どうも、前回後半の超展開と言葉の使い分けの酷さですこぶる評判が悪い作者です。
今回はさと霖を書いてみました、ストーリーは今回ゆっくりとベッドで飼い猫と相談したんで、前回よりはマシだと思います。
それではどうぞー
幻想郷内の異変後は毎度毎度、霊夢が服の修繕を頼みながら、香霖堂に愚痴を垂らしに来る。
どうやら今度は地底の最深部で、核融合の力を持つ烏と奮闘したらしい。
霊夢の服が焼け焦げているのを納得し、また「霊夢自身は何故火傷皆無なのか」と言う疑問を思い浮かべる森近霖之助であった。
霊夢が帰った辺りで、やっと霖之助は地底の件に関して真面目に考える様になった。勿論地底に行くかどうかだが。結論は早く出た。
そもそも危険をかえりみずに、物を拾うため閻魔や死神がいる無縁塚に向かう霖之助にとって、地霊や妖怪の沸く地底なんて屁の河童なのであった。
次の外出の目的地を決めたとき、偶然良い所に魔理沙が来たので、道を教えて貰う。
人畜無害な半妖である霖之助が1人で、それも生身だと流石に危ないと判断したのか、魔理沙も同行しようかと彼を心配したが、魔砲に巻き込まれたらそれこそ危険だ。それに彼が派手にどんぱちやりたくない性格なのは魔理沙も分かっている。
ここは店にある予備の八卦炉を持って行くのが賢明な判断だと確信した霖之助は、応急手当の治療道具を腹に抱える荷物入れに詰め込み、水筒を腰に付け、1人で店を後にし、歩を進めた。
勿論、店には臨時休業の看板が掛けてあった、そもそも営業と呼べる営業をしているのかなんてくだらない疑問を店主が思い浮かべるほどの店だ、1日は臨時休業したって誰も困らないだろう。
地底の中は基本的に一本道で、妖怪にはすぐ存在を悟られてしまった。
しかし、基本的に住民の様な妖怪達は彼を地上の者とは思わず、気づく者と言ったら、そこを統率する土蜘蛛や鬼の1人だった。
霖之助にとっては幸いにも、危害を与える妖怪は居なかった。と言っても鬼に限っては酒を飲まされたり喧嘩を持ちかけてきたが。
土蜘蛛やその鬼も、霖之助の種族は弾幕を出せない、と説明したら抵抗する事も無くあっさりと道を開いてくれた。単に彼女達は遊びたいだけなのかもしれない。
そんな訳で様々な出会いと別れをして来たが、未だに珍しい道具は出てこない。旧都付近で8割諦めていた霖之助だが、道を無意識に歩いていると、自然と大きな建物が見えてきた。
『…此処を最後に何も無かったら、帰るかな。』
霖之助は珍しく驚いた表情をした、自分は考え事をしていただけで、喋っていないし、自分がこんなにトーンの高い声だった覚えも無い。
『…旧都が栄えていた頃からのガラクタなら、この地霊殿に全て保管されているわ。』
1度目の声はパニックで聞き取れず、2度目の声を聞いて、やっとその人物の位置を確認した霖之助。
『私は、古明地さとり。地霊殿の主人です。』
客を迎え入れる口調に改め、彼女は自己紹介をした。
『…聞きたい事が山程有るが、まず君は人の心が読めるのかい?』
『ええ、そうよ…強いて言えば、読んでしまう。のよ。』
『…地底は寒いわ、どうぞこちらへ。』
敬語かそうじゃ無いのか曖昧な喋り方だった。かの竜宮の使いを彷彿させる。
とにもかくにも、霖之助は地霊伝に上がらせてもらう事になった。
『もう少し殺伐としたイメージを抱いていたが、暗闇に暖炉も中々乙な物だ。』
『そうかしら、明るい日差しにその暖かい光の方が私は良いと思うわ。』
わざわざ台詞を言わせてから返事をしてくれるあたり、彼女は出来る限り能力で気を悪くして欲しく無いらしい。
