後ろで大きな爆発音がしたって、そんな気がした。嘘じゃない、本当さ。
それこそが、後世で芸術の爆発と称される文化的特異点の勃発する合図だったわけだよ。
幻想郷は芸術の炎に包まれた!
そんな中で、エトガー・トガ爺さんは幻想郷で一番すごい画家なはずだけど誰も相手にしてくれないんだ。
それでも絵を描きたいから湖のちかくに小屋をたてて、今は妖精を描いてるよ。
「……なにここ?」
「あ? チルノちゃんさん! ここはアンクル・トガズ・キャビンっすよ」
「ふうん、やっとじぶんをかくりするのね」
「そんなつもりはないっす……」
この小屋はふきぬけで格子もないし孔子も居ない。儒教的な束縛はない。
なんにも縛りつけないんだってさ、アンクル・トガズ・キャビンでは。
「絵を描いてるっすよ。最近、そそわの人達のあいだで流行ってるんすよ」
「どうせ、ぽるのでしょ。あんたにはおにあいね」
「ちがうっすよ」
トガ爺さんは妖精達の何気ない一瞬を絵にして永遠のものにしたいんだ。
それがこのSSの主題なんだ。
「なにかいてんの?」
「大妖精さんっすよ」
キャンバスを見て、チルノちゃんは首をバナナみたいに捻った。
「あんたがかいたの、これ」
「どうっすか。ハイになるっすよね?」
「くさいわ」
「ありゃりゃっす」
トガ爺さんはがっかりしたよ。絵はパステルだから確かに臭いけど、そんなんじゃないからね問題は。芳香の方向性なんざ、どうでも良いんだよね。
トガ爺さんは自然を描きながら自然への反骨を描く。だから妖精を描くんだ。
モデルはね、大妖精なんだよ、うずくまってるけど。
「なんではねがひかってんの」
「そう見せてるっすよ」
トガ爺さんはね、ありえないものを描いてんだ。幻想ね。知らなくてもいいけど。
キャンパスは殆ど灰色で、空も地面も暗い。ただ妖精の羽だけが光源になってる。
そしたら鼻が暗くって、うなじが明るい。背中が一番明るいってカチカチ山みたいだね。
「はねはこんなひかんないよ。あたまだけじゃなくて、めもわるいのね」
「ひどいっす」
トガ爺さんの絵には陽射しがないよ。日光なんてトガ爺さんにとっちゃ描くに値しないんだ。
だって、世界の風景は気紛れなんだ。その輪郭は光の生み出す印象と同じじゃない。
人の曖昧な網膜に宿るものは、もっと幻想的で、あやふやなものだろう。
ジッと見てなくちゃ萎むもんなんだよ、世界は。
だから絵を描くのに光は邪魔なんだよ。光はシルエットをはっきり印象させる。それだとまぶしすぎてね、時には盲目となってしまうだろう。妖精の羽くらいで充分なんだね。
なんにも縛りつけないんだってさ、アンクル・トガズ・キャビンでは。
「なんでしゃがんでんの」
「これは地面に何かを書いてるとこっすよ。そういう瞬間を絵にしたっす」
大地は妖精にとって家なんだけど、時には画用紙なんだよ。ベッドにもなるかも。
「なにをかいてんの」
「聞いてくればいいっすよ」
「ふうん」
チルノちゃんは小屋から出てったよ。
だからトガ爺さんは絵の続きを書くことにしたんだ。
つまり、大妖精の隣りに、何を書いているのか聞いてるチルノちゃんを書くのさ。
「一個の魂は、けっして自然のみから産まれるべきじゃないっす。自然は不確かなもんっす。だから妖精は気のどくっす。チルノちゃんさんはフラフラしてばっかりっすからね」
独りで、トガ爺さんはそんなことを言ったよ。自分のことを棚上げにしてね。
絵の中の大妖精は、何かを書いてるってさっき言ったけど、実際は何にも書いてない。
ハッピー・エイプリルフール! ふうううううううう、ハイ、ハイ、ハイハイハイ!
