雨と埃だけ食って辛うじて生きる

霍青娥白痴化催眠

2016/04/01 01:48:14
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 場に似つかわしくないのんきな童謡を歌う声が、響いている。それは少し、震えて語尾が伸びている。彼らの一人がそれを歌っている理由は、芳香にも分かった。頭の中身が子供に返ってしまった青娥をなだめるとき、霊夢はよく、童謡を歌ってなだめていたからだ。
 月の明るい夜だった。お堂の中は薄暗かった。だけど、芳香の目には関係なく、何もかもはっきりと見える。月が幻想郷を照らしていて、幻想郷は闇の中で、闇の中に誰も知らないような古いぼろのお堂があって、お堂の真ん中に、青娥は寝かされている。青娥はいつもの赤い着物を着ているが、今は、はだけられていて、腰に結びついている帯だけが虚しい。だけど、いつも走り回っては、はだけているから、着ていたっていなくたって同じなのだ。青娥の口元も手も、山ぶどうや木いちごの汁で汚れている。歌と同じで、青娥を大人しくさせるための餌だ。
青娥の回りには三人の男がいる。青娥に覆いかぶさった男はふらふらと青娥の身体の上で揺れて、一人は青娥の傍らで歌を歌う。歌う男は、手持ち無沙汰なのか、青娥の手を握って、子供をあやすように握っては放してさすっている。もう一人は、お堂の隅に座り込み、その様子を眺めている。
 芳香はお堂の屋根の上から、全てを見ていた。屋根の破れ目から、男たちと青娥を見ていた。見ているうちに、童謡は「さくらさくら」から「はるがきた」になり、「われは海の子」になった。どうしてか、それらを止める気にはなれなかった。青娥は芳香の主人であり、守るべき対象である。青娥は犯されていて、彼らを殺してでもおしのけて、救い出さなければいけない。芳香は身体が動かなかった。なぜだか、芳香はそれを黙ってみていた。やがて青娥の上から男が離れて、青娥の内側から男のものが、割れ目を伝って、お尻の方へと流れてゆくのが、芳香にははっきりと見えた。青娥の表情は、目をとろんとさせて、嬉しそうだった。


 青娥は白痴になってしまった。青娥は尸解仙だ。聞き慣れない言葉だが、要するに仙人のなりそこないという風なもので、仙人ならば不死だが、尸解仙は不死でありつづけるために、色々と方策を練らねばならない。そのために薬や術に詳しかった。ある日、青娥が開発した白痴化催眠粉末を、霊夢に見せびらかしていたら、不意に霊夢に振りかけられてしまったのだ。霊夢にも特別な意図があったわけではなく、たまたま手に持ったら振りかけてみたくなっただけのことで、目の前には持ってきた青娥がいたというだけのことで、青娥は白痴になり、二、三歳程度のあたましかなくなってしまった。
 青娥が子供みたいになってしまってから、青娥は霊夢のところに寝泊まりすることになった。霊夢も責任を感じているみたいで、青娥はどこへも行こうとはしないし、そのままでは飢えてしまうだろうことは明らかだったから、霊夢は世話をする気になって、空き室を一つ、青娥に与えた。青娥が寝泊まりをすると、芳香もやがてやってきて、一緒に寝るようになった。芳香は青娥の従者で、いつも一緒だ。死体で、キョンシーだから、青娥がコントロールしているはずなのだが、青娥が白痴化してから、誰の命令で動いているのか、今ひとつ分からない。分からないが、動いている。
