OqqIlcn - 親主・束片割楚誥

囲われ系ストリーマー天子chang概念

2018/04/01 16:31:13
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 私は永江衣玖ともうします。仕事は竜宮の使いで、趣味はストリーミング配信で世に自分以下のクズがいることを確認することでございます。


 「衣玖、いるかしら?」
 我々の一族は代々『神』に仕えることを生業にしています。神に仕えると一言に申しましても世には色々な神様が居られますから、その職務も一言で言い表せるものではございません。どちらかと言えば傍流に属する神に仕える者でしたら料理人から庭師、その他家事の一切を兼任することもございますし、ある程度以上の規模で主に信頼される地位にある者ならばその治世について意見を求められる事もございます。
 「いく、いるのでしょう?」
 竜宮の使いはその中でも龍神様にお使えする者を指します。龍神様の身の回りのお世話をしたり関係する方々にお言葉をお伝えしたりすることが仕事です。高貴な身分にある方の常としてお客人は毎日のように訪れますし決して楽な仕事と言う訳ではありませんが、やはり我々のような種族として特定の主を持たない妖怪にとっては、より高貴な、世界の中心に近いお方に仕えることを夢見るのです。もちろん幻想郷の最高神でいらっしゃる龍神様は全くもって申し分のないお方ですから、採用の通知が届いた時には心の底から興奮致しました。
 出立の日には両親や親戚の一同に見送られ、『がんばれ、いく』などと書かれた横断幕に赤面したものです。こんな言い方をすると要らぬ誤解を産むかもしれませんので、先に申しおきますが、龍神様の下での仕事は全く満足の行くものでした。毎日のように訪れる各方面の賢者様、中には海を渡って来られた西方の神もいらっしゃいました。何か粗相があれば国際問題にもなりかねませんし、全く気の休まらない日々ではございましたが同時にやりがいもまた一塩でした。
 「いく、入るわ。文句は受け付けないから」
 背面から届く轟音はおそらく鉄が千切れる音でしょう。数日前に直したばかりの錠前は飴細工のように曲がっていることでしょう。こうなっては現実逃避を諦めて手元の書物を机の端に避けるほかありません。
 「なんでしょうか、天人様」
 口の端を曲げて仁王立ちするその御方は比那名居天子様。名居家に仕える比那名居家の一人娘でいらっしゃいます。なぜ龍神様に仕える私の下に天人様が、と思う方も居られるかもしれませんがこれには深い訳がございます。
 「何よこれは。筆跡が全然お父様に似ていないじゃない」
 天子様が突き出されたのは少し前私に依頼をされた外出許可証でした。何でも外界で新しい遊びが流行っているのでそれに参加をしたいからとのことでしたが、ご当主様にそのままお伝えして許可が降りる訳がありませんので、私が『代理』でサインをしたのです。
 問題ありませんわ、その書類を見る者がご当主様の名前が入った書類に文句など付けるはずもありませんので。そう言うと天子様は何かを探るようにわたしの顔を見て、そして踵を返しました。
 「ならいいわ。邪魔したわね」
 天子様はいわゆる不良天人でございます。天人の一人として数えられてはいますが、あらゆる公的行事への参加を消極的に拒否されています。彼女と問題を起こすくらいなら見て見ぬふりを選ぶのが天人様のあり方でございます。あんな書類も本当なら必要はないのですが、それでも毎度筋を通そうとするのはご当主様を困らせるためでしょうか。真意は私の知る所ではありませんし知りたいと思ったこともありませんが。
 さて、話が逸れましたが簡単に言ってしまえば現在の私は出向という形で籍は龍神様の元に置いたままあの不良天人様に仕えています。 とどのつまり左遷されたのでございます。辞表はどのタイミングで出すべきでしょうか。


 嫌ならさっさと辞めれば良いじゃないか、とお思いかもしれませんがこれは簡単な話ではございません。なぜなら私の籍はまだ龍神様の下にございます。もしも私がご当主様に不都合なタイミングで辞めてしまえば龍神様の名誉に傷が付いてしまうでしょう。それは私だけの問題ではなく私の一族全体の名誉を汚すことにつながります。ですから辞めるにしてもご当主様に不都合が出ないタイミングで、可能な限り穏便に済ませる必要がございます。ですから今は日常の業務をこなしながら他の使用人などからご当主様のご都合を聞き出したり、休日には私の後任となるいけに……、人柱を探しに歩き回る毎日です。そんな生活をもう数ヶ月続けている訳ですから、私の身体と心は疲れ切ってしまいました。


