双月

作品集: 1 投稿日時: 2011/04/01 04:20:05 更新日時: 2011/04/01 04:20:05 評価: 1/8 POINT: 1054439 Rate: 23432.53

 

分類
ルナルナ
ルナチャイルド
ルナサ
百合
私たち騒霊楽団は、帽子にそれぞれ違うシンボルをつけている。

三女のリリカは星。
次女のメルランは太陽。
そして、私は月。




月は人妖を狂わせるという。

メルランは満月には特に躁が極まる。
リリカは満月だと幻想の音を集めやすいらしい。

私は……あまり影響を受けていないと思っていた。
でも、改めて思えば、やっぱり狂わされているかもしれない、と思う。
それも、満月に限った話ではない。月、そのものにだ。

これまで私は、沢山「月」を題材にした曲を作ってきた。
三人の合奏曲、私のヴァイオリン独奏のための曲、リリカのピアノ曲、
弦楽協奏曲、果ては夜雀に提供したボーカル曲まで。

他の姉妹に呆れられようとも、月を題材とした曲を作り続けた。
決して意地を張っていたとかギネスを狙っていたとかではなく、
月が出ていると自然と外へ惹かれ、気がつくとまた着想を得て曲を書いているのだ。


故に、三日月の出ている今夜も、私はふらりと家を出た。



風の向くまま気の向くまま。
……とは言っても、行く場所は大体きまっている。

満月の綺麗に映る、大きな湖。
いつも大体、意識せずともこのあたりに来てしまうのだ。


辺りには音はない。私の耳でかすかに感じる空気の音すらも無きに等しい程度で、虫も今日は居ないようだ。
リリカならつまらないの一言で帰ってしまうだろうし、メルランに至っては自分で音を鳴らしまくるだろう。

だが、私にはこれでいい。このほうが、存分に月光を味わえる。

今日は三日月だ。
満月のように魔力が満ちるわけでもなく、
また新月のように宵闇の妖怪が姿を現すわけでもない。

だから、まったくというわけではないが幻想郷ではそれほど取り上げられない。
だが、私はこの三日月が好きなのだ。

その、細く美しい姿、反射する控えめな光。
そしてそれは湖に映り、幻想的な情景を作り出す。
この月光の下、ゆったりとした時を過ごすのが、私は一番好きなのだ。


そんなとき、上にばかり気をとられていたせいか気がつくことのできなかった人影を見つけた。

金色の髪をロールさせた、愛らしく、また外見の割にどこか大人びた雰囲気を持った少女だった。
背の羽を静かに、ほんのわずかに揺らしながら、わたしと同じように月を見ていた。

彼女は、まだこちらに気づいていない。
無理もない。ちょっとした気まぐれがなければ、私だって彼女に気づかなかっただろう。
それほどに、今宵の月は魅力的だった。


無論のこと、月は相変わらず綺麗だった。


だが、私はそれと同じ、あるいはそれ以上に、その少女に惹き付けられて仕方がなかった。
月明かりのもとの彼女は、言葉を尽くしても語れないほど綺麗に感じられた。
そしてその少女の姿も、月そのものを想起させた。

私は、思わずその少女に声を掛けそうになった。
だが、はたと気づいて口をつぐむ。というより、言葉が出ない。

――どう話しかければいいのだろう。

私は、見知らぬはずの彼女に、なぜだか親近感を感じていた。
しかし、彼女からすれば、私は名も知らぬ怪しい幽霊。

だいいち話しかけるといっても、この口下手な私が何を話せばいいのか、思い付かない。
それでもなにか声を掛けたくて、色々思案を巡らせる。


そして見つけた。最高の『言葉』を。


そう思い立ったとき、私は鞄からヴァイオリンを取り出す。

多くのぐるぐるでにぎやかに騒ぐのが好きなメルランやキーボードの幽霊で幻想の音を操るリリカと違って、
私は自分の手でヴァイオリンを演奏するのが好きだ。
もちろん必要に応じて能力での演奏や楽器の幽霊での演奏もするが、ソロのときは大体これだ。

