しかし、この三人はこころお面博物館に来ないで、惰眠をむさぼっているのであった。
「馬鹿かお前ら! こころお面博物館に行きやがれ!」
私が力いっぱいに叫ぶと、目の前にいる三人はあっけに取られた目で私を見た。
「んー、なに言ってるのこころちゃん?」
我が宿敵である、古明地こいしが首を傾げた。
「聞こえなかったなら、もう一度言ってやる。こころお面博物館に行きやがれお前ら!」
「いえ、こいしちゃんはそういうことを言ったのではないと思うわよ」
フランドール・スカーレットが困惑の表情を顔に浮かべながら私を見た。
「こいつが噂のお面妖怪か。聖やこいしの言ってたように、だいぶ天然入ってるね」
封獣ぬえが笑みの表情を顔に浮かべる。
いや、あれは困惑の表情か? どっちつかずでよくわからんぞ。
「天然入ってるのはお前らの方だろ! なぜお前らは私のこころお面博展に来ない。珍しいお面がいっぱい展示されてるんだぞ」
そもそも開催してることすら知らなかったし、と三人が声を揃えて言った。
そういえば私も忙しくて伝えた覚えがない。
「ほら、天然入ってるでしょ? こころちゃん可愛いなー」
こいしが顔いっぱいに笑みを浮かべた。おのれ、私のことを馬鹿にしおって。
「とにかく、今日で我が博物館は閉館するんだ。チケットあげるから見に来てよー」
私が泣きつくと、こいしは途端に困った様子で答えた。
「えー、でも今日はお姉ちゃんとこれからお茶会する予定なんだよねー。里の喫茶店の個室、予約取ってくれたみたいなの」
「あら、私もよ。奇遇ね。店も同じみたいだわ」
「私もだよ。村紗とお茶会するんだ」
「そろいもそろってお茶博士かお前ら! お茶なんていつでも飲めるだろ」
それもそうだけど約束を破るわけにはいかないよ、とまた三人が声を揃えて言った。
妖怪の癖に良い子ちゃんかお前ら。
「わかった。なら私が代打でお茶会に出る。お前らの仮面を被って、ぬえの正体不明の種とこいしの無意識のお面を使えば私が秦こころとだとはバレないはずだ。だから頼む。我がこころお面博物館に来てくれ。私のお面を自慢したいんだよー」
私が気合を入れて土下座をしたら、あいつらは不承不承ながらも博物館に行ってくれた。
さて、あとは私の完璧な演技でレミリア、さとり、村紗を欺くだけだ。
ここにお面は三人分ある。フランのお面、こいしのお面、ぬえのお面だ。
最大の問題はレミリア、さとり、村紗の容姿を聞くのを忘れてたことだが、……うん、まぁなんとかなるよね。あいつらの特徴は知ってるし。
さて、お茶屋に到着。初めの相手はこいしの姉だ。たしか小さいと聞いたな。店員さんに、背丈の小さい妖怪のいる部屋を訪ねてみると、扉の前まで案内してくれた。
こいしのお面を装着して、いざ初陣だ。
扉を開くと、そこには小さな子供のような妖怪がいた。こいつがさとりか。
ドアノブのような帽子と大きな黒い羽があってまるでコウモリのようだな。
「あれ、妹はどうしたんだ?」
さとりが私の姿を見た瞬間、首を傾げた。
んん? もしかして、一瞬で私の正体バレちゃった?
「なにを言っている我が姉よ、我の顔を忘れたのか?」
「いや、あなたがそういうスタンスならそれでいいけど……。そうそう、この前の戦い凄かったね」
「この前の戦いとはなんぞよ?」
「なに惚けてるの。神社や里でやってた宗教合戦に決まってるじゃない」
完全にバレてる!?
さすがは我がライバルの姉だ。
「よくぞ私の完璧な変装を見破ったな!」
「えっ……。うんそりゃまぁ見りゃわかるよ」
「無念なり。帰る」
「ちょっと待って。今日ここで私とあなたが巡り合えたのも運命。せっかくだし私とお茶しましょうよ。あなたとは前から話したいと思ってたの」
「話とはなんだ?」
「心が読めないって不便じゃない? とかそんなお話ね」
どういうことだ?
もしかして私が、自分の名前をすら読めないほど頭が悪いと思ってるのかこいつ?
