- 分類
- 秘封倶楽部
- 蓮子
- メリー
- 近藤
- 健全
「メリー……メリぃ……」
「うふふ……かわいいわよ蓮子」
学生街から少し離れた位置にある、古いアパートの一室。そこでは住人である女子大学生が、もう一人の女子大学生に組み敷かれていた。
「私たち女の子同士なのに、こんなことっ……!」
一糸まとわぬ姿で、唇を重ね合わせる二人。閉じられたカーテンから漏れる月明かりが、白い肌を妖しく照らしている。
組み敷いている側、所謂『攻め』の体勢となっている少女マエリベリー・ハーン、通称メリーは幸せを感じていた。サークル活動を始めてからずっと、この相方を想い続けてきた。
だが二人は女性同士。けして届かぬ想いを抱き続けるのは、辛いものであった。
しかし今日、その幻想をぶち壊す。
「蓮子……今日こそ、私たち一つになれるのよ」
「ひっ……それって……!」
下にいる彼女、宇佐見蓮子が驚くのも無理はなかった。
メリーの股の間に、女性にはあるはずのないそれがあったのだ。しかも既に臨戦態勢であり、どくんどくんと聞こえてきそうなほどに脈打っている。
「ど、どうして……」
「ここに蓮子を愛してるって気持ちが詰まってるのよ……もう、いいわよね」
そう言うと、足の間に体を滑り込ませる。十分に濡れそぼったそこに押し当てると、蓮子が小さく声をあげた。
「ひぁっ!ま、待って、メリー……」
「ふふ、今更怖くなったの?」
「そうじゃなくて……その……これ……」
震える手で差し出したのは、ゴム製でできたアレであった。コンビニで買うと茶色い紙袋に入れてくれる。
「あら……こんなの持ってるなんて、いやらしい子」
「うう……だって……」
「いいのよ。そうね、子どもはまだ早いし……」
慣れた手つきで装着を終える。そして怯える彼女をやさしく抱きしめ、ゆっくりと腰を沈め―――
「……という夢をたのよ」
「……うん、わかったわメリー。病院行きましょう」
そう言って立ち上がろうとする蓮子。その腰に縋り付き、止めようとするメリー。その光景は、傍から見ればかなり危ない状態である。
「それとも何?欲求不満だったりする?」
「否定はしないけど、馬鹿言わないでよ」
「否定してよ!」
しがみつきすぎた挙句、スカートがほとんどずり落ちている。腰はおろか、その下の布まで見えてきそうである。
「やめて!病院怖いの!注射痛いの!」
「あんたは小学生か!それより手を離せ!」
当然離さない。ここまで来ると、それが狙いとしか思えない。スカートが取り払われ、下着に手がかかる。
「私は夢を……幻想を、現代に取り戻す!」
夢が現実のものとなる。人それを正夢と呼ぶ。
「やぁ……それ以上は……だめっ」
そしてついに最後の砦も崩され、秘封倶楽部の秘密、封じられた謎が解き放たれる。
「え、蓮子……これって」
「……バレたら仕方ないわね。責任、とってもらうわよ、メリーさん?」
下着の下、何もないはずのそこに、それはあった。夢の中のそれと同じように、大きく躍動している。
「ちょ、ちょっと待って蓮子!それはあくまで夢の中の話で……あ、あれ?いつのまに服を」
「あら、メリーも準備できてるんじゃないの。ほら、早く一つになろ?大丈夫、ちゃんとつけるから」
そう言って、今回の夢の戦利品を身に着ける蓮子。その真剣な目を見て、覚悟を決める。
「……うん、いいよ蓮子……来て」
その手を取り、引き寄せる。愛する人が目の前にいる。頬に当たる吐息が、この上ない安心を与えてくれる。彼女とならば、どこまでも。
「愛してるわ……メリー
」
「うん……私も」
そして、二人は一つになった―――
「……という夢をたのよ」
「……この調子で続けるつもりじゃないでしょうね」
二人の女子大学生が、カフェでテーブルを挟んで駄弁る。何の問題もない、普通の光景であるはずだが、その会話内容と手にしているものが大問題だった。
「ほら見て蓮子!目を覚ましたらこれ、これが手にあったのよ!」
「わかったから、こんなところで出すなー!」
少なくとも、こんな天下の往来で見せびらかして良いものではない。真昼間から猥談に興じる彼女達に、周囲は騒然としている。別名、どん引き。
数分後、互いに息を切らしたところで話を進める。