 霊夢がどうしようもない面倒くさがりでだらしないから、青娥の世話は芳香がするようになった。元々は、芳香の世話を青娥がしていて、今は、青娥がかつてしていたように、芳香は青娥の世話をする。よしよし青娥、かわいいぞう、などと言いながら、ご飯を食べさせて、服を着替えさせる。芳香の四肢は自由が効かない。だから、世話をするのも、子供が戯れているようなもので、ご飯を食べさせているのかこぼしているのか、服を着せているのか脱がしているのか、分からない。それに青娥はぐずるとすぐにぎゃんぎゃん喚くので、あまりにうるさいと霊夢が来て、二人を叱る。それで、なんとかやっと服を着ると、青娥はすぐに外に飛び出していく。芳香が頑張って追いかけても、人間のように走れない芳香は、いつも置いて行かれてしまう。青娥は里に降りては子供たちと遊んだり、とんぼを追いかけたりする。それで、おしっこがしたくなると、青娥はいつもそこで、した。がに股にしゃがみ込むと、着物をあげて、道の真ん中におしっこをした。熱い液体は川になって、土の上を流れた。青娥の足についても、青娥は気にしなかった。青娥の身体は大人のものだから、走り回ってはだけても、青娥は子供だから気にしないけれど、回りの人間たちは困惑した。中には、おっぱいを平気で触ってゆくような子供や、大人もいて、芳香がそれを見つけては怒って追い回した。連れ去ろうとする大人がいないか、芳香はいつも気に掛けて、少しでもいなくなると、芳香は青娥の名前を呼んで探し回った。せいがあ、せいが、と叫んで飛び回る死体の風景は、すぐ里の噂に上った。
 霊夢はどうにかしないといけない、というより、どうにかしないと私が面倒だ、と考えていたが、実際にどうすればいいのかは全く分からなかった。例の液体粉末は、やってきた魔理沙が面白半分で自分に振りかけて、魔理沙まで子供に還ってしまってからは、こんな危険なもの置いておけない、と捨ててしまったから、調べようもなく、青娥のやった催眠とやらがどういった理屈で、青娥に作用したのか、さっぱり分からないのだった。それで、手の打ちようがないので、霊夢は放って置いた。そのうち青娥が死ぬなりなんなりで解決しても、霊夢は全然平気なのだった。
 宮古芳香は、青娥の頭の中が真っ白になってしまってことについて、何か考えを巡らせただろうか? かわいいかわいいと喜んではいたが、それ以上の考えはないはずだ。芳香にとって青娥は正しく絶対者、青娥の言うことに間違いはなく、その青娥が子供のようになっているのだから、芳香にとってそれは正しいことだった。そもそも、芳香には青娥との関係が、今ひとつ分からない。芳香は死体で、それなのに動いているのは青娥のおかげなのだ。青娥は芳香を愛おしむ。それは芳香が死体なのか、芳香が芳香だからなのかは分からないが、それは重要ではない。芳香にとっては、青娥が青娥であることこそが重要なのだった。青娥の頭の中が真っ白になって子供のようになろうが、青娥であることに変わりはないのだった。
 芳香は死体で、当然のことだが死んでいて全く動かず、そのまま腐って虫に食われ、消化と発酵の働きで溶けて、地面に還り、やがて土になる。それはそれで自然の摂理で、正しいことで、それが不幸だということもないだろう。だが、芳香の死は青娥が止めて、芳香は芳香の身体と頭を保っている。その芳香は青娥を愛おしむ。土になった芳香は土になった芳香なりの考えと幸せがあったはずだ。今の芳香には、青娥が絶対的存在であることの幸せがあった。
 芳香と霊夢がようよう青娥の世話をしながら、解決の糸口もなく、日々は流れた。一年ほどした頃、青娥は子供を産んだ。次第に膨らんでゆく腹を見て、また面倒なことになった、と霊夢はうんざりした気持ちになった。
 芳香はと言えば、自分なりに調べていたようだが、催眠の解決方法を探す、その模索を、ぱったりとやめてしまった。青娥の作った催眠方法に触れておくと、薬によって作られた強力な催眠効果であることがあげられる。例えば言葉によって、被催眠者を子供だと思い込ませる、また言葉によって、大人であると思い込ませて、催眠を解く。そういったものとは全く違う。薬による催眠では、薬による解除方法が必要だった。
