「いい加減にしてくださいよ」
射命丸文の意味不明言葉に椛は激怒した。山で全校集会的なやつが行われていた。ねえちょっと、と後方より肩をつっつかれてから三分間に渡って、椛は同じ言葉を聞かされ続けていた。
「なんなんですか、さっきからなんどもなんどもなんどもなんども……子供じゃないんですから、ったく……」
小声だが、椛はあからさまに苛立った様子で、背後に立つ射命丸を叱責した。ずらーっと、みな綺麗に並び、前を向いて、カミサマのありがたい言葉を拝聴していた。椛にしても、文にしても、そうしなければならないのだ。しかし、射命丸はいまいちど、でも、を発音する。
「ちょっと、一瞬だけでいいんです。ほんと。振り向いてみてください。なんか変なんですよぅ」
椛はこの手のイタズラが嫌いで仕方がなかった。何度騙され、何度自分だけがかかなくてもいい恥をかいてきたのだろう。椛の恥の記憶にはいつも文の影が付き纏った。ちょっとだけ、一回だけ、とやおら涙声になる文に椛はたまらなくなる。
「なぁんなんですか、なんだってんですかぁほんとにぃ……! じゃあなにが変なのか説明してくださいよ。そんなに、私がこの場で怒鳴り散らすところがみたいんですか……!」
爆発寸前、椛の肩から苛立たしい感触が止んだ。文がつっつくのをやめたようだ。怒られてやめるようではおそい、と思わなくもなかったが、柄にもなく本気で怒ってしまったと反省してもいた。けれど、だからといってこちらが謝るのも変な話だ。そう思って、椛は渋々ちょっとの怒ったフリで文に声をかけた。
「……それで。今日はこれ終わったらご飯食べに行こうって約束でしたけど。どこにいきますか」
振り向くことなく問いかける椛に、文は応えない。
「ちょっと。いいじゃないですか、何事もなかったようにご飯食べに行ければそれで……」
文は応えない。その瞬間、椛は文を許さないことに決めた。
(逆ギレ! なんてお門違い……もう一生口きかないし)
椛は決意をふんにゃり固める。
すると椛の肩に、とんとん、と何かが触れた。
たちまち、椛は血管がブチ切れそうになった。それこそ振り向きたかった。振り向いて、小学生めいたいたずらをする天狗に暴力を行使したかった。しかし、お立ち台で喋りまくるカミサマの手前そんなことはできない。しかしどうしても暴力を行使したい。椛は振り向かずに後方は文の爪先を踏みつけることに決めた。
(くらえ……天誅!)
ざっ、と土を蹴る音が小さく響いて、椛はきょとんとした。ざ、ざ、ざっと、何度か土を蹴り確かめる。けれどそこにあるはずの文の爪先にはどうしても触れられなかった。
椛はなんだか恐ろしくなって、思わず前にある肩をつっついた。
射命丸文の意味不明言葉に椛は激怒した。山で全校集会的なやつが行われていた。ねえちょっと、と後方より肩をつっつかれてから三分間に渡って、椛は同じ言葉を聞かされ続けていた。
「なんなんですか、さっきからなんどもなんどもなんどもなんども……子供じゃないんですから、ったく……」
小声だが、椛はあからさまに苛立った様子で、背後に立つ射命丸を叱責した。ずらーっと、みな綺麗に並び、前を向いて、カミサマのありがたい言葉を拝聴していた。椛にしても、文にしても、そうしなければならないのだ。しかし、射命丸はいまいちど、でも、を発音する。
「ちょっと、一瞬だけでいいんです。ほんと。振り向いてみてください。なんか変なんですよぅ」
椛はこの手のイタズラが嫌いで仕方がなかった。何度騙され、何度自分だけがかかなくてもいい恥をかいてきたのだろう。椛の恥の記憶にはいつも文の影が付き纏った。ちょっとだけ、一回だけ、とやおら涙声になる文に椛はたまらなくなる。
「なぁんなんですか、なんだってんですかぁほんとにぃ……! じゃあなにが変なのか説明してくださいよ。そんなに、私がこの場で怒鳴り散らすところがみたいんですか……!」
爆発寸前、椛の肩から苛立たしい感触が止んだ。文がつっつくのをやめたようだ。怒られてやめるようではおそい、と思わなくもなかったが、柄にもなく本気で怒ってしまったと反省してもいた。けれど、だからといってこちらが謝るのも変な話だ。そう思って、椛は渋々ちょっとの怒ったフリで文に声をかけた。
「……それで。今日はこれ終わったらご飯食べに行こうって約束でしたけど。どこにいきますか」
振り向くことなく問いかける椛に、文は応えない。
「ちょっと。いいじゃないですか、何事もなかったようにご飯食べに行ければそれで……」
文は応えない。その瞬間、椛は文を許さないことに決めた。
(逆ギレ! なんてお門違い……もう一生口きかないし)
椛は決意をふんにゃり固める。
すると椛の肩に、とんとん、と何かが触れた。
たちまち、椛は血管がブチ切れそうになった。それこそ振り向きたかった。振り向いて、小学生めいたいたずらをする天狗に暴力を行使したかった。しかし、お立ち台で喋りまくるカミサマの手前そんなことはできない。しかしどうしても暴力を行使したい。椛は振り向かずに後方は文の爪先を踏みつけることに決めた。
(くらえ……天誅!)
ざっ、と土を蹴る音が小さく響いて、椛はきょとんとした。ざ、ざ、ざっと、何度か土を蹴り確かめる。けれどそこにあるはずの文の爪先にはどうしても触れられなかった。
椛はなんだか恐ろしくなって、思わず前にある肩をつっついた。