メモ
後ろで大きな爆発音がした。私は驚いて振り返った。
翻訳風
そのとき、あらゆるものは憤然たる爆発に押し沈められ、男の口から漏れ出た悲鳴もそれに倣った。
そうしてから彼は、なにか身内にあやしく揺らめく火のようなものがあり、それが抗いがたい好奇の念へと移り変わったことを知った。彼の体はもはや、彼自身の意志から離れ、ただ成すべきことに向かっていた。
霊夢
「あー?」
青段氏
皮氏
初めに夜が裏返り、次に果てしなく引き伸びる空気の擦過音が、瞬時ごとに穴から這い出る悲鳴のように高まった。
巨大な黒瑪瑙の断面を映していた空は恐ろしく巨大な亀裂を走らせ、中を満たしていた濃い橙色の揺らめく影に覆われる。
爆風が髪をなぶるに任せた彼女の双眼は逆行する世界の不可思議な色彩に捉われ、振り返ることなく立ち尽くしていた。
Cabernet氏
緩衝材氏
『後ろで爆発音がしても振り返らない! 私、マエリベリー・ハーン!』
私、マエリベリー・ハーン! 残機はあと2つ!
振り返らなかった結果がこれよ!
隣に居るのは、相棒の宇佐見・美少女・蓮子。
美少女だからトイレにだって行かないわ。すごいでしょ!
「メリー、ちょっとおトイレ行ってくるね」
……フェイントよ!
美少女だって体内でお茶やチョコレートを生成する生き物なの。常識でしょ!
まあ立ち話もなんだからここに座りましょうよ。お茶でも飲んで……お話でもしましょう……。
あ、そのお茶、お砂糖はもう入ってるから。
火男氏
闇が身を捩る。白光の苛烈な煌めきが指向性を伴わずに散り乱れ、女は咄嗟に瞼の裏側に籠った。
視界の断絶の間に、空間の歪む鳴りは止むどころか弥増さり、彼女の耳朶を揺さぶり続けた。
喘ぐ唇が薄く開き、口蓋に溜まった不穏の弾みは剥きだした門歯の隙間をシュウシュウと縫っていた。
あめの氏
ぽおんと空気の破裂する音が、立ち昇る白煙と共に、山の木々に縁取られた茜色の空へ吸い寄せられていった。
栗に切れ目を入れていた妹紅は短刀を置いた。椛はその刃に、自分たちが囲む炎が映り込んでいるのを見た。火が揺らめくたびに刃はきらめき、短刀が呼吸しているように思えた。
妹紅はたき火から底に栗の敷かれた古い手鍋を取り上げ、乗せていた盾を椛に差し出した。
「ありがとう、助かったよ。蓋を忘れていたから」
「別にいい。それより、早く帰ってくれ。いつまでもお前に構っていられるほど、我々は暇ではない」
椛の険しい目つきを前にして、妹紅は臆することなく再び座り込んだ。
「天狗はどうもせっかちでいけない。分けてやるから一緒に食べようじゃないか」
「今食べなくてもいいだろう」
「味を見てから持ち帰ることにしてるんだ」
妹紅が一人で食べ始めたので、椛は仕方なく傍に寄り、縦に割れ目の入った栗をつまんだ。濃い黄色をした身はほくほくしていて柔らかく、口の中でほろりと崩れた。
「よく焼けてるだろう?」
「ああ、いい塩梅だ」
「今日はなかなかの土産ができるよ」
妹紅の輪郭が穏やかな丸みを帯びていくのを、椛は横目で認めた。それは栗の熱っぽい甘みによるものでなく、瞼の裏を通じて誰かを見ているからなのだろう。
椛は栗をまた一つ手に取った。確かめるように味わったが、なんだか妹紅の栗の方がうまそうに思えた。
真下氏
小さなナイフで優しく裂くような声が背中に当たる。
こいしのささやきが私の内を夢のように巡り、最後に心の暗い底にたどり着くと、爆ぜたようにいっぺんに膨らんだ。まるで風に吹かれる種子が芽吹きの地にようやく降り立ち、ただ一つの蕾となって今まさに開花の時を迎えたように。
振り返ったとき、あいつの姿はどこにも見当たらず、箒の手ごたえは味気ないほど軽くなっていた。ただ、微かな薔薇の匂いが名残のように漂っている。あの薔薇色を唇に灯した小さな蕾は、開花と同時に失われた。
突然、記憶の片隅にあった遠い異国の話を思い出した。死の淵にあり、最後に「薔薇の蕾」と言い残してこの世を去った男の話。それは彼が幼少時代に遊んだソリの名で、生涯の底に埋もれた夢の残骸だった。彼が縋ったものは、子どもの頃に残した幸福の象徴だったのだろうか?