秦こころ。ひらがなだぞ私の名前。
「馬鹿にするなよ、この野郎!」
「え? なんで私怒られたの?」
「『こころ』くらい読めるわ!」
「え、心読めるの? てっきり、心を閉ざしたのかと思ったのに」
「勝手に閉ざさないでよ。こころはバリバリ活動中です」
「それは知らなかった。勝手な思い込みしてごめんなさいね」
「いえいえ、私も熱くなりすぎました」
こいしの姉は、横柄な態度もあったが良い奴だった。当初の目的だった、こいしに偽装するフリは失敗に終わったがそれなりに話は弾んだ。
気になった点と言えば、彼女が血液入りの紅茶を飲んでいたことくらいだ。さとりは吸血鬼にでもなりたいのだろうか。
「あなたはお姉さんと仲が良くて羨ましいわ」とさとりがため息交じりに言った。「私の妹も、もうちょっと素直になってくれればいいのに」
私のお姉さんって誰のことだろ?
神子はどっちかというと兄さんっぽいし。じゃあ、聖が姉かな。
「我が姉は説教っぽいのが嫌だけどねー」
「それはあなたが好きだからよ」
「そうなのかなー。しかし我が目的は宗教家を倒すこと。姉とはいえ決別の日はくるのだ!」
「えっ、あなたの姉って宗教家だったの?」
「その通り! 宗教家とは派手な演出と高説ぶった話と大きなおっぱいで人を惑わせるトンデモナイ奴らよ」
「大きいおっぱい? あなたの姉って貧乳でしょ」
「そんなことはないぞ。バインバインだ。歩くだけで揺れまくるぞ」
「ほんとに? 嘘でしょ?」
「私の顔を挟めるくらいには大きいぞ」
「まさかそんな大きくなってるなんて……。宗教やれば胸って急成長するのかなぁ」
「しないと思うぞ。お前の妹も命蓮寺の在家になったが、胸は素朴なままだ。私よりも小さい」
「ええっ、ちょっと待って。なにそれ私知らないんだけど」
「安心しろ。この私がきちんと生で見比べたから、間違いはないぞ」
「いや、そっちじゃなくて私の妹が命蓮寺の在家になったってことよ。なにか悩み事でもあるのかなぁ。私に相談してもいいのに」
「お前の妹は、希望と言う名の新たな太陽を求めていたのだ!」
「ウチの妹は太陽の光浴びたら死んじゃうんだけど」
「つべこべと言い訳ばっかりするんじゃない。妹に頼られる前に、自分から頼られる姉にならなくては駄目だぞ!」
「うっ……、それもそうねしっかりするわ」
「うむ、わかればよい」
さとりとの会話を切り上げると、次に私はレミリアの待つ部屋へ向かうことにした。確かフランが、「変な帽子を被ってる奴」と言ってた。店員さんに、帽子を被った妖怪のいる部屋を訪ねてみると、扉の前まで案内してくれた。
フランの仮面をつけて、いざ出陣だ。
部屋に入ると確かに変な帽子を被っている妖怪がいた。ギロチンみたいなマークの付いている帽子だ。このギロチンで人間の首を狩りまくってやるという熱い意気込みを感じる。
こいつがレミリアに違いない。
「あれ、吸血鬼のお嬢ちゃんじゃないですか。何か御用?」
よし、ばれてないぞ。今度は成功だ。
「いやだなー、恍けちゃって。私とお茶会をする約束だったじゃないの」
「そうでしたっけ? ところでぬえは、知りませんか?」
「ぬえ? ぬえだったら向こうでお茶を飲んでるよ」
「えーなんだよあいつぅ。ぬえが約束破るなんて珍しいなぁ。素で忘れたのかな」
なぜか残念そうだ。
妹に変装した私が目の前にいるというのに。
フランが姉とギスギスしてるというのは本当だったらしい。
よーしここは私がなんとかしてやる。
私は思いっきり机を叩いた。
「もうっ、私が傍にいるのに他の女の話をしないでよ!」
「なぜです?」
「あなたは私とぬえのどっちが大切なの!」
青娥に見せて貰ったドラマを参考にしたけど、これであってるかな?