「……で、とにかくそれが今回の『お土産』であるというわけね」
「そういうこと。きっとこれが、向こうの世界に繋がる鍵であるはずだわ」
誇らしげに胸を張るメリー。その豊かさに黒い感情を覚えるのは、蓮子だけではないだろう。
「これが、ねぇ……なんか前のと比べて、一気に胡散臭くなったんだけど」
これまでば、こちらの世界に存在しない花やお札など、いかにもといったものばかりであった。蓮子が訝しむのも無理はない。
「でも、こんなデザインの見たことないでしょ?」
「他のもないわよ。まさかメリーは、日常的にこういうものを目にする生活を送っているの?ちょっと貴方との付き合いを考え直す必要が……」
「そ、そんなわけないでしょ!」
メリーがおぼこかどうかはさて置き。結界暴きが行き詰まっていた現状、これに頼るほかなかった。
「それで今日の活動だけど……これがヒントだとして、どうしたらいいのかしら」
「こういうときは姓名判断よ。蓮子、この子の名前はなんて言うか知ってる?」
「だからこんなところで……」
幸か不幸か、先ほどの騒ぎで周囲に人気はほぼなくなっていた(もちろん蓮子の人気は鰻上りだが)。それでも、恥ずかしいものは恥ずかしい。
「………………どーむ」
「何!聞こえない!それじゃ全然伝わってこない!」
「コンドームだってんでしょうが馬鹿メリー!」
カフェの中心で淫語を叫ぶ。彼女の勇気は、後世まで語り継がれることであろう。
「その通り。私は親しみを込めてコンちゃんと呼んでいるわ」
この際コンちゃんでもゴンちゃんでもいい。タンスの置くやつか、はじめ人間か。
「じゃあ、その名前の響きから何を連想する?わからなかったら連呼してみるといいわ。蓮子だけに」
「こんどーむこんどーむこんどーむこんどーむ」
ハイライトを失った目でつぶやき続ける。こんなつぶやきを続けていたら、リムーブされそうだ。
「こんどむこんどむこんどむこんどう近藤……?」
「それよ蓮子!近藤さんよ!」
意味不明である。しかし度重なるセクハラによって蓮子の精神は限界を迎えており、正常な判断能力を失っていた。
「近藤さんね、任せて!今すぐ大学中の近藤さんをリサーチしてくる!」
そうして学務係へと消えていった蓮子。彼女の勇姿を、そして犠牲を忘れてはならない。
「ハァハァ……手に入れたわ!学生名簿よ!」
この間数秒。人はその気になれば、何でもできるものなのだ。
「ここから近藤と名のつく人を探せばいいわけね」
「ええ。もう大体の目星はついているわ」
次々とリストアップされていく近藤さんたち。断っておくが、実在の人物とは一切関係ありません。
「まずは彼ね。近藤勇。新○組というサークルの局長……もとい部長をやってるらしいわ」
「なるほど。どうでもいいわね」
趣向が合わなかったのか、一蹴するメリー。だが、近藤さんはまだまだいる。次の名を読み上げることにする。
「じゃあこの人。近藤真彦。ジャ○ーズというサークルの部長で……」
「へー、そう。貴方はその程度なのね」
これも駄目のようだ。ギンギラギンにさりげなく酷いことを言われたような気もする。
それからも何人か近藤の名を挙げたものの、メリーの首は縦に動かない。さすがにネタ切れが近くなってきた。
「はぁ……もう彼女しかいないわよ。近藤夢さん」
「!」
「夢って書いてゲンソウキョウって読むのね。最近の名前はどうなってるのやら……ってメリー?」
「これ……これよ!こんどうむって読めるじゃない!彼女に間違いないわ!」
名前から判別不能なため、そもそも女なのかどうかが疑問だが。メリーの中では確信に近いらしく、既に立ち上がっていた。
「そうね、行きましょうか。彼女はテニスサークルに所属しているらしいわよ」
蓮子も席を立った。腕を組み、意気揚々と出かけていく二人。この後の悲惨な運命も知らずに……
「これが現代の大学生の実態なのね」
「もうやだこの国」
結論から言えば、駄目だった。テニスコートにはいなかったため部室の扉を開けたところ、『お取り込み中』であった。
「そりゃ確かにアレはあったけれども……」
部室内には無数の近藤さんが散乱していた。テニスサークルが(ピー)であるという噂は本当らしい。
「メリー……今日は帰ってもいいかしら」