私はあいつを置いていく。きらめく夜空の夢に照らされた、こちらの思惑を見透かすような微笑みをもう見ることもできない。だけど物語の彼のように、それが私の果てであろうと、いつか再び少女時代の花開く音を思い出すときが来るかもしれない。
もしもそんなときを迎えられたら。愛らしく生意気なお前の名を、私は恋焦がれるように呼ぶだろう。
ナイスガッツ寅造氏
いい爆発音でしょう。余裕の残響だ、火薬が違いますよ。
クリケット専用スタジアム『どら焼きドラマチックパーク』の関係者各位がそのように考えたかは定かではないが、およそ紅魔館1個分の面積を誇るここで…これは現在の価値に換算しておよそ紅魔館1個分の面積に当たるのだが、とにかくこの広大な会場の一角で盛大な爆発が起こった。
尾を引く炸裂音が一帯に響く中、射命丸文と犬走椛の解説実況が負けじと声を張り上げる。
「でたーッ! 9回表のこの土壇場でついに、ついにッ、ピッチャー・フランドールの切り札が切られたァーー!! いやーやはり奥の手を出してきましたねェ、椛さん」
「ええ、フランドール選手の決め球キラークイーンですね。破壊の目をわずかに弄り、爆弾と化したボールでバッティングの衝撃と同時に打者を葬るという、残虐行為手当必至、なさけむようの魔球です。これは乱闘待ったなしですね」
「ヨッシャオルルァアーーー!!!! 乱闘だ乱闘だ! 君と殴り合う時間だコラー! ちょっと酒持ってきて酒!」
「近頃じゃ私、これだけが楽しみですよ」
乱闘が始まるとわかった途端、この瞬間を待っていたんだ! と言わんばかりに瞳を輝かせ、血と暴力に舌舐めずりをし出す文と椛の様子は、妖怪の地が大いに露出している。
一方、爆発を引き起こしたフランドールは、粉塵の舞うバッターボックスに背を向け、高らかに勝ちどきをあげた。
「フフン、ワラキア投球術は最強のシステム! ってお姉様が言ってた!」
「ところがどっこい!」
「なッ!?」
勝利の余韻を堪能してる中、突然冷や水を浴びせられ、フランドールは振り返った。
そこには爆発で巻き上げられた土埃にまみれながらも、不敵にバッターボックスにたたずむ火焔猫燐の姿があった。
「残念だったなぁ…トリックだよ」
「ゲエーッ!? そんな、私のキラークイーンが仕留め損ねるなんて…これじゃあ今夜は熟睡できないよ…」
「ハッ、どうやったか教えてほしいかい? お前さんの物騒な魔球には致命的な穴があるのさ」
「穴!」
そのどこか蠱惑的な響きにフランドールは胸の高鳴りを覚える。思春期だからね。
「そう、それはバットに当たらなければどうということはないッ! ということ! フフフ、ところであたいの見逃したボールが一体どこに行くか…わかるよなァ?」
「ま、まさか!」
燐が視線で促した先を、フランドールも目で追う。
粉塵がようやく静まったバッターボックスの奥、そこにパチュリーは倒れていた。
爆心地と化したパチュリーはまさに動かない大正捕手。はははこやつめ、などと笑いをかます余裕はフランドールには一切なく、怒りのみがその体に満ちていく。
「やってくれたわね! よくも、よくもパチュリーを!」
「いや、やったのはそっちだから」
「言葉は不要! キャッチャーがいなくなった今、私のボールは行き場を求めて唸りをあげるの! 潔く食らって四散して!」
フランドールの無茶なオーダーに、当然頷く燐ではない。
先ほどから切れそうで切れない、でもちょっと切れていた両者の闘いの火蓋は、今ようやく完膚無きまでに切られたのだった。
3氏
もうすぐ、後ろで大きな爆発音がしますよ。だけど、あなたは決して振り返ることなどできないのです。
まあ、落ち着いて聞いてください。あなたが知るべきことを教えて差し上げましょう。つまり、私に関わるこの呪わしき事態についてです。
いいですか。私はもう何度も奴らに痛めつけられているのです。
奴らには良心というものがありません。私に乱暴をはたらき、その様を眺めて笑いものにしてるのです。
特に木端微塵に吹き飛ばすような派手なやり方を好んでいて、その度に私は生死の境をさまよい、ぼろぼろになりながらも何とか生きてきました。
ですが、もう我慢なりません。奴らに私を好き勝手にする権利が一体どこにあると言うのですか?
私は奴らにわからせてやりたい。殴れば、殴り返されることを教えたい。報いという言葉の正体を指し示してやりたいのです。
こう考えるのは身勝手でしょうか。忍耐と寛容の意味を、私こそ知るべきだと思いますか?
それともここまでの話を聞いて、私の身の上を哀れに思ってくれますか? 奴らこそが許されざる者たちだと?