「そうですね。せっかくだから今日はあなたとお茶を共にさせて貰いましょうか」
よし、成功だ。
ありがとう青娥。
「飲み物は私と同じものでいいですか?」
吸血鬼と同じってことは血が入ってるのかな? それは嫌だなー。
フランだっていつも血入りの物食べてるわけじゃないらしいし、ここは断っちゃおう。
「別の物でお願いする」
「そうですよね。安心してください。ここの喫茶店は妖怪用に、人間の血入りのお茶もあるんですよ。輸血パックの血ですけどね」
「嫌がらせかこの野郎! お前とは別の物って言っただろ!」
「輸血パックの血が気に入らないんですか? ここのは美味しいらしいですよ」
「そういう問題じゃない! 私は血なんていらないと言っているんだ!」
「吸血鬼でも血がいらない時ってあるんですね」
フランの姉は話に聞いていたよりも礼儀の正しい奴だった。
フランに偽装するフリも成功し、私も嬉しい。気になった点と言えばやけに仏教の話が多かったことくらいだろうか。
まるでお寺の妖怪みたいだ。
「そんなにお前はお寺が好きなのか?」
「もちろん大好きですよ。ああ、でも海も良いですね。幻想郷には海がないのが残念です」
「残念なの? てっきり喜んでいると思ったのに」
「そんなことないですよ。出来れば、また海で泳ぎたいものです」
「自殺する気なのか!?」
「自殺なんてしませんよ。溺れ死んだトラウマはあるけど、これでも私泳ぎは得意なんですよ。浜辺で日光浴も楽しいですし」
「自殺する気なのか!?」
「だからしませんよ。それにどちらかと言うと、海よりも血のほうが最近はトラウマです」
「くそ不味い血でも飲んのか」
「不味いかどうかはわからないですけど、血の池地獄でおぼれたことがあって」
「天国じゃないか! 血が飲み放題だぞ」
「あなたにとっては、確かに天国かもしれませんね」
うーん、いまいち話がかみ合わないな。
「そうそう、あなたこの前、ウチに来ましたよね。どうでしたか?」
「どうでしたも何も、自分の家なんだから行くに決まってるじゃないか」
「自分の家? ということは、もしかしてもう修行しているのですか?」
急にレミリアが目を輝かせながらこっちを見てきたが、吸血鬼に修行なんて聞いてないぞ。
まぁ適当に話を合わせればいいか。
「おう、修行はしているぞ。人の襲い方もばっちりだ!」
「襲っちゃダメ!」
「ええ!? 駄目なのか?」
「はい。襲いたくなってもそこはグッと堪えてください」
言われてみれば、あの吸血鬼姉妹が人襲うって話は聞いたことがないな。
「修行と言っても最初は地味ですけどね。最初は掃除をしたりとか」
「ええ!? お前があの家を掃除してるのか?」
紅魔館の当主って暇なのだろうか。
「はい。雑巾で廊下を拭いたりなど、地味な修行に見えますけどこれも……」
「ええ!? あの無駄に広い家を雑巾で拭いてるの!? なにその苦行」
「慣れると楽ですよ」
「そういえば、門番らしき人も庭の掃除をしてたね」
「はい修行の一環ですから」
「たまにお客を格闘術で追い払っていたのも修行なの?」
「そんなことしてたんですかあの子? あとで怒らないと……」
「そうだ、ちゃんと怒らないと駄目だぞ。躾はしっかりとだ」
「ぬえに変なことでも吹き込まれたのかなぁ」
レミリアとの会話を切り上げると、次に私は村紗の待つ部屋へ向かうことにした。確かぬえが、「船長っぽい奴」って言ってた気がする。
……船長っぽい奴ってなんじゃらほい?
