闇金王 マミゾウの逃走
主人公:
闇金王 二ツ岩マミゾウ
捜査指揮官 八雲藍
注意:この作品でのマミゾウ氏は違法業者です。ご不快に思う方は閲覧をご遠慮ください。
またMOB役として多数の罪袋が登場します。同じくご不快に思う方は閲覧をご遠慮ください。
(プロローグ)
『こんにちは。幻想郷ニュースの時間です。昨日未明、違法金利業者てゐフルの社長と見られる女、因幡てゐを逮捕したとの発表がありました。主任捜査官の八雲藍氏が記者会見で報告しました。
近年、違法金利業者が幻想郷で跋扈しており、深刻な社会問題となっていました。そしてそれらの業者の多くが組織的に動いており、逮捕に結びつかない状況でした。しかし八雲警察によりますと2か月前、彼らの元締めの一つがてゐフルであるということが捜査線上に浮かび、特殊チームを組んで集中捜査。逮捕に至ったということです。また―――』
(二ツ岩マミゾウ視点:場所 命蓮寺)
な、なんと・・・。
ワシは、大げさな表現ではなく、心底震えておった。今のニュースで上がったてゐフルはワシの同業者、闇金じゃ。流石に年利85.56%はやりすぎとは思っておったが・・・とうとうお縄を頂戴したらしい。が、ワシが震えているのは別件の理由。
ワシの経営している二ツ岩ファイナンスの広告金利は22.18%となっておる。幻想郷の規制では上限金利は25%(年)であり、一見合法に見える。しかし実は広告に小っちゃく22.18%(2か月金利)と書いてある。つまりばっちり違法。
しかしワシも対策しておった。ワシは変化の術で姿形を変え、資本回収をしておった。それも複数の姿、且つ一度用いた姿は二度と使わぬ徹底ぶりじゃ。被害者が警察に訴えようにもワシを特定できるはずがない。だからワシも胡坐をかいておった。
しかしてゐフルも徹底的な情報操作で有名な業者。社長の因幡てゐは多くの企業舎弟を所有し、それぞれの役割を分担、万が一捜査の手が伸びても軽犯罪でしかしょっぴけないようにしておった。が、八雲警察が逮捕したとみると、おそらく相当な時間と人員を割いて水面下に情報を収集していたのであろう。社長のてゐを逮捕する証拠が揃うまで全ての軽犯罪を黙認しておったわけじゃ。何という徹底ぶり・・・あの女狐め。
では果たして二ツ岩ファイナンスはどうなのか、ワシの危惧はそれじゃ。ワシは今泳がされているのではないだろうか。配下の狸たちは何も言ってこないが、それはてゐフルのウサギたちだって同様であったはず・・・。
「逃げるか・・・」
将棋には『王の早逃げ、八手の得』という言葉がある。君子は危うきがあればまず避ける、調べたりはしないものじゃ。しかし問題は二つある。まず運用資金の回収。現在貸し付けている金の回収はあまりに危険すぎる。諦めるしかないじゃろう。しかし手元にある運用資金。これがなくなっては泣くに泣けない。何としても回収する必要がある。保管場所は貸本屋じゃ。かの店の妖魔本の中に便利な奴がおって、金を無限に吸収、保管できる能力を持つ奴がおった。しかもセキュリティ意識が高く、ワシの資金はワシ以外引き出せぬようになっておる。一応放置しておっても問題はないかもしれない。しかしその本が退治されぬ保証はない。やはり人里から離れる以上、持ち出すのが安全じゃろう。二つ目は・・・
「マミゾウ?なんで返事しないの?」
「!? ぬわあああああああ!?」
ワシの目の前に黒髪ショートヘアの妖怪、ぬえが現れる。
「マミゾウ?どうかしたの?」
「何でもない!! それよりどうした?」
「だからね、最近なんだけど、罪袋の信者が寺に増えたような気がしてさ・・・」
罪袋?
罪袋・・・?
八雲紫のファン・・・・・・八雲警察!?
なんと言うことじゃ。奴ら、完全に目星をつけておる!
「ぬ、ぬえ!!ワシはしばらく留守をする!!」
「えーーーー?今日は人里であんみつ奢ってくれる約束じゃん」
「あんみつ?あんみつじゃと?ワシはなぁ・・・人生かかっとるんじゃ!!」
「え、罪袋となんかあったの?」
「!? い、いや!! 何にもない!何にもない!」
「じゃ、奢ってよ。奢ってくれないと付きまとうよ」
ぐぅぅぅ・・・、本人に悪気はないんじゃろうが、今はそれどころじゃない。あんみつ食べたせいで臭い飯を食う羽目になるのは御免じゃが。しかしここで約束を違えても不都合かも知れん。
「ほれ、金やるから食って来い」
「え~、一緒に食べようよ~~」
「まぁそういうな。これだけやるから寺の連中と食って来い」
「え、こんなに!?いいの!?」
「ええ、ええ。ワシは行くぞ」
ワシは6人分のあんみつ代を奢って有り余る金を渡し、寺を後にする。今は時は金なり。一刻も早く貸本屋へ行かねば。
(八雲藍視点:場所 捜査本部)
「まだ見つからないのかッ!?」
「「「「申し訳ございません!!」」」」
私は罪袋を怒鳴った。いや、違う。本当に怒鳴られるべきは私だ。
幻想郷から闇金を一掃する幻想郷浄化作戦を実行してから1年余りがたとうとしていた。私が闇金を捜索する中で探し当てた黒い存在。闇金王、二ツ岩ファイナンス。こいつは別格であった。悪質な取り立て被害が多く寄せられるのに情報が全く食い違っているのだ。小太りの男、グラマーな女、筋肉質の男、メガネをかけた女・・・etc。これだけ多くの構成員がいるなら情報が漏れやすいだろう。そう高をくくっていた。しかし捜査は難航。探せども探せども目標がみえなかった。そんな中、寄せられた一つの情報。山の天狗捜査部第3課から情報を寄せられたのだ。
『悪質な闇金業者がいる。匂いからして狸系の可能性が高い』
狸・・・変化の術。点と線がつながった瞬間だった。それからというもの、寺の狸(本名:二ツ岩マミゾウ)が捜査線に浮上し、徹底捜査を行っていた。奴が黒だということは程なく分かり、ようやく証拠固めの段階・・・というところで私がやらかしてしまった。
もう一つの闇金、てゐフル社長逮捕の記者会見である。
今にして思えば、私は舞い上がっていた。私が追いかけていたのはマミゾウだけではない。もう一方が因幡てゐだ。奴を逮捕したところで、私は軽率にもそれをマスコミに公表してしまった。そんなことをすればマミゾウの警戒心を煽ることなど分かりそうなものなのに・・・。
「こちらA班、異常なし」
「こちらB班、異常ありません」
「C班、異常なし」
「D班、同じく異常ありません・・・」
部下の報告を無線で聞きつつ、ため息をついた。最悪の事態が起こったらしい。私は無線を取り上げる。
「皆の衆、聞いてもらいたい。先ほどの報告通り、マミゾウは取り立てに回っていない。つまり取り立て以外の用事で行方をくらましたことになる。つまり・・・我々の動きを察知した可能性が非常に高い。皆!よく聞け!奴は今、資金回収を行っているはずだ!いいか、奴の軍資金は必ず人里にある!人里から出る前に取り押さえろ!!」
「「「「「はっ!!!」」」」」」
私は無線を置いた。そう。奴の軍資金は人里にある。今まで注意深く奴を観察していた。奴は山、魔法の森などに出かける時は堂々と出て行った。しかし時折、何故か行方をくらましており、夜中に匂いで探索すると、どうやら人里を巡っているらしいのだ。
もちろん軍資金隠し場所第一候補は寺。そこは揺るぎない。しかし私の勘、というより奴の行動をプロファイリングすると、自分の住処とも言える場所に金を隠さない気がするのだ。私はノートを出した。
『二ツ岩マミゾウ』
性格:大まか
行動原理:9の悪行と1の善行
詳細:狸妖怪らしく、騙すことを好む。闇金業も金銭獲得の他に、人妖を誑かすという妖怪本分の目的があると思われる。合理性よりおちょくることを優先する。警戒心が強い。義理人情に厚く、配下に人望がある。しかし部下を全く信用していない。重要な案件は全て自らの監視下で行おうとする。また悪質な金貸し業に対する罪の意識もあり、ちょくちょく慈善活動をしている。
