雨と埃だけ食って辛うじて生きる

 『実録・長編しか書けない人間が掌編を書いた』

2016/04/01 00:31:21
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企画概要
●300文字程度の掌編を1時間程度で書く。
●内容に制限はない。
●振り返らない。

 以上条件で書かれた作品の中から見るべき点があるものをピックアップし、作者コメントと共にお送りします。


 ◇◇◇
お題:あおりんご
8:12-8:24(12分/498文字)

 私は一般兵タイプのクローン玉兎だ。その中でも身のこなしの軽さと慎重さから狙撃手としてチューンナップされている。
 調査部隊『イーグルラヴィ』幼い玉兎の間ではエリートだとか月面戦力の象徴だとか言われている。年に数度地上に降りているが、未帰還の兵なんてほとんど居ない。私の前任者はスターリングラード攻防戦のどまんなかに放り込まれても傷一つ無くへらへらと笑いながら帰ってきて、そのまま私に仕事を引き継いで去っていった。
 当然だ。いくら人間が武器を持っているからって玉兎である私たちの技術や肉体に喰らいつけるはずがない。運動機能を拡張されたこの身には無数の人工筋肉が仕込まれている。チタンで置換された骨格を砕くことは戦車にだってできないだろう。
 『人間などおそるるに足らず、だからこれは遠足みたいなものだ。ほら、こないだ地上に降りてきた時に拾った徹甲榴弾だ。格好良いだろう』
 私の前任者はそう言っていた。そうだ、これは遠足みたいな任務で、KIAとなる兵など過去数千年を遡っても数名しか居ないのだ。だから隠さないといけない。
 怖いだなんて、怖くて震えが止まらないだなんて。
 エリートである私に限ってありえないことなのだから。




作者コメント
 玉兎には幾つかのモデルがあるように見えるけど、実は全部同じ方法で製造されていて品質テストで見るべき点のある個体を選別して専用チューンを施してるんだよ。


