恐慌焦燥話

助けてくれ

2017/04/01 03:31:41
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 エイプリルフールである。空気を吸うように嘘を吐く魔理沙だが、これにはすっかり参ってしまった。なにせ、いつものように小さな嘘を言えば「ははあ、これはエイプリルフールにわざわざこさえてきた嘘だな。それにしてもつまらぬ嘘しかつけないやつだ」などと思われてしまうのである。今日ばかりは小さな冗談を控えて、何か大きな嘘を言わねばならない。ドッカンバッカンとオオウケの嘘を言わねばならない。魔理沙の信条は、やるときはやるということである。ナメられるわけにはいかないのだ。
 
 しかしながら、ネタが思いつかない。そうだ、「実は人間ではない」とかはどうだろう。思いついて、すぐさま却下した。シリアスすぎるし、そもそもつまらない。
 
 頭をひねりながら支度を終えた魔理沙は、箒をひっつかむと、魔法の森から飛び立った。魔法のアイデアに詰まったときの解決策その一、孤独な散歩である。しかし都合の悪いことに、通りがかる影があった。さらに最悪なことに、彼女は魔理沙がいま一番会いたくない人物であった。

「あややや、魔理沙さん今お時間ありますか?」
「お前の挨拶は”あやややや”なのか?」
「違いますよ魔理沙さん。あやややです」
「あややややじゃなかったか?」
「どうでしたっけ、私も正直うろ覚えで……そんなことより魔理沙さん、これからどちらへ?」
「あー、まあ散歩だ。気分転換にな」
「なるほど、では研究に行き詰まっていると」
「そんなところだな」
「『記者が研究の進捗について尋ねると、霧雨魔理沙氏は沈鬱な表情でうなだれた』」
「お前はいつもそうだよな」
「私だって記事に飢えてるんですよ。それで、なんの研究ですか?もし弾幕ならぜひ見せてほしいものですが」

 文は魔理沙への取材で紙面を埋めるつもりのようだった。弾幕界をリードする魔法使い、霧雨魔理沙の新作をいち早く掲載して購読数も伸ばそうという打算もあるのだろう。

 魔理沙としても、ここで適当に実験段階の弾幕を披露して誤魔化すのも吝かではない。しかし、これはチャンスでもある。今ここで大きな嘘をついてしまえば、文を通じて幻想郷じゅうのエイプリルフールに参加できるのである。ただ、何もネタが思いつかない。ネタを考えなければ。ネタを、ネタネタネタネタ

 魔理沙は脳みそをフル回転させながら口角を上げて答えて見せた。

「いま研究しているのは弾幕用の魔法ではないんだが、ちょうどいい、お前にも教えてやろう」
「おお、特ダネの匂いがしますね」

 時間稼ぎである。なにも思いついていない。

「実は……」
「実は……?」

魔理沙の無意味なタメに、文も思わず唾を飲む。緊張感がピークに達した頃、魔理沙は満を持して口を開いた。
何も思いつかなかったぜ
青段
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メタ構造だ