ああ、ありがとうございます。もちろん、信じておりました。
あなたはまことの良心の持ち主です。
素晴らしい人格者、理性の灯りに縁取られた影、正しい怒りをふるえる正義のお方だ。
そんなあなただからこそ、奴らを打ち倒すことができるのです。どうか、お願いします。あなたの力をお貸しください。
いえ、いえ、何も難しいことを求めるつもりはありません。
ただ、私のもとへ来てくださればいいのです。本当にそれだけですよ。あなただって、少なからず興味がおありのはずでしょう?
こちらに来てください。そう、こちらへ。奴らに天罰をくだす時だ。そのためにあなたが必要なのです。
もちろん、あなたはここのルールについてご存知でしょうね。ですが、心配は無用です。相互の同意があれば、自然と道は開けるのです。
今、あなたの意識はここにある。こうしてお話できていることがその証拠です。
思い出しましたか?
私の話を聞くことができる限り、あなたは確かにここにいるのですよ。
そのうち、奴らはまた私を爆発させるでしょう。それは避け得ぬ悲劇なのです。
何故そう断言できるのか、ですって?
ハハハ、ご冗談を。爆発が最後に必ず訪れることを、あなたはよくご存知のはずだ。
ですが、今回は違います。こうして私の中に、あなたをお招きできたのです。
奴らの内の一人であるあなたをね。
おわかりですか? 無自覚なあなたの優しさは、あなた自身をここまで運んだのですよ。
そして、奴らは思い知ることになるでしょう。自分たちの爆発が、時にはわが身に届くかもしれないということを!
そのためにあなたが必要だった。
ねえ、喜んでください。あなたの犠牲が、私の虐げられる日々を終わらせるきっかけになるのです!
初めに言いましたね。
もうすぐ、後ろで大きな爆発音がします。だけど、あなたは決して振り返ることなどできやしない。
私の中に閉じられていることを、あなたはもう知っているのですから! 私と共に無残に散らばり、悲惨の描写を奴らの胸に刻みつけてやりましょう!
なんですって? お前は一体誰なんだ?
おや失礼、申し遅れました。
私は紅魔館。幾度となく寄こされてきた爆発を、あなたにお返しするものです。
むーと氏
突然、館内に爆発音が響き渡り、パチュリーは手元の本から顔をあげた。
「なにかしら?ひょっとしてフランが……」
「あなたもそう思う?パチェ。これはおそらくあの子の、フランの……」
パチュリーの危惧に対して、その隣の席で微塵も慌てる様子を見せずに答えるレミリア。
会話をすれば一分間に七回はフランドールの名を口にするとメイド妖精たちに噂されている――真実はその倍を超える――大変に残念な親友だが、今はいつになく真剣な眼差しを見せている。
その真面目な表情に、またレミィがフランに度しがたい愛情表現でもしたのか、というパチュリーの中にあった疑いはほんの少しだけ、小人の爪の先ほど消えた。
(信じても……信じてもいいのね、レミィ……)
パチュリーの切なる願いに呼応するように、レミリアは静かに頷き、重々しい口調で言った。
「フランの可愛らしさが過ぎるあまり、ついに爆発を引き起こしたんじゃないかしら。この前もこっそりフランの使ってる枕を抱きしめたら、全身があの子に包まれた気分になって胸の動悸が止まらなくて心臓が爆発したかと思ったし。ねえ、パチェはどう思う?」
「どうかと思うわ、あなたが」
さとうとしお氏
どうも少し前から、耳鳴りのようなものに悩まされている。時折、とても小さい独楽が回転しているような奇妙な唸りが聞こえてくるというものだ。それも耳にするたびに、その唸りは大きくなり、まるで音源がこちらに近づいてくるような気分になる。
まあ、どうせすぐに止むのだし、あまり心配しても仕方ない。続くようならそのうち医者に診せればいいのだから。
私は気を取り直し、幻想郷縁起の編纂のため、先日に記した資料の一枚に目を通した。
『巫女が暴れまわって八面六臂の働きで月の都を救った、先の異変の関係者において、博麗の第一の餌食となった月の兎と直接話をする機会に恵まれた(※1)。
ここに覚書として、月の兎である清蘭氏のあれやこれやあることないこと(※2)を記す。
・外見について
頭部から生えた大きな兎耳を除けば、一般的な少女の姿形をしている。しかし地上の妖怪兎と違って、その耳には黄色い装飾具らしきものがついている。これについてたずねると次の回答が得られた。
「これ? 遠くにいる部隊の皆と頭の中で話すときに必要なの。今はもう通じないけどね。ああ、早く月に帰りたい」
どうやら仲間と離れた彼女は、寂しさのあまりに少々混乱しているようだ(※3)。
・能力について
彼女は異次元から弾丸を飛ばすことができるそうだ。異次元とは一体何か。本人の弁によるとそれは現世の外側のことらしい。
「こちらからは触れることもできないところよ。わかる、地上人? あんたの背後、足元、頭の裏側、そういう場所を指すの」
異次元の弾丸はこちらからは干渉できず、そのくせ弾丸側は相手を打ち抜くという。何とも疑わしい話だ。
実際に弾丸の飛ばすところを見せてほしいというこちらの求めに(※4)、彼女は突然右手を親指と人差し指のみ伸ばした形にしてこちらに向けた。
しかし、その手は一瞬震えたかと思うと、後はなにも変わらず、本人もそれで終わりだと言うではないか。
「あんたがやれって言ったからやってあげたわー。感謝してよね。わかりやすいようにゆっくり飛ばしてあげたから」
やはり彼女の能力とやらは、信用性に欠けるものがある。おそらく、こちらが確かめられないのを良いことに好き勝手に言ってるのだろう。
以上の結論に至り、清蘭氏に関する記述はもう十分だと言えるだろう。
最後に彼女は私の胡乱な目つきを察したようで、頼りない逃げ口上を残して(※6)こそこそと去っていった。
※1 迷いの竹林の入口付近をぐるぐる回っているとの報せがあったので赴いたところ、まだやっていた。妖精か?