 ◇◇◇
即興二次小説投稿作品
お題:大人の小説合宿
制限時間:1時間
文字数:2023字

 ある時を境に清蘭が口を聞かなくなった。
 子供の頃からずっと一緒だった友人がそうなってしまったことに酷く落胆したが、いずれそうなることは分かっていた。嫌われた訳じゃない。食事を持ってくれば擦り寄ってくるし頭を撫でてやれば目を細める。それ以外どんな反応もしなくなっただけだ。いつものように団子のかすとよだれでべたべたの前掛けを拭いてやりながら私は思う。次は私の番だと。
 清蘭は地上に降りて三年で狂った。原因は地上の穢れ以外に考えられない。穢に満ちた大地では瞬く間に身が傷つき心が侵され、やがては擦り切れる。清蘭は精神が擦り切れる前に自ら狂うことを選んだ。
 穢れは狂気と良く似ている。だから鈴仙は月面でも冷遇されていたし、地上に降りても表面上は問題なく過ごせている。
 だから私は不思議に思っていた。
 どうして私は未だに狂ってないんだろう。どうして私は平然と生きていられるのだろう。
 セイランが狂ってからもう一年が過ぎている。地上の穢れはもう溜め込みすぎる位に溜め込み過ぎた。通常モデルの玉兎が生存可能なラインをはるかに超えることを着陸船に残ったのセンサーが何度も教えてくれた。
 事実として清蘭はそうなってまもなく精神を放棄した。
 だったら私は何を放棄したんだろう。私にその覚えはない。
 そうこう悩んでいる内に五年が過ぎた。
 私に変化はない。清蘭も変わらない。強いて言えばより可愛らしくなった。まるいほっぺを突くだけで半日は潰せるし、おむつを替えるのも慣れてしまえば大したことはない。
 悩んでいる内に十年が過ぎた。
 私に変化はない。清蘭は食事を吐き出すようになった。当面は僅かに残っていた栄養液を呑ませる。それが無くなったあとは消化の良いものを選んで食べさせた。
 悩んでいる内に二十年が過ぎた。
 私に変化はない。清蘭は長年の幼児退行の影響か自発呼吸がむずかしくなっていた。着陸船に残っていた生命維持装置を組み替えて呼吸補助装置を作ってやった。
 悩んでいる内に三十年が過ぎた。
 私に変化はない。清蘭はもうほとんど動かない。食事もうけつけなくなったので、胃袋に穴を明けて直接栄養液を流しいれることにした。
 そして地上に降りて四十年程が経った頃、清蘭はついに動かなくなった。何日も目を開けず身動き一つしない。ほんの僅かに残るぬくもりだけが清蘭の命を主張していた。
 十分過ぎるくらいに延命した方だろう。マチェーテを手に清蘭を見下ろす。実のところ最初からこうしろと言われていた。自分など足手まといになるから早々に食料にでもしてしまえと、冗談交じりに言ったあの日の清蘭は少し酔っていただろうか。
 しかし、約束を果たすのが遅くなってしまったと心で謝罪しそしてさようならと口でも呟いた。
 目をつぶりマチェーテを振り下ろすが、どうして私自身に激痛がある。不思議な事だと思い目を開ければそれは太腿に突き刺さっていた。まったくこれは付喪神かなにかだったのかと思い別のマチェーテを用意して振り下ろしたが、やっぱり自分の太腿に突き刺さった。
 全く不思議なことだと改めて思慮すればなんのことはない。私は私自身にマチェーテを振り下ろしていたのだと気がついた。
 はぁと溜息を吐いてマチェーテを構え直す。そして今度こそと喉元へめがけてそれを振り下ろした。
 鈍く光る切っ先はまっしぐらに喉元の薄皮を切り裂く。しかしそれは、気道を切り裂く前に止まった。
 「ぁ……、……、……、め゛ー……」
 言葉にならない声が耳元に届いていた。手元を見れば清蘭の手が私の手首に掛かっていた。
 マチェーテの切っ先は私の首筋から一筋の血を流すのがやっとと言った所で止まっていた。
 清蘭は笑っていた。まるで昔と同じように、面倒くさそうな、それでいて柔和な笑顔をみせていた。
 はっと息を呑み、そして清蘭を抱きしめた。たぶん私は産まれた時から狂っていたのだと思う。生きる目的が自分以外にある玉兎なんて私以外何処にも居ないだろう。私とセイランは二羽で一羽。産まれた時からそれがずっと前提で、ずっと一緒だったから気が付かなかった。私は私の幸せが清蘭の幸せと直結していたことにすら気がついてなかったのだ。
 だからセイランが死ぬ時が私が死ぬ時だ。二つは不可分で、狂っている私にはそれ以外の選択は無い。
 だけど、清蘭の手はそれが駄目だと言っていた。だからその行動の意味は私が一番良く分かっている。
 「悪かったよ清蘭。私ちゃんと生きるから」
 輝くような清蘭の笑顔が眩しくて仕方がなかった。

 そして翌日から私は『正常な兎』になった。
 私が狂うのは一年後だろうか、三年後だろうか。狂ってしまったらもう助けてくれる人は居ないけれど、それまでの間はずっと一緒だ。不安があるはずもなかった。
 だからそう思ったのはおそらく初めてだ。正常というのは存外に悪くないのだと。


 作者コメント
 鈴瑚と清蘭の胃袋連結手術 (19:17) http://nico.ms/sm27431369 #sm27431369 と言う東方史に残る神作品があるので見て下さい。



 ◇◇◇
お題:あおりんご
20:19-20:58(39分/1088文字)