『いえ、そうした方が返答がスムーズに思いつくだけ、別に気を悪くしたって私は構わないわ。』
薪が赤く燃える暖炉とは別に、彼女の目は完璧に冷め切っていた。
しばし沈黙が続くが、彼女はそんな時も霖之助の心を見ているのだろう、理不尽だと思いながら、霖之助は沈黙の次の第一声を発する。
『…喉が渇いた。何か飲み物を頂けるとありがたいんだが。』
腰に下げた水筒はとっくに空になっていた、霖之助は、喉が渇いていた。
『じゃあ、ホットミルクはいかが?』
外の世界の西洋を思い浮かべさせる暗闇に暖炉、ホットミルクはこの空気に良くマッチしているだろう。
『此処は地底だ、ミルクは貴重品だろう?と言うか手に入るか自身僕は分からないが…。』
『構わないわ、すぐ用意するから待っていて頂戴。』
二つ目の質問は答えてくれないか…と思いつつ霖之助は暖炉に冷めた手を近づけた。
(この暖かさ…霧雨家で修行していた時を思い出す、あの時から随分経つ、今ではストーブに頼りきりだ、今度店に薪があった筈だからそれで)
霖之助の頭に暖かいコップがぶつかる。
『出来たわよ。色々頭が取り込んでそうで悪いけど。』
『ああ、すまない。』
半分自分の世界に入っていた事に珍しく自己嫌悪しながら、椅子に座り、コップに手を付ける。
『…これだけだと、少し面白味が無いかな。』
霖之助はそう言うと、背負ってきた小さな道具入れから、500mlペットボトルと同じくらいの大きさの小瓶を取り出した。
『道中、鬼から貰ってきた物だ、僕の能力はこの酒をラム酒と呼んでいる。』
『ミルクにお酒を入れるのかしら、私はお酒なんて飲んだ事無いからわからないわ。』
『どうだ、君も飲んでみないかい?意外と美味しい物だぞ。』
『じゃあ、頂くとしましょう。』
『少し苦いわ…ミルクがあったから多少マシだったかしら?。』
『最初は皆そんな物さ、ゆっくりと飲んで行くんだ。』
『少し…目が眩むわ、顔を洗ってくる。』
『行ってらっしゃい。』
さとりが戻ってまた飲み始め、数分。ラム酒とミルクもそろそろコップから無くなって来た時の事だった。
『うー…。』
初めての酔いに慣れないのか、さとりは机に頭をぶつけないか心配させる程うつらうつらしていた。そして今その頭をゆっくりと机に落として…以後、彼女の頭が起き上がらなくなった。
『こうなるとは思っていたが、やれやれ・・・。』
(彼女を眠らせた原因の酒を持ってきた僕が、寝床まで連れて行くのが紳士だろう。)
と考えた霖之助は、一度彼女の寝室を確認した後、まず机と零距離でにらめっこしてるその顔をひっくり返してやる。
まるで雪女の様に白い肌は、一瞬死んでしまったのじゃないかと思わせるほど青ざめている色に近かった。
そして、それを照らす様な美しい顔を見て、霖之助は思わず少し顔を赤くする。
とにもかくにも、彼女を寝起きが良い場所まで連れて行かなければならない。
片手を背中に、片手を膝の裏辺りに置き、倒れないように重心を自身の方向に向ける。
俗に言うお姫様だっこだが、実際に運ぶ際これが一番運びやすい方法なので、やめる訳にはいかない。
彼女をベットに置いて、毛布を掛けた所で、自分の寝る所が無い事に気づいた霖之助。
仕方が無いので、荷物の中にあった上着を掛け布団代わりに、壁にもたれかけながら寝た。
朝、起きた瞬間に霖之助は枕を叩きつけられる。
どうやら表情を見るに、昨日の記憶を失い、彼を他人と思っているらしい。