本当はね、指先を大地に蕩けさせているんだよ。妖精の指と、大地に、垣根が無いみたいにね。
「かわいそうなチルノちゃんさん。あいまいなままだから最強になれないっす」
チルノちゃんはね、容易に成し遂げられる事柄を拒否したんだ。
彼女は最強っていう目標、その一点以外には諸々総てに無関心だったのさ。彼女はひたすら自分自身の意に適う、最強であることだけを念願としたんだよ。
それは同時に、最も頑固で、峻烈な、そして決して感情に動かされない、チルノちゃん自身の自我を満足させることに他ならなかったんだ。これってすごく大変なことさ。
事実、巫女とか魔法使いとか、新聞記者とか、摩多羅神が寛大に過ぎた軽率さで彼女に与えた栄光とかを、彼女はそれほど理解していないに違いないね――。
……でも、ほんとにそうかい?
自然はフラフラのクラクラで、あいまいなものだよ。
んで、トガ爺さんの目にも、やっぱりあいまいなものでしかない
けどチルノちゃんは、最近、はっきりする機会があまりにも多くなってきた気がするんだ。
もしかしたら、ぜんぶ、もう理解したうえでのことかも知れないよ。
そんなんじゃあ、いずれトガ爺さんのことなんて忘れちゃうかもね。
「チルノちゃんさんの最強は果たされようとしてるんすか?」
昔さ、アメリカにトムって爺さんが居たんだ。偉い人でね、特にニグロの人々にとって、彼は素晴らしい友人だった。そのはずさ。奴隷制度を無くしたんだから。
けど、ある時、マルコムXって人が爺さんの名を臆病者の代名詞で使った。そしたらアメリカの辞書には爺さんの紹介の横ちょに臆病者って意味が付随するようになったのさ。
臆病だったわけじゃないよ。爺さんは人を許すことができる人だったからね。
本来、彼の名前にはそんな説明文なんざ相応しくないんだ。火男じゃあるまいし。
もちろんね、トガ爺さんだってバカじゃないから、自分とその人を一緒にするつもりはないよ。
だけど、トガ爺さんはチルノちゃんと友達のつもりだからさ、何だか身につまされるんだよ。
タフにならざるを得なかったマルコムXがトム爺さんを黒人公民権運動活動から追放したみたいにさ、きっとタフになるだろうチルノちゃんはトガ爺さんのことを湖から追放してしまうかもしれない。
それは、本当に、悲しいことだよ。何せ、トガ爺さんの追放は明らかに当然だものね。大妖精はともかくトガ爺さんはね、ひじょうに残念だけれどもまず間違いない。
「だけど好きにすると良いっす。彼は言ったっす。『私は心から君を許しましょう』」
トガ爺さんは、そう言って孤独にチルノちゃんを許したよ。
まあ、そんなこと言っといて、二匹の近くには小屋を描いたんだけどね。
良いじゃないか、未練がましくて。
忘れ去られないあいだは、まだ近くに居りゃ良いじゃないか。
なんにも縛りつけないんだ、アンクル・トガズ・キャビンでは。
自由なんだろ、そこは?
なら、居て良いのさ。大丈夫、彼が言っていただろ。『私は心から君を許しましょう』
それにほら、気付いてるだろ。あんたの背中に、光が伸びてきている。
光だ。仄かな光だ。光のために盲目となった者をこそ救う光だ。
もう二度と迷わないって、一度は誓った人々を、迷いから導く、その光だ。
爺さん、ちょっと眩んでいたけど、もう大丈夫だろ。
ときに自然は芸術を模倣する。それだけのことさ。
ごらん、二匹が笑っているよ。
「いいえになったわね」
そんで、トガ爺さんは驚いちゃって振り返ったんだ。
それこそが、後世で芸術の爆発と称される文化的特異点の勃発する合図だったわけだよ。
幻想郷は芸術の炎に包まれた!