以下はそう考えるに至った推理過程が述べられている。
ここで重要なのが『合理性よりおちょくることを優先する』だ。奴は度々、する必要もないイタズラを行っていた。人が騙されるところを見ることが好きなのだ。そしてそのイタズラも2タイプある。1つは直ぐにバレるイタズラで反応を楽しむタイプ、これはしょうもないものが多い。もう一つは巧妙に隠されており、騙された方は気づかないタイプ。こちらは道具に対し、術を仕掛けることが多いようだ。例えば人里の呉服屋は未だに店頭に犬の糞を飾っている。しかし店主も往来する人間もそれが犬の糞とは気づかず展示品だと思っているのだ。その様子を見てマミゾウは一人ほくそ笑んでいた。そう、やつは人が騙され続けることを好む。
私はこの性格が資金の隠し場所にも反映するのではないかと随分前から睨んでいた。自分の命とも言える金を手元に置かないとはあまりに軽率。しかし、もし奴が金を日用品や展示品に化かす術、又はそれに準ずる能力を持っていた場合、果たしてそれを我慢できるだろうか。
私は奴の行動ルートをもう一度確認した。寺、酒蔵、神霊廟、貸本屋。この4か所が最も隠し場所の可能性が高いとにらんだ。特に後者3つは一目を忍んで行っている。おそらく今回もこのどれかに行く可能性が高い。
「チェン」
「はい、藍様」
「今から人里に行って、私が言うまで待機してくれないか」
「はい、藍様」
「あと、それとね・・・」
・
・・
・・・
「分かりました、藍様」
チェンは素直に駆けていった。これは一種の賭けだ。私はチェンを見送りつつ、電話を取った。山の天狗直通ホットラインだ。
「こちらマミゾウ対策本部、八雲藍です」
「ご苦労様です」
山の天狗の捜査の長が応答する。
「藍殿。白狼天狗捜索部隊ですが、まだ人里に到着するのに時間がかかるそうです。もう少し・・・」
「あ、ああ、その話は後で。緊急にコンタクトを取りたい天狗がいるのです。お繋ぎ願えますか?」
2分後、私は全ての要件を伝えた後、軽く目をつぶる。後は天命を待つのみ・・・
(二ツ岩マミゾウ視点:場所 人里)
ワシは裏路地に隠れつつ、周囲動向を伺っている。先ほどから罪袋の数が多い。どうしたものか。
ワシの現在の目的は貸本屋に行って、妖魔本、もといワシの金庫を回収することじゃ。普段ならどれだけ見張りが多かろうと変身して行けばよい。しかし現在の状況の場合は話が別。何せ奴らはワシの変身をどうにかして見破っている。でなければワシを逮捕どころか容疑すらかけられまい。しかしその方法が分からん。一目で見分けられることができるものなのか、分析に時間がかかるものなのか・・・。方法が分からない以上、迂闊に飛び込むことは危険じゃ。見られないことにこしたことはない。もちろん隠れて移動しながら、奴らが見破った方法についても考えてみた。まず一番ありそうなのが匂い。これはワシら狸の性質上、どうしようもない。今できるのはせいぜい匂いで尾行されることを防ぐことだけ。故に先ほどからドブ川の上を2,3回飛行してきた。これで追跡は困難になるじゃろうて。2つ目が言葉遣い。ワシにも口癖があるし、またヌエにもババくさいしゃべり方と指摘されておる。これは話しかけられたときに注意すれば良かろうて。3つ目が術の見破り。全く考えられることだが、ワシの変化を見破るほどの達人がいるのかもしれない。捜査の長は確か九尾の狐じゃったようだし。しかし所詮狐。ワシら狸の変化を見破れるとは思えぬが・・・。
そうこうしているうちに貸本屋の前まで来た。あたりに罪袋がうじゃうじゃといるが、貸本屋の中にはいない。これは捜査の手が伸びていないのか、はたまた罠なのか。
ワシは貸本屋に行くときはいつも同じ姿に変身しておる。それにはちょっと事情があるんじゃが(書籍参照)、今回はどうするべきか。危険だし、全く違った外見でいくべきだとは思うが・・・。しかし貸本屋の業務の一つとして、なかなか本を返さない客からは取り立てる必要がある。初めての人間が本を借りるとすれば、住所や職業など事細かに質問を受けるじゃろう。そうすると返って時間がかかるかもしれない。
いつもの外見で行くべきか、初めての外見で行くべきか・・・
これしかない。
ワシは初めての外見、中年の親父風の外見で店に入った。今から行う行為、ワシは生涯恥じ入るじゃろう。そう、万引きを行うのだ。皆の衆はワシのことをただ人妖を騙すのが好きと思っておろうがそうではない。ワシは正々堂々、正面から術を使い、その上で騙すというプライドがあるのだ。背後から姑息に不意打ち、人の見てないところで盗むなどワシの美学が許さん。しかし・・・今回は事情が事情。店の娘よ、この詫びは必ずする!だから不肖マミゾウ、此度の一件、何卒見逃し頂きたい!ワシはそう心の中で呟きつつ店に入る。
「いらっしゃいませー、初めてのお客さんですよね」
「あ、ああ、そうじゃ」
「? そうじゃ?」
「ん、あ、あああああ!そうだ。いかにも初めての客だ」
「は、はあ・・・」
バカか――――ッ!!つい先刻、口癖には気を付けようと決心したばかりじゃというのに!!いかん、落ち着け、素数を数えて落ち着くんじゃ、素数、1、2、3,4・・・ところで読者諸君、素数ってなんじゃ?
「ゆ、ゆっくりしていってください・・・ね?」
「う、うむ・・・」
まずい・・・あからさまに不審がられておる。そんなに怪しまれては盗むものも盗めん。これでは逆に時間がかかってしまう。とりあえず本を読む。金庫役以外の本じゃ。何というか、何か店主の気を惹いてくれるものがおらんものか・・・。いや、ここは己で運命を切り開くべきじゃろう。ワシは葉っぱを探る。何か術を使い、店主の気を・・・
はっ!?まさか!?
ワシはもう一つの可能性に気づいてしまった。ワシの変身をどのように見破ったかのことじゃ。ワシは3つほど可能性を考えておったが、もう一つの可能性。それが葉っぱじゃ。ワシらは葉っぱを媒介で術を使う。そしてこの葉っぱ、適当な葉ではなく、己にあった葉を用いておる。もし、もしじゃ。この葉でワシの正体を特定できたとしたら?この葉に何か細工されている?ワシは・・・果たして術を使ってよいのであろうか。しかしもう既に一つ使っておる。今更気にしても遅いかもしれないがしかし・・・
「あの・・・どうされました?」
「え、あ、ああ、すまん、思い出しごとをしててだな・・・」
あまりに長時間固まっておったからますます不自然に思われたらしい。こんなことをしておるから、ない時間がますますなくなっていくんじゃ!もういい、悩んでもしょうがない、とにかく実効あるの・・・み・・・?
「店主・・・ここにあった本は・・・?」
「ん? ここには初めて来られたのでは?」
「!? いや、あの、その・・・。とにかく!!ここにあった本じゃ!!」
「? あちらの方が読まれてます」
見ると確かに本を読んでいる少女が。金髪サイドテール、赤い服に虹色の翼。そして本を読みながらグフフと気味の悪い笑い声を挙げている。あの本は効力を知らない人間にはただのバランスシートにしか見えないはずだが・・・。つまり、変態と見て間違いない。
「ん、なぁに、さっきからフランのことをヤラしい目で見て!」
「ヤラしいつもりはないんじゃが・・・」
そうは言っても、今のワシは中年の親父。ヤラしく見えるのも仕方がない。
「言っとくけど、フランは高いからね、そうね、1日5000円で付き合ってあげる」
「援交を頼みたいわけじゃないんじゃが・・・」
「あ、そうなの、お客さんじゃないんだ、じゃあフランは忙しいから」
そう言ってまた本に夢中になる。しかしせいぜい小学生程度の年で援交とは・・・。世も末か・・・いやいやそうじゃなくて!