 セイランとは長い付き合いだ。製造ロットは同じ、作業担当者が言うにカプセルも隣同士だったらしい。そんな私たちは当たり前のように同じ教育施設に入り、一緒に卒業し、同じ年に月の防衛部隊に入った。大学時代はよく一緒に遊びまわった。徹夜で街に繰り出したり、一緒にレポートを書いたり。あの頃は贔屓目なしに楽しかった。その時期と、軍に入ってから数ヶ月は少なくともそうだった。
 それがどうして、こうなったのだろう。
 今の私は調査部隊『イーグルラヴィ』の部隊長。情報管理が主で気苦労は耐えないが現場に出ることはない。穢れることも、死ぬこともなく、将来は幹部として依姫さまを支えることを期待されている。
 しかしセイランは。未だ現場任務。最も命を落とす事が多く穢れを徐々に貯めこむばかりに場末の部署。まともな戦果を一度でも上げれば別の部署に配属される研修みたいなものである。
 だけど、セイランは駄目だった。セイランは何度言っても、何年たっても現場から離れることはなかった。
 そして今も、頭を垂れたセイランは私の前に立っている。手元の報告書には、何度見たかもわからないセイランの不手際について綴られていた。
 「セイラン。潜入任務はいつから敵地のど真ん中で大立ち回りを繰り広げることになったんだ?」
 「それは……、去年入ったばかりの娘が捕まったので」
 「セイラン。何度言えば分かる。見捨てろ。どんな手を尽くしても。どんな犠牲を払おうとも、必ず自身が帰還すること。それだけがお前の任務だ」
 「でも、私は戻りました。あの娘も無事です」
 「お前とその娘を助けるために独断専行した部隊が全滅した」
 セイランはどんな任務でも必ず生きて帰ってくる。強いわけでもない。勇敢なわけでもなく、臆病な訳でもない。それでも生き残る。
 理由は簡単だ。セイランは皆に好かれている。セイランはいつも誰かを犠牲にして生き残ってしまう。正しく言えば、セイランが望む望まざるに関わらず誰かがセイランのために身を差し出す。
 このままではセイランの為に被害が増え続ける。上の者もセイランにはふしぎと甘い。あれを罰することができるのが誰であるかを、私は知っている。
 「セイラン。お前を地上任務にする。部隊構成員はお前だけだ」
 セイランは静かに俯いて、そして部屋を出た。
 地上任務。そこにおける穢れの蓄積は他の戦地の比ではない。一度地上に降りれば任務の成否に関わらず二度と月への帰還は叶わないだろう。その意味を、セイランが知らない筈がない。
 これで良かったのだ。これで良かったのだ。これ以上、被害を増やすわけには行かないのだからと、私は自分に言い聞かせるように何度も繰り返した。


 作者コメント
 鈴瑚と清蘭の胃袋連結手術 (19:17) http://nico.ms/sm27431369 #sm27431369 と言う東方史に残る神作品があるので見て下さい。