そんな中で、エトガー・トガ爺さんは幻想郷で一番すごい画家なはずだけど誰も相手にしてくれないんだ。
それでも絵を描きたいから湖のちかくに小屋をたてて、今は妖精を描いてるよ。
「……なにここ?」
「あ? チルノちゃんさん! ここはアンクル・トガズ・キャビンっすよ」
「ふうん、やっとじぶんをかくりするのね」
「そんなつもりはないっす……」
この小屋はふきぬけで格子もないし孔子も居ない。儒教的な束縛はない。
なんにも縛りつけないんだってさ、アンクル・トガズ・キャビンでは。
「絵を描いてるっすよ。最近、そそわの人達のあいだで流行ってるんすよ」
「どうせ、ぽるのでしょ。あんたにはおにあいね」
「ちがうっすよ」
トガ爺さんは妖精達の何気ない一瞬を絵にして永遠のものにしたいんだ。
それがこのSSの主題なんだ。
「なにかいてんの?」
「大妖精さんっすよ」
キャンバスを見て、チルノちゃんは首をバナナみたいに捻った。
「あんたがかいたの、これ」
「どうっすか。ハイになるっすよね?」
「くさいわ」
「ありゃりゃっす」
トガ爺さんはがっかりしたよ。絵はパステルだから確かに臭いけど、そんなんじゃないからね問題は。芳香の方向性なんざ、どうでも良いんだよね。
トガ爺さんは自然を描きながら自然への反骨を描く。だから妖精を描くんだ。
モデルはね、大妖精なんだよ、うずくまってるけど。
「なんではねがひかってんの」
「そう見せてるっすよ」
トガ爺さんはね、ありえないものを描いてんだ。幻想ね。知らなくてもいいけど。
キャンパスは殆ど灰色で、空も地面も暗い。ただ妖精の羽だけが光源になってる。
そしたら鼻が暗くって、うなじが明るい。背中が一番明るいってカチカチ山みたいだね。
「はねはこんなひかんないよ。あたまだけじゃなくて、めもわるいのね」
「ひどいっす」
トガ爺さんの絵には陽射しがないよ。日光なんてトガ爺さんにとっちゃ描くに値しないんだ。
だって、世界の風景は気紛れなんだ。その輪郭は光の生み出す印象と同じじゃない。
人の曖昧な網膜に宿るものは、もっと幻想的で、あやふやなものだろう。
ジッと見てなくちゃ萎むもんなんだよ、世界は。
だから絵を描くのに光は邪魔なんだよ。光はシルエットをはっきり印象させる。それだとまぶしすぎてね、時には盲目となってしまうだろう。妖精の羽くらいで充分なんだね。
なんにも縛りつけないんだってさ、アンクル・トガズ・キャビンでは。
「なんでしゃがんでんの」
「これは地面に何かを書いてるとこっすよ。そういう瞬間を絵にしたっす」
大地は妖精にとって家なんだけど、時には画用紙なんだよ。ベッドにもなるかも。
「なにをかいてんの」
「聞いてくればいいっすよ」
「ふうん」
チルノちゃんは小屋から出てったよ。
だからトガ爺さんは絵の続きを書くことにしたんだ。
つまり、大妖精の隣りに、何を書いているのか聞いてるチルノちゃんを書くのさ。
「一個の魂は、けっして自然のみから産まれるべきじゃないっす。自然は不確かなもんっす。だから妖精は気のどくっす。チルノちゃんさんはフラフラしてばっかりっすからね」
独りで、トガ爺さんはそんなことを言ったよ。自分のことを棚上げにしてね。
絵の中の大妖精は、何かを書いてるってさっき言ったけど、実際は何にも書いてない。
ハッピー・エイプリルフール! ふうううううううう、ハイ、ハイ、ハイハイハイ!
