長く、永く。
共に在り続けると、決めているからこそ。
秘すべきことも、あるのだ。
*****
「輝夜」
朝の光に、艶やかな黒髪が煌めく。
「輝夜」
小さな呻き声が上がる。
「輝夜――……起きて」
白い顔《かんばせ》に影を落とす、長い睫。
それが、ふるりと震えて。
ゆっくりと、持ち上がる。
眠気から潤んだ瞳と、視線が交わった。
「ッ……」
それは。
何千回、何万回も繰り返した朝の一コマだ。
その筈なのに。
一瞬。
ほんの、一瞬。
呼吸を忘れる。
しかし、それを決して気取られない様に。
口角を上げて、囁いた。
「おはよう、お姫様」
輝夜《私のお姫様》は。
やわらかな頬を、ふにゃっ、と緩めて。
「おはよお、えーりん」
寝起き特有の、舌足らずな声で、そう答えた。
「……ッ!」
ずきゅーん。
「あれ? えーりーん?」
「……」
「ねえ、ったら」
「…………」
「どうしたの?」
「………………」
心臓を撃ち抜かれた私は、10秒間の活動停止を余儀なくされたのだった。
(昨日も)
(今日も)
(きっと明日も)
(輝夜が宇宙でいちばん可愛い!)
――……絶対に、言葉にすることは、ないのだけれど。
*****
長く、永く。
共に在り続けると、決めているからこそ。
秘すべきことも、あるのだ。
*****
「……ほら、せっかくウドンゲが作ってくれた朝ご飯が、冷めてしまうから」
11秒目に再起動した私は、彼女の手を引っ張った。
やわらかくて、私の手より、一回り小さい。
「んー……」
「ちょっ!? か、かぐッ」
小さい、けれど。
実は、私より、力は強かったりするから。
引っ張られるまま。
彼女の上に、倒れこむ。
「輝夜、いきなりなにを、」
体重を、かけないように。
彼女の頭の両脇に、腕をつく。
顔が、近い。
「まだ、眠いの」
吐息まじりの、彼女の囁き。
前髪が、ゆれる。
「ね、いっしょに寝ましょ?」
――……下腹部が、ズクンと疼いた。
自分が女で良かった、と。
無理矢理浮かべた微笑みの下で、叫ぶ。
「……だーめ」
「あいたっ!」
額をぺちっ! と叩いてやって。
体を起こそうとすると。
首に、腕が回った。
「輝夜」
「……」
「かーぐーや?」
「だっこ」
「……」
「連れて行って?」
ああ、もう。
溜息を吐きながら。
お姫様の腰に、腕を回した。
満足そうな笑い声が、耳をくすぐる。
(細い肩)
(折れそうな腰)
(それなのに、やわらかな体)
(何より大切な、私のお姫様)
(だから、他の誰にも、触らせたくない)
――……絶対に、言葉にすることは、ないのだけれど。
*****
長く、永く。
共に在り続けると、決めているからこそ。
秘すべきことも、あるのだ。
*****
「うはぁー……」
輝夜を抱いたまま、食卓に赴くと。
ウドンゲが、額に汗を垂らしながら、形容しがたい声を漏らした。
気にしないふりをしながら、輝夜を座らせて。
自分も、その隣に座ると。
先に座っていたてゐと、目が合った。
「……(ニヤニヤ)」
「……」
なんか、すごいニヤついていた。
「……」
そっ、と視線を逸らす。
すると、横に座らせた輝夜の、輝く笑顔に捕まった。
「……(にぱーっ)」
「……」
視線を逸らす、ことさえ出来ず。
ウドンゲが配膳を終えるまで、しばし見つめあうことになった。
(天使とか)
(女神とか)
(兎とか)
(そういうの、全部混ぜたくらいの破壊力)
(いや、それ以上ね)
(目が離せない)
(だって)
(私は、宇宙で一番)
(彼女のことが、)
開きかけた口を、閉じる。
――……絶対に、言葉にすることは、ない。
*****
長く、永く。
共に在り続けると、決めているからこそ。
秘すべきことも、あるのだ。
だって。
××だ、とか。
××している、だとか。
そんなことを、伝えたとして。
受け入れて貰えなかったとしても。
この命は、永遠に続くのだから。
もし、傍に居れなくなったら。
どうすれば、いいの?