『あのねぇ、いくら数少ない客とは言え、こんな状態で出迎えるわけには…。』
『待て、待て待て、待つんだ、きっと誤解だ、待ってくれ。』
大事な事だから5回言ったので、なんとか弾幕を放とうとする手を止める事が出来た。
なんとか弁解した挙句、詫びの言葉を貰った霖之助は気にする事は無い、と言いお望みの地底道具を貰っていった後、ゆっくりと帰路を辿っていった。
霖之助は少々怒った様な演技をして、逃げる様に帰った。きっと朝の復讐だろう。しかしこの陰湿な戦いはさとりの勝利で、彼女は見事彼の本当の気持ちを見て、怒っていないのかと安堵していた。
後日、地底から持ち帰った沢山の道具をひとつひとつ処理している所だった。
扉がガチャっと音を立てて開いた。
実はこの来店方法は中々珍しく、霖之助は消去法で誰なのか探った。
答えは0だった。
まず乱暴な開け方をしないなら魔理沙、霊夢では無い。
扉をノックしないからメイドさんや半霊でも無い。
それに今は冬と春の間だ、何処かの大妖怪様は冬眠しているかもしれないし、ましてや幽香がこの猛雪の中、家族の様に愛する花を置き去りにわざわざここに来る事も無いだろう。
『ここがー香霖堂ーですかー?♪』
多分僕が一番目に聞いたであろう歌詞の歌を歌いながら、ゆっくりと来店してきた。
『いらっしゃいませ、初めての人か。』
霖之助は会計代から少々離れて見難いが、その少女は魔理沙程でも無い、少し大きな帽子を付けて、騒霊の次女の様より薄い水色の縮れ髪を生やしていた。
『私はー古明地ーこいしーですー♪。』
(古明地…何処かで聞いた様な気がしないでも無いが…。)
どうやら、霖之助も飲み明かしていた様で、一緒に飲んだ者の名前まで忘れてしまったのかと思う人は多いだろう。
しかし彼はそれでも帰る当日は名前を覚えていたのだ。
会ってから数日で名前を忘れる、興味の無い者にはとことん興味の無い店主であった。
『誰かにこの店を紹介して貰った様な言い方だね。』
『はいー紅白の巫女さんに教えてもらいましたー♪。』
超音波でも出しかねない高い声を浴びせられた。
『じゃあ、何か用が合ってきっと来たのだろう、御用件は何かな?』
『あのねー、あのねー、えーとねー、あのねー』
『出来れば早めに思い出してくれ…。』
『そうだ!相談!相談相談!相談に乗って欲しいのー。』
『欲しい物でも有るのかい、それとも何かの修繕かな?。』
『お姉さん!お姉さんの事なのー!。』
姉…女性…と考えていくと、流石の霖之助も名前くらいは薄々思い出していく。
霖之助にとって、相談なんてロクな事を聞かされた覚えは無い。
両手を広げた少女には食べて良いなんて相談されて。
紅魔館の門番には何で私ってナイフで刺されて死ねないんだろうなんて相談されたり。
仕舞いには魔理沙に似た金髪の少女に、その魔理沙にどう告白すれば良いかなんて言われたり。
だから、呆れた顔で言った。
『お姉さんが何かあったのかい?。』
『最近お姉さんがいっつもりんのすけ、りんのすけ、ってぼやいているのー。』
流石の霖之助もここまで衝撃的だと顔も引きつる。
『それで、霊夢に僕の名前を尋ねて、ここまで来たのかい?。』
『ごめいとー!。』
『じゃあ、僕に何をしろと?。』
『えーと、どうしよー。』
それから数分黙り込んだ後、その少女は店内の物品を漁り始めた。
その内思い出してくれるだろうと期待していたが、なんと夕方になって帰って行っても思い出してくれなかった。
霖之助は何かやりきれない気がしたが、これ以上深追いする事も無いだろうと、諦めた。
