- 分類
- お爺さん
お爺さんだった。
縁側で柿を食べながら、ほっこりと笑うお爺さんだった。
小さい子を見つけては笑顔で手招きし、竹トンボをくれた。
いつの間にか隣にいて、それでいつの間にか頭を撫でてくれる。
杖を突きながら歩くお爺さんは、とても足が遅い。
だから、一緒に散歩をすると、世界をよく見ることができた。
ほら、花が咲いてるよ。
兎がね、迷い込んできたみたいだね。
小鳥が鳴いている。あれはキツツキだよ。
お爺さんはとても物知りで、私が知らないことを沢山教えてくれた。
お爺さんはとても優しくて、私に沢山の温もりをくれた。
お爺さんはとても温かくて、一緒に居ると笑顔が増えた。
お爺さん。
私はあなたのことが大好きです。
お爺さん。
私はあなたと、もっと一緒に居たかった。
お爺さん。
出て行ってしまって、ごめんなさい。
お爺さん。
私はあなたの、本当の娘になりたかった。
もうほとんど思い出すことができない、あの日の一幕。
今でも鮮明に思い出すことができる、あの日の笑顔。
二度と取り戻すことの叶わない、あの日から始まったお爺さんとの日常。
お爺さん。
私と一緒に、笑ってください。
私たちと一緒に、月を見ましょう。
私たちと、お爺さんとお婆さんと、ふたつの家族で。
あの温かい笑顔を、共に浮かべましょう。
所詮は夢物語なのでしょう。
叶わぬ想いに過ぎないのでしょう。
でも、だからこそ、私は何度だってあなたの笑顔を思い浮かべます。
お爺さん。
私は今、大切な家族に囲まれて、笑っています。
お爺さん。
だからどうか、安心してください。
お爺さん。
私は今、心の底から笑えていますよ。
お爺さんがくれた笑顔を、大切な人に、伝えられていますよ。
だから安心して、見守っていてください。
私の大好きな、お爺さん。
――了――
- 作品情報
- 作品集:
- 1
- 投稿日時:
- 2011/04/01 09:14:23
- 更新日時:
- 2011/04/01 09:14:23
- 評価:
- 3/9
- POINT:
- 3039996
- Rate:
- 60800.42
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