 麝香なんかの催淫効果は、よく知られている。甘ったるい香りを嗅ぐと頭がとろんとなって、いやらしい行為を想像させられると、それがそのまま頭の中に入ってくる。青娥の催眠の第一歩は、そんなところから始まったに違いない。麝香は中国では古くから使われていた香で、麝香を始めとした催淫香は古くから研究されていた。香りによる脳への語りかけ。青娥はそれをより、直接的な方法で高めることにした。脳へと成分を届け、頭の中身を決定的に変質させてしまう邪法。話は変わるがアフリカでは、濃度を薄めた毒薬によって、人を仮死状態にし、前頭葉の働きを弱め、自発的意志の薄い奴隷を作り出す技法があった。青娥の毒も似たようなところがある。人の意志の一部を弱め、一部を強める。あとは何を使い、どのように使い、どれほど効果があるか……青娥の催眠薬は、そのような実験の繰り返しによって、作られたものだった。解毒薬を作るには、似たような道筋を通って、同じ薬を作り出し、その薬の成分を調べ、似たような、けれど逆方向に作用する薬を作るしかない。芳香には知識もなければ、技術もない。霊夢であれば可能かもしれないが、どれほどの時間がかかるかも分からない。仙人である青娥が何十、何百年かけて作り上げた知識と技術には、一代しか生きられない人間の霊夢では、とてもではないが追いつけるはずがなかった。
 そういうわけで、芳香が催眠の解除方法を探すのをやめてしまうと、霊夢も次第に諦めて、やめてしまった。
 青娥の子供のこと……普段通りの青娥であれば、生まれた赤子はすぐにでも何かしらの呪法に使ってしまうだろう。青娥が邪法を学んだ古代中国では、胎児、あるいは生まれて間もない赤子の魂には、強い力が宿ると信じられている。青娥がまともな倫理観を持っているはずもなく、生まれてくる赤子を健やかなままに育てるはずがない。芳香は子供を取ったのだということになる。生まれてくるもの、命という力。芳香は初めて、青娥よりも重要なもののために、物事に優先順位をつけた。芳香自身知らずのうちに、死体となった芳香は初めて選択をした。
 それで、生まれた子供は、子供が子供を産んだようなもので、霊夢は仕方なしに子育てを手伝い、それでもなんとか育つもので、物心がつくと子供は里へと引き取られていった。その頃には、もう芳香も青娥もいなくなっていた。子供が生まれてから一年もした頃には、二人は既にいなくなっていた。というのも、子供が生まれた後で、青娥が川に落ちて、あと少しで溺れて死んでしまうようなことがあったからで、水から上がってからも青娥はぶるぶる震えて、高熱が出てそれでも死んでしまうかもしれなかった。青娥はまともだったころ、よく死神と戦っていたが、子供のようになってからはめっきり来なくなっていた。だけど、死神が来なくても、こんな風に死んでしまうのかもしれないと、霊夢は思った。芳香も思ったかもしれない。それで、二人とも、いなくなってしまった。幻想郷のどこかにいるのか、幻想郷の外に出たのか、死んでしまったのか、分からなかった。霊夢は二人もいなくなり、子供を里へやって、初めて、やれやれ、と一つ物事が解決したような心地になったものだった。

 十年ほど過ぎた。霊夢もすっかりいい大人になって、若い頃のような元気がなくなり、疲れやすくなった自分に気がついていた。それで、日がな一日寝転んで過ごすようになった。何もやる気が起きないのは以前と変わりないが、妖怪騒ぎや異変に動く必要がなくなっていたのが救いだった。というのも、霊夢や魔理沙たちが異変解決をするたび、その活動に憧れて異変解決に動く者が出て来て、世代が進むごとにそういった人々は増えていったのだ。それで、霊夢が何かをしなければいけないほどの事件は、ほとんど起きなくなった。その前に、若い誰かが解決する。霊夢は子供こそ持たなかったが、彼らや彼女らが、霊夢の子供なのかもしれなかった。
 その霊夢は珍しく、神社の正面にいて、賽銭箱の隣に座っていた。少女が一人、霊夢に話しかけて、笑いながら別れ、石段を下りていく。
