- 分類
- あやれいむ
- 羽
今日も今日とて異変は無し。
いつもの様に境内の掃除を済ませてお茶で一服、縁側で飲む熱いお茶に、身体の中からほっと落ち着かせてもらう。
袖や袴から入る隙間風に震えながら境内に出ていた私は、きっと偉い。
「はぁ……」
じっと空を見上げて、お茶の香交じりの息を吐く。
今日は風も無く、その上日の光のおかげか、冬も近いというのにとても暖かく感じられた。
「ん、冷た……」
ざざ、と木々が揺れる風が吹いて、その冷たさに身体が震えた。
特に、肩周りとか膝下とかに風が吹くと、氷を当てられたくらいに冷たい。
日向ぼっこは好きだけど、風が吹くのは好きじゃない。震えた身体を温めようと、傍らの湯飲みに手を伸ばす。
ふわふわと湧き上がる湯気に安らぎを感じていたと思ったら、急に湯気が消し飛んでしまった。
「……」
再び身体を突き刺す様な冷たい風。それも、心地良さの欠片も無い、不自然の風。
とりあえず前方やや右斜め45度に、板状の結界を置いておく。
「――おはようございます、霊夢さひゅぐっ!」
直後、庭先に飛び込んできた黒い陰が張っておいた結界に見事に顔から正面衝突し、べしゃ。と崩れ落ちた。
「いたた……いきなり何をするんですか霊夢さん!」
「あんたが来ると思ったからよ」
鼻面を押さえて吼えているのは、射命丸文。
時々、朝方にこうやって庭に飛び込んで来ては新聞を配って行く、鴉天狗だ。
「だからって、こんな罠張るなんて酷いじゃないですか!」
「風を起こすなって事よ。ただでさえ寒いんだから」
「それは無茶ですよ……私達は風が有ってこそ早く飛べるのですし」
「で、今日も新聞?有るならさっさと渡してよ」
むむむと何か言いたそうにしている文だけど、結局溜息一つ吐いて、いつもの様に手帳を構えた。
「いえ、今日は特にネタが無かったので、霊夢さんを取材しようかと思いまして」
「嫌よ」
いつもの顔で言われたので、いつもの様に返してやった。
「そこを何とか、お願いできませんか? 私に出来る限りの事ならなんでもしますから」
「ふーん」
なんでも、という言い方に少し引っ掛かって、少し興味が湧いた。
「そうね……考えてあげてもいいわ」
「えっ! 本当ですか!?」
きょろきょろと辺りを見回して、文の方をじっと見て、冷たい両肩の辺りを手で押さえる。
「……寒い」
「?」
「寒い」
「……マフラーはあげませんよ?」
文はこの時期、とても暖かそうなマフラーを巻いていて、夏と同じ半袖スカートなのに、平気な顔をしている。
それも魅力的だったけど、それよりもずっと面白そうなものを、文は持ってる。
「羽」
文の羽が、一瞬にして伸びきった。
「え、いやあの、これはですね」
「別に良いじゃない、減るものじゃないんだし」
「貴女が言うと減る物に思えてしまいますよ……」
全力で肩を落とす文。取材のため、取材のためとぼそぼそ呟いてるのが、割とはっきり聞こえた。
「んーっ♪」
ふかふかの羽に背中と肩を包まれ撫でられ、外の寒さなんてあっという間に何処へやら。
血が通っている分布団より暖かいそれは、凄く贅沢な防寒着だった。
「今回だけですよ。それと、取材を忘れないでくださいね」
「はいはい、分かったわよ」
取材一つでこの羽を堪能出来るのなら、凄く安いと思う。
「それにしても、そんなに気に入ったのですか? 私の羽」
もう片側の羽を撫でて、ほつれを繕って、文は不思議そうに言う。
これが持つ者の余裕か。ちょっとだけ気に障って、思いっきり引っ付いてやった。
バサバサと羽ばたく羽と、あややと呻く文、風と羽が舞って、寒い。
「……霊夢さん?」
文がもの凄く不安そうにこちらを見ている。その表情は、普段の文の態度と相俟って、凄く面白い玩具にも見えた。
「あの、そろそろ取材を……」
「寒いから取材されたくない」
「うー……」
半ば諦めた様に羽を包む文、やっぱり見ていて面白い。
意味を理解してくれたと勝手に解釈して、ありがたく密着取材を受けてあげた。
あやれいむだ……あやれいむが足りない……
何とかイア
- 作品情報
- 作品集:
- 1
- 投稿日時:
- 2011/04/01 00:10:53
- 更新日時:
- 2011/04/01 00:10:53
- 評価:
- 1/5
- POINT:
- 1031108
- Rate:
- 34371.10