「そうね……明日また考えましょう」
蓮子はもちろん、メリーの精神もかなり危険であった。このままでは秘封倶楽部の危険が危ない。
こうして、この日のサークル活動はお開きとなった。しかし近藤さんの魔の手は、静かに二人の身に迫っていたのである。
翌日。セットした目覚ましが鳴る五分前。蓮子はうなされていた。
「うーん……出してぇ……」
嫌らしい意味に見えた人は腹筋。彼女は今、薄い幕で覆われていた。ゴムっぽいものでできたそれは、押しても引いても破れそうにない。
「助けて……助けてメリー……」
酸素が薄くなってきた。このままでは、いずれ避けられぬ死を迎える。そんな絶体絶命な状況で求めたのは、やはり愛する友であった。
「蓮子!」
薄れる意識の中、友の姿が見えた。涙を流しながら、自分の身を案じている。
「メ……リ……」
差し延べてくれる手が、掴めない。そんな私が最期に見たのは、友の涙と、不適に笑う近藤さんの姿だった……
「……って、うわああああ!」
目が覚めた。見ると、昨日メリーから預かったコンドームが枕の下にあった。明らかにこのせいである。
「……こんなもの!」
怒りのままにそれを引きちぎる。意外と固かった。さすがは安全を謳うだけある。
「はぁっ、はぁっ……ん?」
そのときちょうど、メリーから電話があった。
「蓮子どうしたの?なんか疲れてるみたいだけど」
「ちょっとね……安全すぎたの」
首を傾げる(のが電話越しでもわかる)メリーは置いておき、今日の予定を話し合った。土曜日なので、一日をサークル活動に費やせる。
「とりあえず、いつものカフェで?」
「いいわよ。ちゃんとアレ、持ってきてね」
目の前でバラバラ死体となったこいつのことだろうか。思えば、この子にはかわいそうなことをした。こいつ自身に罪はないというのに。
「あー……うん、それも含めて後で話すわ」
通話終了後、なんとか亡骸を集めてみる。こうして見ると、多少の愛着は湧いてくるから不思議だ。
「コンちゃん……」
それを手に、待ち合わせ場所へと向かうことにした。
「……という夢をたのよ」
「……さすがの私でもそれは……」
メリーは引いていた。先日、それよりも酷い内容を受け入れてくれた友人に対する仕打ちがこれである。
「うー……だからごめんって」
「……まぁいいけどね。もう一つあるし」
目を見開く蓮子の前で、メリーはまたそれを手にしていた。僕らの仲間、近藤さんである。
「な、なんでまた……」
「夢をたのよ。話すと長くなるんだけど、蓮子が私に襲い掛かってきて……」
「わーっ!もういい!」
悲劇は繰り返してはならない。人類は歴史から学ぶものだって誰かが言ってた。
「とにかく、ブツはまだこちらの手にあるのよ。まだ勝てるわ蓮子」
「何と戦ってるのよ……」
呆れる蓮子を他所に、メリーが資料を並べ始める。
「さて、今日はここに行こうと思うのだけれど」
「これって、えっと……野球場?」
そこに記述されていたのは、建造中のドーム球場のことであった。県内初の大型ドームということで、各所からの注目を集めている。
「これがどうかしたの?」
「わからない?もう一度声に出して読んでみなさい」
決して声に出して読みたい日本語ではない。それでも、友の助言は聞いておくべきである。
「ちか……どーむ?」
「違う!そんな読み方しない!」
蓮子にはなんとなくわかっていた。何を言わせたいのか。惨劇はやはり避けられないようだ。
「こ、こん……こんどー……む」
「何恥ずかしがってるのよ。昨日はあんなに連呼してたくせに」
「誰のせいだとっ!」
メリーの持つコンドームを奪い取る蓮子。包装紙を開ける手間すら惜しく、強引に破ろうとする。
「やめて蓮子!憎しみはまた新たな憎しみしか生まないのよ!」
「うるさい!私は……神になる!」
その時、メリーの目には結界が見えていた。人と人とを隔てる心の壁。そんなA○フィールドもとい結界を、蓮子が両手でこじ開けようとしている。暴走した初○機のごとく、
「結界を……喰ってる?」
「うああああああああ!」
蓮子暴走モード突入。そんな字幕が頭を過ぎった瞬間、空が割れた。
「ま、まさかこれって……!」
「そうよメリー。ココア・ソーダ・クエン酸」