※2 幻想郷縁起の資料にするため、そして私が書の編纂をする身であることを若干の誇張を含めて説明した。
※3 部隊とは彼女の想像上の存在ではないだろうか。頭の中って。
※4 丁重にお願いしたにも関わらず、彼女は渋々といった様子で、月の兎はずいぶん無教養のようだ。
※5 曰く、「生意気な目ね、地上人。だけど、あんたのご立派な頭は私の力を嫌でも思い知ることになるわ。必ずね」だそうだ。 』
後ろで大きな爆発音がした。私は驚いて振り返った。
翻訳風
そのとき、あらゆるものは憤然たる爆発に押し沈められ、男の口から漏れ出た悲鳴もそれに倣った。
そうしてから彼は、なにか身内にあやしく揺らめく火のようなものがあり、それが抗いがたい好奇の念へと移り変わったことを知った。彼の体はもはや、彼自身の意志から離れ、ただ成すべきことに向かっていた。
霊夢
「あー?」
青段氏
「おや、爆発するぞ」
藍さんのその言葉が聞こえるや否や、僕は大音量の波にさらわれた。
霞む空に若葉がぱらぱら飛び散っているのが見える。
「君、大丈夫かい?」
「はい」
「そうは見えないな」
藍さんの横顔から覗く瞳の輝きに、僕は居心地の悪さを感じ出した。
「今の音は何です?」
「ああ実はね、私の尻尾が爆発した音なんだ。左端のやつがね」
「はは、上手いですね」
笑って、藍さんの冗談を褒めた。
意外に思えるけど、藍さんは機会をうかがっては面白おかしくとぼけるよう努めてる。
「うん、ありがとう。でも今言ったことは本当なんだ」
「え、そうなんですか」
「生え替わりの時期はいつもこうだよ」
藍さんのため息が聞こえた。
尻尾がこんなに多いから特に大変なんだろう。
「それで、一つ言っておきたいんだけど」
「何でしょう」
「次は君の番なんだ」
僕の番。
そう考えた途端、なんだか体がむくむく伸びていくのがわかった。
藍さんのその言葉が聞こえるや否や、僕は大音量の波にさらわれた。
霞む空に若葉がぱらぱら飛び散っているのが見える。
「君、大丈夫かい?」
「はい」
「そうは見えないな」
藍さんの横顔から覗く瞳の輝きに、僕は居心地の悪さを感じ出した。
「今の音は何です?」
「ああ実はね、私の尻尾が爆発した音なんだ。左端のやつがね」
「はは、上手いですね」
笑って、藍さんの冗談を褒めた。
意外に思えるけど、藍さんは機会をうかがっては面白おかしくとぼけるよう努めてる。
「うん、ありがとう。でも今言ったことは本当なんだ」
「え、そうなんですか」
「生え替わりの時期はいつもこうだよ」
藍さんのため息が聞こえた。
尻尾がこんなに多いから特に大変なんだろう。
「それで、一つ言っておきたいんだけど」
「何でしょう」
「次は君の番なんだ」
僕の番。
そう考えた途端、なんだか体がむくむく伸びていくのがわかった。
皮氏
初めに夜が裏返り、次に果てしなく引き伸びる空気の擦過音が、瞬時ごとに穴から這い出る悲鳴のように高まった。
巨大な黒瑪瑙の断面を映していた空は恐ろしく巨大な亀裂を走らせ、中を満たしていた濃い橙色の揺らめく影に覆われる。
爆風が髪をなぶるに任せた彼女の双眼は逆行する世界の不可思議な色彩に捉われ、振り返ることなく立ち尽くしていた。
Cabernet氏
宙を彷徨っていたナイトの動きが止まったので、ドレミーは顔をあげた。「うるさかったですか」
サグメは書斎の一面にある背の高い窓を眺めていた。窓には無数の雨粒が打ち付け、筋を残しては消えていく。あちらこちらに散らばる雨音は、時折一斉に重なって室内を通り過ぎていった。
「うるさくはないわ」サグメは視線をチェス盤に戻した。「不思議だと思っていただけ」
手番がいくらか進んでから、獏は訊ねた。
「雨がですか」
「そう、雨が――雨音が」
「気になるようなら止めて、晴れにでもしますけど」
「違うちがう」サグメは困った調子で云った。「水音はささやきのようなものなのに、こうなると燃えているみたいで……」
サグメは再び、窓の向こう側に耳を傾けた。潤いの音が何重にも合わさり、大挙して胸に迫るようだった。
「滴が破裂すると、こんなにも大きな音になるのね」
ドレミーは尻尾を一振りして、相手のクイーンの動向を見守った。それから対面のサグメと視線を交わした。形の整った眉が微かに震えているように思えた。
「あの、……止めましょうか?」
「このままで好いわ」サグメは愉快そうに目を丸くした。「〝不思議だと思っていただけ〟ってさっき云ったじゃない」
