真っ当な神経が通っている者なら数秒も漬け込まれれば気鬱の病をこしらえそうな薄闇の中、こだまするのは身も世もない悲鳴。判りきっていたその結末に、私は肩をすくめずにはいられませんでした。
悲鳴の発生源を求めていけば、少し離れたところにうずくまる少年───の形をした“もの”姿が目に映る。その身体のあちこちからは白煙が噴き上がり、皮膚は沸騰したミルクのように“ぼこぼこ”と泡立ちながら崩れてはその下からまた新たな皮膚を生み出しまた溶けるというサイクルを、まるで壊れた映写機で流した映画のごとくに繰り返しています。本来の循環を外れた構成組織の異常活性、それに平行して同規模の崩壊が起こっているのです。
ブラドベリイ、やっぱりあなたじゃだめでしたね。さながら炎天下の日差しに晒されたソフトクリームのような有り様の“彼”を白けた気分で見下ろしてわざとらしくつぶやいた私は、腰掛けた椅子の程よくクッションの効いた背もたれに身体を預け、お口に手を当てながら“ふわぁ”とあくびをひとつ零すのでした。
絵面だけ見ると誤解を受けそうなので説明しておきますが、今ここで行われているのはなんぞ“いかがわしい”行為でも何でもなく、あくまでもただの失敗に終わった実験、その顛末に過ぎません。
というのも私、最近パチュリー様にならい《魔法使いの弟子》としてのグレードを上げるべく錬金術の基礎研究に手をつけるようになったのです。で、私の目の前で火中に飛び込んだ羽虫よろしくのたうち回ってる少年ですが、“彼”はその実験によって産み出されたホムンクルス───正確にゃその紛い物───なのです。名前はブラドベリィ、生後(ロールアウト)1分弱で享年はどれだけ頑張ってもあと5、6分くらい。今のうちに戒名でも考えておくべきでしょうか。
ホムンクルスとは手っ取り早く言うと、錬金術を用いて産み出された人造人間のことです。人造“人間”などと呼ばれていますがその実態は妖精のそれに近く、云わば“技術概念を存在素体とした妖精”というべき存在でもあります。技術の結晶という概念に直結した出自故、彼乃至彼女らは生まれながらに知りえぬものはなにもない無限の知識を備えていると云われ(全知の辞典みたいなもんと思っていただければいいでしょう)、それを生み出し知識を我が物とすることは錬金術の重要なテーマの一つなのです。ただし全知であっても全能ではないので、その知識を人の身で理解するには創る以上の労力を必要とするそうですが(思考形態や伝達手段含めた生物としての根っこが、ホモ・サピエンスのそれと致命的に違うため。解読のために一生を費やしても報われぬ方もいるそうな)。
本来のホムンクルスとは創世時の世界に見立てた実験機器の中で創られるものなのですが、あいにくながら今の私にゃそこまでの技術はないので(なまもの分野は苦手です)、まずは前段階になるバッタモンの製造を行っております。すなわち機械的アプローチによるダミー、軽合金の骨格に生体素材を主体にした人工筋肉と皮膚をまとわりつかせ人工知能を搭載した自動人形です。見ての通りの失敗ですが。おそらくは生体素材の維持と恒常を担っている器官と、そこからフィードバックを行う感覚諸器官のマッチングでもしくじったのでしょう。“彼”の少し前に作った完全機械式の人型ラジオはそれなりの成功をみたので、今回もそこそこ程度には上手くいくかとも思ったのですが……いやはや、世の中そうは上手くいかんものであります。
しかし出来損ないとはいえ、この子を造るためにはそれなりの手間暇をかけたというのに、それがすべて“ぱぁ”になってしまったのはちと惜しい。
悲痛な声を上げてのたうち、救いを求めるかのごとくに私の名を(偽名ですが)呼ぶ少年の姿を“ぼけーっ”と眺めながら懐に手をやり、私は純金のチェーンで繋がれた嗅ぎたばこ入れを取り出しました。懐中時計を模したそれの、薄闇の中でさえ仄かに光りを放っているような透明度の高い瑪瑙の輝きに私は陶然となるのを禁じえない。本当に良い物はいつ見ても、よいものです。
いまだに“ぎゃあすか”とやかましい声はこの際、意識の端っこにでもうっちゃっておくことにして、私は嗅ぎたばこ入れの開閉スイッチになっている竜頭の部分を軽くひねって蓋を開け、中に収められている茶褐色の塊をひとつまみ。それを鼻先にもっていき指先で擦り合わせ、立ち上る芳しい香りを愉しむのでした。余談ですがこのタバコは私手ずからのブレンドであったりします。この嗅ぎたばこ入れをもらった当初は市販のもので満足していたのですが、どれほどの鮮烈な刺激快楽とていつかはその光輝を失うもの。次第に物足りなくなった私は自身の好みに合わせたブレンドをするようになったのです。しかしそこは『小』が付くとはいえ悪魔の嗜好品。材料に擂り潰したペヨーテやら辰砂をはじめ各種の秘薬妙薬霊薬魔薬やらを混ぜ込んだ代物なので、真っ当な人間が一吸いした日にゃよくて頭が“ぱっぱらぱー”、悪けりゃあの世へ直行便な一品でございます。
耳障りな悲鳴が消えてなくなったのは、たばこ入れに指を突っ込むこと四度目のことでした。視線を戻せば火中に飛び込んだ羽虫よろしくもがいていた少年の姿もなく、かわりに“ぐつぐつ”と不気味に泡立つシチューみたいなものと、おそらくは崩壊を免れたらしい金属質な輝きの骨格やらコード・チューブなどが散らばるばかり。
神よ、あわれみたまえ。生命の無常と運命の無情、自身の無力に慟哭する老碩学のごとく……というにはあまりにも軽々しい嘆息を全身に拡がる倦怠感とともに吐き出した私は、椅子から立ち上がってもはや亡骸とさえ云えぬ残骸となった“彼”の元に足を運び、指にとったタバコを溶け崩れたその残滓へと振りかけました。ひとつまみ、ふたつまみ───振りかけるごとに、お風呂場にこびりついたカビみたくにしぶとく残っていた“彼”の痕跡が散らばる雲か消えゆく霞のごとくに“はかなく”なっていく。
指に残ったタバコがなくなったところで、彼の少年がこの世にあったという痕跡が微塵の名残さえ残さず綺麗さっぱり消えてなくなりました。それを見届けた私はかぎ煙草入れの蓋を閉じて懐にしまってから手と服を軽くはたき、椅子に引っ掛けていたサマーウールのジャケットを着込んでお部屋のドアへと向かいました。空腹を覚えたので、気分転換も兼ねて外に出かけることにしたのです。
扉に向かう途中、“彼”のいた場所が目に映ったので、とっておきのウインク(毎日の練習を欠かしていないこの仕草には自信があるんですよ)と一緒に葬送の言葉を放り投げておくことにしました。
───あなたの魂に安らぎあれ。
誰ぞの勝手な都合で産み落とされた挙句、わずか数分で河童の屁よろしく“あぶく”と変じた彼にも《魂》なんて御大層なもんがあればの話ですがね。
*
かつての“ねぐら”であったスラム街で四半世紀ばかりを過ごした後、そこを引き払ったパチュリー様と私は海を越え、ちょいと前には新大陸などと呼ばれたところへ居を移しておりました。
現在の私は大陸からの移民の子孫、ウィンディア・ディオールを肩書としております。ちんけな悪魔風情が名乗るのにしては中々に小洒落たもので、私としては大変に気に入っております。そしてパチュリー様はフォレット・ディオールを名乗っておられ、こちらは書類上では私めの姉という扱いです。“かりそめ”のものとはいえ、パチュリー様と姉妹の関係になるというのは、奇妙といいますか“くすぐったい”といいますか不思議なものです。なお腰を落ち着けるまでの間に“ちょいしたドタバタ”もあったのですが、そこら辺に関しては割愛させていただきます。話したところで面白いもんではないですから。
かくて新たな拠点を足がかりとし、影に日向にコツコツと地道な魔女稼業やら悪魔商売に励むこと早、一世紀。時を経ようと時代をまたげど《魔女》のやることなすことに変わりなく、私の本当の肩書の頭から『小』の字が抜けないのも相変わらず。そして数こそめっきりと減りはすれども夜闇に目を凝らせば、そこに潜みし人外の影を見受けるのもまたしかり。昔に比べて随分と快適になった世界の表と側と裏の面とを、そのときその時の都合時勢に合わせて行ったり来たりを繰り返し、その移ろいをときに微笑ましく思いときに斜めに見やって嗤いつつ、私らは細々と慎ましく生きているのでした。
*
仕事場兼・仮の住まいとなっている建物(当然のことながらこの物件も我が雇い主様の持ち物です)の位置する小道を出て広々とした表通りに足を運んだ私は軽食の屋台でサンドウィッチとカフェオレを買い、それをかじりながら立ち並ぶブティックのショーウィンドウを覗いて回ります。言うまでもなくちょいとばかり前に大ヒットした映画の冒頭シーンの真似っこですが、銀幕の妖精とまで謳われた大女優がやってこそ絵になるシーンを、こんな小悪魔風情が真似て様になるかどうかまでは知りません。
空になった容器を屑籠に放り込み、私はのんびりとした歩調でブティックを“はしご”してあてもないそぞろ歩きを続けます。本日快晴雲ひとつなく風は穏やかにして絶好のお散歩日和なり。こんないいお天気に、お部屋に閉じこもって仕事だなんて間違っている。小悪魔の身の丈にあった自堕落な考えでしばらくの間、“のんべんだらり”と歩いているうちに気分も晴れてきたので、一休みするため馴染みのカフェ-に足を運びました。今日は天気も良いのでオープンカフェの席を利用することにでもしましょうか。ついでとばかりに近くで開いていた新聞のスタンドで今日の朝刊をいくつか買い込み、オーダーした珈琲とケーキのセットが届くまでそれらに目を通していきます。先にも述べましたがところ変わって時代も変われど人の本質(表に現れる営みはさておいて)にさしたる変化が表れないように、人ならぬ小悪魔のやることなすことにまで変わりはないので。主に政治と経済面を中心にして、気になる記事を片っ端からチェックしていきます。