まぁいいや。最後に残った奴は村紗で確定してるんだ。
店員さんに、残った妖怪のいる部屋を訪ねてみると、扉の前まで案内してくれた。
ぬえの仮面をつけて、最後の戦いだ。
部屋に入るとそこには小さな妖怪が静かに佇んでいた。あいつが村紗だろうか。体中にコードが巻かれている。あれで船の操作でもするのだろうか。
胸の前には大きな目玉がついている。あっ、いま目玉がこっち見た。なんかこの人怖いよ……。
「あら、妹は来れなくなったのかしら?」
村紗が私に向かって言った。
がーん、またバレてるみたい。
これで一勝二敗。
ぬえとこいしの能力全然だめじゃないかあんなにゃろうめ。
「あなたの心には黒い霧がかかっているわね。あなたの能力かしら」
「なんだと? 私に黒い霧がかかってるというのか」
私の顔が汚れているということだろうか。
「無自覚だったの?」
「はい。顔は洗ったつもりなんですが。出直してきます」
「ちょっと待って。せっかくだからお話ししましょうよ。あなたには前から興味があったの」
「しかし、顔が黒いままでは失礼かと」
「顔は汚れてないわよ。心が読めないと言っただけよ」
「なにっ、お前は『こころ』が読めないのか!?」
こいつはひらがなすら読めないのか。
聖は私に説法を伝える前にやることがあるんじゃないか。
「あなたもお茶を飲むでしょ? 私と同じ抹茶で良いかしら」
「はい、ぜひそれでお願いします。しかしよく抹茶なんて難しいお茶を注文できましたね」
「私こう見えてもけっこう苦い物とかも飲めるのよ」
「いや、そうじゃなくて。メニューの文字、よく読めましたね。漢字で書いてあるじゃないですか」
「漢字くらい読めるわよ」
「ひらがなは読めないのに漢字は読めるの!? 変わってますねー」
「うーん? 心が読めないのをこれほど歯がゆく思ったことはないわね」
「心中お察しします」
「私の心中を察せられたのは生まれて初めてかもしれないわね……」
ぬえの友達は中々にミステリアスな妖怪だった。目的だった、ぬえに偽装するフリは失敗に終わったがそれなりに話は弾んだ。気になった点と言えば、やたらと我がライバルに似ていることくらいか。
「あなた、この間まで家の近くにいたらしいわね。住み心地はどうだったかしら?」
命蓮寺の事かな?
「悪くはなかったぞ。でも、朝うるさい奴がいるのが困ったな。ぎゃーぎゃー叫ぶんだ」
確かあいつは響子といってたな。
「そうなの? うちのペットがご迷惑をかけたわね」
「ペット? あいつはペットだったのか。確かに犬っぽい奴だったな」
「ごめんなさいね。つい最近まで、ところ構わず家の中でオシッコをしちゃうような子だったの。まだまだ人間形態の生活に慣れてないのでしょうね」
「家の中でオシッコ? あいつそんな事をしてたのか」
聖は私に説法を伝える前に響子のしつけ位ちゃんとしろ。
「あいつ? あなたと知り合いなの?」
「うん。一応、先輩にあたるのかな?」
「ということは、お空やお燐も知っているのかしら?」
リン……?
一輪のあだ名かな。
「お輪のほうは知ってるぞ。我が戦いの師匠だ」
「お燐は私の知らない間に随分と偉くなったのね。あの子もつい最近までは、私に叱られたら漏らしちゃうくらい子供だったのに」
「お輪ってそんな子供だったのか。それは良いことを聞いたぞ。今度は私も叱ってお漏らしさせてやる」
「私に隠れてご飯をつまみ食いしたり、勝手に余所の家にお世話になったり、まだまだ子供よ」
「なんて奴だ、いつも真面目ぶった顔をしてる癖に許せん!」
「一応聞くけど、私の言ってるお燐とあなたの言ってるお輪って同一人物かしら? 死体運びが仕事の子よ?」
お寺なら葬式で死体運びくらいはする。うむ、合ってる
「その死体を燃やすのよ?」
葬式で死体を燃やすのは仏教ならあってるはず。うん、やっぱり一輪だ。
「ならよかった。今後とも仲良くしてあげてくださいね。あの子、頭撫でると喜ぶのよ」
「なるほど。じゃあ今度会った時は、私もお輪の頭を撫でてやろう」
村紗との会話も一通り終わったので、帰ることにした。目的はあまり達成できなかったけど有意義な時間は過ごせた。
もしも、約束を破ったということであの三人が怒られそうになったら、私が無理やり頼んだんだから許してくれってお願いしよう。