「あ、あの!その本、おじさんに貸してくれないか?」
「だぁめ!アンタにこの本の何が分かるっていうの?」
「そこをなんとか・・・」
「いい?この本はねぇ、フランの全財産と同価値なの!!汚い手で触らないで!」
「!!!!?」
今、何と言った?・・・全財産と同価値。つまり・・・
この本の貯金機能に気づいたのはワシだけじゃなかった!この娘も同じく貯金しておったのだ!だとしたら、非常にマズイ。ワシは今、本を持ち出そうとしている。しかし本には少女の全財産。つまり、少女はワシに本気で抵抗するじゃろう。相手の種族は分からんが、妖怪であることは確か。ここで騒ぎを起こしたくない。
しかし・・・逆に見れば付け入る隙もある。ワシは耳内した。
「もし、少女?」
「何よ」
「黙って聞け。ワシはその本に用がある。お主がワシに本をくれたら5万円やろう」
「!!!!?」
効果は覿面じゃった。ワシは腐っても闇金王。洞察力には自負がある。この娘、援交で儲けた金をこの本に貯金しておる。しかしワシはこの娘に会ったことがない。つまり貯金は最近になって始めたと見ていいじゃろう。身なりからして金遣いはそれなりに荒らそう。そこから分析するに貯金額は3~5万円と見て間違いないじゃろう。
「え~と~、どうしようかな~」
「嫌なら無理にとは言わん。ワシも5万以上の価値をその本に見出しておらんのでな。ではさらばじゃ」
「あ、あ、ちょっと待って!!」
くくく、交渉下手め・・・少し頭が回ればワシが5万など鼻紙程度にしか思えないほど貯金しているだろうと簡単に予想できようが・・・。ワシは5万と引き換えに本を手にする。見ると小躍りしている少女。まだまだじゃな。ワシは悠々と外に出よとしたとき・・・
「う、うごくなーーーーー!!!」
!?
「や、やくもけいさつです!ぜんいん、うごかないでください。なにもてにしないでください・・・!」
猫又の少女が原稿を片手に叫んでいる!後ろには続々と罪袋が・・・。罠じゃったか。しかし、どうしてここが?尾行はまいたはずなんじゃが・・・。く・・・どうすればよい!?
(八雲藍視点:場所 捜査本部)
「チェンが突入したか!A班からD班!チェンの応援へ!!あとは持ち場を維持!!」
私は無線に激を飛ばす。しかし、何というか、ホッとした。我ながら自分の閃きに舌を巻く。
数刻前の天狗への電話を思い出す。
(緊急にコンタクトを取りたい天狗がいるのです。お繋ぎ願えますか?)
(はい、どの者でしょう?)
(白狼天狗の犬走椛殿へ)
(椛です。どうされました?)
(千里眼で里の観察は可能でしょうか?)
(はい、室内などまでは無理ですが)
(では里の・・・人通りの少ない路地裏のドブ川の上を飛んでいる妖怪はいませんか?)
(へ・・・・・・今のところはいないようですが・・・)
(ずっと見張ってください。そしていたらば私に知らせつつ、そのものはどこに向かっているか教えて頂けますか?)
結果はたった2分で出た。
(藍さん!!でました。人間らしきものが川の上を飛行してます!!それも何往復も!!)
(ソイツがマミゾウです!!目を離さないでください!!どちらにいますか?)
(まだ川の上を往復中・・・どこに着地するものか考えているようですね・・・目的地は把握しかねますが・・・)
私はノートを見ながら問う。
(酒蔵は近くにありますか)
(? いえ、近くに目立ったものは・・・)
(神霊廟は?)
(飛行地帯から大分離れてます)
(では貸本屋は!?)
(それも近くには・・・あ、あ、あります!!貸本屋!!よく見ると貸本屋を中心に川を上ったり下ったりしています!)
私は無線をとる。
(F班!貸本屋の監視だが、店から少し離れたところで行え!奴をおびき寄せるんだ!隠し財産を暴いて証拠にする!
チェン!奴が店に入ったら私の合図で取り押さえてくれ!!)
そして今に至る・・・
(二ツ岩マミゾウ視点:場所 貸本屋)
ワシに取れる手段は2つ。本の正体がばれないことを願いつつ、シラを切るか。あるいは強行突破。そしてワシの決断は1秒とかからんかった。
「どけどけどっけーーー!!」
「にゃあうい!?」
ワシは猫妖怪を蹴飛ばしつつ、店の外に出た!今のワシは完全に疑われておる。シラを切ってもワシの秘密が本の中にあることくらい誰でも想像つくじゃろう。ならば強行突破するしかない。
”変化「満月の花鳥園」”
ワシはボムにて敵を一掃する。しかし増援はいくらでもくるじゃろう。すぐにここを離れなければ・・・
「にゃああああ!!喰らえ!!翔符『飛翔韋駄天』」
回転体が背後から猛烈な勢いで迫る!!
ザクッ!!
トマトを切ったような音がした。ワシの二の腕から血が噴出する!猫も窮すれば狸を裂くかッ・・・!!
しかし、若いな。今の一撃、腕ではなく足を攻撃すべきであった。足が傷つけばワシとて逃走が難しくなる。攻撃部位を誤ったな。とはいえ、ここで黙っているマミゾウさんではない。少々痛い目を見てもら・・・ん・・・?
ワシはようやく異変に気付く。ワシの本が・・・ワシの金がない!?
「にゃははっ!!これは預からせてもらいますッ!!」
「おい、貴様、待て!!」
ぬかったのはワシの方!奴はワシが逃げられないようにしたのだ!!何という策士!しかもなかなか素早い。これでは弾幕勝負では徒に時間を消費する・・・かといってワシも残りボム数が少ない。ここで消費するわけにもいかぬ。とはいえ、向こうも良く見ると攻撃が薄い。ここはスナイプ・・・相手の動きを先読みし、強弾幕を放つ作戦で行こう。化け猫め、年季の違いを見せてくれるわ!・・・ここじゃ! ワシは渾身の弾幕を放つ!!その弾幕は見事に化け猫の背中を捉え・・・
ず、火の鳥に飲み込まれた。
「!?」
「『火の鳥 -鳳翼天翔-』・・・本当は人里の中心で使うような技じゃないんだけどね」
「・・・何者じゃ」
「健康マニアの焼き鳥屋だ。今はそこの猫の護衛かな」
「・・・くくく、仕方ないのう。ワシもそろそろお遊びはやめるとしよう」
ワシの宣言に応えるがごとく不死鳥が視界を覆う。
(八雲藍視点:場所 捜査本部)
「く・・・状況は!?」
「こちらF班・・・我が班は全滅です・・・」
「チェンは!?」
「今、妹紅さんが護衛についています・・・今から戦闘開始するでしょう・・・」
くそ・・・!!元々大した期待はしていなかったが、罪袋は所詮罪袋。戦闘では囮くらいの役にしかたたない。踏み込み前にチェンに藤原妹紅に護衛を依頼するよう言って正解だった。
しかし状況が把握できない。情報が足りな過ぎる。
第一にマミゾウは金を所有、または既に運搬した状態か否かだ。もし事後であれば相当不利。マミゾウはただ逃げるだけで勝ちなのだ。狸が一度逃げに回れば取り押さえることはほぼ絶望的。
所有していない状態として、次に問題なのが金は手つかずなのか、チェンが奪取したのか。もし前者ならやはりマミゾウに逃げの選択肢が存在する。無論、こちらも怪しいところは徹底的に捜索する。つまりマミゾウにとって逃げは金を奪われかねない危険な賭けだが、捕まるよりはマシと言えるだろう。チェンが奪取した状態であれば、幾分か希望がある。マミゾウは余程の危機に陥らない限り取り戻そうとするはずだ。つまりこちらが人質を取った状態にある。
最後に・・・今の状況はマミゾウにとってどのレベルの危機なのか。マミゾウは調べてみると三大狸の一角でないかという説もある。またそうでなくても先の宗教対戦にてマミゾウの戦闘力は十分に証明されている。
「あの・・・藍本部長・・・出動されるべきでは?」
「ダメだ!私がここを離れれば部隊の統率ができなくなる!リスクが高すぎる!」
「しかし・・・妹紅氏とは言え、相手は大妖怪ですぞ」
「・・・残念だが現状で私がここを離れるわけにはいかない。妹紅を信じよう・・・少々席を外すがすぐに戻る」
私は最後の切り札を切ることにした。
(二ツ岩マミゾウ視点:場所 人里)
「にゃあううううういッ!!藍しゃま、助けてぇえええええ!!」
「うおおお、あつッ、あつッ、アチチチチッ!!!待て、くぉらぁああ!!」
「こ、この、逃げるな、正々堂々戦え!!」
立ちはだかる焼き鳥屋の前にとったワシの手段。それはガン無視して化け猫を追いかけることじゃった。あの焼き鳥屋、ワシの記憶に間違いなければ藤原妹紅。そんなやつに付き合っていたら十年たっても終わらない。ならば無視して化け猫を追いかけるが得策!!
