- 分類
- コブラ
そりゃあ、もう、失恋なんてレベルじゃなかった。だって否定されたのは恋心じゃなくって私という存在そのものなのだから。マエリベリー・ハーンという人間の髪の毛一本から血の一滴にいたるまで、すべてなにもかも気持ち悪い最悪だ反吐が出るもう二度と私の前にその顔を見せるなしんでしまえこの×××、という具合に。どうしてそんなふうにぼろくそに言われなきゃいけないのか、はじめ理解が追いつかなかった。あれ、なんで、私と蓮子は、両思いのはずじゃ――なんて言いかけたところでついに平手打ちが飛んできた。あの右手は間違いなく音速を破っていた。だって叩かれたとき、まるで拳銃を撃ったような音がしたのだから。その放たれた弾丸で、私の心臓は綺麗に撃ち抜かれ粉々にされた。想い出や、恋心や、とかく胸に詰まっていた感情のすべてなにもかも吹き飛んでしまって、空っぽになって……その後のことはよく覚えていない。ただ、軋みをあげる関節と、体中にできた大小のあざを見るに、壮絶なキャットファイトが繰り広げられたのであろうことは想像できた。
とかくその時の記憶があやふやのままなのは気持ちが悪い、それと同時に、蓮子のことを心配に思う気持ちもほんの少し抱えていた。昨日はあんな騒ぎになってしまったけれど、改めて場を設ければ落ち着いて話が出来るのではないか、とそんな淡い期待を抱いていたのである。しかしそんな幻想はあっさりと打ち砕かれた。私は騒動の翌日学校に登校したが、蓮子は学校に来ていなかった。何故だろう、まさか怪我でもさせてしまったのだろうか。彼女と親しかった女の子の一人に事情を聞くと、おそるべき回答が返ってきた。なんと彼女は超が付くほどの同性愛嫌悪(ホモフォビア)の持ち主であったらしく、以前から私の過剰なスキンシップに対して吐き気がすると愚痴を零していたことさえあったというではないか。なんだ、それは、過剰なスキンシップって。プラトニック・ラブを信条とする私への当てつけか。ちくしょう、ちくしょう、バチカンに帰れカソリック!
かくしてその日の朝方抱いていた、残されたわずかばかりの愛情は、瞬く間に憎悪へと転身しその炎を燃え上がらせた。どうしてあんな非人間のことなんか好いていたんだ、おかげで私の人生に最大の汚点が出来てしまったじゃないか。絶対に許さない。人の愛を否定した宇佐見蓮子なんて、今後一切の愛から見放された喪女になってしまえばいいんだ!
しかし事態は蓮子が喪女になるだけでは収まらなかった。
人を呪わばなんとやら、私もまた痛手を負わずにはいられなかったのである。
結論を先に言うと、ぼっちになった。
騒動のあった日から蓮子はまったく学校に来なくなった。コンナヨゴレタトコロニハイラレナーイ、と自主退学をしたともっぱらの噂だ。対する私は、律儀に登校を続けていた。授業にもゼミにも欠かさず出席した。あんな騒ぎがあっても、こうやって学生の義務を頑なに守り続けている自分は人間として蓮子よりも出来た存在なのだと、そんなちっぽけな優越感を維持したかったのである。というより、生きるための原動力がそんなことぐらいしかなくなってしまっていた。それは今まで私がいかに宇佐見蓮子という存在を燃料に活動してきたのかを改めて思い知らされたかのようでもあって、その否定できない事実がさらに怨嗟エンジンを勢いづけさせた。
だがいくら私がそんなふうに意気込んだところで、周囲の目が私を温かく迎え入れてくれるかと言えばそんなことはもちろんない。むしろ生温かく、よそよそしい。それもそうだ、あの事件の顛末はキャンパス中に広く知れわたり、それは同時に私の性癖が全生徒に暴露されたということでもあるのだから。女性陣の視線の冷たいことは言うまでもなく、男性陣もまた私を珍獣でも見るか、また違った意味の興奮の目で見てくる始末だった。
それらの無数のひとみに晒されて、マエリベリー・ハーンはようやく悟った。
私は、気持ち悪がられているのだ。
うざがられているのだ。
こいつはやく消えてくれねえかなあ、そんなおぞましきサイレントマジョリティに押し潰されて、私の心は今度こそ崩壊した。
――そこから引きこもりに至るまでの過程、マエリベリー・ハーンの転落ぶりは、もはや笑うしかない滑稽なものだった。友人を失い、学籍を失い、教授や両親の期待もなにもかも裏切った。日中ずっと部屋に閉じ篭り、被った毛布は手放さない。手入れをしない肌も髪も荒れ放題に荒れ、外見年齢は二十歳増しで見えることだろう。ともすれば母親の方が若く見えるかもしれない。母の顔を最後に見たのがいつなのか、思い出せないので定かではないが。母だけではない、最後に人と会ったのはいったいいつのことだろう。誰かの顔を見ることが、人の目を見て話すことが怖くて、話されることさえもだめで、テレビさえ見てこなかった。宇佐見蓮子は私に対人恐怖症という置き土産を残していった。私は顔の見えるもの、視線を感じるものすべてがおそろしくてたまらなくなってしまっていたのだ。
そんなふうにして人目を避け続けた引きこもり歴はついに七年目に突入していた。七年。世間一般には長すぎるくらいの年月だ。オリンピックは二回も開かれるし、生まれたばかりだった赤ん坊はランドセルを背負えるようになっている。七年は、短くない。人が変わるには、十分過ぎるくらいに長い時間なのだ。――が、私はそうではなかった。なにも変わってなどいなかった。しかしそれは私が毎日を怠惰に過ごしていたからというわけではない。むしろこの七年間は、私にとってはそれこそ青春の一夏のように短い時間のように感じられていた。というのは、引きこもりの身でありながら、私はこれまでとても充実した毎日を送ってきたからである。一台のデスクトップPCとインターネット回線が、私を新世界へと導き、生きる目的を与えてくれた。
そう
「ピーターパンさ」
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快速宇宙船タートル号を駆り、左腕に仕込まれたサイコガンで銀河系に海賊コブラとしてその名を轟かせた一匹狼の宇宙海賊。本人の弁によると、ならず者からは「毒ヘビ」、銀河パトロールからは「犯罪者番号330号」と呼ばれているという。 海賊ギルドとの果てのない闘争に疲れ切ったため、3年前(映画版では2年前、TV版では5年前)に自分の死を偽装して自らの記憶も封じ、顔も整形手術でイケメン系から団子鼻の個性的なものに変え、貿易会社の平凡なサラリーマン、ジョンソンとして生活していた。しかしふとした事から記憶が戻り、新しい顔もギルドに割れてしまったことから相棒のアーマロイド・レディと共に再び海賊稼業に身を投じる。
コブラの名前どおり、コブラ科のヘビの背面にある斑紋を模したマークを使用している。これはタートル号(「ザ・サイコガン」編以降のデザイン)などに使われている。
ulea淵先生から許可を得ております
- 作品情報
- 作品集:
- 1
- 投稿日時:
- 2011/04/01 00:19:48
- 更新日時:
- 2011/04/01 00:19:48
- 評価:
- 5/9
- POINT:
- 5031108
- Rate:
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