 石段を一人、少女が霊夢に見送られて下りていく。楽しげでもなく、だが確かに、石段を踏みしめて下りてゆく。少女は石段の途中で、昇ってきた男に軽く頭を下げて挨拶をし、石段を下りていった。男の隣を擦れ違うとき、短く刈られた青い髪が、男の横で揺れて、通り過ぎていった。
 石段を上がってきた男が、汗を拭きながら霊夢に頭を下げた。三十代くらいの男で、霊夢には初めて見る顔だった。だが、よくあることだ。向こうは霊夢を知っていて、霊夢は知らない誰か。
「やあ」「暑いですね」「本当に暑い……」霊夢が生返事をしていると、男はそんな風に言葉を発した。言葉が失せ、男は汗を拭きながら、神社の脇、普段霊夢がよくいる縁側の方へと続く道を見ていた。じっと、黙り込んで、何かを心の内に抑え込んで、見ていた。
「あの。さっき来ていた子供、ですけど」
「知らない子よ」
「そうですか……」
 霊夢は嘘をついた。少女の母親のことや、その母親と霊夢の関係のことや、説明することが多くて、霊夢は面倒になったのだった。
「昔、ここに遊びに来たことがあるんです」
「ふうん、そう」
(……ここにいる、青い髪の、頭のおかしい女を眺めに。それから、山の実で釣って、ぼろのお堂に連れてゆくために。皆で囲い込んで……)
 男は言葉を飲み込んだ。自分にはそういうつもりがなかった、とでも言わんばかりだった。自分は別の仲間に誘われて。手伝わされて。それで。……男が黙っている間に、霊夢はどこかへ行ってしまった。何も、言わなかった。
 霊夢が立ち上がってどこかへ行ってしまうと、男はまた縁側へ行く道をちらり、と見て、それから一歩を踏み出し、考えを改めてきびすを返すと、石段を下りていった。十数年前、まだ幼い少年の頃、男はこの石段を登り、青娥のいる一室を探して、果物をちらつかせ、青娥を連れて、お堂へと行った。同じ階段を、下りてゆく。どこかにあの青い髪の娘がいる気がしていた。男は鼻歌を歌い始めた。歌うほど心地が良かった。次第に、鼻歌は大きくなり、声を上げて歌いだした。階段を下りていった先には、かつて交わした女との記憶があった。
 昼間の熱の残る夕闇の中を、かつての少年は神社の庭先へ歩み寄り、青娥を探した。蝋燭の明かりが庭には漏れていて、その明かりの中に、青娥は……頭のおかしい女は、座っていた。視線一つとっても、普通じゃあなかった。頭のおかしい女。誰に胸を見られても、触られても平気な女。人前でおしっこをするのも平気な女、股ぐらを覗かれても平気な女。抱き着かれれば、嬉しがり、キスをされれば嬉しがるけれど、一番好きなのは『好き』と囁かれることだった。好きと囁かれれば、好き、好きと喜び、囁き返すのだった。
 頭のおかしい女は、少年を見た。少年を見て、笑顔を見せた。少年はびっくりして、思わず持ってきた山の実を見せて、木いちごを一つ、女にくれてやった。女は喜んで口に運び、唇を汚しながら食べて、舌を出して唇を舐めた。いやに赤くて艶めかしい、木の肌を這うなめくじみたいに、いやにてらてら光って見えた。少年はまだあるその食べ物を、見せて、後ずさりに歩き始めた。女は立ち上がって追いかけてきた。少年たちの計画通りに、物事は進んで行った。神社を離れ、境内を出、石段を下りて……
 青娥は着物の袖をひらひら降りながら、遊びでもしているようについてきた。屈託なく、まるで子供の遊びのように、悪意など一切感じてはいなかった。二人の仲間のいるお堂へ、青娥は誘われて、戯れながら、歩いて行った。お堂の中へ連れ込むと、少年は戸惑った。本当にやってしまうのか、と気後れを感じた。仲間たちは青娥を囲んで、青娥の身体を触り始めた。そんなにしてしまっては泣き喚いたりするのではないか、と思ったけれど、青娥は自分の身体を触っている少年たちを見て、不思議そうにしているばかりで、さほど嫌がってはいなかった。
