Coolier - 東方曹操話

いいんじゃない

2021/04/01 20:28:25
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 地獄新聞の朝刊が届いたので仕事の前に眼を通した。その中に性善説について力説した、新聞にしては随分と主張が強い記事があった。
 性善説など嘘っぱちだと思っていたが、その特集を読んでみると、なるほどあながち間違ってはいないようだ。私は元々が地蔵だからか、慈愛の心が強いらしい。悪人など存在しない。罪とはすべて環境が織りなす必然的な循環の一部なのだ。
 私の頭はどうにも固いから、こういう記事に流されて、視点を変えるのも一興だ。流動も善行である。
 うん、考えを改めよう。善は急げだ。さっそく今日から行動しよう。
 着替えて、裁判所に赴いた。閻魔の椅子に腰かけて、準備が整ったことを死神に伝えた。
 すると本日一人目の魂がやってきた。
 浄瑠璃の鏡で罪を映す。惚れ惚れするほど完全な悪人だった。叱咤の一つでも与えてやらねばと思ったが、今日は考えを変えるのだ。私は判決を言い渡した。

「殺人、窃盗、強盗致傷、近親相姦、薬物乱用、売春、あなたは夥しい数の罪を重ねてきました。被害者は決してあなたを許すことはないでしょう。それでもあなたは人を助けたことがある。強盗した日の夜、あなたはお酒を買って、そのお釣りを募金しましたね。それはワクチンとなって、なんと三人の命を救ったのです。あなたが金融機関を襲わなければその三人は命を落としていたかもしれません。そうです。徳とは巡り巡るもの。人知れず、あなたは徳を積んでいたのです。世界を構築する歯車として、十分な役割を果たしたと言えるでしょう。
そう、実のところこの世界に悪人など存在しない。勝手な天秤で罪の重さを図るなどおこがましいにもほどがある。許しましょう。すべての罪を水に流し、一度輪廻に還りなさい。したがって、あなたは無罪とします」

 私はその日来たすべての魂を天国に送った。良いことすると気持ちがいい。閻魔になって良かったと心から思えた一日だった。

「これでよかったんですかね」
 帰り足、偶々居合わせた小町がそう言った。一部始終を見ていたらしい。また仕事をさぼって……だけどそれも一興だ。良しとしよう。
 私は「いいんじゃない」と返した。

 次の日閻魔をクビになった。せっかくの善行を無碍にされた気分になった。公務員どもめ、こっちから願い下げだ。やめてやるよ、ちくしょう。
 これからは心機一転、すべてを愛する地蔵になって、この素晴らしき世界を見守ろうではないか。
『自分のことなんだし自分で決めたら? 人の目はお前を試してるだけさ』いいんじゃない PSG
闘癌
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