後日、 霖之助は道具の整理が終わり、幽香に頼まれた傘の修理をしていた。
折れた骨を修復する為に接着剤を探している時のことだった。
店の外に少し耳をすませば、何やら会話が聞こえてくる。
『ほらっ!早く早く!逃げちゃうよ!。』
『逃げないわよ、話なさいよ!こらっ!。』
どこかで聞いた声で何やら微笑ましい様な会話が聞こえてくるが、その逃げる様な物がこの深い森に自身しか居ない事に気づき、少し落ち込む霖之助だった。
昨日とは違って、思い切り大きな音を立てドアを開けたのはこいしだった。
『ほら!ごゆっくりー!。』
満面の笑みを浮かべながら姉であるさとりをどんと押して、扉を閉めた。外で物凄い勢いで飛んで行く音が聞こえて来た。
幾ら朴念仁の霖之助とは言え、ここまで来ると自分に気が有るのかくらいは思い始める。
そこでそれは無いだろうと結論に至ってしまうのだが。
『妹さんは帰ってきた様だけど、何か用でも有るのかい?。』
返事は返ってこない、少しだけ落ち込んでいる様な表情だった。
とりあえず自分のせいでは無い事を祈りつつ、霖之助も無言で見守ってた。
数分の沈黙。緊迫した空気が迫り、霖之助も読書にふける事は出来ない。
こんな空気が前からも有ったが、相手が心を読む妖怪なら、本に熱中している演技も通用しないだろう。
だから、あえて目を合わせる。
当の彼女は、時々顔をこちらに合わせる様に上げては落とし、口を開きかければ閉じ、その一つ一つの動作が行われるたびに、空気が重くなっていった。
年も気も長い霖之助だが、流石にここまで来ると自分が空気を重くしてるのではないかと言う間違った良心が働く。
『…君は、この店じゃなくて僕に用が有るのかな?。』
(我ながら良くこんな恥ずかしい台詞を吐けたもんだ…。)
それでも彼女は反応しない。霖之助1人だけが喋る会話が続く。
そして沈黙が始まり数十分。彼女はいきなり大粒の涙を零して、霖之助に抱きついた。
『私…初めてだった…!初めて1人で喋っていて…っ…!。』
霖之助だって空気は読める。思い切り胸にさとりを抱き締めた。
その伸長差やこれまでの会話、まるで父と幼稚園児の娘の様だった。
しばらくして、大分落ち着いてきたのか、さとりはティッシュを鼻に付けながら、喋る。
『私…人の心読んじゃうでしょ?だから誰も喋んなくて良いって決め付けて、わ、わ私だけが喋り続けて…誰も…話してくれなかった…。でも、あ、貴方だけは違ったわ、私が黙っていても喋り…。』
そのまままた頭を下げる。長年の悩みだ、一回泣いたくらいで晴れる事は無いのだろう。
話の内容は少しずつ進んでいくものの、何度もこのループが繰り返され、しまいにはさとりは霖之助の胸の中で寝てしまった。
この時二つの意味で空気を呼んだのか、空からぽつぽつと、雨が降ってきた。
勿論一つの意味は烏天狗の盗撮だが。
今度は恥ずかしがりもせずに、霖之助はさとりを抱き上げる。
そしてまたベットに彼女を乗せ、また毛布を掛けてやった。
最後に、香霖堂店主は何時にも見ない笑顔で、静かに囁いた。
『今度は、忘れないでくれよ。』
今回はさと霖を書いてみました、ストーリーは今回ゆっくりとベッドで飼い猫と相談したんで、前回よりはマシだと思います。
それではどうぞー
幻想郷内の異変後は毎度毎度、霊夢が服の修繕を頼みながら、香霖堂に愚痴を垂らしに来る。
どうやら今度は地底の最深部で、核融合の力を持つ烏と奮闘したらしい。
