vs魔王

作品集: 1 投稿日時: 2011/04/01 06:36:57 更新日時: 2011/04/01 06:36:57 評価: 0/2 POINT: 15554 Rate: 1038.60

 

分類
東方は一ミリも関係無い
〜ヒロシ宅・彼の部屋〜

 振り返るとねこみみがいた。
「よぅにーさん」
 目を疑う前にまずはじっくりと見る。
 単なるアクセサリではありえない、本物の質感を持つ猫耳と尻尾。後ろの方が時折ぱたぱたと動いている。
 身長はまあ、120センチってとこか。ちょっと茶色の入ったショートカットの髪。首には赤いリボンが結んである。
 ワンピース、あるいはローブとでも呼ぶような真っ黒の服を着ている。シンプルだけどそこがまたなんともイイ!
「……」
 総合して、可愛い。ぷりちーなねこみみ幼女だ。
 だからまあ、細かいことは抜きにして、とりあえずヒロシは気になったことを聞いた。
「どっから入ってきた?」
 すると幼女は当然のような顔をして、
「窓からだぜ」
 親指なんか立てつつ言った。

「まあそんな訳でにーさん、ボクに協力してよ」
「どういう訳だよ。ちょっと待て」
 見れば成程、カーテンが風に揺られている。
 はじめから窓は開けっぱなしだったので、身のこなしが軽い奴なら無音で入ることができるだろう。でもここ二階なんだけどね。
「そんな不思議そうな顔しないでって。ボクの正体を考えれば別におかしなことじゃないよ」
 考えが顔に出ていたのか、そんなことを言われる。
 しかし…………正体?
 ちょっと考えて出た答えは、
「――猫娘?」
 今朝観たキタロウのアニメの影響でした。
 するとねこみみちゃん(暫定)は両手でバツを作って、
「残念、近かったけどね。もうちょっと広義的に“妖怪”って
 言って欲しかったな」
 ヒロシの反応はこれ↓
「……ふ〜ん」
 つっまんねえリアクション!
「あんまり驚かないね。……驚かれてもウザいけど」
 少しだけ意外そうなねこみみちゃん。
 ゲーム世代とかオタクとか呼ばれる人種は、恋する乙女より夢見がちなので簡単にそーゆーの受け入れちゃうのです。
「――で、だ。手伝ってやりたいのはやまやまだけど、俺まだ宿題が終わってないもんで、無理なんだよ」
 心底残念そうに、さっきまで座っていた椅子と机に目をやるヒロシ。その上には作文とかに使うと思われる原稿用紙がもうどっさりありました。
「そっかー今日夏休み最終日なのに宿題あるんだー、そいじゃあ仕方ないねー」
 棒読み口調でねこみみちゃん。最終日とか詳しいねなんか。
「んーまあね。読書感想文とかマヂやってられん」
 やれやれと肩をすくめるヒロシ。
「――なんて言うと思ったか」
 伏せていた顔をあげたねこみみ、おもむろに用紙をむんずと掴み、目にも止まらぬ一閃でさっきまでのヒロシの苦労を全部バラバラのゴミに変えてしまいました。おっかねー。
「って、なんてことすんだ」
さすがに声を荒げるヒロシ。
「未使用の原稿用紙が……勿体無いじゃないか」
 まだなんもやってなかったのかよ!
「これでグジグジと家に引きこもってる理由は無くなったね。万事解決だぜ」
 にこにこねこみみちゃん。うお、かわええのうとか内心ニヤけるヒロシ。
「そうだな。宿題なんてモンの相手してる暇があったら、お前さんと愛の逃避行がしたいぜ、お兄さんは」
 それでいいのかヒロシ、色々と。
 宿題、読書感想文だけじゃねーだろが。
「応、最初っからそう言えよ。あと逃避行うんぬんは死んでも御免だぜ、ファッキンニート」
 ちらりと笑顔の中にのぞいた八重歯がキュート! ヒロシは人としてなんか大切なものを喪ったのでした。

(・・・移動だぜ↓)