「ほいっ」
「にゃあああああ!?藍しゃま~~~~~!!」
ワシは弾幕を放つ。チェンは避けるが、当てることが目的ではない。目的はチェンの行動ルートを制限すること。情けない話、ワシは鈍足。普通にやって追いつけるわけない。しかし奴はパニック状態。ワシは弾幕を放ってチェンは裏路地の方をトンドン進んでいく。これは弱者の心理。パニックになると逃げながら隠れようとする。つまり狭い路地裏に無駄に逃げ込むわけじゃ。しかしそのルートはワシによって選ばされている。ワシはところどころショートカットしつつ、奴に迫る。
「おい、ちぇーーーーん!!あまり路地裏に行かれると!!私が、炎を、出せない!!」
「びぇぇぇえええええん!!藍しゃま~~~~~!!」
後ろから妹紅が迫るが、攻撃はまばら。こんな人里で炎を出鱈目に放つわけにいかない。しかもこの妹紅、トップスピードは速いものの小回りが利かないらしい。時々尻尾に火がつくが、その程度。現在主導権はワシが握っておる!!
「うぉおおおおおお!!待て待て待てぇええええ!!」
「わぁあ!わぁあ!わぁあ!!!藍しゃま~~~~~!!」
・
・・
・・・
はぁ・・・はぁ・・・流石に・・・疲れる・・・。しかし休むわけにはいかない・・・。今は術を使うタイミングではない。今のワシの武器は頭脳と足のみ。
「にゃああああ・・・にゃああああ・・・ぐすっ・・・藍しゃま~~~」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・待て・・・化け猫・・・」
「おい・・・くそ・・・待て・・・狸BBA・・・」
三者三様、全員疲れ切っている。酸欠状態じゃ・・・ワシの弾幕の手元もおぼつかなくなってきた。しかし化け猫もフラフラ。妹紅も弾幕を放つことなく、追いかけている。
「あと・・・もう少し・・・もう少しなんじゃ・・・」
ワシはチェンに手を伸ばすが・・・
ボコッ!!!!!
ワシは腹に回し蹴りを喰らい、人里の倉庫に叩きつけられる!!無論、蹴りを放ったのはチェンじゃない。
「くくく・・・随分おそい到着じゃの・・・」
「済ませなければならない仕事があったんでな」
蹴りの主がそう答える。鼻につく高慢な態度。目障りな9本の尻尾。
「お・・・遅すぎだぜ・・・」
「ら・・・藍しゃま~~~」
走り続けた3人が止まる。さて、正念場かの・・・
(八雲藍視点:場所 ??? 数分前)
私は最後の切り札を切ることにした。
今の状況、正直チェンだけで切り抜けられるとは思えない。私が行くしかない。しかし私が離れれば指揮をとれない。ではどうするか。他に指揮をとれるものを召喚するしかない。で、指揮をとれるものはただ一人。
「紫さま、紫さま、失礼します・・・」
「ZZZ・・・」
私は主の肩を揺するが、一向に起きる気配がない。しかし今は時間がない。私は紫様を起こす魔法の言葉を唱えた。
「・・・起きろ、BBA。」
「・・・あん?」
ズカッ!!
私は壁に叩きつけられる!!紫様の裏拳が炸裂したのだ。私は噴出する鼻血を抑えつつ、紫様に事情をお伝えした。
「・・・私が何でそんなことをしなきゃいけないわけ?」
「緊急事態なのです」
「私に暴言を吐いた罪、あとで折檻よ」
「・・・感謝します」
(八雲藍視点:場所 人里 現在)
私は地を舐める狸を見る。
コイツがマミゾウ。こうして会うのは初めてだ。紫さまのスキマを閉じつつ、私は構える。奴は今動いていないが油断はできない。どうせやられたフリだ。幸い3対1。しかも奴は息切れしている。こっちの2名も同じ状態だが勝算は高い。
「さあ、観念するんだな」
「くくく、そうじゃな、しかし最後になぞなぞじゃ」
「敗者の多弁は見苦しいぞ」
「ワシは術を使う時に葉っぱを媒体に使う。普段から100枚くらい持っているが、今は3枚しか持ってない。しかしその化け猫を追いかける時、一度として術を使っていない」
後ろから二つの反応・・・チェンと妹紅が軽く顔を上げたのだ。反応から察するに、本当に術を使ってないらしい。
「では問題じゃ・・・ワシは葉っぱを何に何のために使った?」
猛烈に嫌な予感がする。私は問答無用で飛び蹴りを放とうとするが・・・
「マミゾウ超変化!!佐渡金山大判振る舞いッ!!!!」
ドカッドカッドカッドカッドカッ!!!!!!
人里が大きく震える!思わず伏せるが・・・
「うわぁあ!?金(キン)だぁあああ!!」
「きゃっ!金!?」
「うおおおお、俺のだ俺のだ!!」
人里中に歓声が上がる。見ると、人里中に小山が出現し、そこから砂金が噴出しているのだ。人里中の人間が我先にと回収する。
「!? マミゾウは!?」
確かに監視したはずのマミゾウがいなくなっていた。いや、正確には人ごみに紛れて人間に変身したんだろう。あっと言う間に見失ってしまった。
「く、くそ・・・H班!!報告を!!」
「金、金、金だぁあああ!!」
配下の罪袋達は金に目を奪われて何も言うことを聞かない。
「あ、あ、藍しゃま!!!!」
「!? どうした、チェン!?」
「本を、本を盗られました!!!」
「何ッ!?」
(くくく、ワシの声が聞こえるかの?)
「く・・・どこだ!?」
(まずは九尾。感謝するぞ、貴様が首をつっこんだこと)
「どういうことだ!?」
(流石のワシも猫に本をスラれた時はもうだめかと思った。猫はワシより速いからの。だからワシはどうやったら猫を止められるか考えておった。)
「それとこれとどう関係がある!?」
(ワシは考えた。猫が止まるとき。それは逃げる必要がなくなった時じゃ。そしてそれは保護者たる貴様が来るときに他ならない)
「・・・私が来るのを待っていたというのか?」
(この術、大がかりながら隙をつけるのはせいぜい一回じゃ。この術を使う前に猫を止めるのが必須じゃった)
「逃げ切れると思うなよ・・・」
(逃げ切れる? 違うな、これを聞いたとき、もう逃げ終わっている。)
ポン・・・。
音がすると、人里中の金山が消えた。落胆する人々の中、私の前に何かが置かれた。ラジカセだった。そこからマミゾウの声がしていた。
「やられた・・・」
私は崩れ落ちた。膨大な時間をかけて捜査したものを取り逃した。主をBBA呼ばわりしてまで追いつめたのに・・・
「藍しゃま・・・泣かないでください・・・」
私は泣いていた。涙が止まらなかった。悔しい。悔しい。くそ。くそ。くそ。
「チェン、すまない、一人にしてくれ」
「大丈夫です、藍しゃま」
「大丈夫なわけないだろ!!逃げられたんだぞ!!」
「逃げられました・・・でも奴は・・・金を持ち出せませんでした」
え・・・?視線の先には確かに本が。え?でも、さっき盗まれたって・・・。
「実は・・・パニックになっちゃって・・・本を切り裂いちゃったんです」
よく見ると、本は上半分しかない。奴は下半分だけ持ち去ったのか。
「しかし、この状態でも金を持ち出せるかもしれないぞ、チェン」
「ううう・・・確かに・・・」
「ぎゃぁああああああああああ!? ワシの!! ワシの金がぁあああああああ!!!!」
不意に裏の倉庫から叫び声がする。見ると、下半分の本と・・・泡を吹き、失禁しているマミゾウがいた。
「ワシの・・・ワシの金が・・・」
「あの・・・藍しゃま・・・」
「ああ。どうやら持ち出せない方だったらしい。」
(エピローグ 八雲藍視点)
「金・・・ワシの金・・・」
ここは命蓮寺。あの逃走事件から一月。マミゾウを取り押さえたものの困ったことが起きた。マミゾウを拘束しようにも証拠がない。証拠の金は本と共に失われてしまった。被害者たちもマミゾウの顔を知らないから証人になれない。そして肝心のマミゾウは・・・
「さとり先生、マミゾウは詐病でしょうか」
「そうではありませんね、どうやら最後の事件で彼女の中の時が停止してしまったようです」
「金・・・ワシの金・・・」
これでは逮捕しようにもできない。とりあえず命蓮寺で拘束しているが、1月たって何の進展もない。
「とりあえず、里の平和は戻ったんですが・・・」
それに加え、一つ困ったことが起きた。どこから情報を入手したのか、マミゾウがこんな状態にあることをいいことに因幡てゐが自分の犯罪をマミゾウに転嫁し始めたのだ。証人がこんな状態のため、どうしようもない。そして何よりも・・・
「藍。時間よ」
「はい・・・」
「藍しゃま・・・頑張って!!」
「うん・・・」
紫様の折檻。それは毎日毎日、特定の時間、ここではとても言えない行為をやらされているのだ。これだけは本当に口には出せない。チェンの教育上にも非常に悪い行為、とだけ言っておく。
はぁ・・・
こうして、闇金王事件は終わったのだった。
主人公:
闇金王 二ツ岩マミゾウ