霊夢の服が焼け焦げているのを納得し、また「霊夢自身は何故火傷皆無なのか」と言う疑問を思い浮かべる森近霖之助であった。
霊夢が帰った辺りで、やっと霖之助は地底の件に関して真面目に考える様になった。勿論地底に行くかどうかだが。結論は早く出た。
そもそも危険をかえりみずに、物を拾うため閻魔や死神がいる無縁塚に向かう霖之助にとって、地霊や妖怪の沸く地底なんて屁の河童なのであった。
次の外出の目的地を決めたとき、偶然良い所に魔理沙が来たので、道を教えて貰う。
人畜無害な半妖である霖之助が1人で、それも生身だと流石に危ないと判断したのか、魔理沙も同行しようかと彼を心配したが、魔砲に巻き込まれたらそれこそ危険だ。それに彼が派手にどんぱちやりたくない性格なのは魔理沙も分かっている。
ここは店にある予備の八卦炉を持って行くのが賢明な判断だと確信した霖之助は、応急手当の治療道具を腹に抱える荷物入れに詰め込み、水筒を腰に付け、1人で店を後にし、歩を進めた。
勿論、店には臨時休業の看板が掛けてあった、そもそも営業と呼べる営業をしているのかなんてくだらない疑問を店主が思い浮かべるほどの店だ、1日は臨時休業したって誰も困らないだろう。
地底の中は基本的に一本道で、妖怪にはすぐ存在を悟られてしまった。
しかし、基本的に住民の様な妖怪達は彼を地上の者とは思わず、気づく者と言ったら、そこを統率する土蜘蛛や鬼の1人だった。
霖之助にとっては幸いにも、危害を与える妖怪は居なかった。と言っても鬼に限っては酒を飲まされたり喧嘩を持ちかけてきたが。
土蜘蛛やその鬼も、霖之助の種族は弾幕を出せない、と説明したら抵抗する事も無くあっさりと道を開いてくれた。単に彼女達は遊びたいだけなのかもしれない。
そんな訳で様々な出会いと別れをして来たが、未だに珍しい道具は出てこない。旧都付近で8割諦めていた霖之助だが、道を無意識に歩いていると、自然と大きな建物が見えてきた。
『…此処を最後に何も無かったら、帰るかな。』
霖之助は珍しく驚いた表情をした、自分は考え事をしていただけで、喋っていないし、自分がこんなにトーンの高い声だった覚えも無い。
『…旧都が栄えていた頃からのガラクタなら、この地霊殿に全て保管されているわ。』
1度目の声はパニックで聞き取れず、2度目の声を聞いて、やっとその人物の位置を確認した霖之助。
『私は、古明地さとり。地霊殿の主人です。』
客を迎え入れる口調に改め、彼女は自己紹介をした。
『…聞きたい事が山程有るが、まず君は人の心が読めるのかい?』
『ええ、そうよ…強いて言えば、読んでしまう。のよ。』
『…地底は寒いわ、どうぞこちらへ。』
敬語かそうじゃ無いのか曖昧な喋り方だった。かの竜宮の使いを彷彿させる。
とにもかくにも、霖之助は地霊伝に上がらせてもらう事になった。
『もう少し殺伐としたイメージを抱いていたが、暗闇に暖炉も中々乙な物だ。』
『そうかしら、明るい日差しにその暖かい光の方が私は良いと思うわ。』
わざわざ台詞を言わせてから返事をしてくれるあたり、彼女は出来る限り能力で気を悪くして欲しく無いらしい。
『いえ、そうした方が返答がスムーズに思いつくだけ、別に気を悪くしたって私は構わないわ。』
薪が赤く燃える暖炉とは別に、彼女の目は完璧に冷め切っていた。
しばし沈黙が続くが、彼女はそんな時も霖之助の心を見ているのだろう、理不尽だと思いながら、霖之助は沈黙の次の第一声を発する。
『…喉が渇いた。何か飲み物を頂けるとありがたいんだが。』
腰に下げた水筒はとっくに空になっていた、霖之助は、喉が渇いていた。