「結局何を協力すればいいんだ?」
 いまさらすぎる質問を遅すぎるタイミングで言うヒロシ。
「なんだ、ちゃんと見てなかったの?」
「魔王城に行くんだよ」
「なにしに」
「魔王を倒しに」
「えー」
「えーじゃない。タイトルに書いてあったでしょ」
「いやそうじゃなく。ウチの近所をてこてこと歩いてるだけで着くんですかねそこ」
「着くさ近所だもの。あと二十秒だね」

(二十秒カウントしてください)

 たどり着いたのはフツーの民家。
 ただ一つ普通じゃないのは表札に「魔王」って出てること。
 ポカーンとアホ面さらしてるヒロシを放ってさっさと入ろうとするねこみみ。
「ちょ、待ってくれねこみみちゃん。勝手に入っていいのか?」
 気にするとこはそこかよヒロシ。ま、いーけど。
「いいの。あとねこみみちゃんじゃなくてみゆだから、名前。でも“ミュー”って呼んだら殺す」
「わかったよミュー」(←名前を知れたので超笑顔)
「唸れ究極の拳。我が一撃は天下無双」
 閃く雷光。ヒロシに目潰しがクリティカルヒット!
 ヒロシは4572のダメージを受けた。戦闘不能。
「がふっ」
 崩れ落ちるもやしっ子。でもその口元には満足げな笑み。
「さっさと行くよヒロシ」
 その体をひったてるようにしてみゆは魔王宅へと踏み込んだ。
「ところでなんで名前知ってるの?」
「書いてあったよ。首からさげてる迷子札に」
「ガ━(゚Д゚;)━ ン !!!」

〜魔王城(宅?)内部だぜ〜

「? どなたですかー」
 ガラリと戸の開く音を聞いた家人が、不審に思ったらしく、詰問の声を投げかけてきた。
 無視して進むみゆ。つーか完璧にこっちが犯罪者だね。
「おーいみゆさん? このままだったら俺らの方がK察とかに通報されちゃいますよ?」
 珍しく的確なツッコミだなヒロシ。
 いそいそと迷子札をポッケにしまいつつ、落ち着きなく辺りを見回すヒロシ。まー無理もない。
「落ち着けよ、ヒロシ。いざ魔王城へ踏み込んだからってそんな挙動不審でどうすんの」
「いやだってさぁ、……民家じゃん。至ってフツーの」
 そう。城ぢゃねーよ、どっからどー見ても。
「ここは魔王の家で、倒しにやってきたボクたちは不法侵入。ありがちなRPGとどこが違うのさ」
「しいて言うなら認識の根本かなぁ……」
 呑気にだべる二人。その余裕が崩されたのは一瞬のあと。