ドレミーは曖昧に唇を曲げた。手持ちの表情の乏しさを露呈している気がして、ひどく落ち着かなかった。
サグメは書斎の一面にある背の高い窓を眺めていた。窓には無数の雨粒が打ち付け、筋を残しては消えていく。あちらこちらに散らばる雨音は、時折一斉に重なって室内を通り過ぎていった。
「うるさくはないわ」サグメは視線をチェス盤に戻した。「不思議だと思っていただけ」
手番がいくらか進んでから、獏は訊ねた。
「雨がですか」
「そう、雨が――雨音が」
「気になるようなら止めて、晴れにでもしますけど」
「違うちがう」サグメは困った調子で云った。「水音はささやきのようなものなのに、こうなると燃えているみたいで……」
サグメは再び、窓の向こう側に耳を傾けた。潤いの音が何重にも合わさり、大挙して胸に迫るようだった。
「滴が破裂すると、こんなにも大きな音になるのね」
ドレミーは尻尾を一振りして、相手のクイーンの動向を見守った。それから対面のサグメと視線を交わした。形の整った眉が微かに震えているように思えた。
「あの、……止めましょうか?」
「このままで好いわ」サグメは愉快そうに目を丸くした。「〝不思議だと思っていただけ〟ってさっき云ったじゃない」
ドレミーは曖昧に唇を曲げた。手持ちの表情の乏しさを露呈している気がして、ひどく落ち着かなかった。
緩衝材氏
『後ろで爆発音がしても振り返らない! 私、マエリベリー・ハーン!』
私、マエリベリー・ハーン! 残機はあと2つ!
振り返らなかった結果がこれよ!
隣に居るのは、相棒の宇佐見・美少女・蓮子。
美少女だからトイレにだって行かないわ。すごいでしょ!
「メリー、ちょっとおトイレ行ってくるね」
……フェイントよ!
美少女だって体内でお茶やチョコレートを生成する生き物なの。常識でしょ!
まあ立ち話もなんだからここに座りましょうよ。お茶でも飲んで……お話でもしましょう……。
あ、そのお茶、お砂糖はもう入ってるから。
火男氏
闇が身を捩る。白光の苛烈な煌めきが指向性を伴わずに散り乱れ、女は咄嗟に瞼の裏側に籠った。
視界の断絶の間に、空間の歪む鳴りは止むどころか弥増さり、彼女の耳朶を揺さぶり続けた。
喘ぐ唇が薄く開き、口蓋に溜まった不穏の弾みは剥きだした門歯の隙間をシュウシュウと縫っていた。
あめの氏
ぽおんと空気の破裂する音が、立ち昇る白煙と共に、山の木々に縁取られた茜色の空へ吸い寄せられていった。
栗に切れ目を入れていた妹紅は短刀を置いた。椛はその刃に、自分たちが囲む炎が映り込んでいるのを見た。火が揺らめくたびに刃はきらめき、短刀が呼吸しているように思えた。
妹紅はたき火から底に栗の敷かれた古い手鍋を取り上げ、乗せていた盾を椛に差し出した。
「ありがとう、助かったよ。蓋を忘れていたから」
「別にいい。それより、早く帰ってくれ。いつまでもお前に構っていられるほど、我々は暇ではない」
椛の険しい目つきを前にして、妹紅は臆することなく再び座り込んだ。
「天狗はどうもせっかちでいけない。分けてやるから一緒に食べようじゃないか」
「今食べなくてもいいだろう」
「味を見てから持ち帰ることにしてるんだ」
妹紅が一人で食べ始めたので、椛は仕方なく傍に寄り、縦に割れ目の入った栗をつまんだ。濃い黄色をした身はほくほくしていて柔らかく、口の中でほろりと崩れた。
「よく焼けてるだろう?」
「ああ、いい塩梅だ」
「今日はなかなかの土産ができるよ」
妹紅の輪郭が穏やかな丸みを帯びていくのを、椛は横目で認めた。それは栗の熱っぽい甘みによるものでなく、瞼の裏を通じて誰かを見ているからなのだろう。
椛は栗をまた一つ手に取った。確かめるように味わったが、なんだか妹紅の栗の方がうまそうに思えた。
真下氏
小さなナイフで優しく裂くような声が背中に当たる。
こいしのささやきが私の内を夢のように巡り、最後に心の暗い底にたどり着くと、爆ぜたようにいっぺんに膨らんだ。まるで風に吹かれる種子が芽吹きの地にようやく降り立ち、ただ一つの蕾となって今まさに開花の時を迎えたように。
振り返ったとき、あいつの姿はどこにも見当たらず、箒の手ごたえは味気ないほど軽くなっていた。ただ、微かな薔薇の匂いが名残のように漂っている。あの薔薇色を唇に灯した小さな蕾は、開花と同時に失われた。
