鬼だって、嘘を許すこともある
作品集: 1 投稿日時: 2011/04/01 02:11:45 更新日時: 2011/04/01 02:14:05 評価: 1/6 POINT: 1038885 Rate: 29683.14
分類
水橋パルスィ
星熊勇儀
橋姫という妖怪がいた。
嫉妬深く、この妖怪が居るところで他の女を褒めると恐ろしい目にあうという。
嫉妬に狂った彼女は、人々に次々と――。
◇◇◇
旧都から伸びる一本道。
暗く、静かなその道を、星熊勇儀は上機嫌に歩いていた。
――来る途中に橋? 確かにあった気がするわね。
じゃりじゃりと大地を踏みしめる音と、微かな鼻歌が混ざって響く。
それは、はたから見ればいつも通りの彼女だ――それでも、
――ああ、会ったぜ。橋に居た妖怪だろう?
それでも、彼女は確かに上機嫌だった。
◇◇◇
「よっ、調子はどうだい?」
「……何か、用?」
明るく問いかける勇儀に対して、少女――水橋パルスィは冷たく答えた。
普段から決して陽気とはいえない彼女だが、今日はそれに輪をかけて、暗い――というよりも、なんだかぴりぴりとしている。
視線は伸びた道のずっと先、旧地獄の方へ向けられたまま、勇儀のことは見ようともしない。まるで、何かを待っているかのように。
なんというか、全身からこちらを拒絶するようなオーラが発せられている。
隙を与えれば今にも帰れと言いかねないような――、
「……用がないなら帰ってくれない?」
というか、言われてしまった。
言葉と共に、冷たい視線が突き刺さる。
ようやく喋ったと思えばこれである。
「まぁまぁ、そうツンツンしなさんなって」
しかし、そんなことでめげるような星熊勇儀ではない。
むしろ、これくらいの方が心地が良いくらいだ。
ただ冷えた視線を送り続ける彼女に、ただ延々と下らない話を続ける。それはそれで、面白い。
だが勿論、
「……今日、人間が二人来なかったかい?」
今日は、そのためにここまで来たわけではない。
「えぇ、確かに通ったけど……」
――それが、どうしたの?
そう、緑色の瞳で問いかける。
旧都で会ったのだから、地上と旧地獄をつなぐこの場所を通っていないはずがない。
そんなことは勇儀だって分かっている。
確かめたいのは、そんなことではない。
「あぁ、私も旧都で二人に会ってねぇ」
「いきなり貴女に遭遇するなんて……あの二人もついてないわね」
多くの妖怪が住む旧地獄。そこで最初に遭遇したのがよりにもよって『鬼』である。
確かに彼女の言う通りなのかもしれない。
「それで、今日はその人間達を地上に送り返しに来たってわけ?」
「いーや、あの二人なら地霊殿に向かったよ」
「はっ?」
ぽかん、とした表情でパルスィが問い返す。
「えっ、なに、あんたは……?」
「負けたよ。いやぁ、なかなかいい腕っぷしだったよ」
「はぁっ!?」
それは、限られたルールの上で、しかも力をセーブしながらのお遊びではあったけれど――嘘は、言っていない。
「それじゃあ、なに。あの二人はどうしたのよ!?」
「いやだから、地霊殿に向かったって言ったじゃないか」
「ちょっと! よりにもよって、あんなところに……」
確かに、人間が行くには危険な場所ではあるかもしれない。
普通の人間なら、だが。
「安心しとくれよ。ちゃんと案内したからさ」
「どこが安心なのよ!?」
動揺するパルスィの叫びが響く。
けれども勿論、勇儀はそんなことは気にしない。
「そうは言っても、それがあちらさんの希望だったわけだ」
「あんた、だからと言ってね……」
そう言って、うらめしそうに勇儀を睨む。
「大体、お前だって負けたんだろう。ここでさ」
「う……」
旧都に居た勇儀が二人に出会ったということは、つまりそういう事になる。
ここを通らなければ、旧都へ辿り着くことは無い。
「あいつらはお前に勝ち、私にだって勝った。それだけの腕っ節があれば十分さ――なんだ、心配なのかい?」
「――ッ! そんなわけないでしょ!」
威嚇するように吼える。
しかし、僅かに生じた一瞬に、勇儀は嘘の臭いを感じ取る。
「ふーん、それじゃあ何でまた襲い掛かったりしたんだ?」
「……別に、いつも通りよ。なんだか楽しそうだったから、妬ましくなっただけよ」
これは――半々、と言ったところだろうか。
嘘は事実と織り交ぜた方が良いと、最初に考えたのは誰なのだろう。
「嫉妬の赴くままに攻撃して、楽しい旅路の邪魔をしてやろうってね」
そう続けるパルスィを余所に、彼女は以前に聞いた昔話を思い出す。
橋姫という妖怪がいた。
嫉妬深く、この妖怪が居るところで他の女を褒めると恐ろしい目にあうという。
嫉妬に狂った彼女は、人々に次々と――男には女の姿で、女には『男』の姿で襲い掛かったという。
「なるほど、ねぇ……」
「えぇ、そうなのよ」
それでは、橋姫が本気であの二人を襲うとしたら?
「つまり、あの二人のことなんて全然気にかけていないと?」
「えぇ」
――その妖怪が男だったかなんて、どうでもいいじゃないの。
「ましてや、心配なんて微塵もしていないと?」
「えぇ」
――確かに女の姿をしていたぜ。なんだ、あれで実は男だったりするのか?
「あははははははははは!」
「何故笑う!?」
唐突に笑い出した勇儀に、彼女が非難の声をあげる。
「くくっ、いや、だって、ねぇ……? ははっ!」
しかし、それでも笑いは止まらない。
だって彼女は、決して嘘はつかない。自分にだって正直なのだから。
「あんたね……。いくらなんでも失礼だって思わない?」
「悪い悪い。でも、相変わらずなようで安心したよ」
「何がよ?」
「そういうところが、さ!」
「ちょ、ちょっとぉ!?」
嬉しさに任せて、力いっぱいに彼女を抱きしめる。
「あー、本当に可愛い奴だなぁ!」
「いきなり何すんのよ! って、頭撫でるのをやめなさい!」
そんな彼女の訴えは少しも届かず、むしろ力は増すばかりである。
「あははははははっ! こいつめ!」
「ちょっ、痛い! 本当に痛いから! 背骨! 背骨が折れちゃううううう!」
鬼だって、嘘を許すこともある。
記念投稿!
パルスィは魔理沙の時は気遣ってる風なのに、霊夢の時はそうでもなさそうなのは何で何だぜ?
負け猫亭
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2011/04/01 02:11:45
更新日時:
2011/04/01 02:14:05
評価:
1/6
POINT:
1038885
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■2011/04/01 20:06:27
パルパルは優しいのぅ
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