ここはそう楽園さ。蓮子はそう言っていた。彼女の強い想いが、ついに幻想郷への扉を開いたのだ。
「すごい、すごいわ蓮子!ついに私たちの夢が実現したのね!」
幻想を現実のものとした秘封倶楽部。そんな二人の目に涙はなく、溢れるほどの笑顔があった―――
「……という夢をたのよ」
「……ごめんメリー、どこからが夢なのか教えてくれない?」
おそらくはドーム云々のあたりからである。とりあえず、メリーの手元にはドーム球場の資料がある。
「そんなことより、ここに行ってみましょうよ。名前からして、何かしらの繋がりがあるはずよ!」
「そうね……確かに、気にはなるわね。スポンサーが近(ちか)食品株式会社だからって、こんな名前にするのはどうかしてるもの」
ちかドームと読ませるらしいその施設は、ここからかなり離れた位置にある。行くとすれば、一泊は覚悟しなければならない。
「あまり遠出する準備してこなかったけど、メリーは大丈夫?そんな装備で」
「大丈夫よ、問題ないわ」
その台詞はつまり大丈夫ではないという意味になる。そんなことは露知らず、二人は目的地へと足を踏み出した。
「神は言っている……ここでちゅっちゅする運命ではないと」
「何言ってるのメリー。ほら、着いたわよ」
思いのほか時間がかかってしまった。時刻は十一時をまわっており、既に帰りの電車はなかった。今夜はこのあたりで明かすことになる。
「それにしても……何もないわね」
目の前のドーム以外には何もなく、そこも建設中で立ち入り禁止となっている。雨でも降ってきたら一溜まりもない。
「入れないみたいね……どうする蓮……蓮子?」
「うーん、よいしょ……」
見ると、蓮子がフェンスを乗り越えようとしていた。蓮子はいつもどおりの服装、つまりスカートを履いているわけで。メリーの目には、見えてはいけないものが見えていた。
「ほらメリー。ここからなら入れそうよ!」
「うん、わかったから……その……」
なるべく上を見ないようにして上る。蓮子は気付いているのかいないのか、夜でも眩しく輝く笑顔をこちらに向けていた。
「さて……どうしたものかしら」
中に入ったはいいものの、次の手が見当たらない。勢いに任せて来てしまったことを、早くも後悔し始めていた。
「どうしましょうか……」
「そうね、ドームだし……とりあえず投げる?」
どこから取り出したのか、グローブとボールを手にしていた。どちらともなくボールを投げ、それを捕る。会話のキャッチボールはよく行っているが、実際のキャッチボールをするのは初めてであった。
「蓮子……私、プロ野球選手になるわ」
「それいいわね。女性が野球するの、最近流行ってるらしいし」
聖たん(白蓮に非ず)かわいいよ。
「でも、ポケットの方には出ちゃ駄目よ。半分ぐらい死ぬか鬱展開になるから」
そんなくだらない話をしながらナックルカーブや高速スライダーを投げていると、入り口の方が騒がしくなってきた。
「夜のドーム球場はロマンティックね(←のんき)」
「そういがー(←方言)」
見ると、何やらおめでたい色をした巫女と、金髪幼女がよくわからない会話をしていた。
「目の前が取って食べれる人種?」
気がつくと、幼女が目の前に迫っていた。人畜無害な顔をしながら、物騒なことを呟いている。
「逃げるわよ!メリー!」
暗闇の中で、白い牙が光る。それを見てようやく我に帰る。震える相方の手を握り、走り出す。
「待ってー、片腕だけでいいからさー」
幼女相手なら余裕で逃げられると思ったが、考えが甘かった。信じられない速さで追いつかれ、これまた信じがたい力で押さえつけられる。
「や、やめて……助けて……!」
「うーん、包装布が邪魔ー」
あっという間に服が剥ぎ取られ、白い肌が露になる。柔らかいところから食べようと言うのか、その視線は胸元に集中している。
「い、いやぁ……ああっ!」
「いただきま〜す!」
だが、神は言っている。ここで死ぬ運命ではないと。そんなリョナシーンを書く準備などしていない。なんだかんだで二人は助かるのである。
「ふぅ、コンちゃんがいなかった即死だったわね」
「ええ、さすが安全を保障するだけあるわ」
怪しい者たちは、ゴムに包まれ破裂したのだった。このように、コンドームを持ち歩くと夜道も安心なのである。みんなも真似しようね!