「あ、アンタ達………人の家で何してんの!!」

 ちょっと遅いような気がしないでもないが、やっと家人登場。
 すんごい声量で一喝されて、二人とも耳押えてビリビリ震えてます。振動で。
 ちなみに、みゆたんはちゃんとねこみみを押さえましたよ。あの小さい手じゃあ完全には耳塞げてないけどね。
「け、警察に通報しなきゃ……」
 震える手で電話をかける奥さん。出てくる前にかけろよ。
「――てゆうか、えっと、」
 なんか言いたそうな顔してるねヒロシ君。いいよ言っちゃえ、言っちゃえって。
「あれが、……魔王なのか?」
 そうっと指さした先には奥さんがいて。
 その頭に生えた羊みたいなツノとか、紫の肌に直接身につけたピンクのエプロンとか、筋肉とか、顔のいろんなとこの剛毛とか、なんかそーゆー突っ込み所満載の姿をしているわけです。
「……」
 質問には答えず、すたすたと近寄り電話をパンチでぶっ壊すみゆ。やっぱ怖ぇよこのコ。
「きゃっ、何するのよこの猫耳!」
 通話中の電話を叩き壊されて、思わず暴言を吐いてしまう奥さん(仮称)改め魔王。やたら声のトーンが高い。
「天に星。地に花。人に愛。そして魔王に勇者っつーことで、アンタを倒しにやってきたよ。勇者みゆwith愉快な下僕が」
「俺下僕だったの!? ……いや、いいんだけどね」
 ――古来より、アカシックレコードの歴史においてこんな名乗りをした勇者がいただろうか。
 ど う で も い い ね。
「……そう。貴方達が勇者なのね」
 ゆっくりと、噛みしめるように呟く魔王。
 もうその若奥様風の話し方はやめてほしいなーマジで、と切実にヒロシは思った。思っただけだったけど。
「勇者を待ち構えて、楽しみにしてる魔王だっているにはいるけども、結局は貴方達押し込み強盗みたいなものじゃない!
 私の“若奥様の怠惰な午後”を邪魔した罪は重いわよ……」
 怒りに打ち震えてます、はい。
 貴方、本当に性別女なんですか。ごめんよ疑って。
「きしょいのはどっちにしろ変わらないけどねー」
 地の文に同意するみゆ。キャラがそういうことすんなよ。
「ふざけないで。仕掛けないならこっちから行くわよ!」
 魔王なにやらむにゅむにゅとやりはじめる。
「瞬きと輝きの光よ。煌きと栄華の星辰よ。
 我は天意を継ぎし者。王の名の下、蒼天穿つ龍を解放せよ!」
 星魔法上位『天異無砲(ギャラクティカ・マグナム)』の短縮詠唱。
 惑星を一撃で消滅させるそれは、力を押さえても家一軒くらいは簡単に吹き飛ばす。ダメージ値にしておよそ6、7ケタ。
 ヒロシなんかはもちろんそんなこと知らんし、凝縮する魔力に「なんかヤバそー」なんて思ってるだけなんだけども。
 我らがみゆたんはもちろん違った。
「そんな強力な魔法(モノ)ここで使ったら……っく、させない!」
 早九字を切り、臨兵闘者皆陣列在前を唱える。
「これでどうだっ……金色夜叉ぁ!」
 金色に輝く光が、長い爪の形を取ってみゆの両手に現れる。
 それはもちろん夢、幻の類ではなく、どんな物質、魔術構成をも切り刻む、超高エネルギーの凶爪である。
「……きゃあっ!」
 声だけ聞けば若奥様な悲鳴をあげる魔王。先程の魔法を発動前に爪で消去され、その体もどんどん切りつけられていく。
「まだまだぁ!」
 ガンガン行こうぜ、てな感じに攻めて攻めて攻めまくるみゆ。もう圧倒的。ガシガシ切って、どかどか周りのもの壊し、魔王いちいち吹き飛ぶ。
「……あぁっ!」
 わずか数分で息も絶え絶えな魔王。
 あんたもきっと、魔王クラスの強さならちゃんと持ってるんだろうけども、ねこみみには負けたってことだね。
 ご愁傷さまでした☆(つまり、可愛いは正義)
「まだ死んでないわよ!」
 あらら、それは失礼しました。
 まだおくたばりにはなっていらっしゃらないようですから、バトル続行しましょか。せいぜい盛り上げてねん。