ヴァイオリンの独奏曲。
名前はまだ付けていないが、これも月を題材にした曲だ。

私の音色は『鬱の音』と呼ばれていて、聞くものの気持ちを暗くする。

だが、それをうまくコントロールすれば、それを『安らぎ』に変えられるのではないか、とかねてから考えていた。
今まではその研究だけで、実際に他人に試したことはなかった。


でも、失敗する気はしなかった。

この子が、私と同じく月が好きなら。
なんというか、波長が合うのではないかと思ったのだ。

ヴァイオリンの澄んだ音が、夜の湖に響き渡る。
さすがに少女もこちらに気づき、振り返った。

しばらく戸惑う様子を見せていたが、
そのうちこちらに近づいて、演奏に耳を傾けてくれた。


ヴァイオリンが大きく響く、しかし決して騒がしくはない時間。

演奏したのは、それほど長い曲ではない。
ゆったり弾いても、一、二分ほどで終わる。

でも、在り来りな表現だけど、それがとっても長い時間に感じられた。
そして、願わくばいつまでも曲が終わらず、永遠に弾いていたいとさえ思えた。

最後の、低い一音を長く伸ばし、曲を締めくくる。
少しの余韻の後、一人の、小さな拍手が聞こえてきた。
少女の方を省みると、穏やかな笑みを浮かべていた。

「……素敵な演奏を、ありがとう」

少しはにかんで、少女は言った。
私も少し照れくさくて、きちんと返事を返せなかった。

わずかな間だけ、少しだけ見つめあいながら、沈黙する。
それを遮り、ちょっとだけあわてた様に少女は再び口を開いた。

「……えっと、いつも、ここで練習してるの?」
「ううん、月を見てただけ。あなたと同じくね」

私は自然にそう返していた。少女は、すこしどきりとしたような表情を浮かべていた。
何か私、変なこと言っただろうか、と私はしばらく疑問に思っていた。
そんな思考を遮るように、少し大きく彼女の声が聞こえる。

「……えっと、じゃあ、ご一緒させてもらっていい?」

そう問いかける少女の顔には照れからか少し朱がさしていて、可愛らしかった。
最初からそれが目的だった私は、もちろん承諾した。

そして、このまま立って話を続けるのもなんだと思い、
辺りを見回して、とりあえず少し大きめの木の下に座ることにした。

腰を下ろして、しばらく二人して無言で月を眺める。
だがやはりこの子が気になって、月ばかり見ていることも出来なかった。

……この子。
ふと、その呼び名に違和感を覚える。

「……そうだ、お名前は?」

まだ、彼女の名も知らなかった。
それでも違和感がなかったくらい、心地よい時間であった。
彼女も言われて初めて気がついたらしく、あ、と小さく声を上げる。

「そうだった。まだ名前も言ってなかったんだ。
 ルナチャイルド、っていうの。仲間からはルナとか呼ばれてるわ」

その名を聞いて、私は目を丸くしていたらしい。
別にルナチャイルドという名に心当たりがあったわけではない。
それどころかはっきり言うと、まったく知らない名だった。

「……え、どうしたの?」

少女、ルナが、不思議そうに聞いてくる。

「いや……えと、私はルナサ・プリズムリバー。私も、妹からルナ姉って呼ばれてるんだ」

それを聞いたルナも、目を丸くしていた。
なんだかおかしくて、吹きだしてしまい、続けてルナも笑い出した。




それからは、なんだかぎこちなかった会話が、次第に自然になっていった。
楽しそうに、自分のことや仲間のことを話してくれる。

「……サニーってば昼間あれだけ元気なのに、夜になったらすぐに寝ちゃうの。
 私が夜に外に出歩いてると知ったときは、信じられないって言ってたわ」
「やっぱり、聞けば聞くほどあなたの仲間と私の妹って似てるね」
「あぁ、かもしれないわ……元気だったり狡賢かったり」