「それでは、また今度」
私は村紗に向かって、手を振った。
「ええ、また今度。あなたのこころで、私の妹がまた一歩前進出来たわ。ありがとうね」
「なんのことだ?」
「ただの独り言よ。気にしないで」
「そうかわかった」
帰る途中に私は、あのときの彼女の顔を思い出しながら帰った。私が選んだお面は、翁だった。
さて、あいつらから『こころお面博物館』の感想でも聞くとするか。
「馬鹿かお前ら! こころお面博物館に行きやがれ!」
私が力いっぱいに叫ぶと、目の前にいる三人はあっけに取られた目で私を見た。
「んー、なに言ってるのこころちゃん?」
我が宿敵である、古明地こいしが首を傾げた。
「聞こえなかったなら、もう一度言ってやる。こころお面博物館に行きやがれお前ら!」
「いえ、こいしちゃんはそういうことを言ったのではないと思うわよ」
フランドール・スカーレットが困惑の表情を顔に浮かべながら私を見た。
「こいつが噂のお面妖怪か。聖やこいしの言ってたように、だいぶ天然入ってるね」
封獣ぬえが笑みの表情を顔に浮かべる。
いや、あれは困惑の表情か? どっちつかずでよくわからんぞ。
「天然入ってるのはお前らの方だろ! なぜお前らは私のこころお面博展に来ない。珍しいお面がいっぱい展示されてるんだぞ」
そもそも開催してることすら知らなかったし、と三人が声を揃えて言った。
そういえば私も忙しくて伝えた覚えがない。
「ほら、天然入ってるでしょ? こころちゃん可愛いなー」
こいしが顔いっぱいに笑みを浮かべた。おのれ、私のことを馬鹿にしおって。
「とにかく、今日で我が博物館は閉館するんだ。チケットあげるから見に来てよー」
私が泣きつくと、こいしは途端に困った様子で答えた。
「えー、でも今日はお姉ちゃんとこれからお茶会する予定なんだよねー。里の喫茶店の個室、予約取ってくれたみたいなの」
「あら、私もよ。奇遇ね。店も同じみたいだわ」
「私もだよ。村紗とお茶会するんだ」
「そろいもそろってお茶博士かお前ら! お茶なんていつでも飲めるだろ」
それもそうだけど約束を破るわけにはいかないよ、とまた三人が声を揃えて言った。
妖怪の癖に良い子ちゃんかお前ら。
「わかった。なら私が代打でお茶会に出る。お前らの仮面を被って、ぬえの正体不明の種とこいしの無意識のお面を使えば私が秦こころとだとはバレないはずだ。だから頼む。我がこころお面博物館に来てくれ。私のお面を自慢したいんだよー」
私が気合を入れて土下座をしたら、あいつらは不承不承ながらも博物館に行ってくれた。
さて、あとは私の完璧な演技でレミリア、さとり、村紗を欺くだけだ。
ここにお面は三人分ある。フランのお面、こいしのお面、ぬえのお面だ。
最大の問題はレミリア、さとり、村紗の容姿を聞くのを忘れてたことだが、……うん、まぁなんとかなるよね。あいつらの特徴は知ってるし。
さて、お茶屋に到着。初めの相手はこいしの姉だ。たしか小さいと聞いたな。店員さんに、背丈の小さい妖怪のいる部屋を訪ねてみると、扉の前まで案内してくれた。
こいしのお面を装着して、いざ初陣だ。
扉を開くと、そこには小さな子供のような妖怪がいた。こいつがさとりか。
ドアノブのような帽子と大きな黒い羽があってまるでコウモリのようだな。
「あれ、妹はどうしたんだ?」
さとりが私の姿を見た瞬間、首を傾げた。
んん? もしかして、一瞬で私の正体バレちゃった?
「なにを言っている我が姉よ、我の顔を忘れたのか?」
「いや、あなたがそういうスタンスならそれでいいけど……。そうそう、この前の戦い凄かったね」
「この前の戦いとはなんぞよ?」
「なに惚けてるの。神社や里でやってた宗教合戦に決まってるじゃない」
完全にバレてる!?
さすがは我がライバルの姉だ。
「よくぞ私の完璧な変装を見破ったな!」
「えっ……。うんそりゃまぁ見りゃわかるよ」
「無念なり。帰る」
「ちょっと待って。今日ここで私とあなたが巡り合えたのも運命。せっかくだし私とお茶しましょうよ。あなたとは前から話したいと思ってたの」
「話とはなんだ?」
「心が読めないって不便じゃない? とかそんなお話ね」
どういうことだ?
もしかして私が、自分の名前をすら読めないほど頭が悪いと思ってるのかこいつ?