「ふ、ふふ……」
 よろよろと満身創痍になりながらも、不敵な笑みを浮かべる魔王。正直やめて頂戴。
「なにがおかしいんだよ」
 ちゃんと乗ってあげるみゆ。さすが勇者、それなりに心広いね。
「貴方がなかなかやるのはわかったわ。……でもね。ある魔王は伝説の聖剣がないと倒せないように、私にとどめを刺すのも特別なモノが必要なのよ」
 嘘を言ってるわけじゃあなさそう。単に魔王が打たれ強くて死んでないんじゃなくてね。
「へぇ。ボクとしても、このまま殴り続けるだけってのが続くのは勘弁してほしいな。飽きるし」
 ところでヒロシがその時何考えてたかというと、
(縦横無尽に飛び回っているみゆのみみとかしっぽとか、マジ、動きまくりで可愛いすぎるぜ……!)
 て感じ。や、特に意味はありませんが。この話と一緒で。
「これだけ暴れまわったんだからもう少しで警察が駆けつけるでしょう。それまで私が耐えれば、貴方達は然るべき法の裁きを受けることになるわ」
 言ってることが正常(まとも)すぎて、あなたの異常な外見に泣けてきますよ魔王さん。
 んで、「ふふん」と鼻で笑ってみゆは魔王の言葉を一蹴した。
「残念ながら、ボクもヒロシも捕まったりはしないよ。だって貴方は、もう倒されるんだから」
 自信満々に言い切るからには、なにかあるんでしょう。
 不審そうな顔になった魔王は急にハッとして、
「……っ、まさか、私の弱点を!?」
「そのまさか。不死身の魔王に唯一対抗する手段があるなんて言ったら、そりゃあ下調べしてくるよ」
 ちらり、と今まで見向きもされなかったヒロシに二人の視線が投げかけられる。
「?」
 おうおうそんなに見つめるなってばよ、でも魔王は視界からキエロ。ばーい心の声。
 つーか魔王の弱点って……、
「魔王グルコサ=ミンチ。貴方の弱点、というか命を絶つ方法は、夏休み最終日に宿題が全然終わってなくてやろうと机に出しはしたものの手をつけることなく、誘惑に負け結局外に遊びに行っちゃうようなしょぼくれ男子高校生に一撃喰らうこと、でしょ。……最初わかったときはなんかの間違いだろうと思ったけどね」
 なんじゃそりゃー!
 あと魔王の名前も意味わかんねー!!
「な、何故それをぉっ……!!?」
 魔王ミンチ動揺しすぎ。
 つまりはヒロシがとどめ役っつーことね。
「なるほどねぇ。……正直、あんまやりたくないけど」
 ふむふむ、と一人納得するヒロシ。お前さんはちょっと黙っておきなさい。
「せいっ!」
 立ってる気力も奪おうと駄目押しで爪付きの貫手をぶち込むみゆ。
 なんかもうボロ雑巾みたくなった魔王は最早眼中にない感じで、「じゃヒロシよろしくー。残りHP1だから」
 がんばれよ暫定主人公。
「……えぇっと」
 右に魔王。左に一仕事終えた表情のみゆ。
 ゆっくりと左右見比べて、しばし、考える。
 流石に、満身創痍どころか風が吹いても死にそうな奴を攻撃しろと言われたら、少しは(、、、)ためらう。
「……ん〜」
 右を見て。紫、マッチョ、変な体液。
 左を見て。Oh、ねこみーみ。
 よし決定。早いね。
「えい」
 べし、とその辺にあった倒壊家屋のなれの果て「なんか鈍器」で一撃。触るのは遠慮したかったみたい。

てーれってれー♪ 魔王を倒したぜ(効果音)

 夕焼けに染まる土手を二人で歩く。
「ありがとね、ヒロシ。最後のとこだけは助かったよ」
「いいってことよ。あんだけ暴れてた現場にいたのに俺なぜか無傷だったしさ」
「それは……、うん。気を付けてたけど、やっぱ心配だった」
「いざ決着ってときに切り札が死んでたらボクがピンチになっちゃうからね」
「はは、そりゃ酷(ひで)ぇな。――そういえば、話変わるけどみゆ。実はお前、魔王退治自体が目的じゃあなかっただろ」
「当たり前でしょ。前金で十万円、成功報酬が九十万円って話でボクも依頼受けたんだから。王様に」
「どこの王さん?」
「ディズニーキャッスル」
「はは、んな馬鹿な」
「嘘に決まってんじゃん。信じたの?」
「んにゃ。――それともう一つ。みゆって妖怪だけあって凄い強いな。男の子としてやっぱ強さには憧れるぜ」
「てゆーか元々ボクはひ弱な女の子だし。妖怪だから強いって訳でもなくてー」
「なくて?」
「主人公だから強いのさ」
「・・・へー」(え!? 俺が主人公じゃないのかよ!!?)
「ま、とにかくあんがとね。お疲れ様、宿題頑張んなよ?」
「……お、おう」
 手を振って別れる二人。
なんだか化かされたような、夢見心地な気分で自分の部屋に戻ったヒロシでしたが、その右手には、みゆからもらった報酬の一万円札が、しっかりとした現実として、そこに在ったのでした。
「とりあえず……」
 ……うん。ねむいから、寝よ。

おしまいだぜ!
昔書いた話。キャラが完全にパクリ。
風見鶏
作品情報
作品集:
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投稿日時:
2011/04/01 06:36:57
更新日時:
2011/04/01 06:36:57
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