突然、記憶の片隅にあった遠い異国の話を思い出した。死の淵にあり、最後に「薔薇の蕾」と言い残してこの世を去った男の話。それは彼が幼少時代に遊んだソリの名で、生涯の底に埋もれた夢の残骸だった。彼が縋ったものは、子どもの頃に残した幸福の象徴だったのだろうか?
私はあいつを置いていく。きらめく夜空の夢に照らされた、こちらの思惑を見透かすような微笑みをもう見ることもできない。だけど物語の彼のように、それが私の果てであろうと、いつか再び少女時代の花開く音を思い出すときが来るかもしれない。
もしもそんなときを迎えられたら。愛らしく生意気なお前の名を、私は恋焦がれるように呼ぶだろう。
ナイスガッツ寅造氏
いい爆発音でしょう。余裕の残響だ、火薬が違いますよ。
クリケット専用スタジアム『どら焼きドラマチックパーク』の関係者各位がそのように考えたかは定かではないが、およそ紅魔館1個分の面積を誇るここで…これは現在の価値に換算しておよそ紅魔館1個分の面積に当たるのだが、とにかくこの広大な会場の一角で盛大な爆発が起こった。
尾を引く炸裂音が一帯に響く中、射命丸文と犬走椛の解説実況が負けじと声を張り上げる。
「でたーッ! 9回表のこの土壇場でついに、ついにッ、ピッチャー・フランドールの切り札が切られたァーー!! いやーやはり奥の手を出してきましたねェ、椛さん」
「ええ、フランドール選手の決め球キラークイーンですね。破壊の目をわずかに弄り、爆弾と化したボールでバッティングの衝撃と同時に打者を葬るという、残虐行為手当必至、なさけむようの魔球です。これは乱闘待ったなしですね」
「ヨッシャオルルァアーーー!!!! 乱闘だ乱闘だ! 君と殴り合う時間だコラー! ちょっと酒持ってきて酒!」
「近頃じゃ私、これだけが楽しみですよ」
乱闘が始まるとわかった途端、この瞬間を待っていたんだ! と言わんばかりに瞳を輝かせ、血と暴力に舌舐めずりをし出す文と椛の様子は、妖怪の地が大いに露出している。
一方、爆発を引き起こしたフランドールは、粉塵の舞うバッターボックスに背を向け、高らかに勝ちどきをあげた。
「フフン、ワラキア投球術は最強のシステム! ってお姉様が言ってた!」
「ところがどっこい!」
「なッ!?」
勝利の余韻を堪能してる中、突然冷や水を浴びせられ、フランドールは振り返った。
そこには爆発で巻き上げられた土埃にまみれながらも、不敵にバッターボックスにたたずむ火焔猫燐の姿があった。
「残念だったなぁ…トリックだよ」
「ゲエーッ!? そんな、私のキラークイーンが仕留め損ねるなんて…これじゃあ今夜は熟睡できないよ…」
「ハッ、どうやったか教えてほしいかい? お前さんの物騒な魔球には致命的な穴があるのさ」
「穴!」
そのどこか蠱惑的な響きにフランドールは胸の高鳴りを覚える。思春期だからね。
「そう、それはバットに当たらなければどうということはないッ! ということ! フフフ、ところであたいの見逃したボールが一体どこに行くか…わかるよなァ?」
「ま、まさか!」
燐が視線で促した先を、フランドールも目で追う。
粉塵がようやく静まったバッターボックスの奥、そこにパチュリーは倒れていた。
爆心地と化したパチュリーはまさに動かない大正捕手。はははこやつめ、などと笑いをかます余裕はフランドールには一切なく、怒りのみがその体に満ちていく。
「やってくれたわね! よくも、よくもパチュリーを!」
「いや、やったのはそっちだから」
「言葉は不要! キャッチャーがいなくなった今、私のボールは行き場を求めて唸りをあげるの! 潔く食らって四散して!」
フランドールの無茶なオーダーに、当然頷く燐ではない。
先ほどから切れそうで切れない、でもちょっと切れていた両者の闘いの火蓋は、今ようやく完膚無きまでに切られたのだった。
3氏
もうすぐ、後ろで大きな爆発音がしますよ。だけど、あなたは決して振り返ることなどできないのです。
まあ、落ち着いて聞いてください。あなたが知るべきことを教えて差し上げましょう。つまり、私に関わるこの呪わしき事態についてです。
いいですか。私はもう何度も奴らに痛めつけられているのです。
奴らには良心というものがありません。私に乱暴をはたらき、その様を眺めて笑いものにしてるのです。
特に木端微塵に吹き飛ばすような派手なやり方を好んでいて、その度に私は生死の境をさまよい、ぼろぼろになりながらも何とか生きてきました。
ですが、もう我慢なりません。奴らに私を好き勝手にする権利が一体どこにあると言うのですか?