───速報:湾岸一帯を牛耳る犯罪結社『夜叉』が壊滅、組織指導者の消息は不明。内部抗争が原因か───ならぬかんにん柿はタンニン。タブイ製菓の柿ドロップ───白昼の悪夢!? 首都上空を襲う超巨大可変美少女型戦闘機の影。迎撃部隊責任者は語る『戦車出せ!戦車!』───運勢判断から腰痛の治療までお悩みすっぱり解決いたします。『ふわふわエレンの魔法のお店』新装開店───EVAC INDUSTRY本社にて大規模爆発事故、開発実験中のトラブルとみられ生存者は絶望的との見方───新彗星発見、正式名称は『京子京子=エミリオエミリオ=ルー・ガルシア彗星』に決定───
……ふーむ、これといって目新しい事件もなさそうですね。すべて世は事も無く何も無し、ときたものです。めぼしい記事を読み終わると注文していたケーキセットが運ばれてきたので私は新聞紙を畳み、代わってフォークを手にしました。昼下がりのやわらかな日差しの中ケーキと珈琲に舌鼓を打つ、この小市民ならぬ小悪魔にふさわしいささやかなれども至福の時間。この時点で私のちっぽけな脳ミソのスペースのどこからも、少し前に無残な最期を遂げた出来損ないの人形のことなど、童話に出てくるイヤミな笑い猫のごとくに消えてなくなっておりました。
*
お腹の虚しさは心の虚しさとでもいうのでしょうか、都合二杯の珈琲と三つのケーキを平らげてすっかりリフレッシュした私は仕事場へ戻るべくカフェ-を後にしました。ついでとばかりに我が雇い主様へのお土産として、いくつかのケーキを包んでもらうのも忘れません。もっともパチュリー様はお食事を必要となさらない方なので、最終的なこれの行き着く先は私の胃袋なのですけれど。
途中で見かけた野良猫をからかったりしながら鼻歌なぞをお供に歩くことしばし。活気あふるる街のメインストリートからやや外れた裏通りに建つ、頑丈そうな造り以外には特に目立つところもない地上4階建ての“ちんまり”した雑居ビルに戻った私はその扉をくぐり、清潔ではあるけれども居心地の悪い静けさに満ちたエントランスから古風なデザインのエレベーター(なんと扉が格子戸式というアナクロ具合)を使って3階へと上がりました。このビルは2階が健康食品を扱っているという設定のペーパーカンパニーが入っているテナント、4階が私の勤め先ということになっている会社の社宅という扱いで、表向き私とパチュリー様はこの社宅に住み暮らしているということになっております。ただしパチュリー様はこちらに引っ越してからこっち、ずっと6階から上に引きこもっておいでですが。4階建てじゃないのかという些細な疑問には、今更なので答える気にはなりません。
訪問者の識別装置も兼ねたエレベーターを出て、細長くて狭いホールをまたいですぐのところにある扉に手をかけた私は、その脇ににかけてある真鍮製のプレートに目をやりました。
ディオールFPC───この会社の名前です。主な業務は個人向けの投資運用と投資助言業、各種金融商品の仲買い等々。派手な実績こそないものの、市況のいかんに関わらず少ない手札でも確実なプラスのリターンをもたらすということで、その筋においては知る人ぞ知るくらいの知名度を誇ってはおりますが、それをのぞけばごくごく普通の零細証券会社でございます。
無論それらが世を忍ぶ表の顔で、メインの業務はあくまでもパチュリー様から任された資産運用にあるのは言うまでもありません。そちらの内容に関しては裏の部分で繋がった同業社や複数のダミー会社を通じての株価操縦に仕手相場、果てはパチュリー様謹製のスパコンによる超々高速取引での値動き操作といった、“すれすれ”どころか“がっつり”違法な部分があるのはご愛嬌。表の顔における堅実なる運用実績は、あくまでもその“おこぼれ”みたいなもんだったりします。
場末会社には似つかわしくない重厚な樫造りの扉を開けた向こう側では、さして広くはないものの小奇麗なオフィスが広がっていました。普段のこの時間だと、社員の半数以上は営業や外回りに出ているという事になっているので、デスクが埋まっているのは全体の3分の1程度。この手のオフィスにゃつきものな、タバコの煙も上がらなければ他愛もないお喋りをする者もいない、整理も整頓も“きっちり”とされてはいるけれど活きた気配も感じられない、近いものをあげるなら真昼の墓場のようなオフィスを突っ切り、一番奥に“でん”と構える恰幅の良い男性───書類上ではこの会社の社長であり私めの叔父という役どころの人物に形ばかりの挨拶をして、私はお部屋の隅っこに目立たぬよう配置された事務室に入りました。表向きこの会社には、さきの『叔父』の縁故で事務員として雇われているということになっております。
扉を閉めると同時に部屋そのものに《印刷》された識別・保安装置が起動、室内が外界から完全に隔離されたのを確認した私はオーダーメイドのジャケットを脱いで扉横のハンガーに掛けました。お土産の詰まった紙箱は部屋の隅っこに置かれた冷蔵庫に突っ込みます。その冷蔵庫からミネラルウォータの瓶を一つ取り出し、軽く首や肩を回して体をほぐした私は今日の“お仕事”を片付けるため机に向かいました。
一見するとどこにでもある安物、その実、人間工学に基づいた(悪魔が使うのに?)特注品のエグゼクティブチェアに腰掛け、卓上に空気中の浮遊物質と電子で組み上げたディスプレイを展開。そこに表示される各国のマーケットのリアルタイム情報や、ここをはじめとした各関連会社からの業績報告等を読み取りこれからの動向を決定していきます。なんで一介の事務員風情がこんなことをしているのかといえば、それはこの会社を実質切り盛りしているのが私だからなのです。
というのも実はこの会社、社長以下の全員が元を正せばそこいらで拾った身元不明のアル中だのヤク中だのといったジャンキーへ適当にでっち上げた経歴と戸籍をくれてやり、それらに基づいたウソ記憶をお脳のミソにプリントした連中だったりするのです。また関連するダミー会社にしたところで幹部以上の役員はこれの同類で、当然のことながらこんな連中に事業方針の決定だの投資判断だのを下せるわけもなく……という以前に“おつむ”がすでにマトモにものを考えられないので裏から私がここを仕切っているというわけです。どちらかといえば私のような経歴も不確かな小娘───の見てくれをした“もの”───が会社を運営するという不自然さを誤魔化すために用意された、トカゲの尻尾も兼ねた隠れ蓑というのが正しいのですが。
なお気になるお給金は歩合制で、最終的な実績の最大2%ほどが私の取り分になります。運用の分母が桁外れに大きいので、その儲けはワライダケを食べたところでこうはならじというほどのものでして、ほんの一世紀前まで溝泥を這いずるネズミや野良猫と大差なかった小悪魔風情が、ずいぶんと御大層な出世をしたもんだというべきではありましょう。どれほどのご身分になったとて、いっかな頭から『小』の字が抜ける気配がないのはさておいて。
*
お部屋に篭もって電子画面とのにらめっこを続けることおよそ2時間弱。椅子の背もたれに身を預け、ワインレッドのシルクタイをこころもち緩めて軽く一息ついた私は今日のお仕事を終えることにしました。ここだけ切り取ると給料泥棒か穀潰しといった有様ですが、実際のところ“お仕事”などといったところで頭である私のやることなど実はそんなに多くないのです。動向やポジションをある程度まで決定してしまえば、それ以降の動きや繋がった各方面への指示等の細かなスケジュールとその管理は我が魔法工房が誇る(といっても誇る相手もいませんか)電子頭脳がすべて調整してくれるし、それに従って実際に手足を動かすのは顔も知らない末端の方々の役目なので楽なものです。まこと素晴らしき哉、ぶるじょわじぃ。
瓶に残ったお水を飲み干した私は目頭とこめかみの辺りを軽く揉んでから立ち上がり、魔力を込めた指をディスプレイに突っ込みました。僅かな抵抗さえなく“ずぶり”と沈んだ指を何度か軽く動かし、お目当てのものを引っ張り出します。電子の水底から引き揚げられたのは淡い燐光を放って震える不定形の物体。パチュリー様への報告データが詰まった高密度情報塊です。その四方を摘んで伸ばして引っ張って、紙のように薄くしてからバインダーにはさみ、冷蔵庫から例のお土産を取り出した私は室内の動力(『電力』ではない)をシャットダウンして事務室を出、《会社》を後にします。もちろん、社内に残っている方々に微塵の心もこもらぬ挨拶をするのも忘れません。皆様、本日もお疲れ様でした。外部刺激に対して、用意されたパターンに応じたリアクションの取捨をしているだけの息するマネキン相手とはいえ礼儀を欠かしてはならないのです。