秦こころ。ひらがなだぞ私の名前。
「馬鹿にするなよ、この野郎!」
「え? なんで私怒られたの?」
「『こころ』くらい読めるわ!」
「え、心読めるの? てっきり、心を閉ざしたのかと思ったのに」
「勝手に閉ざさないでよ。こころはバリバリ活動中です」
「それは知らなかった。勝手な思い込みしてごめんなさいね」
「いえいえ、私も熱くなりすぎました」
こいしの姉は、横柄な態度もあったが良い奴だった。当初の目的だった、こいしに偽装するフリは失敗に終わったがそれなりに話は弾んだ。
気になった点と言えば、彼女が血液入りの紅茶を飲んでいたことくらいだ。さとりは吸血鬼にでもなりたいのだろうか。
「あなたはお姉さんと仲が良くて羨ましいわ」とさとりがため息交じりに言った。「私の妹も、もうちょっと素直になってくれればいいのに」
私のお姉さんって誰のことだろ?
神子はどっちかというと兄さんっぽいし。じゃあ、聖が姉かな。
「我が姉は説教っぽいのが嫌だけどねー」
「それはあなたが好きだからよ」
「そうなのかなー。しかし我が目的は宗教家を倒すこと。姉とはいえ決別の日はくるのだ!」
「えっ、あなたの姉って宗教家だったの?」
「その通り! 宗教家とは派手な演出と高説ぶった話と大きなおっぱいで人を惑わせるトンデモナイ奴らよ」
「大きいおっぱい? あなたの姉って貧乳でしょ」
「そんなことはないぞ。バインバインだ。歩くだけで揺れまくるぞ」
「ほんとに? 嘘でしょ?」
「私の顔を挟めるくらいには大きいぞ」
「まさかそんな大きくなってるなんて……。宗教やれば胸って急成長するのかなぁ」
「しないと思うぞ。お前の妹も命蓮寺の在家になったが、胸は素朴なままだ。私よりも小さい」
「ええっ、ちょっと待って。なにそれ私知らないんだけど」
「安心しろ。この私がきちんと生で見比べたから、間違いはないぞ」
「いや、そっちじゃなくて私の妹が命蓮寺の在家になったってことよ。なにか悩み事でもあるのかなぁ。私に相談してもいいのに」
「お前の妹は、希望と言う名の新たな太陽を求めていたのだ!」
「ウチの妹は太陽の光浴びたら死んじゃうんだけど」
「つべこべと言い訳ばっかりするんじゃない。妹に頼られる前に、自分から頼られる姉にならなくては駄目だぞ!」
「うっ……、それもそうねしっかりするわ」
「うむ、わかればよい」
さとりとの会話を切り上げると、次に私はレミリアの待つ部屋へ向かうことにした。確かフランが、「変な帽子を被ってる奴」と言ってた。店員さんに、帽子を被った妖怪のいる部屋を訪ねてみると、扉の前まで案内してくれた。
フランの仮面をつけて、いざ出陣だ。
部屋に入ると確かに変な帽子を被っている妖怪がいた。ギロチンみたいなマークの付いている帽子だ。このギロチンで人間の首を狩りまくってやるという熱い意気込みを感じる。
こいつがレミリアに違いない。
「あれ、吸血鬼のお嬢ちゃんじゃないですか。何か御用?」
よし、ばれてないぞ。今度は成功だ。
「いやだなー、恍けちゃって。私とお茶会をする約束だったじゃないの」
「そうでしたっけ? ところでぬえは、知りませんか?」
「ぬえ? ぬえだったら向こうでお茶を飲んでるよ」
「えーなんだよあいつぅ。ぬえが約束破るなんて珍しいなぁ。素で忘れたのかな」
なぜか残念そうだ。
妹に変装した私が目の前にいるというのに。
フランが姉とギスギスしてるというのは本当だったらしい。
よーしここは私がなんとかしてやる。
私は思いっきり机を叩いた。
「もうっ、私が傍にいるのに他の女の話をしないでよ!」
「なぜです?」
「あなたは私とぬえのどっちが大切なの!」
青娥に見せて貰ったドラマを参考にしたけど、これであってるかな?