『じゃあ、ホットミルクはいかが?』
外の世界の西洋を思い浮かべさせる暗闇に暖炉、ホットミルクはこの空気に良くマッチしているだろう。
『此処は地底だ、ミルクは貴重品だろう?と言うか手に入るか自身僕は分からないが…。』
『構わないわ、すぐ用意するから待っていて頂戴。』
二つ目の質問は答えてくれないか…と思いつつ霖之助は暖炉に冷めた手を近づけた。
(この暖かさ…霧雨家で修行していた時を思い出す、あの時から随分経つ、今ではストーブに頼りきりだ、今度店に薪があった筈だからそれで)
霖之助の頭に暖かいコップがぶつかる。
『出来たわよ。色々頭が取り込んでそうで悪いけど。』
『ああ、すまない。』
半分自分の世界に入っていた事に珍しく自己嫌悪しながら、椅子に座り、コップに手を付ける。
『…これだけだと、少し面白味が無いかな。』
霖之助はそう言うと、背負ってきた小さな道具入れから、500mlペットボトルと同じくらいの大きさの小瓶を取り出した。
『道中、鬼から貰ってきた物だ、僕の能力はこの酒をラム酒と呼んでいる。』
『ミルクにお酒を入れるのかしら、私はお酒なんて飲んだ事無いからわからないわ。』
『どうだ、君も飲んでみないかい?意外と美味しい物だぞ。』
『じゃあ、頂くとしましょう。』
『少し苦いわ…ミルクがあったから多少マシだったかしら?。』
『最初は皆そんな物さ、ゆっくりと飲んで行くんだ。』
『少し…目が眩むわ、顔を洗ってくる。』
『行ってらっしゃい。』
さとりが戻ってまた飲み始め、数分。ラム酒とミルクもそろそろコップから無くなって来た時の事だった。
『うー…。』
初めての酔いに慣れないのか、さとりは机に頭をぶつけないか心配させる程うつらうつらしていた。そして今その頭をゆっくりと机に落として…以後、彼女の頭が起き上がらなくなった。
『こうなるとは思っていたが、やれやれ・・・。』
(彼女を眠らせた原因の酒を持ってきた僕が、寝床まで連れて行くのが紳士だろう。)
と考えた霖之助は、一度彼女の寝室を確認した後、まず机と零距離でにらめっこしてるその顔をひっくり返してやる。
まるで雪女の様に白い肌は、一瞬死んでしまったのじゃないかと思わせるほど青ざめている色に近かった。
そして、それを照らす様な美しい顔を見て、霖之助は思わず少し顔を赤くする。
とにもかくにも、彼女を寝起きが良い場所まで連れて行かなければならない。
片手を背中に、片手を膝の裏辺りに置き、倒れないように重心を自身の方向に向ける。
俗に言うお姫様だっこだが、実際に運ぶ際これが一番運びやすい方法なので、やめる訳にはいかない。
彼女をベットに置いて、毛布を掛けた所で、自分の寝る所が無い事に気づいた霖之助。
仕方が無いので、荷物の中にあった上着を掛け布団代わりに、壁にもたれかけながら寝た。
朝、起きた瞬間に霖之助は枕を叩きつけられる。
どうやら表情を見るに、昨日の記憶を失い、彼を他人と思っているらしい。
『あのねぇ、いくら数少ない客とは言え、こんな状態で出迎えるわけには…。』
『待て、待て待て、待つんだ、きっと誤解だ、待ってくれ。』
大事な事だから5回言ったので、なんとか弾幕を放とうとする手を止める事が出来た。
なんとか弁解した挙句、詫びの言葉を貰った霖之助は気にする事は無い、と言いお望みの地底道具を貰っていった後、ゆっくりと帰路を辿っていった。