 ◇◇◇
即興二次小説投稿作品
お題:コーヒーと彼女
制限時間:1時間
文字数1276文字


 清蘭が血を吐いて倒れた。
 口に入れた団子と同じくらいに見飽きた光景に、鈴瑚は大きなため息を吐いた。
 馬鹿であることは時に幸福でもある。清蘭を見るたびに鈴瑚はそう思っている。地上に取り残されて早数ヶ月憧れの地上生活も手に入れてしまえばなんのことはない、月面での生活から安定と利便性を取ったそれと大差はなかった。予想外だったのは地上と月面の環境の違いだ。地上の兎はもちろんその他の生命が普通に利用しているモノ、口に入れているモノが玉兎に取っては猛毒であるといった事案が珍しくなかったのだ。最初こそ解析機やなけなしの知識を駆使して生活圏を広げようと苦心したが、あっという間に故障した機器類を前にそんなことは無駄なのだと悟った。それ以来鈴瑚は着陸船だったモノにこもっていて、恐れを知らない清蘭は外に出てはこうして倒れている。
 「森の中にはぐれ里をみつけたんだ」
 膝の上で力なく笑い清蘭はそう言った。くわしく聞けば偶然に見つけたはぐれ里の住人から珍しい飲み物を貰ったのだという。清蘭の指差す先には、言葉の通り真っ黒な色の液が揺れていた。
 どうして解析してもないものを飲んだのか。そう問い詰めると清蘭は実にばつの悪そうな顔で美味しそうだったから、などとのたまった。鈴瑚は心底と呆れその広い額をかるく小突いた。ごめんごめんなどと力なく笑う清蘭に丸薬を呑ませてやる。多少は楽になったのか、しばしの後に寝息を立て始めた清蘭の顔を前に鈴瑚は思案した。
 こいつは昔からこうだっただろうか。清蘭は確かに馬鹿で無鉄砲だ。任務を忘れて餅つきに耽る、道に迷って捜索隊のお世話になるだとかそんなのは日常茶飯事であった。だけど、命に掛かる事々の見極めだけは本物だったはずだ。
 食料が無いわけではなく、着陸船には軍用のレーション団子が向こう数十年分残されている。かつて月面に侵攻してきた米国の海兵隊すらも食べないと評判のそれだが、栄養価と腹持ちだけは折り紙つきだ。
 清蘭の食い意地が特別張っていると言う訳でもない。むしろ馬鹿舌で小食だ。レーションの団子など私の三分の一も食べない。
 他に考えられる可能性は多くない。特に有力なのは、清蘭の穢れはとっくに限界を超えていて頭がおかしくなり始めているという線だ。しかしそれは恐ろしい考えだった。穢れから見を守ることはできても、穢れてしまったものを浄化することは難しい。特に、こんな穢れだらけの地上では不可能に近いだろう。そうだとしたら清蘭は、
 「あんまり無茶するなよ。一人になったら寂しいじゃないか……」
 急な不安に襲われた鈴瑚はそう呟いて、静かな寝息を立てる清蘭の額に手を置いた。 
 「鈴瑚があんまりにもつまらなそうだったから」
 まだ眠っていなかったのかそれとも目をさましたのか、浅い息をしながら清蘭はそう言った。そんな様子に鈴瑚は数分ほど静止し、それからもう一度額を小突いてやった。
 テーブルの上に揺れる液は地獄のように黒く死のように濃い。恋のように甘い香りを湛えたそれは、たしかに美味しそうだと鈴瑚は思った。


 作者コメント
 鈴瑚と清蘭の胃袋連結手術 (19:17) http://nico.ms/sm27431369 #sm27431369 と言う東方史に残る神作品があるので見て下さい。




 ◇◇◇
任意お題:地霊殿
(1時間くらい/1176文字)


 「さとりさま、お茶をお持ちしましたよ」
 「悪いわね、お燐」

 「ところでさとりさま。お仕事の調子はどうですか?」
 「え、ええ。もちろん順調よ」

 「そういえばさとりさま、結果出てましたよ」
 「あら。そうだったかしら」


 もう何度繰り返したのかも覚えていないいつも通りのやり取りを終えてあたいは自室に戻ってきた。薄暗くて殺風景な部屋に身を投げ出し、一息を吐いて、そして天井を見上げる。そこまでがあたいの日課で、あたいと私を切り替える一つの儀式みたいなものだ。この先に居るのはあたいとは違う私だ。だからあたいは何も気に病む必要なんて無い。そうあたいへ語りかける時間だ。
 意を決してモニタの電源を入れ通信用のアプリケーションを立ち上げる。ジリジリという機械音の後に堅苦しい声が戻ってきた。
 「いつもごくろうさま、お燐」
 「こんばんわ、映姫さま。今日の診察結果をお送りします」
 「頼めるかしら」
 画面上の砂時計が幾度か動いて、そしてわざとらしく唸る声が届き始める。
 「困ったものね全く。こちらはいつも人手不足だと言うのに」
 「全くその通りです。一刻も早く元気になられるように我々職員一同全力を尽くしますのでどうかもう暫くの辛抱を」
 「お願いね。さとりは私の大切な友だちなんだから」
 この心臓の音は電話口に届いてないだろうか。そんな心配をしていたら通話は終わっていた。
 心を読める奴なんてどこにも居ないから、映姫さまが何を考えているのか私にはわからない。だけどあの人に私の嘘が伝わっていないはずがない。
 手元にある診断結果の原本はあらゆる項目が古明地さとりの正常を示している。以前ほど積極的に心を読むような素振りを見せなくなっていることにも気がついている。
 だけど私はそれを報告していない。映姫様には差し替えた診断結果を渡している。最初はすぐにバレると思った。真面目な方だから、すぐにバレて怒られてそれで終わって心の整理もできると思った。
 そう思ったから私は嘘を吐いたんだ。だけど、そうはならなかった。
 映姫様は何も言わなかった。いつも通り「困ったものね」と溜息を吐いて、それで終わってしまった。だから、私は戻れなくなった。
 だけど私さえ黙っていれば全ては丸く収まるんだ。この正常な診断書を指して異常だと言い続けるだけで、あたい達は昨日までと同じようにさとりさまと楽しく笑って仕事ができる。何日も食事あり付けず、やっと見つけた一欠片の腐肉を巡って殺しあう生活に戻らなくても良いし、鋭い爪や牙に怯えて浅い眠りに着く毎日を送らなくて良くなるんだ。
 お空の作る大雑把な味付けの食事に文句を言って、毎日風呂に入れとさとり様に追い回されて、最近産まれた狼の子供たちとあったかいお布団で眠るだけの当たり前の毎日を送ることができるんだ。
 そんな当たり前を望んで、なにが悪い。
 私は何も悪くない。だから、あたいも悩まなくて良いんだ。