「そうですね。せっかくだから今日はあなたとお茶を共にさせて貰いましょうか」
よし、成功だ。
ありがとう青娥。
「飲み物は私と同じものでいいですか?」
吸血鬼と同じってことは血が入ってるのかな? それは嫌だなー。
フランだっていつも血入りの物食べてるわけじゃないらしいし、ここは断っちゃおう。
「別の物でお願いする」
「そうですよね。安心してください。ここの喫茶店は妖怪用に、人間の血入りのお茶もあるんですよ。輸血パックの血ですけどね」
「嫌がらせかこの野郎! お前とは別の物って言っただろ!」
「輸血パックの血が気に入らないんですか? ここのは美味しいらしいですよ」
「そういう問題じゃない! 私は血なんていらないと言っているんだ!」
「吸血鬼でも血がいらない時ってあるんですね」
フランの姉は話に聞いていたよりも礼儀の正しい奴だった。
フランに偽装するフリも成功し、私も嬉しい。気になった点と言えばやけに仏教の話が多かったことくらいだろうか。
まるでお寺の妖怪みたいだ。
「そんなにお前はお寺が好きなのか?」
「もちろん大好きですよ。ああ、でも海も良いですね。幻想郷には海がないのが残念です」
「残念なの? てっきり喜んでいると思ったのに」
「そんなことないですよ。出来れば、また海で泳ぎたいものです」
「自殺する気なのか!?」
「自殺なんてしませんよ。溺れ死んだトラウマはあるけど、これでも私泳ぎは得意なんですよ。浜辺で日光浴も楽しいですし」
「自殺する気なのか!?」
「だからしませんよ。それにどちらかと言うと、海よりも血のほうが最近はトラウマです」
「くそ不味い血でも飲んのか」
「不味いかどうかはわからないですけど、血の池地獄でおぼれたことがあって」
「天国じゃないか! 血が飲み放題だぞ」
「あなたにとっては、確かに天国かもしれませんね」
うーん、いまいち話がかみ合わないな。
「そうそう、あなたこの前、ウチに来ましたよね。どうでしたか?」
「どうでしたも何も、自分の家なんだから行くに決まってるじゃないか」
「自分の家? ということは、もしかしてもう修行しているのですか?」
急にレミリアが目を輝かせながらこっちを見てきたが、吸血鬼に修行なんて聞いてないぞ。
まぁ適当に話を合わせればいいか。
「おう、修行はしているぞ。人の襲い方もばっちりだ!」
「襲っちゃダメ!」
「ええ!? 駄目なのか?」
「はい。襲いたくなってもそこはグッと堪えてください」
言われてみれば、あの吸血鬼姉妹が人襲うって話は聞いたことがないな。
「修行と言っても最初は地味ですけどね。最初は掃除をしたりとか」
「ええ!? お前があの家を掃除してるのか?」
紅魔館の当主って暇なのだろうか。
「はい。雑巾で廊下を拭いたりなど、地味な修行に見えますけどこれも……」
「ええ!? あの無駄に広い家を雑巾で拭いてるの!? なにその苦行」
「慣れると楽ですよ」
「そういえば、門番らしき人も庭の掃除をしてたね」
「はい修行の一環ですから」
「たまにお客を格闘術で追い払っていたのも修行なの?」
「そんなことしてたんですかあの子? あとで怒らないと……」
「そうだ、ちゃんと怒らないと駄目だぞ。躾はしっかりとだ」
「ぬえに変なことでも吹き込まれたのかなぁ」
レミリアとの会話を切り上げると、次に私は村紗の待つ部屋へ向かうことにした。確かぬえが、「船長っぽい奴」って言ってた気がする。
……船長っぽい奴ってなんじゃらほい?
まぁいいや。最後に残った奴は村紗で確定してるんだ。
店員さんに、残った妖怪のいる部屋を訪ねてみると、扉の前まで案内してくれた。
ぬえの仮面をつけて、最後の戦いだ。
部屋に入るとそこには小さな妖怪が静かに佇んでいた。あいつが村紗だろうか。体中にコードが巻かれている。あれで船の操作でもするのだろうか。
胸の前には大きな目玉がついている。あっ、いま目玉がこっち見た。なんかこの人怖いよ……。
「あら、妹は来れなくなったのかしら?」
村紗が私に向かって言った。
がーん、またバレてるみたい。
これで一勝二敗。
ぬえとこいしの能力全然だめじゃないかあんなにゃろうめ。
「あなたの心には黒い霧がかかっているわね。あなたの能力かしら」
「なんだと? 私に黒い霧がかかってるというのか」
私の顔が汚れているということだろうか。
「無自覚だったの?」
「はい。顔は洗ったつもりなんですが。出直してきます」
「ちょっと待って。せっかくだからお話ししましょうよ。あなたには前から興味があったの」
「しかし、顔が黒いままでは失礼かと」
「顔は汚れてないわよ。心が読めないと言っただけよ」
「なにっ、お前は『こころ』が読めないのか!?」
こいつはひらがなすら読めないのか。
聖は私に説法を伝える前にやることがあるんじゃないか。
「あなたもお茶を飲むでしょ? 私と同じ抹茶で良いかしら」
「はい、ぜひそれでお願いします。しかしよく抹茶なんて難しいお茶を注文できましたね」
「私こう見えてもけっこう苦い物とかも飲めるのよ」
「いや、そうじゃなくて。メニューの文字、よく読めましたね。漢字で書いてあるじゃないですか」
「漢字くらい読めるわよ」
「ひらがなは読めないのに漢字は読めるの!? 変わってますねー」
「うーん? 心が読めないのをこれほど歯がゆく思ったことはないわね」
「心中お察しします」
「私の心中を察せられたのは生まれて初めてかもしれないわね……」
ぬえの友達は中々にミステリアスな妖怪だった。目的だった、ぬえに偽装するフリは失敗に終わったがそれなりに話は弾んだ。気になった点と言えば、やたらと我がライバルに似ていることくらいか。
「あなた、この間まで家の近くにいたらしいわね。住み心地はどうだったかしら?」
命蓮寺の事かな?