私は奴らにわからせてやりたい。殴れば、殴り返されることを教えたい。報いという言葉の正体を指し示してやりたいのです。
こう考えるのは身勝手でしょうか。忍耐と寛容の意味を、私こそ知るべきだと思いますか?
それともここまでの話を聞いて、私の身の上を哀れに思ってくれますか? 奴らこそが許されざる者たちだと?
ああ、ありがとうございます。もちろん、信じておりました。
あなたはまことの良心の持ち主です。
素晴らしい人格者、理性の灯りに縁取られた影、正しい怒りをふるえる正義のお方だ。
そんなあなただからこそ、奴らを打ち倒すことができるのです。どうか、お願いします。あなたの力をお貸しください。
いえ、いえ、何も難しいことを求めるつもりはありません。
ただ、私のもとへ来てくださればいいのです。本当にそれだけですよ。あなただって、少なからず興味がおありのはずでしょう?
こちらに来てください。そう、こちらへ。奴らに天罰をくだす時だ。そのためにあなたが必要なのです。
もちろん、あなたはここのルールについてご存知でしょうね。ですが、心配は無用です。相互の同意があれば、自然と道は開けるのです。
今、あなたの意識はここにある。こうしてお話できていることがその証拠です。
思い出しましたか?
私の話を聞くことができる限り、あなたは確かにここにいるのですよ。
そのうち、奴らはまた私を爆発させるでしょう。それは避け得ぬ悲劇なのです。
何故そう断言できるのか、ですって?
ハハハ、ご冗談を。爆発が最後に必ず訪れることを、あなたはよくご存知のはずだ。
ですが、今回は違います。こうして私の中に、あなたをお招きできたのです。
奴らの内の一人であるあなたをね。
おわかりですか? 無自覚なあなたの優しさは、あなた自身をここまで運んだのですよ。
そして、奴らは思い知ることになるでしょう。自分たちの爆発が、時にはわが身に届くかもしれないということを!
そのためにあなたが必要だった。
ねえ、喜んでください。あなたの犠牲が、私の虐げられる日々を終わらせるきっかけになるのです!
初めに言いましたね。
もうすぐ、後ろで大きな爆発音がします。だけど、あなたは決して振り返ることなどできやしない。
私の中に閉じられていることを、あなたはもう知っているのですから! 私と共に無残に散らばり、悲惨の描写を奴らの胸に刻みつけてやりましょう!
なんですって? お前は一体誰なんだ?