お土産を手にふたたびエレベーターに乗った私は、操作パネルにずらり並んだボタンを一定のリズムと順序に添って押していきました。別に手癖と頭の悪い餓鬼がよくやるイタズラでもなければ、仕事のストレスでお脳のミソをやられたが故の奇行というわけでもありません。パチュリー様がいらっしゃる階層へと上がるためにはこの操作パネルで、一定時間に決められたパスワードを打ち込む必要があるのです。なおこれまた少しばかり前に観たスパイ映画からヒントを得たこのギミック、パチュリー様に言わせれば無駄もいいところ(今の私ならテレポーテーションもさして難しくはないので)などと不評をいただいてるのが残念なところです。私は気に入ってますが。
たっぷり10分ほどの時間をかけて停止したエレベーターの扉が開くと、そこに拡がるのは重苦しく沈殿した闇と停滞した空気───そして果てなき書棚の列。右を見ても左に視線を巡らせても上に首を向けようとも、一向に果てが見えぬこの書物の山脈こそは、かつてパチュリー様が長年に渡り蒐集し、あるいは自ら書き記した魔導書が並ぶ図書館です。
もっとも魔道書に含まれる諸情報を電子化させる技術を確立させた今現在、肝心の“中身”(そこに込められる《禁忌》や《魔力》も含む)は総てデジタイズされて我らが魔法工房の最深部に鎮座するビッグコンピューターに保管されているので、ここに置かれているのはあくまでもその残りカスみたいなものですが。したがって並んでいるものの中には魔法とは無縁の、パチュリー様が気まぐれで購入した書籍やら私が許可をもらって置かせていただいている漫画に娯楽品などもあったりします。まるでどこかの遺跡を思わせる重厚な石造りの棚に置かれた、魔法をかじったものならば垂涎の的というべき書物に混じって、“ぺらい”ペーパーバックだのビスケットの箱だのビデオゲームだのが並んでいる様は中々にシュールなものです。
───ちちんぷいぷい
今や残骸と成り果てた昏い図書館の中、魔力を乗せた声が小さく響く。かなり適当な響きの呪文(こんなんでも一応は由緒正しい呪文だそうですが)を唱え、お目当ての場所へ位相を繋げます。なお私が使う呪文はその日の気分次第で、アブラカタブラオープンセサミ痛いの飛んでけチンカラホイと、乙女心か秋空かさもなきゃ猫の目ン玉かというほどにコロコロ変わったりします。所詮、呪文なんてもんは術の指向性を補う程度の役割程度な上に、そも『技術』としての魔法は使い手の技量と魔力こそが最終的にモノを言うので、割といい加減な部分も多かったりするのです。
繋げた空間を渡ると、先程まで体中にまとわりついていた粘液質な闇と空気はウソのように消え失せ、変わって柔らかな光に満ちた場所に出ました。同時に私の足元から影が消えて失くなります。全方向からまったくの均一に光が差し込んでいるのです。どこまでも続く広くて真っ白な、そして何もない空間。丸みを帯びて完結する《外界》と違い、原理的に“果て”がないので地平線さえも存在しえぬ《お部屋》を“ぐるり”と見渡し尋ね人を見つけた私は次なる魔法の詠唱を行いました。
───なまむぎなまごめなまたまご
*
「実験、しくじったわね」
だだっ広いだけの空間にただひとつ、“ぽつん”と置かれた玉座の形をしたでっかい椅子に、手にした書物へ視線を落とした姿勢で腰掛けたパチュリー様は、姿を現した私へ一瞥もくれることなく開口一番おっしゃいました。こちらに居を構えてからこっち、パチュリー様はこうして日がな一日、《部屋》から一歩も出ることさえなく椅子と一体化したように書物と向い合って過ごされていらっしゃいます。
……といいますか、何度かこの《お部屋》に来た時の記憶が今のお姿と完全に一致しているところをみるに、本当に微かに動いてさえいないのかもしれません。ここがチリひとつ存在しない完全クリーンルームだからよいものの、そうでなければ今頃、全身が積もりに積もったホコリまみれになっていたことでありましょう。椅子の座り心地を考えると、お腰にもあまりよろしくはないですね。
出合い頭の一言に顔にこそ出さなかったものの、私は鼻白まずにはいられませんでした。その通りですが、よくお判りで。監視カメラででも覗いてらっしゃいましたか。
「この建物は私の《世界》、知らぬことなどあるものですか」
ははぁ、そういうことでしたか。胸中の動揺から立ち直るため私はわざとらしい仕草で頷いてみせました。より正確にはこの建物自体がパチュリー様と電子的あるいは霊的に繋がった、もうひとつの《身体》のようなものなのでしょう。私は文字通りの意味でこの方の“掌の上”で生きているということになります。しかしそれだと私生活の“あれやこれや”も筒抜けというわけなので、ちょいと恥ずかしいものですね。私のおどけた態度を微塵も気にも留めず、パチュリー様は書籍から目を離さぬまま独り言のように返されました。
「それくらいで恥じらうほど“やわ”な面の皮じゃあないでしょうに。それに安心なさい、貴方のプライバシーに関してはフィルタリングしてある」
わざわざ知りたくもないし興味もないからね、そんなもん。温かいわけでも、ましてや冷たいわけでもない、心の底からどうでもよいのが判る声。まあそうでしょうね、象が足元で踏んづけられた蟻に目を向けたりなぞしないように、この方にとってたかが小悪魔一匹が何処で何をしでかそうが、無害であるかぎりは心底どうでもよろしいのです。
「それで、何か用でもあったのかしら?」
パチュリー様から面倒くさそうに訊ねられた私は例の情報塊を取り出しました。本日はお預かりしている《会社》の定例報告にあがったのですよ。先月の“あがり”と今月からの大まかな方針についてのものですので、一応はお目を通してくださいね。声と指とに魔力を込めた私が情報塊を放ると、それは空中で蝶の形になり“ひらひら”といまいち頼りない動きでパチュリー様のところに向かい、何度か周りを旋回してからそのお身体に吸い込まれました。
情報塊を取り込んたパチュリー様は少ししてから微かに目を細めました。
「ふうん、大したものね」
おそれいります。しかつめらしい態度で一礼すると、パチュリー様はここではじめて顔を上げ、私に頷いてみせました。
「この定時報告、来月からはもう要らないわ。これから先の運用はあなたの好きなようになさい」
───はあ。突然のこ言葉に私は思わず間の抜けた声を出してしまいましたが、それも致し方なし。なにせこれはパチュリー様の資産(人脈や会社も含めた)の総てを私に委ねると仰ったも同然なのですから。下町の道徳屋が好むが如き陳腐な警句ではありますが、うまい話には裏がある。私は非礼を承知で若干、探るような声音で確認を取りました。本当によろしいんですか。
「構わない。今の仕事を任せるようになってからずいぶんと経つ。もう私が一々、指示を出したり確認を取る必要もないでしょう」
その間、さしたる“しくじり”もなく成果をもたらしてもいる。私の目に狂いはなかったわけだ。語るパチュリー様の声に、珍しくこめられた感情を表現するのなら満足であったでしょうか。これはもしかして褒められているのでしょうかね。
「そうよ。いつだったか同じようなことを言った気がするのだけれど、私だって褒めるときは褒める。実に良い拾い物だったわよ、あなたは」
手放しの賞賛ときたものです。名にしおう魔女からのお褒めの言葉は嬉しくないわけではないですが、それでも思いもかけぬことに私は居心地悪げに視線を彷徨わせてしまします。そんな私を横目で伺うパチュリー様の目元と口の端の位置が、意地悪そうな角度に変わられました。
「とはいえ《魔法使いの弟子》としては、まだまだ未熟もいいところだけれどね。一世紀近く経って、いまだ錬金術の初歩すら踏破できんのはいかがなものか」
これからは寄り道もほどほどにして研鑽を積むように。“ぴしゃり”と言い渡し、パチュリー様は再び手元の本へと視線を戻されました。手厳しいことで。
「褒めることはあっても、甘やかしたりまではしないもの」
左様で。言いながら話の合間合間にパチュリー様が“けほけほ”と、《魔女》の肩書には似つかわしからざる可愛らしい咳をはさむのを、私は何度やっても間違う計算式に頭をひねる学生のような気分で見やりました。
先にも述べた通り、この方の身体の大部分は性能のよい人工物と交換されているので、今や病弱どころかその気になったらどこぞやのカートゥーンのヒーローよろしく、オリンピックに出れば金メダルでオセロが出来るほどの身体能力を得ているのです。当然のことながらその《身体》は衰えしらずの病しらず、いわんや喘息なんぞにゃかかりようもないはず。しかしパチュリー様は相も変わらぬ病弱な佇まいのまま、こうして喘息もちとしていらっしゃる。これは一体、どういうことなのでしょうか。
「それは私が『パチュリー・ノーレッジ』であるからよ」
《魔法使い》パチュリー・ノーレッジは貧弱な身体の病もち。このプロフィールがもはや私というパーソナリティを、それこそミームの部分から構成する要素に成り果てている。この《身体》に交換する前から薄々、気が付いてはいたのだけれどね。喉の調子を整えたパチュリー様は嘆息を吐き出して答えてくださいました。それは一体、どういうことなのでしょうか。
「これがただの体質や並の病気であるのなら、身体を交換してしまえば完治する───ところがこの《喘息》というやつ、私の根本的な部分に根ざしているのが困ったものでね」
それは身体が憶えている、ということですか。現在の症状はフラッシュバックのようなものであると?