 自分よりも先に女を犯して上下している、仲間の尻ばかりが、いやに目について見えた。女は身体を揺すぶられながら、山ぶどうを食べているのでご機嫌だ。指も唇も、頬までも汚し、指を舐めている。歌を聴きながら、おやつを食べて、身体を揺すぶられて、ご機嫌で鼻をふんふん言わせている。抱いている仲間は、女の耳元で好きだ、好きだよと囁く。女はそう言われるのが嬉しいと知っているからだ。やがて仲間は精を女の中に放った。精を放つとき、仲間は身体を震わせた。女も、嬉しそうに喉を鳴らして、身体を震わせた。仲間が脇に退けたあと、女の中から、とろ、と白いものが溢れた。
 少年が女のものを見るのは初めてだった。グロテスクな、襞の集まりが、足の間で開かれて、少年が来るのを待っている。初めて見る女のそこは、美しくなんてなかった。女の華やかさとは全然違う、地面に出来た裂け目みたいにおどろおどろしく、いつそこに足を滑らせて落ちてしまっても、おかしくないように見えた。だけど、少年は仲間に怯えていると思われるのがいやで、下着を脱いで、女の中へと身体を進み入れた。
 女の中は熱かった。組み伏せる女の身体そのものも、熱の塊があるみたいに暖かかった。抱き着いて、仲間がやっていたみたいに、腰を振った。好き、と言う余裕もなかった。異常に興奮していて、何が何だか分からないまま、そのことが終わってからも、どこか現実離れしたことのように、そのことを感じていた。
 気付けば少年は子供ではなく、男になっていて、現実に立ち返り、昼間のお堂の中に立っていた。神社を離れたあと、古びたお堂へと来てしまっていた。お堂は既に朽ちて、壁板が残っているだけだった。屋根は完全になくなってしまっていて、木陰の向こうに太陽の光があった。
 あのあと、女はいなくなってしまった。お堂を出て、女を神社に帰し、家に帰って眠り、一年が過ぎたあと、子供ができた、と聞いて、少年は焦り、困ってしまった。だが、そのことが誰かに咎められる様子はなく、仲間たちも平然としていた。子供が生まれてすぐ、女はいなくなってしまった。それで、子供の父親が誰なのか、永遠に分からなくなってしまった。少年か、それとも仲間の誰かか、それとも、少年たちの他に、女を拐かしていた男たちもいたというから、その誰かかもしれない……。
 青娥が産んだ赤ん坊のことを、男が思わない日はなかった。狭い幻想郷のことながら、どうしてかその子供のことは、話にも上がらなかった。例え知ったとしても、名乗り出ることなどできるはずもない。青娥の面影のある娘。父親知らずの娘。そして母親は知っていても、どういった素性のある女か知らない娘。一人で、事情を抱えて、里で他人ばかりに囲まれて暮らす娘。
 ……男は名乗り出て娘の孤独を晴らしてやりたいと思いながらも、かつての罪のためにそうすることのできない情けない男なのだった。そもそも、本当に男の娘かどうか、分からないのだ。
 男は里へと帰っていった。里にはあの娘がいて、父親の顔も知らなければ、男のことも知らず、暮らしている。男もまた、里へと戻り、元の暮らしへと戻ってゆく


 男がどこへ行ったのか、誰も知らない。娘がどこへ行ったのか、誰も知らない。
そして、青娥と芳香がどこへ行ったのかも、誰も知らない。

 ただ、霊夢が持っていた簪……青娥の大切な簪、おかしくなってしまった、子供のような青娥が持っているには危ないからと、霊夢が預かっていた簪は、いつしか霊夢の元からなくなっていた。十数年の時の中、霊夢の管理が雑だから、単に無くしてしまったり捨ててしまったりした可能性も充分にある。
 だけど、霊夢はなんとなく、必要だから、必要としている者が持って行ったのだろう、と思えた。だから、青娥と芳香は、元気にやっているだろう、と、霊夢は思った。
 興味を持った方は久世光彦先生の『早く昔になればいい』を読んでみて下さい
RingGing
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