- 分類
- 現代パロ
さいれーんとじぇーらしー。
歌声が響く。キーの高さが一杯一杯で細くて掠れた声はみっともないけど一人で自己満足のために歌ってるんだしそんなこと気にしている暇なんてない。
てるみとぅるー どーこーにーゆーけばー くるーしみをーんふふーふー
歌詞をど忘れするもそんなことはどうでもいい。メロディさえ歌えれば良いのだ。ああ、YOSHIKIが天才過ぎて哀しいわ。そして妬ましい。こんなメロディで私も妬みを歌えれば。それはどれだけ素晴らしいことでしょう。
大声で、喉を切り裂かんばかりに歌う。それだけが日々の癒し。愛した人は寝取られて。行き遅れたまま私は会社の中でお局ポジションに落ち着きつつある。彼女は結婚願望なんてないんだ、みたいな噂があるけれど私だって機会があれば結婚したいし実際その寸前まで行ったわけで。ああもうあの若い新人さえいなければ。あの子さえ居なければ私が彼と……!!
きーるみー、らーぶ!
大声でシャウト。そして次の瞬間私は崩れ落ちた。溢れてくる涙が止められなかった。マイクが拾った鳴き声がスピーカから響いてくる。そのみっともない声に私ははっとなる。駄目よ。こんなんじゃ。このままじゃなにも変えられない。
そうだ、気を取り直して今度は明るい歌を歌おう。サザンとかがいいかな。
その時、不意に扉が開いた。そこには見知らぬ男女。
「あ、すんません間違えました」
「きゃー、もう。アツシ恥ずかしい!」
扉が閉まった同時に私は静かにソファに腰を下ろした。戦っているわけでもないのに感じる不思議な敗北感にうちひしがれながら、私は山崎ハコの『呪い』を歌った。
- 作品情報
- 作品集:
- 1
- 投稿日時:
- 2011/04/01 01:33:56
- 更新日時:
- 2011/04/01 01:35:35
- 評価:
- 1/1
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