ロマンティックチルドレン:82話魔法使い還らず(偽完結)

作品集: 1 投稿日時: 2011/04/01 00:07:09 更新日時: 2011/04/01 00:23:36 評価: 4/6 POINT: 4015554 Rate: 114730.83

 

分類
アリス
第13艦隊司令長官の最期



 アリスの人形劇は失敗に終わった。
 会場で沸き起こる拍手と喝采の声、でもその瞬間、一人の人物がその全てを遮った。


 アリスが劇を開始する。
 どこからとも無くBGMが流れてくる。
 私はどこかでその音楽を聴いたことがあるな、と考えて、そうして中空を見上げると、そこにはいつぞやか、冥界に行ったときに出会った騒霊たちが演奏をしていた。
 あんな奴らまで雇っていたなんて、アリスったら抜け目がないのね。
 騒霊たちの音楽が徐々に観客を緊張へと向かわせる。
 そんな中、劇のカーテンが開いた。
 スポットライトが壇上を照らす、
 何体かの人形達と一緒にアリスはお辞儀をする。
 彼女はこの劇場に集まってくれた人間達、そして妖怪達への謝辞を述べ、そして今宵は現実を忘れて楽しんでいってください。
 と言った言葉を述べた。少し気迫に欠けてはいたが、上出来だな。
 私は緊張する友人に黙って静かに拍手を送った。
 彼女は笑顔で周囲を見渡し、そして最後に私を見た。
 私はそれに笑顔で答えた。
 そう、トラブルが起きなければこのまま劇は始まるはずだった。
 始まるはずだったのに、
 バン!
 強い音を立てて観客席の一角をもう一つのスポットライトが照らす、人間の居る席だ。
 私は少なからず動揺した。
 否! 私はその人物を見て動揺がもはや隠し切れないものになっていた。
 そこに立っていた人物、スカイブルーのロングスカートに白いケープを赤いリボンで結んだ短い髪の金髪の女性、それは今壇上に立ちすくんでいる彼女と全く違わない姿だった。
 いや、違わないのは姿だけだ。その表情、体からにじみ出る邪悪な雰囲気、口がまるで裂けたかのように釣り上がっている嫌らしい笑い方、
 あれはアリスであってアリスじゃない。

 「アリス、逃げなさい!」

 私はどうしてそう言い出したのか自分でも分からない。でも衝動的に自分自身がそう叫ばなければいけないと感じた。
 おかしいじゃないか、私は幻想郷全ての存在に平等でなければならない。
 私は失格だ。博麗の巫女として! でもいい、私は一人の友人が救われるのなら、私自身が裁かれたって構わない!

 操符「乙女文楽」

 観客席の女が嬉しそうにスペルカードを宣言する。
 まがまがしい空気に取り込まれた人間が次々と妖怪達に襲い掛かる。
 無差別に、無方位に、もはや収拾がつかないレベルの混乱だった。
 壇上のアリスは力なくその騒動を見ている。
 力を失った糸が地面に垂れている。

 「アリス! 聞いてるの? アリス!」

 でも彼女は弱弱しい視線で私を見てくる。
 泣きそうだ。私だって、私だってこんなときにどうすればいい?

 「愚か者が! それがあなたの決意の表れなの?」

 その中、私よりもはっきりとした声が響いた。
 それは私が聞いた彼女の最期で、最大の声だった。





 金土符「ジンジャガスト」

 私が放ったスペルカードは即座に展開した。
 黄土を巻き上げ、会場を埋め尽くす、私が求めたのはより深い混乱を招く為だった。
 私はすぐに壇上に飛び立った。

 「アリス! アリス・マーガトロイド! あなたが望んだ結果はこんなもの? 違うでしょう? あれはあなたではないわ! アリス! いい加減自分を取り戻しなさい!」

 私の言葉で漸く彼女はこちらを見た。
 壇上に人間や妖怪達が上ってくる。この騒ぎを起こした者、見てくれは同じそれ、若しくはこの場所に全てを集めた存在、彼らはもはや必要としているものはなんでもない。
 そう、この醜態の責任を取らせる誰かを求めて……

 「来なさい、アリス!」

 私は彼女の右手の操舵手袋を魔法で解除し、彼女を舞台裏に連れ込んだ。
 アリスはもたつく、こんな軟弱な私でさえも彼女の足取りは遅かった。
 裏口に漸くたどり着く、木製の、あまり頑丈そうではないものだ。
 人間では無理であっても、妖怪でならいくらでも破壊可能だ。

 「パチュリー? 何を?」

 私は彼女の言葉を無視して、その扉を開けた。
 後ろを見る。
 幾人もの妖怪や人間達が迫り来る。
 彼らの目はどこか歪だ。あれはもしかしたらあの“アリス”の魔法か?
 いや、私はその幻想を振り払った。幻想郷で幻想に惑わされるとは何たる醜態か!
 あれはそうではない、何かを排斥する者の目だ。
 魔女である自分のかつては多く居た同胞達を人間が虐殺したあの昏い感情の奔流だ。
 彼らに捕まればアリスは殺される。ただ殺されるだけではない、慰み者にされるなり拷問されるなり、ろくでもない事にしかならないだろう。
 私は再びアリスの弱弱しいスカイブルーの双眸を見据えた。

 「自分に強くなりなさい! アリス、生きなさい。貴方は夢を持ってここに来た。ここで成したいことをしようとした。あなたには罪はないわ。だから逃げなさい! 博麗霊夢を頼りなさい。八雲紫を頼りなさい」