捜査指揮官 八雲藍
注意:この作品でのマミゾウ氏は違法業者です。ご不快に思う方は閲覧をご遠慮ください。
またMOB役として多数の罪袋が登場します。同じくご不快に思う方は閲覧をご遠慮ください。
(プロローグ)
『こんにちは。幻想郷ニュースの時間です。昨日未明、違法金利業者てゐフルの社長と見られる女、因幡てゐを逮捕したとの発表がありました。主任捜査官の八雲藍氏が記者会見で報告しました。
近年、違法金利業者が幻想郷で跋扈しており、深刻な社会問題となっていました。そしてそれらの業者の多くが組織的に動いており、逮捕に結びつかない状況でした。しかし八雲警察によりますと2か月前、彼らの元締めの一つがてゐフルであるということが捜査線上に浮かび、特殊チームを組んで集中捜査。逮捕に至ったということです。また―――』
(二ツ岩マミゾウ視点:場所 命蓮寺)
な、なんと・・・。
ワシは、大げさな表現ではなく、心底震えておった。今のニュースで上がったてゐフルはワシの同業者、闇金じゃ。流石に年利85.56%はやりすぎとは思っておったが・・・とうとうお縄を頂戴したらしい。が、ワシが震えているのは別件の理由。
ワシの経営している二ツ岩ファイナンスの広告金利は22.18%となっておる。幻想郷の規制では上限金利は25%(年)であり、一見合法に見える。しかし実は広告に小っちゃく22.18%(2か月金利)と書いてある。つまりばっちり違法。
しかしワシも対策しておった。ワシは変化の術で姿形を変え、資本回収をしておった。それも複数の姿、且つ一度用いた姿は二度と使わぬ徹底ぶりじゃ。被害者が警察に訴えようにもワシを特定できるはずがない。だからワシも胡坐をかいておった。
しかしてゐフルも徹底的な情報操作で有名な業者。社長の因幡てゐは多くの企業舎弟を所有し、それぞれの役割を分担、万が一捜査の手が伸びても軽犯罪でしかしょっぴけないようにしておった。が、八雲警察が逮捕したとみると、おそらく相当な時間と人員を割いて水面下に情報を収集していたのであろう。社長のてゐを逮捕する証拠が揃うまで全ての軽犯罪を黙認しておったわけじゃ。何という徹底ぶり・・・あの女狐め。
では果たして二ツ岩ファイナンスはどうなのか、ワシの危惧はそれじゃ。ワシは今泳がされているのではないだろうか。配下の狸たちは何も言ってこないが、それはてゐフルのウサギたちだって同様であったはず・・・。
「逃げるか・・・」
将棋には『王の早逃げ、八手の得』という言葉がある。君子は危うきがあればまず避ける、調べたりはしないものじゃ。しかし問題は二つある。まず運用資金の回収。現在貸し付けている金の回収はあまりに危険すぎる。諦めるしかないじゃろう。しかし手元にある運用資金。これがなくなっては泣くに泣けない。何としても回収する必要がある。保管場所は貸本屋じゃ。かの店の妖魔本の中に便利な奴がおって、金を無限に吸収、保管できる能力を持つ奴がおった。しかもセキュリティ意識が高く、ワシの資金はワシ以外引き出せぬようになっておる。一応放置しておっても問題はないかもしれない。しかしその本が退治されぬ保証はない。やはり人里から離れる以上、持ち出すのが安全じゃろう。二つ目は・・・
「マミゾウ?なんで返事しないの?」
「!? ぬわあああああああ!?」
ワシの目の前に黒髪ショートヘアの妖怪、ぬえが現れる。
「マミゾウ?どうかしたの?」
「何でもない!! それよりどうした?」
「だからね、最近なんだけど、罪袋の信者が寺に増えたような気がしてさ・・・」
罪袋?
罪袋・・・?
八雲紫のファン・・・・・・八雲警察!?
なんと言うことじゃ。奴ら、完全に目星をつけておる!
「ぬ、ぬえ!!ワシはしばらく留守をする!!」
「えーーーー?今日は人里であんみつ奢ってくれる約束じゃん」
「あんみつ?あんみつじゃと?ワシはなぁ・・・人生かかっとるんじゃ!!」
「え、罪袋となんかあったの?」
「!? い、いや!! 何にもない!何にもない!」
「じゃ、奢ってよ。奢ってくれないと付きまとうよ」
ぐぅぅぅ・・・、本人に悪気はないんじゃろうが、今はそれどころじゃない。あんみつ食べたせいで臭い飯を食う羽目になるのは御免じゃが。しかしここで約束を違えても不都合かも知れん。
「ほれ、金やるから食って来い」
「え~、一緒に食べようよ~~」
「まぁそういうな。これだけやるから寺の連中と食って来い」
「え、こんなに!?いいの!?」
「ええ、ええ。ワシは行くぞ」
ワシは6人分のあんみつ代を奢って有り余る金を渡し、寺を後にする。今は時は金なり。一刻も早く貸本屋へ行かねば。
(八雲藍視点:場所 捜査本部)
「まだ見つからないのかッ!?」
「「「「申し訳ございません!!」」」」
私は罪袋を怒鳴った。いや、違う。本当に怒鳴られるべきは私だ。
幻想郷から闇金を一掃する幻想郷浄化作戦を実行してから1年余りがたとうとしていた。私が闇金を捜索する中で探し当てた黒い存在。闇金王、二ツ岩ファイナンス。こいつは別格であった。悪質な取り立て被害が多く寄せられるのに情報が全く食い違っているのだ。小太りの男、グラマーな女、筋肉質の男、メガネをかけた女・・・etc。これだけ多くの構成員がいるなら情報が漏れやすいだろう。そう高をくくっていた。しかし捜査は難航。探せども探せども目標がみえなかった。そんな中、寄せられた一つの情報。山の天狗捜査部第3課から情報を寄せられたのだ。
『悪質な闇金業者がいる。匂いからして狸系の可能性が高い』
狸・・・変化の術。点と線がつながった瞬間だった。それからというもの、寺の狸(本名:二ツ岩マミゾウ)が捜査線に浮上し、徹底捜査を行っていた。奴が黒だということは程なく分かり、ようやく証拠固めの段階・・・というところで私がやらかしてしまった。
もう一つの闇金、てゐフル社長逮捕の記者会見である。
今にして思えば、私は舞い上がっていた。私が追いかけていたのはマミゾウだけではない。もう一方が因幡てゐだ。奴を逮捕したところで、私は軽率にもそれをマスコミに公表してしまった。そんなことをすればマミゾウの警戒心を煽ることなど分かりそうなものなのに・・・。
「こちらA班、異常なし」
「こちらB班、異常ありません」
「C班、異常なし」
「D班、同じく異常ありません・・・」
部下の報告を無線で聞きつつ、ため息をついた。最悪の事態が起こったらしい。私は無線を取り上げる。
「皆の衆、聞いてもらいたい。先ほどの報告通り、マミゾウは取り立てに回っていない。つまり取り立て以外の用事で行方をくらましたことになる。つまり・・・我々の動きを察知した可能性が非常に高い。皆!よく聞け!奴は今、資金回収を行っているはずだ!いいか、奴の軍資金は必ず人里にある!人里から出る前に取り押さえろ!!」
「「「「「はっ!!!」」」」」」
私は無線を置いた。そう。奴の軍資金は人里にある。今まで注意深く奴を観察していた。奴は山、魔法の森などに出かける時は堂々と出て行った。しかし時折、何故か行方をくらましており、夜中に匂いで探索すると、どうやら人里を巡っているらしいのだ。
もちろん軍資金隠し場所第一候補は寺。そこは揺るぎない。しかし私の勘、というより奴の行動をプロファイリングすると、自分の住処とも言える場所に金を隠さない気がするのだ。私はノートを出した。
『二ツ岩マミゾウ』
性格:大まか
行動原理:9の悪行と1の善行
詳細:狸妖怪らしく、騙すことを好む。闇金業も金銭獲得の他に、人妖を誑かすという妖怪本分の目的があると思われる。合理性よりおちょくることを優先する。警戒心が強い。義理人情に厚く、配下に人望がある。しかし部下を全く信用していない。重要な案件は全て自らの監視下で行おうとする。また悪質な金貸し業に対する罪の意識もあり、ちょくちょく慈善活動をしている。
以下はそう考えるに至った推理過程が述べられている。
ここで重要なのが『合理性よりおちょくることを優先する』だ。奴は度々、する必要もないイタズラを行っていた。人が騙されるところを見ることが好きなのだ。そしてそのイタズラも2タイプある。1つは直ぐにバレるイタズラで反応を楽しむタイプ、これはしょうもないものが多い。もう一つは巧妙に隠されており、騙された方は気づかないタイプ。こちらは道具に対し、術を仕掛けることが多いようだ。例えば人里の呉服屋は未だに店頭に犬の糞を飾っている。しかし店主も往来する人間もそれが犬の糞とは気づかず展示品だと思っているのだ。その様子を見てマミゾウは一人ほくそ笑んでいた。そう、やつは人が騙され続けることを好む。
