1.
出来立ての饅頭を齧りながら人里を歩いているとなにやら騒がしい。
人だまりの向こうから男の涙まじりの罵声が聞こえてくる。
いったい何事かと覗いてみると、数人の男達が大きめの虫籠に入れられた妖精を囲んで何やら険しい顔をしている。
中心にいる籠を持った男がそれを揺さぶり、
しきりにお前が、お前が、と言葉にならない罵倒を繰り返す。
当の妖精はというと目を丸くして身を任せている。
毛糸製の妙な帽子をかぶった妖精だった。
一体何があったのかと周囲を見回しても皆一様に悲痛な面持ちで男を見やるだけだった。
どうも気軽に尋ねられる雰囲気ではなく、居心地の悪さに圧され踵を返す。
行き合った知人にその事を話し尋ねると、
先日、妊婦が妖精の悪戯で転び、子が流れたのだという。
妻は憔悴しきり、夫は怒り狂っている。
誰かがその妖精を捕まえて引き渡したのだろうが、
妖精は諭しても忘れる。殺しても復活する。
捕まえたところで虚しいだけだろう。
それでも怒りのやり場がないのだと苦々しげに話す彼女にただ同意した。
2.
此岸はうっすらと霞がかっている。
目を凝らしてようやく見える魂が漂っている。
彼ら同士は人型に映るのかもしれないが妖怪と霊はやはり別のもので、
人間には白い靄のようなもにしか見えないのだ。
岸部に近づくと死神の船頭は船を揺らして飛び起きた。
上司と間違えてか言い訳を始める。
ここ数日、男が来て何かを探して騒いでいて休めなかった、
積まれた石すら見えない様子で気が気ではなかったのだと。
暫くして目が覚めたらしい死神に男はもう来ないだろうと言うとどうだろうねと笑う。
長い休憩を終えた彼女は重い腰を上げると船を出した。
野次馬は感心しないと窘められたが曖昧に頷いて見送った。
3.
積み上がった石の合間を縫って慎重に歩く。
一番小さな積石に近づく。
指の先程の小石がゆっくと小石塔の上に向かって動く。
すぐに崩される石塔が着実に高くなって行くのを暫くの間見つめていた。
手慰みに隣に石を積んでみる。
大きめの石に一つ二つと載せていると隣の小石塔がいきなり崩れた。
それでもひるむ様子もなく小石が再び出す。
ふと、石を掴む小さな手がうっすらと見えた。
積んだ石を自ら払って立ち上がる。
手は一度も合わせなかった。
多分、私は少しだけ羨ましかったのだ。
4.
妖精の帽子は手袋だった。