのは、黒猫のクロ。ぼくの親友である。彼はさとりさまがバスタオルを持って寝室をでるのを見はからい、ぼくたちを呼び集めた。ショウ・タイムのはじまりだ――

 

「ねえ! みんな来てよ! コレ、コレ……!」
 
 大勢のペットたちがひしめく寝室の隅のクローゼットに顔をつっこんで尻尾を振っていた柴犬のナカムラが叫んだ。「さとりさまのパンツだ!」

「……?!」

 一同、騒然。
 押しあいへしあいしながら、われさきにとクローゼットへなだれこんでゆく。
 バカ野郎、そんなハレンチなことして、さとりさまに申し訳ないと思わねえのか!……なんてことを言うやつがいるわけもなく、みんな興奮しきってバンザイをしたり、とんだり跳ねたりして、部屋のなかは異様な熱気につつまれた。

「おい、俺らも行こうぜ」 

 ぼくのよこで“少女さとり 〜 3rd eye”に適当な歌詞をつけて熱唱していたクロが、とつぜんぼくの手をひっぱった。
 みんなはパンツをベッドのそばに持っていって、胴上げしている。ぼくたちも参加するべきなのだろうか――?
 
「だけど、あんなに群がってちゃ、触ることもできやしないよ」
「バカ野郎、いいか、パンツってのはな、ふつうクローゼットにたくさん入ってるものなんだ、二、三枚なんてモンじゃねえ、二十枚くらい掘りだせるかもしれねえ、だからこっそり取りに行くのさ」

 そんな、さとりさまにわるいし、ぼくはいいよ、やめておくよ、と首をふった……というのは嘘で、もちろん興奮しすぎて心臓が爆発しそうになりながら、ぼくはクロのあとについてクローゼットへ向かったのだった。
 ほかのペットたちはパンツをつついたり、ひっぱったり、食べようとしたりして大騒ぎしている。だいじょうぶだ、とクロは言った。気づかれることはねえ、だいじょうぶだ、俺らだけで二十枚をいただくのさ……そのときの彼の毅然とした横顔を、三日間は忘れないだろう。

「――」

 ふたりで引き出しをがさごそやっていると、クロが急に手をとめ、身をかたくした。
 ぼくは緊張して、彼の肩をたたく。「おい、まさか――」
「ドンピシャだ」と、クロは言った。満面の笑みをうかべている。「用意しろ、ぜんぶいただいてずらかるぜ!」
 ぼくは引き出しから覗く純白のパンツに目を奪われながら、うなずいた。「……ああ!」
 
 と、そのとき――
 ぼく自慢の耳が、かすかな足音をとらえたのである。ぺた、ぺた、ぺた……スリッパだ、と直覚した。
 とっさに時計に目をやる――まだ八時三十分だ、だいじょうぶ、空耳にちがいない、ぼくたちの長年にわたるさとりさま観察に、狂いがあるはずがない――けれど、音はしだいに大きくなり、確実な恐怖のかたちをとって、ぼくの耳に反響しはじめる。
 
「チッ、クロ、まずいぞ!」
「どうした?」彼は風呂敷にパンツを投げこみながら、ぼくを見た。
「さとりさまが戻ってらっしゃった……!」
「……?!」

 クロが絶句するのを目の端にとらえて、ぼくはクローゼットからとびおりる。パンツなんて言ってる場合じゃない、撤退しなくちゃ――

「みんな! さとりさまが帰ってきたぞー!」

 ぼくのことばにみんなは慌てふためいた。ナカムラはパンツに足をからまれ、うしろにいたきつねのハシがつられて転び、そのうしろの茶ぶち猫のアダマが尻尾を踏まれてとびあがる。もうみんなはわけもわからず、自暴自棄になってパンツに食らいつくのだった。
 だめだ、間にあわない――足音がピタリととまる。とびらの正面で。ぼくは耳をふせて目をつむった。諦めたのだ。
 ところが――
 


 入ってきたのは、なんと、こいしさまだったのである。



 とつぜん、まばゆいばかりのスポットライトがこいしさまの姿を映しだす。
 
「O‐NE‐CHANは」ステージにこいしさまの声がひびく。「どこだ!」
 
 詰めかけたオーディエンスは、こいしさまの久々のステージに期待で爆発しそうだ。
 今晩も伝説のリリックが聴ける。ストリート生まれヒップホップ育ち。本物のラップが聴けるのだ。
 キャップをななめにかぶり、オーバーサイズのTシャツを着たさとりさまがターンテーブルをいじりながら、目でこいしさまに合図する。
 重たいサウンドがスピーカーからひびく。ショウのはじまりだ。

「ここでTOUJO! 私がKOISIYO! 鬼のGYOUSO! さとりんSANJYO!
 違法なSINNYU! さとりんNYUYOKU! あとから来た私もSINNYU!」

(ドゥン、ドゥンドゥンドゥン、キュワキャキャキャッキャキュワキャ!)

「給料減少! 怨霊増加! 閻魔カンカン! 仕事の時間!
 冷たい世間を生き抜き! きょうも妹は無意識!
 どこだKO‐I‐SI&パンツDOROBO! そんな毎日リアルなSONZAI!
 SAY HO!(HO!)SAY HO HO HO HO!」

 さとりさまのプレイも好調だ。オーディエンスの熱気はこわいくらいだ。
 まだ私たちの時代ははじまったばかりだ――そんなメッセージのマシンガンがふたりの口からとびだしていく。
 本物のヒップホップ。それがここにはあるのだ。
 わけがわからないよ
モデム
作品情報
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投稿日時:
2011/04/01 12:23:45
更新日時:
2011/04/01 12:23:45
評価:
6/12
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6046662
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93025.95
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0. 46662点 匿名評価 投稿数: 6
1. 1000000 玖爾 ■2011/04/01 12:33:36
>>わけがわからないよ
ホントだYO!
2. 1000000 名前が無い程度の能力 ■2011/04/01 12:58:21
こいしさまのステージ、待ってました
というか、このオチは読めない・・・!
3. 1000000 奇声を発する(ry ■2011/04/01 13:35:51
どうしてこうなった
5. 1000000 名前が無い程度の能力 ■2011/04/01 13:55:43
なん……だと……
8. 1000000 愚迂多良童子 ■2011/04/01 17:33:46
このコピペ好きwww
10. 1000000 名前が無い程度の能力 ■2011/04/01 21:21:16
いいライムだww
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