私はこの性格が資金の隠し場所にも反映するのではないかと随分前から睨んでいた。自分の命とも言える金を手元に置かないとはあまりに軽率。しかし、もし奴が金を日用品や展示品に化かす術、又はそれに準ずる能力を持っていた場合、果たしてそれを我慢できるだろうか。
私は奴の行動ルートをもう一度確認した。寺、酒蔵、神霊廟、貸本屋。この4か所が最も隠し場所の可能性が高いとにらんだ。特に後者3つは一目を忍んで行っている。おそらく今回もこのどれかに行く可能性が高い。
「チェン」
「はい、藍様」
「今から人里に行って、私が言うまで待機してくれないか」
「はい、藍様」
「あと、それとね・・・」
・
・・
・・・
「分かりました、藍様」
チェンは素直に駆けていった。これは一種の賭けだ。私はチェンを見送りつつ、電話を取った。山の天狗直通ホットラインだ。
「こちらマミゾウ対策本部、八雲藍です」
「ご苦労様です」
山の天狗の捜査の長が応答する。
「藍殿。白狼天狗捜索部隊ですが、まだ人里に到着するのに時間がかかるそうです。もう少し・・・」
「あ、ああ、その話は後で。緊急にコンタクトを取りたい天狗がいるのです。お繋ぎ願えますか?」
2分後、私は全ての要件を伝えた後、軽く目をつぶる。後は天命を待つのみ・・・
(二ツ岩マミゾウ視点:場所 人里)
ワシは裏路地に隠れつつ、周囲動向を伺っている。先ほどから罪袋の数が多い。どうしたものか。
ワシの現在の目的は貸本屋に行って、妖魔本、もといワシの金庫を回収することじゃ。普段ならどれだけ見張りが多かろうと変身して行けばよい。しかし現在の状況の場合は話が別。何せ奴らはワシの変身をどうにかして見破っている。でなければワシを逮捕どころか容疑すらかけられまい。しかしその方法が分からん。一目で見分けられることができるものなのか、分析に時間がかかるものなのか・・・。方法が分からない以上、迂闊に飛び込むことは危険じゃ。見られないことにこしたことはない。もちろん隠れて移動しながら、奴らが見破った方法についても考えてみた。まず一番ありそうなのが匂い。これはワシら狸の性質上、どうしようもない。今できるのはせいぜい匂いで尾行されることを防ぐことだけ。故に先ほどからドブ川の上を2,3回飛行してきた。これで追跡は困難になるじゃろうて。2つ目が言葉遣い。ワシにも口癖があるし、またヌエにもババくさいしゃべり方と指摘されておる。これは話しかけられたときに注意すれば良かろうて。3つ目が術の見破り。全く考えられることだが、ワシの変化を見破るほどの達人がいるのかもしれない。捜査の長は確か九尾の狐じゃったようだし。しかし所詮狐。ワシら狸の変化を見破れるとは思えぬが・・・。
そうこうしているうちに貸本屋の前まで来た。あたりに罪袋がうじゃうじゃといるが、貸本屋の中にはいない。これは捜査の手が伸びていないのか、はたまた罠なのか。
ワシは貸本屋に行くときはいつも同じ姿に変身しておる。それにはちょっと事情があるんじゃが(書籍参照)、今回はどうするべきか。危険だし、全く違った外見でいくべきだとは思うが・・・。しかし貸本屋の業務の一つとして、なかなか本を返さない客からは取り立てる必要がある。初めての人間が本を借りるとすれば、住所や職業など事細かに質問を受けるじゃろう。そうすると返って時間がかかるかもしれない。
いつもの外見で行くべきか、初めての外見で行くべきか・・・
これしかない。
ワシは初めての外見、中年の親父風の外見で店に入った。今から行う行為、ワシは生涯恥じ入るじゃろう。そう、万引きを行うのだ。皆の衆はワシのことをただ人妖を騙すのが好きと思っておろうがそうではない。ワシは正々堂々、正面から術を使い、その上で騙すというプライドがあるのだ。背後から姑息に不意打ち、人の見てないところで盗むなどワシの美学が許さん。しかし・・・今回は事情が事情。店の娘よ、この詫びは必ずする!だから不肖マミゾウ、此度の一件、何卒見逃し頂きたい!ワシはそう心の中で呟きつつ店に入る。
「いらっしゃいませー、初めてのお客さんですよね」
「あ、ああ、そうじゃ」
「? そうじゃ?」
「ん、あ、あああああ!そうだ。いかにも初めての客だ」
「は、はあ・・・」
バカか――――ッ!!つい先刻、口癖には気を付けようと決心したばかりじゃというのに!!いかん、落ち着け、素数を数えて落ち着くんじゃ、素数、1、2、3,4・・・ところで読者諸君、素数ってなんじゃ?
「ゆ、ゆっくりしていってください・・・ね?」
「う、うむ・・・」
まずい・・・あからさまに不審がられておる。そんなに怪しまれては盗むものも盗めん。これでは逆に時間がかかってしまう。とりあえず本を読む。金庫役以外の本じゃ。何というか、何か店主の気を惹いてくれるものがおらんものか・・・。いや、ここは己で運命を切り開くべきじゃろう。ワシは葉っぱを探る。何か術を使い、店主の気を・・・
はっ!?まさか!?
ワシはもう一つの可能性に気づいてしまった。ワシの変身をどのように見破ったかのことじゃ。ワシは3つほど可能性を考えておったが、もう一つの可能性。それが葉っぱじゃ。ワシらは葉っぱを媒介で術を使う。そしてこの葉っぱ、適当な葉ではなく、己にあった葉を用いておる。もし、もしじゃ。この葉でワシの正体を特定できたとしたら?この葉に何か細工されている?ワシは・・・果たして術を使ってよいのであろうか。しかしもう既に一つ使っておる。今更気にしても遅いかもしれないがしかし・・・
「あの・・・どうされました?」
「え、あ、ああ、すまん、思い出しごとをしててだな・・・」
あまりに長時間固まっておったからますます不自然に思われたらしい。こんなことをしておるから、ない時間がますますなくなっていくんじゃ!もういい、悩んでもしょうがない、とにかく実効あるの・・・み・・・?
「店主・・・ここにあった本は・・・?」
「ん? ここには初めて来られたのでは?」
「!? いや、あの、その・・・。とにかく!!ここにあった本じゃ!!」
「? あちらの方が読まれてます」
見ると確かに本を読んでいる少女が。金髪サイドテール、赤い服に虹色の翼。そして本を読みながらグフフと気味の悪い笑い声を挙げている。あの本は効力を知らない人間にはただのバランスシートにしか見えないはずだが・・・。つまり、変態と見て間違いない。
「ん、なぁに、さっきからフランのことをヤラしい目で見て!」
「ヤラしいつもりはないんじゃが・・・」
そうは言っても、今のワシは中年の親父。ヤラしく見えるのも仕方がない。
「言っとくけど、フランは高いからね、そうね、1日5000円で付き合ってあげる」
「援交を頼みたいわけじゃないんじゃが・・・」
「あ、そうなの、お客さんじゃないんだ、じゃあフランは忙しいから」
そう言ってまた本に夢中になる。しかしせいぜい小学生程度の年で援交とは・・・。世も末か・・・いやいやそうじゃなくて!
「あ、あの!その本、おじさんに貸してくれないか?」
「だぁめ!アンタにこの本の何が分かるっていうの?」
「そこをなんとか・・・」
「いい?この本はねぇ、フランの全財産と同価値なの!!汚い手で触らないで!」
「!!!!?」
今、何と言った?・・・全財産と同価値。つまり・・・
この本の貯金機能に気づいたのはワシだけじゃなかった!この娘も同じく貯金しておったのだ!だとしたら、非常にマズイ。ワシは今、本を持ち出そうとしている。しかし本には少女の全財産。つまり、少女はワシに本気で抵抗するじゃろう。相手の種族は分からんが、妖怪であることは確か。ここで騒ぎを起こしたくない。
しかし・・・逆に見れば付け入る隙もある。ワシは耳内した。
「もし、少女?」
「何よ」
「黙って聞け。ワシはその本に用がある。お主がワシに本をくれたら5万円やろう」
「!!!!?」
効果は覿面じゃった。ワシは腐っても闇金王。洞察力には自負がある。この娘、援交で儲けた金をこの本に貯金しておる。しかしワシはこの娘に会ったことがない。つまり貯金は最近になって始めたと見ていいじゃろう。身なりからして金遣いはそれなりに荒らそう。そこから分析するに貯金額は3~5万円と見て間違いないじゃろう。
「え~と~、どうしようかな~」
「嫌なら無理にとは言わん。ワシも5万以上の価値をその本に見出しておらんのでな。ではさらばじゃ」
「あ、あ、ちょっと待って!!」
くくく、交渉下手め・・・少し頭が回ればワシが5万など鼻紙程度にしか思えないほど貯金しているだろうと簡単に予想できようが・・・。ワシは5万と引き換えに本を手にする。見ると小躍りしている少女。まだまだじゃな。ワシは悠々と外に出よとしたとき・・・
「う、うごくなーーーーー!!!」
!?