*****
心頭滅却。
仕事に打ち込んだ。
今日は、なかなか忙しかった。
夕食の後。
縁側で、昇った月を見詰めながら、船を漕ぐ。
ふいに。
肩を引き寄せられて。
温かな膝の上に寝かされた。
「お疲れ様」
カーテンみたいに視界を区切る黒髪。
その下で、一際眩しく映る、優しい笑みに。
自然と、笑みを返して。
伝えられない言葉の代わりに。
精一杯の想いを乗せた声で。
「かぐや」
ただ、その名を、小さく呼んだ。
*****
長く、永く。
共に在り続けると、決めているから。
絶対に、××だなんて、言わないけど。
その名を、何千、何万回でも呼びたいの。
――……傍に、居させて。
*****
閉じた瞼から。
銀色の睫毛に、指をすべらせる。
「えーりん」
名を呼ぶ。返答はない。
「永琳」
小さな、寝息。
「ねえ、永琳」
その耳元で。
そっと、呟いた。
「大好き」
(宇宙でいちばん)
(愛してる)
*****
長く、永く。
共に在り続けると、決めているからこそ。
秘すべきことも、ある。
――……ある、はずだ。
共に在り続けると、決めているからこそ。
秘すべきことも、あるのだ。
*****
「輝夜」
朝の光に、艶やかな黒髪が煌めく。
「輝夜」
小さな呻き声が上がる。
「輝夜――……起きて」
白い顔《かんばせ》に影を落とす、長い睫。
それが、ふるりと震えて。
ゆっくりと、持ち上がる。
眠気から潤んだ瞳と、視線が交わった。
「ッ……」
それは。
何千回、何万回も繰り返した朝の一コマだ。
その筈なのに。
一瞬。
ほんの、一瞬。
呼吸を忘れる。
しかし、それを決して気取られない様に。
口角を上げて、囁いた。
「おはよう、お姫様」
輝夜《私のお姫様》は。
やわらかな頬を、ふにゃっ、と緩めて。
「おはよお、えーりん」
寝起き特有の、舌足らずな声で、そう答えた。
「……ッ!」
ずきゅーん。
「あれ? えーりーん?」
「……」
「ねえ、ったら」
「…………」
「どうしたの?」
「………………」
心臓を撃ち抜かれた私は、10秒間の活動停止を余儀なくされたのだった。
(昨日も)
(今日も)
(きっと明日も)
(輝夜が宇宙でいちばん可愛い!)
――……絶対に、言葉にすることは、ないのだけれど。
*****
長く、永く。
共に在り続けると、決めているからこそ。
秘すべきことも、あるのだ。
*****
「……ほら、せっかくウドンゲが作ってくれた朝ご飯が、冷めてしまうから」
11秒目に再起動した私は、彼女の手を引っ張った。
やわらかくて、私の手より、一回り小さい。
「んー……」
「ちょっ!? か、かぐッ」
小さい、けれど。
実は、私より、力は強かったりするから。
引っ張られるまま。
彼女の上に、倒れこむ。
「輝夜、いきなりなにを、」
体重を、かけないように。
彼女の頭の両脇に、腕をつく。
顔が、近い。
「まだ、眠いの」
吐息まじりの、彼女の囁き。
前髪が、ゆれる。
「ね、いっしょに寝ましょ?」
――……下腹部が、ズクンと疼いた。
自分が女で良かった、と。
無理矢理浮かべた微笑みの下で、叫ぶ。
「……だーめ」
「あいたっ!」
額をぺちっ! と叩いてやって。
体を起こそうとすると。
首に、腕が回った。
「輝夜」
「……」
「かーぐーや?」
「だっこ」
「……」
「連れて行って?」
ああ、もう。
溜息を吐きながら。
お姫様の腰に、腕を回した。
満足そうな笑い声が、耳をくすぐる。
(細い肩)
(折れそうな腰)
(それなのに、やわらかな体)
(何より大切な、私のお姫様)
(だから、他の誰にも、触らせたくない)
――……絶対に、言葉にすることは、ないのだけれど。
*****
長く、永く。
共に在り続けると、決めているからこそ。
秘すべきことも、あるのだ。
*****
「うはぁー……」
輝夜を抱いたまま、食卓に赴くと。
ウドンゲが、額に汗を垂らしながら、形容しがたい声を漏らした。
気にしないふりをしながら、輝夜を座らせて。
自分も、その隣に座ると。
先に座っていたてゐと、目が合った。
「……(ニヤニヤ)」
「……」
なんか、すごいニヤついていた。
「……」
そっ、と視線を逸らす。
すると、横に座らせた輝夜の、輝く笑顔に捕まった。
「……(にぱーっ)」
「……」
視線を逸らす、ことさえ出来ず。
ウドンゲが配膳を終えるまで、しばし見つめあうことになった。
(天使とか)
(女神とか)
(兎とか)
(そういうの、全部混ぜたくらいの破壊力)
(いや、それ以上ね)
(目が離せない)
(だって)
(私は、宇宙で一番)
(彼女のことが、)
開きかけた口を、閉じる。
――……絶対に、言葉にすることは、ない。
*****
長く、永く。
共に在り続けると、決めているからこそ。
秘すべきことも、あるのだ。
だって。
××だ、とか。
××している、だとか。
そんなことを、伝えたとして。
受け入れて貰えなかったとしても。
この命は、永遠に続くのだから。
もし、傍に居れなくなったら。
どうすれば、いいの?
*****
心頭滅却。
仕事に打ち込んだ。
今日は、なかなか忙しかった。
夕食の後。
縁側で、昇った月を見詰めながら、船を漕ぐ。
ふいに。
肩を引き寄せられて。
温かな膝の上に寝かされた。
「お疲れ様」
カーテンみたいに視界を区切る黒髪。
その下で、一際眩しく映る、優しい笑みに。
自然と、笑みを返して。
伝えられない言葉の代わりに。
精一杯の想いを乗せた声で。
「かぐや」
ただ、その名を、小さく呼んだ。
*****
長く、永く。
共に在り続けると、決めているから。
絶対に、××だなんて、言わないけど。
その名を、何千、何万回でも呼びたいの。
――……傍に、居させて。
*****
閉じた瞼から。
銀色の睫毛に、指をすべらせる。
「えーりん」
名を呼ぶ。返答はない。
「永琳」
小さな、寝息。
「ねえ、永琳」
その耳元で。
そっと、呟いた。
「大好き」
(宇宙でいちばん)
(愛してる)
*****
長く、永く。
共に在り続けると、決めているからこそ。
秘すべきことも、ある。
――……ある、はずだ。
というよりは砂糖そのもの