恐慌焦燥話

今年はマジで余力がないので没ネタ供養で茶を濁す

2017/04/01 03:14:17
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 それはまるで、鰐の背中のようだった。
 切り立った稜線に白く積もった雪。黒く、鈍く陽光を反射する花崗岩質の急斜面。
 それが延々と続いている。妖怪の山、その南端を取り巻くように広がる――大小三十三の山岳が作る、連峰。
「椛さん。十一時方向、一番広いコルです」
 分厚いイヤマフから早苗の声が響いた。犬走 椛……白狼天狗の彼女は今、東風谷 早苗の操縦する小型ヘリのキャビンに腰を落ち着けていた。猛烈なローター音のなか、促されるまま視線を向ける。なにを指そうとしているかはすぐに解った。樹木を除き、斜面を平坦に開発した一角にプレハブ小屋が何軒かと、重機が一揃い鎮座している。ヘッドセットのマイクを通じ、椛は早苗に呼びかけた。
「あそこには何人?」
「十八人です。六月には宿舎を二十棟まで増やして、常時四百人の作業員が詰められるようにします」
 さらに目を凝らすと、尾根沿いに山肌が削り取られ、トラックの轍ができている様子も覗えた。改めて、二千五百メートルの高度から、周辺一帯、山脈を一望する。
 
 この、人どころか、妖怪をも拒む、峻険な山脈に。
 岩と、氷と、落差の王国に。
 ロープウェイだって? 

「……無茶苦茶だ」
 思わず、口を突いた言葉。早苗の笑い声が耳に返ってくる。
「あたりまえでしょう。神様の仕事です。そう易々想像できて堪りますか。さて、もう戻りますよ」
 サイクリックを左へ傾斜させ、機体を緩やかに反転させる早苗。鰐の背を下り、右腕の先を撫で、尻尾を飛び越える……復路のルートを辿りながら、早苗はなお、楽しげに語りかけた。
「いま見てきたのが、私の構想する建設予定ルートです」
 山脈と共に高度を下げる機体。ちょうど鰐の尻尾にあたる部分が眼下に見えた。既にいくつかの鉄塔が建設されている。いまの椛の視座からは、その様子は全くか弱い営みにしか見えなかった。獰猛な肉食獣の、その暴力圏に挑むには、あまりにも、あまりにも脆弱な試み。
「鰐の尻尾。踏んづけなけりゃあいいけれど」
 それを聞いて、また早苗は深く、そして恐ろしい笑みを浮かべた。
 だが、この時彼女が何を考えていたかなど……椛には、ついぞ知れないことだった。


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 行方知れずのレディッシュヘッド -white Wolves feedback-

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犬走 椛    …… 白狼天狗。パートタイムの地方公務員、兼傭兵。
東風谷 早苗 …… 現人神。国土開発法人の代表取締役、兼風祝。

ツリ目の山童 …… つい最近まで河童だった。給仕係、兼総務全般。


ギルレモ・デル・トロ …… 人間になることを熱望する白猫。なのだが、二足歩行している件については。人間になりたいと言ってるけどそもそも猫かどうかすら怪しい気がする。おれはいっそ白猫になりてえ、けど、おまえみたいのはごめんだな。特殊メイクは暑そうだ。