「はぁ、結局収穫は無しか……」
「疲れたわね。どこか泊まる場所を探しましょう」
少し歩くと、やたら派手な建物があった。宿泊料金が書いてあったので、きっと夜を越せる施設なのだろう。何の疑いもなく中に入った。
「ねぇメリー、ここって……」
「うん……休憩の文字もあることから気付くべきだったわね」
案の定である。ここは、宿泊以外の何かを主目的とする施設だった。
「どうしよっか……」
「いやいや、普通に寝ればいいでしょ。頬を赤らめないで。脱がないで」
しかし空気を読むのが日本人の美徳。この夜は熱くなるのだ。
「わかったわよ……先にシャワーを浴びてきなさい」
「うん……」
どうでもいいが、この間が非常に大変なのである。相手が出てくるまでの間、何をしていればいいのか。誤ってテレビをつけようものなら、教育上とてもよろしくない映像が流れ、さらに悶々としてしまう。
「うぁー……どうしようどうしよう……」
枕に顔を埋め、足をバタバタさせる蓮子。メリーのことは好きだが、順序が間違ってはいないだろうか。でももう戻れない。覚悟を決めるしかないのか。
「あー……ここから出たら……蓮子と………」
一方、こちらも大変であった。シャワーを浴びられるのは嬉しいが、それがいつもとは違う目的を持っている。念入りに洗うべきなのか。どこを?何のために?彼女ために。
「こんな形で……いいのかな」
蓮子のことは好きだ。自分の全てを捧げてもいい。毎晩のように思い煩っていた。だが、このままの勢いで夢を叶えてしまって本当にいいのだろうか。
「お、お待たせ……じゃあ次は蓮子……」
「う、うん……」
静かな部屋に、シャワーの音が響く。蓮子の肌に弾かれた水がしたたり落ちる音が、嫌でも聞こえてくる。
「やっぱり……」
メリーは決意していた。
「言わなきゃ……駄目よね」
蓮子は決意していた。
「……ねぇ蓮子」
「ねぇメリー……」
息を呑む。互いの鼓動が、はっきりと聞こえてくる。長い沈黙の後、どちらともなく近づく。息がかかる距離にまで迫り、唇が触れそうになる。その前に、事実となってしまう前に、たった一言。必要な言の葉を。
「……愛してる」
「……私も」
そして、重なる。唇が重なる。抱きしめる。全身で、相手の体温を感じる。自分が受け入れられ、相手を受け入れる。とても心地よい。そのまま折り重なるように、ベッドに倒れこむ。この後のことは、よく覚えていない。
この夜、二人は一つになった。コンドームが結んだ愛だった。
「ねぇ蓮子……」
「なぁにメリー……?」
二人は飛んでいた。大きく膨らませたコンドームに摑まり、空を旅する。どこまでも、どこまでも。
「これから、どこへ行こうかしら」
「どこでもいいわ……貴方と一緒なら」
周囲に無数のコンドームが浮かんでいる。ウレタン製のやつも、極薄のやつも、暗闇で光るやつも、味がついているやつも、みんな歓迎してくれている。そしてみんな、口々にこう言うのだ。
おめでとう、と。
- 作品情報
- 作品集:
- 1
- 投稿日時:
- 2011/04/01 07:55:32
- 更新日時:
- 2011/04/01 07:55:32
- 評価:
- 2/4
- POINT:
- 1115554
- Rate:
- 44623.16