本当はね、指先を大地に蕩けさせているんだよ。妖精の指と、大地に、垣根が無いみたいにね。
「かわいそうなチルノちゃんさん。あいまいなままだから最強になれないっす」
チルノちゃんはね、容易に成し遂げられる事柄を拒否したんだ。
彼女は最強っていう目標、その一点以外には諸々総てに無関心だったのさ。彼女はひたすら自分自身の意に適う、最強であることだけを念願としたんだよ。
それは同時に、最も頑固で、峻烈な、そして決して感情に動かされない、チルノちゃん自身の自我を満足させることに他ならなかったんだ。これってすごく大変なことさ。
事実、巫女とか魔法使いとか、新聞記者とか、摩多羅神が寛大に過ぎた軽率さで彼女に与えた栄光とかを、彼女はそれほど理解していないに違いないね――。
……でも、ほんとにそうかい?
自然はフラフラのクラクラで、あいまいなものだよ。
んで、トガ爺さんの目にも、やっぱりあいまいなものでしかない
けどチルノちゃんは、最近、はっきりする機会があまりにも多くなってきた気がするんだ。
もしかしたら、ぜんぶ、もう理解したうえでのことかも知れないよ。
そんなんじゃあ、いずれトガ爺さんのことなんて忘れちゃうかもね。
「チルノちゃんさんの最強は果たされようとしてるんすか?」
昔さ、アメリカにトムって爺さんが居たんだ。偉い人でね、特にニグロの人々にとって、彼は素晴らしい友人だった。そのはずさ。奴隷制度を無くしたんだから。
けど、ある時、マルコムXって人が爺さんの名を臆病者の代名詞で使った。そしたらアメリカの辞書には爺さんの紹介の横ちょに臆病者って意味が付随するようになったのさ。
臆病だったわけじゃないよ。爺さんは人を許すことができる人だったからね。
本来、彼の名前にはそんな説明文なんざ相応しくないんだ。火男じゃあるまいし。
もちろんね、トガ爺さんだってバカじゃないから、自分とその人を一緒にするつもりはないよ。
だけど、トガ爺さんはチルノちゃんと友達のつもりだからさ、何だか身につまされるんだよ。
タフにならざるを得なかったマルコムXがトム爺さんを黒人公民権運動活動から追放したみたいにさ、きっとタフになるだろうチルノちゃんはトガ爺さんのことを湖から追放してしまうかもしれない。
それは、本当に、悲しいことだよ。何せ、トガ爺さんの追放は明らかに当然だものね。大妖精はともかくトガ爺さんはね、ひじょうに残念だけれどもまず間違いない。
「だけど好きにすると良いっす。彼は言ったっす。『私は心から君を許しましょう』」
トガ爺さんは、そう言って孤独にチルノちゃんを許したよ。
まあ、そんなこと言っといて、二匹の近くには小屋を描いたんだけどね。
良いじゃないか、未練がましくて。
忘れ去られないあいだは、まだ近くに居りゃ良いじゃないか。
なんにも縛りつけないんだ、アンクル・トガズ・キャビンでは。
自由なんだろ、そこは?
なら、居て良いのさ。大丈夫、彼が言っていただろ。『私は心から君を許しましょう』
それにほら、気付いてるだろ。あんたの背中に、光が伸びてきている。
光だ。仄かな光だ。光のために盲目となった者をこそ救う光だ。
もう二度と迷わないって、一度は誓った人々を、迷いから導く、その光だ。
爺さん、ちょっと眩んでいたけど、もう大丈夫だろ。
ときに自然は芸術を模倣する。それだけのことさ。
ごらん、二匹が笑っているよ。
「いいえになったわね」
そんで、トガ爺さんは驚いちゃって振り返ったんだ。
The newspaper contained what you were arrested for.
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That is, the reasoning had drawbacks.
アンタどんだけ戸隠愛してんだよ!
もう認めるしかないんだろうな
戸隠には波長が合う特化した才能の持ち主を
強烈に惹きつける光があることに