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 事の発端は二日前に遡る。
 たまの土曜ではあったものの、その日も犬走 椛はいつも通り、午前五時に目を覚ました。まどろんでいたのは十秒ほどで、布団を跳ねのけるとまずうつ伏せから腰を突き上げるようにして背筋を伸ばした。次いで、四つん這いの姿勢から左右の足を交互に伸ばし、最後にひとつ身震いするとすっかり柔軟が済んでいる。パンツを脱ぎ捨て素肌の上にスパッツを穿きこんで、上下合わせのウィンドブレーカーを羽織ると、まだ街灯が照らすほど暗い道を走り出した。
 吐く息が白く広がる。除雪された歩道は走るに難がなく、体が温まった頃合いを見て、筋肉を使うつもりで疾走を何度か繰り返す。北上していた県道を外れ、田んぼの間に作られた畦道を流す。このあたりは山の影になっていてやや足元がぬかるむが、慣れた調子で乾いた場所を選びながら通り抜けると、影を作る小高い山を登る石段にぶつかった。息を整えて一気に駆け上ると、ようやく朝陽が椛を照らす。緩やかな傾斜の道を下って、商店街の裏手、その雑貨屋と青果店の間をくぐると、まず立ち寄るのは新聞屋。異なる購読紙を何部か受け取り、カンガルーポケットに突っ込んだ。小走りに二軒となりのミルクセンターへ向かうと、この日も従業員の少女が牛乳瓶片手に椛を待ち構えており、目礼ひとつ交わしてこれを片手に受け取ると、再び県道に出てここを南下。総じて、四キロ三十分ほどのジョギングコースであった。
 安アパートの一階、その角部屋が椛の住居であった。錆びた鍵を乱暴に回してドアを開ける。牛乳を流し台の調理場に置き、新聞をリビングのテーブルへ放る。着ていたものをハンガーにかけ、再び素っ裸となった椛はその格好のままヤカンに水道水を満たして火にかけた。沸くまでの間に軽くシャワーで全身の汗を流す。
 白狼天狗の尻尾は、故人差こそあれど一般に長大で重厚だ。早い話がもっさりしている。野生に近い生活をしている者ならば毛の一本一本に皮脂の油が行き渡るので、多少水を被った程度では湿りもしないのだが、椛は様々な事情から自身の体臭に気を使う生活を送っているがゆえに、界面活性剤でそれらの油脂は日ごろから洗い流されていた。近代化された生活を営む白狼天狗の多くがそうするように、彼女もまたシャワー上がりにバスタオルを尻尾に巻きつける。とはいえ、自然乾燥を待つわけではない。このアパートは、白狼天狗向けのもので、そういう物件にはほぼ必ずと言っていいほど、尻尾専用のドライヤーが据え付けられている。場合によっては共有スペースにそれが設置されている事もあり、そういう場合は十円玉握った年頃の娘がバスタオルいっちょうでひたひたと立ち並ぶことになる。幸いに、安アパートとはいえ彼女には自前のテイルドライヤがあった。
 温風が尻尾を撫ぜるくすぐったい感覚を楽しみながら、椛は洗面台に手を伸ばし、朝用の化粧水を顔に当てる。火にかけたヤカンが口笛を吹くころには尻尾もすっかり乾いていた。沸いた湯を挽き置きのコーヒー豆と共にプランジャーポットに注ぎ込む。シリアルを大きめのボウルいっぱいに入れて、まだ冷たい牛乳をかけた。
 リビングにそれらを持っていき、座布団の上に腰をおろしザクザクとシリアルを頬張る。全国紙をテーブルの上に広げてぱらぱらとめくりながら読み進める。三分ほどでシリアルを食べ終えると、余った砂糖混じりの牛乳にプレスしたコーヒーをだばだばと掛け入れた。ちょうど良い温度となったコーヒー牛乳を一気飲みにすれば、それで彼女の朝食は終わりである。季節によってはシリアルにフルーツが混ざることがあるが、その場合はコーヒーフルーツ牛乳になるわけだ。
 新聞を読み終える。時刻は、この時点で七時になるかならないかといったところ。
 平日ならばこのまま仕事に出るのだが、休日の椛は、さてなにを始めるのかというと、これが実に、なにもやることがないのだった。
「あー……することねえー……」
 戯れにテレビをつけてみたが、興味を引く映像は皆無だった。アイリスオーヤマのトリミングブラシで尻尾の毛を梳いていると、これがなかなか楽しくて気付けば十時を回っていた。冬毛が足りなくなった気もするが、まあそろそろ寒の厳しい季節も開ける。気を取り直して部屋の掃除でもするかあ、と思ったところで、彼女の犬耳がぴくりと動いた。
 誰かが、ドアの前に立っている。白狼天狗としての彼女の能力がそれを教えていた。
 音を立てないよう玄関まで歩を進める。小柄な椛は背伸びして魚眼レンズに目を近づけた。
 レンズの向こうに見えたのは、視野いっぱいの、東風谷 早苗の顔だった。
「……!?」
 覗き返してきた椛の気配に気づいたであろう早苗がドアノブを捻り侵入してきた。思わず尻もちをついた椛を、見下ろすような形でお邪魔しますと無遠慮に早苗。急も急、予想だにしない訪問者に、椛は目を白黒させるばかりだ。
「おはようございます、椛」
「お、おう。おはよう、早苗」
 客人用の座布団を出して早苗を座らせると、椛はてきぱきと茶の準備をして早苗の対面に座った。普段、一人でいるときは使わない石油ストーブに火を入れたが、早苗はコートを脱ごうとしなかった。さもありなん、室温は陽の高いこの時刻でも未だ五度を上回らない。
「ずいぶん、急な訪問だな、早苗」
「ええ。ご無沙汰していました。博麗神社での、バーベキュー以来ですかね」
「その節は世話になったな。しかし、私の家の場所を知っているとは思わなかった」

没ネタはですね、
基本的には創想話の、四月馬鹿といわれる時期に供養されていまして、
若干ゃ草も、生えないような内容なので、
そういったものでも投稿しやすいように創想話、あの、ふざけたトップページで。
であと閉鎖も早いので、黒歴史を掘り返されないように。

妥協ぅ…ですかねぇ…
高い目標を、スッと、引き下げた産物でして、
結構締め切りギリギリまで手を付けないんで、
軽々と1週間2週間は余裕でジャンプしてくれますね。
保冷材
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コメント



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2.2890智弘削除
ほれいざいおにいさん、ありがとう