 私は何とか笑顔を作った。そして答えを聞く前に彼女をその扉の向こうに押し込んだ。

 私はその扉を固く閉じ、そして一つの魔法を唱えた。

 それは一度死した木にもう一度命を与えて、それを瞬間的に成長させるものだった。

 禁術の一つだった。命を削って行う魔法だった。

 彼女は何度かドアだったそれをたたく音が聞こえたが、やがてそれは聞こえなくなった。

 (お願いアリス! 私のことはいいから早く逃げて)

 瞬間、私の体をいくつもの光弾が撃ち抜く、痛みで何度かうめく、
 でも瞬間私は少し笑いたくなった。私の後ろで誰かが足早に駆けて行く音が聞こえたからだ。

 「よしなさい……痛いじゃないの……」

 私の体は串刺しにされて、かつての仲間達とおんなじで、串刺しにされて命を終えた。





 逃げろ、と彼女は言った。

 でも私はこの幻想郷でどこに逃げればいいのかなんて分からなかった。
 稗田阿求の言葉が重くのしかかる、博麗霊夢の責任が強く締め付ける。八雲紫の夢が頭上に圧し掛かる。

 私はそれら全てを台無しにしてしまった。

 今この瞬間に、喧騒はどんどんと肥大化していく、私は台無しにしてしまった。

 台無しにした物の重みに耐えられるほど、私の両足は強靭じゃなかった。

 だけれども私を後押しする言葉が頭に響く、

 “生きなさい! アリス!”

 「そうだね、生きなきゃ」

 私は里を歩き回った。

 「安全な場所……どこかな」




 アリスはどこに行った?
 私は壇上からパチュリーが逃がしたアリスを探した。
 パチュリーの最期の通信で知った。アリスは何とかここから逃げ出したと、
 だったら私はまだ人が集まっていない出口から彼女を探しに行かなければならない。

 「博麗! お前は! こんな事になった責任はどうする?」

 上白沢慧音が私に怒りをぶつけてくる。

 「知らないわ」

 「知らないだと?」

 「ええ、知らないわよ!ここの収拾は任せたわ」

 「なんだって?」

 「私はもう金輪際博麗の巫女を辞めるわ! 今からの私は友人を助けに行く一人の人間よ!」

 私はすぐさま喧騒の中を走り去り、アリスを探した。

 「アリス! どこよ? アリス!」

 私は泣き叫びながら祈るように友人の姿を探した。

 大丈夫! 彼女は悪運の強い妖怪だった。

 希望は絶対通じる! 思いは絶対に報われる!

 何度もそう言い聞かせ、私は混乱のさなかにある里を駆け抜けた。





 「アリス! アリス!」

 私はそこで漸く人心地ついた。
 その声は長く探していた人の声だったからだ。
 永夜異変のときにも勇気付けてくれた人の声、私に今一歩を踏み出させてくれた人の声、
 私はその声の主を探し周囲を見渡した。
 そしてそこで見つけてしまった。
 もう一人の自分を……

 「さようなら」

 言葉と共に彼女の持つ人形から光弾が飛び込んでくる。

 「ぐぅ……」

 痛みに思わず唸る。
 彼女は震える手で持っていた人形を取り落として、つぶやく。

 「やった……やったんだ」

 その声はやがて狂気染みた狂喜の声に変わり、彼女は興奮して叫んだ。

 「はは! やったぞ! これで私が“アリス”だ!」

 そのまま彼女はどこかに立ち去ってしまった。
 私は、撃ちぬかれた左の太ももを支え、壁に背をつく、
 なんとか平静を保ち、首に巻いているケープを取り外した。

 「動脈相を撃ち抜かれたかな? それにしてもたくさんの血が出てる」

 ケープを左足に撒きつけながら思う。
 尤も、私が今まで流させてきた量に比べればささやかなものだなぁ
 何とか壁に手をつき、這いずり回る。

 「こんなところで……我ながら情けないわね」

 そこで私はまた奇妙な感覚にとらわれる。
 血液がこれだけ流れ出せば、体は軽くなるはずなのに、どうしてこんなに体が重いんだろう。

 「あ、れ……」

私はそこで、これまで操ってきた人形が力を無くしたときと同じ感覚を自らで味わった。
 もうこの体は動かないんだという自覚だ。

 「どうも、格好がつかないわ……」

 なんとか楽な態勢を取り、呻き声しか出ない自身を押さえつける。

 「やれやれ、魔法使いアリスが血まみれアリスになってしまった」

 とめどなく血が流れ出る左腿をさすりながら、最期に言うべき言葉を考えてしまう。

 「ごめん、霊夢、ごめん、パチュリー」

 それから、数多くの謝らなければならない人たちの顔を思い浮かべた。

 「ごめん、みんな……」

 
 8月24日、午後7時37分、アリス・マーガトロイドの時間は22歳で停止した。
さて、今回投降いたしますのは私が創想話で連載しています。「人形の哲学」シリーズの偽完結です。
タグのとおりとあるキャラクターのオマージュです。
楽しんで行ってね!

ヤン=アリス
ユリアン=霊夢
パチュリチェフ
地球教徒=魔理沙
ダスティ=A
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2011/04/01 00:07:09
更新日時:
2011/04/01 00:23:36
評価:
4/6
POINT:
4015554
Rate:
114730.83
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0. 15554点 匿名評価 投稿数: 2
2. 1000000 奇声を発する(ry ■2011/04/01 00:14:01
元ネタは知らなかったけど楽しめました!
3. 1000000 名前が無い程度の能力 ■2011/04/01 10:36:19
ひいいいい偽で良かったぁぁぁ
4. 1000000 名前が無い程度の能力 ■2011/04/01 12:03:39
原作でボロ泣きしたのを思い出したよ……
パチュリチェフwww
5. 1000000 名前が無い程度の能力 ■2011/04/01 19:48:58
人形に殺される最期こそ人形遣いよ
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