「少し違う。どちらかと云うならば、これは《魔女》という生き物に共通の疾患かしら」
元を質すなら《魔法使い》そのものが健康とは縁遠い、それはあなたも承知しているでしょう。声には出さず、私はうなずきました。どこの民間伝承や文献を漁っても、一般的にイメージされる《魔女》というやつは腰のひん曲がった底意地の悪そうな顔した不健康そうなおばあさんたちというのがスタンダードなものです。パチュリー様の場合は腰の替わりに性格と性根が捻じくれ曲がっていて、意地も悪そうなのではなくこの上なく悪い不健康な美人の魔女になりますが。
「なにか物凄く失礼なことを考えられた気がするわね」
気のせいということにしといてください。それよりもその先を。催促する私へ心持ち温度の下がった視線(元から低い温度が氷点下にまで下がっただけですが)をよこし、パチュリー様は続けられました。
「……悪魔にせよ妖怪にせよ、《幻想》の側の住人はいつでも人の想いに振り回される。存在のグレードを上げたあなたが、より人間の想像する《悪魔》のイメージに近くなったようにね。世間一般の《魔女》の姿が、私の内面へと影響を及ぼしたところで不思議ではあるまいさ」
知らずの内に溜め込んだ、もはや概念とでもいうべきそのイメージと同居するうちに、今やその悪想念は私を根幹から稼働させるための要素、あるいは器官とまで成り果てていた。こうなってはもう、どうしようもない。もしも私が魔法の表面のみに触れるだけの、並もしくは普通の魔法使い程度であったなら、イメージに引きずられることもなくここまで悪化はしなかったかもしれんがね。
「したがって、私が私───『《魔法使い》パチュリー・ノーレッジ』で在り続けるそのかぎり、この悪想念とは縁が切れない」
例えこの身体を全て、それこそ血の一滴から脳ミソにいたるまで取り替えようとも、あるいは安手のSF小説よろしく人格だけを取り出してコンピューターにでも移植してみたところで、やはり《パチュリー・ノーレッジ》は喘息持ちの死に損ないとしてのみ存在し続けることでしょうさ。珍しく長広舌をふるったせいでしょうか、パチュリー様は少し疲れたような声でした。
しかしまあ、これは私の予想を遥かに超えた有り様ではありました。今のパチュリー様の状態は、例えるのならバグ依存で稼働するプログラムとでも云うものでしょうか。だとしたら根が深いどころの話じゃありません。生き続けるその限り息の苦しみも続くとは……想像をしたくもありません。
ですがそれならば逆に言うのならパチュリー様が今の、“《魔法使い》としてのパチュリー・ノーレッジ”を止めれば解決できるのではないでしょうか。そのようにお考えになったことはないのですか。あまりにも“うんざり”となるような話をされたからでしょうか、よせばいいのに気分を変えるため私はしないでもいい質問もしくは提案をしてみました。
「愚にもつかない寝言とはこのことね。せめてベッドに入ってから言えばよいものを」
この小悪魔、どうやら地雷を踏みぬいたらしい。パチュリー様のシャーベットでもこしらえられそうな視線の温度が、いまや顔面全体にまで拡がっていらっしゃるのを見て、私は全身の血の気をポンプで急速に吸いだされたような気分を味わう羽目になりました。
「生き方はいくらでも変えられる。そのときその時の時勢潮流に合わせて転身変節思いのまま、必要に応じて中身外身さえ変えてきたように主義主張の朝令暮改あたりまえ───いわんや他人どころか自分を騙すことすら抵抗なんぞありゃあせん」
しかし生き様までは変えられんわな。パチュリー様は全身を強張らせる小悪魔に、というよりはむしろ自身に言い聞かせるように言われました。
「私は死ぬまで───いや、死んでも化けても生まれ変わっても《パチュリー・ノーレッジ》をやめられない、やめるつもりもない」
それがために不具合を託つ羽目になっても、ですか。私がかすれた声を絞りだすようにして問うと、パチュリー様は表情にも仕草にも、一片の迷いも衒いも躊躇も見せず言い切られました。
「安い対価ね」
*
「ところでさっきから気になっていたのだけれど、その紙箱は一体、何かしら?」
言われて私は、今の今まで失念していた品物のことを思い出しました。こいつはパチュリー様へのお土産ですよ。最近、私が“ひいき”にしているカフェーのケーキをいくつか包んでもらったのです。ちなみにチョイスは私のお気に入りの中から選びました。チョコレートとチーズのケーキ、それに季節の果物のタルトです。よろしければ、どうぞ。
「お土産ねえ。私にゃ食事は必要ないのは知っているでしょうに」
それは存じておりますが、普段からお世話になってる雇い主のところへ赴くのに毎回、手ぶらで参じるのはいかがなものかと思った次第でして。それに下手に置き所に困るものと違って食べ物なら、不要であれば私が片付けてしまえばよいだけなのですし。といいますか、どうせパチュリー様はお食べになられないのを見越した上で買ってきたわけですので、受け取っていただけなくとも私にゃいささかの痛痒もないのですが。
私の説明を聞いたパチュリー様は手にした書籍に金細工の栞(いつだったか私がプレゼントしたものです)を挟んで閉じられました。
「ふうん……それならせっかくだし、頂いておこうかしら」
え、お食べになられるんですか。思いもよらぬ返しに私が思わず訊き返すと、パチュリー様は不思議そうなお顔をなされました。
「あら、そんなに意外かしら。私だってたまの気紛れで食事をしてみたいと思う時くらいはある」
それとも、なにか問題が? そのようにおっしゃられては、もはや何も言えませません。どうやら今回はこのお土産が私のお腹に納まることはなさそうです。私が内心の残念さを表に出さぬよう気をつけつつ、渋々ながら紙箱を献上すると、パチュリー様は底意地の悪そうな笑みを浮かべられました。
「───とはいえ全部を一人で片付けるのは難儀だし、あなたにも半分は手伝ってもらいたい」
それはもう、喜んで。泣いた鳥ならぬ小悪魔がもう笑う。たちまちのうちにご機嫌となった私に、いつもの魔法で書籍を仕舞ったパチュリー様が言いました。
「ついでだし、久しぶりにお茶も淹れてもらおうかしら」
*
お茶の用意を仰せつかった私は、一旦パチュリー様の“お部屋”を出て、この建物の6階にある(便宜上6階と称しているだけで、実際のところは位相から異なる場所に存在している)私の部屋に向かいました。パチュリー様が普段、引きこもっておいでになるお部屋には図書室や魔法の実験室、重水や各種薬剤の精製施設から粒子加速器まで揃えられてはいるのですがキッチンに類するものはないのです。
台所に着いた私は隅っこで放ったらかされていたワゴンを引っ張りだし、そこにポットやカップ、カトラリーなどを並べていきました。手入れを怠らなかったお陰で(ただしお手入れをしているのは私じゃありません)、ワゴンにも食器類にも、ホコリが付着するようなことはありません。食器を並べ終えた私は次にパチュリー様の好みと用意されたケーキとの組み合わせを思い浮かべながら、どの茶葉が良いかを考えました。なお私の分は珈琲です。パチュリー様は焦げ臭い黒苦水などとおっしゃって香りを嗅ぐどころか目にするのも厭がられますが、私としては紅茶よりもこちらの方が好みなのです。
“あれやこれや”と試行錯誤の末、一通りの準備を終えた私は再度、パチュリー様のお部屋へ向かうべくワゴンを押し出すために取っ手に手をかけ、そして眉をひそめました。
伸ばした手の先、ワゴンの真ん中に先程までいなかったはずのものが、“いる”
一匹の、まるで鮮血を固めたように真っ赤な真っ赤な蝙蝠───
考えるよりも早く体が動いてくれたのは、我ながら自分を褒めてあげたいところです。私は一息に数mほどを飛び退り、予期せぬ侵入者から距離をとりました。たかが蝙蝠一匹が紛れ込んだだけで何を大仰な、などと思ってはいけません。この建物はいかなる形であろうとも侵入するものを拒み、万が一にも入りこんだものは野放しにはしておかぬ鉄壁のセキュリティを備えているのです。それは目の前の小動物にだって適用される。それを潜り抜けてここにいるという時点で、このちっぽけな生き物(?)が並ではないのは解ろうというものです。
着地と同時に懐に手を入れた私は携帯式の端末から警報装置を起動させ、次に金色に光る鉄砲を取り出しました。金色云々というのはそういう鍍金がなされているのではなく、素材が純金だからです。銘は“デスペラード”、とある一件で手に入れた世界で一丁こっきりの私だけの銃。黄金銃を持つ女と呼んでくださって結構ですよ。マカロニウエスタンのガンマンよろしく、紫電の疾さで銃を手にした私は撃鉄を起こして狙いをつけました。映画を見ながら練習を重ねた、わずか0.3秒の抜き打ちです。鉄砲の腕にはそこそこの自信はありますし、なによりもこの距離なら外しっこありません。
私は狙いをつけたまま、慎重に相手の出方を伺いました。警報に気がついたパチュリー様がこちらに来てくださればいいのですが、そればかりをアテにはできません。面倒くさいなどと考えられてしまえば、パチュリー様は私を見捨てるくらいは平気でやりますので。ここはやはり、三十六計逃げるに如かず。相手を刺激しないようにして魔法でとんづらしてしまうのがよろしいのでしょう。