その二人の顔を思い出していたのか、ルナは呆れたようにため息をつく。

「……でも、そんな二人でも、なぜか憎めないよね」
「……まあ、ね」

ルナは顔を湖に向けて、曖昧に返事を返した。
真意は量りがたいが、照れから来た反応のように私には思えた。
その証拠に、その頬にはすこし朱がさしていた。

そんな話題を転換させようとしてか、ルナはまたこちらに視線を戻して口を開く。

「……えと、ところで、ルナサさんはやっぱり月が好きなの?」
「うん、……見ていると気持ちが落ち着くし、
 それに月の光は音楽の着想とか、気力とか元気とか……いろいろ与えてくれる」

月を見上げて、呟くように返事を返した。
月が私にくれたもの、それを想起しながら。

「それと、……こんな、素敵な出会いもね」

だからだろうか、こんな照れくさい台詞が、口をついて出てしまった。

「――ッ!?」
「……あ、いや、その……な、なんて、ね……」

言った私はもちろん、ルナも顔を真っ赤にしていた。
ほとんど意識せずに言ったことだから、後になってからじわじわと恥ずかしさがこみ上げてくる。
でも、それはその言葉が私の心からのものであることも示していた。

それからしばらくは、お互いに照れくささを引きずって、それ以上話を続けられずに月を見ていた。

空には相変わらず美しい三日月が浮かんでいて、
湖にはまた同じくもう一つの月が浮かんでいる。

こうして月が地上に降りてくる光景は一番好きだ。
特に意識はしていなかったが、いつも湖にやってきてしまうのはこれが見たいからかもしれない。

そんなことを考えていると、地上の月、という言葉に引っ掛かりを覚えた。
だがその答えは、すぐとなりにあった。

(……ルナチャイルド、月の子供、かぁ……)

なるほど、だからこんなにこの子に心惹かれるのかもしれない、とは、もうさすがに言えなかった。

そんな発想に我ながら赤面していると、肩に何かが当たった。
ルナの方を見ると、私にもたれ掛かって眠っているようだった。
無理もない、正確な時間はわからないがもう確実に12時は回っている。

そのまま二人で眠ってしまいたい気もするが、さすがにそういうわけにはいかない。
仕方がないので、一度ルナの体重を木に預けさせ、そこから首とひざのあたりを支えて下から抱えあげる。
妖精の体というものは、想像以上に軽かった。

さてどうしようかと思案していたが、私はルナの家は知らない。
だから、私の家に連れていくことにした。



 ☆ ☆ ☆


「……なるほど。それで、お持ち帰りされちゃったわけね」
「お、お持ち帰りって……っ!。人聞きの悪い!」

三妖精の家。
ルナは、テーブルの真中で突っ伏す。

「で、どうなっちゃったの?そのあと」
「な、何も無いわよっ!家に泊めてもらって、せいぜい朝御飯をご馳走になったぐらい!」

そう叫んで、立ち上がって。
自分の部屋に、ルナはすたすたと逃げこんでしまった。



「怒ってる。……怪しいね」
「うーん、いや、何もされなかったからこその怒りという線もあるわね」




「勝手に、ぐちゃぐちゃ言ってくれちゃって」

自室のドアの前で、ルナは聞き耳を立てていた。

「……何もされなくて怒るって。まだ昨日知り合ったばっかりだっての」

――それに。

ルナの脳裏に、昨日の夢が、ふたたびよみがえる。



眠っている自分を、お姫様抱っこで抱え上げて。

……ほほに、ひとつ口づけを。





 夢、だと思う。
 でも、夢じゃないかもしれない。


そんな期待とも羞恥ともとれないぐるぐるした感情に、頭を抱えてベッドに飛び込む。
ベッドの上で悶えるルナを、二人が見ていることに気づくのはそれから二、三分たってからだった。
なにかないかなーとテキストフォルダあさってみたらなんかお蔵入り作品があったのでショートにして投下。
うづやん
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2011/04/01 04:20:05
更新日時:
2011/04/01 04:20:05
評価:
1/8
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3. 1000000 名前が無い程度の能力 ■2011/04/01 19:37:00
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