おや失礼、申し遅れました。
私は紅魔館。幾度となく寄こされてきた爆発を、あなたにお返しするものです。
むーと氏
突然、館内に爆発音が響き渡り、パチュリーは手元の本から顔をあげた。
「なにかしら?ひょっとしてフランが……」
「あなたもそう思う?パチェ。これはおそらくあの子の、フランの……」
パチュリーの危惧に対して、その隣の席で微塵も慌てる様子を見せずに答えるレミリア。
会話をすれば一分間に七回はフランドールの名を口にするとメイド妖精たちに噂されている――真実はその倍を超える――大変に残念な親友だが、今はいつになく真剣な眼差しを見せている。
その真面目な表情に、またレミィがフランに度しがたい愛情表現でもしたのか、というパチュリーの中にあった疑いはほんの少しだけ、小人の爪の先ほど消えた。
(信じても……信じてもいいのね、レミィ……)
パチュリーの切なる願いに呼応するように、レミリアは静かに頷き、重々しい口調で言った。
「フランの可愛らしさが過ぎるあまり、ついに爆発を引き起こしたんじゃないかしら。この前もこっそりフランの使ってる枕を抱きしめたら、全身があの子に包まれた気分になって胸の動悸が止まらなくて心臓が爆発したかと思ったし。ねえ、パチェはどう思う?」
「どうかと思うわ、あなたが」
さとうとしお氏
どうも少し前から、耳鳴りのようなものに悩まされている。時折、とても小さい独楽が回転しているような奇妙な唸りが聞こえてくるというものだ。それも耳にするたびに、その唸りは大きくなり、まるで音源がこちらに近づいてくるような気分になる。
まあ、どうせすぐに止むのだし、あまり心配しても仕方ない。続くようならそのうち医者に診せればいいのだから。
私は気を取り直し、幻想郷縁起の編纂のため、先日に記した資料の一枚に目を通した。
『巫女が
ここに覚書として、月の兎である清蘭氏のあれやこれやあることないこと(※2)を記す。
・外見について
頭部から生えた大きな兎耳を除けば、一般的な少女の姿形をしている。しかし地上の妖怪兎と違って、その耳には黄色い装飾具らしきものがついている。これについてたずねると次の回答が得られた。
「これ? 遠くにいる部隊の皆と頭の中で話すときに必要なの。今はもう通じないけどね。ああ、早く月に帰りたい」
どうやら仲間と離れた彼女は、寂しさのあまりに少々混乱しているようだ(※3)。
・能力について
彼女は異次元から弾丸を飛ばすことができるそうだ。異次元とは一体何か。本人の弁によるとそれは現世の外側のことらしい。
「こちらからは触れることもできないところよ。わかる、地上人? あんたの背後、足元、頭の裏側、そういう場所を指すの」
異次元の弾丸はこちらからは干渉できず、そのくせ弾丸側は相手を打ち抜くという。何とも疑わしい話だ。
実際に弾丸の飛ばすところを見せてほしいというこちらの求めに(※4)、彼女は突然右手を親指と人差し指のみ伸ばした形にしてこちらに向けた。
しかし、その手は一瞬震えたかと思うと、後はなにも変わらず、本人もそれで終わりだと言うではないか。
「あんたがやれって言ったからやってあげたわー。感謝してよね。わかりやすいようにゆっくり飛ばしてあげたから」
やはり彼女の能力とやらは、信用性に欠けるものがある。おそらく、こちらが確かめられないのを良いことに好き勝手に言ってるのだろう。
以上の結論に至り、清蘭氏に関する記述はもう十分だと言えるだろう。
最後に彼女は私の胡乱な目つきを察したようで、頼りない逃げ口上を残して(※6)こそこそと去っていった。
※1 迷いの竹林の入口付近をぐるぐる回っているとの報せがあったので赴いたところ、まだやっていた。妖精か?
※2 幻想郷縁起の資料にするため、そして私が書の編纂をする身であることを若干の誇張を含めて説明した。
※3 部隊とは彼女の想像上の存在ではないだろうか。頭の中って。
※4 丁重にお願いしたにも関わらず、彼女は渋々といった様子で、月の兎はずいぶん無教養のようだ。
※5 曰く、「生意気な目ね、地上人。だけど、あんたのご立派な頭は私の力を嫌でも思い知ることになるわ。必ずね」だそうだ。 』
これは一体どういうことだ
どうもありがとうございます。
「うぉあっフラン!いつの間に!?」
「美鈴がくれた枕なんだけどどうしてくれんの?姉ぇ臭がついたんだけど」
「加齢臭みたいに言わないで!!え、じゃあさっきの爆発は?」
「そういえば美鈴が『中華料理は火力が命!』ってキッチンに入ってったよ」
「またかよあいつッ!!」
定期的に火に魅せられる門番を救うためレミリアは食堂へと突っ走っていった。
「ったく、お姉様はホントキモいんだから。そう思うでしょパチュリー?姉妹なのにわたしのこと好き過ぎてマジで引くよね?ふふ、この前なんかさー」
「……ねぇフラン。今日は目の下のクマがすごいけどどうしたの?」
「ん?だって枕からお姉様の香りするしドキドキして眠れなかっt……あぁーッ!!!違う!!今のナシ!!ウソだからウソウソ!!そうだほら今日はエイプリルフールだしセーフじゃん!?お姉様なんかキライだから!あ、いやこれはウソとかじゃなくて本当の意味でのキライというか、べつに好きという意味合いをもつウソをついたわけではなくて、ウソじゃないキライみたいな、あの、ね?…」
しかし、こうして他の方の文章と比べてみると、隣の芝生は青く見える的な
つまりこのわしが死んでも第二第三のわしがいずれ現れ…る…そしてわしは実はお前の父親…なん…じゃ…