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今日はバレンタインデーだ。
ナズーリンからチョコが貰えるかと思うと、心が躍る。
ナズーリンが星にチョコを渡していた。
立派な包装がかけられた、見るからに力入れてます! という感じの箱で。
それだけじゃない。
寺の他のみんなにも、交流のある人妖にも、同じ様にチョコを渡していた。
でも、私にはチョコをくれない。
何で?
どうして?
二人っきりで顔を合わせる事だって、朝から何度もあったのに。
だから、思い切って聞いてみた。
「君にもちゃんと用意してあるさ。特別な物がね」
小さい、みんなに配ってたのよりも遥かに小さい。
妖精だって一口で食べられるくらいの大きさ。
はっきり言って不満だ。
その事が顔に出ていたのだろう、ナズーリンが苦笑しながら説明をし始めた。
子曰く、高級ブランデーを使った手作りの品らしい。
妖怪の賢者に頼んで外の世界からナポレオンなる品質の物を手に入れたそうだ。
私は洋酒に造詣が深いわけではないので良くわからないし、ナポレオンと言えば下町のナポレオンしか思い浮かばないのだが。
そして手に入れたそれを使ってブランデーを使ったチョコレートを手作りしようとしたのだが上手く行かず、量が少ないのは満足の行く物が出来るまで何度も作り直した結果だと。
本当は、あまりに美味しそうだったから自分で飲んでしまって、気付いた時には量が少なくなっていたからこれしか作れなかったんじゃないの?
「失礼な、私は村紗では無いよ。さて、これで量が少ない理由はわかったろう」
つまり、私の大きな大きな思いの丈をこの大きさにまで圧縮したのがこのチョコレートなわけだ。
自信満々にナズーリンは言う。
なるほど、それはそれは大変嬉しい。
自分でも頬が緩んでいるのが良くわかる。
「そんなに嬉しそうな顔をされると何やら恥ずかしいな。さぁ、食べて感想を聞かせてくれないか」
できれば結界の中で永久に保存しておきたいところだけど、ナズーリンにそう言われては仕方が無い。
名残惜しいけれど、一口サイズのチョコレートをまるごと口の中に放り込んだ。
普通だ。
実に普通のチョコレートだ。
ブランデーの香りとか全然しないんですけど。
やっぱり自分で全部飲んじゃったのね、ナズーリン。
微笑ましいものを見る目でナズーリンを見つめながらチョコを噛んだ瞬間、突然口の中に芳醇な香りが広がった。
驚いた。
驚き過ぎて鼻から雲山が出るかと思ったくらい。
チョコの中に濃厚なブランデーのゼリーの様な物が入っていて、それがチョコという殻から飛び出して口の中で飛び回っているかの様に芳醇な香りを撒き散らしていたからではない。
ナズーリンである。
このチョコは正しくナズーリンなのである。
彼女はブランデーやワインといった物を好む。
ゆえに酒の席での彼女は、この様な香りをほのかに立ち昇らせていた。
私の口の中で広がるそれは、彼女の香りを極限まで煮詰めてそのまま封じ込めた物なのだ。
よく着用者の香りの染みついた服や布団を纏って、「あの人に包まれてるみたい」などという表現があるが、正にそれの逆である。
――ナズーリンを食べてる! 私、今ナズーリンを食べてるわ!――
天にも昇る気持ちとはこういうものなのね……。
今、私は悟りを開いた。
「はっ、夢ですか」
「姐さん? どうしました?」
「い、いえ! 何でもありませんよ一輪」
- 作品情報
- 作品集:
- 1
- 投稿日時:
- 2011/04/01 07:52:12
- 更新日時:
- 2011/04/01 22:10:49
- 評価:
- 2/2
- POINT:
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