「や、やくもけいさつです!ぜんいん、うごかないでください。なにもてにしないでください・・・!」
猫又の少女が原稿を片手に叫んでいる!後ろには続々と罪袋が・・・。罠じゃったか。しかし、どうしてここが?尾行はまいたはずなんじゃが・・・。く・・・どうすればよい!?
(八雲藍視点:場所 捜査本部)
「チェンが突入したか!A班からD班!チェンの応援へ!!あとは持ち場を維持!!」
私は無線に激を飛ばす。しかし、何というか、ホッとした。我ながら自分の閃きに舌を巻く。
数刻前の天狗への電話を思い出す。
(緊急にコンタクトを取りたい天狗がいるのです。お繋ぎ願えますか?)
(はい、どの者でしょう?)
(白狼天狗の犬走椛殿へ)
(椛です。どうされました?)
(千里眼で里の観察は可能でしょうか?)
(はい、室内などまでは無理ですが)
(では里の・・・人通りの少ない路地裏のドブ川の上を飛んでいる妖怪はいませんか?)
(へ・・・・・・今のところはいないようですが・・・)
(ずっと見張ってください。そしていたらば私に知らせつつ、そのものはどこに向かっているか教えて頂けますか?)
結果はたった2分で出た。
(藍さん!!でました。人間らしきものが川の上を飛行してます!!それも何往復も!!)
(ソイツがマミゾウです!!目を離さないでください!!どちらにいますか?)
(まだ川の上を往復中・・・どこに着地するものか考えているようですね・・・目的地は把握しかねますが・・・)
私はノートを見ながら問う。
(酒蔵は近くにありますか)
(? いえ、近くに目立ったものは・・・)
(神霊廟は?)
(飛行地帯から大分離れてます)
(では貸本屋は!?)
(それも近くには・・・あ、あ、あります!!貸本屋!!よく見ると貸本屋を中心に川を上ったり下ったりしています!)
私は無線をとる。
(F班!貸本屋の監視だが、店から少し離れたところで行え!奴をおびき寄せるんだ!隠し財産を暴いて証拠にする!
チェン!奴が店に入ったら私の合図で取り押さえてくれ!!)
そして今に至る・・・
(二ツ岩マミゾウ視点:場所 貸本屋)
ワシに取れる手段は2つ。本の正体がばれないことを願いつつ、シラを切るか。あるいは強行突破。そしてワシの決断は1秒とかからんかった。
「どけどけどっけーーー!!」
「にゃあうい!?」
ワシは猫妖怪を蹴飛ばしつつ、店の外に出た!今のワシは完全に疑われておる。シラを切ってもワシの秘密が本の中にあることくらい誰でも想像つくじゃろう。ならば強行突破するしかない。
”変化「満月の花鳥園」”
ワシはボムにて敵を一掃する。しかし増援はいくらでもくるじゃろう。すぐにここを離れなければ・・・
「にゃああああ!!喰らえ!!翔符『飛翔韋駄天』」
回転体が背後から猛烈な勢いで迫る!!
ザクッ!!
トマトを切ったような音がした。ワシの二の腕から血が噴出する!猫も窮すれば狸を裂くかッ・・・!!
しかし、若いな。今の一撃、腕ではなく足を攻撃すべきであった。足が傷つけばワシとて逃走が難しくなる。攻撃部位を誤ったな。とはいえ、ここで黙っているマミゾウさんではない。少々痛い目を見てもら・・・ん・・・?
ワシはようやく異変に気付く。ワシの本が・・・ワシの金がない!?
「にゃははっ!!これは預からせてもらいますッ!!」
「おい、貴様、待て!!」
ぬかったのはワシの方!奴はワシが逃げられないようにしたのだ!!何という策士!しかもなかなか素早い。これでは弾幕勝負では徒に時間を消費する・・・かといってワシも残りボム数が少ない。ここで消費するわけにもいかぬ。とはいえ、向こうも良く見ると攻撃が薄い。ここはスナイプ・・・相手の動きを先読みし、強弾幕を放つ作戦で行こう。化け猫め、年季の違いを見せてくれるわ!・・・ここじゃ! ワシは渾身の弾幕を放つ!!その弾幕は見事に化け猫の背中を捉え・・・
ず、火の鳥に飲み込まれた。
「!?」
「『火の鳥 -鳳翼天翔-』・・・本当は人里の中心で使うような技じゃないんだけどね」
「・・・何者じゃ」
「健康マニアの焼き鳥屋だ。今はそこの猫の護衛かな」
「・・・くくく、仕方ないのう。ワシもそろそろお遊びはやめるとしよう」
ワシの宣言に応えるがごとく不死鳥が視界を覆う。
(八雲藍視点:場所 捜査本部)
「く・・・状況は!?」
「こちらF班・・・我が班は全滅です・・・」
「チェンは!?」
「今、妹紅さんが護衛についています・・・今から戦闘開始するでしょう・・・」
くそ・・・!!元々大した期待はしていなかったが、罪袋は所詮罪袋。戦闘では囮くらいの役にしかたたない。踏み込み前にチェンに藤原妹紅に護衛を依頼するよう言って正解だった。
しかし状況が把握できない。情報が足りな過ぎる。
第一にマミゾウは金を所有、または既に運搬した状態か否かだ。もし事後であれば相当不利。マミゾウはただ逃げるだけで勝ちなのだ。狸が一度逃げに回れば取り押さえることはほぼ絶望的。
所有していない状態として、次に問題なのが金は手つかずなのか、チェンが奪取したのか。もし前者ならやはりマミゾウに逃げの選択肢が存在する。無論、こちらも怪しいところは徹底的に捜索する。つまりマミゾウにとって逃げは金を奪われかねない危険な賭けだが、捕まるよりはマシと言えるだろう。チェンが奪取した状態であれば、幾分か希望がある。マミゾウは余程の危機に陥らない限り取り戻そうとするはずだ。つまりこちらが人質を取った状態にある。
最後に・・・今の状況はマミゾウにとってどのレベルの危機なのか。マミゾウは調べてみると三大狸の一角でないかという説もある。またそうでなくても先の宗教対戦にてマミゾウの戦闘力は十分に証明されている。
「あの・・・藍本部長・・・出動されるべきでは?」
「ダメだ!私がここを離れれば部隊の統率ができなくなる!リスクが高すぎる!」
「しかし・・・妹紅氏とは言え、相手は大妖怪ですぞ」
「・・・残念だが現状で私がここを離れるわけにはいかない。妹紅を信じよう・・・少々席を外すがすぐに戻る」
私は最後の切り札を切ることにした。
(二ツ岩マミゾウ視点:場所 人里)
「にゃあううううういッ!!藍しゃま、助けてぇえええええ!!」
「うおおお、あつッ、あつッ、アチチチチッ!!!待て、くぉらぁああ!!」
「こ、この、逃げるな、正々堂々戦え!!」
立ちはだかる焼き鳥屋の前にとったワシの手段。それはガン無視して化け猫を追いかけることじゃった。あの焼き鳥屋、ワシの記憶に間違いなければ藤原妹紅。そんなやつに付き合っていたら十年たっても終わらない。ならば無視して化け猫を追いかけるが得策!!
「ほいっ」
「にゃあああああ!?藍しゃま~~~~~!!」
ワシは弾幕を放つ。チェンは避けるが、当てることが目的ではない。目的はチェンの行動ルートを制限すること。情けない話、ワシは鈍足。普通にやって追いつけるわけない。しかし奴はパニック状態。ワシは弾幕を放ってチェンは裏路地の方をトンドン進んでいく。これは弱者の心理。パニックになると逃げながら隠れようとする。つまり狭い路地裏に無駄に逃げ込むわけじゃ。しかしそのルートはワシによって選ばされている。ワシはところどころショートカットしつつ、奴に迫る。
「おい、ちぇーーーーん!!あまり路地裏に行かれると!!私が、炎を、出せない!!」
「びぇぇぇえええええん!!藍しゃま~~~~~!!」
後ろから妹紅が迫るが、攻撃はまばら。こんな人里で炎を出鱈目に放つわけにいかない。しかもこの妹紅、トップスピードは速いものの小回りが利かないらしい。時々尻尾に火がつくが、その程度。現在主導権はワシが握っておる!!