私が必死の思いで次の手を講じている間、件の蝙蝠は微動だにせずこちらを“じっ”と見つめていました。それはまるで滑稽なアクションで観客を笑わせる道化を見るようなものを私に感じさせました。気のせいであってほしいとは思うものの、やはり気のせいではないのでしょう。
なにせ、“きい”とちいさくひと鳴きした、やはり小さなその口に浮かぶのは、見間違えではなく嘲弄の微笑みであって……
*
それが耳元まで裂けるのを見届けたところで、私の意識は紅の霧に包まれた。
悲鳴の発生源を求めていけば、少し離れたところにうずくまる少年───の形をした“もの”姿が目に映る。その身体のあちこちからは白煙が噴き上がり、皮膚は沸騰したミルクのように“ぼこぼこ”と泡立ちながら崩れてはその下からまた新たな皮膚を生み出しまた溶けるというサイクルを、まるで壊れた映写機で流した映画のごとくに繰り返しています。本来の循環を外れた構成組織の異常活性、それに平行して同規模の崩壊が起こっているのです。
ブラドベリイ、やっぱりあなたじゃだめでしたね。さながら炎天下の日差しに晒されたソフトクリームのような有り様の“彼”を白けた気分で見下ろしてわざとらしくつぶやいた私は、腰掛けた椅子の程よくクッションの効いた背もたれに身体を預け、お口に手を当てながら“ふわぁ”とあくびをひとつ零すのでした。
絵面だけ見ると誤解を受けそうなので説明しておきますが、今ここで行われているのはなんぞ“いかがわしい”行為でも何でもなく、あくまでもただの失敗に終わった実験、その顛末に過ぎません。
というのも私、最近パチュリー様にならい《魔法使いの弟子》としてのグレードを上げるべく錬金術の基礎研究に手をつけるようになったのです。で、私の目の前で火中に飛び込んだ羽虫よろしくのたうち回ってる少年ですが、“彼”はその実験によって産み出されたホムンクルス───正確にゃその紛い物───なのです。名前はブラドベリィ、生後(ロールアウト)1分弱で享年はどれだけ頑張ってもあと5、6分くらい。今のうちに戒名でも考えておくべきでしょうか。
ホムンクルスとは手っ取り早く言うと、錬金術を用いて産み出された人造人間のことです。人造“人間”などと呼ばれていますがその実態は妖精のそれに近く、云わば“技術概念を存在素体とした妖精”というべき存在でもあります。技術の結晶という概念に直結した出自故、彼乃至彼女らは生まれながらに知りえぬものはなにもない無限の知識を備えていると云われ(全知の辞典みたいなもんと思っていただければいいでしょう)、それを生み出し知識を我が物とすることは錬金術の重要なテーマの一つなのです。ただし全知であっても全能ではないので、その知識を人の身で理解するには創る以上の労力を必要とするそうですが(思考形態や伝達手段含めた生物としての根っこが、ホモ・サピエンスのそれと致命的に違うため。解読のために一生を費やしても報われぬ方もいるそうな)。
本来のホムンクルスとは創世時の世界に見立てた実験機器の中で創られるものなのですが、あいにくながら今の私にゃそこまでの技術はないので(なまもの分野は苦手です)、まずは前段階になるバッタモンの製造を行っております。すなわち機械的アプローチによるダミー、軽合金の骨格に生体素材を主体にした人工筋肉と皮膚をまとわりつかせ人工知能を搭載した自動人形です。見ての通りの失敗ですが。おそらくは生体素材の維持と恒常を担っている器官と、そこからフィードバックを行う感覚諸器官のマッチングでもしくじったのでしょう。“彼”の少し前に作った完全機械式の人型ラジオはそれなりの成功をみたので、今回もそこそこ程度には上手くいくかとも思ったのですが……いやはや、世の中そうは上手くいかんものであります。
しかし出来損ないとはいえ、この子を造るためにはそれなりの手間暇をかけたというのに、それがすべて“ぱぁ”になってしまったのはちと惜しい。
悲痛な声を上げてのたうち、救いを求めるかのごとくに私の名を(偽名ですが)呼ぶ少年の姿を“ぼけーっ”と眺めながら懐に手をやり、私は純金のチェーンで繋がれた嗅ぎたばこ入れを取り出しました。懐中時計を模したそれの、薄闇の中でさえ仄かに光りを放っているような透明度の高い瑪瑙の輝きに私は陶然となるのを禁じえない。本当に良い物はいつ見ても、よいものです。
いまだに“ぎゃあすか”とやかましい声はこの際、意識の端っこにでもうっちゃっておくことにして、私は嗅ぎたばこ入れの開閉スイッチになっている竜頭の部分を軽くひねって蓋を開け、中に収められている茶褐色の塊をひとつまみ。それを鼻先にもっていき指先で擦り合わせ、立ち上る芳しい香りを愉しむのでした。余談ですがこのタバコは私手ずからのブレンドであったりします。この嗅ぎたばこ入れをもらった当初は市販のもので満足していたのですが、どれほどの鮮烈な刺激快楽とていつかはその光輝を失うもの。次第に物足りなくなった私は自身の好みに合わせたブレンドをするようになったのです。しかしそこは『小』が付くとはいえ悪魔の嗜好品。材料に擂り潰したペヨーテやら辰砂をはじめ各種の秘薬妙薬霊薬魔薬やらを混ぜ込んだ代物なので、真っ当な人間が一吸いした日にゃよくて頭が“ぱっぱらぱー”、悪けりゃあの世へ直行便な一品でございます。
耳障りな悲鳴が消えてなくなったのは、たばこ入れに指を突っ込むこと四度目のことでした。視線を戻せば火中に飛び込んだ羽虫よろしくもがいていた少年の姿もなく、かわりに“ぐつぐつ”と不気味に泡立つシチューみたいなものと、おそらくは崩壊を免れたらしい金属質な輝きの骨格やらコード・チューブなどが散らばるばかり。
神よ、あわれみたまえ。生命の無常と運命の無情、自身の無力に慟哭する老碩学のごとく……というにはあまりにも軽々しい嘆息を全身に拡がる倦怠感とともに吐き出した私は、椅子から立ち上がってもはや亡骸とさえ云えぬ残骸となった“彼”の元に足を運び、指にとったタバコを溶け崩れたその残滓へと振りかけました。ひとつまみ、ふたつまみ───振りかけるごとに、お風呂場にこびりついたカビみたくにしぶとく残っていた“彼”の痕跡が散らばる雲か消えゆく霞のごとくに“はかなく”なっていく。
指に残ったタバコがなくなったところで、彼の少年がこの世にあったという痕跡が微塵の名残さえ残さず綺麗さっぱり消えてなくなりました。それを見届けた私はかぎ煙草入れの蓋を閉じて懐にしまってから手と服を軽くはたき、椅子に引っ掛けていたサマーウールのジャケットを着込んでお部屋のドアへと向かいました。空腹を覚えたので、気分転換も兼ねて外に出かけることにしたのです。
扉に向かう途中、“彼”のいた場所が目に映ったので、とっておきのウインク(毎日の練習を欠かしていないこの仕草には自信があるんですよ)と一緒に葬送の言葉を放り投げておくことにしました。
───あなたの魂に安らぎあれ。
誰ぞの勝手な都合で産み落とされた挙句、わずか数分で河童の屁よろしく“あぶく”と変じた彼にも《魂》なんて御大層なもんがあればの話ですがね。
*
かつての“ねぐら”であったスラム街で四半世紀ばかりを過ごした後、そこを引き払ったパチュリー様と私は海を越え、ちょいと前には新大陸などと呼ばれたところへ居を移しておりました。
現在の私は大陸からの移民の子孫、ウィンディア・ディオールを肩書としております。ちんけな悪魔風情が名乗るのにしては中々に小洒落たもので、私としては大変に気に入っております。そしてパチュリー様はフォレット・ディオールを名乗っておられ、こちらは書類上では私めの姉という扱いです。“かりそめ”のものとはいえ、パチュリー様と姉妹の関係になるというのは、奇妙といいますか“くすぐったい”といいますか不思議なものです。なお腰を落ち着けるまでの間に“ちょいしたドタバタ”もあったのですが、そこら辺に関しては割愛させていただきます。話したところで面白いもんではないですから。
かくて新たな拠点を足がかりとし、影に日向にコツコツと地道な魔女稼業やら悪魔商売に励むこと早、一世紀。時を経ようと時代をまたげど《魔女》のやることなすことに変わりなく、私の本当の肩書の頭から『小』の字が抜けないのも相変わらず。そして数こそめっきりと減りはすれども夜闇に目を凝らせば、そこに潜みし人外の影を見受けるのもまたしかり。昔に比べて随分と快適になった世界の表と側と裏の面とを、そのときその時の都合時勢に合わせて行ったり来たりを繰り返し、その移ろいをときに微笑ましく思いときに斜めに見やって嗤いつつ、私らは細々と慎ましく生きているのでした。
*
仕事場兼・仮の住まいとなっている建物(当然のことながらこの物件も我が雇い主様の持ち物です)の位置する小道を出て広々とした表通りに足を運んだ私は軽食の屋台でサンドウィッチとカフェオレを買い、それをかじりながら立ち並ぶブティックのショーウィンドウを覗いて回ります。言うまでもなくちょいとばかり前に大ヒットした映画の冒頭シーンの真似っこですが、銀幕の妖精とまで謳われた大女優がやってこそ絵になるシーンを、こんな小悪魔風情が真似て様になるかどうかまでは知りません。