「悪くはなかったぞ。でも、朝うるさい奴がいるのが困ったな。ぎゃーぎゃー叫ぶんだ」
確かあいつは響子といってたな。
「そうなの? うちのペットがご迷惑をかけたわね」
「ペット? あいつはペットだったのか。確かに犬っぽい奴だったな」
「ごめんなさいね。つい最近まで、ところ構わず家の中でオシッコをしちゃうような子だったの。まだまだ人間形態の生活に慣れてないのでしょうね」
「家の中でオシッコ? あいつそんな事をしてたのか」
聖は私に説法を伝える前に響子のしつけ位ちゃんとしろ。
「あいつ? あなたと知り合いなの?」
「うん。一応、先輩にあたるのかな?」
「ということは、お空やお燐も知っているのかしら?」
リン……?
一輪のあだ名かな。
「お輪のほうは知ってるぞ。我が戦いの師匠だ」
「お燐は私の知らない間に随分と偉くなったのね。あの子もつい最近までは、私に叱られたら漏らしちゃうくらい子供だったのに」
「お輪ってそんな子供だったのか。それは良いことを聞いたぞ。今度は私も叱ってお漏らしさせてやる」
「私に隠れてご飯をつまみ食いしたり、勝手に余所の家にお世話になったり、まだまだ子供よ」
「なんて奴だ、いつも真面目ぶった顔をしてる癖に許せん!」
「一応聞くけど、私の言ってるお燐とあなたの言ってるお輪って同一人物かしら? 死体運びが仕事の子よ?」
お寺なら葬式で死体運びくらいはする。うむ、合ってる
「その死体を燃やすのよ?」
葬式で死体を燃やすのは仏教ならあってるはず。うん、やっぱり一輪だ。
「ならよかった。今後とも仲良くしてあげてくださいね。あの子、頭撫でると喜ぶのよ」
「なるほど。じゃあ今度会った時は、私もお輪の頭を撫でてやろう」
村紗との会話も一通り終わったので、帰ることにした。目的はあまり達成できなかったけど有意義な時間は過ごせた。
もしも、約束を破ったということであの三人が怒られそうになったら、私が無理やり頼んだんだから許してくれってお願いしよう。
「それでは、また今度」
私は村紗に向かって、手を振った。
「ええ、また今度。あなたのこころで、私の妹がまた一歩前進出来たわ。ありがとうね」
「なんのことだ?」
「ただの独り言よ。気にしないで」
「そうかわかった」
帰る途中に私は、あのときの彼女の顔を思い出しながら帰った。私が選んだお面は、翁だった。
さて、あいつらから『こころお面博物館』の感想でも聞くとするか。
やたらにテンションの高いこころのぶっ飛び勘違い天然通常運行ぶりが、かわいかったです。
誤字指摘ありがとうございます、修正しました
いや本当こころかわいいな
でも、ずれたまま突き進む皆が可愛いよ!
天然おバカなこころちゃん可愛い。
これがこころちゃんのかわいさだな
知能が低いんじゃない
極端に経験値が少ないだけなんだ
話が食い違いつつも微妙につじつまが合ってるあたりが面白いw
あと聖さんのおっぱい。
ありがとうございます
勘違いネタをここまでスムースに書けるとは…。