 作者コメント
 代理ミュンヒハウゼン症候群さと映姫前提サナトリウム地霊殿臨時職員お燐と言うパワーワードが舞い降りました。掌編で書くのは無理がありました。
 ギリギリ家族ごっこ地霊殿はちゃんと書けば面白いので誰か書いて下さい。



 ◇◇◇
任意お題:地霊殿
ランダムお題:なし
21:44-22:47(63分/799文字)


 寝ても覚めても耳鳴りが止まない。
 こんなふうになってしまったのは何時からだっただろうか。少なくとも週に一日の休みが消失する前はこんなふうではなかった。
 六十年周期で発生する霊魂の大量流入。それに対処するために特別体制を撮り始めたのが、二年前。おそらくそれは上層部としても予想通りだったのだろう。違ったのはまるでそれが終わる気配を見せないこと。地上での戦闘は激しさを増し、今や戦場は世界全体へと広がっているらしい。おかげで出ずっぱりの死神はもちろん閻魔までもが次々と脱落を始めている状況だ。今残っている人員は全盛期の六割り程度であり休日など遠い夢と成り果てた。
 「全く情けない。閻魔たるものあらゆる魂の規範とならねばならない。そうでなければ輪廻からの解法などどうして導けましょうか」
 そうね。目の前にいる同僚――四季映姫――に相槌を打つ。彼女が指差すのは中央裁判所へ続く廊下で眠りこける閻魔の姿。たしかあれ元十王である泰山王派の擁立した『閻魔王候補』だっただろうか。かなりのエリートだったはずだが、こんな状況下では何の役にも立たなかったようだ。あの姿が他の候補に見つかれば終わりだろう。
 「ねぇ、さとり。あなただけはあんなふうになっちゃ駄目よ。私と一緒に十王を目指すんでしょう?」
 ええもちろんよ。ただ少しだけ疲れたからあそこのベンチで休憩していかない?
 「だめよさとり。裁判を待っている魂がたくさんいるの。休んでいる暇なんて一秒もないわ」
 そうだったよね、ごめん映姫。ほらはやく行こう。そう言って歩き出したは良いものの裁判所の扉はいつまでたっても近くならない。
 「ほらはやくはやく」
 はやく。はやく。はやく。はやく。はやく。心で幾ら繰り返せど、扉は近づかないし映姫はとなりで笑うだけだ。最後にぐんにゃりと曲がった扉と、そして遠くから駆け寄ってきた同僚の姿を見てようやく気がついた。
 私はもう、だめになってしまったのだ。


 作者コメント
 代理ミュンヒハウゼン症候群さと映姫前提サナトリウム地霊殿で家族ごっこ百合やるなら代理ミュンヒハウゼン症候群要素を抜いた方が味が出ると思いました。
 ギリギリ家族ごっこ地霊殿はちゃんと書けば面白いので誰か書いて下さい。