空になった容器を屑籠に放り込み、私はのんびりとした歩調でブティックを“はしご”してあてもないそぞろ歩きを続けます。本日快晴雲ひとつなく風は穏やかにして絶好のお散歩日和なり。こんないいお天気に、お部屋に閉じこもって仕事だなんて間違っている。小悪魔の身の丈にあった自堕落な考えでしばらくの間、“のんべんだらり”と歩いているうちに気分も晴れてきたので、一休みするため馴染みのカフェ-に足を運びました。今日は天気も良いのでオープンカフェの席を利用することにでもしましょうか。ついでとばかりに近くで開いていた新聞のスタンドで今日の朝刊をいくつか買い込み、オーダーした珈琲とケーキのセットが届くまでそれらに目を通していきます。先にも述べましたがところ変わって時代も変われど人の本質(表に現れる営みはさておいて)にさしたる変化が表れないように、人ならぬ小悪魔のやることなすことにまで変わりはないので。主に政治と経済面を中心にして、気になる記事を片っ端からチェックしていきます。
───速報:湾岸一帯を牛耳る犯罪結社『夜叉』が壊滅、組織指導者の消息は不明。内部抗争が原因か───ならぬかんにん柿はタンニン。タブイ製菓の柿ドロップ───白昼の悪夢!? 首都上空を襲う超巨大可変美少女型戦闘機の影。迎撃部隊責任者は語る『戦車出せ!戦車!』───運勢判断から腰痛の治療までお悩みすっぱり解決いたします。『ふわふわエレンの魔法のお店』新装開店───EVAC INDUSTRY本社にて大規模爆発事故、開発実験中のトラブルとみられ生存者は絶望的との見方───新彗星発見、正式名称は『京子京子=エミリオエミリオ=ルー・ガルシア彗星』に決定───
……ふーむ、これといって目新しい事件もなさそうですね。すべて世は事も無く何も無し、ときたものです。めぼしい記事を読み終わると注文していたケーキセットが運ばれてきたので私は新聞紙を畳み、代わってフォークを手にしました。昼下がりのやわらかな日差しの中ケーキと珈琲に舌鼓を打つ、この小市民ならぬ小悪魔にふさわしいささやかなれども至福の時間。この時点で私のちっぽけな脳ミソのスペースのどこからも、少し前に無残な最期を遂げた出来損ないの人形のことなど、童話に出てくるイヤミな笑い猫のごとくに消えてなくなっておりました。
*
お腹の虚しさは心の虚しさとでもいうのでしょうか、都合二杯の珈琲と三つのケーキを平らげてすっかりリフレッシュした私は仕事場へ戻るべくカフェ-を後にしました。ついでとばかりに我が雇い主様へのお土産として、いくつかのケーキを包んでもらうのも忘れません。もっともパチュリー様はお食事を必要となさらない方なので、最終的なこれの行き着く先は私の胃袋なのですけれど。
途中で見かけた野良猫をからかったりしながら鼻歌なぞをお供に歩くことしばし。活気あふるる街のメインストリートからやや外れた裏通りに建つ、頑丈そうな造り以外には特に目立つところもない地上4階建ての“ちんまり”した雑居ビルに戻った私はその扉をくぐり、清潔ではあるけれども居心地の悪い静けさに満ちたエントランスから古風なデザインのエレベーター(なんと扉が格子戸式というアナクロ具合)を使って3階へと上がりました。このビルは2階が健康食品を扱っているという設定のペーパーカンパニーが入っているテナント、4階が私の勤め先ということになっている会社の社宅という扱いで、表向き私とパチュリー様はこの社宅に住み暮らしているということになっております。ただしパチュリー様はこちらに引っ越してからこっち、ずっと6階から上に引きこもっておいでですが。4階建てじゃないのかという些細な疑問には、今更なので答える気にはなりません。
訪問者の識別装置も兼ねたエレベーターを出て、細長くて狭いホールをまたいですぐのところにある扉に手をかけた私は、その脇ににかけてある真鍮製のプレートに目をやりました。
ディオールFPC───この会社の名前です。主な業務は個人向けの投資運用と投資助言業、各種金融商品の仲買い等々。派手な実績こそないものの、市況のいかんに関わらず少ない手札でも確実なプラスのリターンをもたらすということで、その筋においては知る人ぞ知るくらいの知名度を誇ってはおりますが、それをのぞけばごくごく普通の零細証券会社でございます。
無論それらが世を忍ぶ表の顔で、メインの業務はあくまでもパチュリー様から任された資産運用にあるのは言うまでもありません。そちらの内容に関しては裏の部分で繋がった同業社や複数のダミー会社を通じての株価操縦に仕手相場、果てはパチュリー様謹製のスパコンによる超々高速取引での値動き操作といった、“すれすれ”どころか“がっつり”違法な部分があるのはご愛嬌。表の顔における堅実なる運用実績は、あくまでもその“おこぼれ”みたいなもんだったりします。
場末会社には似つかわしくない重厚な樫造りの扉を開けた向こう側では、さして広くはないものの小奇麗なオフィスが広がっていました。普段のこの時間だと、社員の半数以上は営業や外回りに出ているという事になっているので、デスクが埋まっているのは全体の3分の1程度。この手のオフィスにゃつきものな、タバコの煙も上がらなければ他愛もないお喋りをする者もいない、整理も整頓も“きっちり”とされてはいるけれど活きた気配も感じられない、近いものをあげるなら真昼の墓場のようなオフィスを突っ切り、一番奥に“でん”と構える恰幅の良い男性───書類上ではこの会社の社長であり私めの叔父という役どころの人物に形ばかりの挨拶をして、私はお部屋の隅っこに目立たぬよう配置された事務室に入りました。表向きこの会社には、さきの『叔父』の縁故で事務員として雇われているということになっております。
扉を閉めると同時に部屋そのものに《印刷》された識別・保安装置が起動、室内が外界から完全に隔離されたのを確認した私はオーダーメイドのジャケットを脱いで扉横のハンガーに掛けました。お土産の詰まった紙箱は部屋の隅っこに置かれた冷蔵庫に突っ込みます。その冷蔵庫からミネラルウォータの瓶を一つ取り出し、軽く首や肩を回して体をほぐした私は今日の“お仕事”を片付けるため机に向かいました。
一見するとどこにでもある安物、その実、人間工学に基づいた(悪魔が使うのに?)特注品のエグゼクティブチェアに腰掛け、卓上に空気中の浮遊物質と電子で組み上げたディスプレイを展開。そこに表示される各国のマーケットのリアルタイム情報や、ここをはじめとした各関連会社からの業績報告等を読み取りこれからの動向を決定していきます。なんで一介の事務員風情がこんなことをしているのかといえば、それはこの会社を実質切り盛りしているのが私だからなのです。
というのも実はこの会社、社長以下の全員が元を正せばそこいらで拾った身元不明のアル中だのヤク中だのといったジャンキーへ適当にでっち上げた経歴と戸籍をくれてやり、それらに基づいたウソ記憶をお脳のミソにプリントした連中だったりするのです。また関連するダミー会社にしたところで幹部以上の役員はこれの同類で、当然のことながらこんな連中に事業方針の決定だの投資判断だのを下せるわけもなく……という以前に“おつむ”がすでにマトモにものを考えられないので裏から私がここを仕切っているというわけです。どちらかといえば私のような経歴も不確かな小娘───の見てくれをした“もの”───が会社を運営するという不自然さを誤魔化すために用意された、トカゲの尻尾も兼ねた隠れ蓑というのが正しいのですが。
なお気になるお給金は歩合制で、最終的な実績の最大2%ほどが私の取り分になります。運用の分母が桁外れに大きいので、その儲けはワライダケを食べたところでこうはならじというほどのものでして、ほんの一世紀前まで溝泥を這いずるネズミや野良猫と大差なかった小悪魔風情が、ずいぶんと御大層な出世をしたもんだというべきではありましょう。どれほどのご身分になったとて、いっかな頭から『小』の字が抜ける気配がないのはさておいて。
*
お部屋に篭もって電子画面とのにらめっこを続けることおよそ2時間弱。椅子の背もたれに身を預け、ワインレッドのシルクタイをこころもち緩めて軽く一息ついた私は今日のお仕事を終えることにしました。ここだけ切り取ると給料泥棒か穀潰しといった有様ですが、実際のところ“お仕事”などといったところで頭である私のやることなど実はそんなに多くないのです。動向やポジションをある程度まで決定してしまえば、それ以降の動きや繋がった各方面への指示等の細かなスケジュールとその管理は我が魔法工房が誇る(といっても誇る相手もいませんか)電子頭脳がすべて調整してくれるし、それに従って実際に手足を動かすのは顔も知らない末端の方々の役目なので楽なものです。まこと素晴らしき哉、ぶるじょわじぃ。
瓶に残ったお水を飲み干した私は目頭とこめかみの辺りを軽く揉んでから立ち上がり、魔力を込めた指をディスプレイに突っ込みました。僅かな抵抗さえなく“ずぶり”と沈んだ指を何度か軽く動かし、お目当てのものを引っ張り出します。電子の水底から引き揚げられたのは淡い燐光を放って震える不定形の物体。パチュリー様への報告データが詰まった高密度情報塊です。その四方を摘んで伸ばして引っ張って、紙のように薄くしてからバインダーにはさみ、冷蔵庫から例のお土産を取り出した私は室内の動力(『電力』ではない)をシャットダウンして事務室を出、《会社》を後にします。もちろん、社内に残っている方々に微塵の心もこもらぬ挨拶をするのも忘れません。皆様、本日もお疲れ様でした。外部刺激に対して、用意されたパターンに応じたリアクションの取捨をしているだけの息するマネキン相手とはいえ礼儀を欠かしてはならないのです。