 今の私の心を癒やすのは深夜にTwitchで『ちきちゃん』の配信を見ることだけです。Twitchは世界最大のライブストリーミングサイトで社会に適応できない者達が一攫千金を夢見て自分を切り売りをする場所でございます。
 『ちきちゃん』はいわゆるMOBA系のゲームを中心に実況する配信者ですが、顔も声も公開していない一風変わった配信スタイルをしています。普通なら画面の端にWebカメラなどを用いて顔を出しリアクションを見せるのですが、『ちきちゃん』は二次元のアバター、所謂VOICEROIDと呼ばれるキャラクターの立ち絵だけを表示し、声はゆかりねっとを使用してVOICEROIDで代替をするのです。
 おそらくは年季の入った無職で顔も声も醜く、とても外に出せるものでは無いのでしょうから懸命な判断と言えますし、私もその点が気に入り軽い気持ちでフォローを致しました。
 結論から言えば二回目の配信中にはサブスクライブ登録をしておりました。


 「天人様、今日はなにがございましたか?」
 「なにもないわ。つまんない一日だった」
 『ちきちゃん』と私の関係について述べる前に少しくだらない話をさせて下さい。
 私と天子様の間には一日の終りに天界の端で面談を行うと言う習慣がございます。もちろん就業時間後ですし残業代など発生しないこの様な事をするのは本意ではないのですが、ご当主様の依頼を受けてしまいましたので断れるはずもございません。
 「そうですか。それはなによりです」
 「あんたのそう言うところ、嫌い」
 概ねに置いてそのような会話をするだけの場ですが、特に問題などは起きておりません。天人様も私の様な者と話して楽しいはずがありませんし、私も『ちきちゃん』の配信が始まるまでにお風呂と夕食を済ませたいとただそればかりを考えているのですから当然でございます。
 「もうしわけありません」
 最後はそう言って私が頭を下げて面談を終えます。この一連の流れが何時しか一日の終わりの儀式になっていました。なんの意味があるのかなど、遠の昔に考えることを止めました。


 さて、つまらない話はここまでにして『ちきちゃん』の話をしましょう。『ちきちゃん』は普通とは違うのです。例えば普通の配信者ならゲーム中に大きなミスをしたり対戦相手にチームメンバーに暴言を吐かれたりしたらわざとらしいリアクションをして視聴者の気を引こうとするのですが、『ちきちゃん』は違うのです。『ちきちゃん』は相手を罵倒するでもチームメンバーを煽るでもなく、静かに黙り、そして反省し謝るのです。「ごめんね、私が悪かった」「フォローしてあげられなくてごめんね」無職にあるまじき謙虚さに最初は眼を疑ったものです。
 しかし暫く視聴を続けていると、彼女のトークは無職とは思えないほど語彙が豊富であることに気が付きました。『ちきちゃん』は無職ですがきちんとした教育を受けているのです。その事に気がついた時、私はきちんとした教育を受けたのにも関わらず謙虚さや冷静さの欠片も無いどこかの不良娘とのあまりの違いに愕然と致しました。
 しかし、私が本当に心を掴まれたのはその後でした。いつもは間髪をいれずに次の試合のキューを入れるにも関わらずホーム画面に戻った後何をするでもなく、ただ黙るのです。コメントにも反応せず、泣いているのだと視聴者が気がつくまでに時間は掛かりませんでした。誰かへ謝ったかと思えば怒りをあらわにしたり、身元を隠すために主語だけは抜いていましたが、過去に大きなトラウマを抱えていることだけはすぐに分かりました。
 >>ちきちゃん悪くないよ
 >>落ち着くまで待ってるからね。泣いてていいよ
 >>これで美味しいもの食べて
 『h_n_p Donated $1!』
 そう言った温かいコメントやドネートを貰い、少しづつ機嫌を直し普段の冷静で謙虚な『ちきちゃん』に戻るのです
 「ドネートは$5からって言ったじゃん……」
 放っておけば明日にも消えてしまいそうなそのいじらしい姿に三回目の配信中には初めてのドネートを行っていました。わずか五ドル程ですが、大変に悦ばれ私も久々に笑顔になっておりました。彼女の囲いに加わる決意をしたのもこの頃だったと思います。
気が向いたら完成させます
肥溜め落ち太郎
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コメント



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1.100虚無太郎削除
俺の時はニコ生だったな……東方二次創作サークルの野郎どもが、麻雀したりタバコ吸ったり原稿したりするライブ配信だった……。本当に仲のいいただの大学生の集まりを外側から見ているみたいな感じだった……つらい
4.100名前が無い程度の能力削除
質感があり、良かったです
5.80奇声を発する程度の能力削除
面白いです
6.無評価名前が無い程度の能力削除
とてもスラスラ読める文体でした。続きを待っています。
7.無評価名前が無い程度の能力削除
とてもスラスラ読める文体でした。続きを待っています。