霖之助は少々怒った様な演技をして、逃げる様に帰った。きっと朝の復讐だろう。しかしこの陰湿な戦いはさとりの勝利で、彼女は見事彼の本当の気持ちを見て、怒っていないのかと安堵していた。
後日、地底から持ち帰った沢山の道具をひとつひとつ処理している所だった。
扉がガチャっと音を立てて開いた。
実はこの来店方法は中々珍しく、霖之助は消去法で誰なのか探った。
答えは0だった。
まず乱暴な開け方をしないなら魔理沙、霊夢では無い。
扉をノックしないからメイドさんや半霊でも無い。
それに今は冬と春の間だ、何処かの大妖怪様は冬眠しているかもしれないし、ましてや幽香がこの猛雪の中、家族の様に愛する花を置き去りにわざわざここに来る事も無いだろう。
『ここがー香霖堂ーですかー?♪』
多分僕が一番目に聞いたであろう歌詞の歌を歌いながら、ゆっくりと来店してきた。
『いらっしゃいませ、初めての人か。』
霖之助は会計代から少々離れて見難いが、その少女は魔理沙程でも無い、少し大きな帽子を付けて、騒霊の次女の様より薄い水色の縮れ髪を生やしていた。
『私はー古明地ーこいしーですー♪。』
(古明地…何処かで聞いた様な気がしないでも無いが…。)
どうやら、霖之助も飲み明かしていた様で、一緒に飲んだ者の名前まで忘れてしまったのかと思う人は多いだろう。
しかし彼はそれでも帰る当日は名前を覚えていたのだ。
会ってから数日で名前を忘れる、興味の無い者にはとことん興味の無い店主であった。
『誰かにこの店を紹介して貰った様な言い方だね。』
『はいー紅白の巫女さんに教えてもらいましたー♪。』
超音波でも出しかねない高い声を浴びせられた。
『じゃあ、何か用が合ってきっと来たのだろう、御用件は何かな?』
『あのねー、あのねー、えーとねー、あのねー』
『出来れば早めに思い出してくれ…。』
『そうだ!相談!相談相談!相談に乗って欲しいのー。』
『欲しい物でも有るのかい、それとも何かの修繕かな?。』
『お姉さん!お姉さんの事なのー!。』
姉…女性…と考えていくと、流石の霖之助も名前くらいは薄々思い出していく。
霖之助にとって、相談なんてロクな事を聞かされた覚えは無い。
両手を広げた少女には食べて良いなんて相談されて。
紅魔館の門番には何で私ってナイフで刺されて死ねないんだろうなんて相談されたり。
仕舞いには魔理沙に似た金髪の少女に、その魔理沙にどう告白すれば良いかなんて言われたり。
だから、呆れた顔で言った。
『お姉さんが何かあったのかい?。』
『最近お姉さんがいっつもりんのすけ、りんのすけ、ってぼやいているのー。』
流石の霖之助もここまで衝撃的だと顔も引きつる。
『それで、霊夢に僕の名前を尋ねて、ここまで来たのかい?。』
『ごめいとー!。』
『じゃあ、僕に何をしろと?。』
『えーと、どうしよー。』
それから数分黙り込んだ後、その少女は店内の物品を漁り始めた。
その内思い出してくれるだろうと期待していたが、なんと夕方になって帰って行っても思い出してくれなかった。
霖之助は何かやりきれない気がしたが、これ以上深追いする事も無いだろうと、諦めた。
後日、 霖之助は道具の整理が終わり、幽香に頼まれた傘の修理をしていた。
折れた骨を修復する為に接着剤を探している時のことだった。
店の外に少し耳をすませば、何やら会話が聞こえてくる。
『ほらっ!早く早く!逃げちゃうよ!。』
『逃げないわよ、話なさいよ!こらっ!。』
どこかで聞いた声で何やら微笑ましい様な会話が聞こえてくるが、その逃げる様な物がこの深い森に自身しか居ない事に気づき、少し落ち込む霖之助だった。