お土産を手にふたたびエレベーターに乗った私は、操作パネルにずらり並んだボタンを一定のリズムと順序に添って押していきました。別に手癖と頭の悪い餓鬼がよくやるイタズラでもなければ、仕事のストレスでお脳のミソをやられたが故の奇行というわけでもありません。パチュリー様がいらっしゃる階層へと上がるためにはこの操作パネルで、一定時間に決められたパスワードを打ち込む必要があるのです。なおこれまた少しばかり前に観たスパイ映画からヒントを得たこのギミック、パチュリー様に言わせれば無駄もいいところ(今の私ならテレポーテーションもさして難しくはないので)などと不評をいただいてるのが残念なところです。私は気に入ってますが。
たっぷり10分ほどの時間をかけて停止したエレベーターの扉が開くと、そこに拡がるのは重苦しく沈殿した闇と停滞した空気───そして果てなき書棚の列。右を見ても左に視線を巡らせても上に首を向けようとも、一向に果てが見えぬこの書物の山脈こそは、かつてパチュリー様が長年に渡り蒐集し、あるいは自ら書き記した魔導書が並ぶ図書館です。
もっとも魔道書に含まれる諸情報を電子化させる技術を確立させた今現在、肝心の“中身”(そこに込められる《禁忌》や《魔力》も含む)は総てデジタイズされて我らが魔法工房の最深部に鎮座するビッグコンピューターに保管されているので、ここに置かれているのはあくまでもその残りカスみたいなものですが。したがって並んでいるものの中には魔法とは無縁の、パチュリー様が気まぐれで購入した書籍やら私が許可をもらって置かせていただいている漫画に娯楽品などもあったりします。まるでどこかの遺跡を思わせる重厚な石造りの棚に置かれた、魔法をかじったものならば垂涎の的というべき書物に混じって、“ぺらい”ペーパーバックだのビスケットの箱だのビデオゲームだのが並んでいる様は中々にシュールなものです。
───ちちんぷいぷい
今や残骸と成り果てた昏い図書館の中、魔力を乗せた声が小さく響く。かなり適当な響きの呪文(こんなんでも一応は由緒正しい呪文だそうですが)を唱え、お目当ての場所へ位相を繋げます。なお私が使う呪文はその日の気分次第で、アブラカタブラオープンセサミ痛いの飛んでけチンカラホイと、乙女心か秋空かさもなきゃ猫の目ン玉かというほどにコロコロ変わったりします。所詮、呪文なんてもんは術の指向性を補う程度の役割程度な上に、そも『技術』としての魔法は使い手の技量と魔力こそが最終的にモノを言うので、割といい加減な部分も多かったりするのです。
繋げた空間を渡ると、先程まで体中にまとわりついていた粘液質な闇と空気はウソのように消え失せ、変わって柔らかな光に満ちた場所に出ました。同時に私の足元から影が消えて失くなります。全方向からまったくの均一に光が差し込んでいるのです。どこまでも続く広くて真っ白な、そして何もない空間。丸みを帯びて完結する《外界》と違い、原理的に“果て”がないので地平線さえも存在しえぬ《お部屋》を“ぐるり”と見渡し尋ね人を見つけた私は次なる魔法の詠唱を行いました。
───なまむぎなまごめなまたまご
*
「実験、しくじったわね」
だだっ広いだけの空間にただひとつ、“ぽつん”と置かれた玉座の形をしたでっかい椅子に、手にした書物へ視線を落とした姿勢で腰掛けたパチュリー様は、姿を現した私へ一瞥もくれることなく開口一番おっしゃいました。こちらに居を構えてからこっち、パチュリー様はこうして日がな一日、《部屋》から一歩も出ることさえなく椅子と一体化したように書物と向い合って過ごされていらっしゃいます。
……といいますか、何度かこの《お部屋》に来た時の記憶が今のお姿と完全に一致しているところをみるに、本当に微かに動いてさえいないのかもしれません。ここがチリひとつ存在しない完全クリーンルームだからよいものの、そうでなければ今頃、全身が積もりに積もったホコリまみれになっていたことでありましょう。椅子の座り心地を考えると、お腰にもあまりよろしくはないですね。
出合い頭の一言に顔にこそ出さなかったものの、私は鼻白まずにはいられませんでした。その通りですが、よくお判りで。監視カメラででも覗いてらっしゃいましたか。
「この建物は私の《世界》、知らぬことなどあるものですか」
ははぁ、そういうことでしたか。胸中の動揺から立ち直るため私はわざとらしい仕草で頷いてみせました。より正確にはこの建物自体がパチュリー様と電子的あるいは霊的に繋がった、もうひとつの《身体》のようなものなのでしょう。私は文字通りの意味でこの方の“掌の上”で生きているということになります。しかしそれだと私生活の“あれやこれや”も筒抜けというわけなので、ちょいと恥ずかしいものですね。私のおどけた態度を微塵も気にも留めず、パチュリー様は書籍から目を離さぬまま独り言のように返されました。
「それくらいで恥じらうほど“やわ”な面の皮じゃあないでしょうに。それに安心なさい、貴方のプライバシーに関してはフィルタリングしてある」
わざわざ知りたくもないし興味もないからね、そんなもん。温かいわけでも、ましてや冷たいわけでもない、心の底からどうでもよいのが判る声。まあそうでしょうね、象が足元で踏んづけられた蟻に目を向けたりなぞしないように、この方にとってたかが小悪魔一匹が何処で何をしでかそうが、無害であるかぎりは心底どうでもよろしいのです。
「それで、何か用でもあったのかしら?」
パチュリー様から面倒くさそうに訊ねられた私は例の情報塊を取り出しました。本日はお預かりしている《会社》の定例報告にあがったのですよ。先月の“あがり”と今月からの大まかな方針についてのものですので、一応はお目を通してくださいね。声と指とに魔力を込めた私が情報塊を放ると、それは空中で蝶の形になり“ひらひら”といまいち頼りない動きでパチュリー様のところに向かい、何度か周りを旋回してからそのお身体に吸い込まれました。
情報塊を取り込んたパチュリー様は少ししてから微かに目を細めました。
「ふうん、大したものね」
おそれいります。しかつめらしい態度で一礼すると、パチュリー様はここではじめて顔を上げ、私に頷いてみせました。
「この定時報告、来月からはもう要らないわ。これから先の運用はあなたの好きなようになさい」
───はあ。突然のこ言葉に私は思わず間の抜けた声を出してしまいましたが、それも致し方なし。なにせこれはパチュリー様の資産(人脈や会社も含めた)の総てを私に委ねると仰ったも同然なのですから。下町の道徳屋が好むが如き陳腐な警句ではありますが、うまい話には裏がある。私は非礼を承知で若干、探るような声音で確認を取りました。本当によろしいんですか。
「構わない。今の仕事を任せるようになってからずいぶんと経つ。もう私が一々、指示を出したり確認を取る必要もないでしょう」
その間、さしたる“しくじり”もなく成果をもたらしてもいる。私の目に狂いはなかったわけだ。語るパチュリー様の声に、珍しくこめられた感情を表現するのなら満足であったでしょうか。これはもしかして褒められているのでしょうかね。
「そうよ。いつだったか同じようなことを言った気がするのだけれど、私だって褒めるときは褒める。実に良い拾い物だったわよ、あなたは」
手放しの賞賛ときたものです。名にしおう魔女からのお褒めの言葉は嬉しくないわけではないですが、それでも思いもかけぬことに私は居心地悪げに視線を彷徨わせてしまします。そんな私を横目で伺うパチュリー様の目元と口の端の位置が、意地悪そうな角度に変わられました。
「とはいえ《魔法使いの弟子》としては、まだまだ未熟もいいところだけれどね。一世紀近く経って、いまだ錬金術の初歩すら踏破できんのはいかがなものか」
これからは寄り道もほどほどにして研鑽を積むように。“ぴしゃり”と言い渡し、パチュリー様は再び手元の本へと視線を戻されました。手厳しいことで。
「褒めることはあっても、甘やかしたりまではしないもの」
左様で。言いながら話の合間合間にパチュリー様が“けほけほ”と、《魔女》の肩書には似つかわしからざる可愛らしい咳をはさむのを、私は何度やっても間違う計算式に頭をひねる学生のような気分で見やりました。
先にも述べた通り、この方の身体の大部分は性能のよい人工物と交換されているので、今や病弱どころかその気になったらどこぞやのカートゥーンのヒーローよろしく、オリンピックに出れば金メダルでオセロが出来るほどの身体能力を得ているのです。当然のことながらその《身体》は衰えしらずの病しらず、いわんや喘息なんぞにゃかかりようもないはず。しかしパチュリー様は相も変わらぬ病弱な佇まいのまま、こうして喘息もちとしていらっしゃる。これは一体、どういうことなのでしょうか。
「それは私が『パチュリー・ノーレッジ』であるからよ」
《魔法使い》パチュリー・ノーレッジは貧弱な身体の病もち。このプロフィールがもはや私というパーソナリティを、それこそミームの部分から構成する要素に成り果てている。この《身体》に交換する前から薄々、気が付いてはいたのだけれどね。喉の調子を整えたパチュリー様は嘆息を吐き出して答えてくださいました。それは一体、どういうことなのでしょうか。
「これがただの体質や並の病気であるのなら、身体を交換してしまえば完治する───ところがこの《喘息》というやつ、私の根本的な部分に根ざしているのが困ったものでね」
それは身体が憶えている、ということですか。現在の症状はフラッシュバックのようなものであると?