 ◇◇◇
お題:月面
ランダムお題:なし
文字数:1029文字


 最近の月面にはまことしやかに流れる噂がある。
 新興企業『セブラルジャンパーズ』が新型の労働力を発明した。それはもはやウサギですらなく自立して稼働する概念なのだそうだ。『人造神格<>』と私たちのチャットシステム『玉兎通信』ではそう呼ばれている。
 しかし所詮はおしゃべり好きの玉兎が無責任に流した情報で溢れた場所。誰もそんなものは噂にすぎないと思っていた。
 確かに昨日まではそう思っていたのだ。少なくとも私はそうだし、同じ隊の皆もそうだっただろう。全てを変えてしまったのは数分前に入った一つの通信だ。何重にも暗号化された秘密回線で送られてきたメールには拍子抜けするくらいの短文が記されていた。
 『海兵隊指揮官・稀神サグメ。人造神格<>部隊を率いて謀反。現在王宮へ向けて進軍中、至急出撃されたし』


 稀神サグメを知らない玉兎は居ない。
 なぜなら稀神サグメは私たちが初めて目にする人型の生き物だからだ。私たち玉兎は一山幾らの量産品として各社メーカーの管理する製造工場の培養槽で作られる。私たちは徹底的に無人化された製造ラインで、培養の開始から出荷まで誰の目にも触れることなく育ち、納品された軍の訓練所でサグメ様に出会うのだ。
 私たち玉兎はそこで初めて月人に触れ、初めて月人の暖かさを知り、みんなサグメ様のことが大好きになって、そしてみんな月人が大好きになるのだ。まぁ、正式配属されるとだんだん嫌いな月人(例えば八意ダブルエックス様とか)も出てくるんだけどそれは置いておく。
 少なくとも、サグメ様を嫌いな玉兎なんて居ない。サグメ様はみんなの上官であり、家族であり、お母さんなのだ。サグメ様を守るために私たちは厳しい訓練を耐えて、無茶な作戦に身を投じて、そして命を捧げると誓っているのだ。
 断じて、サグメ様を害するためなんかじゃない。
 こんな作戦はボイコットだ。何かの間違いに決まっている。同じ隊の仲間から帰ってきたのはある種予想通りの反応だったけれど、かと言ってそんなことが許されるはずもない。私のもとにはもう何隊分もの『粛清』報告が上がってきている。分隊長として、ボイコットという選択肢もまた、選ぶことはできなかった。
 『全員武装の上出撃せよ。違反の場合敵前逃亡とみなし、この場で射殺する』
 そう打電し、私『0100号』は短機関銃を手に取った。今日の私は敵を倒すためではない。仲間を殺すために銃を握るのだ。
 いつもよりずっと軽い手応えが、残酷にもそう告げていた。


 作者コメント
 中二病も二周目に入ると息を吐くように造語を作り出せるようになります。
 じゃけん中二病、拗らせましょうね。

 あまりにも原稿が進まなかったので合間で現実逃避をしていました。
 最近は進捗が比較的マトモになったこともあり放置してましたが、ネタ出しとしては非常に優秀なのでこれからもコンスタントに書いていきたいと思います。
 あと、鈴瑚と清蘭の胃袋連結手術 (19:17) http://nico.ms/sm27431369 #sm27431369 と言う東方史に残る神作品があるので見て下さい。
肥溜め落ち太郎
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コメント



0.4410030簡易評価
2.14無名の卍解削除
この作者さんはもしや、鈴瑚と清蘭の胃袋連結手術 (19:17) http://nico.ms/sm27431369 #sm27431369 と言う東方史に残る神作品を観たことがある方なのではなかろうか。随所にその影響らしきものがみられるような気がしないでもないのだけどよく解らない
3.無評価肥溜め落ち太郎削除
この作品を読んで私が鈴瑚と清蘭の胃袋連結手術 (19:17) http://nico.ms/sm27431369 #sm27431369 と言う東方史に残る神作品を観たことがあると気がつかれると言うことは、もしやあなたは鈴瑚と清蘭の胃袋連結手術 (19:17) http://nico.ms/sm27431369 #sm27431369 と言う東方史に残る神作品を観たことがあるのではないでしょうか?
4.14無名の卍解削除
あおりんごがあおりんごすぎてマジあおりんご