Taku氏という高名な愛妻家がいらっしゃるという噂はかねがね伺っておりましたが、愛妻におきましては私も一家言ございまして、僭越ながら、私の愛妻ぶりにつけてご批評賜るべく、一筆したためる所存でございます。
わたくしの細君は、名前をアリスと申しまして、夫のわたくしが言うのも何ですが、器量は好く、働き者で、気配りのできる、文句の付けどころのない妻でございます。わたくしの朝はいつも、アリスの包丁の音で始まります。わたくしが起きるよりも早く、彼女はベッドから出るや、寸暇を惜しむように身支度をととのえ純白のエプロンを装い、台所に立つのです。私はベッドからはい出ると、彼女の弾むような手つきでネギを刻む後ろ姿に、そっと近づきます。金糸のごときブロンドの、作業の邪魔にならぬようちいさなポニーテイルのようにうなじの所でひっつめられているのを見るにつけ、私は辛抱たまらず、後ろから彼女の肩を抱きしめます。
「ごめんなさい、起こしちゃった?」
申し訳なさそうに言う彼女に、私は返事の代わりにバード・キッスなどするのです。名前からお察しの通り彼女は元々洋食が主食でありましたが、今はわざわざ私に合わせて和食を用意できるようになってくれました。そのいじらしさに、わたくしは愛おしさを新たにするのです。
一汁一菜の朝食を終えますと、妻は仕事に出かけます。彼女は町で人形劇を子供たちに見せる仕事をしております。もちろん妻の人気は町でも名をとどろかせており、各所の保育園、図書館、老人ホームなどで引っ張りだこです。私は玄関まで彼女を送り、今日何度目かのバード・キッスでアリスを扉の外へ送り出します。彼女の瞳に、ほんの一瞬浮かぶ寂しげな色に私の胸は締め付けられますが、それでも彼女がやりがいをもって始めた仕事でありますし、ここはお互い我慢のしどころなのであります。
そうしてわたくしは部屋に引き返し、パソコンの前に座ると仕事を始めます。アリスの画像を収集する仕事です。彼女の画像は日進月歩で増加を続けておりますゆえ、油断しているとみすみす逃すもののなんと多いことでしょう。私は間断なく画像投稿SNSの新着画像に目を光らせ、毎秒5クリック以上の速度で手を動かします。他の事をしている暇などありません。こうして私のつらく、しかしやりがいのある仕事はあっという間に私から時間を奪ってゆくのです。
夕方、アリスが返ってくるころには、わたくしは仕事に一区切りをつけます。その日、妻は興行先でのもらい物だという満漢全席をスーパーの袋に入れて持ち帰りましたので、夕食はそれで済ませることにいたしました。贅沢などせずとも、彼女さえいれば質素な食事もごちそうなのです。私たちは新婚の時の心をずっと忘れずにおりますので、ごはんの食べさせあいっこもしますし、ほっぺにお弁当などついていればもちろん取ってあげるのです。初心を忘れぬことこそ、夫婦仲を円満に保つ秘訣と言えましょう。
そうして夜になれば、皆さんもされるように、お風呂に入ります。私たち夫婦はひと時も離れることを良しとせぬものですから、お風呂も一緒に入りますし、ベッドも一緒ですが、ベッドの中の彼女の可愛らしさを書こうとするとアリスがぷりぷりと怒ってわたくしの胸を叩きに来てしまいますので、今日はこれにて筆をおかせて頂こうかと存じます。
もちろん、起こった彼女も可愛らしいですから、怒らせてみるのも一興なのですけれどね。
そちらの奥様も大変な器量良しと聞いておりますぞ。
……うん、今度焼肉でも一緒に行こうか……。