「少し違う。どちらかと云うならば、これは《魔女》という生き物に共通の疾患かしら」
元を質すなら《魔法使い》そのものが健康とは縁遠い、それはあなたも承知しているでしょう。声には出さず、私はうなずきました。どこの民間伝承や文献を漁っても、一般的にイメージされる《魔女》というやつは腰のひん曲がった底意地の悪そうな顔した不健康そうなおばあさんたちというのがスタンダードなものです。パチュリー様の場合は腰の替わりに性格と性根が捻じくれ曲がっていて、意地も悪そうなのではなくこの上なく悪い不健康な美人の魔女になりますが。
「なにか物凄く失礼なことを考えられた気がするわね」
気のせいということにしといてください。それよりもその先を。催促する私へ心持ち温度の下がった視線(元から低い温度が氷点下にまで下がっただけですが)をよこし、パチュリー様は続けられました。
「……悪魔にせよ妖怪にせよ、《幻想》の側の住人はいつでも人の想いに振り回される。存在のグレードを上げたあなたが、より人間の想像する《悪魔》のイメージに近くなったようにね。世間一般の《魔女》の姿が、私の内面へと影響を及ぼしたところで不思議ではあるまいさ」
知らずの内に溜め込んだ、もはや概念とでもいうべきそのイメージと同居するうちに、今やその悪想念は私を根幹から稼働させるための要素、あるいは器官とまで成り果てていた。こうなってはもう、どうしようもない。もしも私が魔法の表面のみに触れるだけの、並もしくは普通の魔法使い程度であったなら、イメージに引きずられることもなくここまで悪化はしなかったかもしれんがね。
「したがって、私が私───『《魔法使い》パチュリー・ノーレッジ』で在り続けるそのかぎり、この悪想念とは縁が切れない」
例えこの身体を全て、それこそ血の一滴から脳ミソにいたるまで取り替えようとも、あるいは安手のSF小説よろしく人格だけを取り出してコンピューターにでも移植してみたところで、やはり《パチュリー・ノーレッジ》は喘息持ちの死に損ないとしてのみ存在し続けることでしょうさ。珍しく長広舌をふるったせいでしょうか、パチュリー様は少し疲れたような声でした。
しかしまあ、これは私の予想を遥かに超えた有り様ではありました。今のパチュリー様の状態は、例えるのならバグ依存で稼働するプログラムとでも云うものでしょうか。だとしたら根が深いどころの話じゃありません。生き続けるその限り息の苦しみも続くとは……想像をしたくもありません。
ですがそれならば逆に言うのならパチュリー様が今の、“《魔法使い》としてのパチュリー・ノーレッジ”を止めれば解決できるのではないでしょうか。そのようにお考えになったことはないのですか。あまりにも“うんざり”となるような話をされたからでしょうか、よせばいいのに気分を変えるため私はしないでもいい質問もしくは提案をしてみました。
「愚にもつかない寝言とはこのことね。せめてベッドに入ってから言えばよいものを」
この小悪魔、どうやら地雷を踏みぬいたらしい。パチュリー様のシャーベットでもこしらえられそうな視線の温度が、いまや顔面全体にまで拡がっていらっしゃるのを見て、私は全身の血の気をポンプで急速に吸いだされたような気分を味わう羽目になりました。
「生き方はいくらでも変えられる。そのときその時の時勢潮流に合わせて転身変節思いのまま、必要に応じて中身外身さえ変えてきたように主義主張の朝令暮改あたりまえ───いわんや他人どころか自分を騙すことすら抵抗なんぞありゃあせん」
しかし生き様までは変えられんわな。パチュリー様は全身を強張らせる小悪魔に、というよりはむしろ自身に言い聞かせるように言われました。
「私は死ぬまで───いや、死んでも化けても生まれ変わっても《パチュリー・ノーレッジ》をやめられない、やめるつもりもない」
それがために不具合を託つ羽目になっても、ですか。私がかすれた声を絞りだすようにして問うと、パチュリー様は表情にも仕草にも、一片の迷いも衒いも躊躇も見せず言い切られました。
「安い対価ね」
*
「ところでさっきから気になっていたのだけれど、その紙箱は一体、何かしら?」
言われて私は、今の今まで失念していた品物のことを思い出しました。こいつはパチュリー様へのお土産ですよ。最近、私が“ひいき”にしているカフェーのケーキをいくつか包んでもらったのです。ちなみにチョイスは私のお気に入りの中から選びました。チョコレートとチーズのケーキ、それに季節の果物のタルトです。よろしければ、どうぞ。
「お土産ねえ。私にゃ食事は必要ないのは知っているでしょうに」
それは存じておりますが、普段からお世話になってる雇い主のところへ赴くのに毎回、手ぶらで参じるのはいかがなものかと思った次第でして。それに下手に置き所に困るものと違って食べ物なら、不要であれば私が片付けてしまえばよいだけなのですし。といいますか、どうせパチュリー様はお食べになられないのを見越した上で買ってきたわけですので、受け取っていただけなくとも私にゃいささかの痛痒もないのですが。
私の説明を聞いたパチュリー様は手にした書籍に金細工の栞(いつだったか私がプレゼントしたものです)を挟んで閉じられました。
「ふうん……それならせっかくだし、頂いておこうかしら」
え、お食べになられるんですか。思いもよらぬ返しに私が思わず訊き返すと、パチュリー様は不思議そうなお顔をなされました。
「あら、そんなに意外かしら。私だってたまの気紛れで食事をしてみたいと思う時くらいはある」
それとも、なにか問題が? そのようにおっしゃられては、もはや何も言えませません。どうやら今回はこのお土産が私のお腹に納まることはなさそうです。私が内心の残念さを表に出さぬよう気をつけつつ、渋々ながら紙箱を献上すると、パチュリー様は底意地の悪そうな笑みを浮かべられました。
「───とはいえ全部を一人で片付けるのは難儀だし、あなたにも半分は手伝ってもらいたい」
それはもう、喜んで。泣いた鳥ならぬ小悪魔がもう笑う。たちまちのうちにご機嫌となった私に、いつもの魔法で書籍を仕舞ったパチュリー様が言いました。
「ついでだし、久しぶりにお茶も淹れてもらおうかしら」
*
お茶の用意を仰せつかった私は、一旦パチュリー様の“お部屋”を出て、この建物の6階にある(便宜上6階と称しているだけで、実際のところは位相から異なる場所に存在している)私の部屋に向かいました。パチュリー様が普段、引きこもっておいでになるお部屋には図書室や魔法の実験室、重水や各種薬剤の精製施設から粒子加速器まで揃えられてはいるのですがキッチンに類するものはないのです。
台所に着いた私は隅っこで放ったらかされていたワゴンを引っ張りだし、そこにポットやカップ、カトラリーなどを並べていきました。手入れを怠らなかったお陰で(ただしお手入れをしているのは私じゃありません)、ワゴンにも食器類にも、ホコリが付着するようなことはありません。食器を並べ終えた私は次にパチュリー様の好みと用意されたケーキとの組み合わせを思い浮かべながら、どの茶葉が良いかを考えました。なお私の分は珈琲です。パチュリー様は焦げ臭い黒苦水などとおっしゃって香りを嗅ぐどころか目にするのも厭がられますが、私としては紅茶よりもこちらの方が好みなのです。
“あれやこれや”と試行錯誤の末、一通りの準備を終えた私は再度、パチュリー様のお部屋へ向かうべくワゴンを押し出すために取っ手に手をかけ、そして眉をひそめました。
伸ばした手の先、ワゴンの真ん中に先程までいなかったはずのものが、“いる”
一匹の、まるで鮮血を固めたように真っ赤な真っ赤な蝙蝠───
考えるよりも早く体が動いてくれたのは、我ながら自分を褒めてあげたいところです。私は一息に数mほどを飛び退り、予期せぬ侵入者から距離をとりました。たかが蝙蝠一匹が紛れ込んだだけで何を大仰な、などと思ってはいけません。この建物はいかなる形であろうとも侵入するものを拒み、万が一にも入りこんだものは野放しにはしておかぬ鉄壁のセキュリティを備えているのです。それは目の前の小動物にだって適用される。それを潜り抜けてここにいるという時点で、このちっぽけな生き物(?)が並ではないのは解ろうというものです。
着地と同時に懐に手を入れた私は携帯式の端末から警報装置を起動させ、次に金色に光る鉄砲を取り出しました。金色云々というのはそういう鍍金がなされているのではなく、素材が純金だからです。銘は“デスペラード”、とある一件で手に入れた世界で一丁こっきりの私だけの銃。黄金銃を持つ女と呼んでくださって結構ですよ。マカロニウエスタンのガンマンよろしく、紫電の疾さで銃を手にした私は撃鉄を起こして狙いをつけました。映画を見ながら練習を重ねた、わずか0.3秒の抜き打ちです。鉄砲の腕にはそこそこの自信はありますし、なによりもこの距離なら外しっこありません。
私は狙いをつけたまま、慎重に相手の出方を伺いました。警報に気がついたパチュリー様がこちらに来てくださればいいのですが、そればかりをアテにはできません。面倒くさいなどと考えられてしまえば、パチュリー様は私を見捨てるくらいは平気でやりますので。ここはやはり、三十六計逃げるに如かず。相手を刺激しないようにして魔法でとんづらしてしまうのがよろしいのでしょう。
私が必死の思いで次の手を講じている間、件の蝙蝠は微動だにせずこちらを“じっ”と見つめていました。それはまるで滑稽なアクションで観客を笑わせる道化を見るようなものを私に感じさせました。気のせいであってほしいとは思うものの、やはり気のせいではないのでしょう。
なにせ、“きい”とちいさくひと鳴きした、やはり小さなその口に浮かぶのは、見間違えではなく嘲弄の微笑みであって……
*
それが耳元まで裂けるのを見届けたところで、私の意識は紅の霧に包まれた。
細かいネタを拾えないのは、私の知識が追いつかないせいでしょう。
最後の御客はもしや、尻をぶつけられて塵になった某人……?
相変わらずの二人のトークすき
でも今回はトークに入るまでにちょっとダレた?
随分時代が進んだなあと思ったらシリーズ初の次回へ続く
最後の霧は一体何リアなんだ…
そろそろ幻想郷に移住ですかね
>『電気』ではないい
「い」が一文字多い?
めっちゃ退治したい
退治したい(意味深)
優秀で精神性が高く魅力のある悪こそ魔女や悪魔とけちょんけちょんに罵しるに値すると改めて思う
可能性や価値があるからこそ敵に値するし敵だからこそ能力も精神性も魅力もけちょんけちょんに罵るに値する
まあ多分魔女だ悪魔だと攻撃された人達はそういう人達なんだろう
ついにおぜうさまが姿を現しましたか。しかもあんまり友好的ではないご様子。どうなる小悪魔!?
今回はとても気になる終わり方しましたね、いよいよ出会うのかな?と思うと次回が待ち遠しいです。
自分は好きですけどネタの大量ぶっ込みは嫌悪を感じる人もいるので匙加減には気をつけたほうがいいかと思います。
自分は好きですが。
こあがすっかりデキる女になっとる。なんで今だに小悪魔やってるのか不思議だww
本来の悪魔の姿なんだろうけどこれなら弾幕ごっこじゃなく心おきなく退治したい気になるな
本来の悪魔の姿なんだろうけどこれなら弾幕ごっこじゃなく心おきなく退治したい気になるな
本来の悪魔の姿なんだろうけどこれなら弾幕ごっこじゃなく心おきなく退治したい気になるな