「うぉおおおおおお!!待て待て待てぇええええ!!」
「わぁあ!わぁあ!わぁあ!!!藍しゃま~~~~~!!」
・
・・
・・・
はぁ・・・はぁ・・・流石に・・・疲れる・・・。しかし休むわけにはいかない・・・。今は術を使うタイミングではない。今のワシの武器は頭脳と足のみ。
「にゃああああ・・・にゃああああ・・・ぐすっ・・・藍しゃま~~~」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・待て・・・化け猫・・・」
「おい・・・くそ・・・待て・・・狸BBA・・・」
三者三様、全員疲れ切っている。酸欠状態じゃ・・・ワシの弾幕の手元もおぼつかなくなってきた。しかし化け猫もフラフラ。妹紅も弾幕を放つことなく、追いかけている。
「あと・・・もう少し・・・もう少しなんじゃ・・・」
ワシはチェンに手を伸ばすが・・・
ボコッ!!!!!
ワシは腹に回し蹴りを喰らい、人里の倉庫に叩きつけられる!!無論、蹴りを放ったのはチェンじゃない。
「くくく・・・随分おそい到着じゃの・・・」
「済ませなければならない仕事があったんでな」
蹴りの主がそう答える。鼻につく高慢な態度。目障りな9本の尻尾。
「お・・・遅すぎだぜ・・・」
「ら・・・藍しゃま~~~」
走り続けた3人が止まる。さて、正念場かの・・・
(八雲藍視点:場所 ??? 数分前)
私は最後の切り札を切ることにした。
今の状況、正直チェンだけで切り抜けられるとは思えない。私が行くしかない。しかし私が離れれば指揮をとれない。ではどうするか。他に指揮をとれるものを召喚するしかない。で、指揮をとれるものはただ一人。
「紫さま、紫さま、失礼します・・・」
「ZZZ・・・」
私は主の肩を揺するが、一向に起きる気配がない。しかし今は時間がない。私は紫様を起こす魔法の言葉を唱えた。
「・・・起きろ、BBA。」
「・・・あん?」
ズカッ!!
私は壁に叩きつけられる!!紫様の裏拳が炸裂したのだ。私は噴出する鼻血を抑えつつ、紫様に事情をお伝えした。
「・・・私が何でそんなことをしなきゃいけないわけ?」
「緊急事態なのです」
「私に暴言を吐いた罪、あとで折檻よ」
「・・・感謝します」
(八雲藍視点:場所 人里 現在)
私は地を舐める狸を見る。
コイツがマミゾウ。こうして会うのは初めてだ。紫さまのスキマを閉じつつ、私は構える。奴は今動いていないが油断はできない。どうせやられたフリだ。幸い3対1。しかも奴は息切れしている。こっちの2名も同じ状態だが勝算は高い。
「さあ、観念するんだな」
「くくく、そうじゃな、しかし最後になぞなぞじゃ」
「敗者の多弁は見苦しいぞ」
「ワシは術を使う時に葉っぱを媒体に使う。普段から100枚くらい持っているが、今は3枚しか持ってない。しかしその化け猫を追いかける時、一度として術を使っていない」
後ろから二つの反応・・・チェンと妹紅が軽く顔を上げたのだ。反応から察するに、本当に術を使ってないらしい。
「では問題じゃ・・・ワシは葉っぱを何に何のために使った?」
猛烈に嫌な予感がする。私は問答無用で飛び蹴りを放とうとするが・・・
「マミゾウ超変化!!佐渡金山大判振る舞いッ!!!!」
ドカッドカッドカッドカッドカッ!!!!!!
人里が大きく震える!思わず伏せるが・・・
「うわぁあ!?金(キン)だぁあああ!!」
「きゃっ!金!?」
「うおおおお、俺のだ俺のだ!!」
人里中に歓声が上がる。見ると、人里中に小山が出現し、そこから砂金が噴出しているのだ。人里中の人間が我先にと回収する。
「!? マミゾウは!?」
確かに監視したはずのマミゾウがいなくなっていた。いや、正確には人ごみに紛れて人間に変身したんだろう。あっと言う間に見失ってしまった。
「く、くそ・・・H班!!報告を!!」
「金、金、金だぁあああ!!」
配下の罪袋達は金に目を奪われて何も言うことを聞かない。
「あ、あ、藍しゃま!!!!」
「!? どうした、チェン!?」
「本を、本を盗られました!!!」
「何ッ!?」
(くくく、ワシの声が聞こえるかの?)
「く・・・どこだ!?」
(まずは九尾。感謝するぞ、貴様が首をつっこんだこと)
「どういうことだ!?」
(流石のワシも猫に本をスラれた時はもうだめかと思った。猫はワシより速いからの。だからワシはどうやったら猫を止められるか考えておった。)
「それとこれとどう関係がある!?」
(ワシは考えた。猫が止まるとき。それは逃げる必要がなくなった時じゃ。そしてそれは保護者たる貴様が来るときに他ならない)
「・・・私が来るのを待っていたというのか?」
(この術、大がかりながら隙をつけるのはせいぜい一回じゃ。この術を使う前に猫を止めるのが必須じゃった)
「逃げ切れると思うなよ・・・」
(逃げ切れる? 違うな、これを聞いたとき、もう逃げ終わっている。)
ポン・・・。
音がすると、人里中の金山が消えた。落胆する人々の中、私の前に何かが置かれた。ラジカセだった。そこからマミゾウの声がしていた。
「やられた・・・」
私は崩れ落ちた。膨大な時間をかけて捜査したものを取り逃した。主をBBA呼ばわりしてまで追いつめたのに・・・
「藍しゃま・・・泣かないでください・・・」
私は泣いていた。涙が止まらなかった。悔しい。悔しい。くそ。くそ。くそ。
「チェン、すまない、一人にしてくれ」
「大丈夫です、藍しゃま」
「大丈夫なわけないだろ!!逃げられたんだぞ!!」
「逃げられました・・・でも奴は・・・金を持ち出せませんでした」
え・・・?視線の先には確かに本が。え?でも、さっき盗まれたって・・・。
「実は・・・パニックになっちゃって・・・本を切り裂いちゃったんです」
よく見ると、本は上半分しかない。奴は下半分だけ持ち去ったのか。
「しかし、この状態でも金を持ち出せるかもしれないぞ、チェン」
「ううう・・・確かに・・・」
「ぎゃぁああああああああああ!? ワシの!! ワシの金がぁあああああああ!!!!」
不意に裏の倉庫から叫び声がする。見ると、下半分の本と・・・泡を吹き、失禁しているマミゾウがいた。
「ワシの・・・ワシの金が・・・」
「あの・・・藍しゃま・・・」
「ああ。どうやら持ち出せない方だったらしい。」
(エピローグ 八雲藍視点)
「金・・・ワシの金・・・」
ここは命蓮寺。あの逃走事件から一月。マミゾウを取り押さえたものの困ったことが起きた。マミゾウを拘束しようにも証拠がない。証拠の金は本と共に失われてしまった。被害者たちもマミゾウの顔を知らないから証人になれない。そして肝心のマミゾウは・・・
「さとり先生、マミゾウは詐病でしょうか」
「そうではありませんね、どうやら最後の事件で彼女の中の時が停止してしまったようです」
「金・・・ワシの金・・・」
これでは逮捕しようにもできない。とりあえず命蓮寺で拘束しているが、1月たって何の進展もない。
「とりあえず、里の平和は戻ったんですが・・・」
それに加え、一つ困ったことが起きた。どこから情報を入手したのか、マミゾウがこんな状態にあることをいいことに因幡てゐが自分の犯罪をマミゾウに転嫁し始めたのだ。証人がこんな状態のため、どうしようもない。そして何よりも・・・
「藍。時間よ」
「はい・・・」
「藍しゃま・・・頑張って!!」
「うん・・・」
紫様の折檻。それは毎日毎日、特定の時間、ここではとても言えない行為をやらされているのだ。これだけは本当に口には出せない。チェンの教育上にも非常に悪い行為、とだけ言っておく。
はぁ・・・
こうして、闇金王事件は終わったのだった。
これはグッドエンド・・・・・・なのかな?
フランドールさんは何をなさってるのでしょう?
なかなか面白かったです