昨日とは違って、思い切り大きな音を立てドアを開けたのはこいしだった。
『ほら!ごゆっくりー!。』
満面の笑みを浮かべながら姉であるさとりをどんと押して、扉を閉めた。外で物凄い勢いで飛んで行く音が聞こえて来た。
幾ら朴念仁の霖之助とは言え、ここまで来ると自分に気が有るのかくらいは思い始める。
そこでそれは無いだろうと結論に至ってしまうのだが。
『妹さんは帰ってきた様だけど、何か用でも有るのかい?。』
返事は返ってこない、少しだけ落ち込んでいる様な表情だった。
とりあえず自分のせいでは無い事を祈りつつ、霖之助も無言で見守ってた。
数分の沈黙。緊迫した空気が迫り、霖之助も読書にふける事は出来ない。
こんな空気が前からも有ったが、相手が心を読む妖怪なら、本に熱中している演技も通用しないだろう。
だから、あえて目を合わせる。
当の彼女は、時々顔をこちらに合わせる様に上げては落とし、口を開きかければ閉じ、その一つ一つの動作が行われるたびに、空気が重くなっていった。
年も気も長い霖之助だが、流石にここまで来ると自分が空気を重くしてるのではないかと言う間違った良心が働く。
『…君は、この店じゃなくて僕に用が有るのかな?。』
(我ながら良くこんな恥ずかしい台詞を吐けたもんだ…。)
それでも彼女は反応しない。霖之助1人だけが喋る会話が続く。
そして沈黙が始まり数十分。彼女はいきなり大粒の涙を零して、霖之助に抱きついた。
『私…初めてだった…!初めて1人で喋っていて…っ…!。』
霖之助だって空気は読める。思い切り胸にさとりを抱き締めた。
その伸長差やこれまでの会話、まるで父と幼稚園児の娘の様だった。
しばらくして、大分落ち着いてきたのか、さとりはティッシュを鼻に付けながら、喋る。
『私…人の心読んじゃうでしょ?だから誰も喋んなくて良いって決め付けて、わ、わ私だけが喋り続けて…誰も…話してくれなかった…。でも、あ、貴方だけは違ったわ、私が黙っていても喋り…。』
そのまままた頭を下げる。長年の悩みだ、一回泣いたくらいで晴れる事は無いのだろう。
話の内容は少しずつ進んでいくものの、何度もこのループが繰り返され、しまいにはさとりは霖之助の胸の中で寝てしまった。
この時二つの意味で空気を呼んだのか、空からぽつぽつと、雨が降ってきた。
勿論一つの意味は烏天狗の盗撮だが。
今度は恥ずかしがりもせずに、霖之助はさとりを抱き上げる。
そしてまたベットに彼女を乗せ、また毛布を掛けてやった。
最後に、香霖堂店主は何時にも見ない笑顔で、静かに囁いた。
『今度は、忘れないでくれよ。』
地霊殿ですね
話しが急展開すぎではないでしょうか?
また、後書きに部分カットをしましたとありますが、反って設定に必要な部分もカットされているように感じ取れました。
霖×さとりですか、これは新鮮。
二人のやりとりは凄く好きですね。
楽しく読めました。
欲を言えば、さとりの心情の変化の描写が見たかったですね。
何と言って良いか分かりませんがさとりん、否さと霖への愛が溢れ出しそうになったのは確かです。
>「話なさいよ!~」→「放しなさいよ」
>「この猛雪の中~」→「猛吹雪」
ではないかと。
そして「」の中で『!』や『?』を使った後に『。』をつけるのは不自然な気が致します。(そういう使用方法を私が知らないだけかも知れませんが)
上の方も言っておられますが「汚名挽回」→「汚名返上」
一目惚れにしてもやはり、さとり様の心情があれば感情移入しやすいです